PERSONA EPISODE of SHADOW WORKER   作:漆竜 黒鍵 

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─ 身体の震えが止まらない。背中合わせに座り込む久遠も同様、何が起きているのか。俺たちは立ち上がれないながらも周囲に目を向け見渡す。

 あっちか、それとも向こうか。そんな風に目線を右往左往していた時、ふと視界の端に先程まで存在していなかったはずのものをポートアイランド方面に捉える。

「…………なんだあれ、あそこって月高の」

 その異物に久遠も気がついたようでそんな言葉を漏らしている。そうだ、アレが現れているあそこは間違いなく月光館学園だ。

 力が入りにくい足に無理やり力を込めて立ち上がる。ダメだ、姿勢が安定しない。なにかむず痒さを覚えて額を拭えば掌にべっとりと付着する自身の血を認識する。

「……………………   ──────」

 視界が上方向に急回転する。保っていた意識が血の損失の自覚をきっかけに取り戻せない範囲に飛翔する。
 回転し吹き飛ぶ意識の端、俺よりも先に意識を手放してしまった久遠を捉える。クソ、気持ちよさそうに寝てやがる……。

 あ、ダメもう逝く───────遠くに車の駆動音を聴きながら俺も闇の中に落ちていく。

────────────────────────

「…………なんでこれが……なんで……!」

 こんなこと有り得てはならない。あって欲しくない。起こって欲しく無いと思い続けて思わなかったことは1度もなかった。僕は変貌する月高をただ見続けるしかできない。
 その明らかな異常事態に綾崎さんや栂和先輩もただ唖然と見つめ続けている。

 天を衝く、そんな言い回しを本当に体現したかのように現れるその塔。それは2010年のあの日、この世界から影時間と共に姿を消した滅びの確約。

「…………っ!タルタロス……!!!」

 それの再襲が意味するものを、この時の僕らはまだ誰も理解出来ていなかった。いや、したくなかったのかもしれない。

─────────────────────

 巌戸台及び辰巳ポートアイランド上空。影時間のおどろおどろしい雰囲気と不気味な月光が照らす中、プロペラの旋回音を響かせ飛行する一機のヘリ。

「随分なことになってしまったな」

 機内にて深々と座りながら、眼下に広がる光景に一種の感嘆を漏らす男性。

「社長、この状態では着陸地点も機能していないかと。」

「であれば仕方ない、桐条の施設ならばこの状況でも稼働しているだろう。其方へ行け」

「かしこまりました」

 眼鏡を外し眉間を指で抑える。要らぬ狂犬をようやく払えたと思えばこれか……まぁいい。

「美鶴や樹下に会うのも久しいと思って楽しみにしていたのだが……こんなものに巻き込まれるとはな」

 旋回し進路を切り替えるヘリ。その横腹に施されている文字と紋章からそれが何処の所有物なのか、見るものが見れば簡単に理解出来るだろう。

「調和する二は完全なる一に勝る、まさか俺の代でその言葉を為すことになるとはな」

──────────────────────────────

 群がるシャドウが弾け飛び飛散する。辰巳ポートアイランド駅その路地裏奥、そこで嬉々としてシャドウを屠り続ける少年がいる。
 深緑の髪に金色の瞳。以前黒服から無理やり強奪したまま使い続けている召喚器を懐に仕舞い空を見る。

「……おいおい、こりゃ何が起こってるってんだ?」

 上空で旋回しているヘリの紋章を見て肩を竦める。もう関わることは無いと思っていたソレ、どうにも中々離れられない縁があるらしい。

「南条コンツェルン迄この面白おかしい場所に来る。偶然か、それとも何か裏があるのか?…………ふ、まぁ俺にゃ関係ない話か」

 俺にとって南条も桐条もあの黒服共も関係ない。俺の、南雲李独の目的は何ら変わりない。
 
「玖城め、こんな程度の児戯でくたばるたまじゃねぇとは思うが」

 ?……おいおい俺がアイツを心配してるのか?はぁ……くだらねぇ感傷を抱いちまっ手やがる。これもこの前の長鼻老人の出てきた夢の影響かねぇ……?

「つか、これいつ明け…………あ」

────────────────────────────

 様々な思惑、企みが交差し続けた影時間が今明ける。


再襲

「ようこそ我がベルべッ──」「今何月何日だ!」「5月8日の22時を過ぎた頃合です」「うぎゃああああああみつ姉の誕生日終わるじゃねぇかぁああああああああぁぁぁ」「樹下様は随分家族思いな方ですね」「……………………………………………………………………ようこそ我がベルベットルームへ」

 

 心做しかイゴールの語気が強く感じたが、気にしないでおこう。エルフリーデに聞いた日付はみつ姉の誕生日。然し時間的にそれもあと2時間で終わるらしい。なにか用意してやろうと何となく思ってただけに惜しい、いや寧ろ財布が痛くまないから助かったのだろうか?

 

「そして其方の方も御一緒とは、やはりワイルドの素養を持つもの同士は不思議な縁で惹かれ合うものなのかもしれませんな」

 

 何?イゴールのその言葉に首を傾げ隣を見れば久遠と目線がかち合う。

 

「は?なんで居んのお前」「黙れシスコン」「シスコンじゃねぇわ、あとお前が言うなボケ」

 

「ふっふっふ、お二人の中は中々良好と言ったところですかな?喧嘩するほど仲がよろしいという言葉もありますので」

 

 その言葉に俺と久遠が同時にイゴールを睨みつける。がこの老人はそれに対して全く動じていない。

 その隣に侍るエルフリーデも涼しい顔で居るどころか

 

「私にも兄や姉、妹、家族の様に思える方達が居ますのでお二人のその心はとても理解できます」

 

 と言い出す始末。なんだろう、俺と久遠がとんでもなくガキの様な感覚になる……悔しい、悔しいなぁ、ぐや゙じい゙でず!!!

 

「しかし、貴方々へ降りかかる試練は随分混迷の色を帯びてまいりましたな。影時間という一度明けた世界の暗黒面の再現はもとより、大型のシャドウによる襲撃や滅びの塔の再来。

 これは愈々、我らの真価をお見せするときですかな?」

 

 イゴールのその言葉にエルフリーデが応える様に此方へ歩み寄って

 

「お手を」

 

 俺の手を引いて立ち上がらせてくる。ベルベットルーム、その内装は電車の内部と同じであり、そして運行中。その揺れに俺は足を縺れそうになるが、エルフリーデはなんということは無いというように不動だ。

 

「すげぇ体幹だなこの人、それに引替え……玖城お前」

「やかましゃ。ぅおっ!?」

 

 そしてエルフリーデが俺をさらに引き寄せればそのままペアダンスを踊り出す。

 

 え?なにこれ

 

「イメージして下さい、貴方の中に存在するペルソナを。そしてそれらを発展させ新たな形へと至らせるその過程と終点を」

 

 瞬間、電車の窓から見える黒一色の空間に俺の中に宿っていたペルソナ、ルシファー・影神とカズィクル・ベイが現れ並走、後に車両を追い抜き合流。一つの光源となって車輌の進路へ重なりぶつかる。

 

 その刹那。

 

《然り、これで私はお前の中に存在できる。愛しの女神も内包してくれるなら私としても史上の喜びとなるだろう。では今宵の喜劇を開演しよう。

 我は汝、汝は我。このカリオストロが、お前の辿る結末に未知を見るかを見定めよう。》

 

「っ!……つァ…………」

 

 軽い頭痛を覚えてその場にしゃがみこむ……そして俺の中に新たなペルソナが宿ったのを感じる。

 

「ペルソナの合体、やはり少し堪えますかな?」

 

「樹下様のペルソナは今までここへ来たお客様方とは少々差異があるため、通常通りのやり方ではお助けすることができませんでした。なので私が手とり足とり腰とり尻とり……失礼致しました。ともかく、サポートを手厚くさせていただくことで合体を行わせて頂きます」

 

 その度にこの頭痛に悩まされるのか……終いにゃ禿げるぞ……。

 

「それでは次に冬祈様、此方へ」

 

 俺から離れ久遠へと歩み寄るエルフリーデ。その手には黒い一振のナイフが握られており、それを久遠へ持たせればその手ごと包むように自身の手を重ねる。

 

「え、ちょっと……」

「何照れてんだよ冬祈姫」

「照れてねぇよ!」

 

 先程のお返しとばかりにからかう俺にガンを飛ばす久遠。そんな俺達の態度とは対照的に、エルフリーデは言葉を続ける。

 

「イメージしてください。貴女の中に眠る彼等、ペルソナ達の御霊が一つの物質として質量を帯び、貴女の刃となった姿を」

 

 その言葉を聞けば久遠自身も目を閉じて深呼吸する。その集中力が此方にも伝わる程に高まれば黒のナイフが光を放出しながら形を変異させていく。こ、この形は

 

「え、円月輪……!?」

「は?ぉっ!?おっも……!?」

 

 突然自身の手に伸し掛る円月輪の重さに目を見開く久遠。あともう少し惚けていたら床に落として車輌を傷つけてたな。

 

「ふふふ、御両人とも、実に面白い素養だ。年甲斐もなく私も高ぶる気持ちでございます。

 さて、そろそろ目を覚ます頃合いかと思われます。まだ8日は明けておりませんので、祝いの言葉を送るとよろしいかと。

 

 それではお二人共、またお会いする時まで御機嫌よう」

 

──────────────────────────────

 

 意識が覚醒する。重たくなった瞼をどうにか開いて初めて目にする白い天井を視界に入れる。丸1日閉じられ続けていた視力はボヤけが中々晴れず、時計を見つめてその時刻が11時であることを認識するのに数分を要した。

 

 上半身を起こす、節々が痛い、肩や腰、肘や膝といった主要な関節が稼働に対して悲鳴を上げる。自身の青の髪が視界を遮っているので掻き揚げたいが、腕の固まりのせいでそんなことは出来ない。

 

 そんな風に起きたての状態に四苦八苦していれば隣に気配を感じる。

 

「ぐへへ……もう呑めないよみっちゃん……ぶはぁ……げへへ」

 

 なんともだらしの無く締りの無い顔を晒して座ったまま寝こける姉、真千琉が居た。

 

「……マヌケな顔」

 

 そんな姉の顔を見て、昨日自身に起こったことを反芻する。あの奇っ怪な世界、異形の化け物、そしてペルソナ……。自分にはどうやら分からないことが多く有り、そしてその答えを目の前のマダオ……じゃなくて姉は知っているらしい。

 

「………守られるだけじゃないよアタシ」

 

 まだそんなに強くないだろうけど、少なくとも隣に立てる資格は

 

「あるよね?」

 

────────────────────────

 

「…………………」

 

 気まずい、久遠より先に目を覚ました俺はその隣で寝ている真千琉さんを起こさないようにゆっくりと医務室を抜け出してラボ内の売店に行っていた。適当に飲み物でもと思いどうせなら三人分と思って購入、戻れば久遠の独白現場。

 うーん、流石にこの中で入る勇気は無い。段階で言うなら6段階の勇気「唯我独尊の体現者」程有れば……いやあっても入れねぇな。

 

 然しもう暫くは色々続くだろうし、少しラボの中をぶらつく事にした。みつ姉でも見つけたら目覚めたことの報告と誕生日祝いの言葉でも送r「ごえっ」昨日の朝同様に首に走る締めつけ感に嗚咽を漏らし振り返る。

 

「………」

 

 そこには顔を赤くして若干プルプル震えている久遠が壁伝いに接近していた。

 

「…………いやそんなに痛いなら動くなよ」

 

「……ヤル」

「はい?」

 

「お前の記憶が消えるまでぶん殴り続けてやるぅううう!!!!」

 

 

─────────────────────────

 

「なんでお前達の顔は搬入された時より若干腫れてるんだ?」

 

「そこのヤンキーに聞いてくれ」

 

 俺は問答無用で久遠を指さす。まぁその久遠も俺同様頬が腫れているが俺は悪くない、殴りかかってきたやつが悪い。

 

「樹下、相手は女性だぞ」

 

「俺は真の男女平等という言葉を信条にして女相手でも鼻フックで持ち上げて振り回すことになんの躊躇いもない」

 

「玖城くんそれ誇ることじゃないね」

「まったくだな」

 

 みつ姉と真千琉さん、大人23歳2人から軽く頭を叩かれる。然しああやって停めないと俺の方が重症になっていたんだよ、そこは冗長酌量の範囲ではなかろうか?と言うとまた叩かれそうなので黙ることにした。

 

「………なぁ姉さん」

 

 まぁ俺は黙っても久遠自身は聞きたいことも山ほどあるのだろう。真千琉さんの顔を真正面から見つめ、真千琉さんもそれに真正面から向き合う。

 

「いつからこんなことに関わってたんだ?」

 

「もうずっと前からかな、確か高校卒業してからずっとだから5年目になる」

 

「5年間、危ないことをしてたんだな。人には夜遊びするな危険なとこに行くなとか言っといて」

 

「それが大人で力ある私の責任だよ冬祈」

 

 詭弁だと、外野の俺でも思う事を久遠が思わないわけが無い。自分は良くて君はダメ、大人だから子供だから、姉だから妹だからこうあるべきこうするべき。そんなもので満足できるのは定めた奴だけだ、押付けられて除け者のような立ち位置にいる側からしたら溜まったものじゃないだろう。

 

 特に久遠のような跳ねっ返り気の強いやつなら尚更だ。家族だと言うのに対等じゃない等、軽んじられていると認識してもおかしくない。俺でもそう認識する。

 

 然し悲しい事に、俺や久遠、綾崎、天田辺りもそうだが、所詮ガキで護られることを前提として社会に存在していた人種だ。だからそういう風に言われてしまえば黙ることしか出来ない。

 

 今までは

 

「でもアタシは、もう力のない小娘じゃない」

 

「………そうだね」

 

 そう、俺達は力を手に入れた側になった。それがどういう意味を持ち、この先どのような悲劇を浴びるか想像もつかないが。もうただ守られるだけのガキでは無くなっている。

 

「だからアタシは」

「……だとしても、やっぱり家族には私と同じ場所にたって欲しくないって言うのが、姉としての心だよ冬祈」

 

 …………何となくみつ姉を見る。俺は状況的に巻き込まれざるを得ない、関わらざるを得ない状況だった。状況が何もかも同じでは無いが、真千琉さんの言葉は理解出来るし、みつ姉もそういう思いを持っていたに違いないと思う。

 

 真千琉さんの妹としての久遠、みつ姉の従兄弟分としての俺。彼女達の愛を受けて育った俺達はだからこそ、その気持ちになる彼女達の心情は解る。解るが、それと同じくらい納得なんてできないんだ。

 

「…………あー」

 

 俺の声に三人の目線が向けられる。

 

「今現状シャドウワーカーって人手……というかペルソナ使い不足なんですよね?なら俺としては久遠が入れば即戦力間違いないって思うんすけど」

 

「樹下……あまり考え無しに」「って言うと思うけどさみつ姉、今回戦ったのはシャドウだけど、あれがエルゴノミクス共の再現した影時間の可能性があるのなら、あの戦いも覚醒するところも、久遠が真千琉さんの身内なのも向こうには筒抜けってことだろ?」

 

「っ……」

 

 真千琉さんの顔が歪む。うん多分俺かなり意地悪なことを言ってる気がする。

 

「確かに危険かも知んないけど、まだ目の届くところで一緒に行動できるようにする方が、放置より安全じゃないっすか?」

 

 多分こういう言い回しは詐欺師の常套手段なんだろう。でも実際これらが事実であり、予測可能範囲であるならそうなる可能性は高いということだ。

 

「樹下……お前」

 

 みつ姉の鋭い視線が俺を責める。わかってんだよ、今の俺がどんだけ最低な方法で決断を迫ってるかくらい。けど悪いがそれでも譲ろうとは思わない、護られ続けた側の意地も痛い程に解っているからこそ。

 

「それに戦う戦わないを最終決めるのは本人だろ?ここで突っ撥ねたら下手すると単身で殴り込みを掛ける奴だろソイツ」

 

 久遠お前助け舟出されてる立場でなんで俺を睨む。然し俺の言葉で真千琉さんも折れたのか項垂れている。あぁ、そうなると想像出来る根拠に心当たりあるのね……。

 

「……まぁそうだね……最終決めるのは冬祈か。まぁ聞くまでもないんだろうけどさ」

 

「当たり前だ、アタシはやるぞ」

 

「解ったって……、はぁ……もういい考えるのやーめた」

 

「と言いたいところだが考えることは彼女のことだけじゃない」

 

 俺の頭をぐりぐりと痛め付けながらみつ姉が口を開く。その表情は目の前の状況に相当面食らっていると窺える。どうやら俺達が気絶していた間に色々進展があったらしい、悪い方向に。

 

─────────────────────────

 

「壮観だなぁ」

「そだねー」

「肩身が狭い気分です」

「こんな古参ばかりだと新参の俺達が場違いに思える気持ちはある」

「…………」

 

 俺含め綾崎、テレジア、栂和先輩、久遠が部屋の隅で集まっている人物達を見渡す。みつ姉を初めとして真田さん、アイギス、山岸さん、そして天田にラビリスの面識のある組に加え、今まで顔を合わせたことさえないメンバーが一同に介している。

 

「というか栂和先輩何でいるんすか?」

 

「今かい?いやでも仕方ないか。言ってなかったもんな、俺もペルソナに覚醒してる事。一応去年くらいに色々あってさ」

 

「私も天田くんと栂和先輩が一緒にいて驚いたわ。まぁそれと同じくらいふゆっぺが玖城と倒れてたってことも驚いたけど」

 

「綾崎、次アタシのことその呼称で呼んだら許さんぞ」

 

「ふゆっぺ……?」

 

「渾名の女子キャラ昔やってたゲームにいたな」

 

「あ、それわかるかも。確か─「そこ、私語は後にしろ」

 

 みつ姉の穏やかだが鋭い叱責に5人揃って背筋を正す。うーん、暫く俺たちは喋らずに傍観しておこう。俺達は互いに目を併せて胸中にて同意する。

─────────────────

 

「つか驚いたっすよ、電車乗ってたらいきなり影時間になって月高の方見たらタルタル復活してんだもん」

 

「私も順平からの連絡聞いて驚きましたよ。この間から今日までで状況が動き過ぎじゃないですか?」

 

 確かあの男性、帽子をかぶり顎に髭をこさえてる人は伊織順平さん。そしてその次に口を開いた茶髪の女性は岳羽ゆかりさん、二人とも5年前の巌戸台寮の住人であり過去のシャドウとの戦いに参加した組織、シャドウワーカーの前身である特別課外活動部のメンバーだ。

 

「私だって悪い夢だと思いたいがな。然し現実逃避をして居られる状況ではない」

 

「私は直接タルタロスを経験してないからアレだけど、あの塔があるってことはやっぱ不味いの?」

 

「あ、そっか。真千琉先輩はあの後からペルソナ目覚めたから知らないのか。まぁ端的に言うと……あー、風花パス」

 

「タルタロス。またの名を滅びの塔と呼ばれるあれは15年前の桐条グループの実験による事故で生成されてしまったものなんです。そしてその名の通り、あれ自体が世界の滅びの確約になりかねない危険なもの。ニュクスを迎え入れる場所としての機能があります」

 

 ニュクス、理由は分からないがその単語を聞いた瞬間視界の端がチリチリと痺れるような感覚を覚える。気の所為だろうか……。

 

「やばいじゃんそれ、てことはあの塔の破壊も考えるべき?」

 

「いや、それも辞めた方が懸命だろう。久遠、あれが普段の世界で何になっているかくらい解っているだろう?」

 

 真田さんの言葉を俺自身脳内で反芻する。場所やその周囲の地形、そして話から推測すると……あ。

 

「あ、そっか……あれを壊しちゃうと月高がなくなる可能性があるんだ」

 

 真千琉さんの言葉で俺も整理が着く。実際に場所を見てないからイメージはしにくいが、あの塔そのものが月光館学園であるのなら破壊はそのまま学園の破壊に直結するんだろう。

 

「それにもし影時間を発動されたタイミングが日中の様な中に人間がいるタイミングだったなら死人まで出ることになるだろう。厄介な話だが、奴らは壊させない為の人質迄用意できるということだな」

 

 隣の綾崎の拳が握りしめられるのを見る。怒りっぽいところもあるのは解ってるつもりだったが、ここまで静かに怒ることもできるんだな。

 

「然しタルタロスが現れたからと言って身構えるのも分かりますが、何も絶望的な状況という訳ではありません」

 

 俺達の僅かな動揺を遮るようにみつ姉の隣に侍ていた斉川さんがプロジェクターを起動させる。壁にモニターが映し出され、そこにいくつかの異形の写真が映し出される。

 

「タルタロス、ニュクス、そして滅びの時。これらは確かに連動したものですが、今現在ではそれらが全て揃うことはありません。

 知っての通りニュクス自体も封印状態にあり、そしてそのニュクスを呼ぶとされるデス、その分体である12のシャドウも同様に存在していません」

 

「確かに、あの時は有里さんがその身体の中にデスを宿していて、それをトリガーとしてあのシャドウ達が目覚めた。でも今は無いのなら」

 

「滅びは来ない、ということですね。」

 

 天田の言葉を引き継ぎそれをアイギスが締め括る。場はその瞬間緊張が緩んだが。

 

 

「……………………」「……………………」

 

 俺と久遠の目はまだモニターから離れない。デスと呼ばれる化け物やタルタロスの写真、それに重なるように並ぶ12体のシャドウを順番に見て

 

「……似てる」

 

 久遠がそう零したら全員の目が集まる。そう似ている、いやこれは

 

「居た、これとこれ、二体のこのシャドウ俺と久遠が遭遇した奴じゃねぇか!」

 

「何!?まさかお前ら遭遇したのか!?」

 

 真田さんが驚愕の形相で俺に近づいてくる。その迫力に一瞬面食らうがそんなことはどうでもいい。

 

「……ああそうだ、間違いない。あの時長鳴神社でアタシと玖城を襲ったあのデカイ奴らだ」

 

「………………」

 

 みつ姉が俯き溜息を吐く。悪い方悪い方へ状況が転げていくのだから仕方が無いだろう。そして再び顔を上げれば俺に目を向けてくる。

 

「遭遇して……討伐したんだな?」

 

「あ、うん。じゃないとどうやっても逃げれなかっただろうし……不味かった?」

 

「いや……状況として仕方が無い。然し都合は悪いな」

 

「確か5年前の時も、俺らあのシャドウの正体に気がついてなくて討伐してって湊の中にアイツらを集めちまってたんだよな……」

 

 順平さんの言う通りなら、奇しくもその時と同じ状況になってるわけか……。

 

「………………どうする美鶴?」

 

 真田さんがみつ姉を見る。みつ姉は再び深く息を吐き出し口開く。

 

「ニュクスの復活のリスクがあるとはいえ、大型シャドウを放置すればその被害は計り知れない……ならば我々は討伐するしかない……だが」

 

「仮にそれをきっかけとしてニュクスが目覚めた時は…………」

 

 アイギスの言葉、その先を誰も口に出せない。そりゃそうだろうと思う。悪く転がれば未曾有の被害か滅亡かの二択。こんなもの常に首元に鎌を突き付けられているのと同じだろう。

 

 沈黙の帳が降りる室内、それをぶち破るかのように扉が強く開け放たれ全員の目が其方へ注がれる。

 

「あ、貴方は……!」

 

「け、圭さん……!?」

 

 南条圭。南条財閥及びそれが運営する大企業、南条コンツェルンの代表である彼はズカズカと入り込みモニターを睨む。

 

「大事な会議のところ申し訳ないが口を挟ませてもらうぞ。何を恐れる!それでもお前たちは力持つ者か!」

 

 あれ?この人こんな性格だっけ?

 

「絶望的状況お察しするが、恐れて指を咥えて居られる人種ではなかろう?

美鶴、南条から桐条が分かれた折の言葉、俺が果たしてやろう。」

 

「…………調和する二は完全なる一に優る……つまり貴方は」

 

「協力するつもりだ。桐条の暗部であったエルゴノミクス研究所、あれは南条にとっても汚点だ。その払拭のためならば俺は幾らでも支援してやる。

 

 それと樹下!!」

 

「はいっ!?」

 

 思わず背筋を伸ばして若干顔を引き上げ気を付けの姿勢になる。なんだ?!なんなんだ!?

 

「良くやった。滅びの一歩目となったかもしれんがそれでも今ある多くの命を守った、誇れ。其方の少女、久遠冬祈くんだったな?君も誇りなさい」

 

「……誰だこのオッサン……?」

 

 こんな人だっけこの人……?……いや待て、この人がこのタイミングで来たということは……っ!

 

 開け放った扉から退室しようとする圭さんの腕を掴んで止める。その瞬間振り向き向けられる圭さんの鋭過ぎる目線に足が竦むが、ここで尻込みしていられる話ではない。

 

「あ、アンタがここに居るってことは……やっぱ南雲がこの街に来ているのは南条が噛んでんのか?」

 

「……!南雲……南雲李独か樹下」

 

 俺の言葉に圭さんよりも先に反応するみつ姉を、圭さんは片手を挙げ制する。

 

「李独……南雲家の倅であり狂犬。アレもここに来ているとはな、熟切れん縁というものがあるらしい。」

 

「……その言い方……南雲の言葉は嘘じゃないってことか……」

 

 図らずも確信出来た、南雲は間違いなく個人的な目的でこの街に来ている。執念深い奴だと思う反面、南条が桐条に対して何かを仕掛ける為の布石だった可能性が消えて安心する。

 

「あの犬がお前に何かしたというのなら、その責任は俺にもあるかもしれん。

奴が南雲家から完全に離反した男だとしても育てたのは我々だ。もし解決を望むのなら俺が」

 

「それは良い、これは俺とアイツのやり取りだ。そこにアンタらが介入する余地は無い、黙って見てて欲しい」

 

「樹下……お前圭おじ様になんという言葉遣いを」

 

「構わん気にするな。然しお前李独のことになれば熱くなる、その点は以前と変わり無くて安心したぞ。では皆の者、俺は失礼させてもらう。

 

 樹下、また今度食事でもしよう。美鶴に話せない内容でも、男同士なら気兼ねしないだろう。」

 

「む」

 

「……うっす、またの機会に」

 

 圭さんから手を離してそのまま退室を見送る。然し……

 

「なんかあの人、物腰が柔らかくなってない?」

 

「おじ様にも色々あったのだろう。そろそろ跡目だなんだと騒ぐ連中も多いと聞くからな、案外婚活の一環かもしれん」

 

 なんか理解した、あの人の威圧感だとアレでもまだ厳しそうだけど……。

 

 

「凄い……嵐みたいに来て嵐みたいに全部の雰囲気を変えて行った……。

あれが南条圭社長……美鶴先輩の親父さんの再従兄弟……になるのかな?」

 

「さぁ?でもあの強引さは私達特別課外活動部時代には居なかったタイプだね」

 

「ある意味では順平さんが近しいかと思われますが」

 

「俺あんな威圧感出せねぇよ!?真田さんあたりじゃないの?」

 

「いやぁ真田にも無理でしょ?笑われるのが落ちだよ」

 

「中々言うじゃないか久遠。お前妹の前でそういうキャラを作るつもりか?」

 

「無駄な努力ね真千琉」

 

「久遠にはともかく……真千琉さんのダメな点はもう皆の共通認識ですしね」

 

「ひっどいなぁ!?私だって普段からちゃらんぽらんな訳じゃないやい!」

 

 

 古参連中の雰囲気でさえ総てガラッと切り替えて行った。圭さんの人心掌握術というかなんというか、カリスマってああいうのを言うのかもしれんな。

 

「玖城……アンタの親族ってとんでもない人多過ぎない?」

 

 綾崎のその言葉に俺自身も首を傾げながら同意する。ホントにアレやみつ姉と血の繋がりがあんの俺?

 

「育ってきた環境が違うから〜って奴?」

 

「つまり環境次第でコイツも今のオッサンみたいになるのか?……想像出来ねぇな」

 

 久遠の言葉に腹立つけど、俺自身も想像つかねぇからなんも言えん。

 

 

────────────────────────

 

 会議の場から退室しラボ内の廊下を歩きながら、先程樹下に掴まれた腕を擦る。力強い握力だった、然し俺の記憶にあるアイツの握力はこんな強力なものでは無かった。

 裾を捲り手の形に付いた跡を眺める。これが今の樹下か……。もしかすれば当時の、学生だった頃の俺よりも……いや、比べる事の不可能な比較は辞めよう。

 

 然し李独との争いは自身のみの闘争と断じたあの目はいい目だった。アレも男だ。であれば共に歩み高め合いたいと思えるやつもいれば、どう足掻こうとも相容れない気に食わない相手というものの一人二人居て然るべき。大和男児斯くあるべきと言うやつだろう。

 

 実に惜しいな、アレで俺や美鶴同様に帝王学の心得とそれを磨く場さえあれば……なんてな。

 

「玖錠は時代によって解かれ南条と桐条へといたり、残った源流は威を潜め混ざりとけ玖城となった。今更戻り咲く野望もないだろうからな」

 

 まぁそれにしても

 

「貧相な身体だったな、情が無い」

 

 いつか叩き鍛え上げてやるか。




今回は戦闘パート無し。故に新規キャラ紹介やペルソナ紹介もなし。

 そして次回は少し過去編を挟もうと思ってたり






  思ってなかったり。
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