PERSONA EPISODE of SHADOW WORKER   作:漆竜 黒鍵 

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「ガルルルルルルルルルルル」

「……………」
「……………」

 教室の窓枠、ベランダとの境であるそこに乗り威嚇する雨瀬。そしてそれを宥めることも出来ずに呆然とする倉橋くんと緒方さん、完全に我関せずで机に突っ伏す久遠、理解不能で立ち尽くすだけのテレジア。

 そして

「去レ!ハイテク等去レ!!裏切リ者メ!!!」

 威嚇され続ける俺、玖城樹下。どうしてこうなった……。

────────────────────

 数分前。

「おはよう」

 5月12日、月曜日という一週間の最初の日は毎度の事ながら綾崎がごねる。気持ちが分からんでもないがもし仮にそれでサボればみつ姉に何を言われるか解らない。
 そんな巌戸台での日課も過ぎ俺と久遠、そしてテレジアは教室の中へ入る。

「おはよう玖城くん、それに久遠さんとテレジアさんも」

 それに気がついた緒方さんが挨拶を返すが久遠は相変わらずスルーする、無礼な奴。

「あはは……またスルーされちった」

「ああいう性格だし仕方ねぇよ」

「俺もよく無視されるんだよなぁ。あ、おはよう玖城くん」

 倉橋くんも合流すれば、まぁいつも通りクラスでの雑談でホームルームまで時間を潰す。これが学校での朝の日常……あ。

「そうだ倉橋くん、緒方さん。俺ケータイ変えてさ、メッセージアプリ使えるようになったからID交換」「おっはよぉ!みんな、アアアアアアアアアアアアアスマホォオオオオオオオオ!!!」

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「回想終わり」

 御苦労、然し余計なお世話だ馬鹿野郎。何故か頼んでもいないのに回想をお送りしてきた我関せずの久遠へガンを飛ばす。
 余計な茶々を入れて状況を可笑しくすんな。

 然し確かに雨瀬はまだガラケーであり、俺もつい先日までそうだった。ある種仲間意識を持っていた相手がいきなりハイテクなスマホになって野生化………よし、なんだこの訳分からん状況、言語化しても理解出来ねぇ!

「貴様等ハイテクヲ私ハ許容シナイ!!私一人置イテ行クノカ裏切リ者!!」

「ならお前もスマホにすりゃァいいだろうが」

「何選ベバイイカ解ラナイ!!!」

「めんどくせぇだけだろ……」

「YES」

「もう黙れよお前」

 キャラくらい統一してからボケろ馬鹿アホ。


─────────────────────────────

「でもいいなぁ。玖城もついにスマホデビューなんて」

「デビューって言っても前のが壊れちまったんだから仕方ねぇだろ」

 先程の喧騒は何処へやら、落ち着いた雨瀬を交えて朝の雑談に興じる。

「というか壊れたって言うけど、なにかしたのかい?」

 倉橋くんの疑問もご最も、しかし流石にシャドウだの影時間だのは一般人である彼らに語れる内容じゃない。

「………階段で躓いて前のめりに倒れたら胸ポケットの携帯がバリバリに割れたんだよ……」

「うっわぁ悲惨だ」

 尚割と嘘というわけではない、マジで階段から落ちて割ったわけだし。

「でもいいなぁ。あーくそう、高校上がるタイミングでガラケー間で機種変更しちゃったからすぐに変えれないし」

「っても2年くらい我慢すりゃ良いんだし、頑張れよ」

「ぅぅー……孤独だよォ」

「大袈裟だなぁ……」

 緒方さんが猫を撫でるように雨瀬の頭を撫でて慰めている。なんだろう……別に悪いことしてないのに悪いことした気分になってきた、理不尽だ…………











「まぁ、嫌な気分じゃないからいいか」

 窓から見える青空に目を向ける。いつかなんの含みもなく、この日常を味わえる日が来ることを祈って








滅びの塔 ACT I

 

 時は流れ6月に突入、5月の喧騒多々あれど無事新たな月を迎えたことは喜ぶべきことなのだろう。

 

「日本じゃなければな」

 

 2014年6月1日、日曜日の朝である今日は梅雨前線が本格化しており湿度が急激に上昇している。

そしてなんで俺が若干憂鬱かと言われれば姿見鏡に映る自身の姿、特に頭髪部にある。

 

「毛量が多いとこれだから……」

 

 湿気を過剰に吸い込んだ頭髪は普段の季節以上に暴発、多分毛の中でメサイア・影神が暴れたんじゃないかな……なんて。

 

 

  はぁ……………。

 

───────────────────────────

 

「うーっす……」

 

「あ、おはよ玖城……ってうわ、こっちにも怪人毛玉爆裂」

 

「はぁ?」

 

 ロビーに降りて来た矢先、綾崎のそんな発言に眉根が寄る。なんだよいきなりと言おうとするが、嗚呼なるほどな。

 

「すげぇ髪だな南雲、それに久遠も」

 

「どんな髪型であっても似合っちまう俺って本当に良い男だろ?」

 

「黙れ男衆、クソが全くまとまらん…!」

 

 髪の爆発さえ楽しんでいる南雲に、普段通りの髪型へ整えきれないこと怒髪天を衝く久遠。この二人も俺同様に毛量が多いからなぁ……久遠には同情しつつカウンター側の椅子に腰を掛ける。

 

「おはようございます玖城さん」

 

 カップか置かれる音と共にテレジアの声が耳に入る。どうやら緑茶を淹れてくれたらしい。

 

「お、ありがとうよテレジア。──っぶふ!?」

 

 頂いて口に含んでから声の主を見るとそこにいるのは頭部の内部部品が丸出し状態で手を拭いているテレジア。

 

「か、かかかか髪ぃぃ!?!?」

 

「テレジアァァァァァァ!!!」

 

 ドカドカと領内に響く大声で叫びながらラビリスも降りてくる。長い髪を持つ彼女も相当湿気を吸い乱れた髪型になっているがそんな事などどうでも良いとばかりに手に持っていた赤い髪の着いたヘッドパーツをテレジアに投げ付ける。

 

「アンタ何ヘッドパーツ外してんの!!皆の心臓に悪いからやめぇ!!!」

 

「蒸れそうで乾燥剤と一緒にしないとカビが生える気がして」

「メンテナンス受けてんのやから生えるかぁ!!!!!」

 

 ………………今日も平和だなぁ……

 

 

 

────────────────────────

 

「妙だな」

 

 桐条本社会議室。そこでグループ傘下の企業の資料を眺めていればそんな事を明彦が呟く。

 

「あれ程大々的に影時間を発生させて以降、奴らの動きが全くと言っていいほどにない。タルタロスへの侵入でもするかとも思ったが、それさえも確認出来ていない……どうなっている」

 

「どうもこうもない、連中も連中で何かしらの準備段階ということだろうさ」

 

 とは言ったものの、私とて気にならない訳ではない。欠けない満月、再び現れた滅びの塔、そして1から12までのアルカナを司るシャドウ。これ程の条件が揃った現状、奴らの目的がニュクスにあることは明白だろう。

 

 だが

 

「奴らの動きがない以上、私達には何かをすることも出来ない。でしょ?みっちゃん」

 

 思案の中、会議室の扉を叩きながら真千琉が入室してくる。

 私の思考を理解し纏める。彼女のそういった部分を見ると5年前のあの戦いで隣に彼女が立ってくれていたら、どれ程心強かったかと思いを馳せてしまいそうになる。

 

「然し口惜しいのも事実だ。こうも後手に周りっぱなしというのも性にあわん」

 

「だけどね真田、私達にやれることって何があるのさ?」

 

 真千琉の問い掛けに対して明彦の口角が上がるのを見る。真千琉も私の考えは察することが出来ても明彦の迄は管轄外なのだろう、その表情に若干の煩わしさを滲ませているのがよく分かる。

 

 しかしそうか

 

「我々でタルタロスの探索をするのも手か」

 

 明彦の満足そうな顔と真千琉の怪訝そうな顔を共に受け止めながら、かつての自分達とリンクする行動を口にする。

 

「流石は美鶴、俺の考え方をよく知っているな」

 

「いやいやいや探索するって、シャドウワーカーにそんな戦力ないでしょうが。影時間には協力関係にある警視庁も使いもの………当てにならないんだからそんな余裕……ってまさか」

 

 そこまで言って察したのだろう、真千琉の目付きが鋭くなって此方を咎める。私とて不本意ではあるが

 

「私だって本当はやらせたくないが、お前が言ったように我々には余剰な戦力はない。だから彼ら子供達にやってもらうしかないだろう。

だが勿論彼らだけに任せる訳じゃない、引率及び監督としてお前と山岸にも同行してもらう。

 

 それにタルタロス内部での経験は彼らの力になる、必ずな。それは彼ら自身に自らを守る為の力を備えさせることにも繋がるだろうから」

 

「………はぁ……いや、なんだろうね。やっぱみっちゃんと玖城くんって血縁関係なんだなって思うよ。

 妙なとこで口が回って言いくるめてくるところとかさ」

 

 睨むと言うよりも呆れたというような目で此方を見る真千琉。視線が痛いとはこういうことを言うんだな、覚えておこう。

 

「俺も行けるぞ?」

 

「明彦はタルタロス内部ではなく外周で警戒をして欲しい。場合によっては此方の動きに合わせて奴らが動く可能性もある。そして」

 

 一度言葉を区切り目を閉じる。最後に手に武器を持ったのは確か2年前の八十稲羽での一件だったか。随分ブランクはあるが

 

「私もその場に赴くつもりだ。何、足を引っ張ることは無いだろう。それに最近はデスクワークばかりだ、憂さ晴らしに奴らにも付き合ってもらうさ」

 

 

 

───────────────────────────

 

 朝の毛髪のあれやこれやも時間が経てば落ちが付く。喉元過ぎればということわざがあるが、こういう場面にも該当するのだろう。

 

「そろそろじゃねぇか?」

 

 ロビーで屯している全員に聞こえるように口を開く。そもそも日曜の朝一から態々起きているのはたまたま目が覚めたからという訳では無い。

 

「確かに、天田君が栂和先輩を連れてくる時間かな」

 

 そう、今日は栂和さんがこの寮に入寮する日だ。その出迎え及び荷物の運搬手伝いとして皆(特に男衆)で待機していたというわけだ。南雲は知らぬ存ぜぬで外出しようとしていたが天田がどうにか引き留めてくれた。

 まぁ栂和さんには恩を売れるだけ売って損は無いからな。

 

「ほな、綾崎ちゃんそろそろ」

「そうだね」

 

 椅子から立ち上がり厨房へと入っていくラビリスと綾崎。どうやら客人用にと茶や菓子を用意するらしい。俺や南雲、久遠の毛玉爆裂組とテレジアはさりげなく力仕事に着くことになった。ラビリスが一番腕力があるのにやらないのには少し不満を覚える。というか綾崎ー、テレジアも連れてけー、こいつと南雲が揃うと本当に雰囲気最悪になるから連れてけー

 

「つか菓子って何かあったっけか?」

 

「さぁ?俺見られても知らねぇよ」

 

 それもそうか。この南雲もなんやかんや先月の上旬末に入寮した側で、更にいえば厨房に立ち入るような性格ではない。ならと久遠に目を向けるが肩を竦め首を振る。割と厨房に立入る機会が多いコイツでも心当たりは無いようだ。

 

「手作りという線は無いのですか?」「それはない」

 

 俺の即答に南雲も久遠もテレジアも、三者共に驚いた風に目を向けてくる。こればかりはないと断言出来る。

 

「ラビリスは知らんが、綾崎は全く料理出来ねぇから」

 

 あんなに不味い食い物は未だかつて食ったことは無い。拒食症という状態を抜きにしてもあれは吐く。

 

「いやいや玖城ちゃーん、女子も3日会わざるなら結構変化するもんだぜ?料理出来るようになってるかもしんないじゃんよ?」

 

「お前みたいな不感症は女の胸が3カップ増幅するくらいの変化しねぇと反応しねぇだろ」

 

「ふ、舐めるなよ。それでもピクリとも勃たねぇ」

 

「インポ拗らせてんねぇ〜」

 

「下衆が」

 

 俺と南雲の戯れに対して久遠が冷たい言葉をツァリってくる。テレジアでさえ若干目が冷たい。痛い、目線ってこんなに痛いんだな。

 

 なんやらかんやらと思案していると寮の入口が開かれる。どうやら主役がいらっしゃったらしい。

 

「どうぞ栂和先輩。ただいまみんな」

 

 扉を開けた天田とその後ろに続く中等部時代からそこそこに世話になった人物の顔を確認する。

 

「ようこそ先輩、巌戸台分寮へ」

 

 これ俺が言っていいセリフだろうか?そんな視線を今の今まで一鳴きもしていない我らが寮のマスコット、コロマルへ向ける。

 

「クァ……ワフ……」

 

 どうやら良いらしい。

 

 

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「いや助かったよ。思ったより大荷物になっちゃってさ、サンキューな」

 

 笑いながら手伝いを行った俺達に親指を立てて笑いかけてくる栂和さん。こんな表情でも何故か含みがあるように見えるのだから、この人は見た目で損をしていると思う。あの南雲でも若干腰が引けているように見えるのだから見た目の胡散臭さは本当に高い。

 

「というか、ホントに荷物多いな…何持ってきたんすかアンタ」

 

 栂和さんの持ってきたダンボールを足でつつきながら久遠が尋ねる。あまり人様の荷物を足蹴にするのはどうかと思うが、こういう無礼な態度も久遠のらしさと言うべきものだろう。事実こんなことをしているが、運搬に関してはかなり丁寧に行っていた。

 

「学園から色々と頼まれ事もあるからね。それに合わせて生徒会関連の書類とかあるから比例して多くなっちゃって困ったもんだよ。あ、南雲少年、その荷物そっちに置いといておくれ」

 

「うっす」

 

 すげぇ、あの南雲を普通に従わせてる。いやよく思い出せばこいつ俺以外の頼み事は割と聞いてたな。

 

「つかつか栂和さんよぉ?やっぱアンタも男ならよ?エロ本の1冊や2冊くらい持ってきてねぇの?」

 

 こいつまじか。さっきのテレジアと久遠の冷やかな視線を受けた後にまだそんな事聞ける勇気があるのか……あ、こいつ不感症だからそもそも気にしてねぇんだ。

 

「南雲少年、今どき紙媒体で所持しているのは時代遅れだぜ?やっぱ今なら電子よ電子」

 

 そういうとダンボールからタブレット端末を取りだして軽く画面を叩く栂和さん、アンタもそっち側なんだな。

 

「oh、デカルチャー……、俺アンタを尊敬できるわ、兄貴と呼ばせてくれ」

 

「よせやい、ダチでいいじゃねぇか南雲少年」

 

 なんかよくわからないノリを展開する南雲と栂和さん。何やってんだコイツら。

 とりあえずバカ二人を放置して荷解きを継続することにする俺とテレジア、久遠と天田。しかし本当に書類やら機械やらが多いな、これでもかなり選別したものだという話だが……全量の想像はしたくない。

 

「あ……栂和さん、ドライバーとか荷物の中にありますか?」

 

「え?あ、工具とか持ってくるの忘れてたな」

 

 天田が開いたダンボールの中にバラされた棚が入っていたらしい。確かにこの量の書類を収納するには組み立てなければいけないが、そうか無いのか。

 

「ドライバー…確か厨房にあったな、俺取ってくるわ。」

「なら私も降りるわ。水分欲しいし」

 

 俺が立つと同時に腰を上げる久遠。比較的厨房内に明るい組だ、捜し物にはそう手間取らずに戻れるだろう。

 

「……サボるなよ?」

 

「サボらねぇよ、はよ工具持ってこい」

 

 部屋から出る際に南雲を睨む。まぁあの調子ならサボることは無いだろう、なんやかんやアイツは1度始めたら終わるまでやり続けるタイプだしな。

 

 

───────────────────────────

 

「なんか印象変わっちまうな」

 

 階段を降りていると久遠が口を開く。まぁ確かにそうだろうな。

 

「天田も言ってたと思うが、見た目はともかく中身は割と真っ直ぐなんだよなあの人。だからまぁ生徒会に入れてるんだろうし、あの人を慕う人は結構多いんだよな。」

 

「お前とはえらい違いだな」

「るっせぇ…」

 

 言われるまでもなく。俺とあの人は全くの別人種だと思う。しかしそんな相手とでもあの人は何かと関わるし、俺もあの人を疎ましく思うことは少ない。自然と人を惹き付けてるという意味ではあの人のカリスマは相当なものだろう。

 

「時期生徒会長は確実だろうな」

 

「むしろ今の月高にあの人以上に適任者が居ないだろうしな」

 

 実際今の生徒会長よりも人気は高いだろう。ただそこは高校2年生、3年生を建てるという意味でも副会長に落ち着いたという話らしい。

 

「ところでよ玖城」

 

「あん?」

 

 言葉に宿る雰囲気が妙に重苦しくなった気がしたので脚を止めて振り返る。久遠の目、何やら不安を覚えているようにも見える。

 

「なんだよ?」

 

「私らホントにこんな和やかに会話なんてしてていいのか?」

 

 その言葉に軽口の1つでもと考えていた俺は出鼻を挫かれる。こいつの不安は決して軽口で流せる問題では無い、俺達全員に齎されている共通の不安だ。

 

「こんな事してる間にもシャドウ共やエルゴの奴らが何かをするかもしれない。本当は私達はもっと力を」「久遠」

 

 ペラペラとらしくない弱音地味だ言葉を吐き出す久遠を遮る。言葉を噤む彼女に対して俺に何かを言えるだろうか?最もその不安に煽られ、挙句暴走までカマしてしまったことのある俺にそんな権利があるのだろうか?

 誰よりも力を使う事に心血を注がなければいけないはずの俺が、俺より才能があるであろうコイツに何かを言う様な役を担っていいのか?

 

 自分が何を言うべきか分からない、だが少なくともコイツにこんな弱気は似合うはずもないだろう。

 

「確かにその気持ちが分からない訳じゃないが。今みつ姉……総帥含むシャドウワーカーの主要陣が方針を固めるのを待つしかない。ガキだからな俺達は、だから今は我慢するしかない。不安に潰れないようにな。あと」

 

 さて、こういう時良い男なら気の利いた慰めのひとつでも掛けてやるべきなんだろうが、俺のキャラじゃ無理だろう。

 

 骨折れないといいなぁ……

 

「階段の途中で振り向かされたらパンツ見え」「死ね」

「階段途中でドロップキック繰り出す馬鹿があるかァ!?」

 

 慈悲の微塵もない久遠の強襲、避けるという選択肢を選べずに喰らう。下手に避けてこいつに怪我されるのも後味悪いが

 

 こいつにこの手の冗談を言うのは辞めよう。下手したらマジで死ぬ。

 

 

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 いってぇ……。久遠からの強烈なシバキを頂き階段下迄転がり落ちる。以前神社前の石階段から落ちた時より痛みはマシだが、痛いものは痛い。

 

「おら立てや玖城、さっさと目的のものを探すぞ」

 

 結果はどうであれ、久遠の弱気は紛れたらしい。ならまぁ痛みにも多少の意味はあったかな。

 ついでに久遠のパンツは実際は見えなかった。その一点だけは少し残念に感じる俺がいる、まぁ男だからな俺も。

 

 実際見えていたからと言って多分何も感じないとは思うが。ホント何も感じないんだからね、勘違いすんなぶっ飛ばすぞ。

 

 ……あ?

 

「焦げ臭ぇ?」

 

「おい…あれ」

 

 久遠が指さす方向を見れば厨房からなにやら発光している。つかなんか黒い煙……って

 

「燃えてんじゃねぇか!!」

 

「ちっ!一体何が」

 

 即座に立ち上がり俺と久遠が厨房へと突入する。そこには

 

「ほぉあーーーーーーーーー!!!!」

「ファーーーーーーーーーイヤァアーーー!!」

 

 フライパンから炎の柱をおったてる綾崎とラビリスの姿があった。

 

 

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「すんませんでした」

「反省してます」

 

 白桃色の粉に塗れた厨房。パニックになっていた綾崎とラビリスを目にして逆に冷静になった俺と久遠による消化器を使った消火活動により火災になる前に鎮火に成功したものの。

 

「何をどうしたらあんな火柱をフライパンで作れるんだよ…」

 

「いやさ、…前に漫画で読んだフライパンの中にお酒?を入れて火をつける奴…」

 

「フランベか」

 

「そう、それ。やってみたいなってラビリスと盛り上がっちゃって…」

 

「丁度冷蔵庫の中に真千琉さんの入れとったお酒があったからやってみようとしたら……はい」

 

「馬鹿すぎる…」

 

 最早怒りさえ置き去りにした虚脱感に俺も久遠も頭を抑えて嘆く。綾崎はアホだアホだと思っていたが、まさかこんなことをするとは。そしてラビリスも抜けてる部分があるとは思ってたが、こうなるとは………はぁ…。

 

「いや…そうだな。お菓子の用意をしようとした時点で手作りを無謀にもやろうとしている可能性を無いと決め付けた俺が悪いな。ごめんな」

 

「いや謝んないでよ!?悪いの私らじゃん!?」

 

「きついきつい!怒られるより心が痛いわそれ!?」

 

 とりあえずこの惨状を処理しねぇとな。

 

「もういいから、とりあえず箒とちりとりで粉を回収して袋に纏めといてくれ…キッチン周りは後で俺が掃除しとくから」

 

「うっす…」「はい…」

 

 最早完全に意気消沈してしまった二人に指示を出しながらとりあえず棚の引き出しを開けてドライバーを出す。

 

「久遠…スマンが俺ここの処理するから工具と飲み物両方頼んでいいか?」

 

「あぁ…大変だな」

 

「気は紛れるから良いよ…」

 

 退屈をしないという点では悪くないと思う。少なくともこうして忙しくしていれば拒食症による満たせない空腹感からは目を背けれる。

 

 

─────────────────────────

 

「アッハッハッハッハッ!!つまり俺は入寮1時間経たずに火事に巻き込まれかけたわけか!!アッハッハッハッハッ!!」

 

「いやそれ笑い事じゃないじゃんか…」

 

 大笑いする栂和さんと戦々恐々といった表情の天田。そらそうだ、俺達が偶然下に降りてなければまじで火事になっていたところだったのだ。

 

「いや下手だとは聞いてたけどそんなにとはなぁ…やるなぁ」

 

 南雲は実に面白い玩具を見つけたかのような笑いを浮かべている。やはり不感症のコイツは死が割と目の前に来ていたこの状況でも楽しめているらしい。

 

「という事は厨房は暫く使えないのですか?」

 

「粉は粗方除去したが、電気物は業者呼んで点検してもらうまで使用は控えた方がいいだろうな」

 

 今どき電気使ってねぇキッチン周りのもなんてねぇから軒並みアウトだが

 

「ほんとごめんなさい」

「申し訳ありません」

 

 原因となった二人はずっと土下座をしたまま。流石に2人の頭頂部も見飽きてきたので何か機転となる出来事を求めているのが今だ。

 

「まぁ最悪焼かないとダメなものは前みたいに屋上とかで焼き物をしたら何とかなるから」

 

 苦笑いが最早引き剥がせなくなっている天田のフォローがむしろ二人のメンタルをズタズタと引き裂いているようにも見える。人は時に優しくされるより厳しく糾される方が救いになるらしい。

 

「おはよう皆の衆…って何この雰囲気と焦げ臭い匂い?」

 

 と、俺達の現状に対して新たな一石を投じることが出来るか。マダオ…じゃねぇや真千琉さんが来た。

 

──────────────────────────────

 

「なーほーね。まぁこればかりは二人の不注意ってことだからちゃんと叱らせてもらうけど、先ずは大事なくて良かった良かった」

 

 ロビーのテーブルに広がる菓子を全員で食べながら先程の騒動の報告を行っている。寮母であるこの人は一応何が起きたのかを知っておく義務と対策の責任というものがあるらしい。

 

「栂和くんも入寮初日から大変なことに巻き込まれかけちゃったねぇ」

 

「けど退屈しないことが確定したのは俺としては大きいですよ。あ、玖城そこのあたりめ取って」

 

「うぃ」

 

 とりあえずは数日の間に業者を呼ぶという方向で話が纏まったので一先ずは皆で適当に腹を満たす目的で菓子や飲み物を囲うことのなった。なお俺はさっきから飲み物しか飲んでいないが、腹が減ってないと言う事で納得させた。

 

「そうだ、栂和くんの入寮やらボヤ騒ぎの直後で色々慌しい中だけど、今日の夜の予定は皆空けておいて欲しい。これみっちゃんからの伝言ね」

 

 最後の付け加えで要件がシャドウワーカー絡みだということが分かる。いよいよ動き出す時が来たということだろう。しかし

 

「そういう連絡ってなんかいつもは美鶴さんがしてるイメージがあるんやけど、今日は真千琉さんなんやね」

 

「みっちゃんはみっちゃんで色々準備があるらしくてさ。まぁ夜に真田や風花ちゃんも合流するから、詳細はその時にってことで」

 

 真田さんはともかく、山岸さん迄来るということはかなり大掛かりなことをやるということだろう。訓練ではない実戦、以前の広範囲の影時間以降なかなか機会がなかった緊張感に自然と場の空気が張り詰めていくのを感じた。

 

 

 

──────────────────────────────

 

 夜。0時まであと10分程度となった現在、俺達は月高の校門前で待機している。明日が月曜日であるので本来なら寝ていたい時間ではあるが、この時間でないとダメな理由が幾つかあるらしい。

 

「明るい内とかに影時間をやると象徴化しちゃう一般人の人数が増えて後々大変なことになっちゃうから」

 

 真千琉さんの説明は確かにらしいものだと思う。そして

 

「0時に影時間を発生させることで以前のような広範囲かつ長時間の影時間が発生することも判明した。しかしあれ以前でも何度か0時に起動させてもあんな事は起きたことがなかったんだがな」

 

 悩む真田さん。0時にピンポイントで起動させていたことも何度かあった。俺が覚醒した日も確か0時での発生だったはずだ。そして

 

「タルタロスはその0時の影時間の間だけ確認されている」

 

 そういいながらみつ姉が装置を起動。影時間が夜の中に更なる帳を降ろせば揺れ始める世界。月高が軋みをあげ変貌し、やがてあの日に見たあの塔が、タルタロスが出現する。

 

「やはり何度観ても慣れないな、俺らの学校がこんな形になるのは」

 

 栂和さんの呟きに全員が心の中で頷いているだろう。俺だってそうだ、何をどうしたらこんな異常事態が発生するのかがまるで理解できない。

 滅びの塔と呼びれていたな。頂上まではかなりの階層が重なっているのだろう。

 

「今日からお前達にはこのタルタロスの探索に出てもらう。中では外以上にシャドウが闊歩している筈だ」

 

「そんな中に私らだけで進むんですか?」

 

 みつ姉の指示に対して当たり前の疑問を綾崎がぶつける。

 

「我々も参加したい気持ちはあるが、残念ながら探索に合わせてエルゴが動く可能性もある。それに対する戦力として今回は私と明彦、そしてラビリスに参加してもらうことにしている」

 

「ワンッ!」

 

「ふ、わかっている。コロマルも我々と共にタルタロス周辺の巡回に当たる。そして内部では君達に加え天田、そして真千琉の2人が共に着く。二人とも君達よりも対シャドウの経験が大きい、いざと言う時に頼れる存在になるだろう。

 またサポートとして山岸にも内部でのナビゲーターを任せている。それで内部で迷うということもないだろう。」

 

 淡々と説明を続けていくみつ姉。しかし内容としては俺たちに無茶させないようにしてるように見せ掛けて無茶は大いに強いている、無謀じゃないだけだ。だがそうしなければならない程に切迫しているというのは俺達も理解しているので文句は無い。

 

 タルタロス探索、それが今この時より開始される。今迄よりも更に死と隣り合わせとなる。用心して進もう。

 

 

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 タルタロス・1F

 

『敵シャドウ3体!前後からの同時に来てる、気をつけて!』

 

「心配ご無用!来てオグニイェナ、マハラギオン!!」

 

 タルタロスへと突入した俺達は早速シャドウによる強襲に見舞われる。それにいち早く対応を見せたのは綾崎であり、迫っていたシャドウに対し牽制としての広範囲の炎上を実行する。そして

 

「いい炎だ、行くぞクラマテング」

 

 その炎に呼応するかのように久遠のクラマテングが起動。迸る力の奔流がマハラギオンへ及べば掌握したのか炎はうねり、対峙していたシャドウを捉え焼き尽くす。

 

「え、なにあれ?」

 

 キョトン顔の天田の疑問もご最もだろう。俺もよくは分からないが

 

「多分重力操作の応用じゃねぇか?」

 

 確かクラマテングには重力属性のスキルが備わっていた筈だ。ならあれもそれをあれやこれやとしたのかもしれない。

 

『そうだね、多分その認識で合ってると思うよ。すごく器用な使い方、久遠ちゃん凄いなぁ』

 

 山岸さんの通信を聞いてどうやら正解を当てたらしい事に少し気が良くなる。いかんいかん、集中集中

 

「南雲ォ!」

 

「アン?」

 

 俺の呼び掛けに反応し振り向く南雲。その動きによってそれた頭部の真横を駆け抜ける一閃。

 

「……礼は言わねぇぞ?」

 

「要らん、言われてもキモイわ」

 

 その奇襲を仕掛けてきたシャドウを俺と南雲、二人の眼光が射抜く。だがお前を駆逐するのは俺達じゃねぇ。南雲と互いに異なる方向へと逸れればその狭間を駆け抜ける質量が一つ。

 

「さぁ勝負しようかァ!ペルソナ、オオクニヌシ!!」

 

 目標を定め駆動する戦斧を携えたペルソナ、オオクニヌシとその召喚者である栂和さんがシャドウへ向けその武を叩きつける。

 オオクニヌシの持つ戦斧と栂和さんの持つ投擲槍が共に襲えば為す術なく消滅する。

 

「仇は撃ったぞ南雲君」

 

「や、俺死んでない」

 

 然し凄まじい攻撃力だ。単純な膂力なら俺のメサイア・影神にも比肩するだろう。そういう点で以前対峙した真千琉さんのリョウメンスクナと同種の物理的なアタッカー気質のあるペルソナなのだろう。

 

 しかし

 

「数が多い、内部がシャドウの巣窟だってのは聞いてたがここまで多いのは予想外だな」

 

「5年前の時よりも多く感じる。やっぱりあの時のタルタロスとは違うのかも」

 

 天田の返しからして予想以上な状況ということだろう。今はまだシャドウ自体強さは控えめだがまだ1階、登ればより強いシャドウが増えると想定できるなら

 

「初回である今回は上層へ行かず、身体を慣らすことを目的とした方がいいかもしれないな」

 

『そうだね、私もそうした方がいいと思う。ふふ』

 

 通信越しの山岸さんの笑い声に首を傾げる。

 

『あ、ごめんね。でも玖城くんの落ち着いて考える様子がなんだか美鶴さんに似てるなぁって』

 

 その言葉に少し気恥しさを覚えて頭を搔く。みつ姉に似てると言われて気分は悪くないが、今言われても困る。

 

 照れ隠しという訳では無いが、その時俺の背後から迫っていたシャドウを振り向きながらガンブレードで叩き切り平静を装うことにしよう。

 

 

────────────────────────

 

 タルタロス外周部

 

「静かだな」

 

 内部探索組が突入してから半刻、外で待機していることに退屈さを感じ始めた。

 

「エルゴノミクス共が何か仕掛けてくるかもと踏んでいたんだが、拍子抜けだな」

 

「まぁいいじゃないか明彦。招かれざる客は来ないに越したことはない」

 

 そう言う美鶴だが、こいつ自身手持ち無沙汰であることを不満に感じているのか妙に落ち着きがないように見える。

 

「気になるのか?中が」

 

「……まぁな」

 

 無理もないだろう。5年前の探索の記憶があるのなら心配にもなるだろうし、中に突入している中に玖城がいるのなら尚更だろう。

 

「信じてやれ、従弟を心配する気持ちは分かるが余り過剰過ぎるのは疎まれるぞ?」

 

………返事は無い。心当たりがあるのかもしれない、そっとしておこう。

 

 目を別に向ける。影時間の中で見るものは空に浮かぶ月か象徴化した街の人々、そして今現在自分達と行動を共にしているもの達だけ、そうなれば自然と俺の目はラビリスとコロマルへと向けられようとした時

 

「明彦、吊り橋効果という言葉を知っているか?」

 

 何を言っているんだろうコイツは

 

「綾崎は言葉を選ばずに言うなら馬鹿だ、努力の方向性を見失っている。しかし持ち前の気の明るさは彼女の魅力だろう」

 

 なんだいきなり

 

「真千琉は私と同じとして樹下とは年の差がある。だらし無い面が多々見られるが面倒見が良く責任感がしっかりしている」

 

「おい美鶴」

 

「そして真千琉の妹である冬祈。口や態度が粗暴で悪印象しかない、樹下とも余り良好な仲では無いことは見ていてわかるが、どうも相性自体はかなりいい部類、おそらく最も好感度としては」

 

「美鶴、シャドウワーカーはお見合い会場じゃないぞ」

 

「………………」

 

 溺愛、過保護もここまで拗らせられるものなのかと心配になる。吊り橋効果でもしという馬鹿らしい想像をこいつから漏らされる日が来るとは、本当に人生とは先が分からないものだ。

 

「吊り橋効果……そういうのもあるのか。ウチも今からでも中に」

 シャドウワーカーはお見合い会場じゃないぞお前ら

 

──────────────────────────────

 

 タルタロス内部

 

「えっくし!」

 

 前触れがなく疼く鼻に思わずくしゃみが飛び出す。

 

「如何しました玖城さん、風邪ですか?」

 

 テレジアの問いかけに肩を竦めて首を振る。

 

「誰かが俺への悪口でも言ってんのかねぇ?」

 

「そういうのって普通噂とかで濁すものじゃないっけ?」

 

 天田のその言葉にこの会話前にもした気がしてくる。まぁとりあえず

 

「コイツでぇ!ラストォ!!」

 

 南雲が自身の得物である鎖で繋げられた双剣、その鎖部分でシャドウを縊り殺せば確かに、この階層で活動するシャドウの気配はゼロになった。

 

「なんか思ってたより強くなくて拍子抜けかな」

 

 綾崎の言葉に全員が同意する。数こそ多かったもののこれならばエルゴの黒服を相手する方が余程手強いだろう。現に俺や南雲、真千琉さんに天田、テレジアはペルソナすら出さずに五体満足だ。

 

「この調子なら案外2階に登ってみても余裕かもしれないな」

 

 栂和さんのその言葉に待てを掛けたのは真千琉さんだ。

 

「あまり調子に乗らないの。今は私達の方が強かっただけ、強いシャドウは本当に強いんだから。命は大事なんだよ?」

 

「や、わかってますよ久遠さん」

 

 

「………?」

 

 若干物怖じしている栂和さんを横目に俺はもう一度周囲を確認する。気のせいか?今何か聞こえた気が

 

『……これは!?』

 

 山岸さんの悲鳴にも似た声とその異音が響いたのは同時だった。金属音、南雲の武器に付いている鎖と同質、否それよりもより重く、そして多い。

 冷や汗が吹き出してくる。そのとてつもない威圧感に他の連中も気がついたのだろう。全員が息を飲み

 

『この反応……死神タイプ!?皆逃げ────「おっ、ぉぉおおおおおお!?」

 

 山岸さんの悲鳴を遮り轟く銃声、その轟音に追随して響く南雲の絶叫。然しそこに南雲の姿は既になく、遥か遠方まで吹き飛ばされ壁に激突していた。

 

「南雲っ!?くっ、ぐぉああ!!!」

 

 叫ぶ栂和さんだが動き出すよりも先に自身に迫った凶弾への対処を強要される。命中寸前でオオクニヌシを召喚し戦斧にて弾丸を阻む、が。

 

「バカ、な……っが!?」

 

 戦斧による防御はまるで障子を突き破るかのように容易く崩れオオクニヌシの胴体を抉り弾き飛ばす。そのダメージのフィードバックによるその場に崩れ落ちる栂和さんを誰も助けに動けはしない。

 

『シャドウが多過ぎて時間の経過を正確に把握出来てなかった……。皆さんどうにか隙を見て逃げて!』

 

「隙?んなもんあるわけねぇだろ!」

 

 今迄見てきたどの敵よりもやばい。山岸さんには悪いがもう敬って話せる状況ではない。死神タイプと呼ばれたソイツ、血濡れの麻袋で顔を隠し、同じく血濡れた外套を纏う異形。砲身が異様に長い二丁の銃が先程の音と南雲と栂和さんを無力化した手段なのだろう。

 

「これはやばい……絶対にやばい」

 

 綾崎の足が無意識だろう、後ろへ動いていく。正直俺でさえ気を抜けば小便を漏らしそうな程に気圧されている。

 

「天田!アレもタルタロスの中の奴か!?」

 

「っ!あ、ああ。アレもタルタロス内部に現れるシャドウ。けどまさか今ここで来るなんて」

 

 山岸さんが時間がどうのと言っていた、長居すれば出てくることがあるということだろう。時間を食い過ぎたと言うことだろう。

 

「リョウメンスクナ!!」

 

「姉さん!?」

 

 気圧される俺達の中、ただ一人前に踏み出しペルソナを召喚する真千琉さん。

 

「皆ビビりすぎるな!まずは逃げることを最優先、玖城くん、冬祈、2人は栂和くんと南雲くんを引っ張って行きなさい!ここは私が時間を稼ぐ!」

 

「姉さん!!」

 

 真千琉さんの命令に久遠が反発するように叫ぶが

 

「冬祈早くしなさい!」

 

 叱責にも似た声に肩を震わせながら久遠は栂和さんを担ぎ走り出す。そして俺も壁まで走れば南雲を引っ張り剥がし、担いで撤退を開始する。

 

「さぁこいよ死神タイプ。子供達に手を出せると」

 

 両手両足に力が篭もっていく。真千琉さんの力みが気配で伝わり、本気で応戦することを予感させる。

 

「思ってんじゃねぇぞ!!!」

 

 鬼神リョウメンスクナが咆哮を吐き出しながら死神タイプへと疾走する。4つの腕が左右の壁を破壊しながら進行することで目眩しの煙幕を演出、それに常時死神タイプへと接近、両腕と首を捉えれば一気に壁まで押し退けて叩き付ける。

 

「ボサっとすんな!早く逃げろ!!」

 

 その戦闘に見とれていた俺達全員へ叱責が飛ばされ全員が再び撤退を開始する。然しそれでもあの死神タイプは押し留められないらしい、凄まじい呻き声が俺達の頭上で響いたと思えば前方、俺達の撤退路の先にてリョウメンスクナが墜落する。

 

「ぐっ………」

 

 振り向けば胸を抑えて膝を着く真千琉さん。リョウメンスクナを見れば胸部に穿たれた大穴が目に入る。

 だがもうひとつ目に入るものがある。それは死神タイプの直上、赤い髪を揺らしながら彼女の得物であるパンツァーファウストを死神タイプへと向けている。

 

「テレジア!!」

 

 真千琉さんの呼び掛けに答えるように引き金を落とすテレジア。撤退の中でテレジアは別行動を行っていたらしい、そしてそれが功を奏したのか見事擲弾が死神タイプへと命中を果たす。

 

 

 然しそれでさえ有効打としては薄い、だが退路は既に無い。鼻の奥が突かれるような幻痛を覚える。纏わり着く濃密な死が鼻孔から脳髄までを痺れのような痛みで埋め尽くされていく。

 

 そんな中俺の傍らに叩きつけられるテレジア。機械である彼女は先程倒れた2人のようにそれだけで致命的なダメージにはならないらしいが、それでも痛みを感じる故にその場で蹲る。

 

「……………はぁ……」

 

 身体が震える。絶対的な死を前にすれば自然な反応だろう。だがこの震えの根源が恐怖ではないことに恐怖を覚える。

 

 担いでいた南雲を降ろし前に歩み出る。その俺の姿を目に収め驚愕する真千琉さん。

 

「!?……何をしてるの玖城くん!君………は……………、なんで笑ってるの?」

 

 

────────────────────────────

 

「さぁ、今宵の喜劇を始めよう」

 

────────────────────────────

 

「カリオストロ!!」

 

 召喚器を顳かみに押し付け引き金を引く。吹き荒れる力の奔流が迫っていた死神タイプを牽制し接近を阻む。

 奔流の中現れるのはペルソナ、カリオストロ。その姿は胡散臭さを漂わせるペテン師を連想させる。その面には貼り付けられたような下卑た笑みで塗りつぶされその本質さえ伺えない。

 

 恐らくこのペルソナに死神タイプを駆逐する力は無い。だがこのペルソナならば

 

 「全員俺に掴まれ!」

 

 俺の言葉に全員が反応を示す。理屈などない、然し僅かに可能性があるのならという藁にも縋る様な思いは行動として現れる。全員の手が俺に直接、または間接的に触れればその瞬間再び放たれる死神タイプの狂撃、メギドラオン。あれを喰らえば確実に死ぬ、比喩ではなく本当の意味で死んでしまうと皆が理解した時そのスキルを発動する。

 

 「トラエスト!!!」

 

─────────────────────────────────

 

 爆発、そして轟音。タルタロス内部を埋め尽くす灼熱の光球、メギドラオン。その絶体絶命の一撃の後、その場にあるのは死神タイプと呼ばれたシャドウのみ。

 たった今コレと対峙していた彼等の姿はそこにはない。焼き尽くされてしまったのだろうか?

 

 どちらでも関係は無い。己が刈り取る標的と定めた存在が認識できなくなった現在、死神タイプにはその場に存在する理由は無く、となれば辿る道はただ一つ。

 

 なにかに倒されるでも滅されるでも無く、そのシャドウは何に干渉されるでもなくただ独りでに霧散、消滅する。

 

 

─────────────────────────────────

 

 

 

 ペルソナ、カリオストロのトラエストの発動により眩い光に包まれる。どの様な効果なのか分からずに使用したのでこの光がトラエストなのか死神タイプのメギドラオンなのかは分からない。だが身体に損傷を感じない事から光が無害のものであることは理解できた。

 

 そして景色を塗り潰していた光が開ければ目の前には両手で口を抑えて涙を泣きかけている山岸さんの顔が映る。つまりここは

 

「エントランス……………か」

 

 膝から力が抜けてその場にへたり込む。俺の後ろにいた探索メンバーも山岸さんの姿を見て安心したのか全員がその場に座り込んで安堵の息を吐き出す。

 

 「良かった……皆無事で本当に」

 

 泣きかけていたから涙をポロポロと流す状態に移行した山岸さんを皆で笑いながら慰める。土壇場でどうにでもなれとやった行動だったが、結果オーライで終わってくれたようだ。

 

 

 

───────────────────────────────

 

「死神タイプ……か」

 

 探索組の報告を受け思案する。タルタロス内部ならそれの出現も予測出来た筈だったが、失念していたのは私としても失態だろう。今回は運良く樹下があの場を切り抜ける手段を手にしていたから良かったが、それが無ければ全滅させてしまっていたと思うと頭が痛くなる。

 

「まぁ仕方ないよみっちゃん。ただでさえココ最近はイレギュラー続きだったんだからさ。んーうんま、やっぱお見舞いといえばリンゴだよねぇ」

 

 医務室のベッドにてリンゴを頬張る真千琉の姿に心が軽くなる。彼女は本当にその場その場で私が無意識に欲している言葉を掛けられる。一種のエスパーなのではないかと疑いたくなるが、まぁペルソナ使いもある種エスパー能力のようなものかと自己完結させる。

 

 だがふわふわした空気も長くは続かない。

 

「けどあんな強力なシャドウがいるとは思わなかったな。これはタルタロス探索の時はテウルギア装備の持ち込みもしないとキツイかも」

 

 テウルギア。つまり真千琉の全力である戦略級ペルソナ、観世音を本格的に導入することになる。然し

 

「それではお前の負担が」

 

「別に構わないよ。私一人が苦しむだけでみんなの安全が確保出来るなら安いもんだよ」

 

 再びリンゴを口いっぱいに頬張る真千琉。そんな悲しいことを言わないで欲しいと叱咤したいが、無茶をさせざるを得ない状況の一端を生み出した私にはそんな権利は無い。それがもどかしく思い歯を食いしばっていると不意に額に走る衝撃と痛みに思わず「あうっ……」と声が漏れる。

 

「まぁた自己嫌悪?老けるよみっちゃん」

 

 ケラケラと笑いながら私のデコを指で打った真千琉、全くコイツは……。

 

「安心してよみっちゃん、死ぬ程無茶をするつもりは無いからさ。だからみっちゃんはどかっと構えて私達の戦果を期待しててよ、ね?」

 

 

────────────────────────────────

 

 巌戸台寮屋上

 

 肺を煙で満たしそして空の月に向かって吐き出す。漂い登る煙は何処までも高くは飛ばずに視認不可なレベルまで霧散する。目に見え無くなった煙は果たして消滅したのか、それとも見えないだけで登り続けて月まで届いているのか。その辺は研究者でもなんでもない俺には理解できない領域だろう。

 

 自身の胸部を触る。あの死神タイプとの遭遇でいの一番に沈められた事を思い出し、煙草の咥える部分を噛み切ってしまう。床に落ちる灯ったままの煙草、それを素手で掴み握りしめて鎮火する。

 

 無様な自分を反芻して更に苛立ちが募る。以前ならこの苛立ちをSを飲み込んで吹っ飛ばしていたが、生憎ここに来て以来シャブる気分にならなくなり手持ちが無い。ならば煙草をと思いここに来たが、同じように噛み切って落としてまた噛み切ってを繰り返し続けている。

 

 掌を見れば何度も煙草を握りしめしめたが故の火傷跡が幾つもある。熱さなど感じはしない。焦げた肉の匂いというものさえ俺の感覚には伝わりはしない。

 

 再びフェンスに凭れて空の月を眺める。

 

「……………………」

 

 ムカつく程に淡い光を放つ月を睨む。その姿は傍から見れば月を見て遠吠えを挙げる狼の様にも見えているのだろう。

 

 そして数秒、目を閉じれば不意に端を切ったかのように笑いが溢れ出す。

 

「あひゃは、はははははははははははははははははははははははははは、ははははははははははははははははははははははははは」

 

 身体の損傷はある、然し相も変わらず痛みなど感じない事に最早面白さまで感じ始める。だからこそ可能なのだ。痛みのトラウマを覚えないからこそ。

 

「いいぞ、そうだそうしてみよう。きっと次は」

 

 先程まで睨んでいた月を、まるで親しい友や恋人に向けるような視線で見つめる。

 

「嗚呼、次はあの死神を縊り殺せるぞ」

 

 

────────────────────────────────

 

 巌戸台寮2階

 

「栂和さん、頼まれてた牛丼大盛り三つ買ってきましたよ」

 

 肉の匂いに顔を顰めながら栂和さんに牛丼を渡す。拒食症になって以来相変わらず牛丼はその匂いだけで嘔吐しそうな程に気持ちが悪い。然しその事実を俺が一部を除いて誰にも明かして居ないこともあり、この人がそれを知らない故に悪気のないお使いなので恨みはしない。

 

「サンキュ玖城くん。それじゃ早速、いっただっきまーす」

 

 付属の割り箸を割れば一気に牛丼に食らいつく栂和さん。

 

「あの、一応重傷だったんだからそんな一気に食いつくと胃が」

 

「平気平気、むしろ食わないと治るものも治んないって」

 

 限度があるだろ、食い過ぎても治るの遅くなるだろ。

 

「それに」

 

 色々文句を言おうと口を開く前に言葉が繋げられては噤むしかない。

 

「仲間として最初の戦いで足引っ張ったのは先輩として不甲斐ないしね、なら食って力に変えて次は力にならねば立つ瀬がねぇよ」

 

 この人はほんと、見た目の割にこういう風にまっすぐ芯のあることを宣うからかっこよく感じてしまう。

 

「二杯目頂き」

 

「早っ」

 

 もう食ったのかこの人。

 

「見てろよ玖城くん、次は俺が君らを引っ張ってやるからさ!」

 

 ………………ふ

 

「期待してますよ栂和さん」

 

  淡い頭痛を引き連れて脳裏に声が響く。

 

 我は汝、汝は我

 汝、新たな絆を見出したり

 汝、『皇帝』ペルソナを生み出せし時その祝福を得たり

 

 玖城樹下は新たなコミュニティ、栂和との絆である『皇帝』のコミュを手に入れた。

 

───────────────────────────────

 

 栂和さんに触発された訳じゃない、といえば嘘だ。ガッツリ感化された。今回のタルタロス探索で自身の実力が足りない事は痛感した。ぶっつけ本番とはいえ逃げの手を使ったこと。そもそも不確定要素に頼ったこと。これらは俺自身の実力不足が招いた結果だ。つまり俺自身もまた更に強くなる必要がある。

 

 しかし俺の力は他の奴らとは物が異なる。複数のペルソナを切り替えて戦うという力は他のメンバーとは大きく異なる特性であり、現状俺の知っているシャドウワーカーの中に参考と出来る人物は居ない。

 

 つまり教えを乞う事ができる相手に心当たりがない。真田さんやアイギス、ラビリスに真千琉さん。色々な先達者と話、力を交わらせて居てもこればかりは手探りでやるしかない事がもどかしい。

 

「有里……」

 

 ふと、みつ姉や天田がたまに語る人物の名前を口に出す。過去に俺と同じように複数のペルソナを使役していた過去の、特別課外活動部の実質的なリーダー。俺以外のワイルド……か。

 

 

 

「他にも………居んのかな?」





 少し(かなり?)長く待たせて、そして長く綴ってしまった。然し後悔はしていない。描きたいように書いてこうなったのだから。

 然しこの流れ的にとある人物の登場フラグ的なものが確立してしまった気もしないではない。

 期待します?しない方がいいと思いますよ?

基本情報
栂和侑介(とがわ ゆうすけ)
年齢 17歳
性別 男性
誕生日 10月4日
学校 月光館学園高等部
クラス 2年B組
居住地 巌戸台分寮
外見
身長 178cm
体型 標準よりやや細身、
髪色 焦茶色
目 髪色と同色
服装 制服は標準的な着こなし。生徒会活動時は副会長の腕章を装着。
私服は飾り気の少ない襟付きの黒いシャツに茶色の綿パンのシンプルコーデ。

性格 見た目はインテリ風で含みを持った胡散臭さを連想させるが性格は思いのほか実直。裏表なく、含みなど無く真っ直ぐに相手と向き合う為人望は厚い。中等部時代からその性格であり、玖城や天田からの信頼も高い。

ペルソナ詳細
名前 オオクニヌシ
アルカナ 皇帝

概要
日本神話に登場する神。国津神の代表的な神で、国津神の主宰神とされる。
スサノオの六世の孫、また『日本書紀』の別の一書には七世の孫などとされている。日本国を創った神とされている。

能力
自身の身の丈と同等サイズの戦斧を振り回し圧倒的膂力にて制圧するアタッカータイプ。また戦斧は防衛手段としての運用も可能。
 リョウメンスクナに次いで高い近距離戦闘能力を持つ。ステータス的にリョウメンスクナより劣るが、その代わりに全体ステータス強化やカウンタースキルを備えているのでアタッカーとサポーターの両方をこなす事ができる。


オリジナル語録紹介

ツァリる
意味、ツァーリ・ボンバを落とす、またはそれに比肩する程の衝撃のある行動、言動を行うこと。

例文。中学時代、全校集会時の校長先生の話の中南雲がコソコソと登壇。校長の背後を取ればいきなり金的。静寂に包まれていた講堂ないに校長の悲鳴と共に雰囲気をツァリった。
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