PERSONA EPISODE of SHADOW WORKER   作:漆竜 黒鍵 

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「うんめぇええぇぇええええ!!!!肉うんめぇぇぇえええ」

 巌戸台寮、その屋上で叫ぶ私は頭に包帯を巻いている。先の訓練による怪我だが全治は数日程と言われた。

「いやぁ、まさか勉強漬けのゴールデンウィーク最終日にこんな美味しい思いができるとは……テレジアと玖城には感謝だわ」

「でもその玖城がまさか帰って来れないっていうのは残念だな。せっかく準備してたのに本人が参加出来ないのは可哀想な気もする」

 天田くんは優しいな…。でもまぁ確かに玖城がここに居ないのは不憫だとは思う。
 少ししんみりとしそうになったところで美鶴さんが手を鳴らす。

「まぁ仕方ないさ、我々が身を置くのはそういう世界だ。訓練とはいえこういう事も有り得る。
 明日は我が身とならないよう、みんなも気をつけてくれ。さぁ折角の肉だ、みんなどんどん食べるといい」

「はーい!」

 肉うんま!!!


────────────────────

 焼き立てのお肉を食べて盛り上がる綾崎さんを他所に空を見る。夜空は雲ひとつなく無数の星が広がっている。

「隣、よろしいですか?」

「アイギス…、ええ構いませんよ」

 そんな中私と同じ対シャドウ兵装である妹機のアイギスが隣に座る。今思うと

「ラビリス姉さんとは会話することが多かったですが、テレジア姉さんと話すのはあまり機会がありませんでしたね。」

「確かに…私は貴女が起動する前に停止した個体だったから、目を覚ましたのもついこの間…本当に姉妹と言うにはあまりにも関わりが気薄ですね…」

 アイギスは私の後続機……つまり妹ではあるが、実働期間が私の方が短いので妹という感じがしない…。

「でも、今は話せています。ラビリス姉さんとはまた違うもう一人の姉さん…どう関わればって思うけど、でも大切な姉妹だから…話したい」

 何となくアイギスの顔、特に頬あたりに赤さが見える。ラビリス姉さんもそうだけど、アイギスも私と同じ機械とは思えない反応や行動を良くする。

「………ワタシトハチガウナ」

「?何か言いましたか?」

「いいえ…何も言ってませんよ。しかし話と言ってもこの間玖城さんと一緒に行ったらラーメンの話くらいしか」
「テレジア姉さん、その話詳しく聞かせてもらいましょう」
「ア、ハイ」

 この妹すごい食い気味に…!?

──────────────────────

「……………………………………………………」

「ラビちゃん…ヨダレ垂れてる…」

「せやかて真千琉さん…あんなんアカンて…ウチの…ウチの可愛い妹2人が…2人がガガガガ───!!!」

「ダメだこりゃ…」

 美鶴も相当玖城くんに対するブラコン拗らせてるけど、ラビリスも相当だなこりゃ…と、そんな事を思いながらビールを口に含む。
 玖城くんの施設内療養は明日の朝には終わる。あくまで検査入院という名目にはなっているが、実の所は調査が目的だ。

 あの時のメサイア・影神…と言っていいものか。姿形が全くの別物、力も比較にならないレベルで跳ね上がっていた。暴走…と断定してみたものの、そんな程度の振れ幅とも思えない…。

 そもそも考えればあのメサイア・影神の時点で謎が多い、かつて居た有里くんが目覚めさせたメサイアも概念的で掴みどころが無いと聞く。玖城くんのメサイア・影神に至っては最早出典さえ不明だ。
 現状確認されているペルソナは大抵は伝承や神話から形作られている。精神の外骨格として自分に最も近い性質のそれらの形を採る…だったかな…。

 ……だとしたらあの時の、メサイア・影神から転じていたあの鈍黑の騎士…アレは一体何を元としたのだろう…

「まぁ複数のペルソナを使う彼等に対してそんなこと考えても無駄か………、あ〜呑も」




Derjenige, der die Stunde des Gerichts ankündigt

「あなたに恋をした」

 

 恥をかいたよ、笑いたまえ。愚者を絵に描いたような告白だ。

 

「あなたに跪かせていただきたい、花よ」

 

 これは誰の記憶なのだろうか…。少なくとも俺にこんな過去を経験した思い出は無いし、外国人に知り合いもいない。

 

 このような黄昏が照らす浜等見た記憶もない。

 

「おや、お気に召さなかったかな?」

 

 今思えばこの夢かと理解する。黒い狂戦士の時も白い科学者の時も似たような感覚を覚えていたな。

いや今迄も途中から俺に話しかけて来られてたが、最初から俺に目を向けて話しかけてくるのは初めてだな。

 

「愛しの女神の初めてだと言うのなら、枯れた身ではあれど滾る思いなのだがね。君のそれになんの興味もない」

 

 煩いというかウザイなこの蛇。……?なんで俺はこの男を蛇と揶揄した?

 

 男の容姿は朧げ、辛うじての範囲でその性別とおそらく痩躯な見た目なのだと判別できるほどに不確かで不明瞭。

 いやなんかいやらしい顔をしているような気はするが、それが本当に変態思考をしてるのか張り付いた仮面なのかまでは判別できない。

 

 見ればわかる、然し先程までの俺は蛇と揶揄できる要素をコイツから感じ取れていなかった筈なのに。

 

「然し人の告白現場を覗き見た物の態度とは思えんな。少しは詫びてみてはどうかね?」

 

 …………………………………………………………………!

─────────────────────

 

 

「うっ…………ぜぇ………っ!」

 

 目が開く、医務室のベッドの上での目覚めはここ数日どころか数年で最も倦怠感を伴う覚醒となった。

 ただただあのニタニタ顔が脳裏に張り付いでマジで腹立つ。マジでうぜぇ…1発…いや100発くらいぶん殴れば良かったな…。

 

 ベッド脇の棚に置いてあった折りたたみ携帯を開き時間を確認する…6時か…。桐条の施設であるここから月光館学園迄の距離を考えればもう一度寝ても間に合うが…。

 

 (ふふふふふふふふふふ)

 

 聞こえるはずのない夢の中のあのニタニタ顔から漏れ出すような含み笑い

が耳に届いてる気がする。今寝たらまたあの顔見る気がする……うぜぇ…。

 

「ちっ………行こ…」

 

───────────────────────────────

 

 2014年、ゴールデンウィーク明け一日目である5月7日。時刻もまだ6時ということもあり人の通りが少ない巌戸台の街を歩いている。

 意外と空気が澄んでる気がする、都会特有の匂いも人や自動車の通りが少なければ淡いものとなるのか。

 それでもこんな朝早くからも働く店員がいるであろうコンビニへ向けて胸中敬礼を送れば再び歩き出す。

 

 巌戸台の住宅街。寮と学校との往復だった中等部時代には先ず来ることのなかった場所。高等部に上がりペルソナに目覚めて向こう、シャドウワーカーへの参加をきっかけに桐条グループの施設への道として立ち入るようになった。

 そのお陰で迷うことなく駅まで向かうことも出来る。

 

「……?…ぉぉ…」

 

 そんな道中、思わず目を向けてしまうものを見た。

 

 女だ。それもかなりの美人でスタイルもいい。白衣…研究者がよく着てそうなそれを羽織っている。

 

 だがそれよりも俺の目を引いたのは女性の携える髪だろう。赤い髪、みつ姉やテレジアなんかで見慣れているが、彼女のそれはその赤とは別物。

 俺の知る2人の赤髪が朱や紅と血を彷彿とさせる様な濃い赤であるのに対し、目の前の女性の髪は正しくこう呼ぶのが相応しいと思う。

 

「炎髪……」

 

 炎の明るい赤、黄色っぽくも見えるその髪は俺の目を釘付けにするのには十分だったようで。

 

「おや?」

 

 そんな俺に女性の方も気がついたらしい。互いの赤い瞳がぶつかり合う……あ、この人

 

 ペルソナ使いだ

 

「……」「……」

 

 ということはこの人は…どっちだ…?味方か…敵か…。女性が歩き出す、それに釣られ俺も前進する。

 1歩1歩、互いの距離が縮まっていきすれ違うその刹那────

 

「君とは何が特別な繋がりを感じる。また会える気がするよ、そう遠くないうちにね」

 

 振り返る、しかし女の姿はそこには無い。なんだってんだ…一体。

 

「はぁ…夢と言い今の女と言い…煮えきらねぇ朝だなぁクソ」

「何お前は人ん家の前で悪態ついてんだよ。」

 

 声に驚いて振り返ればそこには青い髪の少女…よく知った顔の奴がいた。

 

「久遠…?なんでここに」

 

「なんでって、そこアタシの家だっつの」

 

 そう言われ近くの家の表札を見る。あ、久遠って書いてある。

 

「そうか…ここがお前の家か」

 

 ってことはマダオ…じゃねぇや、真千琉さんもここに住んでんのか。

 

「来んじゃねぇぞ?」

 

「来るわけねぇじゃろ」

 

 頼まれても来ねぇと思う場所第三位だっつの。ついでに第二位は刑務所で第一位は南条の家。居心地は悪くねぇけど南条のご当主様にはあまりいい印象が無い、悪い人じゃないんだがな。

 

 等と考えながら歩き出「ごえっ」後ろ襟を掴まれる。

 

「おげっ…っ、なんだよコラ」

 

「別に先に行く必要もねぇだろ、アタシも行くから少し待ってろ」

 

「はぁ?」

 

 ……………………………はぁ?

 

───────────────────────

 

 巌戸台駅。まだ7時にもなってない故この時間帯にいるのは朝練目的か周辺企業への出勤者、まぁ時間が時間故後者の方が多い気もする。

 学生がいる時間としては明らかに尚早という状況で俺と久遠が共にベンチ2席挟んで腰を下ろし電車を待つ。何だこの状況、どういう風の吹き回しだ?

 

「俺の記憶違いじゃなければ、お前こんな時間に登校するような奴じゃねぇだろ」

 

「色々あんだよ、姉さんにもそろそろ真面目にしないとドヤされかねないしな。」

 

 あのマダオが人をドヤす?ドヤすのはどちらかと言うとお前のような気もするが……

 

「今なんか失礼なこと考えてんだろお前」

 

「考えてねぇよ」

 

 まぁこんな奴でも身内には弱く、あの真千琉さんでも身内には厳しい一面もあるってことか…。いやだとしても

 

「なんで俺と登校してんだよ…」

 

 少なくとも俺達は妙に波長が合う似たもの同士といえども、互いにモロに同族嫌悪の自己嫌悪タイプ。余程の事情がない限り顔を突き合わす事さえ避け気味だった筈だろうに

 

「まぁお前はどうか知らないが、アタシとしては態々別個行動する程避けようとは思わないからな」

「さようで…」

 

 携帯を開き時間を見る。そして時刻表と見合わせ次の電車までの時間を確認する。まだ10分くらいは来ないのか……長いな。

 

「珍しいと言えば、あの巌戸台寮に住んでるはずのお前があの道を歩いていたのもアタシとしては珍しい話しだが?」

 

「色々あるんだよ、お前がバイト掛け持ちしてんのと一緒だ」

「さよで」

 

 ……まぁこんなもんだろう。俺達の間でさして口にする話題も無いし、共通するものも無い。俺達が互いに似ていると言えどもその中に友好的な感情等は含まれていない。ある種俺と南雲の敵視関係よりも見方によっては悪関係だろう。

 そんな相手だが、コイツには俺の拒食症バレてんだよな……、まぁ言いふらしたりする様な奴じゃないから心配事では無い。

 

「…………」

「…………」

 

 互いに言葉は発さず、無論同じ方向を向いているので視線がかち合うこともない。中庭の柿の木の下での昼食の時と同じ静寂だ。

 あ、分が進んだ。然しまだ電車が来るには先が長そうだ。

 

─────────────────────────────

 

 そして俺達は互いに普段よりも早く月光館に到着し教室に入る。無論クラスメイト達の姿は………居たわ。

 

「おや?おやおやおやおや?玖城に久遠さんではございませぬかぁ、ヌッフッフ。2人して並んで登校とは、善からぬ噂が立っちゃうかもしれませんぞぉ?」

 

「………」「………」

 

 なんとも反応に困る雨瀬の態度に俺達は2人して眉間を抑える。うぜぇ…果てしなく。

 

「うっわ…2人して呆れ顔かよ…私だってそんな態度は傷つくぞ?おん?」

 

「失せろ」「ひっど!?」

 

 雨瀬の鬱陶しい態度に久遠が終止符を叩きつけて机で突っ伏す。容赦ねぇなアイツ。

 

「くぅん…玖城、私とて傷ついちゃうよう」

「うぜぇ」

「あんたもひっでぇな!!!」

 

 肩から掛けていたカバンを机に置けば椅子に腰をかける。そして隣の席に雨瀬も座る。然し

 

「お前毎日この時間にきてんの?」

 

「いや今日はたまたまね、目が冴えちゃったから朝イチに来てやろうって思ったの。でもダメだね、やっぱ運動部のみんなの方が早いわ」

 

 月光館はここ数年でやけに運動系部活が活気付いたと天田も言ってたな。確かボクシング部で活躍したOBに感化されたとか……、敢えて誰とは聞かなかったが絶対俺の知り合いだろう。

 それのせいかは知らんが、我が校の運動部の朝練はかなり早い時間から行われているらしい、ご苦労な事だな。

 

 そういや

 

「雨瀬の髪も赤だな」

 

「およ?今更?まぁ私のは赤というかワインレッド?というか、まぁ複雑な色だよね」

 

 俺の周りには赤い髪の女がやけに多い気がするな…みつ姉にテレジア…そして雨瀬…か。

 

「奇縁だな」

 

「おうおう?人を珍獣扱いかこら」

 

 うるせぇなコイツ。でもまぁ、こんな奴だから周りの奴らもコイツのことを好ましく思うんだろうな。マスコット的な感覚で。

 

 

─────────────────────────

 

「にぇっへらぁ……」

「きっっっしょ」

 

 移動教室の際偶然天田と綾崎に会ったのでテレジアと共に4人で立ち話をすることにした。然し綾崎のこの顔…異様ににこやか過ぎる…

 

「薬やってんのか?」

 

「いやあの肉はマジでそのレベルよ……今まで私が食べてたやっすい肉のなんとまぁ不毛な事か」

 

「親に謝れお前、そしてお前が食材を語るな料理雑魚」

 

 手四つ開始、コイツ戦闘訓練の時も思ったが腕力強いな。

 

「まぁまぁ2人とも落ち着いて。でも綾崎さん程じゃなくても昨日のバーベキューは楽しかったな。よくあんなセット用意できたね?」

 

 天田の言葉に反応して手を払う。

 

「寮の物置で前々から見つけてたんだよ。ただまぁ荷物の奥の方にあるし1人じゃ出すのが億劫だったからテレジアに手伝って貰えてよかったよ」

 

「一仕事終えた代償に少々埃にまみれましたがね。然し成果は十二分ですね」

 

「ほんっと美味しかった、勉強の疲れも吹き飛んだよ。玖城もテレジアもありがとね」

 

「僕からもお礼を言うよ、ありがと」

 

「もういいって…」

 

 目の前で見れなかったのは残念なくらい今でも喜び続けてる2人と別れ、俺とテレジアは移動先へ歩き出す。

 

「結果はどうあれ、ある意味玖城さんにとっては都合が良かったと言ったところですか?」

 

「怪我の功名って奴かもな、でもあんだけ喜ばれると参加出来なかったのは少し惜しいな。」

 

「肉を食べれないことに対する口惜しさも含めて?」

 

「含めて」

 

 コイツ結構遠慮なく剃刀並の切れ味コメント叩きつけてくるな。まぁ気にならないけど。

 

─────────────────────────

 

 さて……。

 

 昼休みになったので俺は教室内の昼食ムードから逃げるかのように席を立ち扉へと近づき手を

 

「退けノロマ」

「どっべふっ」

 

 久遠に突き飛ばされ掃除用具入れと熱い抱擁を交わす。おい、この構図2回目だぞ……。

 

 気を取り直して昼休みをどこで過ごすかな。

 

─────────────────────────────

 

「世の中象牙の印鑑とかがあるけど、もしかすると昔は人の歯で作った印鑑なんかもあったのかもなって思うわけよ。」

 

「それは態々校内を放浪してる俺を捕まえて話すような内容なんすか?」

 

 昼休みをどう過ごすかを考えていた時に俺を連行した相手、現生徒会副会長であり中等部時代にもお世話になった栂和先輩を睨む。

 

「でも実際やろうと思えばやれる技術は当時でもあったんだから可能性として」「失礼します」「おっと副会長からは逃げれんぜよ」

 

 うぜぇ……この男うぜぇ……

 

「露骨に嫌そうな顔するな玖城は…。でもまぁそういう正直なところは好きだよ俺は」

 

「んで?なんの用だったんすか?」

 

「用がないと後輩に話しかけたらダメかい?」

 

「お疲れ様でした」「あー!嘘嘘ごめんごめんっ!」

 

 立ち上がろうとする俺の両肩に手を置いて制して来る。

 

「飯食う訳でもないのに昼時を奪われてんだから早よしてくれよ」

 

「たはは、わかったわかった」

 

 栂和先輩が向かい側の席に座る。その顔は先程までのアホ面とは違い真剣なものになる。

 

「来季…つまり秋からの話になるんだが玖城、天田と一緒に生徒会に参加してくれないか?」

 

「嫌です」

 

「そうか、なら推薦の書類に……今なんと?」

 

 まぁ中学の時からの、天田と同じくらいの時期付き合いのこの人の事だからそれ関連とは思ってたが

 

「色々訳ありでね、学校の政に手を回す余裕ないんすわ」

 

「そうか……最近の様子から色々あるんだろうな、お前も」

 

 …………この人のこういう妙に感の働くところは尊敬できても苦手だ。

 

「わかった、無理強いはしない。ただ天田も居ることだ、たまにでも余裕が出来たのなら手伝ってやって欲しい。お前のことも俺は信頼できると思っているからな」

 

「……そっすか」

 

─────────────────────────────

 

「ということで振られちゃったわ」

 

「まぁ仕方ないですね…中等部の時なら兎も角、最近の玖城は本当に余裕がなさそうですし」

 

 昼休みも終わりの頃、栂和先輩から電話が掛かってきた。玖城を生徒会に誘うって言ってたけど、今日実行したんだ。

 

「天田も、玖城が居たら何かと都合が良いだろ?」

 

「確かに居るか居ないかならそうですね。でも仕方ないですよ、そもそもとしてアイツがそういう立ち位置が好ましくないって感じですし」

 

「だーよね…はぁ…。今のうちに俺が生徒会長になった時にいい感じに脇を固めてくれるやつが欲しかったんだがなぁ…。残念だ」

 

 この人は…本当になんというか、何処まで計算して行動してるんだろう。ある意味美鶴さんにも似た強かさを感じる。いや風花さんの感じに近いかもしれない。

 

「あ、そうだ天田。"桐条関連の用事"の日時って予定通りで?」

 

「大丈夫です。…この件も含めて生徒会に玖城もいてくれたら口裏合わせれたんだけどな」

 

 

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「…げ」「うわ…」

 

 栂和先輩から解放されて教室に戻る途中、昼食を終えて中庭から戻ってきた久遠とバッティングする。お互いに顔が引き攣る。然しここで態々タイミングをずらして戻るのは面倒だ、なので渋々合流して教室に戻る。

 

「………お前またアンパン食ったろ」

 

「アタシの食になにか文句でも?」

 

「食に関してはないが、口元にあんこ付いとる」

 

「っ!」

 

 俺の指摘に反応し裾で口元を拭う久遠。あー横着しやがって……

 

「反対だ、こっち向け」

 

「っ……」

 

 言われるがままに此方を向いた久遠の口元をウェットシートで拭いてやる。ったくなんで俺がこんなことを…

 

「はっ、綺麗になりましたよ姫様」

 

「ちっ、ご苦労」

 

 互いに睨み合いながら歩いて教室の前に到着。俺は前の入口から、久遠は後ろの入口から入室して互いの席に戻る。雨瀬が何やらまたニマニマして此方を覗いていたのでその額に向けて消しゴムを投げつけて撃沈させる。

 

──────────────────────────

 

 放課後、今日は特に何か用事がある訳でも無いので寮への帰路に着く。まぁあくまで用事がないのは俺だけであり、綾崎は以前の小テストの補習、天田は生徒会、テレジアは桐条のラボへ武装のメンテナンスに行くらしい。

 

 暇人飯食えない民の俺は訓練なしの日は学校と量の往復のみ、実に学生として健全では無い。然しなにかこの状態でやれる楽しみがある訳もなく、こんな時女でもいればデートしたり…あ、そうかデートで下手すると飯食うのか、ダメじゃん。

 

「はぁ……」

 

 不毛過ぎる最近に溜息が出てくる。そんな俺の背中に走る強い衝撃によろけ校門の門柱に激突する。

 

「ぐべ」

 

 日に二回の無機物との抱擁、この現状を創り出した女へと睨みを飛ばす。

 

「久遠…テメェ」

 

「ツラ貸せ玖城」

 

──────────────────────────

 

「ほらよ」

 

 久遠に連れられ長鳴神社に立ち寄れば振り向きざまに投げ渡されるものを受け取る。これは………!!!

 

「メックスコーヒーじゃねぇか!!!しかもペットボトル!?」

 

 正気か、こんな甘ったるいものを500ml売り!?

 

「好きだろ?」「好物だ」

 

 この正気を疑う狂気の沙汰…メックスコーヒーは俺の好物でもあった。

 

「相手がお前とはいえ、このコーヒーの良さをわかるやつが居ることはアタシとしても気分が良い。ああほんとお前じゃなけりゃ談話に花が咲くんだがな」

 

「悪かったな俺で、金は」

 

「良い、こっちの都合に付き合わせた訳だからな。迷惑料として受け取っておけ」

 

 む、そういうことなら遠慮なく頂こう。キャップを開き容器に口を着け飲み下す。体に悪いとわかっていてもこの甘い汁が体に染み渡る感覚は堪らない。飲み物だけは何とか飲める現状において忘れかけていた悦楽を蘇らせるには丁度いい刺激だ。

 

「玖城、お前姉さんが何してるか知ってるか?」

 

 だが夢から覚めたような感覚を覚えるその問いかけに喉が止まる。ああそうだ、コイツは真千琉さんの妹だ。であれば姉がどんな事をしているのか気になるだろうし、それがどんな事かも大方察しているのだろう。

 

 だが

 

「………………………」

 

「そこで黙るってことは………はぁ…、そうかお前は知ってるんだな。なぁ、それをアタシに教えることは」

 

「……ダメだな。諦めろ」

 

 言えるはずが無い、1歩間違えれば命を捨てる事になる殺し合いの中にお前の姉貴が居る等と。そしてそれをコイツが知る事を真千琉さんが望むわけがないのだ。

 

「………その態度が語ってる。言えばアタシも巻き込まれるってことか?」

 

「さぁな、なんの事やら」

 

 睨みつけてくる久遠から肩を竦めながら背く。沈黙や諦めろって言葉じゃなく、最初から突き放すべきだったと後悔する。こんなものコイツの予想を肯定しているようなものだ。

 

「話はもう終わりか?コーヒーには感謝するが、無駄な出費だったな」

 

「……そう…だな。悪いな」

 

 詫びるなよ、お前はそんなキャラじゃないだろ久遠……いつものように不遜な態度で俺に皮肉言えよ馬鹿野郎が。

 

 振り返り文句のひとつでも叫んでやろう、そんな弱気のお前じゃ張合いが無いと罵って発破掛けてやろうとした時

 

 

 

 

 

 世界が暗転する。

 

─────────────────────────

 

 世界がズレる。影時間が訪れる瞬間はそんな不思議な感覚を毎度覚える。

 

 補習を受けていた教室から出たその瞬間、校内の灯りや人の活気全部が霧散する。影時間、またエルゴノミクスが動き出したのだと認識するが。

 

「もう!携帯も使えないから誰とも連絡取れないじゃん!!」

 

 こういう時玖城が居たのなら感知の素養を頼りに状況の把握もできるというのに、そう少しの苛立ちを覚えた瞬間人の気配を感じる。

 

「綾崎さん!」

 

「天田くん!!それに…え?栂和先輩?」

 

「説明は後だ、エルゴノミクスだろ?とにかく学園の外に、ここからじゃ今の状況も分からない」

 

──────────────────────────

 

 見ていたテレビの電源が落ちる。それが何を意味するのかを理解するのに秒も掛からない、影時間だ。

 

「グルルルルルル」

 

 コロマルもそれに気がついており既に戦闘態勢へ移行している。私も同様に自室から斧を携え寮の外へ飛び出して絶句する。

 

「な、なんやのこのシャドウの量は…!!」

 

 寮のの周りだけじゃない、巌戸台の街並みの至る場所に蔓延るその異形の群れに若干の吐き気さえ催す。これは明らかにおかしい、エルゴの持つ影時間の再現装置の発動と言うだけでは余りにも規模がデカすぎる。

 

「ワン!!!」

 

「っ!せやね、考え込んどる場合やない。コロちゃん、背中は任せたで!ペルソナ召喚シーケンス実行!アリアドネ!!」

 

 巌戸台の街の中に現れる2体のペルソナ、私のペルソナであるアリアドネとコロマルのケルベロスの2つがシャドウの群れと相対する。

 

「さぁかかってきぃや!一匹残らず蹴散らしたる!!」

 

────────────────────────────

 

 メンテナンスカプセルの中でその喧騒に気がつく。外の様子が騒がしい、何かが起こっているらしい。そんな中私の収容されているカプセルに真千琉さんが近づく。

 

「ごめんテレジア、メンテナンスは一時中断させてもらうよ。」

 

 その言葉と同時に開け放たれた蓋から飛び出して真千琉さんを見る。

 

「影時間の再現がまた行われたの。今からラボにいる美鶴や真田、それにアイギスとも合流するから着いてきて」

 

「了解しました。然しこの喧騒は只事じゃありませんね」

 

「まぁね、今まで限定的に発動していたものが今度は巌戸台や辰巳ポートアイランド全域を包むように発生したんだ。」

 

「!?そんな広い範囲で……原因は?」

 

「わかってたらこんなに慌ててないよ。とりあえず急ごう」

 

 分からないことだらけで情報の処理が追いつかない。然しこれだけは何となく分かる。

 

 自分が友人であるあの人を、玖城さんを気にかけているという事。

 

「どうかご無事で……」

 

────────────────────────

 

「……っ」

 

 頭が痛い。影時間が訪れたということは理解出来たが、そこで俺の思考が纏まらなくなる。

 頭が割れるようだ、まるで脳天から脳内へ音叉をぶち込まれて鳴らされ続けているような痛みに悩まされながらも久遠を連れて長鳴神社の本殿の中へ潜り込む。

 

「おい、玖城…これは一体どうなってんだ…!?」

 

「どうもこうもあるか、見ての通りだ」

 

 2人して障子の隙間から外を眺める。そこかしこに蔓延るシャドウの群れに若干の気持ち悪さを覚える。久遠もまたその光景に短く小さな悲鳴を上げて後ずさる。

 

 数が多すぎる。ここに入るのがもう少し遅れていればアイツら全員に囲まれていただろう。

 こういう時山岸さんみたいにテレパシーによる通信が出来たなら助けを呼べたかもしれないが…生憎そこまでの素養は俺にはない。

 いや仮にあったとしてもこの頭痛の中でそんなことをやれる程の手腕は今の俺には備わっていないのが現実だろう。

 

「クソ…」

 

 というかなんだこの頭痛は…先程まで何も無かったのにいきなり襲ってきやがって…!!

 

「玖城…お前汗が」

 

「気にすんな、それよりあんまし俺から離れ────っ!!!」

 

 瞬間久遠を抱き寄せながら障子を突き破り本殿から脱出、先程まで俺たちがいた場所へ突き刺さる数多の剣。その柄は黒い手によって握られており、本殿の奥には青い面が浮かび…いや、剣を持つ物と同じ手で支えられ此方を向いている。

 

「っ…な、なんだあれ…!!」

 

「シャドウ…!?いや、だとしてもデカすぎるだろ…!!」

 

 本殿の奥からそれが外へと這い出てくるその全貌は正しく異形。無数の腕が幾重にも織り重なり絡まっており、無数の剣と1枚の面を持った巨大なシャドウ。

 周りに湧いている小物等比較にもならないほどの強大且つ巨大なそれに俺も久遠も息を飲む。

 

「久遠、走るぞ!」

「え!?あっおい!?」

 

 この場で俺一人に負える規格じゃないと悟れば即座に久遠の手を引いて走り出す。寮に行けば少なくともラビリスとコロマルが居るはずだ。であれば彼らと合流しようと境内から階段を降りようとし───────

 

「クソが…!!」

「こ、こっちにもかよ…」

 

 後ろの大型とは別の大型、女のシルエットを持ち左右で白と黒で別れた色彩。髪と思われる部分は帯状、それが境内の階段を完全に塞いでいる。

 

 逃げ場がない、であれば戦うしかない…然し収まることのないこの頭痛が俺にまともな戦闘をさせることを阻んでくる。だがな

 

 

 「久遠、少し頭を守りながらそこにしゃがんでてくれ」

 

 戦わないって選択肢が無い以上やるしかねぇだろぉが!!!

 

 懐から召喚器を取り出し顳かみに押し付け引き金を引く

 

 

「ペルソナ!!!メサイア・影神!!!─────────は?」

 

 引き金を引く、引く、引く、引いて、引いて……出ない…だと…!?

 

「……っ!!クソが!!」

 

 俺は召喚器をその場に捨て前進。無数の腕を持つシャドウへと無謀の特攻を仕掛ける。

 幸いにも階段を塞ぐシャドウは不敵に笑うのみで此方へは向かってこない、つまり目の前の腕のシャドウさえ抑え込むことが出来たなら仲間が来るまでの時間稼ぎは可能。

 

 故に特攻。無謀と解っていてもこうしなければ時間を稼ぐ方法がないのだからやるしか──────────「げァっ!?」

 

 足が地面から離れる。無数の腕から繰り出される複数の切り上げがこの胴体を刻み打ち上げる。

 そして落下、階段へと叩きつけられ下まで転がり落ちていく。

 

 視界に赤が混じっていく。頭部や口元から垂れる血が眼球に侵入し溜まっているのだろう。その視界の中に見える女型のシャドウの仮面と不敵な微笑みが途方もなく腹立たしい。

 

 然し悔しいことに声の一つも絞り出すことが出来ない。頭痛は今もまだ止むことはなく俺に襲いかかり続けている。

 

「く──う!お─しっかり─ろ!!…っ!血─…くそ!─い!!!」

 

 おいマジかよ、俺ここで死ぬのか?最後の景色は気持ち悪いシャドウの笑みと久遠の泣きそうな顔…?なんだそれ……笑えねぇぞ…こら。

 

───────────────────

 

「そうだ、認めてなるものか。私もお前もこんな結末など望んではいない。だがさてどうしたものか、今のお前では我らの残滓を使える状態にない。何かしらの干渉を受けている様だ。

 鎖のような物がお前に纏わり憑いている。先ずはそれを払う為に、彼女の覚醒を促そう。

 

 それではここで一つ、皆様私の喜劇を御観覧あれ。筋書きは酷く在り来りに思えるが、今回も以前同様役者は良い、私はそこそこに好ましく思う。故に」

 

 

 面白くなると思うよ

 

────────────────────

 

「くそ!おい玖城!しっかり───ガッ!?」

 

 倒れて動かない玖城の身体を揺する最中、頭に走る割れるような激痛に蹲る。

 

「あっ……はっ…がァ……!?」

 

 視界が滲む、息が出来ない、心臓が痛い程に脈打つのが分かる。このままでは死んでしまうのではないかと思えるほどの苦痛の中、手の中にある先程玖城が捨て置いた銃を無意識に顳かみに押し当てていた。

 

 《我は汝、汝は我。汝その撃鉄を打ち鳴らし、今こそ我を呼び込め》

 

「………良いだろう。今のこの状態から抜け出せる手になるのなら、アタシの元に来い!!!」

 

 引き金を引きソレを呼び込む。力の奔流が巻き起こり次第に1つの形へ収束していく。

 

「定まれ、クラマテング!!」

 

 先ず目に入るのは漆黒の翼。左右一対の巨大なそれに打たれる風が一つの物理的障壁と化し拡大、周囲の小型シャドウを一掃する。拡翼を果たせば女性的シルエットを持つ和装と赫色の長鼻面を被る天狗の姿が晒される。

 

 そしてペルソナ・クラマテングの双眸が玖城を睨めば一閃、手に持つ刀を玖城の紙一重を通過する。

 

「目を覚ませ玖城、もうお前を煩わしていたものは何も無いはずだ」

 

─────────────────────────────

 

「…そうらしいな」

 

 真っ赤に染まったままの視界を腕で拭えばゆっくりと立ち上がる。階段の角でぶつけた身体の至る所が痛い……だがその痛みが自分の命が途絶えていないことを克明に告げていて心地がいい。

 

 不意に飛んでくる召喚器を片手で受け止めその大元を睨む。そこにいるのは俺と同様にメンチを切る久遠が居る。

 

「いい力だな、いやそうかお前」

「言いたいことは後でいいだろ、そんなことより」

 

 同時に飛び退く、先程まで俺達がたっていた場所に注がれるのは先程同様の無数の腕に加え無数の帯。

 

 久遠は未だペルソナを展開し続けている。そして俺も同様にペルソナを召喚、先程はスカシを食らったメサイア・影神を呼び出せば睨み上げる。

 

「召喚出来なかった理由が分からんな」

 

 先程までの頭痛がどうして訪れていたのかは不明だが、今は目の前のシャドウを殲滅することに意識を傾ける。

 

────────────────────────────

 

「ぬぁああああああああ、み、美鶴ぅ〜!?」

「みっ、みっちゃん落ち着いて!落ち着いてぇ!ひっ!?壁にぶつかっ───」

「るものかァァァァァァァ!!!!」

 

 影時間の中に響き渡る駆動音と真田さんと真千琉さん、そして美鶴総帥の叫び声。現在私達は美鶴総帥自らが運転する特殊車両ひて並み居るシャドウを轢き倒しながら疾走する。シャドウは的確に轢き、そして人が象徴化した棺や建物などを見事としか言えないドリフト走行を以避け続け───

「あうっ……」「痛っ!!」

 

 隣に座っていたアイギスと額同士が激突して痛い。

 

「て、テレジア姉さん……大丈夫ですか?」

「もう居なくなった三式と四式のお姉ちゃん達が手を振ってお花畑で笑っていまふ」

「しっかりしてください!?」

 

 流石最新モデルのアイギス、重要部の装甲が私のものよりも強固だ。

 

「ワタシトハチガウナァ」

「姉さん!!しっかりしてください!!美鶴さん!姉さんが!テレジア姉さんが危篤です!!」

「待っていろ樹下ァァァァァァ!!」

 

 口から機械の私には無いはずの魂が抜け出している感覚に襲われますが、おそらく気のせいだと思いましょう。

 

 然し先程聞いてはいましたが

 

「やはりかなり広範囲で影時間が再現されていますね」

 

「め、目の焦点が……姉さんの目の焦点が……!!」

 

 おっと、まだ直りきってませんでしたか。慄くアイギスを他所にある程度落ち着きを取り戻した車内で真田さんと真千琉さんも表情を硬くしていく。

 

「さっきから轢き倒しているシャドウも、以前訓練で玖城達と戦わせたものとは明らかにレベルが違う。それにこのひりつく感覚、何時ぞやの満月の日を思い出す。美鶴、まさかとは思うが」

 

「明彦、その感覚は間違いじゃない。出ている、あの時と同じ規模のシャドウがな」

 

 一際大きく揺れる車体。おっほ、アイギスが揺れに耐えかねて寄りかかってきた、これが妹愛……!!

 

「けどあの時のシャドウ、記録しか見てないけど、満月の時に出るんじゃないの?満月までまだ8日あるけど」

 

「その辺は俺達にも解らん。だがあの時と今では状況も違う」

 

「明彦の言う通りだ。あの時は影時間の満月、ニュクスの影響もあり満月の日に現れていたが、今そのニュクスは月に居る訳では無い。それにここは本来の影時間ではない。その証拠に」

 

 そう言うと総帥は窓越しに空を指差す。私達はその先を臨み息を飲む。

 

「ここでは常に月は満ちている」

 

───────────────────────────

 

「でもさ」

 

 天田くんや栂和先輩の話を聞いていて何となく疑問も感じる。

 

「今までも同じように影時間が再現されてたけど、こんな広範囲だった事も無かったよね?それにその大型シャドウも出てこなかったわけだし」

 

 それに今までも影時間になった時は満月だったのだ。それが何故今さらこんな規模の範囲と強力なシャドウが現れるんだろう。

 

「多分今回だけは何かが違うんだと思う」

 

「その何かってなんだろう?」

 

「えっと……それは僕にもわかんないけど」

 

「それがわかってたら対策できたでしょ?」

 

「あ、そっか」

 

 確かに栂和先輩の言う通り、分からないからこうなっているんだ。

 

「そんなことより先ずは目の前のシャドウだ。まだ学校の中には生徒も残って居るんだ、そんな中にあの大群が押し寄せて来るのは避けていだろ」

 

「そうですね……、あの数に襲われたら痕跡も残りますしそれに無気力症が大量に発生する可能性も高い」

 

「3人だけであの数……少し気が滅入るなぁ……………何よ天田くんその顔、栂和先輩も」

 

「え、いや……」

 

「綾崎ちゃん……滅入るなんて言葉知ってたんだ……て」

 

「……………………………………………」

 

 こいつら置いて帰ろうかな。

 

「いや、悪気があった訳じゃなくて……その綾崎ちゃんかなり凄まじい点数取ったって聞いてたから……その」

 

「栂和先輩……もうやめましょう……綾崎さんの顔が凄いことになってます。無ですよ無……もう何言っても怒られるしか無いです……」

 

「はい……ごめんなさい」

 

 とりあえずこの2人は後で焼くとして、先ずは目の前に迫る脅威だろう。気が滅入ってしまいそうだが、今ここに居るのは私達だけなのだからやるしかないのだ。

 

「二人とも構えて、じゃないと2人とも股間の大切なものを捥ぐよ」

 

「あ、はい」

 

「あはははは、怖い」

 

───────────────────────────

 

 ダメだ……これはマズイ。

 

「グッ、あかん……数が多すぎる……!」

 

 大斧を振るい襲い掛かるシャドウを叩き落とす。この動作を最早どれほど繰り返しているかが解らない。隣のコロマルも苦無を咥える口から荒い息を吐いている。

 対シャドウ特別制圧兵装である私と歴戦の猛者とも言えるコロマルでも明らかに無勢すぎるのだ。私はともかく生身のコロマルにはペルソナを召喚する程の精神力が欠けてきている。

 

「っ!ワン!グルルルルルル」

 

「ふふ、せやね。コロちゃんはまだ年寄り扱いされるような歳やないもんな」

 

 と、この軽い会話でさえかなりきつい状況。そんなジリ貧の状況を更に囃し立てる様な胸のザワ付き。根底にあるものが何であるか、その心当たりに身体が自然と震えてくる。

 

「ホンマ……難儀な機体やわ……」

 

 疼く胸、内側から叫びを放つものを感じている。この影時間の中で全てを照らし続ける巨大な満月。それに充てられ活性化しているのはシャドウだけではない。私の人格、ペルソナ使いとしての核とも言える黄昏の羽根もその影響を受けているらしい。故に

 

《うふふふ、あはははは、あーはっはっはっ!!》

 

 このドス黒い果てしない破壊衝動を抑えるというストレスも私を苛む要因と言える。

 

「ほんま……勘弁して欲しいわ……!」

 

 そんな中に響く駆動音。この音は……!

 

「やっと……来たやん……!」

 

──────────────────────────

 

「ぉぉおおおおおお!!」「はぁぁあああああああ!!!」

 

 長鳴神社内を駆け巡る2つの黒影。無数の腕の無数の帯、それらの応酬の隙間を縫う様にすり抜けその持ち主である2体のシャドウをほぼ同時に強襲する。

 

 頭痛は嘘だったかのように晴れている。そして身体の損傷具合とは反比例するかのように気分と調子は頗る良好に過ぎる。

 そしてそれは俺だけでなく、たった今覚醒を果たしたばかりの久遠も異常な程の戦闘力と影時間やペルソナへの順応性を発揮し続ける。

 

 故にこの現状は必定。今の俺達の戦力は既に目の前の大型シャドウを大きく凌駕しているのだろう。

 

 女型のシャドウから向けられた帯を徒手で受け、その指の接触で引き裂き掴むメサイア・影神。そのままそれを引き寄せ本体を血濡れの大剣に両断。

 

 そしてクラマテングも同様、無数の手を持つシャドウの繰り出す刃の悉くを神速の刃にて弾き粉砕。その距離を詰めて行けば一閃、叩き込まれる足刀が青の面を四片へ変える。

 

 先程の劣勢が遠い過去が如くの戦局、然しどういう訳か全く達成感が無い。何かが間違えているような、なにかの掌で踊らされているような。

 何かとんでもないことを為出かしてしまっている様な気さえする。この不吉な予感を払拭するかのように、2体の大型シャドウへ注がれる終の一撃。

 

 消滅は同時、大型の2体が消え去るのを見届ければ崩れかける身体。それを支える力が後ろから加えられるが

 

「……よぉ久遠姫、随分ボロボロじゃねぇの」

「黙れ……今お前の軽口に付き合ってられる程体力ねぇよ……」

 

 互いにそのまま地に腰を降ろす。互いに反対方向を向いて顔を見ることは無い、然しまぁコレが俺ららしい関係性とも言える。

 

「…………なぁ玖城……もしかしてお前の拒食症って」

 

「………………」

 

「いやいい……何となく解ったよ。確かにこんな力でどんな事が起こり得るかを考えりゃ納得だ」

 

「それでも平然と飯を食えるやつもいるだろうがな、俺の弱さの証だよ」

 

 もう一ヶ月、あの覚醒の夜を思い返し溜息を着く。理由がどうであれ殺戮のトラウマは未だ鮮明に思い出せる。

 

「まぁ……今はそれより」

 

 互いに預けあっていた背中を離そうとするが脚に力が入らない。背後にいる久遠もそれは同じようで俺達は互いに動ける状態では無いらしい。

 

「…………玖城……重い」

 

「お互い様だ馬鹿」

 

 ………………何だこの空気?なにか妙なムードが流れてるような……。いやいや俺と久遠だぜ?そんなもん流れる訳ねぇだろ。

 然しこういい雰囲気を感じてしまうと、思うところも無い訳では無い。

 

 そんなアホなことを考えていた時、突如脳裏、いや魂の奥底に叩き付けられる圧倒的な質量に身体が震え出す。その震えは俺だけでは無い、久遠も歯が音を鳴らすほどの震えを起こしている。

 

 なんだ……、何が起こっている……!?

 

───────────────────────────────

 

「まぁ、色々イレギュラーはあったが、概ね有意義な時間だったと言えるだろう」

 

 おどろおどろしい月光が辺りを照らす中、転がる複数の黒服の姿。エルゴノミクスの構成員であり、そしてその中心にて構成員の1人を踏み付けながら月を睨む女もエルゴノミクスの一人。

 

「然し随分勝手なことをしたねお前たちも、あらゆる作戦や計画は順を踏んだプランというものが存在している。今回はこの程度の誤差で修正範囲内だから良かったが、余り酷く狂わされたら総て諦めなければならなくなる。謹んで欲しいものだ、な」

 

 そう言い切ればこの瞬間まで踏みつけていた黒服の女性の頭をあらぬ方向にへし曲げ絶命させる。絶命に至った彼女こそ今回影時間を再現した張本人であった。然しもう居ない、居なくなってしまった。

 

「計算外の事が起こりすぎたと喚いて泣きついて助力を乞う、いい迷惑だ。まぁ有意義なものにしてくれたから、迷惑料は君の命だけで済ませよう。他の彼らは延命だ」

 

 炎を彷彿とさせる特徴的な赤い髪、正しく炎髪と表現するに相応しいその長髪を靡かせてある方角を見る。

 

「トリガーは総て揃った、これでようやく第2段階だ」

 

 眼鏡の奥に垣間見える深紅の瞳、その目の先にある物を見つめ口角が上がる。

 

「奇跡の神器を手に入れる為に、君達には頑張ってもらうよ?」

 

 




 多分読んでる人はペルソナやったことある人かな?ない人かな?全作品やってる人かな?

 とりあえず多分皆が思ってる奴の7割は使う予定ではあるよ。

さて、今日の紹介は彼女だ

久遠 冬祈(ふゆき)
基本情報
年齢 16歳
性別 女性
クラス 1年F組
誕生日 12月25
居住地 巌戸台近辺
外見
身長 163cm
体型 外見スレンダー(かなり着痩せするタイプ)
髪色 紺
目 黒と黄色のグラデーション

服装 後ろ髪はやや持ち上げ気味でまとめ上げられており俗に言う盛りスタイル、顔した半分を覆う黒いマスクと一昔前のスケバン風の学校での姿。
 私服は青いデニム生地のアウターに臙脂色のパーカー。黒い綿パンと寒色よりの服装を好んでいる。

性格 一匹狼気質であり酷い皮肉屋。周囲との馴れ合いを好まないという点では玖城に似通うものもあるが、此方はより敵意が混ざるような形なので不良のレッテルが似合う。
 玖城とは性格や思考回路が一致することもあるが同族嫌悪からそこまで良好な関係ではなかったが…………(この先はここから決まる。)

ペルソナ詳細
名前 クラマテング
アルカナ 審判
覚醒者 久遠冬祈
概要
 鞍馬山の奥、僧正ヶ谷に住むと伝えられる大天狗。牛若丸に剣術を教えたという伝説で知られる。
 当ペルソナは女性的なシルエットを持ち、赫色の長鼻面を被る天狗。黒い翼を携えており、その羽ばたきのみで嵐を発生させることも出来るが疾風属性のスキルや耐性は無い。手には一振の刀が握られている。

能力 物理系統のステータスが高く、魔力は並。速度においてはオグニイェナを遥に凌いではいるが、覚醒者の性格上直線的な速度の運用になる為技巧型とはならない。

 状態異常やステータス異常を解除するアムリタやデクンダの使用も可能。

 また今の時点の本編では未登場だが、重力操作を可能とする属性魔法「グライ」系のスキルを習得している。


前回玖城が真千琉に失礼なことを言うと言ったな、あれ忘れてたわ()
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