戦場駆ける白き野兎   作:バサル

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第七話

 翌日。

 

 身体の方はしっかり休んだので万全なのですが、昨日の事もあり今日一日は索敵任務から外されることになってしまいました。

 

 一応休養するようにとの事でしたが、身体は万全なのに何もしないというのは皆さんに悪いので、エリカ伍長に頼んでお手伝いをさせて貰っています。

 

 救護テントには次々と怪我人の方達がやってきて、中々の忙しさでした。

 

「ナナシちゃん! その人の傷は軽めだから、消毒と包帯をお願いね」

「了解しました。少し沁みるので我慢してください」

 

 エリカ伍長は周りの人達にテキパキと指示を出しながら、重傷の方達の傷を治癒魔法でどんどん治していきます。

 

 そうしてかなり居た怪我人の方達も2時間ほどで全て捌き切り、少し小休憩の時間が出来ます。

 

 そこで私は、エリカ伍長に少し気になっていた事を聞いてみる事にしました。

 

「あの、エリカ伍長殿少しよろしいでしょうか」

「なあにナナシちゃん?」

「エリカ伍長は部隊の中でも特に魔法が秀でた方と伺いました。なので魔法を使う上でのコツ等があれば教えて頂けますか」

 

 エリカ伍長の扱う治癒魔法も、索敵魔法程ではないですがかなり肉体に負担が掛かる魔法と聞いています。

 

 ですが昨日も今日もエリカ伍長は治癒魔法を何度も使用していますが、特段疲れた様子はありません。

 

 なので何かコツ等があるなら聞いてみようと思ったのです。

 

「そうねぇ……無い事も無いけど、魔法って使う人によって扱う感覚が違うからあんまり参考にならないかもしれないわ」

「それでも構いません。お願いします」

 

 私は少しでも魔法を上手く使えるようになる為に、出来る事はやってみたいと思いました。

 

 思えば私の人生でここまで何かに必死なったのは初めてかもしれません。

 

 けど、昨日の夜想像してしまったのです。

 

 アルちゃんは戦場でも特に前線で戦う突撃兵(アサルト)

 

 もし仮に昨日のようなことがあれば、アルちゃんの身に危険が及んでしまうかもしれない。

 

 アルちゃんは私にとってかけがえのない人です。幼馴染でずっと一緒に生きてきて、村が焼かれてしまった今ではもう最後の家族といっても差し支えありません。

 

 だから、アルちゃんの事を絶対に守りたい。

 

 その為だったらどんな事でも出来る勇気が湧いてきます。

 

 エリカ伍長はじっと私の顔を見つめていましたが、すぐにニッコリ微笑むと

 

「……分かったわ。じゃあとっておきのコツを教えてあげる」

 

 そう言って、私に魔法を使う上でのコツを教えてくれました。

 

「ナナシちゃんは索敵魔法を使う時、何をイメージしてる?」

「イメージ、ですか?」

 

 エリカ伍長が仰るには、魔法を使う時に大切なのはイメージなのだそうです。

 

 例えばエリカ伍長が治癒魔法を使う時、相手に治ってもらいたい。少しでも楽にしてあげたいと強く念じるそうです。

 

「そうすると実際、相手の治りが速くなったりするの。だからナナシちゃんも索敵をする時に視たい方向とか、対象をよりイメージしてみたら何か変わるかもしれないわよ」

「なるほど、方向と対象のイメージですね。次から意識してみます」

 

 幸い今日は1日任務がありません。練習するには持ってこいという訳です。

 

 そこで午後からは索敵魔法の練習をしようと思っていたのですが、エリカ伍長におつかいを頼まれました。

 

 おつかいの内容は、包帯と傷薬を警戒任務中のヘルシェ上等兵に届けて欲しいというものです。

 

 私の記憶では、ヘルシェ上等兵は昨日まで怪我をしていませんでした。という事は――――

 

「ヘルシェ上等兵殿は怪我をしているんですか?」

「昨日の防衛戦でちょっとね、大した傷じゃなかったし治癒魔法掛けたから平気だと思うけど、念の為よ」

 

 やはり私が気絶した後に怪我をした様です。

 

 起きた時、私は何処も怪我をしていませんでした。でもすぐ近くに居たヘルシェ上等兵が怪我をしているという事は、敵はあの塹壕のすぐ近くまで来ていたという事です。

 

 もしかして、ヘルシェ上等兵は気絶した私を連れて逃げた所為で怪我をしてしまったのではないでしょうか。

 

「分かりました。すぐに届けてきます」

「お願いね。こっちのお手伝いはそのおつかいで終わりだから、お昼ご飯を食べたら午後からは自由に行動して大丈夫よ」

「了解しました。それでは失礼致します」

 

 私は包帯と傷薬をポーチにしまい、ヘルシェ上等兵の元へと向かいました。

 

 

 

 見張り場のある塹壕へ向かうと、すぐにヘルシェ上等兵を発見することができました。

 

 そして腕には包帯が巻かれてあり、少し血が滲んでいます。

 

「ヘルシェ上等兵殿、お疲れ様です」

「あれ、ナナシちゃん? 今日は任務お休みじゃなかったの?」

「はい、ですので午前中はエリカ伍長殿のお手伝いをしています。替えの包帯と傷薬を持ってきました」

「そういう事か。ありがとねナナシちゃん。けどナナシちゃん体調は大丈夫?」

「エリカ伍長殿に診てもらったので問題ありません。それよりその傷……」

「ああ、これ? ちょっとヘマしちゃってね。幸い弾は抜けてるし、エリカ伍長の治癒魔法で傷も殆ど塞がってるから大丈夫だよ」

 

 そう言って笑いながら腕を振って見せるヘルシェ上等兵ですが、血が滲んでいる以上完全に治りきっていないのは明らかでした。

 

「腕を見せてください、私が包帯を巻き直します」

「いや大丈夫だって、オレだってこういう傷はよくあるし慣れてるから自分で巻けるよ」

「お願いします、私にやらせてください」

「……そう? じゃあオレは周囲を警戒してるから、お願いしようかな」

 

 ヘルシェ上等兵の傷はかなり塞がっているようでしたが、まだ完全では無いようです。

 

 血の付いた包帯とガーゼを取って生理食塩水で傷口を洗浄し、新しいガーゼと包帯を巻いていく。内地で訓練を受けた際にこういった応急手当の仕方も習いましたが、訓練と実践ではやはり勝手が違います。

 

 元々前世では自分の怪我は自分で治すのが当たり前だったので、最低限の応急処置のやり方は知っています。ですが私のやり方はとりあえず血が止まれば良いといったかなり大雑把な物だったので、誰かを治療するのにはあまり向いていません。

 

 傷に張り付いてしまったガーゼが中々取れず、ヘルシェ上等兵にかなり痛い思いをさせてしまいました。

 

「……ごめんなさい」

「いやいや、謝る事は無いよ。寧ろ包帯巻いて貰って助かったし。オレ不器用だからさ、包帯自分で巻くと不格好になっちゃうんだよね」

「その傷、私を助けた所為で受けたのではないですか?」

 

 この人はいつもふざけている様に見えますが、兵士としてはとても優秀な事を私は知っています。

 

 昨日だって私の索敵が及ばない範囲に居た敵の接近を、一早く察知していました。

 

 もし仮に敵が塹壕に向かって突撃してきても、前もって迎撃するなり撤退するなりの判断が出来る人なんです。

 

 それが出来なかったという事は、気絶した私を一緒に逃がそうとして判断が遅れてしまったからでしょう。

 

 私の問いに、ヘルシェ上等兵はバツの悪そうな表情で返します。

 

「実際これはオレの油断で出来た傷だからナナシちゃんの所為じゃないよ、アイツ等の銃とこっちの銃じゃ性能が段違いなのは分かってたはずなのに、オレが射程を見誤っちまったんだ」

 

 現状、私達が主力として使っている『M200 ウィンブル・ライフル』はオーガからの払い下げ品であり、オーガが主力武装としている『M228 ヨモツ・ライフル』とは2世代近くの性能差があります。

 

 その中でも顕著なのは有効射程であり、M200の400Mに対してM228は500M以上と、100M以上の差があるのです。

 

 ある程度は使用者の技量でカバーできるとはいえ、この差は非常に危険なものなのです。

 

「けど、気絶した私を運んでくれたのはヘルシェ上等兵殿ですよね」

「ああ、まあそうだけど……寧ろオレとしては軽すぎて不安になるぐらいだったよ。従軍用装備より軽く感じたし、ナナシちゃんちゃんとご飯食べてる?」

 

 むむむっ、人が心配しているというのになんて言い様。

 

 この人は本当に、申し訳ないと思っていた気持ちが段々とイライラに変わってきました。

 

「っ……人が真剣な話をしてる時ぐらい茶化さないで頂けるでしょうか」

「あはは。ごめんごめん、けどホント気にする必要無いって。ナナシちゃんもオレも無事生き残って五体満足だ。それ以上の結果は無いでしょ」

 

 それは確かにその通りなのですが。

 

 何と言いますか、この人と話していると調子が狂わされっぱなしですね。

 

 

 

 

 

 その後、私は暫くヘルシェ上等兵の周囲警戒を見学していました。

 

 思えばこの人は、索敵魔法が無いにも関わらず、魔法以上の索敵能力を持っています。

 

 何かコツでもあるのでしょうか。

 

「ヘルシェ上等兵殿は、周囲警戒をする時何を気をつけているのですか?」

 

 私は思った事をすぐにヘルシェ上等兵に聞いてみる事にしました。

 

 もしかしたら、私が魔法を使う上で何か参考になることがあるかもしれません。

 

「気をつけてる事? ……そうだな、環境の変化にはある程度敏感に反応するようにしてるかな」

「昨日のイスカミの群れの様な事でしょうか」

 

 動物は人以上に周囲の環境の変化に敏感。

 

 今思えばあのイスカミ達は、接近してくるオーガ兵たちに怯えて逃げて行ったのだと理解できます。

 

「そう。オレはナナシちゃんみたく便利な魔法を持ってないからね。その分目と耳と鼻、全部を使って周囲を観察するのさ。例えば昨日みたいな動物の変化、地形の変化なんかもある。そういう細かい変化は逃せない」

「なるほど、索敵兵にはそういった変化を敏感に拾うセンスが必要なんですね」

「だね。だけど最も大事なのは、一点に集中しすぎない事だよ」

 

 集中しすぎない事? それは一体どういう事なのでしょう。

 

「何か変化があればそこを集中して調べる必要があるのではないですか?」

「確かにね。でも集中するっていう事はそれだけ視野が狭まるって事だよ。複数人で目を光らせてるならまだしも、こうやって一人で見てる時それは命取りだ。もしその変化が敵の陽動だった場合、陽動に集中してる間に背後を取られかねない。だから索敵兵には常に広い視野が必要なのさ」

「……難しい仕事ですね、索敵兵って」

 

 何とか言えたのは、その一言だけでした。

 

 どう考えても私に務まる仕事とは思えません。

 

 このままだとまた昨日の様に皆さんに迷惑を掛けてしまいます。

 

 それならいっそ――――

 

 

「神経削る仕事なのは間違いないね。けど、今は大分緩和されたかな。ナナシちゃんのお陰でね」

 

 

 暗い気持ちで満たされていた私に、ヘルシェ上等兵は言います。

 

 私のお陰? そんな訳ありません。

 

 だってあなたの肩に付いた傷だって、私の所為で負ってしまったのに。

 

「……それは、私をからかって楽しむ事が出来るからという事でしょうか?」

 

 私の言葉に、ヘルシェ上等兵は笑いながら返します。

 

「それも魅力的な特典ではあるけど、そうじゃない。光らす目が1つ増えるだけで索敵の負担はグッと減るのさ。しかもナナシちゃんはオレとは違ったアプローチの出来る索敵兵(ウォッチャー)だ。頼りにしてるんだよ」

 

 そう言って笑いかけるヘルシェ上等兵の瞳からは、確かな信頼が感じ取れました。

 

 今までこの人は私の事を愛玩動物か何かだと思っていると思っていたのに、私の事をちゃんとした兵士として信頼してくれていたのです。

 

 その想いが暖かくて、少しむず痒くて、私は俯いてしまいます。

 

「……恐縮です」

「あれ、ナナシちゃんもしかして照れてる? 顔赤くない?」

「あ、赤くなんてありませんっ! それよりこっちばかりを見てないでちゃんと周りを警戒してくださいっ!!」

 

 まったくこの人は、今が任務中だという事をちゃんと理解しているのでしょうか。

 

「はははっりょーかいっと……そうだ、ナナシちゃん折角だし一つお願いしても良いかな?」

「なんですか? 変な事ならお断りしますよ」

 

 お断り序に一発ぐらい殴ってやってもいいかもと思ってしまったのは内緒です。

 

「いや、ナナシちゃんオレの事上等兵殿って呼ぶでしょ? あれ堅苦しいし、普通に呼んでくれれば良いよ」

「……そういうことでしたら、これからはヘルシェさんと呼ばせて頂きます。構いませんか?」

「そうしてくれると助かるよ。つー訳で、これからもよろしくね。ウサギちゃん」

 

 握手を求めるヘルシェさんの手を握り返そうとして、ふと気づきます。

 

 今何か変な単語が聴こえませんでしたか?

 

「待ってください、ウサギちゃんってまさか私の事ですか?」

「そうだよ。小っちゃくて可愛くて、いつも塹壕を移動する為に頑張ってピョンピョン飛び跳ねてるナナシちゃんにピッタリな渾名かなって。気に入ってくれた?」

 

 気のせいじゃありませんでした。

 

 確かにウサギは愛らしくて見ていてとても和みます。この辺りに生息するユキウサギもふわふわな毛並みと温厚でマイペースな性格をしている事から人に懐きやすく、ペットとしても馴染みの深い動物です。

 

 しかしこれを兵士に付ける渾名としてみるとどうでしょう。

 

 私は知っています。軍の中で、新しく入ってきた新兵をウサギと比喩している事を。

 

 確かに私はまだ銃もロクに扱えない新兵です。

 

 でも面と向かってその様な比喩をされると良い気分ではありません。

 

 もっとも、この人の場合は比喩じゃなくて唯純粋に私をウサギに見立てて呼んでいる可能性が高いですが……それはそれでちょっと腹が立ちます。

 

「私はウサギではありません。ナナシです」

「ありゃ、お気に召さなかったか。ごめんごめん、だから怒るのはナシだぜナナシちゃん」

「……別に怒ってなどいません。ヘルシェ上等兵殿」

「参ったねぇ……どうも」

 

 今はっきりと理解しました。

 

 私、この人の事嫌いです。

 

 

 

 

 結局午後はヘルシェさんの偵察を見学している間に時間が過ぎてしまい、気づけば日も暮れ始めていました。

 

 こうなったらヘルシェさんが任務を終えるまで付き合おうとも思ったのですが、ここで私は重大な事に気づきます。

 

 

 ぐぅーーーーーーーっ

 

 

 そうです、ご飯です。

 

 思えば今日は起きてすぐにエリカ伍長のお手伝いをして、そこからおつかいに来て今に至るので1日なにも食べていません。

 

 幸いお腹の音はヘルシェさんに聞かれていない様でしたので、失態を晒さないうちに野戦厨房で夕ご飯を取ることにしました。

 

 

 

 今日の野戦厨房メニューはライ麦パンとニルバニアシチュー。

 

 ライ麦パンは栄養価が高い上に長期保存が効き、尚且つどんな料理にも合う万能食品。

 

 そしてニルバニアシチューは牛肉と豚肉を様々な野菜と一緒に長時間煮込んだ料理で、その名の通り私の住んでいたニルバ村が発祥と言われている伝統料理。

 

 よくお母さんが作ってくれた思い出の料理です。

 

「……いただきます」

 

 軍人にとって食事とはいかに早く食べるかが重要だったりしますが、私はよほどの有事でない限りゆっくり味わって食べる事にしています。

 

 

 

 ご飯の前にはいただきます。

 

 ご飯はよく噛んでゆっくり食べる。

 

 ご飯の後にはごちそうさまでした。

 

 

 

 それがエルフィー家の家訓であり、お母さんとの約束。

 

 どれだけ大変な目にあっても、この約束だけは忘れたくないのです。

 

 久しぶりに食べたニルバニアシチューは、お母さんのとは少し味が違いましたがとても優しい味がしました。

 

 

 

 ご飯を食べながら、私は今日一日を振り返ります。

 

 エリカ伍長に教えて貰った魔法のコツ     イメージ。

 

 ヘルシェさんに教えて貰った索敵に大切な事  1点に集中せず、広い視野を持つ。

 

 その2つは相反する事に思えます。

 

 エリカ伍長は言っていました。視たいものをよりイメージする事が上達に繋がるかもしれないと。

 

 しかしそれは視たいものに対して1点集中しているということで、広い視野を持つ事はできません。

 

 熟練のウォッチャーならそういった状況を臨機応変に魔法を切り替えて乗り切るのでしょうが、今の私には到底不可能な話です。

 

 つまり今の実力では、一人で索敵兵としての役割をなすのは難しいという事。

 

 自分が半人前なのはよく理解しています。

 

 でも、ヘルシェさんは言ってくれました。

 

 私が居ると頼もしいと。

 

 ならば、まずは一人で完成する事より、今頼って貰えている長所を伸ばしていくべきです。

 

 広い視点はヘルシェさんに任せ、私は魔法に集中。

 

 その為にもっと索敵魔法を理解し、上手く扱える様になってみせましょう。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

 結論が出ると同時に、丁度夕ご飯も食べ終わりました。

 

 早速魔法の特訓……と言いたい所ですが、今日はもう日が落ちています。

 

 明日からまた警戒任務もある事ですし、今日は少し早めに寝てしまいましょうか。

 

 私が食器を片付けながら考えていると、

 

 

「ナナシ! ……やっと見つけた」

 

 

 アルちゃんがこちらへ走ってくるのが見えました。

 

 見た所私を探していた様子、もしや戦況に動きがあって索敵が必要になったのでしょうか。

 

「どうしたのアルちゃん、何かあったの?」

「何かあったのじゃないでしょ。昨日あんなことがあったんだから、今日はしっかり休んでおかないと! 救護テントに様子を見に行ったらナナシ居ないし」

 

 なるほど、どうやらアルちゃんは私を心配して探してくれていたようです。

 

 戦闘絡みじゃなくてホッとしましたが、アルちゃんに心配を掛けてしまったのが辛いですね。

 

「ごめんねアルちゃん、今日はヘルシェさんの警戒任務を見学してたんだ。私はまだまだ索敵兵として未熟だから、もっと色々勉強しないと」

「そう……だったんだ。身体の調子はもう良いの?」

「うん。昨日はテントでしっかり休んだからもう平気」

 

 序に今日一日は殆ど休養日の様なものだったので、体力も満タン。

 

 明日からの任務も頑張れそうです。

 

「なら良かった。ナナシはもう夕ご飯食べた?」

「今食べ終わった所。アルちゃんは今からご飯?」

「……ううん、今日はお昼遅かったし、ご飯はいいかな」

 

 その言葉に、私は少し違和感を覚えました。

 

 アルちゃんはいつも元気で、ご飯も人一倍美味しそうにいっぱい食べるのです。

 

 おかわりする事はあってもご飯を抜くなんてありえません。

 

「アルちゃん、もしかして体調が良くないの?」

「……へ?」

 

 考えられるとしたらそれしかありません。

 

 しかも食事も喉を通らないという事はかなり深刻な可能性が大です。

 

 

「早くエリカ伍長の所に行こう。すぐ診て貰わないと!」

 

 

 そのままアルちゃんを引っ張って救護テントへ向かおうとしますが、アルちゃんはビクともしません。

 

「待って、待ってよナナシ! 私別に何処も悪くないよ?」

「アルちゃんがご飯食べないなんてよっぽどな異常事態。調子が悪い証拠だよ」

「……ナナシ、私の事そんなに食いしん坊だと思ってたの?」

 

 ジト目で見てくるアルちゃんに、私はそれ以上何も言えません。

 

 その後、少し納得いかなそうなアルちゃんでしたが、すぐにいつもの調子に戻ってくれました。

 

「ナナシはこの後、もう寝るだけ?」

「そうだよ、今から戻って寝ようと思ってたところ」

「そっか……じゃあ、寝る前に良い所に行こう!」

「良い所?」

 

 ここは後方とはいえ戦場のど真ん中、良い所なんて想像もつきません。

 

 一体どんな所なのかと考えている内に、アルちゃんは私の手を引っ張ってどんどん進んでいきます。

 

「ア、アルちゃん? 一体何処に行くの?」

「行けば分かるよ。ぜーったいナナシも気に入るから!」

 

 少々不安を感じつつも、私はアルちゃんに引っ張られつつその良い所とやらに向かうのでした。

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