戦場駆ける白き野兎   作:バサル

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第三話

 その日は、ニルバ村では珍しいとても暑い日でした。

 

 トゥーリスはとても寒いことで有名な国で、更にそこから国土が縦長になっている分、北に向かえばこの世の地獄のような寒さが待っています。

 

 ニルバは比較的南寄りなのでそこまでではないですが、他国の方からすればそれでも想像を超える寒さな事でしょう。

 

 この地に慣れてしまっている私にとって、この暑さは中々に堪えるものがありました。

 

 特に私の白い肌は紫外線にめっぽう弱く、ちょっとでも強い紫外線を浴びてしまうと茹でだこの様になってしまいます。

 

 そんな訳で今日は外に出る気力も湧かず、畑に出るお父さんを見送った後はお母さんの手伝いをしながら家の中でゴロゴロ蕩けている次第です。

 

「ナナシ、ちょっとおつかいに行って来てくれないかしら」

 

 しかし世の中そう上手くはいきません。お母さんからのおつかい要請です。

 

「……暑いの嫌い」

 

 私は精一杯の抵抗の意思を示します。

 

「お母さんもちょっと手が離せないのよ。ほら、これ付けたら大分涼しく感じるわよ」

 

 交渉失敗。

 

 お母さんは私に麦わら帽子を被せ、『お願いね』と念を押してきます。

 

 こうなっては幾ら駄々をこねても無駄ですので、渋々私はおつかいに出かける覚悟を決めました。

 

 しかし出かけ間際、お母さんは私にいつもより多めのおこづかいをくれたのです。

 

 恐らくこれでアイスでも買って食べなさいということなのでしょう。

 

 流石は私のお母さん、私の機嫌の取り方を心得ていますね。

 

 

 

 おつかいの内容はアルちゃんのお家へ荷物を届ける事でした。

 

 荷物の内容はパンのお裾分け。

 

 恐らく焼き立てなのでしょう、香ばしい香りが漂っています。

 

 思わず摘まみ食いしたい欲求に駆られますが、私はそこまでお子様ではありません。

 

 見事おつかいをやり遂げて晴れやかな気持ちで勝利のアイスを楽しむ為、心に巣くった悪いナナシを追い出しつつ私はアルちゃんの家へ。

 

「こんにちは。お届け物だよ」

「ナナシー! こんな暑い中よく来たね。ほら、上がって上がって! すぐ冷たい物用意するから」

 

 どうやらアルちゃんは退屈していたようで、いつもより数段ハイテンションでした。

 

 アルちゃんが用意してくれた飲み物で喉を潤しつつ、ふと家に私たち以外の人の気配がしないことが気になります。

 

「今日はアルちゃん一人なの?」

「そうなの。今日はお父さんもお母さんも用事で出かけてるし、それに……お兄ちゃんも学校でもう家に居ないしね」

 

 そう話すアルちゃんの顔が、少し曇ります。

 

「そっか……お兄さん早く帰ってくると良いのにね」

 

 アルちゃんのお兄さんは物静かで優しい方でしたが、トゥーリス国民が15歳で受ける魔法資質検査で資質大と判定され、担当官の強い勧めで首都ヘルキュアの軍学校に入学してしまったのです。

 

 本来軍学校はそれなりの難関らしいのですが、魔法適正の大きい人は入学試験を免除されるため、こうして検査後の進路を軍学校にする人も多いそうです。

 

 アルちゃんはお兄さんととても仲が良かったので、お兄さんが村を出ていく時はとても悲しそうな顔をしていました。

 

 恐らく今でも思う所があるのだと思います。

 

 ここは何とか話題を変えねばと思考していると、神妙な面持ちでアルちゃんがずいっと身を乗り出してきます。

 

「所でナナシ、あれからガブと仲直りしたの?」

 

 ああ、その事ですが。

 

 あれからというのは当然、あの大喧嘩の後からです。

 

「……ガブなんて知らない。ぜっこーしたから顔も見たくない」

 

 お隣さんなので嫌でも顔を合わせてしまうのですが、アレからずっと無視しています。

 

 ガブの家に面している窓はずっとカーテンを閉めているので、日当たりが悪くなり大変迷惑です。

 

 未だ私に実害を与え続けている元凶を、どうして許す事が出来ましょうか。

 

 私の怒りを感じ取ってか、アルちゃんは心配そうに私の顔を覗き込んできます。

 

「ガブも謝ってたし、そろそろ許してあげなよ。今朝会ったけどずっとしょんぼりしてたよ」

 

 アルちゃんにそんな顔をされると弱ってしまいます。

 

 あの悪ガキがそう簡単に反省するとは到底思えないのですが、しかし油断をしていた私が悪いのも事実です。

 

 非常に癪ですが、ここはアルちゃんの顔を立てておくとしましょう。

 

「ガブがちゃんと謝ったら、許してあげなくもないよ」

「うんうん! ナナシは優しい良い子だねぇー」

 

 アルちゃんは笑顔で私の頭を撫でてきます。本来なら子ども扱いされているとムっとする所ですが、そこはアルちゃん無罪で目を瞑ります。

 

 それに、アルちゃんのなでなではとても気持ちが良いのです。

 

 

 

 

 

 

 

 暫くアルちゃんのナデナデを堪能した後、私達はアイスを買いに行くことにしました。アルちゃんの提案で、ガブの分も買ってあげて仲直りの切欠にしようとの事です。

 

 そこから家の戸締りを確認し、さあ外に出ようという時――――

 

 何かが爆発したような、鈍い音が辺りに響きました。

 

 音は一度だけでは無く、その後も散発的に鳴り続けます。

 

「なに……この音?」

「分かんない。ナナシは家の中に居て! ちょっと様子を見てくるっ」

 

 そう言ってアルちゃんは止める暇も無く家を飛び出して行ってしまいます。

 

 続けてまた爆発音。しかも今度は、何やら人の悲鳴の様な声も混じっています。

 

 明らかな異常事態、畑に行ったお父さんは大丈夫なのでしょうか? 家に居るお母さんは? さっき飛び出していったアルちゃんは??

 

 色んな事が頭を駆け巡って、どうすれば良いのか全く分かりません。

 

 それでも何かしなければならないと思い、アルちゃんを追おうとドアに手を伸ばした瞬間――――

 

 ドンドンドンと、ドアが激しく叩かれます。

 

「ひっ……!?」

 

 思わず悲鳴が漏れてしまいました。

 

 その声にドアの向こうの主は、ドアを開けて家へと飛び込んできます。

 

「ナナシ! 無事か!?」

「……ガブ?」

 

 飛び込んで来たのはガブでした。

 

 よっぽど急いで来たのか、大分息が荒いです。

 

 状況を未だ飲み込めてない私を他所に、ガブは私の腕を掴んで勢い良く引っ張ります。

 

「痛ッ! ガブッ……痛いよ!」

「いいからとっとと着いてこい! 外は大変な事になってるんだぞ!!」

 

 一体何がガブをここまで駆り立てるのか。

 

 私は分からぬままガブに引っ張られつつ外に出て――――

 

 その光景に思わず息を飲みました。

 

 

 

 のどかで平和なニルバ村、しかしそれはもう過去の話。

 

 あちこちで煙が立ち上り、ゴウゴウと燃える家の数々。

 

 収穫間近で黄金に輝いていた麦畑も、今は真っ赤に染まっています。

 

 そして火が立ちこめる中を幾つもの黒い影が、村を蹂躙するかの如く歩いています。

 

 黒い影は長い筒の様な物を持っていて、それを村の人達に向けた瞬間、壮絶な悲鳴と共に倒れて行くのが見えました。

 

 その時昔にテレビで見た戦争映画の映像が、私の頭を過ります。

 

 今目の前の光景はあの映画の世界での光景と全く同じで、ここが今戦場になっているのだと理解しました。

 

 そして、あの影はきっとあの時と同じ――――

 

 

 

「おいナナシ! ぼーっとしてないで逃げるぞ!!」

 

 ガブは私の腕を掴んだまま、影の迫っている反対方向へと走りだします。

 

 しかし影は走って逃げている私達に気づいたようで、幾つかがこちらを追いかけてきているようです。

 

 ガブのスピードは明らかに影より遅い。当然ですね、私というお荷物が居るのですから。

 

 私はもう一度あの影を見ます。しっかり気を保ってな居ないと今にも倒れてしまいそうなほど、心臓がバクバクと脈打っているのを感じます。

 

 だけど――――

 

 すぐさまガブの手を振り払い、フルフルと首を振ります。

 

「ガブ……駄目だよっ……私は置いて行って。じゃないと……ガブも追いつかれちゃう」

 

 なんとか声は裏がらずに、言えたと思います。

 

 ガブは駆けっこが得意なので、私なんかよりずっと早く走れます。

 

 お荷物が無ければ、しっかり逃げ切れる事でしょう。

 

 私はガブの事が大嫌いです。

 

 よく悪戯をしてくるし、顔を合せれば憎まれ口ばかり叩いてくる悪ガキです。

 

 でも、それでもずっと一緒に過ごしてきた幼馴染なのです。

 

 何度も何度も喧嘩してきたけれど、結局最後は仲直りして、一緒に遊んできました。

 

 私はガブが嫌い、でも、ガブは友達です。

 

 せめて彼だけでも逃がさないと、そう思っての言葉でした。

 

 しかしガブは、黙ったまま私の手を強く握りしめるとまた走り出し始めるのです。

 

 影はどんどんこちらへと近づいてきます。

 

 追いつかれてしまうのは時間の問題でしょう。

 

 ガブもそれを悟ったのか、私を連れて近くの家に飛び込みました。

 

 素早くドアを施錠して、家の奥へ。

 

 台所に付くと、ガブは辺りを引っ搔き回して武器になりそうな包丁を握りしめます。

 

 

「ガブ……なんで」

 

 

 なんで私を置いて行かなかったのかと、問いかけます。

 

 正直私は、あの黒い影を見た時からもう駄目なのだと全てを諦めていました。

 

 何故ならあの影からは私を吊るしたあの絞首台と同じ気配、濃厚な死の気配を感じたからです。

 

 ずっと恐れていた終わりの時。

 

 こんな形で来るのは予想外でしたが、私はきっとアレから逃げる事は出来ない。

 

 でも――――

 

 だからこそ、あんな恐怖を幼馴染には味合わせたくない。

 

 だからこそ、ガブだけは逃がそうとしたのに。

 

 気づいたら私はポロポロと涙を零していました。

 

 これは一体何の涙なのでしょう? 拭いても拭いても止まってくれません。

 

 嗚咽混じりに涙を拭う私に、ガブはそっと私の頭に手を置いてくれました。

 

 

「心配すんな。お前は絶対オレが守ってやるから」

 

 

 そして、ニッコリと笑いかけるのです。

 

 普段の悪戯が成功した時の憎たらしい笑顔とは違う、暖かくて安らぎを感じる笑顔。

 

 訳が分かりませんでした。

 

 私は彼の事が嫌いで、きっと私も嫌われてると思っていたのに。

 

 涙が止まるまで、ガブはずっと傍に居てくれました。

 

 ガブは私を暖炉の中に隠すと、絶対ここから出てくるなと言い残して部屋を出ていきました。

 

 暫くして、何かが壊れる音とガブの叫び声が響いてきます。

 

 反射的に私は、耳を抑えて暖炉の中で震えていました。

 

 傍から見れば何とも情けない姿なことでしょう。

 

 でも、どれだけ抑えても体の震えは止まってくれません。

 

 何かしなければならないのに、私は何も出来ないのです。

 

 

 

 

 そうして震えていると、いつの間にか先ほどまで響いていた音が止んでいた事に気づきました。

 

 静かに耳を澄ませても、辺りから音のする気配はありません。

 

 

「……ガブ?」

 

 

 試しにガブの事を呼んでみるも、返事はありません。

 

 私は意を決して、ゆっくり暖炉から抜け出し、ドアを開けて廊下を確認します。

 

 シーンと静まり返った廊下には、誰かが居る様子はありません。

 

 ガブは何処に行ってしまったのでしょう。

 

 そのまま私が他の部屋を確認しようと動き出した時、

 

 

 コロコロ――――と、

 

 

 私の傍にナニかが転がってきます。

 

 それは――――

 

 さっきまで優しく私を励ましてくれたガブで、

 

 焦点の合わなくなった瞳が、じっとこちらを見ているのです。

 

 一気に早くなる心臓の鼓動。

 

 ドクドクと脈打つそれを抑えつつ、私はガブの名前を呼びます。

 

 

「ガ……ブ?」

 

 

 返事が返ってくるわけがありません。

 

 何故ならガブは、もう首だけになってしまっているのですから。

 

 つまりガブは、もう――――

 

 

「ガブ!? なんで、どうして!? やだっ!! やだよぅぅ!!」

 

 

 私は首だけになってしまったガブを抱きしめ叫び続けます。

 

 ガブにはまだ話したい事がいっぱいあって、仲直りも出来て無かったのに。

 

 けれども、いくら叫ぼうとガブが返事をする事はありません。

 

 そしてそれは、私へ更なる恐怖を与える切欠となってしまいます。

 

 

 コツン――――ッ

 

 

 突如、背後からする足音。

 

 私は只ならぬ悪寒を感じ、ゆっくりと後ろを振り返りました。

 

 そこには、先ほどまで私達を追いかけていた黒い影。

 

 黒い軍服に身を包み、銃を握って鬼のような形相でこちらを睨む男の姿がありました。

 

「――――っ!」

 

 男から放たれるのは、あの絞首台に匹敵する濃厚な死の気配。

 

 あまりの恐怖に呼吸が止まり、すぐに耐えがたい苦しみが身体を駆け巡ります。

 

 必死に呼吸をしようと試みますが、喉からか細いヒューヒューという音が出るだけで、上手く肺に空気が入ってくれません。

 

 男はそんな私を一瞥すると、手に持った銃を向けたままゆっくりと空いた手をこちらに手を伸ばしてきます。

 

 きっとあの手で殺されてしまう。

 

 酸欠で意識が朦朧とする中、私は悟りました。

 

 ぎゅっと目を瞑り、数秒後の死を覚悟したその時――――

 

 

「ナナシに触るなァァァ!!!!!」

 

 

 ガンッ!! と鈍い音が辺りに響きます。

 

 続いてドサッと何かが倒れる音。

 

 すぐそこまできていた死の瞬間は、結局訪れませんでした。

 

 私が恐る恐る目を開けると、そこには畑用の大きなシャベルを持って佇むアルちゃんの姿がありました。

 

「大丈夫ナナシ!? 怪我してない!?」

「あっ………あっ……る……」

 

 なんとかアルちゃんの名前を呼ぼうとしますが、上手く声を出す事が出来ません。

 

 アルちゃんはそんな私の背中を摩りながら、ゆっくり息を吸うようにと言います。

 

 なんとか息を整え、息を吸う事出来る様になるまで数秒。

 

 そこで私は、やっと自分がまだ生きているのだと自覚できたのだと思います。

 

「アルちゃん……ガブが…………っ」

「分かってる。けど、今は急いでここを離れなきゃ。直にコイツの仲間が集まってきちゃう」

 

 アルちゃんの視線の先には、先ほどまで私を触ろうとしていた男が頭から血を流して倒れています。

 

 その身体はピクリとも動かず、恐らくもう死んでいるのでしょう。

 

 段々と思考を取り戻してきた頭は、色々な事を考え始めます。

 

 そもそもコイツは一体なんなんだろう。

 

 ガブはきっとコイツに殺されたんだ。

 

 お父さんは、お母さんは無事なのだろうか。

 

 村はどうなってしまうのだろう。

 

 ぐるぐるぐるぐると思考が頭を駆け巡りますが、何一つ答えは出てくれません。

 

 そんな中アルちゃんは、変わり果てたガブを抱きしめていました。

 

「ごめんねガブ、私がもっと早くだ来てれば……でもナナシを助けてくれてありがとう。今は出来ないけど、何時かちゃんと弔うからね」

 

 アルちゃんは近くにあった手ぬぐい布を丁寧にガブに巻いてあげると、シャベルを握りしめ立ち上がります。

 

「ここから逃げるよナナシ! ベルン迄行けばきっと大丈夫。半日ぐらい走る事になるけど」

 

 ベルンというのはニルバ村から西にあるこの辺りでは一番大きな町です。

 

 そこには列車のホームや兵隊も居るはずなので、確かにここよりはずっと安全でしょう。

 

 しかし子供の足では半日どころか1日以上は掛かるで距離のはずです。

 

 それに村にはまだお父さんやお母さんが居ます。

 

 置いて等いけるはずがありませんでした。

 

「ダメだよ、アルちゃん。お父さん達を置いて逃げられないよ」

「……ナナシ、よく聞いて」

 

 アルちゃんは真剣な顔で私の顔を直視します。

 

 その表情だけで、次にアルちゃんが何を言うのかが理解できてしまいました。

 

 ダメ、聞きたくない。信じたくない。

 

 心の中で拒否しますが、アルちゃんはそのまま続けて

 

「ナナシのパパも、ママも……私のパパやママも皆……皆もう死んじゃった。こいつ等に殺されたんだ」

 

 私の両親の死を告げたのです。

 

 

 

 薄々分かってはいました。

 

 コイツらは私の家の方角からこっちにきていたのだから。

 

 麦畑も真っ赤に燃え盛っていたのだから。

 

 家に居たお母さんも、畑に出ていたお父さんも、コイツらに皆殺されてしまった。

 

 その時、私の心の中に小さな黒い感情が生まれたのだと思います。

 

 その感情が一体何なのか、私にはまだ分かりませんでした。

 

 

 

「……分かった、ここから逃げよう。でも、ベルンは遠いよ?」

 

 ゆっくり時間を掛け心を落ち着かせ、私は声を絞り出しました。

 

 そもそもコイツの仲間が追ってこない保証もありません。

 

 仮に運良く村の外に出られたとしても、追いつかれてしまったら殺されてしまうのは目に見えています。

 

 そんな私の不安を察してか、アルちゃんはニッコリ笑うと――――

 

「大丈夫、私に任せなさいっ!」

 

 片手で易々と私を担ぎ上げてしまいました。

 

「……え?」

 

 一瞬何が起こったのか分からず素っ頓狂な声をあげてしまう私を尻目に、アルちゃんはそのまま近くの窓から外に飛び出します。

 

「わわわわわっ!?」

 

 目まぐるしく移り行く景色、いきなり目の前に見える地面。

 

 思わずぎゅっと目を瞑ります。

 

 しかしアルちゃんはそのまま地面に着地すると同時に地面を蹴り上げ、物凄いスピードで前へ前へと進んでいきました。

 

 確かにアルちゃんは運動神経抜群でしたが、13歳の女の子です。こんな事が出来る筈はありません。

 

 成人男性はおろかまるで獣の如く駆けるアルちゃんは、あれよあれよという間に村の中を走り切り、そのままベルンへ向かって進み続けます。

 

 私が次に目を開けた頃には、もうニルバの村は小さくなっていました。

 

「……ふぅ、一旦ここまでくれば安心かな?」

「アルちゃん……今のは一体なんなの?」

 

 安全確認して立ち止まったタイミングで、私はアルちゃんに問いかけました。

 

 対してアルちゃんはバツの悪そうな顔をした後、私に話してくれました。

 

「あれはね、魔法だよ」

「魔法……?」

「そう。実はね、私も昔からお兄ちゃんに教えて貰っててちょっとだけ使えるんだ。お兄ちゃんには誰にも話しちゃいけないって言われてたんだけど」

 

 その話を聞いて、私は少し疑問に感じました。

 

 確かにアルちゃんのお兄さんは魔法の適正がとても高いという話でしたので、アルちゃんも魔法が使えるのは納得できます。

 

 しかし、何故その事を隠さないといけないのでしょう。

 

 この世界では魔法は広く認知されていて、別に使えるからと言って迫害を受ける事もありません。

 

 アルちゃんに聞いてみようと思いましたが、話すアルちゃんの顔が何処か悲しそうだったので、結局聞く事は出来ませんでした。

 

 

 

 その後アルちゃんと相談し、やはりこのままベルンへと逃げる事に決まりました。

 

 私は担がれスタイルからおぶられスタイルへ。

 

 正直情けない事この上ないですが、私が走ると本当に1日以上掛かってしまうので仕方ありません。

 

 それよりアルちゃんは大丈夫なのでしょうか? 魔法の使用には体力を多く消費すると聞いたことがあります。

 

 その事を聞くとアルちゃんは

 

「大丈夫、大丈夫! 私体力には自信あるし、それにナナシは軽いからそんなに負担にならないよ」

 

 まさか平均的な11歳より発育が少々遅れ気味なこの身体がこんな所で役立つとは、とても複雑な気分です。

 

 ベリルに向かって再スタートする前、アルちゃんと一緒にもう一度ニルバ村の方を見ました。

 

 幾つもの煙を上げ、燃えていく私の故郷。きっとあそこでは、未だあの影達の虐殺が続いているのでしょう。

 

 私はこの光景を胸に刻み、アルちゃんと約束したのです。

 

 

 

 何時か絶対にここに戻って村を復興する事。

 

 

 

 そして、奴らの事を絶対に許さないと。

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