十字の爪を食い込ませ、壁や天井を這い回る。 作:リハビリ
「ご苦労さん、ヒードラン」
「あれ、もう片付いてるか」
視界に飛び込んできたのは、相も変わらず瀕死状態のポケモン達に加え、一匹のガブリアス。思わず鍛え上げられた鮫肌に見惚れていると、側に立っていた金髪の女性が此方へ言葉を掛けてきた。
「お疲れ様。私も助けに入ろうと思ったのだけれど────キミ、強いのね」
「強いのは俺じゃなくてポケモンですから」
「あら、意外と謙虚」
「意外と」って……俺、そんなに傲慢に見えるのだろうか。思わぬ不意打ちに一瞬フリーズしていると、女性がはっと息を呑む。今度は何だ? と思うのも束の間、俺の方へぐいっと顔を近付けてきた。
「貴方、もしかして
「へっ!? ヒードランのことですか? そう、、ですけど」
「ちょっと失礼するわね」
きっと緊張で顔が紅潮しているであろう俺に微笑みを投げ掛け、今度はヒードランの方へしゃがみ込む。美人というのは、遠くで見るのが一番かもしれない。
「うん、確かに間違いなく〝ヒードラン〟ね」
小さく独りごつ彼女の声音は、まるで探し求めていた物を見つけたかのようで。
「知ってるんですか、ヒードランのこと」
「えぇ、もちろんよ。私も考古学者の端くれだから」
「でも」
「知っているのが不思議? 確かに、神話の中でも焦点が当てられることは少ない存在ではあるわね」
ゆっくりと立ち上がりながら僕の方へ向き直る。その目の最奥には、子供のような好奇心が輝いているように見えた。尤も、考古学マニアのカンに過ぎないのだけど。
「何より、
「そうね。そうかもしれない。けれど────」
一拍置いて、彼女は続ける。
「伝承が存在する限り、考古学者として私は解明したいの」
銀の瞳は、一片の澱みなく晴れ渡っていて。
「そして今日、確かに貴女の前に現れた」
「他でもない、キミのお陰でね」
(ッッッッ〜〜〜!!!)
"褒められる"という慣れない状況に心臓が激しく脈打つ。くそッ、師匠の褒め方が下手だったのがここに来て響いてくるとは……!
「おっと、そういえば自己紹介がまだだったかしら」
「あぁ、そういや」
ギンガ団の騒動ですっかり失念していた。コホン、と咳払いをした後、金髪の女性は嬉しそうに目を細め、その名を告げた。
「私はシロナ! ポケモンの神話を追い求める、物好きなポケモントレーナーよ」
シロナの希望に溢れた目は、
俺がかつて読んだことのある論文で、頻繁に目にする名前。近年の考古学の最先端を進んでおり、名実共に
「ところで、キミさえ良ければなんだけど」
そんな、憧れとも言える先輩と言葉を交えられる。それだけで俺は満足なのに。
「少しの間、私の研究に付き合ってくれないかしら。キミのヒードランを探し出し、手懐けるに至った手腕。少し、いや、かなり興味があるの」
────俺の人生は、絶頂期を迎えていると言っても過言ではなかった。
◇◆◇
クロガネシティ。
鉱石を中心とした天然資源に恵まれており、エネルギー漲る炭鉱街として知られている。
北東に位置する博物館では『化石の復元』が盛んであり、かくいう俺も一度だけ化石──地下通路で偶然掘り当てた──の復元を申請したことがあるのだ。まぁ、費用は馬鹿にならないモノではあったけれど、考古学を嗜む身としては無視はできない。
────と、まぁ。そんな事はどうでもよくて。
「ようこそ、チャレンジャー!」
赤いヘルメットを被り、黒縁の眼鏡が特徴的な声の主。ジムリーダー・ヒョウタがビシ、と此方へ鋭い視線と指を指す。紛れもない、此処はシンオウのトレーナーの出発点、クロガネジム。
なぜ俺がこんな場所にいるのかというと……まぁ、説明は後にしようか。
「キミはジムバッジを未所持の新米トレーナー。本来はバッジの所有数に合わせて手加減しなきゃいけないんだけど」
「要りませんよ、手加減なんて」
右手をホルダーに触れながら告げる。折角の久しい強者とのバトル、
「本人の希望とあらば仕方ないね。元より、僕も興味があるんだ」
若くしてクロガネの炭鉱を束ねる実力者。
岩を愛し、岩に愛されたポケモントレーナー。
人呼んで────ザ・ロック。
「さあ、見せて貰おうか!
ジムリーダーの ヒョウタが
しょうぶを しかけてきた!!
コウキ(17)
本作の主人公。神話に狂わされた考古学マニア。
ヒードランに触れる際の火傷を防ぐ為、黒い薄手の手袋を常に着用している。
名前はPt男主人公と同じだが性格は別物。
ヒードラン(Lv73)
コウキの相棒枠。つよい。とてもつよい。
当初は準伝説としてのプライドを持っていたが、今ではナデナデに屈している。
その背景には凄まじい神話が隠されているとか、隠されていないとか……。
評価・感想その他諸々が執筆のモチベになりますので宜しければ!