Project:スムータ   作:北極鳥ユキ

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ドイツ再統一/1987

 NATO軍が東側に進駐してきたのは、最後のソ連軍が撤退したタイミングとほぼ同じであった。

 

 最後まで残っていたのは、秘密裏に東ドイツ国内において核兵器を管理していた部隊。 

 核兵器の存在が公に明らかとなり、そこでようやくドイツ人は「なぜソ連が東ドイツに軍事介入したのか?」という問いに答えを得たのだった。

 

 ソ連軍は国際監視の下で核兵器を撤去し、1987年に東ドイツからの完全撤兵を完了。東欧からの全面撤退も88年までに完了する見通しだった。

 東欧は第二次大戦後から約四十年にわたって続いたソ連の支配から脱したのだ。

 

 戦争が終わり、人々は武器を置いた。

 国家人民軍はドイツ連邦軍への統合されることになった。新たに設置された連邦軍東部司令部に指揮権を移したのち段階的な軍の再編が決まっている。

 

 ドイツ民主共和国において、反乱軍と共に反政府闘争を行っていた反体制派組織「新マルクス社会主義連盟」は「ドイツ新社会主義党」と名を変えて国政政党になった。

 東欧各地でソ連軍に攻撃を行っていた「独立東欧軍」もまた役割果たした解散。武装解除が行われ武器は各国の正規軍に引き渡された

 

 東ドイツの支配政党だった「ドイツ社会主義統一党(SED)」は民主社会党(PDS)や左翼党などに分裂し、その指導力を完全に失った。

 その後に行われた初の自由選挙では、東西統一を掲げた保守派の「ドイツ国民連合」と「ドイツ新社会主義党」が大半の議席を占め、東西ドイツの統一が確実化した。

 

 年が進むごとに東西に伸びていた鉄条網の「壁」は切り取られて行き、世界的な流れとして自由化が進んでいる。時代の流れはそう遠くない未来、地球が一つ(グローバル)になることを予感させていた。

 

 そして1987年10月3日。

 ブランデンブルク門に黒・赤・金の三色旗が掲揚された。

 

 東西ドイツが再統一されたのだ。

 

 その歴史的な瞬間に立ち会う男がいた。

 背広姿となったペーター・フランツ・シルラーことクリストフ・シューバートである。彼は辺りを包むドイツ国歌の斉唱を聞きながら、東ドイツに待ち受ける未来に想いを馳せていた。

 

 これから先、東側に住む人々のが歩んでいく道は、決して平坦なものではないだろう。

 ベルリンを始めとした多くの街が、内戦により灰塵に帰した。

 再建までにはあと十年以上はかかるだろう。

 

 内戦の影響もあって東西ドイツでの経済格差は以前よりも顕著となり、近い将来には経済的な混乱が予想されている。東ドイツ時代に作られた国有企業たちは改革と資本主義の渦にのまれ崩壊し、そこで働いていた労働者たちは失業していくかもしれない。

 

 制度や社会も大きく変わる。

 自由の代償として国を失った東ドイツの市民たちは新たなアイデンティティを確立していかなければならない。その中では西ドイツに対する反感や、自由の中で台頭する過激主義、そして過去に対するノスタルジーが生まれていくだろう。

 

 西と東での確執、格差、そういう物が、激しい憎悪や対立を生むかもしれない。

 時には半世紀前のように、混沌の中で悪魔的な扇動者が出現するかもしれない。

 それらは簡単に無くすことはできないだろう。

 光と影のように、善と悪のように。自由と混沌は表裏一体なのだ。

 

 それでも、だとして、我々は未来に向かって進み続ける。

 今日という日を手に入れるために多くの人が死んでいったのだ。正義と、自由と、統一のために、犠牲になった人々の死が無意味でないと証明するために。どんな混乱の中にあっても、どんな困難が待ち受けていようとも、我々は足を止めず立ち向かっていく。

 

 最後の時に命を散らした全ての人々よ、どうか見ていてくれ。

 我々はこの苦難を克服してみせる。

 再び、廃墟から復活を遂げてみせる。

 命があれば、不可能なことなど存在しないのだから。

 

 やがて国歌斉唱が終わり、辺りが万雷の拍手に包まれる。

 我々の前に、もう壁は無い。

 ドイツに西も東も存在しない。

 ここにあるのは一つのドイツだった。

 

 冷戦が終わる。時代が終わる。歴史が終わる。

 

 長い夜を超え、もうすぐ朝が来る。夜が明ければ、闇も消える。

 ドイツに残されたのは、未来を照らす希望の光だった。

 

 "そして、太陽の輝きがドイツを照らす(Und die Sonne schön wie nie über Deutschland scheint)。"

 

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