銃声に思わず身体が硬直しますが、何処にも痛みは無く、トニーさんもアルちゃんも無事な様です。
「今のは多分ミカの狙撃だな。思ったより敵が近くまで来てるみたいだぜ」
「っ……索敵魔法ですぐに探知します!」
「ダメだよナナシ! 身体まだ本調子じゃないんでしょ!?」
アルちゃんは止めてきますが、今はそれ処ではありません。
二人が無事にこの場を切り抜ける為ならば、私の負担等気にしてはいられないのです。
「大丈夫、遠くまで見なければ単発発動で負担は抑えられるよ。それに、皆無事にここを切り抜けるには索敵は必要でしょ?」
「でも……」
「……だな。悪いナナシ、頼めるか?」
「トニー君!?」
「いざとなったらナナシはオレが背負って逃げる! 誰一人見捨てたりしねえよ」
トニーさんの言葉に、アルちゃんは何とか納得してくれたようです。
私は心の中でアルちゃんにごめんねと謝りつつ、すぐに索敵魔法を発動します。
範囲は何時もの半分の100M程、広がった私の索敵範囲内に一つ、また一つと敵意の反応が増えていきます。
その数は、合計で12。
戦力差に思わず息を飲んでしまいます。
通信魔法具でガルド小隊長達に応援を呼ぶ? しかし彼方も戦闘中の筈です。
ここは、私達だけで何とかしないと。
「索敵完了しました。敵の数は12、私達の全面に展開しています」
「12か、結構多いな。敵は一塊になってるのか?」
「いいえ、それぞれが3人程に分かれて行動している様です。恐らくこちらの大まかな位置がバレていて、包囲しようとしているのかもしれません」
「でも、なんでこっちの位置がバレてるんだろ。敵にもナナシみたいに索敵魔法が使える奴が居るのかな?」
もしそうなら、敵はもっと早くこちらを包囲しようと動いている事でしょう。索敵魔法なら、大まかではなく私達の位置が正確に理解できるはずです。
つまり索敵魔法ではなく、何か別の方法でこちらの位置を掴んでいるという事です。
考えられるとすれば、匂いや音位ですが、どちらも気を付けていたため敵を呼び寄せる程の効果は無い筈。
「ま、深く考えても仕方ねえ。とりあえず敵が分散してるなら願ったりかなったりだ。ミカもこっちをカバーできる位置に居るみたいだし、敵の集団を一つ一つ潰して行くしかねえな」
「了解。じゃあ私がサクッと行ってくるから、トニー君はナナシを守ってあげて」
軍用シャベルを片手に意気揚々と仕掛けようとするアルちゃん。
本来ならアサルトである二人が前に出てそれぞれの敵を撃破、そこを私が援護しつつ立ち回れれば、ここでの勝率はグッと上がるのでしょう。
しかし私は戦士としては未熟すぎて、二人と離れてしまえばすぐにやられてしまうのは目に見えています。
だからこそアルちゃんは、本来二人でやる仕事を自分一人で引き受けようとしているのでしょう。
自分の弱さが悔しい、皆の足を引っ張ってしまう事がたまらなく悔しいです。
ギュッと拳を握り悔しさに耐えていると、私の頭をアルちゃんが優しく撫でます。
「そんな心配そうな顔しないでよ、ナナシ。私が強いのは良く知ってるでしょ?それに、ガルド小隊長から新技も伝授して貰ったし、このぐらいの敵私一人でなんとかしてみせるよ」
「アルちゃん……」
「ばーか、一人で突っ走ろうとしてるんじゃねえよアルマ。ナナシ、お前はオレの後ろで援護しろ。二人で組んで、アルマの動きをカバーするぞ。それと、さっきみたいに手榴弾を投げてくる奴が居るかもしれねえ、二人とも気を付けとけよ。」
「……はい」
「りょーかい」
ともかく、私に出来る事をするしかありません。
小まめに単発索敵で敵の位置を把握し、二人を援護する。
ホルスターからT-35を抜き、弾の残数を確認した後にセーフティを解除します。
100Mでの索敵では、単発ならば身体への負担は殆ど無さそうなのは確認済み。
再度索敵魔法で敵の位置を全て把握しなおします。
「アルちゃん、ここから2時方向に居る敵が距離を詰めてきてる。丁度今居るのは、ここから20Mぐらい離れたあそこ木の後ろ。まずはあいつらを叩こう」
「おっけー、20秒で終わらせちゃうよ」
「敵を倒し切ったらまたこっちに合流してね。トニーさんは12時正面、こちらに向かってきている敵を攻撃してください、後ろから私も小銃で援護します。挟まれない様、逐一索敵情報を共有しますので、私から離れすぎないようにお願いします」
「分かった、敵が近づいたらすぐにオレに教えろ。お前を狙う敵は、全部倒してやるからよ」
作戦は決まりました。
アルちゃんとトニーさんのアサルトとしての力に頼った強引な戦いで穴も大分ありそうですが、ミカさんの援護が穴を埋めてくれる筈。
後は私の唯一の取柄である索敵魔法で、状況を打開してみせます。
「よし、じゃあ行くとするか……二人とも無理だけはすんなよ! ここは全員無傷で切り抜けるぜ」
「りょーかい!」
「頑張りますっ」
「攻撃開始ッ!」
トニーさんの掛け声とともに、アルちゃんが2時の敵に対して突っ込んでいきます。
すぐさまアルちゃんに対して銃撃が行われますが、アルちゃんは強靭な身体能力で大部分を回避、どうしても避け切れない部分はシャベルで叩き落しながら、物凄い勢いで敵に肉薄していました。
そして私も、トニーさんと共に正面の敵を迎撃に向かいます。
トニーさんはアルちゃんと違って強力な身体強化魔法を使えるわけでは無いようですが、それでも常人とは思えないスピードで動いて敵をかく乱しています。
ここで私は索敵範囲を更に50M程に絞り、全面の敵意をより注意深く観察します。
三つの敵意は前に居るトニーさんへ集中している様で、後ろから近付いている私に気づいていない様子。
これは千載一遇のチャンスです。
私は油断している敵意の一つに向けて、T-35を発砲します。
放った3発の弾丸は何とか敵に当たったようで、敵意の一つが消えるのを確認。
同時に残った二つが私の方へ敵意を向けますが、それは間近にトニーさんが迫っている状況では自殺行為。
「くたばれ、オーガ野郎!!」
トニーさんはオーガ兵から鹵獲したサブマシンガンで、残る二人を蜂の巣にしていました。
敵意の消失を確認して、すぐさま周りの索敵を行います。
アルちゃんの方の敵意も全て消失、残る敵意は六つですが、どれもどんどんこちらへ近づいてきます。
その中の一つが、物凄い勢いでこちらに近づいてきていました。
異常な速さ、これは尋常ではありません。
「トニーさん気を付けて! 敵が突っ込んできます!!」
私が叫ぶと同時に、突っ込んできた敵はトニーさん目がけて肉薄し、両手に持った短刀をトニーさんへと振るいます。
「っ!?」
咄嗟にバックステップで回避するトニーさん。すかさずサブマシンガンを構えますが、同時に相手から飛んできた短刀に気づき、構えたサブマシンガンで受けた事で短刀が突き刺さります。
「ハッ……! 雑魚の中にも少しは歯ごたえのある奴が居るじゃねえか」
仕留めきれなかった事が悔しかったのか、敵が忌々しそうに吐き捨てます。
その姿は暗くてよく見えませんが、声や背丈からして幼く、どうやら子供の様です。
あの手この手で兵力を増やさなければ戦線を維持できないトゥーリスと違い、オーガは大量の兵士を有しているオーガに何故少年兵が居るのかは謎ですが、何故か彼からはとてつもない胸騒ぎを感じます。
一刻も早く何とかしないと。
「トニーさん、無事ですか!?」
「ああ、何とかな! ナナシ、お前はそこから出てくるなよ。コイツは、オレがやる!」
どうやらトニーさんは無事の様です。そして――――
「援護は任せろ、トニー君!!」
敵を倒したアルちゃんが、シャベルを振りかぶって敵に振り下ろします。敵も残った短刀で受けますが、
ガン――――――――ッ!!!
激しい金属のぶつかる音と共に、アルちゃんの怪力に耐えきれなかった敵が大きく後ずさりします。
「いってぇー……何だこの馬鹿力は!? てか……女?」
「そーだよ! 後馬鹿って言うなっ! 次は頭に叩き落すからね」
相手の軽口に乗るアルちゃん、しかし戦意は変わらず、油断無く相手を睨みつけています。
そんなアルちゃんを見て敵は、狂気の籠った敵意をアルちゃんにぶつけます。
「良いぜ、気に入ったよ。お前は生かしてたっぷり楽しんでから殺してやる。楽しみが一つ増えたなぁ!」
どんどん濃くなっていく敵意、そして明らかなアルちゃんへの執着。
コイツを放っておいたら、アルちゃんにどんな危害が及ぶか分からない。
だから――――
【コイツは今ここで倒さなきゃダメだ】
索敵で相手の位置は完璧に把握しています。
残る五つの敵は正面の敵の後方に集まっており、どうやら援護で弾幕を張る気なのでしょう。
まずはアレを何とかしないと――――私がそう思った次の瞬間、複数の銃声が周囲に木霊します。
「今だアルマ! そいつに飛び掛かれ!!」
同時に響くトニーさんの声、アルちゃんは状況が分かっていないようでしたが、迷うことなく敵に飛び掛かります。
「ちっ……舐めんじゃねえよ!!」
トニーさんとアルちゃんによる2方向からの同時攻撃に、敵は先程こちらに攻めて来た時と同じく超スピードで移動し、二人の攻撃を避けています。
魔法による身体強化? でも、あの時相手はアルちゃんに力負けして吹き飛ばされそうになっていました。
そもそもオーガ兵が魔法を使う話なんて聞いた事がありませんし、何か別の要因があるのかもしれません。
敵は闇に紛れ、アルちゃんとトニーさんからは捕捉出来ないでしょう。
しかし私の索敵魔法は、決して敵を逃しません。
先程響いた銃声、それはミカさんによる援護射撃です。
それによって後ろに控えて居た敵は全滅、残るはさっきの敵一人だけ。
それも私の索敵で、完全な位置が分かっています。
「絶対逃がしません」
私は捕捉している敵の位置へ攻撃を行います。
T-35は小銃の上、敵は動いているので私の腕では当てる事は難しいでしょう。
でも私は
何故ならば――――
「がっ……!?」
響く銃声と、敵の悲鳴。
ミカさんの狙撃が、敵に命中したようです。
私が敵を撃ったのは、当てる為ではなく、ミカさんに敵の大まかな位置を知らせる為でした。
ミカさんの驚異的な射撃センスは何度も目にしていますので、きっとこの状況でも当ててくれるだろうと信じていました。
「な、なに……どうなったの?」
「多分ミカがやってくれたんだろうぜ、ナナシは無事か?」
「はい、お陰様で怪我一つありません」
私達に被害は無く、対して相手は全滅。これ以上ない結果です。
しかし油断は出来ません。先程の異様な敵からは、以前として濃い敵意を感じます。
全く動きが無い所を見ると、かなりの重傷なのか、死んだフリをして機会を伺っているのでしょう。
「二人とも気を付けてください、さっきの敵からはまだ敵意を感じます。止めを刺しますか?」
「……そうだな、オレがやる。二人は下がっててくれ」
「分かりました。敵の位置は、あそこの木の下です。気を付けてください」
私はトニーさんに敵が居る位置を教え、アルちゃんと一緒に後ろへ下がります。
索敵魔法はギリギリまで範囲を絞って継続発動、これで何かあってもすぐトニーさんに知らせることが出来ます。
周囲に残る敵意は、さっきの敵1つだけ。
それも特に動くことは無く、恐らく重傷なのだろうと一安心したその時――――
――――ドサッ――――
何かが木の上から落ちてくる音が聞こえました。
「! 結構大きい音だったね。まだ敵が居たのかな」
すぐさま警戒態勢を取るアルちゃん。
しかし敵の反応はまったくありません。
「敵じゃないよ、多分雪が落ちたんじゃないかな? ちょっと見てくる」
「えっ……ちょっとナナシ! 止めときなよっ」
「平気、向こうに敵の反応はないから」
幸い音が聞こえたのは比較的近くだったので、私は確認のため音の方向に向かいます。
音の近くまでやってくると、何やら大きな塊が木の上から落ちてきたようで、周囲の草木が潰れていました。
「やっぱり雪かな……」
最初はやはり木の上から雪の塊が落ちてきたのだろうと思いました。
しかし、それは間近まで近づくことで間違いだと気づきます。
「……え?」
ピチャッ――――っと私の顔に温かい液体が付着し、それと同時にこの戦場に来てから嫌という程嗅いだ臭いを感じます。
「これは……血?」
血の臭いを嗅ぎ、改めて私は目の前を観察します。
すると目の前の雪だと思ったナニカは、何故かトゥーリスの軍服を着ている事に気づきます。
そして胸の真ん中にはナイフが突き刺さっており、そこから血がまるで噴水の様に噴き出しているのです。
目の前にあるナニカの小隊にに気づいてしまった瞬間、私の心臓がバクバクと音を立てんばかりに跳ね回ります。
絶対違う そんな訳ない きっと何かの間違いだ
そう思って何度も確認します。
ですがそれは、決して間違いなどではなく――――
「ミカ……さん」
先程まで私達を何度も助けてくれた、ミカさんの変わり果てた姿だったのです。
少し変わっていたけど、温厚で優しい人。
私の事をよく心配してくれて、色々なアドバイスを頂きました。
戦場では、見事な射撃能力で何時も助けてくれるとても頼りになる人でした。
でも、ミカさんの身体はもう冷たくなっていて、既に亡くなっているのは明らかで。
その事実が受け止めきれなくて、私は只立ち尽くす事しか出来ませんでした。
しかしそれは、戦場ではどうしようもない程の隙。
少し考えれば分ったはずなのに。
ミカさんがこうして死んでしまっている以上、殺した相手がまだ近くに居るという事を。
「ナナシ、危ない!!」
悲鳴の様なアルちゃんの叫び声と共に、私は地面に叩きつけられます。
突然の事に動揺しながらも何とか状況を理解しようと周りを確認し、私が地面に叩きつけられたのは、
アルちゃんが私の上に覆いかぶさったからだと分かりました。
「アルちゃん? いったい何が……」
「ナナシ、怪我は無い?」
「私は怪我してないよ。そ、それよりミカさんが……っ!?」
私はアルちゃんにミカさんの事を伝えようとしました。
でもその時、
ヌルッと――――
ヘルシェさんの時と同じ、手に血が付いた感触。
でも私は何処も怪我していません。
ならこの血は――――?
「ほぉー、良い動きだな。まさかあの距離から割り込めるとは、流石【加速】の部下って所か」
突如、前方から声が響いてきます。
声からして男性の様ですが、その声は今まで聞いたことの無いものでした。
聞いたことの無い声、つまり仲間である可能性は低い。
だけど、おかしな事が1つ。
先程から近距離仕様で張り巡らせている索敵魔法に、敵意の反応は一切無いのです。
なら、この男は一体――――
私がそう考えていると、覆いかぶさっていたアルちゃんが立ち上がります。
「ナナシ、ここは私が何とかするから隠れてて」
「だっ……駄目だよアルちゃん。だってアルちゃん、怪我してるでしょ!」
さっき私の手に付いた血。
私の物ではない以上、この血はアルちゃんの物に間違いありません。
感触で付着したのが分るほどという事は、アルちゃんの出血部位はかなり大きいものなのでしょう。
そんなアルちゃんに無理はさせられません。
私は必死にアルちゃんを止めようとしますが、
「大丈夫、これぐらい平気だよ。ナナシは私の強さ、よく知ってるでしょ」
アルちゃんは聞き入れてくれず、シャベルを片手に目の前の男と対峙してしまいます。
対して男は、すぐさま立ち上がったアルちゃんを素直に驚いている様でした。
「しかも立つのかよ、急所じゃねえとはいえ腹抉った筈だけどな。見た目はガギなのに随分と化け物じゃねえか」
「このぐらい、戦場じゃ日常茶飯事だもん」
「良いねぇー、タフな相手は遊び甲斐があるからな」
男は、戦う意思を見せるアルちゃんの姿を見て心底楽しそうな笑みを浮かべています。
その笑顔はまるで、子供が面白いおもちゃを見つけた時の様な純粋無垢なもので、
あまりにも戦場に似つかわしくないその笑顔に、私はこの男から薄ら寒い程の恐怖を感じました。
しっかりと防寒具を着ている筈なのに、ブルブルと震えだす身体。
この男には絶対勝てない。
早く逃げないと殺されてしまう。
今すぐアルちゃんを止めて逃げる事だけ考えないと。
けど、考える事とは裏腹に、私の身体は只震えるだけで全く動いてくれません。
「アルマ、ナナシ! 何があった、大丈夫か!?」
その時、こちらの異変を察してトニーさんが走ってきます。
「トニー君気を付けて、敵がもう一人居る!」
「何っ!?」
「私が仕掛けるから、トニー君はサポートお願い!」
「ちょっ、おいアルマ!?」
言うが早いか、アルちゃんは片手でスコップを振りかぶると、目の前の男に向かって一閃。
その一撃はとても怪我をしてるとは思えない程速く、当たればどんな屈強な男でも昏倒させるだけの重さがありました。
しかし、男はアルちゃんの渾身の一撃を、苦も無く避けたのです。
「あれっ――――?」
「良い速さだが、お前素人だろ? それじゃ、宝の持ち腐れだわなぁ!」
攻撃を躱された反動で、大きくバランスを崩すアルちゃん。
男はそんなアルちゃんのお腹を容赦無く蹴り上げます。
「がはっ!?」
「そら、今度こそ眠ってな!」
「させるかぁ!!」
容赦無く吹き飛ばされ、木にぶつかるアルちゃんに男は小銃を構えますが、その隙を付いてトニーさんが背後から仕掛けます。
しかし、
「てめぇもだガキ、どうせ闇討ちすんなら黙って隙付けマヌケ」
男はトニーさんの攻撃を難なく躱すと、小銃でトニーさんに狙いを付け発砲します。
放たれた弾丸を腹部と肩口に銃弾を受け、その場に崩れ落ちるトニーさん。
「ちっ……くしょう……」
男はホルスターに小銃をしまうと、私の方へ向かって歩いてきます。
私は咄嗟にT-35を構えますが、手が震えて照準もままなりません。
そんな様子の私を見て、男はつまらなそうな顔をします。
「止めとけよガキ、てめえの腕じゃ至近距離まで近づいたって俺には当てられはしねえ、弾の無駄だ。それよりお前……ナナシ・エルフィーだな?」
名前を呼ばれ、ビクンと跳ねる私の身体。
何故この男が私の名前を知っているのか。
そんな疑問よりも、こんな得体の知れない相手に自分を知られているという恐怖が、先程から震えていた私の身体をより一層震わせます。
「どうやら当たりみたいだな。安心しろよガキ、お前はまだ殺さねえ。抵抗しなけりゃ暫くは痛い目にも遭わせねえよ。だから、大人しく捕まっとけ」
遂に男は私の目の前までやってきます。
未だ突きつけたままのT-35。
しかし私には、引き金を引くことは出来ませんでした。