「……あなたは」
「あん? なんか言ったかガキ?」
「あなたは一体……何なんですか」
銃を撃つことも出来ず、何とか絞り出せたのはたったそれだけの言葉。
なんと情けない事でしょう。
アルちゃんもトニーさんも、必死に戦っていたというのに。
ですが私は、相対した瞬間からこの男に立ち向かう勇気など微塵も無かったのです。
圧倒的な戦闘力もそうですが、何より索敵魔法で感知できないという異常さ。
私にとって索敵魔法は、戦闘面での唯一と言っても良い拠り所。
それが効かない相手に勝てるわけが無いと心が諦めてしまっているのです。
「何者だ? ……ああ、そう面と向かって聞かれると中々困るもんだな。まあとりあえず名前でも言っとくか」
男はめんどくさそうに頭を搔くと、自分の名前を口にします。
「ライド。ライド・カレリンがオレの名前だ。職業は……まあ見ての通り軍人だな」
「……オーガ兵ですね」
「軍服見りゃ分かるだろ」
確かに、男が身に着けているのはオーガ兵と同じ軍服です。
私の故郷を襲って、大切な人達を殺した
もうこれ以上何も奪われない為に、殺さなければいけない相手。
なのに、何も出来ない自分がどこまでも悔しい。
そしてついにライドは、私からT-35を奪い取ります。
これで私は、抵抗する手段を全て失ってしまいました。
「フン……それにしてもさっきのガキ達と違ってお前は期待外れだな。確かにさっき抵抗するなとは言ったが、ホントに何もしねえとはね。気張ってたお前の仲間に申し訳ねえとか思わねえのか?」
「……」
「今度はダンマリかよ、ホントつまんねえなお前」
冷たい、まるでゴミを見るようなライドの視線が私に突き刺さります。
オーガ兵から敵意をぶつけられるとは違う、何も感情の入っていない視線が私には逆に怖くて、私は只黙って俯くことしか出来ません。
しかしそれがかえって良かったのか、一切反応を示さない私に興味を失ったようで、ライドは自身の装備の確認を始めました。
どうやら、アルちゃん達にトドメを刺す気は無いようです。
すさまじい勢いで木にぶつかっていたアルちゃんですが、アルちゃんの頑丈さはよく知っています。
トニーさんは重傷でしょうが、アサルトの人達は身体能力の高さに加え、幾つか防弾装備も付けています。
恐らく二人とも、まだ生きてる筈。
ライドは言いました、私は大人しくしていればまだ生かしておくと。
つまり私には、奴らにとって何かしらの利用価値があるという事なのでしょう。
ならばこのまま私が大人しくしておけば、二人が助かる可能性も上がるかもしれません。
オーガは捕虜に人道的な配慮など行わない、捕まれば壮絶な拷問が待っていると聞いた事があります。
ですが幸い、私は前世の経験で理不尽に痛めつけられる事に慣れています。
戦闘で役に立てない私が二人の役に立てるのならば、迷う理由はありません。
相変わらず震え続ける身体を無理やり抑え、私が覚悟を決めたその時、
「ナナシに……」
暗闇に響いたのは、確かにアルちゃんの声。
咄嗟に私が顔を上げるのと、ライドが声の方向へ反応するのはほぼ同時。
しかしそれより速く、
「触るなぁ――――ッ!!!」
まるで弾丸の様な速さでライドに肉薄したアルちゃんは、その拳で思いっきりライドを殴り付けました。
「ッ――――!?」
アルちゃんのパンチをモロに受けたライドは吹き飛ばされ、先程のアルちゃんの様に木へ叩きつけられます。
「ナナシ、大丈夫!?」
「えっ……あ……アル……ちゃん?」
気づけば私は、いつの間にかアルちゃんに抱えられている状態でした。
先程のアルちゃんの速さとは次元の違うスピード。
その動きは、まるでガルド小隊長の【加速】
「アルちゃん……今のって」
「言ったでしょ? とっておきがあるって。こんな事もあろうかと、ガルド小隊長に教わってたんだよね。シャベルはバラバラになっちゃったけど、この魔法を使えばアイツとも戦えるよ」
どうだと自信たっぷりに胸をそらすアルちゃん。
ああ、やっぱり凄いなアルちゃんは。
もう無理だと諦めてしまう私と違って、どんな困難でも諦めずに最後は解決してしまう。
何時だって、私が辛い時に助けてくれるヒーロー。
「アルちゃんはやっぱり凄いね」
「ふふん、まっかせなさーい!」
ニコニコ笑うアルちゃんは、さっきの怪我が嘘の様に元気です。
まさかもう治っちゃったのでしょうか。
普通じゃあり得ない話ですが、アルちゃんの身体能力と魔法はガルド小隊長お墨付きな程高いそうですし、もしかしたら本当に傷が塞がってしまっているのかもしれません。
しかし、私を抱えたままではアルちゃんの体力を消耗させてしまいますし、見栄えも大変よろしくありません。
降ろして貰えるようお願いしましょう。
「けど、そろそろ降ろして。ちゃんと自分で立てるから」
「おっと、りょーかい。それよりナナシ怪我は無い? さっきの奴に酷い事されなかった?」
アルちゃんは抱えていた私を地面へ降ろすと、心配そうに身体のあちこちをぺたぺた触ってきます。
「何もされてないよ、平気」
「そっか、良かった。後はトニー君だけど……」
「多分大丈夫だと思う。攻撃を受けてたのは肩とお腹だったけど、そんなに威力の高そうな銃じゃなかったし、防弾装備も付けてる筈だから」
「おっけー、じゃあすぐにトニー君を見つけて手当してあげよう。応急手当はナナシに任せたよ」
「分かった。けど……」
私の視線の先には、変わり果てたミカさんの姿がありました。
せめて弔ってあげたいですが、ここは戦場。
そんな時間はありません。
私の想いを察したのか、アルちゃんは黙って私の肩に手を置きます。
「ナナシ、ミカ君は……」
「分かってるよ。ごめんなさい、ミカさん……でも今はトニーさんを優先します」
少しの間手を合わせ、二人でトニーさんを探しに行こうとした時、前方から物音が聞こえます。
「っ!」
「ナナシ、下がって!」
アルちゃんはすぐさま私の前に出ると臨戦態勢に入り、私は前方への索敵を再開します。
索敵魔法に反応は無し。
けど……
「そこに居るのは誰だ、出てこいッ!!」
アルちゃんの声に反応する様に帰ってきたのは、パン、パン、パンと乾いた拍手の音。
そして――――
「やるじゃないか。お前は楽しめそうで安心したよ」
先程アルちゃんに殴られて吹き飛ばされた、ライドの姿でした。
その姿はとてもダメージを受けてる様には見えず、余裕な笑みすら浮かべています。
「今のは加速魔法だな。なるほど、お前はあの【加速】の弟子って訳か」
「! ……ガルド小隊長を知ってるの?」
「ああ、奴とは戦場で何度か戦ったことがあるからな」
楽しそうに語るライド。
対してアルちゃんは、そんなライドをきつく睨み返します。
「だったら、この魔法の強さは分かってるでしょ? 素直に降参してよ」
「確かに、ガルドの加速は厄介なものだった。けどガキ、お前それを十全に使いこなせてるって言えるのか?」
「……どういう意味?」
「知りたきゃもう一度掛かってきな。そうすれば嫌でも理解できるさ」
来いよと、アルちゃんを挑発するライドに、アルちゃんはギュッと拳を握ってライドに向かっていきます。
加速魔法。
ガルド小隊長が得意とする、人間の限界を超えたスピードで動くことが出来る特異魔法。
そのスピードは目に追えるものではなく、アルちゃんの身体はまるでワープしているかの様に一瞬でライドとの間合いをゼロにします。
「くらえ――――ッ!!」
超速移動からの右ストレート、素人目で見ても絶対回避不可能に思える一撃。
しかし、
ライドはまるで分かっていたかのように身体を少し逸らすだけで、アルちゃんの攻撃を回避します。
「嘘……?」
「どうした、これで終わりか? そりゃねえよな、もっと楽しませてくれねえと、折角待った甲斐がねえ」
渾身の攻撃を避けられ、目を見開くアルちゃん。
そんなアルちゃんに、ライドは余裕な様子で挑発を続けます。
「来いよ、じゃねえとお前の大事なお友達が辛い目に遭うぜ?」
「ッ!? そんなの……絶対させないッ!!」
再びライドに殴りかかるアルちゃん。
しかし結果は先程の繰り返しで、ライドは最低限の動きだけでアルちゃんの攻撃を回避し続けます。
まるで攻撃が当たらない位置が分かっている様な動き。
まさかオーガ兵の中にも魔法が使える者が居る……!?
俄かには信じられない話でしたが、ライドの動きはもはや私には魔法としか思えません。
「おいガキ、どうして自分の攻撃が当たらないか不思議って顔してるな」
「煩いッ! すぐに当てて倒してやるッ!!」
攻撃を避けながらも余裕を崩さないライドに対して、アルちゃんは段々と攻撃が大振りになっていき、息も上がってきています。
それでも尚戦う意思を見せるアルちゃんに、ライドは語り掛けます。
「良いか、お前に足りないのは【戦術】だ。戦いで一番重要なのは、武器でもましてや魔法とやらでもねえ。自分と相手の力量を理解し、そこから最善手を導き出すロジックだ。お前はちゃんと理解出来てるのか? オレの実力、そして自分のスペックを――」
「だまれェェ――ッ!!」
ライドが喋り切る前に仕掛けるアルちゃん。
しかし、その攻撃はライドにまたも回避され、更にそこから流れるようなカウンターの蹴りがアルちゃんのお腹に突き刺さります。
「はぐっ!?」
「そら、そろそろ理解できたか? お前は魔法って強力な武器を持ってるが、それを活かし切れてないんだよ。お前は加速と同じ魔法を使うみたいだが、その魔法を完全に使いこなしてるのか? 答えはNOだ、それにしちゃ攻撃が乱雑すぎる。スピードに負けて、攻撃するタイミングに思考が追いつてないって訳だな。加速はそんなミス犯しちゃいなかったぜ」
お腹を押さえて蹲るアルちゃんを、ライドはただじっと見つめています。
まるで、アルちゃんが立ち上がるのを待ってるかのように。
このままではアルちゃんが殺されてしまう。
私も戦わなきゃ。
何かしようとする私でしたが、その時ふと考えてしまいます。
けど、武器も無いのにどうやって?
そもそも武器があった所で、私なんかがアレに挑んで何が出来ると言うのでしょう。
アルちゃんでも敵わない相手に、私が何か出来る訳がない。
私は弱い。
銃もロクに使えないし、接近戦なんてどうやっても無理。
まるで絡みつくように絶望が私に絡みつき、身体を鉛の様に重くします。
でも、
このままじゃアルちゃんが、死んでしまう。
そんなの絶対嫌、耐えられない。
今私の目の前で大切な親友が、アルちゃんが苦しんでいるのです。
このまま何もしないなんて、出来るはずがありません!
気づけばいつの間にか、私の身体は軽くなって動けるようになっていました。
でも、今の私は何の武器も無い。
せめて武器が手に入れば――――
「――――あっ」
確実に手に入る武器がある。
その事を思い出した私は、走り出します。
ライドに私の姿は見えていた筈ですが、どうやら私等取るに足らない。何時でも捕まえられると思っている様です。
その判断に、感謝しましょう。
私が向かったのは、ミカさんの亡骸の元。
改めて直視するミカさんの姿は、痛々しくて胸が痛くなります。
「ごめんなさいミカさん、私はアルちゃんを助けたいんです」
私はミカさんに謝りつつ、持っていたライフルと小銃、そして弾薬ポーチを手に取ります。
ヨモツ・ライフル M228
現在オーガが主力として使っているライフルで、私達の使うM200より射程が上な高性能ライフル。
私はまだ触ったことも無い銃ですが、このM228はM200を改良されて作られた物なので、弾も操作法もかなりの互換性があります。
問題は銃が壊れていないかでしたが、銃口も曲がっておらず、ボルトも問題無く動作します。
「これなら、行ける!」
すぐさま銃を撃つための準備に入ります。
M228の全長は、約120cm。
私の体格では、この自分の身長近くあるM228をすぐに撃つ事は出来ません。
まず目標の位置を確認し、その場に座り込んで大きく股を開い膝を立てます。
そして立てた膝に肘を置き、ストックをしっかり肩に密着させて構える。
所謂、座射と呼ばれる構え。
伏せながら撃つ伏射よりも安定度は下がりますが、視野も広く取れ、いざという時にすぐ立ち上がって逃げる事が出来ます。
幸いこの暗闇の中でも、夜目が利くお陰で何とかライドの姿は追えそうです。
後は、私がちゃんと撃てるかだけ。
大丈夫、いっぱい練習はしてきた。
私が、アルちゃんを守るんだ!!
一度大きく息を吸い、銃越しにライドの姿を捉えます。
すると丁度、アルちゃんが何とか立ち上がる所でした。
私はライフルのボルトを前方へ押し出し、弾薬を装填。
そしてボルトを下に下げてロックすると、ギュッと全身に力を込め、ライフルのトリガーを引き絞ります。
――――パァァン――――
私の放った弾丸は、僅かにライドから逸れて外れてしまい、近くの木に命中しました。
やはり衝撃で照準はズレてしまうようですが、衝撃も殺し切れていますし、次弾も問題無く撃てます。
ボルトを後方に引くと同時に、チャキンと音を立てて飛んでいく薬莢。
すかさずボルトを前方にスライドさせて次弾を装填し、ボルトを下げてロック。
そして私は大声で叫びます。
「アルちゃん! 援護は任せて!!」
「なっ……ナナシ!?」
驚くアルちゃんの声に合わせ、私は次弾をライドに向けて放ちます。
今度は先程よりもブレを抑える事が出来、弾はまっすぐライドへ向けて飛んでいきますが、流石のライドは弾を回避していました。
「あのガキ、逃げた訳じゃなかったのか」
弾道の先に居る、私へ視線を向けるライド。
2度目も失敗、そして私の位置を知られてしまいました。
ライドとの距離は少し離れているとはいえ、走ってこられればすぐに詰められてしまう距離。
本来なら絶望的な状況、けど問題ありません。
チャンスは何度でもあるのです。何故ならば――――
「任せた、ナナシ!!」
凛とした響く声と共に、再度ライドへ向かっていくアルちゃん。
流石の化物も、私に気を取られた状態で肉薄してくるアルちゃんにも対応するのは骨が折れるはず。
私はアルちゃんへの誤射だけに細心の注意を払いながら、お前を狙い続けれるのです。
銃越しに見据えるライドの顔は、未だ余裕を残した物でした。
ならばその余裕、すぐに剝がしてやろうではありませんか。
接近戦を仕掛けるアルちゃんの動きが、攻撃の後すぐに距離を取るヒットアンドアウェイに変わります。
流石アルちゃん、これならアルちゃんの離れるタイミングに合わせてライドだけを狙い撃つことが出来ますね。
「なんだ、やれば出来るじゃねえか。土壇場の足掻きにしちゃ上出来だぜ、ガキ共」
「ふーんだっ! いまさら謝ったって、許してやらないもんねっ」
再び攻撃を仕掛けるアルちゃんの動きを見つつ、私は次弾の装填を行って機会を待ちます。
次こそ絶対当てる……当ててみせる!
攻め続けるアルちゃんに対して、ライドは先程と同じくカウンターを狙っています。
アルちゃんの大振りの攻撃に合わせるように放たれる鋭い蹴り。
しかし、アルちゃんは加速魔法を使って後方に回避します。
ライドのが空振り、アルちゃんは居ない、このタイミングならいける!
私は全神経を集中させ、ライフルのトリガーに指を掛け――――
――――ザシュッ――――
突然の事に、私は何が起こったのか全く分かりませんでした。
只あったのは、衝撃と背中に感じた熱。
身体がぐらつき、私は地面に倒れこんでしまいます。
地面に着いた背中からくる激痛で、私は自分が背中に怪我を負ったのだと気づきました。
けどなんで?
ライドはアルちゃんと戦っていた筈なのに。
私は背中の痛みに耐えながら、身体を起こして周りを見渡します。
すると、
「よお、さっきはよくもやってくれたなぁ」
私の目の前に、先程ミカさんが倒した男が立っていたのです。
ああ、私はなんて馬鹿なんでしょう。
あの時、コイツがまだ生きてると気づいていた筈なのに。
私はライドに索敵魔法が通用しないと分かってから、索敵魔法を使用していませんでした。
どうせ効かないなら、その分他の事に集中しよう。
相手がライド一人ならそれで正解だったでしょう。
けど、敵がもう一人居ると分かっていた状況でその判断は、何処までも悪手でした。
M228は倒れた拍子に手放してしまい、残る私の武器は先程M228と一緒に持ってきた小銃のみ。
「ナナシっ!?」
アルちゃんの私を呼ぶ声が聞こえます。
けどアルちゃんの目の前にはライドが居る。
この相手は、私一人でどうにかしないと。
私は何とかホルスターから小銃を引き抜くと、目の前の男に向けて構えます。
ですが、銃を構えられているというのに目の前の男は、余裕な表情を崩しません。
「ほー、手加減したとはいえ結構痛い筈なんだけどな。ガキの割に根性あるじゃねえか」
「……生憎、痛みには強い方ですので」
何の希望も無い前世でしたが、あの虐待の日々のお陰で、こういった突発的な痛みにも耐性を持てるのはある意味感謝するべきでしょう。
ですが我慢できるとは言え、痛い事に変わりありません。
殆ど強がりから出た言葉でしたが、目の前の男はとても嬉しそうでした。
「そっかそっか、そりゃあ良かった! つまりたっぷり楽しめるってことだよなぁ。ガキ、お前楽に死ねると思うなよ?」
索敵魔法を使うまでもなく、伝わってくる濃厚な敵意。
思わずビクっと身体が反応してしまいます。
私の反応に気を良くしたのか、男は手に持った短刀を付きつけながら近寄ってきます。
「どした? 痛いのは慣れてるんだろ? じゃあもう少し切り刻んでも平気だよなぁ」
「っ……!!」
私はすかさず男に向けて、小銃を発砲します。
しかしあろうことか男は、銃弾が届き切る前に持っている短刀で斬り払ってみせると、そのまま私を地面へ蹴り倒します。
「おいおいおい、まさかそんな銃でオレに勝てるとでも思ってたんじゃねえだろうなぁ!?」
「……化け物」
「はぁ? 魔法なんて訳分かんねぇもん使うお前らには言われたくねーっての。さて……とりあえず傷の礼だ。まずは少しずつ甚振って、お前が何時まで正気保てるか試してみるとするかぁ……な!!」
男は地面に倒れた私を足蹴にすると、肩口に短刀を付きつけます。
その行動で、何をしようとしているのか理解して抵抗しようとしますが、そのまま体重を掛けられ、
――――ズブズブズブッ――――
短刀が、私の左肩に突き刺さりました。
「ッ――――!!」
悲鳴をあげそうになるのを何とか堪える事は出来ましたが、あまりの激痛に意識を持っていかれそうになってしまいます。
でもダメ、我慢しなきゃ。
誰かに痛めつけらている時に一番してはいけない反応、それを私は前世でよく分かっています。
それは、痛がること。
そして、声を上げて痛いと叫ぶこと。
反応してしまえば、攻撃はエスカレートしてもっと酷い目に遭う。
何でもない様に振舞って、無感情を貫く。
それが相手にこの行為を飽きさせる、一番良い方法。
大丈夫、昔は毎日の様に出来ていた事ではありませんか。
痛いと叫ぶ心を必死に押さえつけ、私は無表情を貫こうとします。
でも、
「そんなに必死に声抑えても、痛がってるのは丸分かりだぜ。そんな今にも泣きそうな顔してたらな」
「痛くなんか……ありません」
「ほぉー、まだ強がれるのか。んじゃ次はー……こうしちまおう」
男は私に突き立てた短刀に力を込めると、傷口を抉る様に動かし始めます。
「あ……ぐっ」
先程よりも更に強い激痛に、思わず声を上げてしまいます。
それが良くないと分かっていた筈なのに。
「おいどーした、痛くもなんともねえんだろぉ! 顔真っ青だぜ、調子でも悪いのかぁ?」
案の定、男は声を上げた私に気を良くしたのか、更に強く短刀に力を込めてきます。
駄目、お願い止めて。
今でもギリギリなのに、これ以上されたら――――ッ
――――グリグリグリッ――――
「あ――――ッ!?」
痛い痛い痛い痛い痛いッ!!
まるで神経を抉られる様な激痛に、もはや私の頭は痛み以外の事を考える余裕はありません。
叫びながら暴れるも、足蹴にされている為ロクに動くとも出来ず、寧ろ動いた所為で肩の痛みは更に激しくなってしまいます。
「あぁぁっ!? やだっ……止めて!! 痛いッ! 痛い痛い痛いッ!!!」
動けない私に出来る事は、もう止めてと懇願する事だけ。
だけど男は、そんな私の顔を見て心底愉快そうに笑うのです。
笑った男の顔は、前世で私を散々虐待していたあの人達と全く一緒で。
この苦痛が、この地獄が、この後もずっと続いていくという絶望。
「いやぁ――――ッ!!」
その恐怖に、私は只悲鳴をあげる事しか出来ませんでした。