ネギが高校生とのドッジボール対決や期末試験でA組を学年トップにした事により生徒たちから認められ始め、3学期の終了式が終わった。そして、学年トップになった祝いのパーティーが終わり夜の帳が落ち、それに参加していたシンと千雨は軽く散歩していた。どちらかが言い出した訳でもなく、自然とそうなったのだ。会話は無かった。二人とも無言が苦になるタイプではないが、今はいつもと違い相手を窺うような、少しの空気の張りを感じられる。先に口火を切ったのは千雨だった。
「……シン、私が目も悪くないのにこの伊達眼鏡してる理由知ってるよな」
「眼鏡を他者と自分の壁にしてるんだったな。仮面のように」
「そうだ、でも今はいらない」
千雨は眼鏡を外し、シンと真正面から向き合う。千雨の表情からは決意が見て取れる。
「シン、お前の事が知りたい。全部とは言わないから教えてくれないか」
「分かった。俺が何なのか教えよう。俺の目を見て欲しい」
千雨は一見、普段通りの鉄面皮の友人から恐れを感じた。そして、覚悟を決めて遮るもののない自らの
「ようやくお互い素のまんまで会えた気がするぜ……」
「そうだな、改めてよろしく」
二人は手を握り合うと、どちらともなく笑い出した。闇の中に響く笑い声は光の様だった。
●
「それで、お前は何者なんだ? いつの間にか半裸だし」
「悪魔だよ、元人間だが」
「悪魔、か。人間と契約して魂を得たり、神とバチバチやってるみたいなのが私のイメージなんだが」
「人と契約なんてした事が無いな、仲魔はやってるらしいが。そして神との闘いはもう無い」
「ふーん、そうか。ちなみに創造主って実在するのか?」
「今はいないぞ」
「えっ、存在したのか!?」
「ああ、俺が殺した」
「待て待て待て!! 情報が重い! 処理できん!」
魔人の姿を見た時と打って変わって狼狽える千雨が質問責めにして得た情報を整理するまで、かなりの時間がかかった。
「えーっと、整理すると……お前は人間の高校生だった頃に担任の先生の見舞いに行くと『東京受胎』つうヤバいもんが起きて東京以外が滅びてしまう。そして、気が付くと悪魔の体に変えられていて悪魔が跋扈するボルテクス界と化した東京を冒険し……新しい世界を創世する為の争いに巻き込まれる。しかし、お前はアマラ深界なる魔界みたいな世界を進むうちに世界の真実を知り……心まで悪魔になり果て創世の光、カグツチを破壊。その後お前を悪魔にした存在、ルシファーに力を認められ、悪魔の総大将になり、光と闇の闘いを繰り広げる。そして見事お前は神殺しを為した。だが、その神は無数に存在する宇宙の中の神というだけで全ての創造主『大いなる意思』の一つの端末に過ぎない。創造主は強大で、お前でさえ勝てなかった。そこで、ルシファーは並行世界の救世主と呼ばれる存在を仲間にする事を決める。様々な世界にお前は出向き仲間を増やした。そして、終の決戦は神・人間・悪魔からなる混沌の軍勢と創造主が全てを懸けて闘い……混沌の軍勢はお前を残し滅せられた。しかし、無駄死にでは無く、存在を保てなくなる瞬間に力をお前へと託した。結果、お前は創造主を負かし喰らった。犠牲になったモノたちはお前の手によって蘇り、闘いは終わった……と」
「大体そんな感じだ」
「すまん、純粋に疑問なんだが……なんで麻帆良に来たんだ? もっとファンタジーバトル物の世界とかが合ってると思うんだが」
「俺は癒しを求めてたんだ。だから、適当な世界を選んで学生をしていた。これは正解だったな、お前の様な気の合う奴と出会えた」
「そうか、私も同感だ……しっかし、想像していたより大物だったなお前、冗談抜きで最強の存在じゃねーか」
「戦闘で負ける事は無いだろうな、さてそろそろ戻るか」
千雨が気づくと、夜の麻帆良に帰ってきていて目の前にはシンが穏やかな表情で立っていた。この日、真の意味で二人は分かり合えたと言えるだろう。関係性がどう転ぶかはまだまだ未知数だが、両者ともに大切に思っている事は間違いない。
○
新学期が始まりネギが正式に担任になって初っ端からセクハラ発言をかましていた時。シンは保健室にてさっさと身体測定を終えていた。室内には養護教諭とシン、そして眠りに落ちている佐々木まき絵がいる。養護教諭によると桜通りで意識を失っていたらしい。軽く状態を見て、異常が見つからなかったので甘酒の飲み過ぎかしらと呆れたように笑うのにシンは適当に相槌を返した。目線はまき絵の首筋から離さずにだ。そんな中、ノックの音が響き和泉亜子が入ってくる。保健委員として身体測定の記録用紙を取りに来たようだった。
「あれ、間薙くんここにおったんや」
「先に測定を終わらしていたんだ。所で、ほら」
シンが指し示した先にまき絵が居たことに仰天し、亜子はわなわなと震え、走り去ってしまう。そしてすぐにネギやA組の面々がやってきて、心配そうに見つめる。そこで事情を知っているしずな先生が状況を説明すると一同は安堵する。ただネギだけが表情を変え、何かに気づいたようだった。
「皆さん、まき絵さんはただの貧血か何かでしょう。教室に戻って測定の続きをしてください。それとアスナさん今日僕は遅くなりますので晩御飯いりませんから」
そして、シン以外の生徒が退出したのを見計らいネギは切り出した。
「シンさん、感じますか何か魔法の力を」
「ああ」
「やっぱり! 一体何が……」
「佐々木の首元を見てみろ」
「? あ! 2つの小さな傷が。これは、まさか吸血鬼!?」
「正解、とはいっても夜魔になってはいないようだがな」
「大丈夫なんですか?」
「今治す」
シンは手から
「今の魔法は一体……シンさんって治癒系の魔法使いだったんですね。」
「そういう訳ではないが、治療もできる。それで? 犯人探しでもするのか」
「えっ、鋭いですね……僕の生徒に危害を加える存在は許せませんから!」
「そうか、俺も同行するからヨロシク」
「いや、シンさんも一応僕の生徒ですし巻き込めませんよ」
「拒否しても、無理やり付いていくから諦めた方がいいぞ」
「えぇ……」
その後、ネギは職務を終え、シンに見つからない様にこっそり校舎を出たが当然の如くシンが現れたので渋々二人で桜通りに向かう。月が煌々と輝き、強い風が桜を散らす何かが起こりそうな夜だった。
パトロールを始め半刻も経たない内に、近くから少女の悲鳴が響いた。ネギは脊髄反射的なスピードで杖に乗りかっ飛んで行く。シンもそれに走って同行した。そして間一髪のところで犯行の瞬間に間に合った。
「ぼ……僕の生徒に何をするんですかーっ」
狙われていたのが、自分の生徒だったことに怒りを覚え、ネギは呪文を唱え放った。
『ラス・テル・マ・スキル・マギステル
空気が黒ずくめの吸血鬼を捕らえようと殺到するが、相手が『
「えっ……き、君はウチのクラスの……エヴァンジェリンさん!?」
「フフ……新学期に入ったことだし改めて歓迎のご挨拶と行こうか先生……いや、ネギ・スプリングフィールド10歳にしてこの力さすがに奴の息子だけはある」
「な……何者なんですかあなたはっ、僕と同じ魔法使いのくせに何故こんなことを!?」
「熱くなるなよ、少年。天使の中にも性悪は居る……そういうものだ」
「間薙シンか……そうさ、この世には……いい魔法使いと悪い魔法使いがいるんだよネギ先生」
エヴァンジェリンは再びフラスコを投擲してきた。
『
相手の武器から衣服までを凍らせ破壊する凶悪な呪文は、ネギの前に出ていたシンに襲い掛かった。だが、魔法はシンの拳の一振りで砕け散る。
「何ッ!?」
「少年、これ当たってたらどうなってたんだ?」
「ええと、武装解除の呪文なので……たぶん裸に……」
「余裕ぶっこいてたら全裸だったか」
ネギと会話しながらもエヴァンジェリンから目を離さずに油断なく構えるシン。膠着状態になりかけた時、戦闘音を聞きつけて明日菜と木乃香が駆けつけてきた。それに乗じてエヴァンジェリンは夜の闇に消えていく、ネギは宮崎のどかを頼むと言い犯人を追うことを告げ、尋常ではないスピードで走り去る。
「あっ、ちょっと!」
「神楽坂と近衛か、済まないが宮崎を頼む。気絶してるだけだ。俺も追う」
そして、言葉通りに追跡していくシンになんとか食らいつくように追い縋り明日菜は付いて来た。視界の端が猛スピードで流れ、心臓が鼓動を早め、息が切れてきた時、前を行く背中が止まる。8Fあるマンションの屋根の所から声が聞こえるため、上に居るのだろう。
「神楽坂、上は少しヤバそうだ。失礼する」
「え! ちょ」
シンは明日菜を俵の様に持ち上げ、一足飛びに跳躍し屋上に辿り着いた。ネギはこれまた3-Aの生徒である絡繰茶々丸に拘束され苦しそうだ。明日菜はその光景が頭にきたようで、シンの肩を足場に猛烈な足蹴りを食らわせ、吹き飛ばす。必然ネギも飛んで行くところだったが、ひょいとシンがキャッチした。
「あんた達がこの事件の犯人なのね!? 二人がかりで子どもをイジめる様な事して!――答えによってはタダじゃ済まさないわよ!」
「ふん、そうさ。そこのひよっこ魔法使いが学園に来ると分かってから半年間、危険を冒してでも学園生徒から血を集めたのは忌々しい呪いを解くためだ!」
「の、呪いですか?」
「そうだ、真祖の吸血鬼にして最強の魔法使い闇の世界でも恐れられたこの私がなめた苦渋……お前の父つまりサウザンドマスターに敗れて以来魔力も極限まで封じられ、も~~15年間あの教室で日本のノー天気な女子中学生と一緒にお勉強させられてるんだよ!」
「この呪いを解くためには奴の血縁のお前の血が大量に必要なんだ。悪いが死ぬまで血をいただくぞ」
「させると思うか?」
(間薙シン、この私ですら実力が計れない底の知れぬヤツ……試してみるか)
「茶々丸! 殺す気でやれ」
「分かりました。申し訳ありません間薙さん、マスターの命令は絶対ですので」
茶々丸は自らの出せる最大速度で殴り掛かる。鉄を越える硬度の拳とインストールされている格闘の知識を合わせた凄まじい一撃だ。それは真っ直ぐシンの顔面に放たれる。だが、シンは小揺るぎもしなかった。数瞬茶々丸の思考が理解不能で埋め尽くされる。解は自らの背後に何かが落下したことで得られた。落下物は茶々丸の腕部であった。
「は?」
誰のものとも知れない声が漏れた。もしかすると一人を除いた全員が出したのかもしれない。腕を飛ばされた茶々丸は勿論、エヴァンジェリンにすら何が起きたか分からなかった。まるで過程がすっ飛ばされ、結果だけが残った様だ。その異常事態からの復活が一番早かったのは、やはり歴戦のエヴァンジェリンで正しい判断が下された。
「ッ撤退だ!」
「じゃあな、また明日」
シンは手を振り見送った。ネギや明日菜は、まだ衝撃が抜けきれておらず小刻みに震えている。クラスメイトの腕が目の前で飛ばされたのだから無理もない。
「ちょ、ちょっと間薙くん? ち茶々丸さんの腕が……」
「なんてことをしたんですか!? 今から行って止血を!」
「止血? ギャグ、いやジョークってやつか?……まさか、お前ら気づいていなかったのか。茶々丸はロボ子だ」
「へ? ロボってどういう」
「ヤツの腕を見てこい。分かるから」
それから少しして、一応は落ち着きを取り戻した二人にシンは告げた。
「こんな事件なかよしA組の名折れだ。少年、一人で抱え込むなよ。この件は俺たちで解決するぞ」
「なかよしって……まあ、そうね。ヴァンパイアだかチュパカブラだか知らないけど、私たちでなんとかしよう!」
「えっ腕を切断しておいてなかよし? いや、じゃなくて生徒を危険な目には……」
「お前も強情だな、いいかげん誰かを頼る事を覚えろ。一人で突っ走って、やられかけていただろう」
「うっ、分かりましたよー」
口では納得した様なことを言っているネギだった。しかし、内心では父親のことを知っている風のエヴァンジェリンに対して自分一人で立ち向かいたいと強く願っている。それを見抜いていたシンは配下の悪魔でも監視に付けるか迷ったが、結局やめた。