PERSONA EPISODE of SHADOW WORKER   作:漆竜 黒鍵 

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4月7日、月光館学園高等部の始業式の当日、本作品の主人公である玖城樹下は昔から何度も見ている夢から目を覚ます。


2014年 4月 7日

 遠い日の様な、まだ当分先のような…よく分からない不思議な感覚。

俺の記憶じゃない誰かの記憶だと思う。でもそれが確かに自分に起きていたことだという認識が無意識にある。

 

俺は俺を産んだ何かに抱かれている。それは俺をとても愛おしそうに眺めている。その隣ではおそらくその何かの番いが居て、それもまた俺を見ている。

 

嗚呼………鬱陶しい……俺は何故また産まれた?

八度の生誕と死を経て尚…何故また………

 

────────────────

 

「ンゴっ………が…?」

 

 目が覚める。最早何度と見た同じ夢だ。外から見れば微笑ましく、しかしその本人からしたら本当に泣きたくなる程の悲劇の夢…。

 

しかしこの夢とも長いものでもう見なくても内容を思い出せる程になっている。

明晰夢とは違うのだろうが、いい加減飽きてきている。

 

「続きを見たい気もするが…まぁいいか」

俺は眠っていたベッドから立ち上がり、今日から始まる高等教育の為に制服に着替える。

そして着替え終えたら自室から出て一階のロビーを経由して玄関へ。

 

扉の傍で日に当たる白い犬、コロマルを眺めて小声で行ってきますといい玄関を開け放つ。

 

《PERSONA

    EPISODE of SHADOW WORKER 》

 

 

 

 

 巌戸台駅に着くと朝練に向かう為の月光館学園の生徒がジャージ姿でチラホラと見受けられる。

 

「少し早すぎたかな…」

高校生活に対するワクワクという訳では無いけど、気持ち早く出過ぎたことに首を傾げて呆れる。

そんな俺に対して掛けられる声

 

「おはよう」

 

「おはよう天田。あれ?俺より早く出てたよな?」

 

「少し散歩してたんだ。あ、おにぎり食べる?朝ごはん用」

 

「んぁ……ふむ。貰う、ちょうど腹減ってきたわ」

 

 天田乾。俺の同学年であり小学生5年生の時、つまり今から5年前に巌戸台分寮(以降巌戸台寮)に住んでいたらしい。

そして今から2年前に寮として再び開放された巌戸台寮に戻ってきて、俺が入寮するまでただ1人の寮生だった。

 

「そっちも早いね、先月までもっと後だったよね?」

 

「なんか目が覚めてな。寝れねぇしやることもねぇからさっさと行って教室に入っとこってな。お、具は鮭か」

 

「あ、しまったそっちが鮭だったんだ…あー確認怠った…」

 

「残念だったな。むぐむぐ…んー鮭の塩味が身体にしみますなぁ。」

 

「仕方ない…今日は昆布で一日を始めるかぁ」

 

────────

 

 互いにおにぎりを食べ終わればちょうどモノレールが到着し2人して乗り込む。

中にはやはり駅と同様月高ジャージを着た朝練目的の運動部や楽器を持った吹奏楽がチラホラといる。

 

「そういや去年の夏まで天田もあの中に混ざってたんだよな。サッカー部で」

 

「懐かしいな、あともう少しで全国行けたんだけど。」

 

「県内二位でもすげぇだろ?しかもスタメンでよ、生徒会と両立してそれなんだからすげぇよなぁ」

 

「褒めても明日のおにぎりはないよ?」

 

「んな期待してねぇよ」

 

あ、と何かを思い出したかのような反応をすれば再び口を開く。

 

「そういえば、前話してた内容の夢今日も見たの?

あの変な夢、なんだっけ?9番目がどうとかの」

 

「あああれか、今日は見たな。

毎回よくわかんねぇ夢だけど何回も見てていい加減内容も覚えちまった。」

 

「なんかよくわかんないね。変な夢なら僕もたまに見るけど、全く同じ内容なんて言うのは無いかな」

 

「見てる俺が1番よくわかんねぇよ、目覚めが悪いとか寝心地に響くとかないからマシなんだけど続きを見せろやってなる。」

 

そんな話をしているとモノレールが目的地である辰巳ポートアイランドの駅に到着する。

二人は鞄を持ち上げてモノレールから降りる。

 

────────────

 

 月高に近づくにつれて周囲には多くの月高生が見えてくる。大体は朝練目的だろうけど、中には俺達と同じように早く目が覚めたとか、クラス発表を我先に見たい奴もいるんだろうけど。

俺達もクラス発表の掲示を見る為に玄関を潜り抜ける。

 

「あ、E組だ。そっちは何組だった?」

 

「ん?Fだった」

そう言って俺は自身の名前が書かれている場所を指差す。

玖城樹下、それが俺の名前だ。

 

「そっか、別々のクラスになっちゃったね。残念」

 

「別に毎日寮で顔合わすんだから良いだろ…。」

 

「それもそっか。じゃあ僕生徒会にいる先輩達に挨拶してくるよ。また寮でね玖城」

 

「おん」

 

そう言って階段に向かう天田を見送り、俺は1年生の教室が並ぶ廊下へと足を進める。

 

 あ、売店がある。店員さん綺麗な人だな。

 

────────────

 

 始業式に参加しながら校長の話を聞く。

中等部から高等部になってもこれは変わらないものだな。

 

あ、でも中等部の時より周りが色気づいてるな、香水臭い。

 

「鼻つまんでると目立つよ玖城」

 

「うるへぇあまじゃ、おみゃえごひょ」

 

「ごめん鼻摘むのやめて玖城、何言ってるかわかんない」

 

「うるせぇ天田、お前こそこの匂いの中平気なのかよ」

 

 集会会場の座席はクラス毎で別れており、クラス間の通路を挟んで座る天田が少し身を乗り出して話しかけてくる。

 

「まぁ少し気になるけどね、確かにF組少しオシャレな人多いね。」

 

「鼻が痛ェ…くしゃみ出そう…」

 

─────────────

 

 始業式が終わり各教室へと生徒は戻っていく。

中等部からのエスカレーター式である為、クラスが別れる等はあれど教室内ではある程度のコミュニティグループが形成されている。

ただ中等部2年の終わり掛けから転入してきた俺は余り広く交友関係は持っていない。

 

 仲がいいと言えるのは天田位のものだから仕方ない。そう考えていると

 

「ねぇねぇ、君ってあんまり周りと話してないけど、君も今日から月高に来たの?」

隣の席の女子が話しかけてきた。こいつ中等部の時は見たことないな…

 

「いや違うけど…、そう言うってことは其方さんは」

 

「うん、私今日からこの学校に編入してきたんだ。

 雨瀬葵、よろしくね。えっと」

 

「玖城樹下、まぁ今年一年よろしくお隣さん」

 

そう言い終われば俺は机に突っ伏して目を閉じる。

 

「え?寝るの??」

 

「なんか朝早く目が覚めてな、目だけ閉じて脳を休ませとく。先生来たら起こして」

 

「えー、話そうよ。心細いよー。一緒にだべって先生待とうよー!」

 

「うるせぇなぁ……わかったよ…」

 

「わーーーーい」

 

 雨瀬の話に対して適当に相槌を打ちながら担任が入ってくるのを確認すれば2人して前を向いて会話を終了させる。

こいつめっちゃ話すから多分すぐ馴染めるな。はぁ、さっさと帰ってコロマル撫でくりまわしてぇ…。

 

───────────

 

 担任の話も校長の話同様高等部になったことに対する心構えどうたらこうたらという内容だった。まぁ定番と言えば定番だろうな。

そんな中でもやはり学生は楽しみを見つけたのか何やら紙を回して居る。なんて言うんだっけああいうの、回し手紙?とかいうんだっけ?

様子を見てると受け取った全員がそれを開いて内容を見て何かを書き込んでいる。

それは次第に俺の前の席のやつまで回ってきて前の奴は次に俺に渡してきた。

 

「玖城くん、これ読んで行く気になったら名前書いて次に回して」

 

「おん」

 

 前の席の女子(確か緒方さんだったかな?)から手紙を受け取とれば伊達眼鏡を外して手紙を開く。

嗚呼なるほど親睦会って奴か………ぬん?雨瀬めっちゃ見てくる、これ暗に来いって言ってるようなもんだろ。

 

………ったく。

 

 呆れて失笑しつつ自分の名前を記入して後ろの倉橋君(確かそんな名前だったなや)に回す。

雨瀬を見ると目を輝かせて此方をめっちゃ見てきてて、あ。

 

「雨瀬、話聞いてんの?」

 

「はっ!ごめんなさい先生!!」

 

あーあー怒られとるわ

 

──────────

 

 担任の話やホームルームが終わり、今日のカリキュラムが全て終了する。

クラスの奴らは親睦会に行くメンツが集まってる。俺も参加するから行こうとしてあることを思い出す。

 

 あ、そういや寮の鍵俺が持ってたわ。

 

「わりぃ先行っててくれ、ちょっと用事あったわ。」

 

その言葉に近くにいた男子生徒が返事をする。

 

「そうか、なるはやで来いよ?」

 

「ごめんな、場所はシャガールだったよな。後で合流するわ」

 

 そう言って俺は教室から先に出て隣のE組に向かう。

 

─────────

 

「あれ?あ、ちょっと中田さん」

 

「どうしたの玖城君?」

 

「天田ってもう帰った?」

 

「天田君?あぁ、天田君なら生徒会室に行ったよ。」

 

「そっかそっちか。ありがとう中田さん、じゃね」

 

 そう言ってE組から出れば2階にある生徒会室に向かう。ついでに今の中田さんは去年同じクラスだった女子だ。

 

「えっと生徒会室は…あった。」

 

 2階は生徒会室の他に放送室、そして2年生達の教室もあり、1年生からしたら少し気圧される思いだわ。

さっさと天田に鍵渡そ。

 

 そして生徒会室のドアを3回ノックして

「失礼します」と口に出してから中に入る。

 

「あれ、玖城どうしたの?」

 

「あ、天田居た居た。あ、栂和先輩どうも」

 

「玖城か、久しぶりだな」

 

 生徒会室には天田の他に一つ歳上の先輩である栂和侑介が居た。

 

「天田、悪いけど俺クラスで少し用事出来たから遅くなるかもしれん。これ寮の鍵な」

 

「そうなんだ、わかった。鍵ありがとうね」

 

 天田に鍵を渡せば栂和先輩に頭を下げて生徒会室から退室する。

結構生徒会室って独特な空気あるから緊張するわ。

 

 さて、ポロニアンモールのシャガールに向かうとするか。

 

────────

 

 月高から離れて辰巳ポートアイランドの商業施設であるポロニアンモールに到着。相変わらずモールのど真ん中と入口を挟むように配置されている三つの噴水は目立つなと思いながら、喫茶店シャガールの中に入る。

 

 案内しようとする店員に対して、先に集団が来てることを知らせるとクラスの奴らのとこに案内される。

 

「よう玖城くん、来たか」

 

「ごめんごめん待たせちまったか?」

 

「いやそんな経ってないよ、もう少し早かったらモールで合流出来てたかもな。」

 

「まじか、店員さんに悪いことしたな。二度手間だ」

 

 倉橋君優しいなおい、こりゃモテるわー。と思いながら自分の席に着くてニヤニヤしてこちらを見る雨瀬が見えた。

 

「…なんやねん?」

 

「いやー、玖城君も隅に置けませんねぇ。彼女っすか?」

 

「んなもん居ねぇよ、居たことねぇ」

 

─────────

 

 その後一頻りクラスメイト達が互いに話し合えば時間もいい頃合になり解散の流れになる。

俺も色んなやつと会話して少しだけ疲れてきており、解散の流れには少し有り難さを覚える。

そんな中、倉橋くんと緒方さん、そして雨瀬の3人が俺の周りに寄ってきます。

 

「玖城君携帯持ってる?」

 

「持ってるけど、どうして?」

 

「この4人で連絡先交換しようかなってね」

 

「転入1日目からまさか連絡先を交換できるなんて…これは夢か…!?」

 

 現実だよ。と口には出さないで置こう。

そして俺と雨瀬が折り畳み携帯を開くとなんか視線を感じる。

 

「2人とも…ガラケーなんだな。」

 

「今どき珍しいね」

 

「あ、まぁ安かったし良いかなって」

 

「わかる、私もガラケーにした理由それだった。スマホだとゲームとか色々できるって聞いたけど値段がねぇ…」

 

「まぁ連絡取るのには困らないからいいんだけどさ」

 

 そして4人でそれぞれ電話番号とメールアドレスを交換を行った。

 

 

──────────

 

 4人の中で巌戸台方面なのは俺だけなようで、俺だけがモノレールに乗ることになった。

3人に手を軽く振りながら駅に入れば、ホームの椅子に腰掛けて軽く溜息を吐く。

 

「つっかれたァ……」

 楽しかったものの普段人と会話する機会が無い俺からすればやはり少し疲労が溜まっていたようだ。

そんな中後ろから感じる気配に目を見開き、椅子から立ち上がろうとしたが遅かった。

後ろから腕を回されて抱きつかれれば頬擦りを受けることとなる。

 

「樹下ちゃァん、お姉ちゃんですよぉ!!」

「ぎゃぁああああああああああ!?!?」

 

後ろから抱きつく女性の名前は桐条美鶴。月光館学園の母体であり日本有数の大企業である桐条グループの若き総帥であり、俺の親戚に当たる。

 

「み、みつ姉!?なんでここに!?」

 

「いや少し近くに用事があってね、そのついでに母校や通学路を歩いていたら友人と歩くお前を見つけてな。無粋な事はしまいと友人と離れるのを待っていた所だ」

 

 だからって何故に抱きつくのかと言う気持ちは抑えよう。

この人20歳過ぎたあたりから俺に対して時折こういう風になるようになったよな…。

会社運営ってそんなにストレス溜まるのかなぁ…良かった、俺の家が桐条か南条のどっちかみたいな上流じゃなく一般家庭で…。

 

「で、5年ぶり?の古巣はどうなのみつ姉」

 

「嗚呼、本当に懐かしい景色ばかりだったよ。もう五年か、感慨深いな。」

 

「ところでみつ姉、そろそろ離れてくんね?」

 

「駄目だ、まだ弟成分であるブラザニウムの摂取が充分では無い。」

 

「そんな成分ないし俺は弟じゃなくて従弟(厳密にはもっと遠い)でしょうが……!」

 

 ほんと昔のかっこいいみつ姉帰ってきてくんないかな…。と思いながら美鶴へ顔を向ければ互いの赤色の瞳、その視線がぶつかる。

 

「近い」

 

「そうだな近いな、さてブラザニウムも補填出来たしそろそろ帰るとしよう。樹下も気をつけて帰るんだぞ」

 

「ういっす」

 

 そう言って美鶴が駅から外に行けばその瞬間にモノレールが来る。

そしてそれに乗って巌戸台駅迄揺らこととなる。

 

─────────

 

 巌戸台寮へと戻れば玄関に手を掛ける。しかし

 

「あれ?開いてねぇ」

 

鍵がまだ掛っている。天田はまだ帰ってきてないようだ。

 

「まじかよ…コロマル見えるかな。

コロマル頭良いしもしかしたら鍵開けてくれるかも。」

 

そして玄関横から寮内を覗くが

 

「あれ?」

 

寮の中は電気が付いておらず、さらに

 

「コロマル居ねぇ…」

 

普段は1階のロビーにいることが多いコロマルの姿が見当たらない。2階か?

 

はぁ…仕方ない、商店街の方に行くかなぁ。

俺は帰宅を諦めた。

 

─────────────

 

 さて、商店街に来たしたまには晩飯を外食にするのも致し方ないことだ。

 

「はがくれでラーメンか…海牛で牛丼…わかつで定食も捨て難いし…ワックでハンバーガーもありか。

くそ、オクトパシーは今日は休みか…。」

 

 悩む…一人飯というのは誰にも邪魔されず一人で食に没頭できる最高の時間だ。

それ故に適当に決めれないものであり、これは実に悩む。

 

…よし、決めた

 

「はがくれのはがくれ丼で行こう」

 

 まぁ結局毎回これである。はがくれ丼マジうめぇんすよ。

 

「食ってみな、飛ぶぞ」

 

 そう呟き提供されたはがくれ丼に貪り着く。

今日からとはいえ男子高校生、その食欲は男の一生の中でピークの第一段階である。

 

 《明日は終日、春らしく過ごしやすい一日となるでしょう。

しかしその翌日からは暫く曇り空で冬の寒さが戻てってくる為、お出かけの際は上着などを持っていくといいかもしれません。》

 

 テレビから流れる天気予報そっちのけではがくれ丼の捕食は止まらない。

 

「あー、食った食った」

 

 はがくれ丼を完食、会計を済ませて外に出ればもう空は完全に夜の闇に包まれていた。

 

流石にそろそろ天田も戻ってるだろ。つか流石に風呂入りてぇから帰ってきてて欲しいよマジで。

 

しかし

 

「嘘だぁ…嘘だァァァァ……」

 

 その期待とは裏腹にまだ鍵が掛かったままの玄関の前で地面に手を着いて項垂れてしまう。

 

───────────

 

制服が比較的厚手なこともあり夜の残寒の中でも寒いという感覚はあまり湧かない。しかし天田のやつ何してやがる…。

 

「あの野郎…帰ってきたらシバキ回してやる……覚悟しやがれ…。」

 

 そう言いながら空を見れば此方を照らす月が浮かんでいる。

食事を終えてもう4時間が経過している。眠たさがこの身を包み出したが流石に寝るなら風呂入ってからじゃないと嫌だっての。

 

 携帯を開き時刻を見る。くそ、もうすぐ零時じゃねぇか。

 

「こんなことなら鍵渡しに行かなけりゃ良かった……」

 

 特に何かを考えた訳じゃない。

携帯の時刻表示を時分のみの表示から針時計の表示に切りかえて眺める。

そして零時まで残り10秒となれば口に出してカウントダウンを開始する。

 

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」

 

 0

 そのタイミングで携帯のモニターが消える。時間経過による画面消灯かと思いボタンを押すが反応しない。

 

「くそ、充電が切れたか?でもまだ電池残量まだ残って……は?」

 

 そして携帯から目を離し目の前と空を見上げる。

先程までよりも大きく、そして狂気的な月。街は全体から光が消えており、そして遠くに見えるのは棺の群れ。

 

「な…なんだこれは…」

 

 明らかに先程までとは違う世界に玖城はその手から携帯を落とす。

そして立ち上がり巌戸台寮から駅の方へと歩き出す。

 

────────────

 

 駅へ近づくにつれて身体が震えてくる。

明らかな異常に対する違和感から来る怯えか、それとも疲労か。何方にせよ今この状況で俺が求めてるのは普段通りの風景だと思う。だから今の時間でも人が居るはずの駅に足が向いたんだろう。

 

 そしてそこに広がる景色に絶句する。

棺の群れは変わらず、世界の異常さも変わらず、そして

 

 天田とコロマルが複数人の黒服と武器を持って相対する光景が何よりも俺から今までの日常を消し飛ばしてしまった

 

 黒服の群れ、武器を持つ天田とコロマル、壮絶な殺し合い、飛び交う弾丸、槍と苦無に弾かれた跳弾が俺の頬を掠る。

 

 じんわりと拡がる痛みが目の前の光景が現実であることを示す。

 

「…………なんだこれは」

 

 その声に場の全員の目が玖城へと注がれる。

天田とコロマルには驚愕が、黒服たちには敵意がそれぞれ込められており、この状況から俺が黒服達の次なる攻撃の対象となることを示している。

 

「っ!玖城!!!」

 それに気が付いた天田が駆け出し飛び込んで俺を突き飛ばす。

そして次に飛来する複数の弾丸が天田へと注がれることとなった。

 

 起き上がる玖城の前に倒れ込む天田、その懐から飛び出し玖城の手元に滑り込むピストル。

 

 目の前に血だらけで倒れる天田、黒服たちと一匹だけで相対するコロマル。

 

 酷く頭が痛くなる、視界が揺らぐ。

ピストルという非現実なものに触れ続けることでより現実感が気薄となっていく一方で脳裏に響く声。

 

 我は汝、汝は我。汝今その手にある引き金引き絞りて、今こそ

 

「玖城…逃げ…?玖城?」

 

 俺は天田が落としたピストルを握りしめたまま立ち上がる。頭は相も変わらず痛み続ける、酷く息が荒くなり、心臓が激しく脈打ち続ける中、手に握るピストルの銃口を俺は自分のこめかみに当てていた。そうすることで自分を襲う頭痛が和らぐのを感じる。

 

「はぁっ…はぁっ…はっ………は」

 

 今こそ発せよ!!!

 

 

「………ぺ…ル……ソ……………ナ!!」

 

 そしてトリガーを引き絞り己の中の常識を消し飛ばす。

 

 そして吹き荒れる暴風と錯覚する程の力の奔流に場の全ての目が向けられる。

黒服の一人がそれに恐れを抱き発砲するも、その一発は奔流の中から伸ばされた刃によって裁断される。

 

 奔流が開け俺を跨ぐようにして出現するのは漆黒の人影。その手には弾丸を裁断した血濡れの大剣を携え、その姿は酷く荒み荒れ果てている。

 しかし天田とコロマルはこの姿に既視感を覚え、天田はその口から零す言葉

 

「……メサイア…!?」

 

「違う」

 

 それを否定する玖城、その眼には敵意と狂気。そしてその顔は────笑っている。

 

『我は汝、汝は我。我は汝の心の海より 出でしもの。

悪を持って悪を喰らう冥府魔道の救世主、メサイア・影神(シャドウ)

 さぁ行くぞ。恥じるな、悔いるな、無慙無愧。悪は何処だ?屑は何処だ?一匹残らず滅ぼしてやる。まずは』

 

「テメェらからだぁああああああああぁぁぁ!!!!」

 

 ペルソナと玖城の慟哭がその場の総てを戦慄させる。ソレに込められた天井知らずの怒りと憎悪に当てられ震え始める。

そしてメサイア・影神が起動、その刃を以て一人、また一人と黒服を消し飛ばし惨殺していく。

 

「くくくくく、くははははははは、ギャハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 その度に玖城の笑い声が響き渡る。その光景を見る天田とコロマルは言葉さえ出ない。

先程まで自分達が演じていた死闘さえこの現状と比べればまだ天国と思える程のその惨劇は黒服の総てが駆逐される迄続いた。

 

 そして黒服の殲滅と同時にメサイア・影神はその姿を消し玖城の中へと帰還する。

これにより玖城はペルソナ、冥府魔道の救世主メサイア・影神の覚醒を完了する。

 

 影時間という世界の中、玖城の深紅の双眸は一種の邪神的なおぞましさを帯び、それを天田とコロマルへ向ける。

 

「さて、一体これはどういう───ぁ」

 

 どういうことか、そう詰問しようとした瞬間玖城の意識は暗転しその場に倒れ込み、それと同時にこの影時間が終わりを告げる

 

────────────

 

何かに揺られている。これは…電車か?

 

 目を開くと真っ青な空間にいる。青い壁、青い床、青い座席に青いテーブル。

窓から見える外は黒一色、真夜中に電車が走ってるのか?

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ」

 その声に前を向けば鼻の長い奇っ怪な老人が目の前に居たのでつい悲鳴をあげてしまった。

 

「……近頃のお客人は皆一様に落ち着いておりましたが、おそらく貴方のような反応が本来なのでしょうな」

 

あ、す、すんません…

 

「いえ、お気になさらず。

 さて、ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所。ここに来る客人は皆何かしらの契約を果たしてこの場に訪れます。

 

 貴方様が目覚められたお力、そう、ペルソナ。更に貴方様は同時に複数のペルソナを見に宿す力に目覚めておいでだ。その素養を私共はワイルドと呼んでおります。」

 

よくわかんねぇんだけど、俺死んだ?

 

「ふふふふ、御心配なさるな。今現実の貴方は深い眠りに着いておられる。その合間に私がこの場へお招きさせて頂きました。

さて、貴方が手に入れたペルソナはメサイア・影神…成程また随分と変わった運命をお持ちのようだ。」

 

メサイア・影神……あの時の黒い人影の事か。

 

「その力は貴方様を窮地から救う力であり、ひとつ間違えれば貴方様自身の命を奪う力。

 その扱い方を良くお考えになって頂きますようご注意くださいませ。

 

 さて、現実の世界ではそれなりの時間が経過した様子。

貴方様自身もそろそろ目を覚ます時でしょう。」

 

確かにどんどんと意識が覚醒している感覚がある…

 

「コチラをお持ちください、それはこの部屋へ訪れる為の契約の鍵にございます。

 以降に訪れる際はおそらく貴方様自身の足でここに訪れることになる事もあるでしょう。

 

 次にお会いする時は私の従者と共にお出迎えさせていただきます。

 

 それでは、また出会う時まで、御機嫌よう。」





玖城樹下(くじょう きつか)
基本情報
年齢 16歳
性別 男性
誕生日 5月11日
学校 月光館学園高等部
クラス F組
居住地 巌戸台分寮
外見
身長 164cm
体型 気持ちやや細めの男子高校生の体格
髪色 紫掛った黒髪(紫黒色)
目 赤い瞳
服装 学校では制服を着用、ブレザーの前は閉めて居らずカッターシャツは胸元までボタンを閉じない着崩し状態。目付きが悪く、悪目立ちを避けるために伊達メガネを着用。
私服は黒を基調としたシンプルで個性が少ないもの。

性格
内向的で人付き合いをあまり好まないが、友人に対しては親切。
一人で過ごすことを好む傾向があるが、必要に応じて行動を起こす。新しい状況に戸惑いながらも順応する力がある。
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