PERSONA EPISODE of SHADOW WORKER 作:漆竜 黒鍵
7月12日 影時間 桐条グループラボ
「そうか…解った。ご苦労だった、気をつけて帰還してくれ」
玖城からの連絡を受けている美鶴。その様子と応答の言葉から作戦は成功を収めたのだと分かる。しかし
「浮かない顔だな美鶴」
「まぁな…」
まぁ当たり前だろう
「巌戸台寮との通信が取れない…今の連絡の内容はそんなところか?」
「私たちと同じだな」
そういうと立ち上がり部屋の出口に足を進める。
「美鶴、まさかお前が行くつもりか?」
「明彦。それを聞いてくるということは、まさか止めるつもりじゃないだろうな?」
美鶴の鋭い目線が俺を射貫く。学生時代、氷の生徒会長だの女帝だの呼ばれていたあの頃を彷彿とさせるその眼光に背筋が震える気分だが、そうも言ってられない。それに
「止めるつもりはない、一人で抜け駆けするなと言っているんだ」
「明彦……」
気持ちは分からないでもない。巌戸台寮は俺達にとっても多くの思い入れがある場だ。それに待機メンバーの中には美鶴の幼馴染で、俺自身も関係のある久遠真千琉も居る。であれば止める道理など存在しないだろう。
それに
「十中八九エルゴノミクスが絡んでいるだろうからな。山岸やお前の感知スキルにも掛からない術、かつてストレガにいた千鳥のようにそういったものをジャミングする奴が居るはずだろう。そしてそいつは間違いなく」
「エルゴノミクスの中でも相当な実力と地位を持っているだろうな」
俺の言葉の続きを述べる美鶴、であれば尚のことだ。
「俺もそいつの顔を一度拝んでおきたい。相手がどんなやつか分かればそれなりにやりやすくなる。ボクシングと同じだ」
「ふっ、変わらないな明彦。少しは大人になったと思っていた私が間違いだったか?」
人はそう簡単には変わらんさ。仮に変わることがあるとすればそれこそ
大切な何かを喪ったか、大きな決断を強いられた、かつての俺達の様な状況の中だけだろう。
同日、同時刻 巌戸台寮
その異変に誰よりも気づいたのは南雲だった。ふと何気なしに窓から外を眺めた、本当にきっかけはそれだけ。しかしそれが彼等を緊張のどん底へ叩き落とす行動のトリガーだった。
「なぁ、山岸さんよ。周囲になにか反応ってあるか?」
その問い掛けに作戦室にいた全員の首が傾く。
「えっと、…うん。何も反応はないけど…」
「そうか…。ならこの状況は…アンタの
山岸の返答に対して苦虫を噛み潰したよう顔に変化する南雲。それに益々首を傾げる一同。
「なんなん一体。窓の外に何…が………嘘やろ?」
次いで窓の外を眺めたラビリスが絶句する。なんだなんだと順に全員が外を眺め今の事態をようやく飲み込んだ時
「………来訪者です、玄関から」
テレジアが淡々と、ソレの到来を告げる。
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数分後、待機メンバーの全員が1階のロビーに降りている。玄関に近いテーブルとソファーには対面に向かい合うようにして座る二人が居る。
一人は巌戸台寮にて実質的な指揮を取っている久遠真千琉、そしてその対面に座するのは………ダメだ、比喩表現が出来ない。上手く言語ができない…、俺の語彙力ではそれを表す言葉は陳腐なものしか出てこない。
正しく太陽だった。本来はありえないもの、居るはずの無いもの、そして存在しているだけでここにいる全員を即座に焼き切ってしまいそうなほど壮絶な気配がその女を正確に捉えることを困難にしている。強いてその特徴をあげるのなら……赤い、炎のような髪と、それでどうして前が見えるのかという形の仮面をつけていることくらいだろう。
この狂人と揶揄される俺が言うのもなんだが、明らかにこんなのがいるのは狂ってると思う。
「この寮は客人に対して茶のひとつも出してくれないのかな?」
「生憎、今は影時間だ。ガスも電気もないんだから茶を沸かすこともできないんだ。そんなに飲みたいなら外に出て水溜まりでも啜りなよ」
初めて真千琉という女に関心を持った。俺のような欠落人間ならともかく、普通の常識的な大人であるこの人が臆せずあんな事をこの化け物に言ってのける胆力は素直にすごいと思った。
その真千琉から目を逸らしてもう1人の大人である山岸風花を伺う。その表情は先程までと違い明らかに蒼白、大人としての意地なのか身体こそ震えてはないが、明らかに発汗量が増えている。しかし仕方がない話だ。感知の才能なんて微塵もない俺や他の奴らでさえ、今口を開くことができないほどの圧を感じている。
相手の力を見ることのできるこの人が受けている圧はその比では無いだろう。
「そう身構えられても困るな久遠真千琉。私は別に戦いに来たわけでも、貴女達を消しに来た訳でもない。それは今外にいる百人の雑兵が手を出してきてない時点で分かってくれていると思うんだが」
「百人もペルソナ使い連れてきといて、まさかお茶だけ飲みに来ましたなんてありえないでしょ。これは明らかな脅迫行動、何が目的なの?」
「以前桐条グループの美鶴総帥殿に送ったもの通りだよ。私達が求めているのは彼の、玖城樹下の身柄だよ」
「………そう、アレは貴女が送ってきたのね」
アレ?…その話の内容は分からないが、真千琉や山岸はその言葉で全てを察しているらしい。玖城がここでなんの関係が……
「そう言われるのは語弊があるが、立案自体は私だよ。貴女方の目に止まるようにしたのは、まぁ見当は着いているが私では無いとだけ言っておこう。
貴女達、特に山岸風花、貴女や貴女を含むかつての特別課外活動部にとっても決して悪い話じゃないはずだ。玖城樹下さえ生贄にしてしまえば、君達のかつての仲間であった有里湊を、あの永遠の、大いなる封印という牢獄から取り戻せるということは」
「…そんな事ない、そんなことをして有里くんが戻ってきても誰も喜ばないから。そんな方法で救い出されたなんて知ったら、誰よりも彼が傷付くから」
「強がりだな、包み隠している」
「………」
「私達はね、獣なんだよ。自分の欲望、自分の大願、徹頭徹尾自分というものを第一において他者を利用するという習性を持ったね。
貴女達にとって有里湊とはそういう存在であり、玖城樹下はその為に最も理にかなった代替品だ。何故それを認めない?」
「貴女こそ分かってない、そんなの心がある人の言葉じゃない。誰かを助ける為に誰かを犠牲にするなんて言うのはあっちゃダメなことのはずだから。
だから私達は誰もその計画書を見ても賛同はしなかったの。貴女の言う通りの人も居るかもしれない。でも私達は────「私達は違う。そんな人間じゃない」っ…!」
山岸の言葉が遮られる。なんの感情もこもってない女の声はこの場の誰の声や音よりも耳に突き刺さる。
「人は基本的にみんなそうさ、そういう倫理観を産まれた時から持ってるから社会が成り立っている、それは認めよう。でも貴女方は一つ見落としている」
「何を…」
「私達が人だと、本当に思っているのかい?ペルソナ使いがまだ人の内だと、本気でそう勘違いしているのかい?」
「!?」
……………理由は特にない。しかし何故かこの女の言いたいことが分かってしまった。
山岸がここまでこの女の言葉を否定した材料は人としての常識や良心というものでしかない。しかしペルソナ使いという人間離れした存在が、人の範囲内でのそれらを語る、正しいようでその実あまりにも雁字搦めになっている。………ああ、そういうことか、俺達は人ではなく…人としての常識という名の鎖で繋がれた────
────獣なのかもしれない。
「………」
「だから私は是非、尊敬する特別課外活動部だった貴女達には素直になって欲しいと思っている。貴女達は耐えた。人であれと言う縛りの中で5年も、彼を喪った苦しみと己の無力さと戦い続けたんだ。だからもういいじゃないか、たった一人を犠牲とするだけで、彼が、過去の自分達が救えるのならそれに越したことはない筈だ。それとも、彼のいない世界でまだ貴女達は苦しみたいのかな?」
「そこまでだ」
優しげな言葉でありながら、ズカズカと土足で、山岸や特別課外活動部にとって踏み荒らされたくない部位を容赦なく穢していく女をたった一言で止める真千琉。静かだった、なのに的確に場を切り替えた。
「あまり風花ちゃんを虐めて欲しくないかな。そっちが何者なのかは知らないけど、それはお前の踏み込んでいい場所じゃないだろう?」
「………ふっ、確かにそうかもしれないね。出過ぎた問答だったことは謝罪しよう。だが私の要求は変わらない、玖城樹下の身柄は重大なトリガー足り得るからね、是非コチラ側に引き込みたいんだ」
なんだ?今なにかに引っかかった気が……
「お茶はもう出てきそうにないね、それじゃ私はそろそろ失礼しようかな。…………何かな?」
何かに違和感を覚えていた俺を他所に、女の前に立ちはだかるシルエットがひとつ。
「…テレジア?」
ラビリスが声を掛けるも、テレジアは応答しない。ただ目の前の女をじっと見つめ、睨みつけ、そして
「貴女は危険です…だから今日、ここで…!!」
吹き荒れる力の奔流がテレジアが何をしようとしているのかを克明に示す。ラビリスや真千琉が制止しようとする。突然の戦意に反応が遅れる栂和と山岸。あの力の入れ方、下手すれば寮ごとぶっ壊すつもりかこいつ…!?
「ペルソナ召喚シーケンス起動、バートリー!!!」
テレジアが自身のペルソナであるバートリーを呼び込めばその手に携えた銀色の杭で女を穿たんと動く。然し
「───────!?」
女は動かなかった。ただ首を傾け、杭が自らの首筋に来ることを良しとしたのだ。そしてその接触の瞬間、まるで鋼鉄に叩きつけたかのような人体からは決して響くわけのない轟音が俺たち全員の耳を打つ。
いや……違う。アレはまさか……ペルソナか?だがこの女、今召喚器を使ってないだろ…!?
「随分とやんちゃじゃないか。はぁ……そんなつもりじゃなかったんだが、仕方ない。
お灸を据えてあげよう。歯を食いしばれ」
瞬間、感知タイプである山岸が即座に悲鳴をあげる。女から迸るのは俺達とは規模も、色さえも異なる別次元の力、赤き武威の奔流。まだ形すら明確に発現していない、にも関わらず寮全体が軋み、崩れそうになっている。
「ペルソナ、オルフェウス───────
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巌戸台街道
連絡の取れない寮のメンバーが気掛かりとなり、気が付けば俺達4人の足はその速さを徐々に増していた。
「まさか美鶴さんも寮と通信ができてないなんて…」
「やっぱり何かあったってことだよね?」
天田と綾崎が話しているのを聞き流しながら俺は更に歩を早めていく。そうしなければ俺たちの中で誰よりも先行している久遠に置いていかれそうだからだ。
「久遠、おい久遠落ち着けって」
「落ち着いていられるかよ!」
静止する俺の声を怒鳴って遮る久遠、しかし俺も退かない。
「お前、ただでさえ無理して消耗してんだ。その上でそんな急ぎ足で移動してたら余計に消耗するだけだろうが。」
その腕をようやく掴んでその場に停止させる。ほら見ろ
「普段のお前なら簡単に振りほどけるだろ。けど今はどうだ?ビクともしねぇ」
「っ………離せ」
手を離す。そのまままた走り出すかとも思ったが、どうやら自身の状態を改めて俯瞰し観念したようだ。
「とにかく、彼処には俺らより強い真千琉さんだっている。他の奴らもいるんだ、なら滅多なことでも無い限りくたばる訳─────っ!?」
瞬間、凄まじい音と爆風が俺達4人に叩き付けられ吹き飛ばされる。攻撃!?違う…これは何かの余波だ。何処かで何かが爆発したんだ…!そう考え視線を動かし目に入るのは…………なんだあれ
「火柱…?…あんな高く…」
「向こうって…確か寮の方じゃ…」
「っ!姉さん…!」
「おい、久遠っ!…ちっ」
こうなったらもう止めるのは無理だろう。走り出す久遠、しかしまだ影時間は開けていないのだ、1人にする訳にも………ん?
「おい久遠!横に避けろ!」
「は?!…っ!?」
咄嗟に横に飛び退く久遠、それと入れ替わる形でその場に落下する何か。硬い鉄の塊のような音だ、恐る恐ると言ったふうに俺達はそれが何かを伺い…………!?
「テレジア…!?」
それが四肢が捥げ、装甲が融解し、顔半分が剥がれ内部構造が露出した仲間であることを認識した時、そこでようやく今夜の影時間が終わりを迎えたのだった。
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7月13日 0時 巌戸台寮
巌戸台寮……と言っていいのか分からない。そこにあるのはその姿の半分を焼き切られ吹き飛ばされた無惨な元建物だ。その中で存在しているのは焼き爛れた千の腕、今程発生した大規模な炎上から仲間を守る為に展開された戦略級ペルソナである千手千眼観世音菩薩の物だ。
「っ………ぐ……」
その召喚者である自分は膝を地面に着き、鼻腔からは血が垂れ落ちて自身の真下を満たしている。召喚のみで多大な負担がかかる戦略級、しかしこの血はただそれだけの量ではない。
こちらを狙っていなかった、ただの二次被害的な間接干渉。だと言うのにあの一度の炎で観世音菩薩の総体の殆どが消し飛ばされた。1人だけ離れていたテレジアは無理だったが、腕だけが残り自身を含む近くの仲間を守れたのが奇跡と言っていいだろう。それ程までにこの女は………強すぎる……!
「誰なんだ……何者なんだお前は………!?」
千の腕が霧散していき、再び目にする仮面の女。対等な話し合いとして並んでいたそれ、今は実際以上に見上げている気すらしてくる。
そんな私の前に立つ三つの影、南雲、栂和、ラビリス。何をして
「真千琉さんよ、アンタはそこで大人しくしてな」
南雲の言葉、しかしそんなものは
「巫山戯ないで、これは遊びじゃないんだ。子供である貴方たち大人しく───「おい」
その二音、南雲の口から出たたったそれだけの声が私からその先の言葉を奪う。それ程までに力強く、そして強烈な声だ。
「俺らは確かにアンタから見りゃガキかもしれねぇ。6つ7つの年の差だ、仕方がねぇ。だがな、俺らはアンタの仲間なんだろ?なら今は黙って俺らに庇われてろよお嬢さん」
「お、おじょっ、……!?」
顔が赤くなるのを感じる。幼い頃から大人びていた見た目から、同年代や年上からも受けたことのない扱いに不覚にも動揺している。
「いい加減俺達のことを子供扱いして前から遠ざける癖、やめた方がいいと思いますよ?特にこれ、久遠ちゃんが一番気にしてるだろうし」
「戦略級がウチらにはないんやとしても、やからって真千琉さんひとりに全部背負い込ませてまうほど弱いなんて思うてないしな」
栂和とラビリスも南雲と同じ様に私の前に立つ。ふと、子供の頃の記憶が蘇る。お姉ちゃんだから、
高校を卒業して、美鶴達と同じ力に目覚めて、これでようやく借りを返せる。これでもっと力強く冬祈を守れる。そう思って、思い過ぎて忘れていた感覚………。ああ、そうか、頼っていいんだ。この子達は私の仲間なんだから………。
「……感動的な配置になってるけど、さっきも言ったように私は貴方達を始末しに来た訳じゃないんだけどなぁ……」
ため息を吐きながら面倒臭いものを相手にしていると言わんばかりに頭を搔く女。その女に周囲を包囲していた黒服の1人が近づき膝を着く。
「首領、大型シャドウ討伐に出ていた4人と桐条美鶴及び真田明彦が此方に向かってきています。何か嬉しいことがあったから派手にやったのでしょうが、先程の一撃で我々も甚大な被害を被っています。ここは一度」
「ん、あぁ忘れてた。ごめん周りに君たちがいたんだったね。何人か死んだ?」
「死人は出ておりませんが、戦闘不能が全体の八割です」
「はぁ……いやそうか、それは悪かった」
そんな会話の中絶対に聴き逃しては行けない単語があった。
「首領……!?」
風花も気づいたらしい……つまり、今目の前にいるこの仮面の女は───!
「ああ、そういえばまだ名乗って無かったね。
私は結城、
まぁ実際はお飾りみたいなもので、私以外にも首領だの団長だの色々名乗る奴も何人かいるから実感はないけどね。」
「そんな奴が態々敵地である俺らのとこに来たって?随分舐めてやがるじゃねぇか、ぁあ?」
そう口にする南雲だが、気がついている。認めたくなくとも分かっている。相手はこちらを舐めていない、それ以前だ。
「少年、舐めて貰えるというのも、一つの権利らしいよ?」
逆鱗だったのだろう。瞬間、南雲はその場から一息で相手の前まで跳び寄り、その首に手直にあった木片を突き刺す為に振り抜く。ダメだ、先程のバートリーの鉄杭でダメだった行動、木片という劣化品で成立する攻撃では────!?
「ぐっ………ふふ、酷いじゃないか。トサカに来た風を装って冷静そのもの、見事に騙されたよ南雲李独。」
おそらく弾かれてこちらまで飛んでくると思っていた南雲が残り、結城の方が後ろへ押し出されている。快挙、しかし南雲は忌々しいものを見るように相手を見つめる。
「何が騙されただ、飛ぶ間際に人の脚折っといてよく言うぜ」
折っといて……?その言葉を聞きその部位を見れば、脛の中程からありえない角度でへし曲った南雲の右脚が見えた。つまり南雲は蹴り抜いた、蹴り抜いてそして折られた。その一連の動作を私達は見えていない。より明確に言うなら、木片という目立つものを用いた視線誘導で私達まで認識を逸らされていた。然しそれを向けられた本人はそれすら見抜いていたということなのか…………!
「いやほんとに騙されたと思っているよ。もし騙されて無かったなら折るだけで済まさないし、蹴らせてすらいない。
誇っていいよ、君は見事私の不意を突いていたとも」
黒服も伴い後退していく結城、先の部下からの提言を飲むのだろう。
「逃げる気かよ?」
「脚を折られてその威勢は大したものだ、相当痛いはずだろうに……眉根ひとつ動いていない。成程、そういう身体か。ならもう長生きはできないだろうね君は」
「目標寿命100のご長寿目指してんだよ」
「どの口が言うのやら……君からS、覚せい剤の匂いが漂っているよ。辞めて2ヶ月程度はたっているだろうが、あの毒はそうそう抜け切るものじゃない、それも含めて君は長生きは出来ない」
「イヤーン、プライバシーの侵害よん」
「君本当に面白いな、私と同じようにイゴールに招かれている側なだけはある」
上手いと思った。会話の内容は一部分からないことが混ざっているが、これは撤退行動を遅らせているんだ。だからこそ解る、先程黒服が言っていた事がここに来て現実になろうとしている。
「おっと」
「遅いぜ大将。仮面の美女と楽しく会話しちまったじゃねぇか」
その軽口の次に響くのは鋼鉄か地面を叩く音。その鋼鉄はガンブレード、そしてそれを武器にして戦うものは私の知る限り1人しかいない。
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「やかましぃ、途中で久遠がへばったんだ。でも良かったじゃねぇか、貴重な体験おめでとうシャブ中インポ野郎!!」
南雲の軽口が耳に届いた後に実行するのは炎髪の女へのバックアタック。しかし気付かれていたのだろう、女はいとも容易く回避してさらに後退していく。
「ほら、また会えただろう玖城樹下」
「ああ、会いたくなかったぜ謎の女さんよぉ」
「結城だよ」
「聞いてねぇよタコ!」
即座に召喚器を用いペルソナを召喚、呼び出すのは荒んだ冥府魔道の救世主。
「メサイア・影神!」
力の本流から飛び出せば即座に血濡れの大剣を女に目掛け振り下ろす。しかしこれは通用しないだろう、本能でわかるし状況がこれだ。そして先程の火柱、あの威力は間違いなくメサイア・影神の出力は軽く凌駕している。
「先程の鉄乙女といい君と言い、シャドウワーカーの新戦力たちはどうにもやんちゃで血の気が多いな」
その言葉と共に吹き荒れる深紅の奔流。その中から現れる一体のペルソナ。こいつ、召喚器無しでやれるのか……っ!
「オルフェウス・灼神」
奔流から腕を伸ばし大剣を受け止めるそれ。機械仕掛けのような体に背面には炎を連想させる造形のハープを携えた炎髪のペルソナ。
感知タイプの素質が山岸さんほどでは無いが備わっている俺にはわかる。このペルソナは強い、強すぎる。以前遭遇したあの死神タイプでさえ比較にもならないだろう。
「………………」
「……………………辞めだ」
オルフェウス・灼神と呼ばれたペルソナが霧散する。俺の顔は間違いなく驚愕に染まっているに違いない、しかしそんな事はどうでもいいかのように女は頭を掻きながら首を捻る。
「興が乗らない、それに今はもう影時間じゃない。サイレン、聞こえるだろう?こんな状況なんだ、勿論通報も入るだろうさ」
そう言われ初めて耳に届く消防系統のサイレン音。それに気を取られた瞬間、女も、そして伴っていた黒服も姿を消す。
…………見逃されたのか、興味が失せたのか、どちらにせよもう脅威は無い。
そろそろ損壊していたテレジアを運びながら天田達も到着するだろう。
やけに長く感じた7月12日は幕を閉じ、新たな日へと移行していくのだった。
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「それで御大将、目当ての奴には会えたのかい?」
仮面を外し車両内の座席に深く腰を掛ける。仮面の代わりに濡れタオルを目に被せ癒していく。自ら起こした炎に目を焼かれるのは改善しないといけないかもしれない。
しかし
「間抜けな質問だな相模、いるとわかっていたから会いに行ったんだ。むしろ会えない訳がないだろう?」
「そりゃそうか」
「なんて言ったと思う?」
「アバズレ、とか?」
軽口を叩いた相模の首に腕を抱き着く様に回す。
「おい、運転中なんだが?」
「アバズレ扱いしたお前が悪い」
そのまま締め付け頸動脈を圧迫する。流石に意識を飛ばさせるつもりはないが、まぁ軽いスリルは味わってもらおう。
「っ……んで、結局なんて言われたんだよ?」
「茶を要求したのに出ないからここは茶も出ないんだねって言ったら、水溜まりでも啜ってろだってさ。なかなか出てくる返しじゃないよ、あの人頭おかしいんだなって思ったよ」
「アンタが言うか?部下諸共炎でぶっ飛ばしたアンタが?」
もう一度相模の首を締め上げる。少し言葉が過ぎるんじゃないかな?ん?
2度目の頸動脈圧迫に堪えたのか、車両のハザードを焚いて路肩へ停車する。首を絞めあげている私の腕を解けばそのまま引き寄せてきて
「ん…………」
啄むように軽い唇の接触が行われる。そこからは私自身も相模の頭を抱えて互いに唇を重ね、時折息を整えながら暫く戯れる。
「機嫌がいいな御大将。余程嬉しかったと見える……」
「そりゃ……ね。まぁ向こうは私の事分かっちゃいないだろうけどね、仮面をつけていたし…………っ、髪色もこんなんだしね」
そして最後に長い、舌が絡み合う程に深いベーゼを交わせば互いに身体を離し運転が再開される。
しかし
「まぁ心残りがひとつあるとすれば」
冬祈には、会えなかったな
尚、この二人の関係性は交際関係ではないものとする()
前描ききってからかなり早いが更新です。本当はここまで描き切ろうかとも思っていたけど、前話は欲望と背徳であり、今回とはテーマが噛み合わないので一度切ってこうした所存。
あ、テレジアはちゃんと無事です、生きてます()
さて、それではペルソナ紹介、今回は前話に登場したチェルノボグを解説します。
名前 チェルノボグ
アルカナ 塔
覚醒者 玖城樹下
概要
スラヴ神話の死神であり、その名は「黒い神」を意味する。その名から、夜や闇、破壊と死、冥府の神・悪神として捉えられることが多いものの、その本来の性格については不明である。神話中においては、白や光を司る善神ベロボーグと対をなすものとして語られる。
主に黒い肌に血のように赤い頭髪の男性のシルエットで顕現しているが、姿自体は可変可能との事。
能力
カズィクル・ベイに類似した戦闘方法ではあるものの、一撃に籠る質量が桁違いに高い。然しカズィクル・ベイよりもそれぞれの鋭利さは低く、攻めよりも捕縛やサポーターとしての能力が優れている点から逆の性質と言える。