PERSONA EPISODE of SHADOW WORKER   作:漆竜 黒鍵 

12 / 20

「…………………………」

「…………………………」

 会議が終わり私はみっちゃんと二人で別室にいる。冬祈が心配だから本当は一緒に帰りたかったんだけど……おっと、別にシスコンという訳じゃないよ?

「………………………………」

「………………………………」

 というかなんでみっちゃん何も話さないの?おかしくない?人の事留めさせて於いて一切本題切り出さずになんでコイツ。

「なんでカップ蕎麦食おうとしてんの?」

「3分だな。小腹がすいた時に割と重宝している。真千琉も食べるだろ?」

「や、まぁ食べるけどさ……」

 蓋を二人で捲れば箸で麺を解して啜る。というか

「みっちゃんがこんなの食べるなんて昔じゃ余り想像出来なかったけど、誰の影響?真田?それとも荒垣?」

「明彦も荒垣も余りこういうものに手を出すことは無かったな。どちらかと言えばお前の影響だろう」

「あー…」

 確かにラボの食堂とかでみっちゃんと会う時大抵啜ってたな……。余りに珍しいものを見たという風のみっちゃんに、一つどう?とか言ってたっけ……。

 

 …………いや違うじゃん。

「流されちゃってたけど、まさか蕎麦を食べたいが為に私を呼び止めたの???」

「…………」

「嘘でしょ???」

 かまってちゃんかよ。


「ふふ、冗談だ。しかし浮かれても良いだろう?今日くらいは」

 そういうと部屋の棚から何かを取り出すみっちゃん…まさか。

「ワイン…?いやマズイでしょ?ここ一応職場…」
「勤務時間外だ。それに今日くらいは酔う事も許してもらいたいものだ、私の誕生日だからな」

 あ、そうか……5月8日は確かにみっちゃんの…

「そっかもう23歳になったんだねぇ…」

「ペルソナに目覚めてから激動続きとまでは言わないが、色々あったよ。まぁこれからも忙しくなりそうだが」

「色々あるよ。子供達や、私達シャドウワーカーの事も」

「タルタロスに大型のシャドウ、エルゴノミクス……問題は山積みだ。だから」

「それに立ち向かう鋭気を?」

「そういうことだ」

「ふふ、なら一献と言わずみっちゃんの飽きるまで付き合うよ。こういうことは真田や菊乃にはできないことだもんね♪」

──────────────────────────────

「しかぁあぁぁぁぁし!!私は思うわけであります!」

 やばい…みっちゃん飲み過ぎてる。口調がおかしい

「樹下には…もっと私を愛して欲しい!!!姉を慕って欲しい!!!吸わせろ!!」

 この姿を誰かに見られたらみっちゃん下手すると舌を噛み切りそうだな…。

「そもそも私今日誕生日だったのに!!もう日を跨いだというのに何故アイツは私におめでとうの一言も言わない!?メールしない!?!?ちっきしょおお!!!」

 もう何本目かも分からないワインを直で飲もうとするみっちゃんを止める。そんな飲み方は流石に不味いだろ!!

「落ち着けみっちゃん!!確かにわかるよ?私も冬祈から誕生日とか祝われなかったらお姉ちゃん嫌われちゃったの!?って思うけどさ!それでもワインをそんながぶ飲みしたら急性アル中になるから!」

「うるさァァァい!!これが呑まずに居られるかァァァ!!」

 ああ…悪酔いつもりで私を呼び止めたなコイツ………。クソ、なんで真田や菊乃、アイギスは今ここにいないんだよ…!………ん?

「みっちゃん、携帯に着信通知来て──ごぶぁっ」

 コイツ肘で私の鎖骨ぶち抜いてぶっ飛ばしやがった!!いってぇ!?

「……ちっ、なんだラビリスか…」

 玖城くんからのじゃないと分かれば露骨に不機嫌になるみっちゃん、コイツやりたい放題だな。

「……んっん゙!…ラビリス、どうした?」

 酔いは覚めてないだろうによくあんな風に切り替えできるな…あーいってぇ……。

「その声…樹下か?何故ラビリスの携帯からお前が電話をかけて……何?携帯が壊れた?…そうか、それは災難だったな。まぁ我々の戦いとはそういうことも起こり得るだろうからな。
 いいだろう、新しい端末の金は用意しよう……ん?どうした?」

 そういうとみっちゃんの動きが止まり暫くしてから通話の終了を告げる音が響く。

「へぇ、玖城くんの携帯壊れてたんだ。で、みっちゃんなんで止まって───ぶはっ!?」

 コイツまた私の鎖骨に肘を!!!!

「樹下ァァァァァァ、やはりお前は最高の弟だァァァァァァ」

 

 祝ってもらってよかったね!!!

 そう心の中で叫びながら私は美鶴の背中へ全力のドロップキックを叩き付ける。


邂逅再び、そして

 

 5月11日、この日俺は巌戸台の商店街にある携帯ショップへと来ている。

 

「玖城、これとかどう?」

 

「これかぁ……やっぱスマホって怖いな…すぐ割れそうだ」

 

「画面が剥き出しで確かに怖いのは解るけど、でもそうならないようにカバーとかを工夫するとかあるよ?ほら、僕のは手帳型なんだ」

 

 そう言って俺に自らのスマホを見せてくる天田。成程、こういうのもあるのか。

 

「いっそ高耐久のカバーを桐条の技術力で作って貰えねぇかな」

 

「確かに、特殊装備の一環として用意出来そうな気もする」

 

 それを期待出来るのなら携帯本体はどれにしても良い気がする。しかしこう目の前にするとアレだな。

 

「ゲームとか出来るって思うと性能がいいやつが欲しいな」

 

「玖城ゲーム好きだもんね」

 

 拒食症によって食による楽しみを味わえず、マスかいて性的欲求を発散するのも気が乗らない昨今において、ある意味ゲームをやれる環境というものは重要な気もする。

 

「それを踏まえると少し画面が大きめのこれとかいいのかねぇ?」

 

「でも少し重たそうだね」

 

「そこがネックだな」

 

 しかし他のスマホはどうにもちゃっちく見える。そしてこういう時は思い立ったがなんとやらと言う。

 

「すんませーん店員さん」

 

 

──────────────────────────

 

 ───巌戸台寮───

 

 

「ンで、買ってきたのがそのスマホか」

 

 9日の朝より巌戸台寮へ入寮することになった久遠が俺のスマホをジロジロと見てくる。

 

「なんだよ?別にいいだろ?」

 

「らしいといえばらしいか」

 

 半分笑いながらロビー奥のキッチンへと消えていく久遠。それと入れ替わるように綾崎とラビリスがやってきて自分達のスマホ端末を差し出してくる。

 

「………なんだよ…」

 

「ほら、連絡先交換しとかないとさ」

 

「そうそう、もしなんかあった時とか連絡出来へんだら困るやん?」

 

 一理あるが勢いと圧が凄いんよ、怖いんよ。

 

 しかしスマホ初心者の俺が連絡先交換の方法等分かるはずもなく、綾崎にやり方を聴き四苦八苦しながら実践する。

 

 へぇ…今はこういうメッセージアプリが流行ってんのか…なるほどなぁ…。

 

「よし……玖城の連絡先ゲット……!」

 

「樹下くんのアドレス……ふへっ…」

 

 なんだこいつらは…、何か挙動的におかしい2人を無視して天田やテレジアとも連絡先を交換していく。久遠…に関しては……良いか別に。

 

「あと連絡先をちゃんと交換してないのはシャドウワーカーの人らにクラスの連中……の方は明日の登校の時にやればいいか。さて」

 

 俺は椅子から立ち上がり玄関へ向かう。

 

「玖城、どこか出かけるの?」

 

「少し野暮用でな、夜には戻るから気にすんな。挙動不審な二人にも伝えといてくれ。んじゃな」

 

 

─────────────────────

 

 出掛ける玖城を見届けてから何となく寮内を見渡す。綾崎さんにラビリス、テレジアにコロマル、そして久遠さん。5年前とはコロマルと僕以外違うメンバーになったけど、巌戸台寮が賑やかになってきたことが嬉しく感じる。

 そういえば来月から栂和先輩もここに合流するんだっけ…なら今よりも賑やかになるんだろうなぁ…。

 

「そういえば天田さん」

 

「ん、何かなテレジア」

 

 感傷に浸っていればテレジアが話しかけてくる。思えばこうしてちゃんと顔を合わせて彼女と話すのは初めてな気がする。

 アイギスさんに対してさん付けで読んでいるのだから、彼女の姉であるテレジアに対しても本当はさん付けの方がいいんだろうか?等と考えていればテレジアは言葉を続ける。

 

「来月より栂和副生徒会長もここに入寮すると聞いています。つまり彼もシャドウワーカーの一員として私達とチームを組むという事、であればそのペルソナの詳細を教えて頂きたいのですが」

 

「あ、確かにテレジアは栂和先輩のペルソナ知らないんだっけ?」

 

 そんな話をしていれば綾崎さんやラビリスもこちらへ合流、厨房から出てきた久遠さんもそれとなしに会話の聞こえる範囲で腰を下ろす。

 んー、こういうことで情報の共有をするなら玖城を引き留めておけば良かったな。

 

「この前の影時間の時私は天田くんと栂和先輩と高騰してたからちらっと見てたよ。あの人の性格的に搦手かなぁって思ってたけど割と正面突破型だった気がする」

 

「あの人が正面突破ぁ?想像も出来やしない」

 

「なんなん?その栂和って人そんなにイヤらしい感じの人なん?」

 

「私は特にそんな気はしませんでしたが…」

 

 まぁ確かにあの人と話したことある人なら皆何となくこんな感覚を覚えそうだなという言葉はある。僕は言わないけど……綾崎さんと久遠さんは気にせず言う。

 

「なんか胡散臭い」

「ぜってぇ何かしらの企みを常にしてる」

 

 でも実際本人を身近に接していたら割と裏表がない人なのは分かるんだけどなぁ…。

 

「つまり悪の大神官ということですか?」

 

「「それだ!!」」

 

「いやちゃうやろ!?」

 

「あははは……」

 

 この賑やかさはやっぱり五年前を思い出すかな……。

 

 そういえば玖城はどこに行ったんだろう?こんな昼前という中途半端な時間から出かけて行ったけど……と考えたところで寮の裏口が開け放たれる。

 

「樹下は居るか、誕生日を祝いに来たぞ」

 

 美鶴さんの声が向けられた本人の居ない寮内に響き渡る。

 

 

 え、もしかして玖城…逃げた?

 

 

──────────────────────────

 

 そう、俺は逃げた。

 

 今日5月11日は俺の誕生日、そんな日にみつ姉が何もしないわけが無い。去年もなかなかに嫌がらせレベルに盛大に祝われた。本当にあの人20歳超えた辺りから思い切りがフルスロットル過ぎて頭が痛くなる。

 

 そして奇しくも今年は南条の圭さん迄居る。あの人はみつ姉程頻繁に何かをすることは無いが、やることの規模が静かにデカい…加減を知らんのか金持ち共は……!

 

「たかが一人の高校一年生男子に対して過剰な賞与や贈呈品は感覚を狂わせるのですよ…なんてね」

 

 然しそれも逃げてしまえばこちらのモノ、今はモノレールに揺られ辰己ポートアイランドへ向かっている。ポロニアンモールのシャガールで適当に飲み物を……いや来そうだな…さてどうするかなぁ…

 

 

────────────────────────────

 

 辰己ポートアイランド駅裏路地

 

 なんとなしに足を動かしていればこんな所まで入ってきてしまった。以前南雲とぶつかり、そして共にエルゴノミクスと戦った場所。その際の痕跡は今もまだ残っている。

 これを見るとやはり影時間という異常空間での出来事が一般にどれ程の影響を与えるかというのを認識出来る。シャドウも、そして何かを画策しているであろうエルゴも、形は違えど何方も日常に対する害敵であるというものは紛れもなない事実らしい。だが

 

「俺にはお前の方が気がかりだ、南雲」

 

 南雲李独という人間。昔から知っているアイツを一言で表すなら正しく狂犬。そして快楽主義的な思考も持っている破綻者と言ったところだろう。

 興味を引くもの、自分が是としたものを嬉々として実行する。言葉だけなら行動力のある素晴らしい少年で括られるが、その是とするものの中には悪行だって含まれる。

 暴動、強奪、薬物に賭博。中学の時でさえ気が向けばアウトローに混ざって違法な格闘技にも身を投じていた。生き急ぎ死に急ぎ、その極限でしか自分を認識できていないかのような不感症的な飢餓状態の羅刹。

 

 以前は理解などできなかったが、拒食症による絶食状態にある今の俺ならある程度の共感は覚える。何をしても満たされない、満たすことの出来ないということの悲劇。こればかりはそうならないと分かることも出来やしないし、綺麗事の共感等反吐しか出ない。

 痛みや感触、嗅覚や味覚。目と耳以外を欠落させた先天的の感覚障害である奴だからこそ、あの様な狂犬に到れるのだろう。

 

 故にアレは生まれながらにして人間では無く、その場に並び立つことなど誰であろうと出来やしない。然しだからこそ惹かれる者もいる。羽虫が電灯の光に群がるように、南雲という非人間的な旭光は其方側の奴らを集めやすい。故に南雲という男は孤高でありながら孤独ではなかった。

 

「…………ちっ、バカバカしい」

 

 だったらなんだと言うのか、アレが現状において俺に対する敵意に満ちているのなら敵でしかない。俺がアレに一種の共感を抱こうともその事実だけは変異することは無い。

 だからこそここから先俺達の前に現れるのなら間違いなく邪魔者だ。ならば

 

───滅ぼし尽くすしかないだろう────

 

「………………」

 

 脳裏に過ったその言葉(不快感)を頭を揺らし振り払う。あまりあれに振り回されてもいいことなど無い。であれば実際に目の前に現れない限り考えるのは辞めてしまえばいいのだ。

 

 そしてだからこそ、今目の前に居る男の登場は心底腹が立つ。

 

「タイミングを合わせたように現れるんじゃねぇよクソ野郎」

 

 目の前にいる巫山戯た笑いを浮かべる南雲を睨む。テメェの登場なんぞ今望んでねぇんだよ。

 

「そう睨むなよ、珍しいモンを見たんで声を掛けただけだ。こんな所で何かを考え込んで怖い顔してるなんて、なんだ?完全犯罪でもやるつも」

「用件だけ言えよ、お前の戯言なんぞ聴きたくねぇ。お前のペラに付き合う気なんざねぇぞ」

 

 不愉快極まりない言葉の羅列を無理やり遮る。

 

「ふっ……つれねぇ奴。幼馴染じゃねぇの、ちっとは感慨深くして見ようって気になんねぇのかねぇ?見習えよ俺を」

 

「お前がそんなキャラかよ、俺より俺の事嫌いなくせしてよ」

 

「違ぇねぇや」

 

 肩を小さく竦めながら歩き出す南雲。此方を振り返ることなく手招く姿に微分の苛立ちを覚えつつも大人しくその後に続くことにする。

 

 

──────────────────────────

 

 ポートアイランド駅裏路地 《アイアンボトム・サウンド》

 

 南雲の後に続き入ったそこはBARだった。昼間から酒の匂いが充満するそこには見るからな不良やチンピラも居る一方、俺と同年代であろう少年少女や休暇中の社会人なども客の中に居る。

 

 学生がいるということはノンアルの提供もしているということだろうが、雰囲気的には少しダーティな場所。

 

 俺の趣味では無い。

 

「まぁ座れよ、お前もなんか呑むか?」

 

 そう言ってメニューを差し出してくる南雲。仕方なしに受け取り眺めるもよく分からない名前ばかりだ。だがそんな俺でもこれだけははっきり分かる。

 

「アルコールメニューじゃねぇか」

 

「おいおい、ここはBARだぜ?BARに来てノンアル飲むバカが居るかよ?」

 

 そう言って顎先で先程の学生グループを指す。それに吊られて目を向ければ成程……奴らの所にあるのもアルコールなのか。つまり

 

「アウトか」

「そういうこった」

 

 だが進んで法を犯すつもりがない俺は差し出されたメニューを無視してノンアルコールメニューを眺める。学生も入れる店という建前上置かない訳には行かないだろうそれを一通り眺め適当なノンアルカクテルを指さして注文する。

 

「あーぁ、ここにいたよバカが」

 

「黙れ」

 

 元々ここで呑んでいたのだろう、南雲は手元にあったグラスを傾け中のアルコールを喉に通していく。どんなものを飲んでいたか知らないが、あの量を眉根を一切動かすことなく飲み下しているのを見て改めて認識する。

 

「第一アルコールだろうとノンアルだろうとテメェみてぇな感覚障害にとっちゃ変わんねぇだろ」

 

「気分を楽しんでんだよ。身体は正直だ、酒を浴びりゃ酔えるしSをやればぶっ飛べる」

 

 S……その言葉を聞いてピンと来なかったが、そういえば覚せい剤の隠語として使われていたことを思い出す。

 

「相変わらず沸いてやがるなテメェは」

 

「沸いてるくらいが俺にとっては精神安定に良いんだよ。むしろお前みたいなやつの方が気が知れねぇ。なんでそんなに大人しくしていられる?」

 

 バーテンダーが注文の品を渡してくる。何となくで指さしたものだったがゲテモノではないので安心して口に通す。甘さと酸っぱさが鼻に抜けてくる。これは………ザクロか。

 

「………同類みたいに俺を見るな。俺はお前みてぇな狂犬じゃねぇんだよ」

 

「狂犬だけが狂ってるやつの形じゃねぇ。お前と長く関わってた上での感想として、お前は狂ってんだよ玖城。なのにヘラヘラ上っ面は平々凡々を気取ってやがるから余計にタチが悪い。内心では誰よりも」

「だが誰にも迷惑は掛けてなかったろ。お前の言う通り俺が狂ってるとして、それを表に出さねぇなら俺は人畜無害だろぉよ」

 

 俺の核心を突こうとする言葉を遮り再びカクテルを呷る。そして1、2分ほど会話のない空間が形成される。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ……………………………………そして

 

「南条のとこのオッサンが来てんだろ」

 

「ああ、もう会ったよ。南雲、テメェが南条とはもう繋がってないことはわかった。俺を狙ってきているだけだと言うことも解かったが、それでもやはり分からないことはある。」

 

 無論こうしてBARで共に呑んでいることも解せない話ではあるが。

 

「何故月高に転校生として来た?南条のコネがないお前がどうして桐条を母体とする月高へ入る事が出来たかが解らんし、理由も想像が着かん」

 

「理由なんざねぇさ、偶然入れるツテがあっただけだ、お前もよく知ってるツテだよ」

 

「…………」

 

 成程、みつ姉か………。

 

 南条お抱えの暗部家系、その武力の一端を自身の手元に置けるというのは確かに望ましい展開だろう。特にエルゴとの戦いを念頭に置いた現在は実に良い手と言える。

 だがやはり人選ミスと言わざるを得ないだろう。だがしかしこれに関しては誤算があったと言える。俺がペルソナに目覚めてなければ理想的なシナリオだったに違いない。

 

 まぁこいつが俺の有無の違いで扱いやすさが変わるとも思えんがな。

 

「………で?態々俺をこんなとこに連れ込んで、どんな本題をするつもりだ?」

 

 空になったグラスをカウンターに戻し南雲を横目で睨む。人の散歩を遮る程の理由は何か、俺と本気でぶつかりたいとでも言うのかと内心身構え

 

「…………ふ」

 

 同じくグラスをカウンターに置くその顔が不敵に笑い──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桐条への合流のタイミング逃したから仲介して☆」

 

 

 

「うーん、このおマヌケさんめ☆」

 

 

 

 

 転校初日に目的忘れて俺に喧嘩ふっかけるからこうなってんだよ馬鹿。

 

 

 

─────────────────────────────

 

 

 

「で、誕生日の祝いから逃げるためにふらっと外に出たら捨て犬を拾ってきたと。また随分なバースデーをすごしたものだな樹下」

 

 巌戸台寮。腕を組み椅子に座り混んで正座をしている俺を睨みつけてくるみつ姉、若干足が痺れてきた。隣で同じように正座をしている南雲は足の痺れを感じてすらいない、こういう時不感症が羨ましく感じてしまった。

 

「捨て犬……まぁ確かに南条のオッサンとは縁を切ってフラフラしてただけの俺だが、流石にその扱いはしんどいっすよ美鶴の姉御」

 

「黙れ。第一転校初日からいきなり行方不明になった上に樹下との私闘。本来なら然るべき刑罰も用意する所だぞ」

 

「サーセン……」

 

 俯き首を捻って苦笑いを浮かべる南雲、コイツなんやかんやみつ姉には逆らえたことないよな。

 

────────────────────────

 

「ほぉーん、アレが南雲李独なんやね。なんや明るそうで面白そうな男の子やね」

 

「あまり気を許してはダメですラビリスお姉ちゃん。彼は本当に危険です、玖城さんは彼のせいでガラス片による傷を受けたのですから」

 

 そのテレジアの言葉に苦笑いが零れる。その話はもう集音スピーカが破れそうなほど聞いた話だけど。あの子供みたいに笑う顔でそんなことをするというのがなんとも想像しにくい。けど確かに

 

「皆月翔の例もある訳やし……」

 

 余り外面だけで判断し切るのも油断に過ぎるのだろう。そんな風に考えてるとふと天田くんが口を開く。

 

「なんだろう、なんか南雲君ってなんとなく玖城に似てるような気が」

 

「あ、解る。確かに何となく雰囲気とか曖昧なものじゃないんだけど、なんとなく似てる気がする」

 

「似てませんよ。視力が低下してるんじゃないですかお二人共」

 

 天田くんと綾崎ちゃんにかなり辛辣な講義をするテレジアを宥めながら、残るもう一人の意見を求めて皆の視線が集まる。

 

「…………あー、輪郭じゃねぇか?顔の」

 

「「「あー……」」」

 

「ぜんっぜん似てません!!!」

 

 テレジアは否定しているが、私も久遠ちゃんの感想には大まかに共感できる。全体のシルエットや髪色、体格と違うところはいくつもあるが、顔の輪郭がなんとなく近しく思える。もしかしたら遠縁の親戚なのかもと思わせる要素としては充分だろう。

 

「でもさテレジア、ああやって正座して美鶴さんに怒られてる2人の後ろ姿はそっくりじゃない?」

 

「ぜんっぜん!!」

 

「意固地だねぇ」

 

 強い否定を繰り返すテレジアの反応が面白いのか綾崎ちゃんがニヤニヤしながらテレジアに抱きついている。しかし綾崎ちゃん

 

「怒られとる後ろ姿なんて誰のでも同じように見えへん?」

 

「それは言わないお約束よねぇ〜」

 

 樹下くんじゃないけど、今の綾崎ちゃんはうっざいと思う。

 

 

────────────────────────────

 

「やぁ姉御に怒られるのも随分久しぶりな気がするな」

 

 みつ姉の叱責から開放された俺達は特に合わせたわけでもなく屋上に居る、互いに向かい合いながら。

 

「テメェの奔放のせいで俺まで余分に怒られてんだから責任感じろ」

 

「馬の耳に念仏だな」

 

 自分で言うな自分で。……ったく

 

「おい」

 

 巫山戯た顔をしたままの南雲に鋭く声を掛ける。

 

「その内ポケットに入れてるものは捨てとけ、胸ポケットのものは見逃してやるがそっちはダメだ」

 

「…………」

 

 まさに内ポケットへ手を伸ばしていた行動を完全に静止させる言葉に、巫山戯ていた南雲も顔色が変わる。

 

「寮に入り、そして明日から月校にも通う。そんな生活を送るならSはもう捨てておけ。煙草くらいなら誤魔化せるが、それはバレたらアウトだ。みつ姉にも迷惑がかかる」

 

 しかし一度は止まった南雲の手はそのまま内ポケットへ伸ばされSを掴む。

 

「玖城、お前何か勘違いしてるようだがな。俺はあくまで桐条の仕事に参加するだけで、別にお前らの仲間とかになる訳じゃねぇ。

 だからお前の言うことなんぞ聞く必要も無いし、桐条のメンツなんぞ気にする義理はない」

 

 そう言って袋からSを直接咥内へ流し込む。

 

「まぁどうしても停めたいのなら、やり方が無いわけじゃないだろ?」

 

「……………」

 

 互いの視線が交錯する。特に何かをした訳では無い、しかし互いの間に走る緊張感から次第に額から汗が滲んでくる。

 

 やる気か、ここで?そんな疑問とは裏に俺達の動きは当たり前のように同じものを掴んでいる。懐の中の召喚器、入手の経緯はそれぞれ違うがそれでも同様の使用方法であるものを互いに手に携え睨み合う。

 

 あとはこれを頭に当て引鉄を引く。それだけで俺達の、ペルソナ使い同士の戦闘は実行できる。

 

「さぁ、踊ろうぜ玖城。俺は殺りたくて堪らねぇんだよ」

 

「…………」

 

 コイツの狙いはやはりそれしかない。桐条への賛同はあくまでそれを最もやりやすい場所に立つための口実だ。とすればやはりコイツは俺達の邪魔でしかない。であれば

 

 

 

 

───良いんだな?

 ならば良し、滓も残さず残さず掻き毟ってばらまいてやらァ!!────

 

 

 

「辞めだ」

 

 召喚器から手を離す。

 

「………っ!なん...だと……!?」

 

 こんだけ離れているというのにコイツの歯軋りの音がはっきりと聞こえてきて驚いた。そんなに腹立たしいか?

 

「ふざけ……っ!テメェ舐めてんのか玖城!!!」

 

「舐めてんのはテメェだろ。なんで俺の要求を聞きもしねぇテメェの要求を飲まなきゃならんのだ」

 

「っ……!!!」

 

 そう、世界とは交渉と図り合いだ。それはこいつ自身身に染みているのだろう。南雲という家はそういった契約や履行というものには随分うるさいらしい。

 それは目の前の南雲に於いてもそうだ。性格云々じゃなく、ある種遺伝子レベルに刷り込まれた習慣と言える。故に

 

「お前が譲歩しないなら俺も何かで応じるつもりは無い。俺はお前とはもう一切戦うつもりは無い、諦めるんだな」

 

「……っ!テメェ…………!」

 

 震えさえ起こして顔を歪める南雲から背き寮内への入口へ歩く。まぁ仕方ねぇわな、俺が一方的にこいつの望みを叶えるなんざアホすぎる。

 

 

「………〜〜っ!!!わぁったよ!!」

 

 そして俺の手が扉のノブに掛かった時に南雲が折れた。

 

「だがBARでも言ったが、コイツは俺にとってと精神安定剤だ。即座にゼロにすることは出来ねぇ。けど無闇矢鱈に場所場面問わずに摂取するのは控えるし、他で代用できるようにする。こ、これでいいだろ……!」

 

「………………」

 

 少し振り返り流し目で見つめ───肩を竦めて扉を開く。

 

「ッッッッ!!!!わぁってるよ!学校だってもうサボるつもりねぇから!!ちゃんとテメェらにも協力はしてやんよ!!!」

 

「……………ふっ」

 

 勝った。

 

「良いぜ、それで譲歩してやる。だが今ここではどの道やらない、明るいからな。そう遠くないうちに訓練で対人をやるだろうし、その時にとことんまでやってやるよ南雲君」

 

「っ!!くっそがァァァァァァ」

 

 そこで漸く口車に乗ってしまった間抜けを自覚し叫喚する馬鹿を放って寮内へと戻る。Sなんぞ俺と話してる途中で経口するから冷静に俯瞰できなくなるんだよバァカ。

 

 

──────────────────────────────

 

「ようこそベルベットルームへ」

 

 最早見慣れ始めた光景。青い床、青い壁、青い座席、車窓から覗く外は完全な黒一色なこの光景は今言われた通りベルベットルームと呼ばれる列車、その車輌内部だ。

 

 しかしいつもと違うことがある。

 

「珍しいな、イゴールじゃなくアンタが言うなんて」

 

 このベルベットルームの主であるイゴールの姿が無い。今まで何度か来ているがこんなことは初めてだ。

 

「申し訳ありません、主は今留守にしております。なんでも急を要する要件だとかで」

 

「まぁ仕方ないよなぁ」

 

 歳とってそうだし、顔もそれだけ広いということだろう。そこに対して俺がとやかく言えるような権利はないだろう。イゴールにはイゴールなりのコミュニティがあるということだろう。

 

「まぁこういうこともあっておかしくないだろ、偶々だろ」

 

「いえ」

 

 偶々と、そういった俺の言葉を真正面から否定するエルフリーデ。随分キッパリと否定されたので多少面食らってしまう。

 

「ここはベルベットルームです。お客様にとっては起こること、感じる事には全て意味が込められています。この内装に関してもそうです、この部屋は訪れる客人によってその姿を大きく変動させます。時にはエレベーター、またはリムジン、もしかすれば監獄や航空機、和座敷等で現れることもあるやもしれません」

 

 成程、同じ意味を持つものでも見るものによって多少の差異が生まれるってやつか。よく聞く謳いだが言いたいことは分かる。

 

「無意味な事が起こることは無いって事か」

 

「左様でございます。今日この時、私と貴方だけが邂逅したということ。これ自体に貴方様にとって必要不可欠な出来事だったということでしょう」

 

「そんなもんかなぁ……?」

 

「そんなもんです。しかしそれが今この瞬間に判明するかというのも不確かなもので、意味を成すのはまだ先のことになるかもしれません。しかし」

 

 一度言葉を区切り佇まいを正すエルフリーデ、その金色の瞳に俺の姿を移していると思うと不覚にもドキリとする。

 

「私はこの会話を楽しいと感じておりました。また機会がありましたら対話のお誘いをお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

 その瞬間、脳裏に淡い頭痛を伴い声が響く。

 

 

 我は汝、汝は我。

 汝、新たな絆を見出したり

 汝、『女教皇』ペルソナを生み出せし時、我ら更なる祝福を与えん

 

「ふふ、どうやら貴方にも何かしら意味を見い出せた御様子。その旅路の一助に慣れたというのであれば私としても幸いです。

 次に訪れた時、主もきっとお戻りになられていることでしょう。

 

 ではその時が来るまで、御機嫌よう。」

 

 

 

─────────────────────────────

 

───???・???????────

 

 闇の帳が落とされる世界、天に蘭々と煌めく巨大な満月はこの世ならざるものを演出している。

 その月の輪郭が揺らぎ、眼球を伝う涙のように流れ落ちる一滴の雫。それが何であるかを知るものは残念ながらまだ居ない。

 

 しかしその雫には明確な意思があった、そしてその意思はまだ見ぬ、まだ出会わぬ者に向けて慟哭する。

 

 

 

 誰か、お願い、誰でもいいから、この声が届いたのならお願い、私を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「消して」

 

 

────────────────────────────────

 




以前紹介せずのままだったあのペルソナを紹介しましょう

ペルソナ詳細
名前 ケイジ
アルカナ 道化師
覚醒者 南雲李独
概要
 安土桃山から江戸に渡り日ノ本に存在していた傾奇者の一人。長槍と見間違う程の長柄を持つ野太刀を足掛かりとし戦う姿は正しく道化師というアルカナに相応しい姿だろう。
 原典であろう傾奇者の持つ獲物は槍、又は二又矛と言われている。

能力
 単純な出力に於いてはメサイア・影神と同等と評価されており、使用する属性は雷と衝撃。野太刀を振るうではなく足場とし空中戦かの様な曲芸的スタイルから繰り出される攻撃は変幻自在であり予測困難なものとなっている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。