Project:スムータ   作:北極鳥ユキ

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イラク国家防空計画/1990

 宛 イラク共和国大統領府/バアス党革命指導評議会

 発 イラク空軍参謀本部戦略部第一課

 

 日付:1989年12月1日  区分:特定軍事機密

 

 

【イラク国家防空計画要綱(案)

 

 

【1.背景】

 

 1988年のソビエト連邦崩壊に伴い、世界情勢は大きく変化した。アメリカ合衆国は唯一の超大国として浮上し、冷戦の勝者として国際社会に対する絶対的な地位を確立したといえる。

 

 アメリカ合衆国政府は冷戦後の世界において「世界の警察官」としての地位を確固たるものにすべく、地域紛争に対して武力行使を積極的に容認する姿勢を取っていると考えられる。

 その象徴的事例として、現在まで続くユーゴスラヴィア内戦において、1989年11月から行われているアメリカ主導の空爆作戦が挙げられる。

 

 先月の革命指導評議会で大統領閣下が懸念されていた通り、将来的な紛争の際には同様の形態でNATO軍が介入し我が国に対して空爆を実施する恐れがある。

 

 現在、我が国は2つの重大な安全保障上の問題を抱えている。

 1.クウェートの石油利権をめぐるサウジアラビア王国との対立。

 2.アラビースターン県(旧称フーゼスターン州)をめぐるイラン民主共和国との対立。

 

 これら両国は、いずれも我が国に対して軍事的警戒感を持つと共に、アメリカ合衆国との間に深い経済・軍事的関係を有している。

 このことから、同盟国の保護ないし経済的権益保護を名目としてアメリカ合衆国が我が国に対して武力行使に踏み切る可能性は閣下の懸念どおり排除できない。

 また、イラク共和国軍統計部の分析報告によれば、中東における地域紛争発生時にアメリカ軍が介入する可能性は90%以上と見積もられており、軍事衝突の蓋然性は極めて高いといえる。

 

 紛争の際に懸念されるのは、空からの脅威である。

 ユーゴスラヴィア内戦への介入と同様に、アメリカは制空権奪取および空爆を中心とした戦術をもって軍事的な優位を獲得する可能性が高い。

 しかしながら、現時点においてイラク空軍並びに陸軍防空部隊にはアメリカ空軍やそのほかNATO軍に対する防備は不足しているのが実情である。

 

 このような情勢を鑑み、空軍参謀本部は将来的な危機に備え、アメリカおよびNATO軍との武力衝突を想定した国家防空体制の早急な再構築が必須であるという結論に至った。

 

 

【2. 目的】

 

 本計画の目的は、領空内戦闘におけるイラク空軍の統合戦闘能力を強化し、将来的に予測されるアメリカ合衆国空軍およびNATO空軍による戦略空爆・航空阻止作戦に対して、限定的かつ効果的な戦術的対抗力を獲得することにある。

 

 我が国とアメリカ軍との間に存在する戦力的格差は、短期的には解消不可能である。

 このため、本計画においては全面的な制空権の確保を目的とはせず、戦闘機・地対空ミサイルによる連携をもって選択的・局地的優位の確保を可能とする「局所的制空拒否戦略」を採用する。

 

 具体的には、以下の3要素を相互に統合・強化し、敵航空戦力の自由な作戦運用を阻害・制限することを目標とする。

 

1.戦闘機部隊の拡大と分散配備による迎撃即応体制の強化。

・航空基地の増設。既存基地の設備強化。

・旧ソ連軍パイロットを教官として雇用することで、既存部隊の練度上昇。

・(同上)を正規軍パイロットととして雇用、戦力化を行いイラク空軍戦闘機部隊を大幅に拡張。

・旧ソ連軍整備士・技術者の雇用。

・新型戦闘機としてソ連製MiG-31、Su-27戦闘機を導入。

 

2.複数のレーダーシステムの組み合わせによる死角の排除。地対空ミサイルシステム、高射砲部隊、歩兵携行型地対空ミサイルの統合的な配置による低・中・高高度多層防空網の構築。

・国境からバグダッドまでを全六段階の防空ラインに分割。

・国境近辺には携帯式防空ミサイル、短距離地対空ミサイル、自走高射砲を配備。

・バグダッドを始めとした中枢都市に長距離対空ミサイルを配備。

・領内におけるピラミッド型の防空網を確立。敵機の低空侵入と高高度戦略爆撃を阻止。

・陸軍および民兵の全体に携帯式防空ミサイルを配備。

 

3.指揮管制・通信・情報体制の冗長化・地下化による継戦能力の向上。

・詳細は整備・導入方針を参照。

 

 これらの統合運用によりイラク領空において敵航空戦力の限定的な行動制限・抑止を達成し、航空優勢の確保阻止の実行することが期待される。

 

 

【3.整備・導入方針】

 

 空軍における新規部隊の編制。

 ・バグダッド防衛部隊として超長距離防空ミサイル連隊を新設。

 ・国境からの低空侵入に備え、■■個自走高射砲大隊を新設。

 ・基地防空専門部隊として■■■個地対空ミサイル大隊を新設。

 ・新たな空軍基地を国内の■か所に設立。

 ・既存部隊を拡大し隷下に■■個航空隊を新規編成。

 ・旧ソ連系パイロット部隊として■■個航空戦隊と■個司令部を新設。

 ・早期警戒管制機運用部隊を新設。

 

 防空インフラおよび通信網の整備。

 ・政府施設における地下施設導入の推進。

 ・主要空軍基地司令部の地下化。

 ・空軍基地における掩蔽壕型格納庫の導入。

 ・国産通信システムの更新。

 ・地下専用回線の拡大。

 ・旧ソ連製長距離対空レーダーの新規導入。

 ・国産レーダー網の再配置。

 ・A-50早期警戒管制機の新規導入。

 

 防空戦力の抜本的な拡大および航空戦力の拡充。

 ・S-300(地対空ミサイルシステム)の新規導入。

 ・S-125(地対空ミサイルシステム)の輸入。

 ・S-75(地対空ミサイルシステム)の輸入。

 ・2K12("クープ"自走式対空ミサイル)の輸入。

 ・ZSU-23-4("シルカ"自走高射砲)の輸入。

 ・9K310("イグラ"携帯式防空ミサイルシステム)の輸入。

 ・MiG-29戦闘機の輸入。

 ・MiG-31、Su-27戦闘機の新規導入。

 ・旧ソ連軍パイロットを教官、正規軍パイロットとして雇用。

 ・旧ソ連軍航空整備士、技術者の雇用。

 ・歩兵部隊・民兵部隊における携帯式防空ミサイル(MANPADS)の運用強化。

 ・ミサイル並びに弾薬備蓄の購入。

 

 脚注

 輸入に際して旧ソ連圏からの合法、非合法問わない軍需物資の移動が求められる。現在、ロシア軍内部では汚職が横行しており「トレード」と呼ばれる違法な武器売買が進行中とされている。このため、情報省の外部職員を通してロシア軍高官や武器密売組織への接触を試みている。

 大規模な兵器輸入となるため、近隣国や国際社会の警戒を招く可能性が高く情報統制の徹底が求められる。詳細な輸入ルート構築については国防省、工業省、貿易省、司法省が検討中。

 

 

【4.スケジュール】

 

 1990年上半期計画(済)

 1990年下半期計画(済)

 1991年上半期計画(未)

 1991年下半期計画(未)

 

 別紙参照。

 1989年12月策定。1990年8月全面改定。1990年10月改定。1990年12月破棄。

 

 以上

 

 イラク共和国空軍参謀本部戦略部第一課 

 計画主任 アウス=アクラム・ムハンマド・バディーウ・アル=ハバーシュ 空軍大佐

 

 

 "アメリカと戦うには、このぐらいしなければ。"

 

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