戦場駆ける白き野兎   作:バサル

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第十八話

 幸いテントの撤収作業は、手伝いに来てくれたアルちゃんのお陰で思ったより早く片付ける事が出来ました。

 

 残るはテントの撤収ですが、今片付けてしまうと寒さが堪える為、何時でも片付けれる様準備してそのままにしてあります。

 

 ガランとしてしまったテントの中で負傷兵の方達には休んで貰い、私達は次の指示を待ちます。

 

「うー……流石に暖房消したら寒いねぇ。ストーブは片付けちゃったし、焚火でもする?」

「そうだね。このままじゃ皆も凍えちゃうし、アルちゃん薪を用意して。私が火種を作るよ」

「りょーかい、任せといて」

 

 私はすぐに火打石と火打金を用意して、燃えやすい麻くずの上で火花を出し、火種を作ります。

 

 一応この世界にはライター等もあるのですが、燃料の補充が確実にできる保証が無い現状では節約せざる負えません。

 

 対してトゥーリス製の火打石と火打金は燃料要らずな上に、圧倒的な頑丈さでトゥーリスの極寒の中でも確実に動作してくれます。

 

 大事に火種を育てていると、すぐにアルちゃんが薪を持って来てくれます。

 

「おー、流石ナナシ! 火起こしが上手いねぇ」

「フフンっ。お料理とかじゃアルちゃんにはまだまだ敵わないけど、私の方がサバイバル能力高いもん」

 

 もっとも、私のサバイバル能力は前世の厳しい生活を乗り切る為身に着けたものだので、大分偏ったものなのですが。

 

 ご飯が食べれないなんて日常茶飯事、粗相をした罰として家から閉め出されることもよくあったので、野宿したり、川で捕まえた魚を焼いて食べたりもした事があります。

 

 後は食べれる野草やキノコ、虫等も見分ける事が出来ますが、流石に秋も深まったトゥーリスではそういった恵みも少ないため、あまり活用することができません。

 

「あー……そういえばナナシの料理って、かなりワイルドだったもんね。切る、焼く、塩ぱらぱらっ、完成! みたいな」

「うぅ……でも皆、美味しいって食べてくれたもんっ」

「そりゃあナナシが頑張って作ってくれたんだもん、美味しいに決まってるよ。料理が美味しくなる一番のスパイスは、愛情だもんね」

「むぅ……」

 

 そんな会話を楽しみつつ、二人で用意した焚火は段々と大きくなって周りをポカポカと温めてくれます。

 

 ちなみにこのテントは中で焚火をする事が考慮されていて、煙突を別途取り付けれるようになってる他、換気用の窓も用意されているので一酸化炭素中毒になる心配はありません。テントの布も耐火処理が施されているので万全です。というか、火が焚けないと死んでしまいます。

 

「はぁー……火があるとやっぱり安心感が違うね」

 

 しかしアルちゃんは、まだ寒そうに身を震わせています。

 

 そこで私は、巻いていたマフラーの残りをアルちゃんの首に巻いてあげました。

 

 元々大分大き目に作られていたので、私達二人が巻いても十分に余裕があります。

 

「こうすればもっと暖かいよ、アルちゃん」

「ありがと、ナナシ。とっても暖かいね」

 

 二人で身を寄せ合ってあたる焚火はさっきよりずっと暖かくて、何時しか私は寒さを忘れてしまう程でした。

 

 それから暫くして、不意にアルちゃんが私に話しかけます。 

 

「ねえナナシ、さっきミカ君に聞いたよ。オーガ兵と戦ったって」

「……うん。戦ったよ、そして倒した」

 

 あの時襲い掛かってきたオーガ兵の恐ろしさは、今でも思い出すと身体が震えてしまいます。

 

 けど、ちゃんと倒すことが出来た。得るものが大きかった戦いだったのも事実です。私だって頑張れば、オーガを倒せる。その事実が分かった事は、私の心に密かな高揚感を齎しました。

 

 そう考える私の姿は、アルちゃんにはどう映ったのでしょう。

 

 アルちゃんは少し悲しそうに私の方を見ると、身体を更に私の方へ寄せてきます。

 

「そっか……もう一人で行動するなんて無茶しちゃダメだよ! どうしてもな時は、私に相談してね」

「分かった、心配かけてごめんね」

「ん、分かればよろしい。夜一人でトイレに行けないとかでも、起こしてくれれば良いからね」

 

 そう言ってニッコリと微笑むアルちゃん。でも流石に私の事を子ども扱いしすぎです。

 

「それぐらい一人でいけるよっ!」

 

 断固たる意志で意義を申し立てましたが、アルちゃんは『そうだね、ナナシも立派になったもんだ』と私の頭を撫でつつ取り合ってくれません。

 

 その後、私が頬を膨らませながら怒りを露わにした辺りで、アルちゃんは『ごめんごめん』と撫でる手を放します。ちょっとそれが名残惜しかったのですが、言うとまたからかわれそうなので黙っておくことにします。

 

「けどナナシ……本当に大丈夫?」

 

 アルちゃんは先程とは打って変わって、とても真剣な目で私を見ていました。

 

 その目は、あの時――――サウナで一緒に話した時のアルちゃんと同じ目です。

 

 恐らくアルちゃんは、私がはじめて敵を倒したことを心配しているのでしょう。

 

 アルちゃんがその事に罪の意識を感じて、悩んでいたように私も悩んでいるのかと心配してくれているのです。

 

 なので私は自分を包み隠さず、思った通りに答えます。

 

「大丈夫、何時かは私もしなきゃいけない事だったし、それに思ったより何ともなかったよ」

 

 だって――――

 

 

「相手はオーガだもん。あんな奴らに同情なんてしてやらないよ」

 

 

 私はアルちゃんを心配させぬ様、笑顔でそう告げました。

 

 本当に大丈夫だから、だからアルちゃんが心配する事は何も無いんだよと、私はアルちゃんに安心して欲しい一心で伝えたつもりでした。

 

 でも、そんな私の言葉を聞くアルちゃんの顔はとても悲しそうで。

 

 私はアルちゃんに悩んで欲しくない、悲しい顔をして欲しくないのに。

 

「……アルちゃん、なんでそんな悲しそうな顔をするの?」 

 

 アルちゃんが何でそんな顔をするのかが分からなくて、気づけば私はアルちゃんに問いかけました。

 

「ごめんね、ナナシ。何でもない……何でもないよ」

 

 でもアルちゃんは、はぐらかすだけで答えてくれません。

 

 どうしてそうなってしまったのかが分からない。

 

 でも、アルちゃんが悲しい顔になってしまったのはきっと私の所為です。

 

 私はどうすれば良かったのでしょう。

 

 悩む私を、アルちゃんがギュッと抱きしめます。

 

 その手は微かに震えていて、私はそれに気づきましたが、アルちゃんに何と言葉を掛けていいかが分からず結局そのまま何も言えませんでした。

 

「戦争なんて、早く終わればいいのにね」

「……そうだね」

 

 暫くして、アルちゃんが呟いた言葉に私は返します。

 

 前世からこの世界に転生して、ニルバ村で暮らした11年間。

 

 その日々は宝石の様に輝いていて、私にとって何よりも大切な記憶です。

 

 この戦争が終わったら、またあんな風に暮らせるのでしょうか。

 

「ねえ、ナナシは戦争が終わって平和になったら何がしたい?」

 

 急なアルちゃんの問いに、私は少し困ってしまいます。

 

 やりたい事と言われても、今を生きるのが精いっぱい過ぎて特に思い付きません。

 

 それでも、とりあえずしたい事と言えば――――

 

「……お昼寝かな?」

「ッ……ふっ……ふふふ……」

 

 私の答えに、アルちゃんは堪え切れないと言った様子で笑い始めました。

 

「むっ……笑うなんて酷いよアルちゃん!」

「ごめんごめんっ……ナナシお昼寝大好きだもんね、天気の良い日はよく麦束の上でお昼寝してたし」

「フカフカでとっても気持ち良いんだよ。アルちゃんも一度やってみればいいのに」

「私はナナシの寝顔を見てるのが好きだったからね。一緒に寝ちゃったら寝顔見れないでしょ?」

 

 そういえば、私がお昼寝してると決まってアルちゃんが起こしてくれましたね。

 

 てっきり起こしにきてくれたのだと思っていましたが、どうやら寝顔を観察されていたようです。

 

「ムニャムニャしながら偶に寝言とか言って、可愛かったなぁ……ナナシの寝顔」

「えっ!? ど、どんな寝言言ってた……?」

「フフ……それは内緒だよ」

「もーっ! アルちゃんの意地悪!!」

 

 ケラケラ笑うアルちゃんに、私は怒りを露わにします。

 

 しかしアルちゃんは、そんな膨れっ面の私が可笑しかったのか、余計に笑い出しました。

 

 まあ、アルちゃんが悲しい顔をしてるよりこっちの方が何十倍も良いのですが、少し納得がいかないですね。

 

「でも、確かにナナシと一緒にお昼寝したら楽しいだろうなぁ……午前は一緒に麦の収穫を手伝って、お昼に私が持ってきたお弁当を一緒に食べて、そのまま麦束の上でお昼寝」

「……食べた後すぐにお昼寝したら牛になるんだよ、アルちゃん」

「ふふっ、ちょっとなりたいかも。牛ならのんびりしてても誰も怒らないもんね……ねえナナシ、約束しようよ」

「約束?」

「そ、約束。この戦争が終わったら、一緒にのんびりお昼寝する……そんな約束」

 

 しっかり者のアルちゃんらしからぬ約束ですが、私としては断る理由はありませんね。

 

「良いよ。約束しようアルちゃん、戦争が終わったら一緒にお昼寝」

「ありがと、ナナシ。じゃあゆびきりでもしとく?」

「ん、ゆびきりげーんまん、うそついたらー………」

「……ら?」

 

 ふむ、本来なら針千本な訳ですが、実際そんな物飲めたものではありません。

 

 もう少し現実的で、尚且つダメージがありそうな罰則は無いものでしょうか。

 

 飲む……口に入れる……ダメージ……閃きました。

 

「うそついたらおなかいっぱいぎゅうにゅうのーます! ゆびきった!!」

 

 私は早口で言い終わると、その勢いのまま指を放します。

 

 私の宣言に青い顔をしていたアルちゃんは、すぐに我に返って怒り出しました。

 

「ちょ、ちょっと待ってよナナシ!? 牛乳って何! 普通は針千本でしょ!!」

「だって針千本飲んだら死んじゃうでしょ。万が一にでもアルちゃんが死んじゃうなんてやだし、でもちゃんと罰になってないとダメだから」

「だからって何で牛乳なの!? 牛乳ナナシ大好きでしょ、全然罰になってない!」

「だったら私の時に飲む物はアルちゃんが決めてもいいよ」

 

 その言葉にアルちゃんはぐぬぬと黙り込みます。当然ですね、食べ物に好き嫌いが無いのは私の数少ない長所なのです。

 

 対してアルちゃんは牛乳が大の苦手で、理由は教えてくれないのですが見るのも嫌だとか。

 

 ですが牛乳は身体に良いのでぜひ取って欲しい所です。約束を破って欲しいわけではありませんが、もしそうなってもアルちゃんの健康には良いので問題ありません。

 

「むー、良いよ。約束守れば牛乳飲まなくて済むもんね」

「そうだよ。アルちゃんとのお昼寝楽しみにしてるから、嘘は許さないもん」

「分かった。私も楽しみにしてるから、約束破ったりしないよ。安心して」

 

 笑顔でそう言い切るアルちゃんの言葉に私も笑顔で返し、暫く二人で焚火を眺めながら笑っていました。

 

 とても幸せな時間。大好きな人と一緒に笑いあう、それだけで私は何時でも幸せになれるのです。

 

 

 

 

 でもそんな幸せの時間もあまり長くは続かない様でした。

 

 段々と外が騒がしくなっていき、誰かがこちらに走ってくる足音が聞こえます。

 

「何かあったみたいだね、暖を取れるのはここまでかな」

 

 気づけば隣に居たアルちゃんは、真剣な表情で何時でも火の処理を出来るように準備を始めています。

 

 そしてテントの入り口を捲り、中に入ってきたのはトニーさんでした。

 

「ナナシ、すぐ来てくれ! 周りがどうもキナ臭いんだ」

 

 開口一番そう叫んだトニーさんはかなり焦っている様子で、状況がかなり切羽詰まっているのが感じられました。

 

 私はトニーさんの言葉に頷き、すぐに外へ出る準備をするため立ち上がります。すると火の処理を終えたアルちゃんも一緒に立ち上がりました。

 

「私も行くよトニー君。敵が近くに居るんでしょ?」

「ああ、撤収準備中の今襲撃されたらかなり不味い。怪我人の人達には悪いが、何とか残りでテントの撤収準備を進めてくれ。準備が終わり次第撤収開始だ」

 

 トニーさんの言葉に不満を上げる人は誰一人居ません。中には動くのも辛い方も居る筈なのに、素早く撤収準備を続けています。

 

 そんな皆さんに対して私が出来る事、索敵兵としての仕事を果たしましょう。

 

 

 

 

 

 

 テントを出て、移動しながらトニーさんから聞いた今の現状はこうでした。

 

 

 1. 現在ガルド小隊はこの場所からの撤収準備を進めているが、哨戒に出ていたミカさんが敵が接近する気配を掴んだとの事。

 

 2. 敵の総数は分からないが、少なくとも小隊規模は居ると思われ、相手もこちらに気づかれた事を察してか、森に潜んでこちらの様子を伺っている状態。

 

 3. 撤収準備にはまだ少し時間が掛かるため、敵に対する足止めが必要。今はミカさんとヘルシェさんが敵の牽制を行っており、膠着状態になっている。

 

 

 恐らく敵の総数は時間を掛ければ掛けるほど増えていくでしょうから、こちら側としては先に先手を打ちたい所ですね。

 

 そこで私の索敵魔法の出番という訳です。

 

 現場に到着するとそこにはヘルシェさんとミカさんの姿がありました。

 

「お、来てくれたかいナナシちゃん。早速だけどお願いできるかい?」

「了解です。敵の位置の把握ですね」

「大雑把でも分かると助かるね。場所さえ分かれば後はボクとヘルシェさんに任せてよ」

 

 そう言ってヘルシェさんとミカさんが手に持つのはいつも使っているM200ではなく、オーガ兵が使っている最新式ライフルのM228 通称「ヨモツ・ライフル」でした。恐らくオーガ兵から奪った物資の中にあった物なのでしょう。

 

 旧式であるM200とは段違いの性能を持つこの銃の存在はトゥーリスの兵士達を苦しめてきましたが、この銃はM200の改良型の為、使用感も似ており、弾薬も共通なのでこうして奪ってしまえばとても頼りになる存在なのです。

 

 そして私は索敵魔法を起動します。見渡す範囲は何時もと同じ周囲200M程、視覚に頼らない私の感覚が辺りを全て見渡します。

 

 索敵に引っかかった敵意の数は30名程、その全てが私達の前方の森に点在しており、こちらの様子を伺っているのがよく分かります。

 

 どうやら最初の見立て通り小隊規模の部隊の様ですね。

 

「敵を感知しました。総数は30名程、全員こちらの全面に展開しています。今の所仕掛けてくる様子はありませんね」

「だろうね。向こうさんもこっちの出方を伺いたいだろうし、待ってりゃ増援が来てどんどん有利になるんだ。無理に仕掛けてくる意味は無い」

「ですね、じゃあ予定通りこっちから仕掛けますか?」

「まずは前衛からだ。ナナシちゃん、敵の中で一番こっちの近くに居る奴らの位置を大体で良いから教えてくれるかい?」

 

 どうやらヘルシェさんとミカさんはこのまま先手を打つつもりの様です。

 

 しかし私が敵の位置を教えても、この暗闇の中ではまともに狙いが付けられないのでは無いでしょうか。

 

 私は不安を感じつつも、こちらの近くに居るオーガ兵の位置を教えます。

 

「こんな所ですね。しかしこの暗闇では流石に――――」

「いや、十分だよ。じゃあサポートはお願いしますね、ヘルシェさん」

 

 私の言葉を遮るように、ミカさんはM228を構えて躊躇なく引き金を引きます。

 

 

 ――――パァァン    チャキン――――

 

 

 辺りに響く火薬の炸裂音と、ポルトアクションの装填音。少しして、ミカさんの撃った先から小さな呻き声と騒めくオーガ兵の声が聞こえます。そこへ間髪入れず構えていたヘルシェさんが2射目を放ち、オーガ兵達の声は更に大きくなりました。

 

 私は何が起きているか分からず、再度索敵魔法を発動すると状況が段々と飲み込めてきました。

 

 どうやら私の索敵結果で目星の付いている相手にミカさんが狙撃、その後動揺して声を出したり動きを見せた相手をヘルシェさんが仕留める。この二人は淡々とそれを繰り返している様です。

 

 この暗闇の中、私が索敵魔法で教えた大まかな情報と、相手の僅かな動作だけで位置を絞り込んでいるヘルシェさんもかなりの腕前ですが、ミカさんは初手で私の情報だけを頼りに狙撃を成功させています。

 

 到底人間業とは思えませんね。

 

 オーガ兵達は一方的に自分達だけやられる状況にパニックになっているようで、銃の発火炎が見えた方向に向かって銃撃を行っていますが、撃ってからすぐに立ち位置を変えている二人に命中させることは出来ずにいます。

 

「さて、そろそろ向こうも痺れを切らして飛び出してくるだろうさ。トニー、アルマちゃん、準備は良いかい?」

「当の昔に整ってますよ、何時でもいけます」

「任せてください、皆はしっかり守り切りますよ!」

 

 ヘルシェさんの言葉に、二人は各々の接近武器を片手に答えます。

 

 確かに、この状況が続けば相手は一方的に蹂躙されるのみ。それならまだ数が居る内に突撃した方が分があると考える可能性は大いにありますね。

 

 私は索敵魔法で敵の位置を再度確認します。

 

 敵の位置は先程よりこちらに近づいており、どうやらヘルシェさんの言ってる通り突撃に一部の望みを賭けている様子です。ならば――――

 

「敵の接近を確認しました。11時の方角と2時の方角にそれぞれ3名程突撃のタイミングを見計らっているようです。小銃で牽制しますので、アルちゃんとトニーさんでその間に叩いてください。ミカさんとヘルシェさんは、その間残りの潜んでいる敵の牽制をお願いします」

「了解だ、オレは11時に行くからアルマは2時を頼むぜ」

「任されたー!」

 

 私は腰のホルスターからT-35を抜くと、あの時の様により近くを意識して索敵魔法を発動させます。

 

 先程より索敵範囲が狭まる分、近づいてきていた6人のより詳細な敵意の機微を感じ取る事が出来ました。

 

 継続で発動しても身体に支障無し。私の射撃の腕はそれほど高くありませんが、これならいけます!

 

「では11時から仕掛けます………今!!」

 

 私の発砲と同時に、後ろに控えていたトニーさんがすごい勢いで敵の背後に回り込んでいきます。

 

 どうやら私の撃った弾は敵の致命傷とはならなかったようですが、敵の敵意は発砲した私の方に釘付けになっており、回り込んだトニーさんに気づいている様子はありません。突撃兵(アサルト)に接近を許した敵兵の末路は言うまでもありません。

 

 数秒後に響いた敵の悲鳴を確認し、私はすぐさま2時の敵へと銃を向け発砲。それと同時にアルちゃんがシャベルを片手に敵へと回り込んでいきます。

 

 2時の敵はもう片方がトニーさんに殲滅された事に動揺していた様で、私が発砲をした時点で敵意が散漫になっていて、パニックを起こしているのが見て取れました。そんな状態でアルちゃんの接近に気づける訳も無く、数秒後にはアルちゃんのシャベルによって敵意喪失状態となりました。

 

 双方の敵を殲滅に成功しほっと息を撫でおろすのもつかの間、私の索敵が新たな敵意を感知します。

 

 恐らく地面を張ってこちらへ近づいてきたのでしょう。見る見る内に敵意が濃くなっていき、こちらに攻撃を仕掛けようとしている意思を感じます。

 

 トニーさんとアルちゃんはここには居らず、ミカさんとヘルシェさんは他の敵を牽制していてその敵に気づいている様子はありません。

 

 今ならまだ二人に告げて対処して貰う事も可能でしょうが、この距離で相手は一人。十分私一人でも対処可能です!

 

 

「視えてますよ。やらせませんっ!!」

 

 

 敵が立ち上がってこちらに突撃しようとするのと、私が発砲するのはほぼ同時。

 

 撃った弾の内一発が、敵の肩に直撃してその身体が大きくよろけます。

 

 しかし敵は倒れる事無く踏みとどまりました。

 

 そして敵は色濃い敵意をこちらに向けたまま、何かをこちらへと投擲してきます。

 

 

 ――――カンッ コロコロ……

 

 

 投げられた物が手榴弾だと気づいた瞬間、恐怖で私の身体が強張ります。

 

 

 早く逃げなきゃ、いやそれより伏せるべき!? 

 

 

 頭で思考が巡り続けますが、強張った身体は中々動いてくれません。

 

 時間にすれば、それは本当に一瞬と言って良いほどの硬直。

 

 ですがその硬直は、投げられた手榴弾を対応するにはどうしようもない程のロスでした。

 

 戦場では一瞬の判断が生死を分けることを、私は知っていた筈なのに。

 

 ですが硬直して動けない私の横を通り抜け、ヘルシェさんが手榴弾の元へと駆けていきます。

 

 そして――――

 

 

「覚えときなナナシちゃん。手榴弾対処の基本は――――ビビったら負けだぜ!」

 

 

 ヘルシェさんはあろうことか手榴弾を、投げた敵の方向へ蹴り飛ばしたのです。

 

 

「全員伏せろ――――!!」

 

 

 直後、叫び声と共に私はヘルシェさんに身体を押し倒されて、地面に叩きつけられます。

 

 そして耳を割くような爆発音が、辺りに轟いたのでした。

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