十字の爪を食い込ませ、壁や天井を這い回る。 作:リハビリ
「勝者、挑戦者のコウキ選手!」
審判の宣言と同時に、観客席から歓声がとめどなく溢れ出す。嬉しさを噛みしめたい反面、身体を襲う違和感が阻止せしめんとしていた。
────あぁ、
原因は嫌になるほど知っている。集中過多による脳への負担だ。
『マグマストーム』というピーキーな切り札が故に、俺の基本的な戦術は「一瞬の隙を狙う」こと。それは常に一分一秒――否、コンマ単位で意識を研ぎ澄ませなければならない。そんなことを続けていれば、そりゃあキツいに決まってる。
「いやあ、おめでとう! まさか二匹とも倒しちゃうとは参ったよ、ボクの負けだ」
顔を上げると、ヒョウタが笑いながら手を差し出していた。一瞬きょとんとした後、俺も慣れない笑顔で手を握り返す。
「そんな、ただの偶ぜ────」
いや、違うな。
言いかけて、咄嗟に言葉を堰き止める。妙な謙遜なんて、却って失礼だろう。
「うん……はい、俺の勝ちです。最高のバトルでした」
「ハハ、いいね! それくらいハッキリしてる方が好印象だな!」
陽のオーラに圧倒され、俺は僅かに肩を竦める。
「あぁ、それと」
「どうかしました?」
「彼女――シロナさんに宜しく伝えておいてくれるかい? 昔は良くお世話になってたからね」
「それくらいなら、どんと任せてください」
シロナさんが考古学者として著名なのは知っていたけれど、ジムリーダーとまで交流があったとは。顔が広いって凄いよなぁ、としみじみ思う。
50人弱の観客――ヒョウタの本気が観れると言うことで、普段よりも多かった――の拍手を背に、俺はクロガネジムを出る。右手には、やや薄汚れたコールバッジが握られていた。
◇◆◇
ホルマリン系統の匂いが、出入り口が開くたびに館内を流れていく。規則的に並べられたガラスケースの中には、遥か古代の遺物たちが静かに鎮座していた。それらはただの無機質な展示物ではなく、確かに存在していた命の証。「炭鉱の町」の名に相応しい光景は、心の底に燻る知的好奇心――尤も、考古学にしか反応しない欠陥品だけれど――を掻き立てていた。
「シロナさん、見つけましたよ!《頭蓋の化石》です! うわ、こっちには《秘密の琥珀》まで!」
俺は柄にもなく思わず声を弾ませ、展示ケースに釘付けになる。そこには悠久の時を閉じ込めたかのような化石たちが整然と並べられていた。
「流石はクロガネ博物館ね。足を運んだ甲斐があったわ」
隣でシロナさんが静かに呟く。穏やかな微笑みを浮かべながらも、その瞳は確かな興奮に揺れていた。考古学者として名を馳せる彼女だが、やはり化石の魅力には抗えないらしい。
まぁ、それも当然のことだ。
古代のポケモン、特に化石は謎に包まれており、今も数え切れないほどの議論や学説が飛び交っている。
曰く──彼らに一律して付随する「岩タイプ」について。
果たして、それは本当に古代から持ち合わせていた属性なのだろうか。それとも、現代における復元技術の過程で後付けされた、いわば
曰く──彼らの姿について。
現在発見されている化石のDNAは不完全であり、補完に限りなく近い別のDNAが使用されているらしい。それが事実なら、俺たちが「復元」と称して蘇らせた彼らの姿が偽物の可能性もある。
こうした疑問を挙げていけば、きりがない。
それでも、人は未知に惹かれる。過去に埋もれた謎を解き明かし、嘗て存在した"本物"に辿り着こうとする。その果てしない探究心こそが、考古学者の性分かもしれない……というのが、考古学オタクの意見である。化石おもしれー。
ふと視線を移すと、鉄の鈍い光を帯びた器具の数々がガラスケースに収められていた。
「なんだこれ?」
吸い寄せられるように歩み寄ると、刃こぼれした剣や歪んだ鍬などが整然と並べられていた。どれも長い年月を経たせいか錆びて朽ちかけているが、それでもなお当時の職人たちの技術の高さを感じさせる。
「この鉄器、何か引っ掛からないかしら?」
隣でシロナさんが静かに言う。俺も見たが、違和感なんてどこにも───と否定しかけたところで、ラベルに書き込まれた
「そうか、時代!」
本で読んだことがある。シンオウの過去の姿《翡翠地方》。まだ開拓途中の時代、言うなれば、製鉄を為すほどの技術が存在しなかった時代。俺は展示ケースの説明文に目を走らせる。そこには、『ハードマウンテン周辺にて発掘』と記されていた。
「ハードマウンテン……」
俺は思わず呟き、握り慣れたハイパーボールに触れる。
「それだけじゃない。技術が追いついてない上に、シンオウには炎ポケモンが少ない──つまり、鉄を精錬する手段も限られているわ」
確かにシンオウは寒冷な気候の地域が多く、炎を操るポケモンは多くない。居るには居るのだが、殆どが『ハードマウンテン』に集中している。ヒコザル系統やポニータ系統などは全体的に分布するが、かたや希少種、かたや凶暴だったらしい。
「でも、それでも製鉄文化は発展していた」
実際、クロガネシティなんてものが古くから存在している。しかも、単なる道具だけではなく、武器や防具、装飾品に至るまで、精錬技術そのものが相当に洗練されているのだ。
ハードマウンテン。
希少種たる炎タイプ。
鉄をも溶かす灼熱の炎。
「その答えが……ヒードラン、か?」
俺の手にあるボールの中で、気配がわずかに揺れたような気がした。ある種の知的興奮に駆られた俺の横で、シロナさんが僅かに微笑む。その目は、まるで俺を試しているかのようで。
「と、云うのが私の解釈。どうかしら?」
「確かに、あり得ます。けど───」
「けど?」
俺の中で渦巻く一番の違和感。それを解消するには至らなかった。
「ならばどうして、ヒードランの資料は残っていないのか。彼が鉄の源だったならば、大規模な信仰が行われても何ら不思議じゃない筈です」
「つまりキミは、ヒードランが『製鉄の神』ではないと思うわけね?」
「……いや、そういう側面もあったかもしれない。というか、あったんだと思います」
そうじゃないと、ヒスイの製鉄文化の説明が付かないからな。
「ヒードランには、歴史の中に葬られた別の
だからと言って『壁と天井を這い回っていた』と云う記録だけが残っているのは意味不明だけど。もっと上手い隠し方あったろ。
「面白い解釈ね。ギラティナの前例もあるし、十分有り得るわ」
「まぁ、ギラティナほど壮大な神話かは疑わしいですけどね」
シロナは満足気にうんうんと頷く。
「にしても凄いですね。殆どゼロの状態から、ここまでの仮説を立てられるなんて」
「考古学の基本よ。小さな、すごく小さなピースを集めて一つの"正解"に辿り着く───何より、それが一番楽しくもある」
楽しそうに語るシロナさんの横顔へ視線を向ける。柔らかな金の髪が、博淡い照明を受けて微かに光を帯びていた。端正な横顔はどこか儚げで、それでいて秘められた知性と探究心を物語っている。静かに揺れる銀の瞳は、ただの美しさだけではない、確かな情熱があった。
この人となら、俺がどれだけ考えても辿り着けない答えを、きっと見つけ出すことができる。ヒードランの神話――ハードマウンテンに宿る火の化身、その真実に。
「───⬛︎⬛︎⬛︎けど、キミはどう思う?」
「へっ!?」
何となくキメていると、不意打ちの質問にたじろいでしまう。
「あー、うん、可愛いですよね。ヒードラン」
あまりにも不自然すぎる返答。ジト目でこちらを見やるシロナさんから顔を逸らし、やっちまったと歯を食いしばる。
ボールの中から「何やってんだお前」とでもいいたげに低い鳴き声が聞こえた。
【要約】
古代の鉄器!?でもヒスイ時代にはそんな技術ない(自己解釈)し、炎ポケモンも少ないぞ!
↓
鉄器の発掘場所が「ハードマウンテン」!?
↓
ヒードランが製鉄文化に一役買っていた?
↓
でもそれだけなら信仰された記録が残ってないのおかしい!
↓
自分で言うのもなんですが、分かりにくくて申し訳ない
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