十字の爪を食い込ませ、壁や天井を這い回る。 作:リハビリ
ボクは拳を握り、相手の動きを慎重に見極める。ジムリーダーであるボクでさえ一度も目にしたことがないポケモン──挑戦者は「ヒードラン」と呼称していた──を相手に、昂る気持ちを抑えられずにいる。
先に動いたのは、挑戦者だった。
「『火炎放射』!」
文字通り、直線状のブレスを発射する炎技────のはずなのだが、どちらかと言うと
さっきのエアームドといい、凄まじいポケモン達だ! 一先ず防ぐのが最善だと考え、バンギラスに指示を送る。
「『砂嵐』で相殺!」
地を踏み巻き起こした砂塵の球体が溶岩を取り込み、破裂音と共に霧散する。僅かに滴った溶岩が地に落ちると同時に、バンギラスが大きく右足を上げた。それが『地震』の予備動作であると察したらしい挑戦者は素早く指示を送る。
────瞬間。地面を踏み抜いたバンギラスを中心に波打つように大地が揺れる。対するヒードランは『炎の渦』で自身を巻き上げ、その巨体を宙に浮かせる。『地震』の膨大なエネルギーは行き場を失い、先ほどの『ストーンエッジ』により乱立した巌が次々と倒れ砂嵐を引き起こす。
(ここまでは、想定通り!)
視界が不明瞭になったフィールドの中、バンギラスの影が消えた。技の名は『穴を掘る』。ポケモンバトルにおいてトレーナーは"目"。それを奪ってしまえば、重量級のポケモンの不意打ちも容易く通る!
「その場で『ヘビーボンバー』!」
刹那。ヒードランの真下の地面にヒビが入る。重機の如く勢いで現れたバンギラスは『ヘビーボンバー』で落下するヒードランと衝突した。───まさか、見破られたのか!?
砂嵐の中でも的確に状況を判断する観察力。やはりと言うべきか、ポケモンだけでなくトレーナーも中々の強者らしい。ともかく、相手が鋼技を持っていることは分かった。あのポケモンのタイプは炎・鋼と言ったところか?
殴り合いでは不利になると予想し、この場はもう一度バンギラスを穴の中へ────、
「逃がさねーぞ」
途端、背筋がゾクリと冷える。獲物を捉えた猛獣に睨まれたような感覚に、脳内がアラートを鳴らし始めた。ボクのジムリーダーとしての勘が騒ぐ───今は、
「『ロックカット』ォ!!!」
身体の表面の岩を分離させ、機動力を底上げしたバンギラスがヒードランに肉薄する。防御力は落ちるけれど、どちらにせよ当たった時点で致命傷。ならば避け続けるか相殺するしかない!
「速攻だ『アイアンヘッド』!」
ヒードランの居たはずの地面が抉れ、その巨体の姿が消える。
(消えた!?───いや、違う!)
恐るべきスピードで肉薄してきたヒードランから軽い身動きで数歩距離を取り、『ストーンエッジ』の壁で攻撃を防ぐ。一撃で穴が開くほどとは……予想外だが、問題ない。
ラムパルドの攻撃的なソレとは違い、バンギラスの板状の巌は防御に適している。さぁ、挑戦者は対応出来るかな?
◇◆◇
(普通に面倒臭い……!)
俺の目の前に広がるは、まるで森林の樹木のように入り乱れ視界を防ぐ岩の砦。『ストーンエッジ』で形作られたソレは、明らかに岩タイプの独壇場。頼みの綱の『マグマストーム』もこんな状況では当たる訳がない。
元より、使い勝手が悪すぎんだよあの技は……!
『がうぅ!!』
岩の影から現れた巨体を捉え、ヒードランに回避の指示を出す。バンギラスは『ロックカット』で防御力が下がっているのだが、迂闊に『アイアンヘッド』なんて打ってしまえば崩れた岩の下敷きになるのがオチだ。
バンギラスが一撃離脱の容量で小刻みな攻撃を仕掛けてくる。なんとか岩を這い回ることで避けているが、限界はそう遠くない。
「さぁ、ラストスパートだ! 『かわらわり』!」
俊敏な動きで現れたバンギラスの拳が、最後の一撃とでも言わんばかりにヒードランの脳天めがけて振り下ろされる。───いや、そう来るなら……
「ストップ、動くなヒードラン」
無論、ジムリーダーのポケモンが動かない標的に攻撃を外す筈はなく、鈍い音と同時にヒードランに拳が衝突する。相手にとっては、効果抜群の一撃が直撃するこれ以上ない好都合なシーンだろう。まぁ、ヒードランが怯んでいたら、の話だけれど。
悪いが、俺のヒードランのボディは弱くない。
俺の意図に気付いたのか、ヒョウタが何かを叫んだ。……今。
バンギラスが振り下ろした拳を戻し、後ろへ飛び退がる。言うなれば、バンギラスが両足を地面から離す瞬間、どう足掻いても回避行動が取れない瞬間。
時間が粘性を帯びるのを感じる。
目を見開き、コンマ単位で時間を計る。
バンギラスの踵が僅かでも岩肌から離れた瞬間。
「ッ、バンギラス!!」
例え気付いても、もう遅い。
命中率・使い勝手ともに最低レベルだが、それを覆すほどの、場合によっては『破壊光線』をも上回る超火力。きっと、ヒードランにしか扱えないであろうその秘技────俺は張り裂けんばかりにその名を叫ぶ!
「『マグマストーム』!」
『ごぽぼっ!!』
バンギラスの真下の地面に、ヒビが入り割れ始める。
ピシ。
───一秒。バンギラスが片足を地面につける。
ピシピシ。
───二秒。両足を地につけ、踏み込む。
ピシピシピシ。
───三秒。バンギラスが勢いそのままに両足を離して。
その巨体は、轟々と燃え盛る溶岩の嵐に包まれた。
「バンギラス、戦闘不能! 勝者───挑戦者・コウキ選手!!」
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