報われぬ亡骸たちのそばに、祈る1人の子供がいた。
「そのために私は生まれた」
泣きながら手を合わせる。夥しい数の亡骸は、塵になって消えていく。
せめて苦しみがないように。
「私は天秤。私はそれをもつ手。私はみとおす目。私はこたえる声。私はかけつける足。私はききとおす耳。私はふるわれる、力」
もう誰も傷つかなくていいように。もう誰も悲しむことのないように。
そのために私はここにいる。
「私は」
さて。
「先輩が企画について教えてくれるって言った人と会うのも近いし、力を目覚めさせた馬鹿どもの様子も把握しないといけない。それに何か配信しないと収益化もできないし……大変だこりゃ」
多いよやることが。後馬鹿みたいなことやり始めた後輩が何やるかも気になる。あいつ自分のところの団員箱にする気だろふざけんな。いや、力についての理解を広げてくれるのは助かるんだが……
場合によっては登録者数抜かれそうでムカつくし。なんなんだあいつ、ただの変態ジジイ……おっと忘れろ。何もなかった。事故なんてない。いいね?
どうすっかなー。まず何から始めよう。配信はしなきゃならんな。しかし内容はどうすっか。悩ましい。正直俺の頭の中にある力を使ったエンタメのレパートリーなんで大した数はない。想像力に乏しいんだよな俺……
そこは企画について教えてもらえるらしい先輩を頼るか。そうしよう。ただそれまでに少しは配信しておきたい。何にしよう。堂々巡りだな。
うーむ。できるところからやるか。
「分霊。まずは1人来い」
まずは馬鹿どもの様子から把握しよう。分霊を呼び寄せ、話を聞くことにする。
ポシュッと煙を上げて分霊がやってくる。うーん、疲れた顔しちゃってまあ。よほど世話が大変だったらしい。
「報告してくれ。馬鹿の目覚めた力と、人格について」
「あいよ」
分霊がやたら憔悴した顔で報告を始める。大丈夫かよマジで。
「俺の担当は
「ほーん、汎用性が高いタイプか。悪くないな」
その疲れ切った顔から人格に期待できないことは分かるんだけどね。
「そうだ。人格に問題があるというか……変身願望がある。能力もそこからきているだろうな。女性的な容姿をしているが、おそらく性同一性障害ではない。変身願望があるだけみたいだな。精神に少々……あー、結構問題があったから"治療"させてもらった」
まあ精神病があるやつに力持たせるわけにはいかないから妥当だろう。望ましくはないが、仕方のないことだ。
しかし、治療したというなら……何でそんなに疲れてんだ?
「お前、俺の記憶読みとりゃいいだろうが」
「やだよ恐ろしく疲れた顔してるんだもん、俺そんな嫌な思いしたくないし」
「死ね」
嫌でーす。はよ話せや。
「我ながらお前ほんと……はぁ。俺に崇拝に近い感情を抱いている上、恋慕の情もある。あいつバイセクシャルだ。ベタベタひっついてくるしキツく扱いてやってもむしろ喜んでる。キモい。マジで」
「うわぁ大変そう。でも修行に身が入ってるならいいんじゃねぇの」
「やだよお前じゃあ変われや」
やだけど。なんで俺がそんな奴の相手しなきゃならんねん。
「殺してぇ……まあ、今のところ大きな問題はない。確認するか?」
会いに行く必要はある、か。一度この目で確認しておきたい。記憶は正直あんまり読み取りたくない。不快そうなので。
「アポ取ってくれや」
「問題ねぇよ。俺ならいつでもウェルカムだってさ」
むしろ怖いな。会いたくなくなってきたぞ。
「うるせぇ。はよ行け」
「わかったわかった」
急かすなや。縁を辿り、道を開く。人は道なり。
パンと手を叩くと、そこは見知らぬ部屋だった。
「天童様ー!」
「うおっ」
急に抱きついてくるやつがいた。こいつが星野か。なんなんだこいつ。
「はぁ本物の天童様だ、すんすんはぁぁ天童様っぽいいい匂いするサイコー!」
「軽めに叩くね……」
本当にキモかったから軽めに
「すまん、大丈夫か?」
星野がゆらりと立ち上がる。なんか目が爛々と輝いてるね。怖いね。帰りたいよ俺は。
「大丈夫です!!!むしろご褒美!!!気持ちよかったのでもう一回お願いしてもいいでしょうか!!!」
「落ち着いてできるだけ俺から離れてくれませんか?」
「うひょー!塩対応天童様サイコー!」
もう本当にやだ。そりゃ衰弱するよ分霊も。勘弁してくれ。
「無理やり落ち着かせてやろうか?」
「それはそれでいいんですけど……はーい迷惑そうなのでやめまーす」
むーっと頬を膨らませて不満を表明している。お前いい歳した大人なんだから本当にやめなさい。
「改めて自己紹介を。おれは天童院総。お前の力を目覚めさせた者だ」
「あっ丁寧にどうも……星野廻です。元々いじめられたりやばい職場に雇われたり色々あって鬱って引きこもってました!救ってくれてありがとうございます!天童様はありとあらゆる意味で恩人です!」
重いよ〜いろいろ。勘弁してよ〜。いや正直こういうのも覚悟してたけどさ……
力を求めるやつなんてだいたい現状に満足してない人間なんだから、こういうこともあるのは理解していた。だから分霊何で送ってアフターケアしてるし。いやでも話聞くと実感湧いてくるな……救われたってんならいいけどよ……
さておき。本題に入るか。
「分霊から話は聞いてると思うが、今日はお前の力の確認をしにきたんだ。外に出るぞ」
「天童様とデート!?きゃー!」
「本当に黙ってくれないかな……」
うるさい。そしてうざい。大してよくない気分がどんどん悪くなっていってるのがわかる。
「あっやばい、顔が怖くなってきた。はい真面目にやります。それで、どこに行くんですか?」
「最初からそうしてくれ。いつも修行に使ってる土地があるだろ?そこに行くぞ」
「あぁあそこ……もっと華やかなところの方が……はーいふざけませーん」
こいつ鬱だったとか本当か?いや確かに何なら常に躁みたいな感じだけどさぁ……
なんでもいいか。さっさと終わらせよう。終わらせたい。
「ほら行くぞ。道を作る」
「いいですね!僕あれ好きなんです!びゅーんって感じで!」
「はいはい……」
分霊の記憶を一部共有する。崖。森。抉られた大地。三つの岩。ふむ。
縁は人のみにあらず。そして選ぶのは俺。
「
「ひょーっ」
力を使うと、すぐに記憶通りの風景の場所に出る。うん、広さも申し分ないな。確かに力を使うにもぴったりな場所だ。
「いい場所だ。どこだここ?」
「本当にあんまり記憶共有してないんですね〜。ここを探すためにあんなに大変な思いしたのに……」
いやマジでどこだよ。国外か?うーん、いや、いや。
周りに漂う力の密度が違う。なるほどね。
「
「そうですよ!確か世界が見てる夢、なんですよね?」
「そうだ。俺たちが住む世界の裏にある」
よくわかってないけど……とぼやく星野は無視する。確かにここならいくら暴れても現実には何の影響もないだろう。探すの面倒だっただろうな。分霊おつ。
「んじゃさっそくやろうか」
「そんないきなり……天童様ってば大胆……」
「うるせぇぶん殴るぞクソホモが。はよ準備せんかい」
「はーい。もー冗談通じないんだから」
お前のは生々しい上に半分以上本気なのがわかるから本当に嫌なんだよな……勘弁してほしい。マジで。
「ちゃんと見ててくださいよー!」
「はいはい」
言われなくても見てやるよ。そのために来たんだから。
しかし変身系ね。変身系……強力な部類の力だ。自分が別の何かとなり、その力を振るう。歴史上は自身を神と呼び、事実神の力を振るった者もいるような力。何者にもなれる故に、自我の境界を失いやすい危険な力だ。最初にこいつを見に来たのもそれが理由だし。
どんな変身をするのか。ぶっちゃけ何となく想像は付くが、外れてほしい。頼む。
「いきます!」
星野が独特なポーズを取る。
なんか見たことあるんだけど。あれ?おいこれあれだよな。あれ始まるよな。
「廻る星々の祈りよ!」
星野を光が包んでいく。服がパッと消え、それを隠すように身体が眩く輝く。髪がさぁっと後ろに流れ、元よりはるかに長くなる。光は部分部分ごとに服へ変わる。日曜の朝になんか見たことあるんだけど。
「僕と共にあらんことを──変身」
光がおさまってくる頃には、全身魔法少女っぽい──いや少女じゃねぇだろ──ふりっふりの服を着た美少女がいた。おい。多分これ性別は変わってないだろ。なあ。
「魔法美青年、ルクス・ステラ!」
ツッコミどころ多すぎる。まず美青年とか自分で言うか?イかれてんじゃねぇの。あとそのポーズいる?まあ多分ポーズ付けた方が強いか……変身シーン……もあった方が強いか……
いやもうなんでもいいけどさぁ。
「変態魔法使い二枠目はきついって……」
どうにかこいつの力目覚めさせたのなかったことにできないか?できないか。そうだね。
「あー……魔法少女じゃないんだな」
「確かに僕って見た目はほぼ女みたいですけど。別に性別変えたいわけじゃないので……そもそもそのままで可愛いし。むしろオリジナリティあってよくないですか?魔法美青年」
ああうん、(どうでも)いいんじゃないかな。
こいつと付き合ってたら頭がおかしくなりそうだ。分霊はよく耐えたよ。えらい。120点あげるからこの人のお世話頑張ってね……
「なんでもいいが。とりあえず性能チェックするぞ。ほら、こい」
「では遠慮なく行きます!」
む。
思い切りがいい。大きく前進し腹に飛び込んできたパンチを手でとって止めてやる。意外と肉弾戦もやれるタイプか。
「魔法美青年なのに肉弾戦メインか?」
「自分の身体が思うままに動くのって楽しいんです、よっ!」
止められた後打撃を連発だから出してくる。全部止められたのをみてからハイキック。パンツ見えそうで微妙に嫌な気持ちになるな……
意外と素人臭くない。これ短期間でだいぶ鍛えられてるな。分霊の指導の賜物か、もしくはこいつの才能か。どっちもだろうな、多分。
「その系統で肉弾戦しかできないってことはないだろ。ある程度分かったから魔法の方見せてくれ」
「えーっ、もうちょい触れ合いたかったのに……」
そういうの本当にいいんで……きついっす……
「その顔は僕も悲しくなります……分かりましたよ!でもこのフォームだと無理なので一回チェンジしますよ」
「チェンジ?」
こいつ。まさか。
「母なる大地よ!堅牢たる加護を今ここに!」
星野の身体がまた光に包まれる。そうして変化したのは、茶色を基調としたスタイル。ほう。
力の性質が変化したな。
「テラ・フォーム!……フォームチェンジっていいですよね」
「否定はしない」
しかし……複数の変身か。かなり珍しいな。
変身系ってのは理想の自分があることが前提の力の形だ。性質上、いくつも理想の自分があるってのはそうあることじゃない。魔法少女が好きってのがこう関わってくるとはね。面白い。
「気に入った。見せてみろ」
「分霊さんの方もそれ言ってくれました!でも何度言われても嬉しいですね!」
星野が両手を前に突き出し、俺を眼前に捉える。力が俺の下に集中しているのがわかる。こりゃアレだな。
下から一丁前に突き上げてきた土塊を軽く踏み潰してやる。そのままボロボロと崩れていき、土へと帰った。
「……マジですか」
「分霊は避けてたか?悪いが俺は分霊の万倍強いからこれといって小細工が必要ないんだわ」
もっとも、分霊だってまともに直撃したところで大した傷も負わないだろうが。
「力の挙動をあまり見せないようにしろ。見えるものには察されて簡単にかわされるぞ。後発動もちょい遅いから練習しな」
「それ、分霊さんにも言われました……」
がっくりと肩を落としている。修行始めたてでこんだけ戦えれば十分なんだよ本来は。甘えんな。
「あ、と、は……ちょっと防御性能も見るかね」
「えっ?わっ」
かるーく、軽く、ステップを踏むように移動して星野の目の前に立つ。そして限界ギリギリまで手加減したデコピンを食らわせてやる。
「へぶしっ!!!」
おーよく吹っ飛んどる。どれどれ。
思いっきり崖に激突して土煙が立つ。が……全然平気そうだなありゃ。傷一つないわ。
「流石に、いきなりは、ひどいです……」
「仮に怪我しても治してやるから気にすんな。しかし硬いな。そのフォームの特徴か?」
「うぅ……天童様の僕の扱いが酷い……でもそれはそれで……」
気色悪いこと言ってないで早く答えてくれんかなぁ!もう一回デコピンしたろうか!あァ!?
「もーすぐ怒るんだから。そんなところも好き。あっはいはいそうですこのフォームの特徴です、大地の力を使えるようになるのと、防御力がかなりアップします。でも基本の状態に比べて動きはちょっと遅くなりますね」
「発展途上って感じだな」
いやしかし、悪くない。むしろ良い。これだけ短い期間でここまで力を使いこなせるなら十分すぎるほどだ。
「うっし、決めた。テラフォームを含めて4種類フォームチェンジできるようになったらVtuberやろうぜ」
「えっ!いいんですか!?」
本当はもうちょっと先のつもりだったんだがな。魔法紳士美少女Vtuberとかいうふざけた存在が出てこなければ。早めにデビューしてあれと絡んだ方が面白くなりそうなんだよな……修行の世話も押し付けられそうだし。うふふ。
「……なんか悪いこと考えてません?」
「いいや?なんにも?ま、力の修行を頑張ることだ。頑張れば頑張るほどVtuberデビューも早くなるぞ」
「よーっしやるぞー!」
元気が良くて単純でいいね。素晴らしい。頑張ってくれたまえ。俺も色々やりたいことあるんでね。
「今日はこれくらいで良いか。んじゃ解散ってことで」
「えっ!」
なんだよ。そんな驚いて。力の確認以外何もやることないぞ今日は。
「この後天童様とのイチャラブデート回は!」
「存在しません。帰れ」
「そんなー!!!頑張ってるんだからご褒美くださいよ!天童様とたくさんいいこ」
うるせぇ帰れ。万の道。
よし。帰ったな!じゃあ俺別のところに出るから……あ、その前に。
「分霊」
「あいよ。どうだ、うざかっただろ」
いや本当にそうだね。お前はよう頑張っとる。これからも地獄を見てくれ。
「勘弁して欲しいんだがな…………やっぱ、感じたか」
「ああ。あれは化ける。俺の一個下くらいにはなれるかもな」
才気の塊だ。おそらくあれは星を起因として万物に変化する力。超越までたどり着くことができれば恐ろしいほどの強さを発揮するだろう。気が長い話にはなるがな。
「大事に育成しないとな」
「そうだな」
目的のためにも。
「じゃ、育成頑張れ」
「変わってくれねぇか?」
「やだ」
「死ね」
うるせぇ。じゃあな。もうおうち帰る!
ひょいっとね。飛べばあら不思議、そこは見慣れた我が家なのだった。
「ああ、家マジで落ち着くな……」
やっぱ必要なのは我が家だよ。さて。
あと11人のチェック、流石にしんどいなぁ。なんか問題があればすぐわかるししばらくは良いか。1人ずつしっかり様子を見ていくことにしよう。決して一気にやるのが面倒とかそういうわけじゃないよ。うん。
そんなこんなでうだうだしてると、スマホに通知が届く。お?先輩からじゃん。
【企画力の件についてアポ取れたぜ、感謝しろよ】
マジで天使か何かか?本当に先輩様々ですよ。あんたなんでもできるな。よっ大将。
【愛してるぜ先輩】
【それはなんか嫌だな……】
あれ?もしかして今俺って星野みたいな感じになってる?やだ、死にたい。
妙に影響された気がして気が沈んだのだった。
書いてる分までは更新したのでここからは更新ペースが遅くなります