「なあ、抱きしめていいか」
「……?」
ある日の放課後、いつも通りの帰路を歩みながら青嵐は唐突に聞いた。
しかし聞かれた当の本人怪訝な顔をしていて、何を言われているのか理解していない様子だった。
「え、わたしに言ってる?」
「うむ」
「抱きし……? あ、ダイオキシン?」
「意味が分からないだろ。何か燃やすのか?」
「……周り誰も見てないと思うけど?」
風鈴はあたりをきょろきょろと見回すが、確かに周りに同じ学校の制服姿は見えない。
校門を過ぎてしばらくすれば、バス通学と自転車通学の二種の人間しか残らない。わざわざ好んで歩く者は少なく、青嵐も本来バス通学の風鈴に合わせるのでなければとっくの昔に自転車に乗って現在地点を通り過ぎている。
歩いて帰るという行為に何かを見出している風鈴のせいで、彼らは今日も川辺をちんたら歩いている。
本当に何故こんな非合理なことをしているのだろう、と常に思うが、そもそも彼女との付き合いが非合理の塊であるため今更だというのが暫定的な結論である。
「誰も見てないから言ってる……いやこれもおかしな話か? 別に誰が見てても構いやしないが」
「え、何? どういう意味?」
本当に意味が分からないと若干引き気味の風鈴に、待て待てと青嵐は咳払いをする。
「最初……付き合い始めたとき言ってたこと覚えてるか? 性格悪いやつの方が利用しやすい。利用しあうのに罪悪感が湧かない」
「ロクでもないこと言われそうな前振りだね」
「前振りというか、もう要求は言った」
「あぁ……うん? うん。うん?」
納得した直後に疑問符を浮かべて、思い返して納得して、そしてまたそれに疑問を浮かべる。そんな風に表情をころころと変えながら、最後に風鈴は確認するように青嵐へ聞き直す。
「え、ハグしたい?」
「うむ」
「いいけど……今ここで?」
「うむ」
「あぁ……本当にここでなんだ……」
戸惑いながら、はい、と風鈴は足を止めて大きく手を広げる。
青嵐は自転車を停めて、ふう、と息を整える。
「早く~。この姿勢で待ってるの超恥ずかしいんだけど」
「すまん」
「……あ、ごめん待って」
一歩近づくと、風鈴が逆に静止の声を上げる。
手の形もバッテンマークだった。
「恥ずかしくなってきました」
「……」
「なんか失礼なこと考えてるね?」
「……」
「当ててみろ───って顔をしてるのはわかりますよわたしも。……んー、恥ずかしいって感情あったんだ、とか?」
「……!」
「はい正解~」
あはー、と笑いながら今度は顔の横で両手で丸を作っていた。
「まぁ駄目なら駄目でいいが」
「いや別にいいけど」
「どっちなんだよ」
嘆息を吐いて、もはやめんどくさくなってきたな……と半分諦めの気持ちを青嵐は抱きはじめていた。
けれど風鈴は、悪戯っぽく笑って。
瞬間、時が止まったかのような衝撃が走った。
それは物理的な衝撃でもあり、視界が突如揺らいだことに対する困惑でもあり、突飛な行動に対する精神的な衝撃でもあった。
風鈴は意表を突くように、軽いステップを踏んで青嵐の胸の中に飛び込んできて、彼は頭が真っ白になっていた。
「───うおっ」
「あはっ」
彼はたたらを踏んで、風鈴の体を抱き留める。
倒れまいという意思はかろうじて残っており、ぎゅっと手に力が入る。
それを少しこそばゆそうに、彼女は目を細めて笑う。
「やっぱこういうのって恥ずかしいとか思う暇ないくらいグッといったほうがいいと思うんだよね」
「いや……おま……」
「お前禁止~」
文字通り、目と鼻の先。
青嵐が視線を下げたら、風鈴の顔がある。
自分以外の体温。
他人の肉感。女の子の柔らかさ。
髪が流れる音すら耳に入るようで。
甘やかな彼女の香りが跳び込んできて、青嵐の思考は完全にショートしてしまっていた。
「……あは。で、どう? こういうのでよかった?」
「あぁ……そう……こういうのでよかった……」
「なにがしたかったの?」
「…………おれはあんまり女子のことが得意じゃないんだが」
「うん」
そうだよね、と上目遣いな彼女と目が合う。
そこから目をそらしつつ、言い訳がましく、何といったものかと青嵐はぽつりと語り始める。
「最初会ったとき言ってたろ。『性格悪い女のほうが利用しやすくないか』みたいなこと」
「あー、うんうん」
「克服に付き合ってもらうか、と思いつつ……」
「あー」
「ただ普段起こるレベルのことはショック療法として微妙だろ。じゃあなんだと考えた場合、抱きしめるのとキスあたりが思い浮かんだが」
「ちゅーする?」
「馬鹿が」
「そっちが言ってきたんでしょ」
「いやだから───……いや何でもないおれが悪かった……」
「そうだよね」
青嵐は目をつむって、諦めるように俯く。
この状況だと何を言っても何をやっても彼が悪かったし、何を言っても勝てる気がしなかった。
仮に10-0で風鈴が悪いシチュエーションだったとしても今と同じ心境であれば言い負けるだろう。
「ところで心拍数やばい。聞こえる?」
「……聞こえる」
「恥ずかしいねぇ」
とっとっと、と。
ぴたりとくっ付いた胸ごしに、彼女の心臓の音が聞こえる。
いや、もしかしたら彼自身の心音かもしれない。反響して増幅して、二人分の心音が聞こえているのかもしれなかった。
どちらにせよむず痒くて、気恥ずかしい。
「……すまない。もういい。限界だ」
「はいはい」
ゆるりと距離を取って、風鈴はほてりを冷ますように、自分の顔を小さく仰ぐ。
そして青嵐は停めていた自転車にもたれかかって、呻き声をあげながら崩れる。
「おげぇ……」
「こらこら、彼女抱きしめた後のリアクションじゃないよ」
「ゴホッ……オエッ……」
「……あ、これほんとのやつだ。ほんとに女の子苦手なんだね。へー」
ぐしゃ、と掻きむしるように胸を押さえる。
吐くように、肺の中身を外へ出して、えずく。当たり前と言えば当たり前なのだが、彼は臭いや香りが苦手で、だからこそ吸い込む肺の中にも気持ち悪さというものが溜まりやすい。
しかし風鈴からすれば、青嵐がここまであからさまな反応をしているのを見たのは初めてであった。
「…………いやすまん……こういう反応されるのはそっちも気分悪いよな……」
「全然いいよ。それより大丈夫?」
「……ちょっとだけ休ませてくれ……15秒……」
「うーん具体的」
ふうん、としげしげとした目で風鈴は青嵐を眺めていた。
「ところでショック療法って言ってたけど、どうする? なんなら毎日やる? これ」
「…………いや、いい。毎日やったら死ぬ…………やるにしてももうちょっと後だな…………」
「あは」
一息ついた後、彼らは再び歩き出した。
幾分落ち着いた表情になって、青嵐は淡々と先ほどのことを振り返る。
「さっきは助かった。……助かった? 助かった。おれも克服はしたいと思ってるんだが、なかなか慣れる機会というものを作るのも難しくてな……」
「まあ別に無理することじゃないとは思うけどねぇ」
「おれは嫌いな食べ物があったらとりあえず慣れるまで食べるタイプなんだよ」
「……あは」
蠱惑的な笑みというのは、こういうものを言うのだろうなと青嵐はつくづく思う。
笑みを浮かべているのはいつも通りなのだが、その時々でどうにも手の届かない遠さを感じる。
彼女は軽く、ふわりと溢れるような笑みを浮かべている。
「ところで青嵐くんって……」
かと思えばその顔はすぐに引っ込んで、いつも通りの表情に戻る。
「克服したい? って言うけど、それって“わたし”を? それとも“女の子全体ひっくるめて”なのかどっち? 目標的な」
「後者だな。前者は……まぁ解決はするんだろうが、やっぱり根本的に治したい」
「そっか。やっぱりそうだよね。うん、任せて!」
良い笑顔で放たれた言葉に、頬を引きつらせながら青嵐は思わずつぶやく。
「何を任せればいいんだ……」
「それは今から考えるんだよ」
考えた結果が、これであるらしい。
なるほど確かに、風鈴以外の異性への耐性をつけるというならこの方面のアプローチが一番それらしいのかもしれなかった。
「……ぁによ、うちに何か文句あるワケ?」
「あは。『自分の部屋に男の子が来るなんて初めてだから恥ずかしい』だってさ」
「風ちゃん!」
うがー! と腕を振り上げて小和は風鈴へ怒りを露わにしていた。
そう、青嵐は今、雪加小和の家に訪れていた。
こうなった経緯は簡単で、風鈴が「こよちゃんと青嵐くん同じゲームやってるんだって? わたしもやりたいやりたい」と言ったからだ。
いつぞや発覚した事実として、雪加小和は格ゲーマーであり、そして当たり前のように自宅にもプレイ環境を整えていた。
ゲームセンターはあれはあれで趣があるが、やはり軽く遊ぶなら自宅が一番だろう、というのは青嵐も同意するところである。
「八雲はあたしの私物に触るの禁止だからね!」
「わかった」
青嵐は頷きつつ、ぐるりと部屋を見渡す。
枕元にぬいぐるみが敷き詰められたベッド、参考書や辞典が並ぶ勉強机、大きなモニターとゲーム機、そしてその前に置かれている丸テーブルと座椅子。
小物やカーテンは淡いピンク色で、全体的に色調は可愛らしい雰囲気だった。
それらを認識して、テーブルにも触れてはいけないのだろうか、と首を傾げる。
そんな青嵐を尻目に、風鈴は勝手知った風に部屋の中を自由に物色していた。
「青嵐くん青嵐くん、卒業アルバム見る?」
「ダメに決まってるでしょ?!」
「えー、だってわたしの卒アルみたいなもんだし」
「〜〜〜っ、それはそうかもしれないけど!」
そのやりとりを見て、ああ、と青嵐は小さく頷く。
「そういえば中学が同じなんだったか」
「小学校もね」
「ほう」
「こよちゃん小学校のアルバムどこ置いてる~? 見つかんないんだけど」
「本気で見るわけぇ……?」
露骨に嫌そうな顔をしながら、渋々と勉強机の一角から2冊抜き出して差し出してくる。
きゃっきゃと風鈴は嬉しそうに受け取って、ローテーブルの上で広げる。
そして、立ちっぱなしの青嵐を手招きする。
「一緒に見よ」
「……」
いいのか? という意思を持って小和のほうを見ると、舌打ちをされて目を背けられた。
かなり嫌そうだった。
どうしたものか、と青嵐は少し困った顔で風鈴を見る。
「いいって意味だよ」
「よくない!」
「あは」
ころころと楽し気に風鈴が笑って、小和が怒る。
しかし言葉以上の静止はなく、小和本人もアルバムを覗き込むように座ってしまった。
見てもいいということらしい、と青嵐は改めて認識して座り込む。
「うわー、懐かしい」
「うわぁ……懐かしぃ……」
同じ学校出身で、同じアルバムを見て、似たような台詞を口にしているのに声のトーン、表情は真逆だった。
風鈴の表情は明るく、小和の表情は曇っていた。
「こんなの見て楽しい?」
「あは、わたしは楽しい。ほら見て青嵐くん、中学こよちゃんだよ」
「見たら殴るわよ」
「暴力反対……というか、おれに見せて来てる奴のことは殴っていいと思うが」
「私は八雲に見られたくないんだから八雲の目ぇ潰すのが一番早いでしょ」
「恐ろしい論理だ」
「わー、懐かしい。中3のときは同じクラスだったんだよね」
風鈴は青嵐の顔面を狙う小和をよそに、アルバムをめくっている。マイペースという他にない。
「でもまぁ、言うて変わらんな」
写真というのはいかんせん写りが悪くなりがちなものだが、柚月風鈴はこんなところでも見目麗しかった。
女子の第二次性徴は男子よりも早いこともあって、中3の頃と高2の今とを比べても、驚くほどの変化はない。
「見んなっつったでしょってかデリカシーなさすぎでしょ今のほうが超かわいいでしょ」
「確かに雪加の印象は結構違うな」
「本当に殺すわよ」
同じクラスということで、顔写真は同じページに載っている。
雪加はやはり光を反射する銀髪であるため、真っ先に目に留まる。しかしながら大した変化の見られない風鈴と違って、小和の印象はかなり異なる。
その理由は、髪と同様に特徴的な青色の瞳はほとんど見えないからだった。前髪が長すぎて、目元が完全に隠れている。
「綺麗な目が隠れてるのは勿体ないな」
「え、死にたい?」
「何を言っても殺意を向けてくるんだが」
「これは照れてるだけだから大丈夫。喜んでるよ」
「照れてないけどっ?!」
小和はぎょっと目を大きく開けて、小さく叫ぶ。
そしてそのまま青嵐のほうをキッと睨み、ワントーン低い声で突き放すように喋る。
「え、普通に勘違いしないでね? 私この目あんまり好きじゃないし、褒められても嬉しくないし」
「そうなのか。それはすまん」
「わたしもこよちゃんの目きれいで好きだけどねぇ」
「え、ありがとう。私も気に入ってる」
瞬く間に矛盾する会話をしている自覚はあるのか、小和はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「……」
青嵐は怒らせてしまったな、と口をつぐみ。
風鈴はにやにや笑って、同じく口をつぐみ。
結果少しの沈黙が生まれ、それを破壊するように慌てた様子で小和は弁明をする。
「……や、違うのよ。別にほんとに嫌だと思ってるわけじゃないんだけど昔男の子に髪切られたりしたからなんかちょっと髪とか目にコンプレックスがあって素直に受け入れられないとこがあって、風ちゃんに言われたから別にいいってわけじゃなくて今でもやっぱりたまに悩むし、黒髪とか、あとは風ちゃんみたいな柔らかい茶髪とか憧れるなーって思ってて。でも青色の目とか、色自体は綺麗だとも思ってるから好きになれたらいいなとは思ってて。えっと、あー…………」
言葉を重ねるごとに、語気は小さく尻すぼみになっていく。
小和は最後また口を閉ざして、『助けて』と言わんばかりに風鈴に困った顔を向ける。
「……あは。つまり褒められて照れ臭くなっちゃったんだよね?」
「……そうなっちゃうわけ?」
「なっちゃうねえ。よしよし」
あはー、と心底楽しそうに風鈴は笑って、隣の小和の頭を自然に撫でる。
完全に子ども扱いだが、小和は満更でもなさそうだった。
「どう? 可愛いでしょ」
「おれに同意を求めるなよ」
客観的に見て可愛いことは認めるが、今の一連の会話を見ていると外見には相応のコンプレックスがありそうだった。
中三の終わり頃からの変化と考えると、前髪をさっぱり切ったのはこの一年くらいの期間ということになる。
言うほど月日が経っているわけではないため、まだ何かしら引きずるものがあるのだろう。
「てか、私のことは別にいいでしょ。八雲だって興味あるのは風ちゃんのほうでしょ」
「ふむ」
「興味あるって言いなさいよ」
「まぁ、ないとは言わないな。何を考えて生きてるのかわからなさすぎる。昔からなのか、これは」
「あは」
青嵐が風鈴に視線を送ると、風鈴は微笑んで小さく手を振ってくる。
ともすれば恋人同士のいちゃつきにも見えるそのやり取りを見て何を思ったのか、小和はむすっと唇を尖らせる。
「あ、そうだ」
そして小和は、何かを思い出したように中学校時代のアルバムを除けて、小学校時代のアルバムを開く。
「昔の話って言うなら…………風ちゃんの昔の話とかしていいの?」
「いいよ」
「ならいっか。風ちゃんもね、結構昔は印象違ったよね。私中学の時に風ちゃんがイメチェンしてたのがすごくなんか……」
「あー、あったねぇ。わたしたち仲良くなったのそのくらいだもんね」
「う、うん。風ちゃんは自由ですごかった……」
昔を思い出して何を思っているのか、小和は少し口ごもる。
どう自由ですごかったのかは青嵐にはわからないところだが、何となくはイメージが付く。今と同じように奔放だったのだろう。
「でも、小学校のときは違ったよね。なんていうか、もっとこう……」
「陰キャ?」
「そんなことないけど、なんだろ、本とか読んでたよね」
「あは。本は面白いからね」
にこにこ、と風鈴は相槌を打っている。
彼女はいつも笑っていて、明るい表情をしている印象が彼にはあった。陰気な印象は特にない。
「あ、あった」
「でも確かにこの頃は顔も暗くて陰キャっぽいよね」
「だから陰キャなんて言ってないでしょ!」
「あは」
開かれた小学校のアルバム。
先ほどの中学と同じで、顔写真の一覧が並んでいる。
クラスが違うのか白い髪の少女は見当たらず、そしてまた栗色の髪をした少女も見つからなかった。
一見して2人の姿がどこにもなく、青嵐は疑問に首を傾げる。
そして、少しの時間をおいて、あることに気付いた。
「…………あぁ、昔こんなだったのか」
「意外?」
特徴的な栗色の髪をしたいつもの彼女はいなかった。
けれど、柚月風鈴という名前の“黒髪の少女”の写真は載っていた。
「それ染めてたのか?」
「んーん? 逆。小学校のときに黒染めしてたの」
「……あー、中学のイメチェンとやらはもしかしてそれか?」
「そそ」
黒染めと聞いて、青嵐はなるほどと頷く。
確かに青嵐も昔「生まれつき茶髪なのに髪が黒くないと校則違反だと怒られる」などという話を聞いたことがある。
詳しく説明すれば理解は得られるのだろうが、逆に言えば一見すると茶色に染めていると思われても仕方がないとも言える。
それに、場合によっては説明しても理解を得られないこともあるだろう。
「風ちゃんは中2のときに黒染めやめたのよ」
「うん。ていうより、茶色に染め直したんだけど」
「……あー、まあ、元の色に戻すなら校則的にもいいのか……?」
「ちなみに超怒られた」
あは、と風鈴は笑う。
そして小和はうんうんと頷きながら、アルバムに目を落とし、昔を懐かしんでいた。
「懐かしいな、生活指導めちゃくちゃ口うるさかったの今でも覚えてる。うざかった」
「ね、懐かしいね」
「なんというか、やはり苦労するものなんだな」
「そりゃね? 生まれつきなんだから怒んなくてもいいのにね」
「フフ……どいつもこいつも銀髪羨ましいだの……こっちは黒髪のほうが羨ましいのに……」
負の感情を想起しているのか、小和は乾いた笑い声をあげている。
どうにかしろ、と青嵐は困った顔で風鈴を見つめる。
「あは。そろそろゲームやろっか。教えて教えて!」
「! え、どうする? 風ちゃんどこまで知ってる? 何かやりたいこととかある?」
「なーんにも知らない!」
「じゃあまずキャラクターの説明からするね」
小和は表情を一転させて、ウキウキな口調でゲーム機を取り出しはじめた。
本来の目的はこれのはずだったのにえらく遠回りだった。
妙に疲れたな、と青嵐はカリカリ手首を掻く。
ボケーっと風鈴と小和の会話風景を目にしながら、彼はなんとなく今の柚月風鈴が黒髪だった場合をイメージしていた。
黒髪の美人。
彼女を黒髪にすると、黒髪の美人になる。
当たり前のことなのだが、それがなぜか、頭に残った。
「───ねぇ聞いてる? 青嵐くんはどのキャラが好きなの?」
「……あぁ、すまん」
青嵐は目を瞬かせ、ゲーム画面に向き直った。