呼び鈴が鳴ったので、
父が連絡もなしに帰ってきたのだろうかと思い、ドアを開けるとそこにいたのは父ではなかった。艶やかな黒髪が腰のあたりまで伸びている、所謂ロングヘアで、小顔ですらっとしたモデル体型の15歳の女の子がそこにはいた。
「お久しぶりです、先輩。これから3年間お世話になります」
そこにいたのはかつて自分が高校生時代に、魔法士修行のために居候させて貰っていた師匠の娘、
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「そういえばさ優馬、あんたに言わないといけないことがある」
突然話を切り出してきた母。優馬は現在20歳だが大学には通っておらず、仕事はしているが仕事がある日はバラバラなので今日はお休みだ。そのため、友人が持ってきた本―――『相棒梟と行く幻魔郷の旅~リューレ村編~』を読みふけっていた。
「なに?」
「あんたがお世話になってる佐藤さんの娘さんの春香ちゃんがさー」
「おー」
「今年から高校生になるんだって」
「おー」
「だから3年間ウチで一緒に暮らすことになったから。優馬も仲良くしなさいよ?」
「おー。……お?今、なんて言った?」
「だから。今日から一緒に暮らすの!わかった?」
「は、はい。わかりました」
一緒に暮らすって急だろ。
いや、俺が向こうの家に居候させてもらう時もこんなものだったか。
急な話で驚いたが、親同士で話が付いてるなら文句はない。
じゃ、母さんは歓迎会の準備のために買い出し行ってくるから、留守番よろしくねーと俺の返事も待たず母は家をでた。
ま、家に来るまで時間はまだあるだろうし本の続きでも読んでおくか。
やっべ、そうだった。ちゃんと来るって言ってたじゃん。
とりあえず玄関に立たせておく訳にもいかないし、居間へと案内する。
春香は律儀にお邪魔しますと言ってから靴を脱ぎ、俺の後に続いた。
「今は俺しかいないけど、いらっしゃい。道には迷わなかったか?」
「はい、スマホの地図もあるので大丈夫でした。葵さんはいらっしゃらないんですか?」
「母さんは今買い物に行ってる」
「そうですか……。あ、モノレールには始めて乗りました」
モノレールとは1本のレールに車両が跨がって(もしくはぶら下がって)いる、人や物を運ぶ交通手段の一つである。ここ福岡にもモノレールはあり、跨がる形式となっている。モノレールの側面には『銀河鉄道の夜』の絵が描かれていたりして結構遊び心がある。
「あぁ、秋田にはないんだっけ?」
「そうですね。昔モノレール作ろうって動きはあったらしいですけど、結局立地やらなんやらの影響でなくなっちゃったみたいです」
「まあ、基本は作るなら地下鉄だろうしなあ。どうだった?初モノレールは?」
「高いところにあるから揺れるかなーって思ったんですけど、全然揺れないのでびっくりしました。後、駅と駅の間隔がものすごく短いですよね。次の駅が窓から見えましたよ」
「あはは」
他の県のモノレールがどうかは知らないが確かに駅と駅との間隔が短い。
なんなら歩いていけるだろってぐらいの距離だからな。
モノレール談義していると居間についたので座らせてからお茶を冷蔵庫から取り出す。
「はい、お茶で良かったか?」
「はい。ありがとうございます、先輩」
「そういや、春香がこっちに来たのはやっぱり修行の一環か?」
「まあ、そんな感じですね。福岡で生活してみたかったのはありますが」
「なるほどな」
魔法使いは15歳になったら他の人の家でお世話になり、魔法の修行をするといった慣習がある。現代となっては結構廃れた慣習だが、まだやっている家もある。俺も15歳からの高校3年間、春香の家に居候となって秋田で生活していた。だから、春香が高校3年間こちらにくるのはおかしくないか。
「学校はどこ行くんだっけ」
「小倉女子高等学校です」
「あー。なら、そんなに遠くないな」
魔法士―――――魔法を使える人は日本だけでなく世界中にいる。都会でも魔法を使って占い師をやっていたりする。だが、まだ未熟な魔法士見習いは基本的に人が少ない田舎で修行を行うのがセオリーとなっている。ここは福岡だが、山近くの家なのでそれほど家があるわけではないし、敷地には母が結界を張っているので外から中の状況は分からなくなっているので修行にはもってこいだ。
「ふわぁ、さっき呼び鈴がなってたみたいだけど、誰かきたの?」
「……!?」
あくびをしながら銀髪の130cmくらいの少女が階段を降りて居間に入ってきた。
「おはよう、セナ。こちらは佐藤春香さん。俺がお世話になってる師匠の娘さん」
「初めまして、佐藤春香です。……あの、あなたは?」
「私は――――えと、そうね。こっちの方がいいかしら」
そういうとボン!とセナの周りに煙が立ち上がり姿が見えなくなる。
煙がなくなるとそこには少女の姿はなく、白猫の姿があった。
「私はセナ。優馬の母である、古賀葵の
「よ、よろしくお願いします」
セナは再び魔法で人の姿――――少女の姿となり春香と握手していた。俺もセナの年齢は知らないが、少なくとも俺が赤ん坊の時の写真にもセナの姿はあるので20は確実に超えているだろう。
「その、先輩。失礼かと思いますが、その……」
「ん?どうした?」
春香が俺に何かを聞きたいのか、もじもじとしている。春香は昔から真面目なヤツだし、失礼なことなんて言わないと思うが。
「先輩は、所謂
「ホントに失礼だな!?全然違うぞ!?なんでそう思った!?」
「そうなんですね、すみません。セナさんがその、少女だったので先輩がさせてるのかと」
「俺がさせてるわけじゃないぞ!」
「これは【人化魔法】よ。人ではないものが人の姿を取れるの。ただし、好きな姿を取れるのではなくて『もし人間だったら』という仮定のもとに行われるから、私がこういう姿なのは優馬の性癖のせいじゃないってことね」
「性癖っていうなや!」
「ま、コイツがさせてないってだけで、少女趣味なのかわからないけどね」
「はあ!?違いますが!?」
ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーと口論になる。
しかし本気で言っているのではなく、これも日々のコミュニケーションなのだろうとなんとなくだが春香は理解できた。
そんな2人のやりとりを見るなかで春香は心の底から安堵していた。
春香が10歳のとき、母の友達の息子である古賀優馬が家に居候をすることになった。
春香が知っている男性なんて父親くらいのもので、学校の男子からはいじめられる―――――――男子の言い分としては気になる女子だからちょっかいをかけている―――――から急に父以外の男性が家に泊まると知って心臓が飛び出るほどびっくりしたものだ。しかし、父と母が歓迎ムードだったので嫌とは言えなかった。けれど優馬はそんな春香の気持ちを知ってか知らずか関わるのは挨拶くらいのもので決して春香に近づこうとはしなかった。
そんな周りの男子とは違う優馬のことが知りたくなり、夜中にこっそりと優馬の部屋を覗きに行った。もう深夜だと言うのに部屋の電気はついていて、中をそっと覗くと春香にはまだ難しくて読めなかった魔法書を読みながらノートにメモを取る姿があった。その頑張る姿が父の姿と似ていて、不思議と優馬のことは敵だと認識はしなくなった。
翌日に勇気を出して学校の課題について教えてくれと頼むと優馬は嫌な顔ひとつせず丁寧に教えてくれた。それからというもの春香は優馬に懐くようになり、3年間優馬の時間が空いた日は一緒に遊ぶようになった。
そしてついに優馬が卒業する日に福岡には帰らないで欲しいと泣きついたものだ。優馬はいつでも遊びに来てくれと言っていたが、やっぱり福岡に帰ってしまった。自分はまだ中学生で、福岡にいついけるようになるかは分からない。
自分の胸にぽっかりと穴が空いてしまったように感じた。
泣き止まない私を見かねたのか母が高校生になったら、今度は私が向こうの家に居候させてもらえばいいと聞いて、泣くのを止めた。泣いていたって状況が変わらないのは分かっていた。
もう、気づいていたのだ。
それからは福岡の学校に行くことに決めて、勉強も頑張った。勉強だけではなく、魔法の基礎を学び、再びあった時可愛いと思って貰うため肌の手入れなどにも力を入れた。男子からも告白されることが多くなったが興味がなかったので全て振った。
勉強のかいあってか小倉女子高等学校に受かった。
それからしばらくして卒業。そして――――――――。
家の呼び鈴をならして誰かが出てくるまで待つ。
中から優馬が出て会わなかった2年でさらにかっこよくなっていて胸がドキドキしたがなんとか冷静を保って話すことができた。
途中セラが出てきたときは知らない可愛い子がいてびっくりしてしまったり、セラが少女の姿を取っていることを知って多少暴走してしまったが、そこはまだ思春期の女の子。恋愛に関わる話に多少のおいたは見逃して欲しいものだ。
セラと優馬の2人のやりとりを見ながら春香は決意した。
―――――この3年間で絶対に私のことを好きだと言わせて見せます先輩!
古賀優馬、好きなポテチの味は九州しょうゆ味。これがうめぇんだ
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では、また!