十字の爪を食い込ませ、壁や天井を這い回る。 作:リハビリ
岩タイプのジムに相応しく大小様々な巌の主張するフィールドを挟み、二人のトレーナーがボールを構える。
(結構、緊張するな……)
ジムチャレンジ。本の中では幾度も読んだ上に、修行中に幾つかの試合を観戦したこともあるのだが、やはり自分が戦場に立つとなると別物なのだろう。
観客席から伝わる期待とプレッシャー。
空気の張り詰めるような緊張感。
心の底から滾る高揚感。
きっと、
「これより、挑戦者・コウキ対ジムリーダー・ヒョウタのジム戦を行います! 使用ポケモンは2体のみ、道具の使用は禁止のシングルバトルとなります! 両者、準備は宜しいでしょうか?」
「オーケー!」
「了解」
「では、一匹目をフィールドへ!」
その一言を皮切りに、モンスターボールとハイパーボールが投げ込まれた。
「貫け、ラムパルド!」
「任せた、エアームド!」
俺の投げたハイパーボールから現れた鋼の武装鳥・エアームドは翼を羽ばたかせ、対する太古の化石獣・ラムパルドは着地と共に大地を揺らす。どうやら俺の願い通り、彼も本気で来てくれるらしい。
「─────それでは、バトルスタート!」
叫んだのは、殆ど同時だった。
「『ストーンエッジ』!」
「『鋼の翼』で迎え撃て!」
ラムパルドが大地を踏み鳴らし、幾本もの巌の剣がエアームドを刺さんとばかりに襲い来る。対するエアームドは硬化した翼を器用に使い『ストーンエッジ』を破壊しながら更に高く舞い上がる。とはいえ、ジムの天井は精々公営の体育館程度。逃げてばかりでは、間も無い内に『ストーンエッジ』に貫かれてしまうのがオチだ。俺が逡巡している間にも、フィールドは次々と隆起していく。
「逃げてばかりでいいのかい? 悪いが、ボクはそう甘くない」
不敵に告げるヒョウタの言葉の奥には、まるで余裕さえ眠っているかのようで。
……いや、まだ慌てる必要はない。相手のペースに流されるな!
確かに『ストーンエッジ』の逃げ場を失うリスクもあるが、主導権を持つのは依然こっちだ。刹那を見極め『鋼の翼』で、
「
刹那。ドン、と何かが破裂したような爆音が響く。俺が轟音に顔を歪ませるよりも早く、俺の視界には信じ難い光景が飛び込んできた。
「……は?」
いや、いや……いやいやいや。おかしいだろ、どう考えても!
錯乱する思考を無理矢理加速させ、エアームドにハンドサインを送る。直後、ラムパルドの頭蓋が『鉄壁』で鋼の膜に覆われたエアームドに肉薄し────鈍い音と共に、エアームドは天井に叩きつけられた。
「起きろ、エアームド!!」
意識は取り戻したものの、方向感覚を失った様子のエアームドが重力そのまま真下へと急降下する。落下地点には『ストーンエッジ』の先端が今か今かと待ち構えていた。
「『ラスターカノン』」
俺の指示を受けたエアームドはコクリと頷き、翼を畳んだ空気抵抗が最も少ない姿に変形する。そうして『鉄壁』で発生した鋼の膜が光り輝き、爆発した! バラバラに砕けた岩の破片を散らしながら、エアームドは岩肌の地面に着地する。
「へぇ……! 鉄壁のエネルギーをそのまま! やるね、キミ」
「そりゃ、どーも」
ヒョウタの言葉に返答しながら、脳内コンピュータをフル回転させる。やはりラムパルドは100kg超えの重量型。あんな機動力、
ふとラムパルドの方へと視線を向けると、何やら体表に傷がある様子が伺えた。
───────『ロックカット』か?
ソレは、身体の岩を削ることで機動力を大幅に上昇させる変化技。ただ、使用した分だけ脆くなるという弱点も存在する。もし、そうだとするならば。
「エアームド、やれるか?」
『ぎゅぎぃ!!』
頼りになる鳴き声を上げ、エアームドは翼をバサ、と広げる。俺の方を見るその瞳は「任せろ」と言わんばかりに鋭く光っていた。
「『鋼の翼』!」
「『岩砕き』!」
互いのポケモンが巌を砕き、散らしながら肉薄する。翼と頭蓋が衝突し、混じり合い、ジム内には鋭い金属音と重い破裂音が木霊する。やがて、ラムパルドに背後を取られた瞬間、俺は腕を振り上げた。
「───! ラムパルド、一旦下が」
「『燕返し』」
幾ら『ロックカット』で機動力が上がろうと、ラムパルドの突進を途中で止めることなど不可能に近い。一歩下がろうとするも間に合わず、エアームドの翼が振り向きざまに腹部に叩きつけられた。鋼のエネルギーを纏っていない、ただの一撃。
本来ならば痛くも痒くもないはずの一撃は─────、
『ぐ……らぅ……』
「ラムパルド!!」
鎧の剥がれたラムパルドにとって、致命的な一撃と化していた。
◇◆◇
「流石ね。やっぱり、
クロガネジム・観客席にて─────見事にラムパルドを突破して見せたコウキを傍目に、シロナは嘆息していた。『鉄壁』を『ラスターカノン』のエネルギーに変換するコウキの機転に加え、見事に再現してみせたエアームドの俊敏性。
そのコンビネーションは、名実共に実力者であるシロナから見ても見事なものであった。それも、かつてシンオウリーグにてシロナを破った年端も行かない少女を想起させるほどに。
───
───考古学者として、ヒードランがどれほどの力を秘めているのか。
この時、シロナはいちトレーナーとしてこれ程ないまでに昂る感覚を覚えていた。
「本気のジムリーダー相手に何処まで戦えるか……。是非、見せてもらおうかしら」
◇◆◇
「ラムパルド、戦闘不能!」
その宣言を耳にして、思わず身体の力が抜けそうになる。エアームドの方を見やると、いつものように涼しい表情で空を仰いでいた。かなり消耗しているだろうに図太い奴だ。
「エアームド、戻ってくれ」
『ぎゅっ!?』
交換という選択が予想外だったのか、若干のキャラ崩壊を招きながらボールへ戻る。『鉄壁』で軽減されているとはいえ、ラムパルドの頭突きは規格外の火力ゆえに、休んだ方が勝利の為にも、エアームドの為にも繋がるだろう。
「いいのかい? キミのエアームド、まだ体力が残ってるみたいだけど」
「試合中の交換は挑戦者の特権なんで。惜しみなく使わせてもらいます」
「……猪突猛進ってカンジでもないワケだ」
互いに所定の位置へ戻り、二つ目のボールを構える。観客も含め、フィールドが緊張で張り詰めた雰囲気に覆われる。挑戦者がこのままジムリーダーの切り札を落とすのか。はたまた、ジムリーダーが挑戦者に華麗な大逆転を果たすのか。
この場の全ての人間が魅入られたこの一戦の行方は。
「ヒードラン、キミに決めた!」
「押し切るぞ、バンギラス!」
『ごぽぼぽぼ!!!』
『ぐがぁ!!』
二匹の獣に委ねられた───────!
エアームド(Lv67)
ハードマウンテンで仲間になった。
若干ナルシスト気質。
背中に人間を乗せることを意地でも拒むほどのプライドの持ち主。
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