悪魔は人に何を見る   作:斜超

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開幕

 新たな年が始まり、一月経った如月の頃。シンと千雨はまだまだ冷える中で登校していた。人混みが嫌いな千雨は大抵、通学する生徒たちで混雑する時間を避けて早めに寮を出る。そして、目的地である麻帆良学園女子中等部近くの家屋に住んでいるシンを拾って到着するというのが日々のルーティンになっていた。

 

 「千雨、今日は朝から学園長に呼ばれている。荷物を置いたら、すぐに向かう」

 

 「何やらかしたんだ?」

 

 「どうも信用が無いな、温厚誠実無罪を心がけて暮らしている筈だが……今回の要件は、新任の先生との顔合わせだ」

 

 「ああ、ちょっと前に朝倉が言ってたやつか。それで唯一の男子であるお前を紹介しとく訳だ」

 

 「そういう事だ」

 

 「イロモノじゃない事を祈っとくぜ」

 

 その祈りは裏切られることになるのだが、二人は平和な日常がこれからも続くと思っていた。しかし英雄の息子がこの麻帆良の地にやってくることで巻き起こす旋風は、確実に何かを起こす。平穏は嵐の前の静けさだった。そして、本来の歴史には存在しない異物が紛れ込んだことにより起こる変化は誰にも予想ができない。ただ一つ言えるのは、物語が始まったということだ。

 

 ○

 

 学園長から出された玉露と茶菓子を賞味し、人心地着いてソファーでぼんやりとしていたシンは呟いた。

 

 「遅いな」

 

 「今日、日本に着く予定じゃからな」

 

 「普通、もう少し前に来ておくものでは?」

 

 「それはそうじゃ、しかし向こうにも都合があってな」

 

 「ん?」

 

 「どうした」

 

 「誰かが魔法を使った。もしかして、今日来るのは魔法使いか。神楽坂の悲鳴も聞こえる……まともな奴だといいが」

 

 「心配には及ばん、彼はとても良い子だと聞いておる」

 

 「良い子……ね、嫌な予感がする」

 

 ほどなくして、オレンジの髪をツインテールにした活発そうな少女「神楽坂明日菜」と黒髪のほんわかとした少女「近衛木乃香」が一人の少年を伴ってやってきた。その少年は赤髪を後ろで括り、小さな眼鏡を掛けている。眼差しからは確かな知性を感じさせる。だが、それと同時に年相応の幼さも覗かせていて、まだまだ子どもであった。シンは自分の勘が当たった事にうんざりしながら、瞳を閉じ溜息を吐いた。

 

 「学園長先生! 一体どーゆーことなんですか!?」

 

 明日菜は開口一番に吠えて、学園長にこの少年が担任になることを問い詰めるが柳に風で流されてしまう。そして、少年を自分たちの部屋に泊めてもらう様に頼まれると猛烈に拒否して、何故か先ほどからいるシンに水を向けた。

 

 「というか、間薙くんの住んでるとこでいいじゃないですか! 学校から近いし」

 

 「俺の所ではまともなものを食べさせられない。料理上手な近衛がいるそっちの方がいいだろう。任せた」

 

 「ええよ、任されたー」

 

 「ちょ、このかー! もう!! 私達教室行きますから!」

 

 「ほな、教室でな」

 

 明日菜と木乃香は出て行った。それを少年は目で追い、その後ソファーで静かに座る男子生徒に注目し首をかしげる。自分の居るこの建物は女子校であった筈だが、と顔に書いてあった。

 

 「ネギ君。そこに座っておるのは君の担当する生徒の一人じゃ。麻帆良学園を共学化するにあたってのテストケースとして、ここに通っておる。表向きはな」

 

 「表向き?」

 

 「彼は得体の知れぬ強い力を持っている。故に最もワシの目が届くところで監視する事にしたのだ」

 

 「そ、そうなんですか!?」 「そうだったのか」

 

 「あのー、学園長。それってこの人の目の前で言っていい事なんでしょうか?」

 

 「これは過去の話じゃ、彼の正体は未だ不明だが悪人ではないのは分かった」

 

 「はあ」

 

 「間薙君は彼、ネギ君のサポートを頼みたい。ああ、サポートと言うても困っている時に助けてあげたり相談に乗ってあげる程度で良い」

 

 「了解」

 

 シンはソファーから立ち上がり、ネギの前に立つ。ネギは朝の占いの件の様な失敗はしないように気合を入れて名を名乗った。

 

 「ネギ・スプリングフィールドです! これからこの学校で、まほ……英語を教えることになりました。よろしくお願いします」

 

 「間薙シン。よろしくな少年」

 

 二人は握手を交わした。ネギは年上の青年と接することがあまりなかったため、新鮮な気持ちになり興味を持ちまじまじと観察する。黒髪で左右の側頭部からひょこりと髪が跳ねている。寝癖かと思ったが、両方全く同じ位置なのでわざわざセットしているか余程髪が強情なのだろう。顔は整っているが、感情を感じさせない程無表情で冷たい人なのだろうかとネギは思う。しかし、これから短い間だが生徒として受け持つのだから偏見を持つのは良くないと思い直し何か質問をしようと頭を巡らす。そして先ほどの学園長の言葉から、強い魔法使いなのかと予想し質問してみた。

 

 「あの、間薙さんは魔法関係者なんですよね? どんな魔法を使うんですか」

 

 「魔法なら色々使うが……学園長らの様な魔法使いの団体?には所属していない野良だな。さて、そろそろ教室に向かおうか」

 

 「は、はい!」

 

 ○

 

 学園長室から教室に向かう途中で、ネギの指導教員だというしずな先生を伴いA組の前まで到着した。そして、クラス名簿を手渡され明らかに緊張するネギ。弱気になりかけたが、故郷を離れる際に見た友人と姉が激励してくれた瞬間を思い出すと少し勇気が出たようだった。

 

 「少年、先ほどまでとは顔つきが違うな。その調子だ、まだまだ頼れる奴は少ないだろうが……とりあえず俺は味方だと思ってくれて良い。楽しんでいけ」

 

 「あ……はい!」

 

 シンは雑にネギの頭を撫で、後ろの扉から教室に入っていった。異国の地で年上の女性に授業をするというストレス過多の状況でシンの言葉はネギの心を軽くし、扉を開く際に笑みさえ浮かべる余裕を持たせる。その為、頭上からの黒板消しトラップを常時発動の魔法障壁で受け止めてしまった際も瞬時に障壁を解くことが出来たので、ほとんどの生徒は違和感を持たなかっただろう。その後は足元のロープから始まるバケツやおもちゃの矢が飛んでくる手の込んだ罠にしっかりと引っかかった為、万が一変だと思われていても印象は薄れた筈だ。だが、それは最初から不審に思われていなければという前提あってのこと。ネギはその愛らしい容姿から自己紹介後A組の面々にもみくちゃにされていたが、明日菜が突然掴みかかった。

 

 「ねえ あんた朝のアレは何だったの? 何かおかしくない?あんた」

 

 あうあうと焦ってじたばたするネギをA組の委員長である「雪広あやか」が助け出したが、明日菜とあやかは双方の逆鱗を踏み合い喧嘩を始めてしまう。周りは止めるどころかヒートアップさせる始末で新米教師のネギには対処不能だった。

 

 「あの やめ……」

 

 「そこまでだ」

 

 シンの一言で教室は静まり返った。喧嘩を続けるみっともなさにハッとした訳でも、今が授業をする時間だと気づいた訳でもない。まるで山中で獣に出会ってしまい硬直した時の様に本能的な恐怖を覚え、動けなくなったのだ。それを成したのはシンの眼光であった。続けざまに授業の時間だと告げられ、ようやく生徒たちは席に戻っていく。ネギは異様な感覚に目を白黒させていた。

 

 「久々に出たねー、間薙くんの一喝?」

 

 「一喝っていうか、カッ!って感じだよねー」

 

 「あれはどうやってるんでしょう? 一瞬ですが体が動かなくなるです」

 

 どうやら、この教室ではよくある事らしいとネギは理解し初の授業を始めた。黒板の上の方に手が届かないアクシデントはあったが、新任にしては良い出来の授業を行った。

 

 ○

 

 10歳の教師という、色々な法律をぶっちぎり真面目に考えると頭がおかしくなる存在が教室を出ていった。A組では、早くもネギ先生の歓迎会準備をしている。周りが何故か受け入れている事に寒気を覚えていた千雨は、震えながら言った。

 

 「シン、なんでこいつら変だと思わないんだ?」

 

 「大らかな地域性とアレ(魔法)だろう」

 

 「もしかして、あのガキがここに来たのもアレ(魔法)絡みか」

 

 自らの言葉に頷くのを見て、千雨はゆらりと立ち上がりどこかに行こうとする。右手にはハサミ、左手にはカッターが握られていて千雨はやる気に満ちている。すぐさまシンに羽交い絞めにされて動けなくなるが、口から殺意が漏れていてとても怖い。

 

 「シン、放せ! あのぬらりひょんは生かしておいちゃダメなんだ!!」

 

 「落ち着け、気持ちは分かるが悪いのは多分学園長ではなく世界の方だ」

 

 「じゃあ世界を壊してやるよ!」

 

 

 

 「あれ、お二人さん痴話喧嘩?」

 

 「あ!?」

 

 「うわ、目こわ……ちうちゃんマジギレじゃん」

 

 話しかけてきたのは「朝倉和美」報道部に所属する自称麻帆良のパパラッチだ。赤髪を後ろで縛り、さながら赤いパイナップルの様な髪型をしている。怒りに燃える千雨を恐れながら、歓迎会準備の分担を告げた後去っていった。

 

 ○

 

 A組では何かイベントがあるごとにパーティーを行う事が多い。その度に自分たちの得意な事、例えば料理などで皆を楽しませる。そして、A組に溶け込んだシンが専ら披露するのが宴会芸だ。基本的肉体スペックが超人レベルで、一度手本や手順を見れば問題なく再現できるので面白がった鳴滝姉妹の協力もあり、芸のレパートリーはとんでもなく多い。今回はコイン移動のマジックをネギに見せている。

 

 「さあ、右か左か」

 

 「ひ、左です」

 

 「残念」

 

 「あー、右でしたか……って右にも無い?」

 

 「少年、少し頭重くないか?」

 

 「頭? うわっ! 僕の頭の上にあった!! スゴイです!」

 

 それぞれがネギを歓迎し、外が暗くなるまで歓迎会は続いた。そして全員で教室を片付けている最中にネギはシンを伴いトイレへと行き、告げた。

 

 「シンさん、これは学園長には秘密にして欲しいんですが」

 

 「? 言ってみろ」

 

 「アスナさんに魔法がバレちゃいました……」

 

 「それは、また早いな。どういう経緯だ?」

 

 ネギが語るには、たくさんの本を抱えて階段を降りようとしていた「宮崎のどか」が誤って転落したので魔法を使い助けたのだと言う。その瞬間を以前から怪しんでいた明日菜に見られ、隠蔽しようとするも失敗したらしい。

 

 「なるほどな、一つ聞きたい。もし今回の様に、魔法を使わないと助けられないという状況があったとする。しかし、魔法を使えば必ず魔法がバレてしまう。そんな時、君はどうする」

 

 「えっ!? 多分助けちゃうと思います。今回も体が勝手に動いちゃって……」

 

 シンは、ネギの目を暫く見つめるとニヤリと笑った。

 

 「嘘はついていないな。面白い。正義感が強いのもあるが、こうすべきという義務感が理性と本能に巣食っている。珍しい歪み方だ」

 

 「はい?」

 

 「気にするな、ただの感想だ。魔法バレの件は了解した。問題ないだろう」

 

 「いいんですか? 一般の人に魔法の事は知られてはならないというルールは……」

 

 「いいんじゃないか、危険にさえ巻き込まなければ。ルールなんて壊してしまえ。まあ、何か困りごとが出来たら神楽坂共々話は聞くから、その様にな」

 

 「はい、ありがとうございます」

 

 ○

 

 ネギは無事に明日菜たちの部屋に居候する事が決まり、日本での最初の夜を迎える。不安はあるが、自分を受け入れてくれた人や味方だと言ってくれた人の言葉を思い返して、暖かな気持ちの中眠りに落ちていった。

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