戦場駆ける白き野兎   作:バサル

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こういった話を書いてみたかったので。
きっちり完結させますので、読んでいただければ幸いです。


第一章 国境防衛戦
第一話


 世界は何時だって理不尽で、残酷で、こんなはずじゃなかったってことばかりだよ。

 

 誰かがそんな事を言っていた気がします。

 

 でもそんな世界でもやらなければならない事があるのなら、出来る限り生きて、やり遂げなければならないのです。

 

 理不尽な世界の中で生きたボクは死んで、私になって。

 

 そして新たに目覚めた世界は、命がとても軽い殺戮の世界でした――――

 

 

 

 目が覚めて、辺りを見渡せば土の香り漂う塹壕の中。

 

 これが今、私の生きる世界です。

 

 私の名前はナナシ・エルフィー。

 

 11歳で、()()は女の子をしています。

 

 現在の部分を強調するのは別に手術をしたからという訳ではなく、私が生まれる前――――つまり前世で私は男だったからです。

 

 世にいう異世界転生という奴でしょうか。

 

 前世で死んだ私は何故かこうしてこの世界に転生し、今では女の子として人生を送っています。

 

 ここは私の祖国トゥーリス大公国と隣国オーガ連邦の国境線。

 

 そして両軍が今まさに争っている戦争の最前線真っ只中です。

 

 事の発端は隣国オーガ連邦による一方的な侵略行為。

 

 彼らはある日突然軍隊を率いやってきて、国境深くにある村や町を焼いていきました。

 

 当然そんな行為が許されるはずも無く、トゥーリスはオーガに対して抗議を行います。

 

 しかしオーガは悪びれも無くこう言いました。

 

 

 曰く、我々はトゥーリスの圧政に苦しむ人々を助ける為、慈善活動を行っていると。

 

 

 オーガの言う慈善活動の所為で、何人もの罪のない人達が殺されていきました。

 

 国境近くにあった私の故郷も、家族も全て。

 

 オーガはとても大きな国であり、国土、兵力共にトゥーリスを圧倒しています。

 

 故にオーガは、トゥーリスが泣き寝入りするしかないと踏んでいたのでしょう。

 

 しかしトゥーリスの人達は、ただ黙ってやられる様なヤワな人達では無かったのです。

 

 すぐに国中から予備役含む兵隊をかき集め、それでも足りない部分は民間から募集を掛け対処し、こうして国境に防衛線を張りました。

 

 オーガは防衛線を張った私達に対して大量の兵を差し向け、それを迎撃する日々が続いています。

 

 さて、私は本来なら兵役の最低年齢にすら届かない11歳でこうして戦場に立っているのですが、それには2つの理由があったりします。

 

 一つは今が祖国存亡の危機であり、一人でも多くの兵隊が必要な為兵隊の最低年齢が引き下げられた事。

 

 しかし、幾らなんでもそれで11歳の女の子がポンと戦場に送られる事はありません。

 

 ならばどうしてこうなってしまったのか。

 

 そこには二つ目の理由が関係してきたりするのですが――――

 

「ナナシ二等兵!」

 

 突如塹壕の中に大柄な男性が飛び込んできました。私はすぐさま直立姿勢で敬礼の形を取ります。

 

 この方はガルド小隊長。私が現在所属しているガルド小隊を指揮している方です。

 

「敵が動き出すようだ。只今を持って索敵任務に復帰せよ」

「了解しました。ナナシ二等兵、只今を持って索敵任務に復帰致します。索敵魔法の使用許可を願います」

「許可する。周囲の索敵が完了次第、ヘルシェ上等兵と合流して警戒任務に当たれ」

 

 どうやら私が小休憩をしている間に戦況が大きく動いたようですね。

 

 私はすぐさま索敵の為、目を閉じて神経を集中させます。

 

 これが若干11歳で兵隊になったもう1つの理由で、私は索敵魔法という希少性の高い魔法が使えるのです。

 

 この世界には魔法という概念が存在しており、我が祖国トゥーリスは軍事戦力として魔法を重宝している為、魔法を使える人材は少しでも確保しておきたいということなのでしょう。

 

 もっともその貴重な人材をこんな最前線に飛ばす時点で計画が破綻している気もしますが、それほどトゥーリスは追い詰められているという事。

 

 ちなみにトゥーリス軍では魔法を使える者を幾つか区分しており

 

 先陣を切り、近接魔法で敵を薙ぎ倒す         突撃兵(アサルト)

 

 後衛から魔法攻撃により援護を行う          砲撃兵(ウォーロック)

 

 索敵魔法により周囲を索敵警戒する          索敵兵(ウォッチャー)

 

 防御魔法による防衛や敵に対する妨害工作などを行う  工作兵(クローラ)

 

 治癒魔法により怪我を癒す              衛生兵(メディック)

 

 大体この5種の兵種に分けられます。 

 

 この中で索敵兵(ウォッチャー)衛生兵(メディック)は、近年新たに設立された兵種であるため他の魔法より研究が進んでおらず、また適性を持つ者が特に希少らしく、適性を持つ者は問答無用で軍に連れていかれるそうです。

 

 そして索敵魔法を使用すると、周囲200M程の中で敵意を持った相手を感知することが出来ます。

 

 訓練を積めばもっと長い距離で、より鮮明な情報を感知することが可能になるそうですが、まだ魔法を覚えたての私ではこれが限界です。

 

 ――――周囲に敵の反応無し。

 

 敵意の有無を感知した後、私は速やかに索敵魔法を解除します。

 

 索敵魔法は、発動すれば周囲の地形や障害物に関係無く敵を見つけることが出来る大変便利な代物ですが、反面肉体に対する負荷が激しく、魔法を使用する為の燃料である魔力の消費も膨大な量になってしまうため長時間使用することは自殺行為です。

 

 なのでこうして単発使用する事で、負荷を軽減する使用法が主流となります。

 

「索敵終了、こちらの陣地周囲に敵の反応はありません。これよりヘルシェ上等兵と合流し、周囲警戒を行います」

「分かった。これより任意の判断で索敵魔法の使用を許可するが、有事の為最低限魔法使用の出来る魔力は残しておけ」

「了解しました。では失礼致します」

 

 私はすぐさま塹壕内を伝いながら、警戒任務をしているヘルシェ上等兵の元へと向かいます。

 

 この塹壕を含むトゥーリス防衛線は自然の地形や倒木を利用している為、迷路の様に入り組んでいて非常に移動しづらいです。

 

 その分コスパの割に強固な防衛ラインを維持できているので軍のお偉い様は喜んでいるのでしょうが、もうちょっと現場の事も考えて頂きたい物ですね。

 

 しかしそこは、この小さな身体が活躍する場面です。

 

 多少の倒木は何のその、大人では到底通れないような小さな隙間でも難なく通ることが出来ます。

 

 本当は塹壕を出て突っ切れれば移動も楽なのですが、それで頭に風穴が空いてしまっては目も当てられません。

 

 実際息苦しい塹壕が嫌で外に飛び出したらその方の頭が無くなったなんて話もちょくちょく聞くぐらいで、前線の恐ろしさを痛感します。

 

 という訳で、兵士は基本この塹壕迷路を利用してトゥーリス防衛線の中を行き来します。

 

 つまり、地上をショートカットして動いてる人は敵の弾など物ともしない化け物か、塹壕の重要性を分かってないおバカさんということです。

 

 急がば回れ。この程度の労力で安全が買えるのであれば安い物ということですね。

 

 そんな訳でちょっとしたアスレチックで寝起きの運動を楽しみつつ、私はヘルシェ上等兵の居る偵察陣地までたどり着きました。

 

 塹壕の隙間から外を覗いているヘルシェ上等兵に声を掛けます。

 

「お疲れ様ですヘルシェさん。状況はどうですか?」

「おはようウサギちゃん、斥候がちょろちょろ動いてる所を見ると直に突撃してるんじゃないかな。やっこさんも命は有限だろうによくやるよ」

「……私の名前はナナシです。ちゃんと名前で呼んでください」

「あははは、ごめんね。けどナナシちゃんはウサギみたいに可愛らしいからついね」

 

 どう見ても反省してませんねこの人。

 

 このチャランポランなお兄さんの名前はヘルシェ上等兵。

 

 戦場では中々頼りになる先輩ですが、暇を見つけては私をからかってくる困ったさんです。なんでも私が塹壕の中をピョンピョン飛び跳ねてる姿がうさぎに見えたとかで、私の事を一向に名前で呼んでくれません。

 

 本人は愛称のつもりなのでしょうが、現状魔法以外あまり役立てない自分を比喩されているようでムッとしてしまいます。

 

 ここは一つ釘を刺しておくとしましょう。

  

「次ちゃんと名前を呼んで下さらなかった場合、私にも考えがありますのでよろしくお願いします」

「考え? 何するの??」

 

 怪訝な顔をするヘルシェ上等兵に、私は――――

 

「ヘルシェ上等兵に襲われたと、あらん限りの大声で叫びます」

 

 現在自分が持てる最大の切り札を開示します。

 

 規律を重んじる軍隊に置いて軍規は絶対です。そしてトゥーリス大公国軍規には、男性兵士が女性兵士に対して手を出した場合厳罰とはっきり明記されています。

 

 力の弱い女性が男性に襲われたら、一方的な虐めになってしまうので当然ですね。

 

「おおぅ……オレ隊長やアルマちゃんに殺されちまうよ」

 

 私の言葉に流石のヘルシェ上等兵も少し顔が青くなっています。どうやら効果があったようなので追い撃ちを掛けましょう。

 

 弱った相手には追撃! 戦場の基本です。

 

「ついでにロリコンの渾名も貰えますよ。おめでとうございます」

 

 ちなみにロリコンというのは、小さい女性に手を出す人の事を言うそうです。

 

 かなり不名誉な渾名なのは、ヘルシェさんの苦虫を潰した様な顔でよく分かります。 

 

「……悪かった。勘弁してくれナナシちゃん」

 

 完勝です。敗北を知りたいですね。

 

 このお兄さんには何時も良い様にあしらわれてしまうので、偶にはこういうのも良い薬でしょう。

 

 しかし軍隊では上下関係が大切な事も事実。

 

 兵士なりたて二等兵で小隊に入ったのもつい最近な私と、性格に難あれど小隊結成時から在籍していて上等兵と実力も評価されているヘルシェ上等兵なので、余り生意気ばかり言う訳にはいきません。

 

 今回はこのくらいにしておきましょう。

 

「いえ、分かって頂ければ幸いです。それより索敵魔法で敵の位置を探りましょうか? ガルド小隊長の許可は得ていますので」

「いや、今の所は必要ないかな。こっちは視野も開けてるし、突撃かまして来ても十分対処できる。ナナシちゃんの本領は敵が詰めてきてからだ。ここはお兄さんに任せなさい」

「分かりました、勉強させていただきます」

 

 このガルド小隊に入ってから、私は基本ヘルシェ上等兵と一緒に行動しています。

 

 その理由は単純で、この人がガルド小隊の中で一番索敵能力に優れているからです。

 

 私は索敵魔法のおかげで視野に頼らない多角的な索敵を行えますが、圧倒的に経験が足りていないためその能力を有効活用出来ているとは言えません。

 

 その点ヘルシェ上等兵は魔法は使えなくとも今まで培っていた経験で私に的確な指示をくれるので、私の魔法を私以上に有効活用してくれるのです。

 

 

 

 二人で周囲警戒を始めてからしばらくして、外の様子が騒がしくなってきました。

 

 隙間から外を見てみると、遥か遠方に黒い影がゆらゆらと揺らめいているのが確認できます。オーガ兵の襲来です。

 

 影は見る見る内に大きくなっていき、まるで黒い波がこちらに押し寄せてきているようです。

 

「敵、視認しました。相変わらず凄い数ですね」

「ホントにねぇ、アイツ等畑から湧いてきてるのかよ」

 

 正直、あの影を見るのは今でも怖くて足が震えてしまいます。

 

 あれがもしここまでやってきてこの塹壕内に侵入されてしまったら、私みたいな非力な女の子等一瞬で殺されてしまうでしょう。

 

 それにあの影は私の大切な物を、人を奪っていくから。

 

 対して隣のヘルシェ上等兵は特に緊張した様子も無く、淡々と敵の数と隊列を確認した後、情報を纏めて各隊員に伝達していきます。

 

「さて、じゃあお仕事といきますか。ナナシちゃんはそこの弾のストック、オレが指示出したらすぐ交換できるように用意しといて。後、不用意に頭出さないよう注意する事」

「……了解しました」

 

 私は未だ銃の扱いが下手なので、直接な戦闘に参加することはありません。

 

 それに加えてどうやら索敵魔法の素質を持つ人間はかなり希少らしく、ガルド小隊長にも銃の扱いよりも索敵のイロハをヘルシェ上等兵から学ぶよう言われているので、こうして本場の戦闘となると弾込め要員か伝令に走るかのどちらかです。

 

 皆さんが命がけで頑張っている中自分だけがこうしているのは少し後ろめたさを感じてしまいます。

 

 

 

 そして迫りくるオーガ兵に対しての銃撃戦が始まりました。

 

 こちらからの銃撃でバタバタと敵は倒れていきますが、それでも尚後ろから次々と敵がやってくるのでキリがありません。

 

 これがオーガ兵達の基本戦術であり、どれだけの被害を出しつつもそれを上回る圧倒的な物量で押し潰そうとしてきます。

 

 その行動はまさに理性の無い獣の所業。

 

 敵の勢いは多少衰えるものの、依然としてこちらに向かって突撃してきます。

 

 このままでは塹壕に侵入されるのは時間の問題ですが、それもこちらの読み通り。

 

 敵の軍勢が一定ラインを超えた辺りで、こちらからの銃撃がピタリと止みます。

 

 無論こちらの弾切れという訳ではなく、敵をキルゾーンに誘い込むための布石。

 

 銃撃が止んだ事をこれ幸いにと敵の勢いが上がっていき、そして全てが誘い込まれた瞬間――――

 

 

 大地が大きく爆ぜました。

 

 

「――――っ!!」

 

 

 強い衝撃と炸裂音。

 

 これは工作兵(クローラ)が用意した設置型対人魔法の一つで、魔法を使った人の任意で起爆が可能。待ち伏せに持って来いの魔法です。

 

 そしてこの魔法が何より恐ろしいのが、派手な見た目と音に反して威力がさほど無い事。

 

 対人魔法の特徴の一つに、相手を殺すのではなく負傷させるというものがあります。

 

 なぜそこに特化させるのかというと、死んだ兵は無視して捨て置くことも出来ますが、負傷兵はそうはいきません。

 

 連れ帰り治療するにしても、運ぶためと治療の為の労力を余分に割くことが出来ます。

 

 そして仮に無事な側が無視する判断を取ったとしても、負傷兵は恨み言も漏らしますし、悪ければ文字通り足を引っ張られるかもしれないのです。

 

 つまり対人魔法の真価は、敵の兵を死なないまでも足などを吹き飛ばし、兵士として再起不能にさせる悪魔の魔法という事です。

 

 呻き声をあげのたうち回る者、巻き込まれた者を必死に助けようとする者、それでも尚こちらに攻めて来ようとする者。

 

 爆発の後、敵の大半は魔法に巻き込まれ大混乱に陥っていました。そしてそれは、こちらにとって最大の好機。

 

「全員突撃ィィィ――――!!!」

 

 ガルド小隊長の号令と共に、こちらの塹壕から銃や剣で武装した兵士達が飛び出し、混乱している敵の兵士達を一気に薙ぎ倒していきます。

 

 彼らはアサルトと呼ばれる近接攻撃魔法に特化した魔法兵を主体に編成された突撃兵で、敵の足を止めた後、その突破力を生かした突撃によって敵を撃退するのが現在トゥーリス側の基本戦術となっていました。

 

 敵にもある程度抵抗する者は居たものの、対人魔法で大半の兵士が戦意を折られてしまったようで、数分もしない内に撤退を開始し、辺りは敵兵の死体が転がるのみとなります。

 

 自軍には殆ど被害は無く、逆に相手は被害甚大による敗走。形だけ見ればこちらの完勝ですが、この戦いはそれほど単純な物ではありません。

 

 なぜならオーガ連邦は幾ら蹴散らしても蹴散らしてもすぐにまた新たなる兵を補充してこちらへ侵攻してきます。

 

 対してトゥーリス国は敵領土に侵攻するだけの兵力も物資もありません。まるで先の見えないマラソンを永遠に走らされている様。

 

「よし、粗方片付いたみたいだな。お疲れ様ナナシちゃん」

「お疲れ様ですヘルシェさん。ここからは私の出番ですね」

 

 私は恐る恐る塹壕から頭を出しつつ、周囲を確認します。

 

 突撃兵(アサルト)の人達が大体の敵を倒してくれているので問題無い筈ですが、この瞬間はあまり生きた心地がしません。

 

「気をつけなよ。狸寝入りしてる奴を見つけたら、すぐに報告ね」

「了解しました」

 

 狸寝入り――つまり死んだフリをしてる相手を見つけるのも索敵魔法が使える私の仕事です。索敵魔法は敵意を感知出来るため、死んだフリをしながら機会を伺っている相手が居れば即座に感知できます。

 

 私は魔法を使って死んだフリをした相手が居る場所を伝えていき、それを他の人達が念入りに撃ち殺していきます。

 

 なんとも残酷な行為に見えるかもしれませんが、これが戦場なのです。

 

 死にかけの兵士が執念で這ったまま敵の指揮所まで潜入し、指揮官の暗殺未遂を起こしたという話も聞いた事があるくらいで、戦場では危険の芽は出来るだけ取り除くのが鉄則。

 

 撃たれた人達は恨めしそうにこちらを見ながら間も無く死んでいきます。

 

 そんな目で見られても困りますよ。これが私の仕事なのですから。

 

 それに――――

 

 

 あなた達の様な人でなしに、恨まれる筋合いはありません。

 

 

 

 

 

 丁度索敵も一段落し、やっと気を置けると思った所で突如後ろから強い衝撃を受けます。

 

「ナーナーシー!!」

「ひぐっ!?」

 

 思わず酷い声を出しつつ後ろを振り向くと、私と同じ軍服を着た女の子が抱き着いてきています。というか体格差が凄いので無理です、潰れます。数秒頑張った私を褒めてください。

 

「えっ? あ、わわわわわわ!?」

 

 そんな訳で私達は二人仲良く地面にダイブする羽目になりました。

 

「っ……アルちゃん。後ろから飛びつくのは止めてよ」

「あはは……ごめんごめん! ナナシを見つけたらついね。大丈夫? 敵の攻撃で怪我とかしてない??」

「今ので膝擦りむいた……」

「……ごめんなさい」

 

 私が恨めしそうに睨むと、心底申し訳なさそうに俯いてしまいました。

 

 この子の名前はアルマ・ワイズ二等兵。

 

 私と同じ村出身で、歳は私より二つ大きい13歳ですが、昔からの幼馴染です。

 

 性格は活発的でとても明るく何処までも行動力がある子で、その明るさに今まで何度助けられてきたか分かりません。

 

 そんな子にいつまでも悲しい顔をさせるのは本意ではないので、しっかりフォローしておきましょう。

 

「ダメ、膝痛くてもう歩けない。アルちゃんおぶってよ」

 

 私は今度は自分からアルちゃんの背中に抱きつきに行きます。

 

 こうすればアルちゃんの中の罪悪感も私をおぶるという懺悔で帳消しになり、貸し借り無しで万事丸く収まるという訳です。

 

 決して私が楽したいとか、アルちゃんに甘えたいとかではありませんのでご理解ください。

 

 そんな私にアルちゃんは『しょうがないなぁ』と言いつつおぶって塹壕まで連れて行ってくれます。

 

 

 

 

 アルちゃんにおぶられながら見る景色は、私にとって忘れられない景色を思い出させるもので、ふいにアルちゃんに声を掛けてしまいます。

 

「ねえ、アルちゃん」

「なあに、ナナシ?」

「この戦いって、どうなっていくのかな?」

 

 きっとそれは、この戦場に出ている誰もが感じている疑問。

 

 だけど、誰もが答えを持っていない難問。

 

 そんな意地悪な質問に、アルちゃんは少し考えこむと

 

「正直分かんない。けど、絶対終わらせてみせるよ! その為に兵隊になったんだしね。私に任せなさーい」

 

 そう言って笑顔で返してくれるのでした。

 

 何時も元気な私の大切な友達、アルちゃん。

 

 先の見えない世界だけど、アルちゃんが引っ張ってくれるなら安心して進める気がします。

 

 今はこの光を信じて、もう少しだけ頑張ってみるとしましょう。

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