どうするGQuuuuuuX   作:イナバの書き置き

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UC0079/窓の少年

 何かに取り憑くと言うよりも、目が覚めるような感覚。

 どうやら自分が転生者なる存在であるらしい、と気付いたのは、今まさに自分とその背後にある月面都市グラナダ目掛けて落ちてくる宇宙要塞ソロモンが何とも形容し難い光を放ち始めた時だった。

 少しハネた茶髪に、赤い瞳、後は十何歳かくらいの瑞々しい身体は、仕事やら何やらでギシギシ言い始めた27のそれとはまるで別物。

 ぼってりしたノーマルスーツの内側に収められたこの身は、どう考えても昨夜布団に入るまでの自分ではない。

 そして、ミカボシ・ツヅラと言う肉体に目覚めた僕──否、俺はサイコミュ高機動試験用ザク(タコザク)の中で気付き、頭を抱えたのだ。

 

 

 ──あぁ、これGQuuuuuuXの世界か、と

 

 

 それの何が良くないのかと言えば、自分を取り巻く現状を含めて大体全部が良くない。

 先ず俺は、グラナダ上空でタコザクなんぞに乗っていることから分かる通りフラナガン機関の人間──一応、扱いとしてはニュータイプである。

 

 そう、一応。

 

 タコザクの腕は飛ばせる。

 モビルスーツの操縦もまあそれなり。

 けれども、それを一辺にやろうとすると本当によろしくない──一度に二つをこなせないシングルタスクの極み人間には、NT専用MSなど夢のまた夢。

 実戦に出ても、腕の飛ぶ固定砲台が関の山だ。

 肝心のNT能力についても、緑のおじさんことシャリア・ブルは「少し勘が良いだけ」などと謙遜していたが、俺ことミカボシ少年の場合は実際にその程度の能力しかなく──と言うか、その勘ですらかなり怪しい部分がある。

 要するに辛うじてサイコミュを動かせるから置いて貰っているだけで、殆ど何の役にも立っていない穀潰しと言って差し支えないだろう。

 現に機関でもサイコミュ兵器のデータを取る装置みたいな扱いをされていたのだし、成り行き次第では強化人間にされる可能性だって否定は出来ない。

 

 ただ、宇宙に残れたのもそれが理由だ。

 

 アルマ・シュティルナー──サイコミュが動かせない代わりにMS操縦の素質が神がかっていた彼女とは、方向性は異なれど落ちこぼれ同士で頗る仲が良かったのだが。

 サイコミュが使えなかったばっかりに、人材が払底しつつあったジオンは彼女を地球に送り込んでしまった。

 キシリア(紫ババア)が認可した特別な部隊に配属されると聞いたが、結局オデッサが陥落した後無事宇宙に戻ってこれたのかは分からない。

 今から思えば、多分彼女も何かしらの外伝(漫画とか?)の主人公な気がするが、それにしたって心配なものは心配だ。

 希望は少ないけれど、何とか無事に戻ってきて欲しい。

 

 

 そして、第二の問題。

 此処がGQuuuuuuX世界であると言うこと。

 

 

 映画館で見たから勿論分かる──勝っちゃうんだ、ジオンが。

 しかもシャアがガンダムの奪取に成功したから。

 いや、別にそれはいい。

 ガンダムの簡易量産なんか提案してくれやがったせいでゲルググの存在そのものが抹消されたのは許せないが、それはいいのだ。

 何と言っても、今まさにグラナダごとソロモンに潰されるところをゼクノヴァ現象で救って貰った訳だし──サイド4生まれでもう帰る場所がない以上、地球連邦が勝つよりジオンが勝ってくれる方が当面の命は保障される筈だから。

 シャアに関しては命の恩人とすら言えるだろう。

 

 ただ──先が分からない。

 

 映画館で見たのは、序盤も序盤。

 GQuuuuuuXが何なのかもよく分からないし、何でガンダムにシャアではなくシュウジが乗ってるのかも分からないし、オメガサイコミュやシャロンの薔薇が何なのかも開示される前だから、全体的に何がどうなるのかさっぱりなのである。

 これはかなり致命的だ。

 そう、ジオンが一年戦争に勝利すると言うイレギュラー中のイレギュラーが発生している以上、自分が持っているガンダム知識なぞ何の役にも立ちゃしないのだ。

 少なくとも、水天の涙と星の屑は起きない。

 一応UC0085まで平和が保たれているのも確実だが、それでもその二年後には木星からシロッコが帰ってくる。

 そうなったら──エゥーゴもティターンズも無い中で奴が戻ってきたらどうなるかなんて、まるで見当もつかない。

 転生者にありがちな知識アドバンテージなど、最早無いに等しいと言っても過言ではない。

 どうして神は俺の転生をテレビ放送が終わるまで──いや、せめて始まるまで待ってくれなかったのだ、とタコザクの中で悪態を吐いてしまったのもやむを得ないだろう。

 

『刻が……見える……』

 

「どうすっかなこれ……」

 

 そうしてオープンチャンネルから届く大佐の声を聞きながら、一人ぼやく。

 残念ながら、「刻」とか「キラキラ」とか言われる類いの何かは見えそうにない。

 所詮は俺もニュータイプのなり損ないでしかない、と言うことなのだろう。

 いや、これでアムロ・レイとかカミーユ・ビダンみたいなマジもんのニュータイプだった方が困るので、なり損ないでいいのだが。

 何年も軟禁されたり、精神を連れていかれたりなんてのは此方としても御免被りたいところである。

 そして、フラナガン機関に身を置く限りは「そっち」方面への道へ進まされる可能性が非常に高い。

 下手をすれば強化手術で記憶やら何やらを弄り回され、自分が誰かも分からなくなった状態で錯乱死する、と言う可能性だって低くはない。

 少なくとも、マリオン・ウェルチのようにEXAMシステムに意識を持って行かれるのだけは嫌だ。

 何せシャアがガンダムを鹵獲したせいで、クルスト博士は未だにフラナガン機関に残って惨たらしい人体実験を繰り返しているのだ。

 俺やアルマがそうならなかったのは、偏に落ちこぼれで運が良かったからだ。

 と、すればだ。

 

「──逃げるか」

 

 丁度金平糖の一角を喪い、軌道を変えてグラナダから離れていくソロモンのように。

 頭上十数キロを横切り、どこへともなく……恐らく月軌道に向けて移動を始めた岩塊のように。

 どうせアクシズショックならぬゼクノヴァショックで人生が一変する人間が出てくるのだから、そう言う連中に紛れて俺も逃げ出してしまえば良いのだ。

 幸いにして、戦後ジオンは財政難からMSの払い下げと軍人の退役を始めることは知っている。

 ゼクノヴァでニュータイプの力を見せつけられたキシリア閣下は益々フラナガン機関に注力されるだろうが、そこに落ちこぼれを飼っている余裕はない筈だ。

 俺は数多のザクと同じように遠からず放逐される運命にあるのだから、それに乗じて行方を眩ませてしまえば悠々自適とは言わずとも一先ずの安全は得られるに違いない。

 そして、GQuuuuuuX本編が始まったら────

 

『帰投せよ、ミカボシ少尉。状況が錯綜しており死守命令は一時的に撤回された。ミカボシ少尉、聞こえているのか?ミカボシ少尉────』

『ソロモンが遠ざかっていく……どうなってるんだ。これがニュータイプの力とでも────』

『コンペイトウの軌道が逸れた!?そんな馬鹿な話があるか!この作戦が失敗したら連邦は────』

「……こちらミカボシ。了解しました、帰投します」

 

 配置が突然過ぎて、コールサインや番号すら無し。

 ミノフスキー粒子は最大濃度で散布されていた筈だが、通信はあらゆる周波帯が酷く混線していて鬱陶しい。

 取り敢えず命令に届くか分からない返事だけして、全ての通信を封鎖して──思い切り溜息を吐く。

 

「はぁぁ……どうする……」

 

 それで、始まったらどうする。

 取り敢えずサイド6、特にイズマコロニーに近付かないくらいしか打てる手はないだろうが。

 その次は、もし何かあって……と言うか十中八九あるだろうが、話がサイド6周辺だけで済まなくなったらどうする。

 その次は。

 その次は────

 

(……頭が、痛い)

 

 考えなければいけないことが多すぎる。

 しかし考えなければすぐに死ぬ。

 何せここは宇宙世紀──隙間と言う隙間に外伝を詰め込んだ結果、数年おきどころか下手をすれば毎年何かしら重大な争いが起きる地獄のような世界なのだ。

 そして俺には「戦え」と言ってくれるガンダムも、「近くにいる」と言ってくれるMAVもいない。

 月の小さな重力に引かれてゆっくりと降下するタコザク──その先のグラナダは煌びやかだが、やはりそこにもミカボシ・ツヅラの居場所はない。

 

 

 宇宙は広いが、孤独だ。

 

 

 

 転生から、僅か一時間足らず。

 超硬スチール合金の檻の中で俺が得た結論は、あまりにも寂しいものだった。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「隣に越してきました、ミカボシ・ツヅラです。よろしくお願いします」

「まあ、これはご丁寧に……タマキ・ユズリハと言います。後ろのは娘のアマテです。ほらアマテ、挨拶は?」

「……アマテです。よろしく」

 

 宇宙世紀0082年。

 人当たりの良い応対をする母の後ろから見た、ミカボシ・ツヅラに対するアマテ・ユズリハの第一印象は「何か根暗そうな人」だった。

 身形が、と言いたいのではない。

 引っ越しの挨拶にやって来た彼は無難に纏まったスーツ姿だったし、天然らしい髪のハネは兎も角それなりに外見に気を遣った様子も見られる、まあ小綺麗な格好をしていたのだから。

 受け答えも、正常そのもの──寧ろたった三歳しか違わないのにハキハキと儀礼的に挨拶をこなす姿は、後で母に「ああいう人を見習いなさい」と小言を言われそうなほど慣習が板に付いていた。

 ただ、アマテ自身どう表現したものか────

 

(……黒い)

 

 髪が、ではなく。

 服が、ではなく。

 纏う気配のようなものが、塗り込められたかのように黒く暗い──パッと見は垢抜けた少年にしか見えない彼が宿す、空気の澱みに近いものをアマテは感じ取っていた。

 監査局員として海千山千の修羅場を乗り越えた母ですら見抜けず、察知出来ない部分に彼女は一目で気付いたのだ。

 そんなだから挨拶は素っ気ないものになってしまったし、反比例するように好奇心旺盛なアマテの興味を強く惹く。

 

(何でこんなに黒いんだろう)

 

 ミカボシのような人間を見たことがなかった訳ではない。

 特に一年戦争が終結した後は沢山の難民がイズマコロニーにやって来て貧民街を作っていたし、そちらに近付かずとも何処にだって後ろ暗いものを抱えた人はいる。

 だが、それらとは明らかに異質な──疲れきっているのに走ることを強制されているかのような、悲壮感と諦めに塗り固められた黒い人間に遭遇するのは初めてだった。

 とは言え、その時はそれだけで。

 どう切り出したものかまごついている間に母とミカボシは会話を終え、閉じられる扉を見送るしかなく──夕食に彼が挨拶として渡してきた蕎麦を食べている内に、多感な少女の頭からはすっぽりと抜け落ちていたのだが。

 

「鍵、忘れちゃって……お母さんが帰ってくるまでお邪魔させてもらえませんか?」

「別にいいけど……親御さんにはちゃんと連絡しなよ」

 

 そんなミカボシとの二回目の接触は、アマテが鍵──彼女が住むマンションはコロニー内でも比較的富裕層向けだったからカードキーだが、を塾に置いてきてしまったのが切っ掛けだった。

 こういう場合、普通であればファストフード店なりカラオケなりで時間を潰すのが正解なのだが、この時のアマテはクレーンゲームで小遣いを使い果たして財布は殆ど空。

 友人の家に身を寄せようにも、最低でも数駅は歩くしかなく──色々考えた末、最後に頼れるのがあの黒い隣人だった、と言う訳だ。

 まあアマテ自身「大胆過ぎたかな」とか「この人大丈夫なのかな」とか思いはしたが、玄関チャイムを鳴らしてしまった以上後には引けず──怪訝な表情の彼の部屋に押し掛けてしまった、のだが。

 

「何か……殺風景な部屋、ですね」

「敬語はいいよ……あんまり帰って来ないからね」

「何で?隣のコロニーにでも通ってるの?」

「バイトだよ、バイト。ジャンク屋の護衛で宇宙(そら)に出てるから、二週間くらい戻ってこれないんだ」

「宇宙!」

 

 宇宙。

 それはアマテを惹き付けて止まない場所だ。

 イズマ生まれイズマ育ちのアマテにとって、コロニーの壁一つ隔てた向こう側に広がる無限の空間は、限りなく近くて遠い場所──行きたくても行けない場所だった。

 そんな所に、たった三歳しか違わないミカボシは日常的に赴いていると言う。

 しかも、如何なる理由か学業を免除されて。

 

 ──羨ましい

 

 正直に言って、羨ましくて仕方がなかった。

 何で彼が良くて自分はダメなのか、と思いもした。

 けれど、それ以上に──知りたくて、堪らない。

 

「宇宙ってどうなの?広い?自由?」

「場所による。でも大体は艦かコロニーの近くでしか動かないから、狭いし不自由だよ」

「ええー!?そうなの!?」

「……まあ、コロニーから離れてく時は視界一杯に宇宙が広がって、開けた感じはするけど」

 

 意外なことに、訊けば訊くだけ答えは返ってきた。

 それに気を良くしたアマテは、ミカボシを質問責めにする。

 

「私もMSパイロットを志望すればミカボシみたいに宇宙に出れるかな」

「止めた方がいい。自分みたいに個人傭兵やってる奴は何時死ぬかも分からないし、公社の雇われは一生外壁工事でコロニーにへばりつく羽目になる」

「……何か夢がないんだけど」

「無いよ、実際。大体アマテは良いとこの娘さんだろう。態々MSなんか乗らなくても真面目に勉強してればサイド中を飛び回れる。()()()()()()()()()()()()()()()()

「それはつまんないからヤだ。私は私の力で地球に行ってみたい」

 

 本当に判を押したみたいな一問一答、会話のキャッチボールの繰り返し。

 やたらと素っ気ないけれど、思ったより素直に答えてくれるミカボシとの会話は弾みに弾んだ。

 それこそ時間も忘れて、彼が出した菓子も食べて、何なら夕飯まで御馳走になってしまうほどに。

 そして、気付く。

 

(ミカボシは、「窓」なんだ)

 

 ミカボシ・ツヅラと言う男は、コロニーの中に押し込められたアマテと宇宙を繋ぐ、謂わば窓のような存在であるのだと。

 窓の外に広がる宇宙が暗いから、彼も暗く見えるのだと。

 ただの根暗、と言う訳ではない。

 まあそれはそれとして、ミカボシと言う人間の奥底には何か黒いものが潜んでいて暗い性格をしているのには違いがなかったが。

 だが、今は兎に角──この「窓」の外を見ていたい。

 

「また鍵忘れたら来てもいい?」

「駄目だ……って言っても来るんだろう。いいよ、まあ殆どいないから当てにならないけど」

「やった!言質取ったからね!」

 

 だからこそ。

 窓の外を見ることに、夢中になっていたから。

 アマテは気付くべきことを、見過ごしていたのだ。

 壁に掛けられた草臥れたジャケットの、不用心にも襟に付いていた「それ」。

 

 

 

 ──ジオン突撃機動軍の、黄色い紋章に

 

 

 

 それから、三年が経った。




◯ミカボシ・ツヅラ
ゼクノヴァ現象と同時に別世界の意識をインストールされたニュータイプもどき(名義上はジオン突撃機動軍少尉)。
フラナガン機関に所属しているが、サイコミュとMSの操作を同時にこなせないと言うどうしようもないレベルで魂が地球に引かれているので使い道がなく、戦争終盤になってもグラナダで放置されていた。
一応MS操縦かサイコミュかどちらかだけならそれなりなので、複座式な初代版ブラウ・ブロに乗せればそれなりに活躍の目はあった。
インストールされた人のガンダム知識は映像媒体と漫画はかなり見ているが、ゲームはやっていたりいなかったりと言った具合。
なのでアルマが何かしらの外伝の人物であることは見抜いていたがCode Fairyの主人公であることには気付けなかった。
本来の性格は明るめなのだが、連邦が勝とうがジオンが勝とうが最終的にまた戦争が始まりそうな宇宙世紀事情にかなり滅入っており、UC0082時点で表面上は礼儀正しいが内面ではマチュをして引くほど雰囲気がかなり窶れている。
そしてサイド6に近付かないとか言っておきながら2年後にはイズマコロニーにノコノコやって来てしまう即堕ち2コマ野郎でもある。

宇宙に関しては所により広い派。


◯アマテ・ユズリハ(マチュ)
ニュータイプ素質バリバリの狂犬。
四方壁の部屋よりちょっとだけ外が見える方がより出たくなるよね、と言うことで、今作ではミカボシと言う外を見るための「窓」を得て狂犬具合に更に磨きがかかる。
ミカボシへの評価は「暗いけどたまに面白い話をしてくれるお兄さん」であり、恋愛感情の類は特にない。

彼女が突撃軍の紋章に気付けなかったのが問題なのは、それを知っていればほぼ確実に母に喋っていた筈であり、そうすれば監査局局員なタマキ・ユズリハは間違いなくマチュを遠ざけていたから。
狂犬具合を控えめに出来たからである。

◯サイコミュ高機動試験用ザク
最近だとUCエンゲージで出番があったタコザク。
今作ではグラナダで終戦間際までテストを繰り返していたが、ソロモン落としと言うあまりにもあんまりな事態を前に急遽駆り出された…が、パイロットのポンコツ具合からシャアやシャリア・ブルのような殴り込み艦隊ではなく守備隊に配置されたので戦果はない。
次話以降の出番もない。
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