「ッ……破片型だったか。痛い所は無いかい、ナナシちゃん」
爆発の影響が途絶えた後、私に覆いかぶさったヘルシェさんが声を掛けてきます。
耳はまだ少しキーンすることと、地面に叩きつけられた影響で背中は痛いですが、どうやら他に怪我などは無いようですね。
「大丈夫です。それより、助けて頂いてありがとうございます」
「気にするな。と言いたいところだけど、次から敵を見つけたらまず報告ね。一人で先走らない事」
「……了解です。ごめんなさい」
確かにあの時しっかりヘルシェさん達に報告していれば、手榴弾を投げる隙なんて与えなかったことでしょう。
迷惑を掛けてしまった事が申し訳なくてシュンとしていた所、私に覆いかぶさったままヘルシェさんは少々乱暴に私の頭を撫でてきます。
むむぅ……また子ども扱い。というかそろそろどいて頂きたい所なのですが……
「あの……ヘルシェさん? そろそろ――――」
「っと、ちょい待ったナナシちゃん。おーい、ミカー! 生きてるか!?」
「ええ……何とか、死ぬかと思いましたけどね」
どうやらミカさんも無事な様です。
後はアルちゃんとトニーさんですが、足音と共にアルちゃんがこちらに走ってくるのが見えました。
「大丈夫ナナシ! 怪我してない!?」
「大丈夫だよ、ヘルシェさんが守ってくれたから」
「良かったぁ……ヘルシェさんもミカ君も無事で良かったです。残りの敵の様子はトニー君が見てくれてますけど、どうしますか?」
「とりあえずある程度時間は稼いだし、ここら辺が引き時だろうね。ナナシちゃん、残った敵の位置は分かるかい?」
「了解、索敵開始します」
単発索敵で感知出来た敵の数は、大分減って10名程。大分離れた位置でこちらの様子を伺っているようです。
「敵の位置、把握しました。数は残り10名程で、距離を取ってこちらの様子を伺っているようです」
「分かった。じゃあ手榴弾を渡すから、アルマちゃん敵の居る辺りに投げて貰っていいかい? その爆風に紛れてこっちは撤退だ」
「任せてください。敵の顔面に直撃させてみせます!」
ヘルシェさんに満面の笑みで返すアルちゃん。
ちなみにアルちゃんの投擲は石ころでヘラジカを仕留める程度なので、顔面に当たれば手榴弾が顔にめり込む事でしょう。
「ミカはトニーを拾ってすぐ撤退だ」
「分かりました」
ミカさんはそのままトニーさんの元へ走っていきます。
「……あの、ヘルシェさん。そろそろ重いのでどいて貰いたいのですが……」
状況が一段落したタイミングで、私はずっと言いたかった事を口にします。
助けて貰ったのは非常に感謝していますが、このままだと私は石に漬けられる漬物の気持ちを理解してしまうのです。
「おっと、ごめんねナナシちゃん」
対してヘルシェさんはすぐに了承してくれました。
……ふむ? ですがちょっと妙ですね。
いつものヘルシェさんなら『ごめんごめん、ナナシちゃんの乗り心地が良かったからついね』とか言って私をからかってくるのですが。
そしてヘルシェさんが私からどいてくれる時――――
ドロッ と――――手袋ごしに何かが手に付いた感触がありました。
何か確かめようとしますが、暗闇の為よく分かりません。
そうこうしてる内に手榴弾を受け取ったアルちゃんが敵の位置を聞きに来たので、一旦私はその事を置ておいて敵の正確な位置を索敵し直します。
前方60M程先に敵の反応を感知、先程よりジリジリと近づいてきてますね。
しかも残り10名一緒に行動している様です。
恐らくトニーさんと睨み合いをしていたようですが、ミカさんが合流したのに気づいて足を止めているのでしょう。
すぐに二人も後退するはずなので、投げるなら今がチャンスです。
「アルちゃん前方60Mに残りの敵が居るよ。ちょっと手前辺りに全部投げちゃって!」
「え、ぶつけないの??」
「めっ!! 投げたらすぐ撤退だよ!」
「冗談だよ。じゃあ……いっくよ――――!!」
アルちゃんは手に持った2個の手榴弾のピンを抜き、左右両方の手に手榴弾を持ちかえて少し振りかぶると、器用に両方を目標の場所へ手榴弾を投げました。
まるで弾丸の如く直進していく手榴弾を確認し、私達はすぐに全速力でその場を離れます。
手榴弾がピンを抜いてから爆発するまで約4秒程、先程のヘルシェさんの様に蹴ったり投げたりすれば敵も爆発から逃れれる可能性がありますが、この暗闇の中であんな小さな手榴弾を処理するなんて普通は不可能です。
さっきのヘルシェさんのファインプレーがどれだけ異常だったのかがよく分かりますね。
最後に単発索敵で周囲を索敵すると、敵の位置は先程と変わらぬまま。
どうやら手榴弾を投げられたことにも気づいてない様子です。
そして間もなく後方から激しい爆発音と衝撃が、辺りを揺らしました。
手榴弾の爆発に乗じて撤退した私達は、同じく撤退してきたミカさんとトニーさんと合流し、小隊の駐留地へと帰還します。
最後に索敵した感じですと敵は手榴弾の爆発にしっかり巻き込まれたはずですし、運良く動ける者が居たとしても、爆炎と暗闇の所為で私達を追う事は不可能でしょう。
ともあれ油断は禁物、私達は一刻も早くここから離れる必要があります。
幸い撤収の準備はほぼ完了しており、ヨルム兵長が
「お、お前ら戻ったか。敵の様子はどうだった?」
「とりあえずやれるだけやってきましたけど、まごまごしてたら敵の増援がわんさか着ちまうんでさっさとズラかるべきでしょうね」
「そうか。じゃあ早めに仕上げちまうから、お前らは小隊長の所に報告行ってこい」
「了解です」
ヨルム兵長に状況を報告し、私達はガルド小隊長の元へ向かいます。しかしその途中でヘルシェさんが立ち止まります。
「……悪い、報告そっちに任せていいか」
「どうしたんですか。もしかしてデカい方です?」
「ばーか。女の子も居る時にデリカシーのねえこと聞いてんじゃねえよトニー」
「へいへい、んじゃ後で合流ですね。ヘルシェさんの荷物も纏めときますよ」
「悪いな、頼むぜ」
ヘルシェさんはそのまま、救護テントの方へ歩いていきました。
心なしか、少し顔色が悪かったように感じました。ずっと我慢していたのでしょうね。
こういった問題は、戦場ではよくある事なので皆深くは聞きません。そっとしておいてあげるのが優しさなのです。
ヘルシェさんを見送って再び歩き出す私達でしたが、暫くすると今度はアルちゃんが立ち止まります。
「ナナシ……それどうしたの!?」
「? どうかしたのアルちゃん」
「どうかしたじゃないよ! ナナシちょっとこっちにきて!!」
当然の事にビックリしている私を置いて、アルちゃんはズイズイと自分から近づいてくると、私の全身をペタペタ触りだしました。
「ア、アルちゃん!?」
「……ナナシ、バンザイして」
「へ?」
「バ・ン・ザ・イ!」
有無を言わさぬ迫力に、私は只バンザイ状態でアルちゃんにされるがままになる他ありません。
暫くペタペタが続き、アルちゃんはため息を一つ付くとようやく私を放してくれます。
「とりあえず、何処も怪我してないみたいだね」
「してないよ……ほんとにどうしちゃったのアルちゃん」
「……ナナシ、その手気づいてなかったの?」
そう言って私の手を指さすアルちゃん。続いて私が視線を送ると――――
そこには、赤黒い血がベットリと付いていたのでした。
「それ、返り血じゃないよね。心当たり無いの?」
「心当たり……」
少し思い返して、私はヘルシェさんがどいた時に感じた感触を思い出しました。
あの手に何か付いた感触……まさか――――
「アルちゃんごめん! 私行かなきゃ!!」
「えっ……ナナシ? 急にどうしたの?」
私はアルちゃんの声を振り切って走り出します。
一刻も早く、ヘルシェさんを見つけるために。
私は救護テントの方向へ走りつつ、ヘルシェさんを探します。
あの時ヘルシェさんは救護テントの方向へ向かっていました。
恐らく応急手当をする為。
私の手に付いた血、これは間違いなくヘルシェさんの物です。
きっとあの手榴弾から私を守った時に傷を負っていたのでしょう。
あの時ヘルシェさんは破片型と呟いていました。
破片手榴弾、またはフラググレネードと呼ばれるこの手榴弾の特徴は、爆発の範囲が狭い代わりに殺傷力のある金属片を広範囲にばら撒くのが特徴です。
爆発から15M以内に居た人はズタズタになって即死。中には200M程先から飛んできた破片が頭部に当たって死んでしまった例もあり、とても危険な代物なのです。
本来この手榴弾は爆発によって破片を広範囲にばら撒くものであり、爆発の圧力の関係上伏せていれば近距離でも比較的被害を受け難い代物ですが、あの時ヘルシェさんは私に覆いかぶさった所為で、普通に伏せるより高い位置に居ました。
「……私の所為だ」
私をかばった所為でヘルシェさんは手榴弾の破片を受けてしまったのです。
いいえ、そもそも私がちゃんとあの時敵の接近を告げていれば、自分一人で対処しようなんて思わなければ。
後悔がどんどん頭を過りますが、今はそれよりヘルシェさんを見つける方が先です。
「ヘルシェさん!! 何処に居るんですかヘルシェさん!!」
大声で名前を呼びますが、返事はありません。
敵意の無い相手では私の索敵魔法でも感知不能。早く……早く見つけないといけないのに。
そして救護テントのすぐ傍まで来た所で、木に寄りかかって倒れているヘルシェさんを発見しました。
「ヘルシェさん!? しっかりしてください!」
すぐに近寄って声を掛けると、ヘルシェさんは私に気づいて顔を上げます。
「……ナナシちゃん? ガルド小隊長への報告は終わったの?」
「そんな事よりヘルシェさんの身体の方が先決です! 怪我……してるんですよね?」
「ははっ……バレてたか」
微笑むヘルシェさんの笑顔はとても弱弱しく、容体がかなり悪いのが見て取れます。
早く処置しないと……!
「ヘルシェさん傷を診せてください。すぐに応急処置をしますから」
「大丈夫だよ、大した傷じゃないから。それにエリカ伍長に頼めばすぐ治してもらえるさ」
確かにエリカさんの治癒魔法なら大抵の傷は治してもらえるでしょう。
でも今エリカさんはとても治癒魔法を使える状態ではありません。
ヘルシェさんの言葉に私は首を大きく横に振り、続けます。
「駄目なんです、エリカさんは先程無理をし過ぎて倒れてしまったんです。だから魔法では治せません」
「それは……当てが外れちゃったな」
「お願いですヘルシェさん、傷を診せてください。私では頼りないかもしれませんが、精一杯手当てしますから」
私は必死でヘルシェさんに訴えかけます。
このままではヘルシェさんが死んでしまう。そう思うと居ても立っても居られない気持ちになるのです。
私に出来る事は少ないけど、それでも出来る事をせずにいるのは絶対嫌なのです。
必死の説得の甲斐あって、ようやくヘルシェさんは納得して傷を診せてくれます。
傷口を確認すると、ヘルシェさんの腹部には金属片が深く突き刺さっており、そのままでは引き抜くことは不可能でした。
「破片が完全に食い込んでる……もしかしたら内臓も傷ついてしまってるかも」
「アイツは貫通する程の威力が無い分こういうのが厄介だよね……」
「すみません。少し触診しますので、痛かったらすぐに言ってください」
「了解……お手柔らかにね」
私は傷口の近くを手で軽く圧迫します。
「ヘルシェさん、痛みはどうですか?」
「っ……ちょっと痛いかな」
痛みを感じてる、触った感触に膨らみや硬直も感じない。
通常内臓を損傷している場合、押した時には痛みが無く、離すときに激痛が走ります。
これなら内臓は損傷してないかも、でも破片を放置していれば腹膜炎になる可能性がある。幸い応急キットもあるし、止血用のガーゼも十分……これなら!
私はポシェットから応急キットを取り出し、治療の準備をします。
やらなければならないことは、一刻も早く破片を取り出す事。そして早急に止血する事です。
最近はエリカさんのお手伝いで応急処置をする機会は多く、こういった処置も経験があります。
それに前世では怪我をした所で病院に連れて行ってもらえるはずも無く、自分で治療する他ありませんでしたので、出血が酷い時は裁縫道具の針と糸で傷口を縫ったこともあります。
私がやらなきゃ。ヘルシェさんを助けるんだからっ!
私は一度大きく深呼吸すると、ヘルシェさんにこれからの事を説明します。
「このままでは傷口から感染症になってしまいます。なので傷口周辺を消毒して破片を取り出し、止血作業を行います」
「OK……任せるよ」
「ごめんなさい。大分痛いと思いますが、少しの間だけ我慢してください」
「戦争に出てから痛いのに離れてるから平気さ。寧ろ……練習ぐらいの気持ちで気楽にやっちゃってくれ」
力無く笑うヘルシェさんに、私はやっぱりこの人は意地悪な人だと思いました。
気軽になんて出来る訳ないじゃないですか、貴方は私の所為で傷ついているのに。
だけど、絶対助けてみせます。
そして何時ものように私をからかった所をケチョンケチョンにしてやるのです。
そう心に決め、私は手当てを開始しました。
幸い破片は内臓まで達していませんでした。
消毒後に傷口を切開して破片を除去、素早く縫合してガーゼを重ね当てして止血。
処置は私の出来る範囲で上手くできたと思います。しかし未だ重傷である事に変わり無く、暫く絶対安静なのは言うまでもありません。
「……ありがとう、ナナシちゃん。お陰でまだ生きていられそうだ」
「お礼なんて言わないでください。元々この傷は私をかばって付いたものじゃないですか」
恨み言を言われる事はあっても、お礼を言われる資格は私には無いのです。
「おや、ナナシちゃん知らないの? 女の子を守って付いた怪我は、男の勲章なんだよ。勲章を授けてくれたんだから感謝しないとね。それに……前に傷を見てもらった時より処置がずっと上手くなってる。頑張り屋なナナシちゃんの事だから、いっぱい練習したんだろ? 皆の為に頑張ってくれてるナナシちゃんにはやっぱり感謝さ」
なのにこの人は、私を責めることなく笑いかけてくれます。
今だって傷が痛い筈なのに、私に気を使ってくれるのです。
普段は私をからかってばかりいるのに、なんでこんな時だけそんなに優しくするんですか。
「ズルいですよ、ヘルシェさん」
「ん? 何か言ったナナシちゃん」
「……いいえ、なんでもありません。それよりこれからどうするかを考えないといけませんね」
「これから……か」
ヘルシェさんは重傷、これ以上歩かせる訳にはいきません。
ですが私達は一刻も早くここから離れる必要があります。
ならば、取れる選択肢は唯一つ――――
「ヘルシェさん、私の背中に乗ってください」
「……は?」
「ヘルシェさんは私が運びます! 安心してください、これでもちゃんと鍛えてますのでヘルシェさん一人ぐらい背負ってみせます」
「いやいや、流石に無茶がすぎるよ。そもそも体格が違い過ぎるからね」
「……確かに。ヘルシェさん、ちょっとだけ引きずっても良いですか?」
「出来れば簡便して欲しいかな。もうそれ拷問の域だよナナシちゃん」
私の最良の案は却下されてしまいました。
ならばどうするべきかと悩んでいると、
「あ、ナナシこんな所に居た! 探したんだよー……って、ヘルシェさん? なんで倒れてるんですか??」
なんとも素晴らしいタイミングでアルちゃんが登場したのです。
「全員揃ったな」
小隊員全員が揃った事を確認し、ガルド小隊長がこれからの事を説明します。
まずガルド小隊長が話したのは、私達が拠点としているこの場所が敵に発見されている可能性があるのですぐに撤収するという事でした。
ですが敵の先遣隊が動いている以上、山道の防衛は絶対です。
幸いこちらには地の利がありますし、他にも拠点に出来そうな場所は幾つか見つけてあると以前にヘルシェさんが言っていました。
厳しい防衛になる事は間違いないでしょうが、それでもまだ戦えます。
しかし――――
「ジェコブ、お前は怪我人を先導してイフメヤルヴィまで撤退しろ。あそこには現在、軍が簡易の医療施設を建設している。十分な治療が出来るはずだ」
ガルド小隊長は、ヘルシェさんやエリカさんを含めた重傷の方達を、治療の出来る後方へ下げる判断をしました。これに対し、怪我をしている皆さんは一同に反論します。
「待ってくださいガルド小隊長! 俺達はまだ戦えます!!」
「そうですよ! 国がどうなるかって瀬戸際なんだ。のんびり休んでなんていられません!!」
「例え戦場でくたばったとしても、俺達は小隊長を恨んだりしません。どうか最後まで戦わせてください」
怪我をしている皆さんは必死にガルド小隊長に食い下がります。
その瞳からは、自身を犠牲にしてでも何かを守りたいという決死の覚悟が伝わってきます。
しかし、ガルド小隊長の決定は覆ることはありません。
「お前たちの戦意は買うが無駄死を俺は許さん、無事怪我を治して戻ってこい。そうすればまたコキ使ってやる」
「小隊長……」
反対していた皆さんも、ガルド小隊長の説得によって落ち着きを取り戻していきます。
これによりガルド小隊の総数は元の半分以下になってしまう為、この山道の防衛を他の小隊に任せ、これからの主な任務は、敵の陽動と偵察が主の遊撃部隊となるそうです。
怪我人の方達が部隊を離れる前、私は一度皆さんに挨拶しに行きました。
エリカさんはあれからずっと眠り続けてるようで挨拶する事は出来ませんでしたが、ヘルシェさんと少し話すことが出来ました。
「ごめんな、ナナシちゃん。君には大分負担を掛ける事になっちまう。何とか部隊に残してもらえないかガルド小隊長に掛け合ったんだけど、素直に寝てろって一蹴されちゃってさ。まったく、普段は馬車馬みたいに使ってくれる癖にな」
「……それは普段ヘルシェさんの態度が不真面目だからではないでしょうか。この機会に真面目な人になって帰ってきてくださいね」
「俺が真面目ねぇ……ナナシちゃん、そんな姿想像できる?」
「……ノーコメントで」
普段と変わらないヘルシェさんの明るい口調に、ついつい私も軽く言葉を返してしまいます。
本当は傷の事をもう一度きちんと謝ろうと思ってここへ来たのですが、完全にタイミングを逃してしまいました。
「ま、折角休みを貰ったんだし、暫くはゆっくりするよ」
「そうしてください。後方には治癒魔法が使える方も居ると思うので心配ありませんが、自身が重傷という事を忘れないでくださいね」
「大丈夫、大丈夫。俺はオンオフしっかりしてる人間だからさ、3食昼寝付きの生活を満喫させて貰うさ」
「……前言撤回です。傷治ったらすぐ戻ってきてください、戦時中にお昼寝なんて贅沢です」
それもこれも、全部ヘルシェさんが悪いのです。
しっかり謝ろうと決意を持ってきたのに、軽口はおろかお昼寝を満喫宣言等許せるものではありません。
お昼寝なんて、村を出たあの日から殆どできてないのに。
――――ヘルシェさんのばーか――――
心から本心の言葉は、口にする事無く秘めたままでいます。
こんなちゃらんぽらんな人でも、こうして怪我をして苦しんで……苦しんで?
……ともかく、怪我をしてしまったのは私の所為なのですから、私が配慮してあげなきゃなのです。
その後、ジェコブさんや他の怪我人の方達に挨拶を済ませてその場を後にして、ガルド小隊長の所に戻ります。
ここからは特定の拠点を持たず、各地を転々としながらの戦闘となるため、体力消費が今まで以上に大きくなります。
私が持つのは出来る限りの医療品と水。
エリカさんが居なくなってしまった以上、ここから先負傷者の治療は私の役割なので何時でも行動できる様に準備します。
その結果、食料や弾薬を持つ余裕が無くなってしまいましたが、そこはアルちゃんが代わりに持ってくれました。
「へーきへーき! これぐらい何でも無いよ。何ならナナシも背負って行ってあげようか?」
明るく笑うアルちゃんに申し訳なく思いましたが、その分は働きで返せば良いのです。
「もー……そこまでしなくても大丈夫だよ。けど怪我したらすぐに言ってね、バッチリ治しちゃうから」
「はーい。ナナシの事、頼りにしてるからね」
「うんっ! 一緒に頑張ろうね、アルちゃん」
私達は笑顔で準備を終え、移動を開始します。
でも本当は、心の中が不安で一杯でした。
エリカさんもヘルシェさんも居なくなって、これから私達は戦っていけるのか。
隣でずっと笑っているアルちゃんも、きっとそうなのだと思います。
だけど私は、出来るだけ明るく前に向かって進み続けます。
そんな不安を振り払う為に、皆に不安が伝わらないように。