さてさてさて。
別に凹んでないがとりあえず起床。俺という偉大な存在がこの程度で傷つくことなどあり得ないのだ。
……今度先輩に企画の仕方について相談しよ……
ま、とりあえず今は予告通り無知蒙昧な一般市民たちにこっちの世界のことについて教えてやらないとな!
というわけで配信オン。
「うぃーっす。聞こえるかー?」
:聞こえる!
:キターーーーーー!!!!!!
:早く俺に力をくれ
:天童様ーーーーー!!!!
:待ってました!!!!!
:知りたい知りたい
あーすげぇ盛り上がり方。やっぱみんな力に興味津々なんだな。こりゃあ教え甲斐もあるってもんよ。
誰かに物を教えた経験なんてないけどなんとかなるだろ!うん!なるよな!俺天才だしな!
「まあまあ慌てるなって。とりあえず今回の配信の内容について説明するからな」
:はーい
:待ちきれないわ
:はやくしろ
待てって。とりあえずコホンと咳払いして落ち着く。全くリスナーにも困ったもんだ。どんだけ飢えてんだよ。
「今回の動画はな、オカルトっちゅーかファンタジーちゅーか、今まで秘匿されてきた世界の神秘の数々や力について、それからちょびっと天童院家についても説明していくっていう動画だ。ファンタジックな力の使い方は後々やるからそれまで我慢して動画見るんだぞ〜」
:早く俺にも不思議パワーくれよ!!!
:でもぶっちゃけ裏の世界についても気になるよね
:今まで説明不足すぎたから助かる
「質問は後で答える時間作るからその時に頼むわ。んじゃまず裏の世界について教えるぞ」
裏の世界、とはいうが。俺が今までいたのはそこだから全然裏って感じはしねぇな。
「この世界にはな、オカルト的な存在が多く存在する。お化けだったり妖怪だったりな。大体は人間を害する奴らばっかだ」
:マジかよ
:ほんまかいな
:式神バトルすごかったね
「マジマジ。表の世界はそいつらと紙一重で出会わないようにできている……んだが、最近は普通に行き遭うことも多い。単純に俺たち祓魔師の数が足りてないんだわ」
:えっこわ
:なんか最近行方不明多いよな
:うちの親戚のおじちゃんも急にいなくなったけどもしかして……
「そうだ。多くの人が被害に遭っている。大体対話なんてできないし、ころ……は言い方が悪いな。祓うしかないような奴らばっかだ」
ふざけてるよな。人間を食い物としか思ってないような怪物。心の底から腹立たしい。
「特定の名前はない。みーんな好き勝手呼んでんのさ。それがなんであろうと関係ないからな」
妖怪でも悪魔でもバケモンでもなんでもいい。人間を殺す者たち。故に、俺たちはそれを殺す。
「だから俺たちみたいにそいつらに関する被害に対処したり、そいつらをぶっ殺す奴らがいるわけだ。世界の平和はそうやって保たれるってね」
これ自体は立派なことだと思うぜ。いやほんとに。
「ただなァ。裏の世界がこいつらを全力で秘匿してる理由として【一般市民を混乱させて現状の社会の形を変えかねないから】とか【力を持つ者たちが率先して力無き民を守らねばならないから】とかほざいてんだわ」
:いいことじゃん
:それの何が悪いの?
:なんか独占する言い訳っぽい
「ま、自分たちがそこから生じる利益や権力の全てを得るための言い訳だな。そもそも昔はみーんな力があったんだ。そこからまあ……色々やってごく一部の人間だけが力を独占できるように世界を変えた。それはそれですごいが」
人間のそういう側面も嫌いじゃない。独善的で、その上で私利私欲混ざりに動くところ。いっそ清々しいほど分かりやすくていいんじゃねぇの。
ただなぁ……もう数が足りてねぇよ。それが成り立っていたのは昔の話だ。限界は近いぜ。
みんな気が付いてるくせに保守的なのはいただけねぇな。
:なんかすごい話してない?
:これ聞いたら命狙われたりしませんか???
:俺たちの先祖はみんな不思議能力があった……ってコト!?
「命は狙われないよ。聞いてる人数が多すぎて消すのは不可能だからな。この情報を発信してる俺を殺しにくるやつはいっぱいいるんじゃねぇかな〜」
:やばくね?
:天童さんはやく逃げて
:なにしてんだこいつ
お、一丁前に心配してくれるなんて嬉しいな。嬉しすぎて涙がちょちょぎれるわ。
誰も俺を殺せるわけないんだけどね。
「大丈夫、俺この世界で一番強いから。マジでな。今後俺のすごいところもたくさん配信してやるから楽しみに待ってろよ〜?」
:ほんまか?
:実際強そうではある
:じゃないともう殺されてそう
:天童院家についても教えてくれよ
はいはい、知りたがりが多いな。興味を持たれるのは良いことだけども。
「天童院家なぁ。簡単に言えば化け物殺しのエキスパートたちだよ。一族内で強力な呪法の独占や非人道的な行為を繰り返してめちゃくちゃ強い能力者たちを大勢排出してるようなとこ。権力もすげー強いぜ、よほどのことやらかさなきゃ天童院ってだけでお咎めなしだ」
俺が警察に事情聴取を少し受けただけで済んだのは天童院だからだしな。俺が出て行って尚あの家はまだまだ国に根深く巣食っているらしい。
普通に考えて馬鹿みたいに強い超人たちが死ぬほどいるようなところには逆らえんわな。どんなに弱い能力者でも一般人を虐殺するくらいはわけない。
じゃあその一般人が力を持ったらどうなるか。知りてぇよな。
「家の中でランクもあってな。まず一番弱いのが黒子。家のものがやったことの隠匿や戦闘後の処理なんかを任されるやつらだな」
戦えないから無理やりそういう役割を担わされる。上の方からは使い捨てのコマとしか見られていない。それだけでも天童院の終わった倫理観がわかるな。
「あの家のやつらみんな馬鹿だから戦闘力でしか人間を判断してない節があるんだよな。マジでゴミ」
:どストレートな悪口だ
:マジで嫌いなんだな
:家抜けてきたらしいしな
:お前も馬鹿定期
一緒にするんじゃねぇ!ぶん殴るぞ!
おっと。いかんいかん、無限に悪口が出てくるからここら辺にしとこう。
「次に欲老《よくろう》。弱い。その次に色壮《しきそう》。これも弱い。そして空幼《くうよう》。いろんなことのまとめ役だ。弱い。つーか俺と比べたらみんな雑魚」
:めちゃくちゃで草
:弱いは説明になっとらんのよ
:なんの恨みがあるんだよ
:天童はどれなん?
「俺はその上の天童。天童院家の当主だ。一番強くて一番偉い。役目放棄して家出たけどな」
:当主!?!?!!
:当主が家出ってマジなのですか?
:あーもうめちゃくちゃだよ
:なんで出たんだよ
あの家がカスだったから以上の理由はねぇよ。……他に理由があったとしても説明する気もねぇ。
「まあそこらへんはいいだろ。それよりほら、力の使い方が知りたいんじゃなかったのか?ん?」
:そういえばそうだった
:俺たちも能力者になれるんですか!?!!
:魔法使いになりたい
:天童様〜
扱いやすくて助かる。……馬鹿しかいねぇのか俺のファン層は。悲しいよ俺。
じゃあいよいよ力とその使い方について教えてやろうかな。
とりあえず力についての説明から始めないと話にならんな。
説明、説明ね。感覚で理解してるところあるから難しいかもしれんがやるだけやってみますか。
「まず力についてだが。これも呼び方はなんでもいいんだ。場所や所属している団体によって呼び名が全然違うからな。妖術、霊能力、超能力、魔術……好きなように呼べ。お前が力に目覚めたときに一番しっくり来たものが多分正解だ」
:んな適当な
:そんなんでええんか?
:じゃあ魔法で!
「体系的な物を学ぶならそれぞれちゃんとした名前があるんだけどな。お前らが今から力に目覚めるとしたら初代、1代目の能力者になるわけ。その力の名前なんてお前ら次第なんだよ」
体系的に近い分野はあると思うけどな。
「この力ってのは自己の世界を外界に押し広げる能力……あー、なんで言えばいいか。究極的な自己実現能力?要するに自分ルールを世界に押し付ける能力なんだわ」
:どういうこと?
:分かるようなわからんような
:自分が思ったように世界を変えられる能力ってこと!?
おっ察しがいい。流石にファンタジーに慣れ親しんでる民族なだけはある。飲み込みが早いのはいいことだ。
「大体そんな感じ。りんごが欲しいと思えばそこにりんごが出てくるし、空を飛びたいと思えば空を飛べる。それが力だ」
:なんだそれ最強じゃん
:なんでもできるやんけ!!!
:そらそんな力あれば無敵だわ
これだけ聞くとまるで願いをなんでも叶えられる万能の力に思えるが、もちろんそうじゃない。
そこまで便利な物じゃないからな。
「制限は大いにある。力が弱ければ大したことはできない。せいぜい足が少し早くなるとか1センチメートル宙に浮かぶとかそのレベルだ。何か大規模なことをやろうとすれば代償を払って出力をあげる必要があるし、他人に直接干渉するには相当に強力な出力が必要になる。力同士がぶつかり合えばより大きな方が当たり前に勝つから自分より上の力を持つ者には1人では何かしらの工夫がないと基本的に勝てない。言えばキリはないが……ま、欠点だらけだな」
:なんかしょぼくね
:よわそう
:でも天童はすげーバトルしたり霊視したりしてるじゃん
:力はレベルアップしたりしないの?
俺は特別に強いからしゃーないね。
「力に対する理解を深めたり、使い込めば力はどんどん強くなっていくぞ。だから代々祓屋をやってるようなところは力に対するノウハウがたくさんあって強いわけだ。能力の方向性は遺伝もするからな」
:じゃあ俺たち出遅れ組はカスみたいな力しか使えないじゃん
:なんか萎えるわ
:これってもしかして詐欺ですか?
:まるでサービス開始から数年経ったmmoを今更遊ぶみたいだぁ……(絶望)
そりゃそうよ。何百年何千年と力の修練を重ねている一族とか宗派に敵うわけないじゃん。
俺がいなかったらの話だけどな。
「でも俺が直接力を目覚めさせてやったら最初からそれなりに強い状態にしてやれるぞ」
:もしかして・神
:天童様〜!
:一生ついていきます
:なんかカルトみたいで怖い
お得意の手のひら返ししやがって。大体こんな怪しい提案に乗ってくるとかマジで考えなししかいないんか?
「ただし条件がある。力の悪用はするな。自分で悪いことだと自覚してる行為は当然のこと、社会的に悪いとされてることに力を使うのもダメだ。力を持たない一般人に力を振るうのは論外」
:当たり前だよなぁ?
:やだなぁそんなことしませんよ
:いいから早くくれよ
本当にわかってんのかね。どっちでもいいけど。
どうせこいつらが分かってようが分かってまいが、俺が力を目覚めさせるんだ。俺の意向に逆らうことは許さん。
「それから力を持つことによってどこかの組織に狙われる可能性もあるからな。大抵バケモンが見えるようになるからそういう危険に関わる可能性も増える。力を持つってのはいいことばかりじゃないし、リスクも大きい。まずこれを理解しろ」
:ちょっと怖くなってきた
:組織に狙われるのは怖いわ
:組織ってなんだよ
:それでも俺は力が欲しい!
:物好きもいます
:リスクあるならいらん
:平穏に生きたいんでそれはちょっと……
流石にビビってるやつの方が多いな。ここで大半がビビらない世の中、普通に怖いから良かったわ。まともな神経してる奴の方が多数派で俺は嬉しいよ。
さて。残ったまともな神経してない方な。
「これだけ聞いてもまだ力を欲しがる奴らはただの馬鹿なのか、それとも大物か」
:大物です
:魔法!魔法!魔法!
:危ない人もいます
:こいつらこわ
多少はいる方がこちらとしても助かるけどな。キャラが濃いのも……いいか、別に。じゃあ始めるとするか。
「心の底から力を望め。そして、俺の声を聞け。それだけでいい。それだけでお前の力を引き出してやる」
もっとも大切なのは望むことだ。力に羨望し、力に焦がれ、力を求めろ。渇いて渇いて仕方がないその渇望がもっとも必要だ。
世界に自分を押し付けるには、そういう強烈なエゴが必要なんだよ。
「さあ。求めているなら聞こえるはずだ。この声が。この言葉が。この祈りが。この──」
悲鳴が。聞こえるだろう?
「■■■、■■■■■■■■」
:何も聞こえんが
:めちゃくちゃ詐欺っぽくて笑う
:これがカルトですか
:この配信なんか怖いよ〜
ああ、届いている。縁の繋がりを感じるぞ。
魔法に憧れて、どうしようもないほど焦がれたお前の姿が見える。
霊と会いたくて、もう一度会いたくて止められなかったお前の姿が見える。
お前の、お前の、お前の、お前の、お前の、お前の、お前の、おまえの、おまえの、おまえの、おまえの、おまえの。
姿が見える。
見ている。俺を見ている。俺が、見ている。
「ああ──繋がった。縁《えにし》が。奥深くまで」
見ているからな?
「望んだ力の使い方は、お前自身が一番理解しているはずだ。好きに使うといい。ただ非道を働くな。俺が常に見ていると思えよ」
一人一人に語りかける。
力を得て。目が開いて。分かっただろう?
俺という存在の、出鱈目さが。
「俺から逃れられると思うなよ。善行を成しなさい」
それが俺から力を与えられたもののルールだ。別にいいことしなくてもいいけど悪いことはすんなよ。
:雰囲気こわ
:力求めなくてよかった〜
:明らかにヤバそう
「じゃあやりたいこと終わったし寝るわ。配信終了!」
:お前さぁ
:こんな短時間で終わるから収益化がね?
:アフタートークとか絶対やらなさそう
うるせぇ!終わり!
配信を閉じて寝転がる。思ったより力を求めたやつが多かったな。特に気になるのは2人……
まあいいか。寝る。次の配信についても考えねーとな。
……まったく。力なんてなくていいのに。馬鹿どもが……