PERSONA EPISODE of SHADOW WORKER   作:漆竜 黒鍵 

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玖城を苛むものは拒食症だけじゃない。

過去の惨劇はどうしても付き纏う。

それを知らぬと切り捨てられる程、少年は強くは無い。


最初から強い奴って信用できるか?俺は出来ねぇ、いつかボロが出るぜ

 激突する2つのペルソナ。メサイア・影神とオグニイェナという2つのペルソナ力がぶつかり合い

 

「ぉっぉおおおおおお!?!?」

 

 俺のメサイア・影神が吹き飛ばされるその余波で俺も飛ぶ。

 いってぇぇケツから落ちた!!

 

「ふふん!また私の勝ちだねぇ!これで何連敗ですかァ?玖城くぅん」

 

「うるせぇ黙れ!もう一回だけこんちくしょー!!!」

 

 どうしてこのようになったかは今朝に事の発端がある。

 

────────

 

「玖城、綾崎さん、おはよう。突然だけど今日って時間ある?」

 

 日曜日の朝、8時に偶然起きててロビーにいた俺達に天田がそう問掛ける。

 

「俺はあるけど」

 

「私も大丈夫だよ、もしかしてシャドウワーカー関連?」

 

「うん、美鶴さんから2人の戦闘訓練をさせようって提案があってさ。」

 

 戦闘訓練かぁ………、あまり乗り気はしない。

 

 先日の黒服との戦いにおいてメサイア・影神をある程度御せるようになったとはいえ、やはり怖いものは怖い。

 それに戦闘訓練ってことはペルソナでの戦闘のデモンストレーションも含まれる。つまりそれは天田や綾崎、コロマルとそういうことをするということだ。

 

 もしもの事があったらそれこそ嫌だなぁ…。

 

 そう思っていたら何か綾崎がニヤニヤした顔で俺を見てくる。

 

「なんだよ…」

 

「アンタもしかして自信ないの?私に勝つ自信がさ。」

 

 ……………はっ、安い挑発だぜ。

 

───────────────

 

そして現在に至る。

 

「いやぁ、玖城より私の方がペルソナの扱い上手いんだなぁ。

 玖城って動きが単調で読みやすいって言うか、まぁぶっちゃけで言うとバカ真っ直ぐな攻撃ばかりで簡単だったわぁ!!」

 

「ぷっちーーーーん!!上等だ!次こそそのニヤけた面見られるのも恥ずかしいくらいのボロ泣き顔に変えてやらァァァ!!」

 

 そして再び俺はメサイア・影神を召喚し仕掛ける。が、

 

「ぎゃぁああああ」

 

 結果は変わらず、むしろさっきよりもマヌケな負け方でフィニッシュする。

 

 何故だ…何故ぇ…

 

「天田」

 

「あ、美鶴さん。いやぁこれはなんというか…酷いですねぇ…」

 

「の様だな」

 

 玖城に対してニヤけて煽り続ける綾崎とそれに載せられて更に無様に滑稽に敗北する玖城。

 黒服達との戦いで見せたあの圧倒的な戦いと戦術による無血勝利を収めたのと同じ人物とは思えない光景に天田も美鶴も苦笑いを浮かべるしかない。

 

「玖城の戦い方って凄く真っ直ぐだから読みやすいんですよね。綾崎さんもそれに気づいてるから玖城はさっきから一撃も攻撃を届かせれてないんですよ」

 

「ふむ…」

 

 そして美鶴は思案する、出力やペルソナの強力さはおそらく玖城の方が綾崎よりも高位だ。

 然し力の扱い方に関しては綾崎の方が上なのかもしれないが……。

 

 本当にそうなのか?

 

「うっがぁあああああああああ!?!?」

 

 そしてもう数えられない回数の敗北は後頭部から地面に落ちるという形で訪れる。

 

 おかげで少し頭が冴えた……。

 もう再挑戦する気力も残っておらずただこの訓練ルームの天井を見つめ続ける。

 

 それを覗き込む綾崎の顔がウザイくらいにやけているので俺は立ち上がって歩き出す。

 

「おやおや玖城くぅん、もうギブですかなぁ?

ねぇ?今どんな気持ち?ねぇどんな気持ちぃ?

 自分より後に目覚めた私にコテンパンにされるのはぁ、ねぇ???」

 

「あああ!!うるっせぇなぁ!!!」

 

 そして一言物申そうと振り返ったら

 

「ヒャンッ!?」

 

 綾崎の短い悲鳴と自分の肘に伝わる綾崎の柔らかい胸の感触。全身から冷や汗が吹き出す。

 事故とはいえ胸を触られた綾崎の顔が真っ赤になり、その瞳の中に怒りが爆発している。

 

「ま、待て、」

 

「ッッ!!!オグニイェナ!!!」

 

 綾崎のペルソナの蹴りによって壁までぶっ飛ばされる。

 

「ふ、…不可抗…りょ…」

 

 俺の意識はそこで途絶え次に目を覚ましたのは医務室のベッドの上だった。

 

────────────

 

「ふんだ!ふんだ!!ふんだ!!!!」

 

 玖城を医務室に残し天田と共に寮への帰路に着く綾崎。

 その頬は怒りを表すように膨れ、足取りもドスンドスンと音が鳴りそうな程の勢いがある。

 

「確かに玖城も感情的になって不注意だったけどさ、綾崎さんがちょっと煽り過ぎたのもあるからそんな怒らないで「ふんだ!!!」あー…もう」

 

 天田の言葉も途中で遮り怒りを示し続ける綾崎。

 

天田は思う。こんなんで本当に大丈夫なのかな??

 

─────────────

 

「いってぇ…綾崎の奴…何もペルソナで蹴り飛ばすことねぇだろ…」

 

 身体の節々が痛い、その理由は先程までの戦闘訓練によるものだが何よりも痛いのはさっきオグニイェナに蹴られた左腕だ。

 

 これ折れてねぇだろうな?

 

 そんなふうに考えながら医務室を出て施設内を移動している。

 

 ここは桐条グループが保有する施設であり、シャドウワーカーの拠点の1つでもある。

 その中を一人で歩いていると不意になる自分の腹の音。

 

「……腹減ったなぁ…」

 

 最初にペルソナに目覚めてからまともに食事を摂れていない。

 メサイア・影神を御せるようになったとはいえあの時の光景を忘れたわけじゃない。

 

何を食べても不快感が溢れてくる。その場で耐えても必ず後で吐き戻してしまう現状。

 

 食い物を噛む度に人を斬り飛ばし踏み潰し殴り殺した感覚とリンクする。

 

「……水…」

 

 しかしそれでも身体は空腹を訴える。

 それを水や栄養素を賄うためのサプリメントを大量に摂って誤魔化す毎日がまだ続いている。

 

 そんなふうに考えていると不意に後ろから首に腕を回され捕まる。

 驚く俺の視界に映るのは白い短髪の男性。

 

「よぉ、訓練終わりなんだろ?少し付き合え」

 

 強い。ペルソナによる戦闘や格闘戦をしては無いが、俺を捕まえているこの片腕の力。

 おそらく俺が今全力で暴れても離れることが出来ないのがよくわかる。

 

 真田明彦。

 シャドウワーカーになる前から何度か顔を合わせたことがあるみつ姉の同級生だった男でかつての仲間の一人と聞いている。

 今は俺達と同じようにシャドウワーカーの一人である。

 

「つ、付き合うってなんすか?」

 

「飯だ」

 

 気分が暗くなる。

 店内に漂う肉と脂と米の匂いは以前の俺なら楽しみで仕方がなかったこの時間が今は死刑執行を待つような思いだ。

 

 巌戸台の商店街に店を構える牛丼チェーン店海牛。

 仕事中のサラリーマンや部活帰りの学生によって箸と丼のぶつかる音が奏でられ続けている中、俺は真田さんと向かい合って座っている。

 

「随分滑稽な負け方をしたらしいな」

 

「…まぁ」

 

 おそらく天田辺りが言ったのだろう。

 天田は真田さんに憧れているというのを聞いたことがある。交友もあるのならそういった会話もするだろう。

 

「戦闘方法が全て見切られた上での敗北は精神的にキツかったろ。」

 

「…まぁ、はい」

 

 ……キツかったろ、その一言には完全に同意する。

 おそらく単純は力やステータスなら俺のメサイア・影神の方が綾崎のオグニイェナより上だ。

然しそれでも全く歯が立たなかったという現実には来るものがある。

 

「だから美鶴に頼まれた、しばらくお前の戦闘訓練には俺が就く」

 

「…マジっすか?」

 

 天田が悔しがる顔が浮かぶ。

 

「でも無駄かもしれませんよ?どうにも俺戦闘が下手みたいで」

 

「そうだな、お前は戦闘が下手くそだ。それは俺も思う」

 

 この人歯に衣着せねぇな……。

 

「だがお前、本当に本気で戦っていたか?」

 

 その言葉に無意識に身体が跳ねる。

 

「前に美鶴や天田から聞いたお前と今日聞いたお前とではそのスタイルや戦闘の仕方がどうにも噛み合わん。

 お前の様子を見るに手を抜いていた訳ではないのはわかる。なにか理由があるんだろ。」

 

 すげぇなこの人、いやもしかしたらみつ姉辺りも勘づいてるかもしれねぇ

 

「………ぶっちゃけ本気かって聞かれるとわかんねぇっす。

 訓練の初めも攻撃を仕掛ける時も間違いなく本気でやろうって気持ちはあるんですけど。

 どうしても当てられない、振り切れない…。もっと効率のいい当て方とか仕留め方は解るんすけどその全部が殺すということを前提としてるものだってことに気がついて身が竦むんです。

 そうなったらもう頭真っ白になって考え無しの突撃しかできなくなる」

 

 殺戮のペルソナ、そんな悪夢のようなモノに目覚めてしまったからそこ感じる恐怖。

 此方が行う身動ぎ一つで殺してしまうのではないかという錯覚は俺の思考を停止させるのには充分すぎる呪いとなっていた。

 

「前は黒服共を殺さずに無力化できた。でも次同じようにできるとは限らない。

 また次殺してしまったら、多分もうこの殺戮衝動を停めれる気がしない。

そう考えたら、もう何も…」

 

 俺の言葉に茶々や待ったをかけることなく、真田さんは聞くことに徹してくれていた。そして俺が言い終わるとゆっくりと息を吐いてから

 

「だがお前は美鶴や天田、コロマルに綾崎を守ったんだろ?」

 

 その一言に俺は目を見開く。

 今思えば天田も以前似たようなことを言っていた。余裕がなくてその時は受け止めることが出来なかった言葉だ。

 

「確かに死に関わるという事は恐ろしいことだ、奪う側でも奪われる側でもな。

 だがそれに竦んでいるだけでお前は満足なのか?守ると決めたから今もまだここに居るんだろ?」

 

 ………ぐうの音も出ねぇ。こうも完璧に俺のツボを的確に貫いた言葉に脱帽する。

 

「それにお前のその殺す事を目的とした手段の把握は逆に言えば面白い使い方ができると思わないか?

 敵を知り己を知ればという諺とはまた違うが、知っているという事はそれだけで強みだ、そしてそこから派生する何かが掴めるかもしれない」

 

「た、例えば?」

 

 その時店員が俺たちの注文していたメニューを持ってきた。

 真田さんは牛丼を、俺は乳酸菌飲料を目の前に提供される。

 乳酸菌飲料しか頼まない俺に怪訝そうな顔を向ける店員だったが気にしない。

 

「例えば牛丼、そのまま食べても上手い、凄まじくな。

 しかしここに七味や紅しょうがの卓上サービスや卵や納豆、チーズなどの有料トッピングを用いることで更に美味さが増す。」

 

 ???????何言ってんだこの人???

 

「しかしここで逆転の発想。この何をしても美味い牛丼に何をしたら不味く出来ると思う?」

 

 その言葉を聞いた時俺はまさに光明を得たという感激に振るえ

 

「のぁああああああああああ!?!?!?!?何をする玖城!?!?」

 

 真田さんが慟哭する。

 

 まぁそらそうだろうな

 

 俺は自分の頼んだ乳酸菌飲料を真田さんの牛丼に注ぎ入れたのだ。

 それもさぞ愉悦だと言わんばかりに

 

─────────────────

 

…………嘘だろ?

 

「なかなかイけるアレンジになったが、然し行動には驚いた。

 ああ言うアクションは戦闘においても非常に有効打になる。」

 

 結果として俺が不味くなると思った牛丼の乳酸菌飲料浸しがどういう訳か意外と美味かったらしい。

 真田さんは新発見だと言うが、俺はその気色悪い光景に飯を食ってないのに吐き気を覚えてしまったので乳酸菌飲料をもう一杯頼んでちびちびと飲んでいる。

 

 舌腐ってんじゃねぇかこの人?

 

 然し成程、発想と創意工夫か……。

 自身の恐怖から来る直情的な戦闘や暴走状態での時では思いもしなかったものだ、その点は真田さんに感謝しよう。

 そして時間はまだ昼を過ぎたところ、善は急げと言う。

 

 俺は折り畳み携帯を操作して綾崎にメールを送る。

 

 果たし状だ

 

───────────

 

「懲りないねぇ玖城も、またオグニイェナに蹴られたいってことだ。それともヤラシイ事でも考えてんの?」

 

「その人が毎回ラッキースケベ狙ってるみたいな顔で言うのやめてくれません?」

 

 開口一番先程の怒りを俺にぶつけつつも、それを煽りとして使う綾崎を前に冷や汗が出る。

 

 あの蹴りはマジで痛かった……。

 

 然し今回は俺が場のイニシアチブを貰うことにする。

 

「つかよ、俺思うんだよ綾崎」

 

「?何をよ」

 

俺は今日死ぬかもしれないな

 

「触られて恥ずかしがるのも一種の権利よ?お前のおっぱいそんな上等なもんじゃないじゃぁんwwwwww」

 

「玖城ぉぉおおおおおお!!!」

 

「さんをつけろよペチャパイ!!」

 

「死ねぇぇええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」

 

 ひぃぇええええええ怖ぇぇぇ…!

 

 綾崎の背後からまだ召喚していないのに怒りの形相のオグニイェナが見える気がする。

 マジで今日が命日になる可能性があるじゃん

 

 そして俺と綾崎は互いに召喚器を(ミシッ)

「……みし???」

 

 よく見れば怒りが今迄のそれを遥かに超えている綾崎の握力で召喚器が軋んでいる。

 

 いやマジで怖いんすけど

 

「ぺ、ペルソナァ……」

 

「ペルソナァァァァァあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

 そして顕現するメサイア・影神がいつもより小さく、そしてオグニイェナはいつもの10倍くらいでかく見える……こ、こぇぇえええ

 

 そして激突を開始するメサイア・影神とオグニイェナ。

 怒りの綾崎の影響かオグニイェナの攻撃力がいつもより強い、然しそれでも綾崎は綾崎。

 メサイア・影神の反撃として繰り出した直進的な攻撃を躱し、更に横方向から蹴り飛ばすオグニイェナには痛みとともに感嘆を感じるしかない。

 

 だがそれで終わるのは昼までの俺だ。

ここからの俺は違うぞ

 

「今だメサイア・影神!!!」

 

 メサイア・影神がオグニイェナの蹴りにより吹き飛ぶ。

 そのまま壁まで吹き飛ぶかに思えた刹那、杭や楔のように床を穿つ血濡れの大剣。

それによりメサイア・影神は大きく吹き飛ぶことを防ぎそして

 

「っ!大剣が撓って…!?マズっ…ぐぁ!!!」

 

 撓る大剣の弾性を利用してメサイア・影神が疾走、弾頭やロケットが如き勢いにてオグニイェナへと体当たりを叩き込む。

 これにより逆にオグニイェナが大きく吹き飛び訓練ルームの壁へと激突、それを更に追い詰める為に徒手空拳のメサイア・影神が接近、オグニイェナの両手を掴み壁へ押し付けることで完全制圧を成功させた。

 

 その様子を見ていた真田と美鶴は驚きを覚える。

 

「まさかさっきの今であそこまで化けるとは…」

 

「明彦…樹下に何をしたんだ?」

 

「いや、ただ飯を食べながら話しただけだ…だけなんだがここまでとは」

 

「く、まだ負けてない!!」

 

 その言葉に呼応する様にオグニイェナがその身体に力を込める。

 壁から浮く腕と身体、この瞬間のみオグニイェナの膂力はメサイア・影神のそれを超えているのかもしれない。

 

 だが言ったろ、場のイニシアチブは俺のものだ。そしてこれは訓練とはいえ戦闘だ。

 

「ガラ空きだぜ、綾崎ぃ!!」

 

「っ!?」

 

 その言葉と共に綾崎へとタックルを叩き込む。それの衝撃によって綾崎が壁までよろめき到達、そこへすかさず追い込みを仕掛け壁に両手を叩きつけて綾崎の動きを止める。

 

 綾崎の顔が目の前、その紅潮した顔を見て、ハッとする。

 

 この体勢はマズイ、これってつまり俗に言う壁ドンじゃねぇか。

 

 ………えぇいままよ!!

 

 そのまま綾崎の両足の間に足を踏み込み、恥ずかしがる綾崎の顎を手で持ち上げて吐息がかかる程の距離まで顔を近づけ

 

「綾崎、まだやるかい?」

 

 その一言で綾崎がオーバーヒートしたのか目をぐるぐる回しながらへたり込む。

 

 えっと………一応勝ったぞ……?

 

その様子を見ていた天田とみつ姉と真田さん。

 

「のワの……」

 

「……樹下」

 

「そのやり方は色々問題があると思うぞ玖城」

 

 目線があらぬ方向を向きながら状況を整理している天田、従弟のスケコマシムーブに顔を赤くしながら溜息を吐く美鶴、その勝ち方に呆れた表情を浮かべる真田。

 

 まぁたしかに性的行動を利用した心理戦をやるのは男というか人としてかなり不味い気もする。

 そして顔を真っ赤にしてニヤケながら混乱している綾崎。意外と乙女なのは中学からの付き合いだからわかってたことだが、こんなにも無耐性なものか…?

 

まさか俺だからか?……なわけないか需要無いだろ俺なんか

 

───────────

 

 しばらくして目を覚ます。あれ、私確か玖城と訓練しててそれで……あ。

 

「………ぅぅ…」

 

 自分の身に降り掛かった先程の光景を思い出して顔が熱くなるのを感じる。

 不覚にも負けただけではなく壁ドンからの股ドン顎クイの連続コンボを食らった事実にどうしようもなく顔が赤くなるのがわかる。

 

 先程のことに関して玖城が離れて場所で桐条さんや真田さんに叱られているのが見える。

 

「……玖城の癖に」

 

 そう口に出す自分が笑っていることに気がつくのはまだ先の話。

 

─────────────────

 

 みつ姉と真田さんから倫理観の視点からこってり怒られた。

 いやほんと、勢いとはいえ嫁入り前の少女にあんなことするのはマジで男としてアカン事は理解してる故言い訳など出来ず、その態度に免じてくれたのか二人ともそう長くは叱らなかった。

 

「ふぅ……」

 

そして訓練ルームのベンチで腰をかけると目の前にいつの間に目を覚ましたのか綾崎が俺を見下ろしている。

 

「さっきのやり方、恥ずかしかったんだけど」

「はい、その節は誠に申し訳ありません」

 

綾崎の言葉に即座に反応してベンチから床に正座すれば頭を床に擦り付けて土下座をする。

 

「……玖城さ」

 

「はいなんでございましょうお嬢様」

 

 次にくる展開を予想して冷や汗が止まらない。

 頭や背中を踏まれたり、ここから胸倉を掴まれて顔をぶん殴られるならまだ優しい。

 

 オグニイェナでの蹴り飛ばしでもまだ運がいい、最悪オグニイェナの大鎌で切り刻まれるか去勢されるかという最悪なケース迄想像した瞬間

 

「さっきの責任取ってよ、樹下」

 

「ほんとに反省して……はい?」

 

 その言葉に顔を上げれば頬が赤らみ目が潤んでいる綾崎の顔が目の前にある。

 

 その緑の瞳に吸い込まれるような感覚を覚える。

 

 え、何この展開、予想してない。

 え?このままロマンスラブなの???

 

「プッ、何本気にしちゃった?いやぁさっきの行動をやっても相変わらず玖城は玖城だね。やぁいマヌケェwww」

 

 …………………………………………………

 ぷっちーーーーーーん!!!!!

 

「テメェ!!上等だこら召喚器構えろ!!ひんひん啼かせて喘がせてやらァァァァァ!!!!」

 

「ざんねーんwwもう私は負けませぇーーーんwwww」

 

 そして再び激突するメサイア・影神とオグニイェナ、その戦いは夜まで続いて尚勝敗が着かなかった。

 

 その戦いの中で玖城は脳裏に響く声を聴いた。

 

 我は汝、汝は我。

 汝、新たな絆を見出したり

 汝、『魔術師』ペルソナを生み出せし時その祝福を得たり

 

──────────────

 

 お互いの気が済むまで続いた戦いが終わる。

 

 述べた通り俺たちの戦いは決着が着かず、互いにボロボロになったという結果だけが残っている。

 

 互いの服は大きく破れたり乱れたりしており、俺は綾崎の姿を見ることが出来ない。

 だって見えるんだもん、綾崎の慎ましやかな胸の膨らみとか谷間とか、綺麗な肌とか太腿のラインとか…じゃなくて。

 

 そんな俺達を交互に見ながらみつ姉は溜息を着くが、そこに怒りや叱責の思いが無い事は何となく分かる。

 まるで仲の良い兄妹のささやかな喧嘩を見てる親のような顔だ。

 

「全く、君たち2人に色々渡したい物があったのに、そんなボロボロじゃ渡し難いじゃないか。」

 

 笑いながら言うみつ姉に続けて笑う真田さん。

 

「然し玖城、飯の時の思い付きがもう実行できてるじゃないか。

 もう負けなくなったな、グッジョブ」

 

 そう言って親指を立てて此方を見る真田さんに此方も親指を立て返す。

 

「で、みつ姉渡したいものってなんだよ?」

 

「みつ姉もしかし……あ」

 

 綾崎のみつ姉呼びに全員の目が集中する。

 

「えっとその…すいません玖城に釣られました…」

 

 恥ずかしそうに縮む綾崎を見て俺達は思わず笑い出してしまう。

 それを手を振って有耶無耶にする綾崎は言葉の続きを述べる。

 

「桐条さん!もしかしていいものって桐条化粧品の新作ですか!?」

 

「ふふっいやすまない、そういうものじゃないんだ。」

 

 笑いながら綾崎の言葉を否定し、みつ姉と真田さんがそれぞれ俺達にアタッシュケースを渡してくる。

 

「君達二人の戦う為の手段だ、有り体に言えば武器だな」

 

 みつ姉のその言葉に俺と綾崎は目を輝かせてアタッシュケースを開く。

 

 綾崎の長いアタッシュケースの中にはオグニイェナの持つ武器と同じ大鎌が入っていたようで綾崎は目を輝かせてそれを見つめている。

 

 そして俺の人一人が入りそうなアタッシュケースの中にはゲームでしか見た事がない銃と剣の機構を併せ持った機械剣、ガンブレードがあった。

 

「良いんですか桐条さん!?こんないい物を!?」

 

 綾崎は手に握って抱きしめる大鎌に大変興奮している。

 綾崎自身のペルソナの持つものと同形状の大鎌なのだからある意味理想的な武器だ、喜びもわかる。

 

 だがよ?

 

「みつ姉、なんの冗談?」

 

俺の言葉にみつ姉は首を傾げる

 

「樹下好きだろ?ガンブレード」

 

「好きだけどさ、好きだけどさぁ??

 こんな実践じゃ使い物にならない扱いの難しい武器使えってワシに死ねというのか!?」

 

 そう、ガンブレードは扱いが非常に難解なのだ。

 まず第一としてガンブレードと言うくせにガンブレードには射撃能力が搭載されていない。

 銃の機構は持ち手の形とその装填弾倉にあり、弾倉の爆発を利用した刀身の振動による攻撃力の上昇を狙ってるものだ。

 

 そしてそれ故に重すぎる、これならメサイア・影神のような自分の身体と同サイズの大剣の方がまだ扱いやすい。

 

「だからこそだ」

 

 みつ姉のその言葉に俺の文句は止まる。

 

「樹下、お前のペルソナはあまりにも制御に難がある。それはお前も自覚してる筈だ。」

 

「だったらせめて武器だけでも扱いやすくすべきじゃないんかよ?」

 

「確かにそれもあるだろう、然し我々の相手はシャドウやペルソナ使いと通常の武器だけでどうにかなるような相手ではない。

 故にお前には扱い方というものをこの武器で学んでもらいたい。

 難しい武器に触れることで同様に難しいペルソナの制御への一助として欲しい」

 

 とか何とからしい事言ってるけどさ?

 

「みつ姉さ、小学生になる前位の時にガンブレード型に切り取ったダンボールで遊んでた俺を思い出しただけでしょ?」

 

「悪いか!?良いだろそれくらいお姉ちゃんの目の保養になるくらい良いだろ!!足りないんだよ!枯渇しているんだ!!!なんなら今すぐ抱きしめて全身余すことなく撫で回して弟から得られるブラザニウムを摂取したいんだぞ!!!!!それを我慢してるんだから昔を思い出せるものを持たせるくらいの何が悪い!!!!」

 

「開き直んなぁ!!!!アンタそれ職権乱用じゃねぇか!!そんなもんで俺の生き死にに直結する装備品決めんな!!!!

 あと俺は弟じゃなくて従弟、さらに厳密に言えばもっと遠縁だろぉが!!!!」

 

「「わーわーぎゃーぎゃーわーぎゃーぎゃー!!!!!!!」」

 

──────────────

 

 玖城と桐条さんのまるで子供のような口論(という名のバカ議論)を横目に真田が語りかけて来る。

 

「綾崎、この先お前は玖城と共に長く戦うことになるだろう。」

 

「永く…?」

 

 その言葉に一瞬苦楽を共にすることを誓い、互いに白いスーツとドレスを着用している自分と玖城の姿を連想してしまうがそれを首を振って振り払う、絶対ないそんな未来は!!!

 

「そんな中、きっと玖城は酷く苦しみ、時には崩れ落ちそうになるかもしれない。

 そんな時、一番長く仲間として共に歩くことになるだろうお前が支えてやれ、俺には出来なかった事で人に言えるような立場じゃないが。

 それでもお前なら玖城を支えてやれると思っている。」

 

真田の言葉を受けて綾崎はゆっくりと玖城を見てから力強く頷く。

 

「もちろんですよ、なんならアイツがもう勘弁して、って言っても引きずり回す勢いで行きます!!」

 

「頼もしいなお前、頼んだぞ」





ペルソナ詳細

メサイア・影神 (シャドウ)
アルカナ 愚者
覚醒者 玖城樹下
概要
メサイアに近しいが、黒い外見。狂気的な雰囲気を持ち、荒々しく破壊的な印象。その姿は酷く荒んでいる。
自身と同サイズの大剣を携え、その剣には血のような独特な柄が施されている。
能力
戦闘力 大剣を用いた強力な近接攻撃で、敵を一掃する。爆発属性魔法は物理法則外の純粋な爆発現象を起こし、広範囲の敵を吹き飛ばす。



オグニイェナ
アルカナ 魔術師
覚醒者 綾崎凛
概要
 スラヴ神話の火の女神であり、火と光を象徴する存在。家庭の火を守り、その光は知恵と浄化の象徴とされる。農作業の守護者としても信仰を受ける。
 白と緑を基調に、逆立つ白髪の女人型。両手に大鎌を持ち、それを操ることで斬首や火炎属性魔法等を使用する。
また柔軟な戦略にも適応でき、その応用力は力においてオグニイェナを上回るメサイア・影神を翻弄する程。

能力
戦闘力 二本の大鎌による連撃とその隙間を埋める火炎属性の魔法によって隙を埋めることによる高密度のコンボが可能。




なんか予想より1話1話の文字数がやばい…然し短くしない。多分そんな添削能力俺には無い!!
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