PERSONA EPISODE of SHADOW WORKER 作:漆竜 黒鍵
ラボでの会議も終わり俺達巌戸台組はモノレールに揺られている。最後の圭さんの闖入によって場の空気は緩くなっていたとはいえ事態にはなんの進展も後退もない。
都合が悪い方に進めば滅び、その事実は俺達の心に暗雲を蔓延らせるには充分だった。
「…戦わないって選択肢は…無いよね」
恐る恐ると言った様子で綾崎が口を開く、まぁ無理だろうな。
「実際遭遇した身としては、あれを放置していい物とは思えねぇ。アタシ等がやってなかったら、まぁ長鳴神社周辺はめちゃくちゃだったろうな」
久遠の言葉には概ね同意だ。アレは放置していいものじゃない。だが
「倒せば滅びに向かう可能性があって、倒さなくても危険過ぎる…ですか。タチの悪い袋小路ですね…」
「でもやるんだよ」
天田のその言葉に反応し目を向ける。
「あの人が、有里さんが守った世界を滅茶苦茶になんてさせない」
有里…か。
「天田くんはその人のこと尊敬しとったんやね」
「うん、尊敬してあの人みたいになりたいって思うこともあったよ」
そして俺を見る天田。
「だから玖城が羨ましいって思うこともある。あの人と同じ力やペルソナを覚醒させた事も含めて」
「へぇ…もしかしてその人も樹下くんに似とんのかな?」
「コイツに似てる奴とか……はっ、まともな奴じゃねえだろ」
「久遠さん…それは余りにも言い過ぎでは?…というか先程から一言も話してませんが、玖城さんどうかしましたか?」
テレジアの言葉を聞き目を開く。
「ん、なんでもない。…っぁ…ふぅ……」
首を傾げ音を鳴らしながら伸びをする。少し呆れたような皆の目線を無視すれば携帯を開き電源を…おや?
「……影時間か?」
「いやただ壊れただけでしょ…」
そう言って携帯の背面を指さす綾崎、それに従って裏返せばバッキバキになった背面を目にする。
そういや戦いの時とかも持ってたし、そらそうなるか。
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そういえばこの携帯、この街に来た時から使い始めたんだっけ……
──2012年、8月末日
地元では余り乗る機会のなかった…というかそもそもその存在自体テレビの中で見る程度だったモノレールに揺られる。その目的地である人工島・辰巳ポートアイランドとその中にある小中高一貫の学園、月光館学園を車窓から眺める。
あれの中等部に俺は明日から2年生として編入する。まぁ確かに南雲と学校の屋上であんな暴れ方したら追い出されるのは仕方ない…か。
「はぁ……」
然し月光館学園の母体である桐条グループの存在に少し嫌気を覚える。みつ姉…桐条美鶴総帥の存在はおそらく避けては通れないものになるだろう。別に苦手意識は無いが
「あの人20歳超えた去年あたりから明らかに俺に対する態度がダメな方に傾いてるよ…、ブラコンというかなんというか………はぁ…」
絶対あの人俺に会いに来るよな……鬱陶しいなぁ…。
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編入の最終手続きを終え、明日から通う事となる学園内を見学する。夏休みの最終日であろう今日であっても校内には部活動に精を出す生徒の活気で溢れている。
ご苦労なこって………まぁ俺には関係ないか。
と、そう心の中で締め括った時、後ろに人の気配を感じる。この気配…不味っ
「樹下ああああああ!!!」「ああぁああああああああああああああぁぁぁ!?!?!?」
逃げようとした瞬間に羽交い締めにされ持ち上げられる体。ジタバタしても全く振りほどけない。
「み、みつ姉!は、離せぇぇぇぇ!!!!」
俺は抱擁をして来た犯人である桐条美鶴に大声で訴えるも。
「樹下ァ!本物じゃないか!堪らん!これから会おうと思えば会える位置に我が弟がいるなどの…最高では無いか!!」
「弟じゃねぇだろ!?遠縁の親戚なだけだろぉがァ!!!」
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そのまま羽交い締めで持ち上げられたままリムジンに載せられる俺。この車好きじゃねぇんだよな…目立つし、内装豪華だし…。
「しかし聞いたぞ、また随分派手にやらかしたらしいじゃないか。しかも相手はあの南雲の少年とはな」
「あっちが勝手に仕掛けてきたんだよ…、まぁ二人して屋上から落下したのはやりすぎたとは思うけど」
そのお陰で俺も南雲も即刻病院送り食らった訳だ。そして落ちた理由が喧嘩と暴力の果てと言うのだから学校側も最早お手上げものだろう。
結果俺も南雲もそれぞれ別の場所に移り住むという罰を受けることとなった。まぁ俺を引き受けたのがみつ姉だと言う点でこの人が色々根回ししたのは察したよ。
「女の身の上故余り理解は示せないが、男というのが時にそういった衝突を経ることもあるものだと何処かで見たな。確かこの前も再放送されていた映画だったかな」
「映画と現実は違うだろ…」
「だが参考にはなるさ。何事もコレはコレでソレはソレと隔離してしまうものでも無いさ」
よく分からん。然しこのリムジンはどこに向かっているんだろう…。
「今日からお前の住む寮だよ」
「…あ、そうか。そういやそう言う話だっけ…」
単純にブラコン拗らせて誘拐しただけだと思ってたわ。
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巌戸台寮…というらしい。その玄関をみつ姉が開ければ勢いよく白い塊が飛び込む。
「ふっ、久しぶりだなコロマル。元気そうでなによりだ」
「わフッ…ヘッヘッ」
白い毛並みに赤い瞳の犬を撫で回すみつ姉、なんか絵になるな……こうヒョウ柄のコートを来て高そうな椅子に座って犬を撫でたら最早悪の首領だな。
等と思っていれば犬がこっちまで歩いてきて目の前で座り込む。尻尾を凄い勢いで振ってやがる、可愛いと思ってしまうじゃねぇか。
「コロマルが初接触を待たずに懐いているな。いやそうか、覚えていたか」
「ワン!」
「…覚えてたって?」
なんの事だろうか?等と首を傾げると苦笑いを浮かべるみつ姉。
「2年前一度だけ巌戸台に来ただろう?その時コロマルもお前と会っている」
あー?…あーなんかそんなこともあったっけ?2年前の年の瀬の挨拶でこの街に来てたっけ。なんか無気力症とかがかなり蔓延してた方が印象強くて忘れてた。
そうこうして居た時、不意に玄関が開く。
「ただいまコロ。あ、やっぱり美鶴さんだ、それと…えっと?」
ブレザー姿の少年が入ってくる。おそらく俺と同じ歳くらいか…、みつ姉を見る。
「おかえり天田、それとコイツが話していた私の遠縁の親戚だ」
「そうか…君が玖城くん」
「玖城くん…?…あー、辞めてくれよその呼び方…そんな風に呼ばれた事ないからむず痒い、呼び捨てでいいよ…えっと」
「あぁごめん、僕の名前は知らないよね。僕は天田、天田乾。よろしく玖城」
「玖城?」
天田の声に我に返る。背面が割れた携帯を懐に仕舞えば肩を竦めて立ち上がる。そろそろ巌戸台に着く頃合だろう。
アレから2年が経つ、早いのかやっとなのか。然しここ1ヶ月で随分と色々あったと思う。
「そんなに携帯が割れてショックだったのかな…?」
「いやコイツにそんなセンチメンタルな面があるとは思えないが…」
ヒソヒソと話す綾崎と久遠を少し睨みつけるが、まぁコイツらに睨んでも平然としてるので意味は無い。よって目線を天田に向ければ
「今度携帯買い換えるから付き合えよ天田」
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過去編その1終了。また別のタイミングで別の過去編もやるつもりはある。
つもりだけでやる予定は建ててない。