どうするGQuuuuuuX   作:イナバの書き置き

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敗者たちの残光/ハーフムーン・MAV

 先ず結論から述べれば、クランバトルには敗れたがシイコ・スガイはギリギリのところで一命をとりとめた。

 ギャンとジークアクスの体当たりで、サーベルの狙いが大きく上に逸れたのが功を奏したのだろう。

 本来コックピットを灼く筈だった一撃はゲルググの腹部から上を二つに裂くだけに止まり、同時にハッチが外れるという幸運を彼女にもたらした。

 しかし、たとえ脱出出来ても至近距離での爆発を防ぐ術はない──コックピットから投げ出されたシイコは爆発四散するゲルググの破片と衝撃波を浴び、瀕死の重傷を負ったまま数分の間宇宙を漂う羽目になったのだ。

 

 と言う事の顛末を。

 俺は当のシイコ・スガイに説明していた。

 

「そう、だったのね」

 

 得心がいった、とばかりに頷く彼女の姿に、クランバトル前までに見せていた余裕とプレッシャーは見る影も無い。

 身体の至るところに包帯やガーゼが巻かれ、呼吸器の向こうから淡く微笑む姿は、いっそ痛々しいと表現する方が適切だろう。

 それもその筈、シイコさんはほんの数日前まで集中治療室で予断を許さない状況が続いており──意識を取り戻したのだって、昨日のことなのだから。

 本当は、今こうやって会話をしていることすら彼女にとっては大きな負担に違いない。

 だが、それでも無理を言って面会にさせてもらっているのは──話しておく必要があると思ったから。

 

「ありがとう、と言うべきなのかしら」

「礼は、マチュに……ジークアクスの子にしてあげて下さい。あいつがあなたをいち早く見付けていなかったら、多分そのまま死んでたと思うんで」

「そう……」

 

 目線を合わさないまま返事をすれば、シイコさんの声も小さくなる気配があった。

 実際、あの場で俺がしたことなんて本当に些細な行為に過ぎない。

 ただ、マチュに加速を呼び掛けただけ。

 シイコさんがシュウジを殺すまで止まらないことに気付いたのも、それを汲んだシュウジがシイコさんに止めをさそうとしているのに気付いたのも、全て彼女が先。

 一機の推進力で届かないところを届かせるため、ギャンとジークアクスのスラスターをリンクさせることを提案しただけなのだ。

 

 それに、ガンダムに体当たり出来たのだってただの運に過ぎない。

 元々完全な殺し合いに横槍を入れられれば良い、くらいの浅い考えでよもや激突するなんて考えもしなかった──殆ど全てが運とマチュの功績で、俺はただの添え物に過ぎなかった。

 

「負けたのね」

「ええ、負けました」

「二兎を追う者は一兎をも得ず、と言うけれど……子供と復讐、両方掴もうとした結果かしら」

「かもしれません」

 

 俺とシイコさんは敗者だ。

 ゲルググの爆散を見て即座に棄権した俺は兎も角、シイコさんは完全にシュウジとガンダムに敗れた形となる──その悔しさや絶望を、俺如きが計り知ることは出来ない。

 過去の幻影は彼女だけが見る悪夢で、それを解消する手段を知っているのもまた彼女だけなのだから。

 少なくとも、自分が宇宙世紀を生き残ることしか考えてこなかった俺と、家族と生きる未来を見ていたシイコさんでは戦場が違う。

 

「治ったらもう一回、とか」

 

「もしかしたら、って思ってるかもしれないですけど」

 

「もう、無理ですよ」

 

 そして俺の役割は、そんな彼女を戦場から叩き出すことだった。

 

「……どういうこと?」

「薄ら自覚はしてるんじゃないですか?右腕の感覚が殆どないこと」

「……それ、は」

「頑張れば、日常生活には支障は出ないと思いますけど……それじゃ、モビルスーツは動かせない」

 

 爆発を受けた際、特に良くなかったのが右腕だ。

 咄嗟に頭を守ろうとしたからなのか、大きめの破片が直撃した腕は粉砕骨折し、見るも無惨なレベルでズタズタに──正直、繋がっていたのが奇跡と思えるほどになった。

 それでも適切な治療を受ければ見た目だけでも元に戻る辺り、宇宙世紀の医療技術には感服するばかりだ──しかし、もう二度と操縦桿を握ることは出来ない。

 強く、素早く動かせない指でモビルスーツの精密なコントロールなど出来る訳がない。

 その上、だ。

 

「内臓にもかなりダメージが入ってるそうです……次スティグマ戦術なんてやったら、あっという間に御陀仏ですよ」

「……」

「ハッキリ言ってガンダムと戦うとか、それ以前の問題です。乗ったら死にますよ、冗談じゃなくて」

 

 俯く彼女に俺は言葉の礫を浴びせていく。

 我ながら、酷い物言いだ。

 本来、俺にシイコさんの生きる道にあれこれ口を挟む資格なんて存在しない──海賊狩りとクラバに明け暮れ、ただ宇宙世紀を生き延びることに拘泥する俗物と、過去の幻影を振り払おうと懸命に戦う彼女を比べること自体が烏滸がましい。

 でも、こうでもしなければシイコさんはきっとまた戻ってきてしまう。

 どれだけ身体がボロボロでも、過去との決着が自分の望む形でつけられない限り戦場に姿を見せてしまう。

 それは──折角拾った命を投げ出してしまうのは、悲しいことではないだろうか。

 

「終わったんです。一年戦争がそうだったように」

「……敗戦、したのね。連邦も、私も」

「ええ、もうあなたの戦争は終わりだ」

 

 だから、俺が終わらせる。

 もう二度とモビルスーツでは戦えないのだと、兵士としてのシイコ・スガイをここで殺す。

 でも──シイコさんが敗戦という形で終戦を迎えたことを、俺は悪いと思わない。

 

「まあ、次の戦争が待ってますけど」

「……次?」

「そうですよ。旦那さんとお子さんがいらっしゃるんでしょう」

 

 そう、そうだ。

 人生は常に戦いの連続だ。

 確かに二度の敗戦は大きな痛手だが、だからと言って立ち止まることも許されない。

 きっと、そういう積み重ねこそが生きることであり。

 

「生きる方が戦いだって、偉い人が言ってましたよ」

 

 まあ、他人の受け売りだけども。

 しかし受け売りにしたくなるくらい良い言葉だ──特に軽率に戦争やら紛争やらが発生し、軽々しく人が死んでいくこの世界では。

 安易な死より生きることの方が余程難しいからこそ、とても有り難く思える金言だった。

 そうして一足先に終戦を迎えた戦士に背を向け、病室を去ろうとすると──「ねえ」と声をかけられた。

 

 

「キミの戦いは、何時まで続くのかしら」

 

 

 何時まで。

 確かに、悩ましい話だ。

 本来の宇宙世紀であったなら、マフティーの動乱が終結する頃までにはモビルスーツ乗りを引退していたい気持ちが強かったが──何しろ、ここはジオンが一年戦争に勝利した異端の歴史。

 何時何処で戦争が起きるかなんて、とても予想が付かない。

 で、あるならば──かなりこっ恥ずかしいが、やはりこう言うしかないのだろう。

 

 

 

「──まあ……命ある限り、ですかね」

 

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 言えることは、全部言った。

 これでも戻ってきてしまうのなら、最早打つ手はないだろう──短い付き合いだが、シイコさんはそこまで捨て鉢になるような人ではないと信じたい。

 完全に敗北した上、たとえまたモビルスーツに乗ってもマトモな戦いにならないと知れば、何とか折り合いは付けられる筈だ。

 何せ、彼女には帰りを待つ家族がいるのだから。

 

 それに、これは俺の極めて個人的かつ楽観的な考えになるが──シイコさんは今回のクランバトルで何かを喪った訳ではない、と俺は思う。

 前作の主人公が「進めば二つ、逃げれば一つ」と言っていたように、彼女は過去の幻像を消し去ろうと戦い、そして「敗戦」という確かな結果を得た。

 かなり強引で、その上望んでいた形とは異なるだろうが、間違いなく彼女の戦争は終結したのだ。

 後はシイコさんが望みさえすれば、普通の人として過去と決別する日も訪れるだろう。

 

「あー……」

 

 そんな感傷に浸りながら、俺はガンダムの上でシュウジとニャアンと一緒にぼんやりと涼んでいた。

 

「えっと、マチュは……?」

「この時間帯なら、多分学校だろう。何だかんだアイツもそろそろ進学考える時期だからな」

「そっか……てっきり、仲違いしたのかと」

「まさか。単にお互い忙しくてまだ話してないだけだよ」

 

 コックピットの向こう側から心配そうな声を上げるニャアンに返しながら、意図して彼女の疑問を明るく笑い飛ばす。

 嘘は言っていないが、本当のことも言っていない。

 そう、マチュ──アマテには悪いことをした。

 急に敵対して、一方的な試し行為に巻き込んで──切り抜けるだろうという確信があったとは言え、明らかにクランバトルの目的から逸脱した攻撃まで仕掛けてしまった。

 その上、突然協力してガンダムに突撃しろと来た。

 きっと、とても怖い思いをしただろう。

 終わったことを悔やんでも仕方ないのは百も承知だが、せめて事前に何かしらの説明くらいしておくんだった、と思わずにはいられない。

 

 だが、どう言えば良かったのだろう。

 こうして事が済んだ後なら上手く語れるとは思う。

 しかし戦う前の俺が捻り出したのは「ガンダムに恨みがある人と組んだからよろしく」とか「殺す気で行くから頑張れ」みたいな逆に混乱させるような言葉ばかりで、とてもアマテを納得させられるとは思えなかった。

 要するに、自分の語彙の貧弱さから彼女に不義理を働いたのだ。

 そういう後ろめたさから、クランバトルが終わって数日が経った今も忙しさを口実にして顔を会わすことが出来ずにいた。

 とは言え、だ。

 やはり言うべきことは早めに言っておくに越したことはない訳で。

 

「シュウジ」

「うん?」

「この間は悪かった」

 

 コックピットハッチに寝そべるシュウジに、のそのそと起き上がった俺は頭を下げる。

 

「……何が?」

「クラバの最後、マチュを唆して体当たりしちゃったろ」

「あぁ……」

 

 そう、シュウジがシイコさんを殺害しようとしたのは事実だが、そこに彼の非はない。

 元々クランバトルは非合法のイベントであるが故に人死にが出ても問題にはならないし、シイコさんの戦いは完全にガンダムを殺すことしか考えておらず──恐らく、ゲルググの頭部を破壊しただけでは止まらなかっただろう。

 だから彼が反撃としてコックピットを狙ったのはやむを得ない行為であり、単なる自衛だ。

 それに個人的な感情から横槍を入れ──そのためにMAVであるマチュを唆すなんて、不愉快な行為と受け止められても仕方がない。

 だが、赤い瞳の彼は然して気にも留めていないようだった。

 

「特に、気にしてはいないかな」

「そうなの?」

「ああいうMAVの形もある、とガンダムが言っている」

 

 そういう、ものなのか。

 そうやって、割り切れてしまうものなのか。

 だとするなら──コックピットの向こうのニャアンと顔を見合わせるも、もうシュウジはべったりとうつ伏せになって金属の冷気を堪能していて、話題に頓着する様子はない。

 彼が何を考えているのか分かった試しはないが、ここまで明確に意思表示をする以上本当に気にしていないのだろう。

 色々と腑に落ちない部分はあるが、他ならぬ彼がそう言うのならこちらも何も言うまい。

 というか、だ。

 

「ここ、そんなに暑いか……?」

「ええ~?」

 

 そもそも、何だってガンダムの上に寝そべりながら話をしているのか。

 確かにガンダムの表面はひんやりして気持ち良いが、そもそもこの隠れ家自体打ちっぱなしでかなり冷え冷えとした空間だ。

 何か運動した後なら兎も角、普通に過ごすなら長袖の上着があって丁度良いくらいだと思うのだが──タンクトップ一枚のシュウジが汗だくというのは、どうにもおかしい。

 

「……よし、コンチ。ちょっと測ってみろ」

『────』

 

 シュウジが連れている箱型の四足歩行ロボット──コンチが機械音を立てながらトテトテと歩み寄り、どこか火照った様子の彼の額にアームをピタリと押し当てる。

 そのまま、固唾を飲んで見守ること約五秒。

 パカッと開いたコンチのモニターに映し出されたのは、「38.9度」の文字。

 これはつまり────

 

 

「……風邪じゃん」

「えっ、シュウちゃん風邪引いたの?」

「そうかなぁ~」

 

 

 普段ああだこうだ言っているらしい癖に、シュウジの健康には何も言わなかったのか。

 そんな非難の意思を込めてガンダムを見詰めてみるも、所詮なりそこないでしかない俺には、そこにいるらしい彼の声は聞こえなかった。

 

 

 

▲▼▲▼▲

 

 

 

 先日のクランバトルが終わってから、どうにもモヤモヤしたものが頭の中に留まって仕方がない。

 それはミカボシが一言も無く敵対したことへの怒りからか、それともシュウジが何の躊躇もなくシイコを殺そうとしたことへのショックか、はたまたコックピットに収容したシイコの無惨な姿に対する怯えか──マチュ自身にも分からない。

 ただ、このような明確な回答のない問題にぶち当たると延々悩み続ける性分なのは自覚していて──だからこそ、日常生活だけは普通に過ごそう、と決めていたのに。

 

「もう……なに急に……」

 

 ポコン、ポコン、と間の抜けた通知音と共に次々届くメッセージは、ミカボシからのもの。

 学校からの帰り際、ノーマルスーツの洗濯のためコインランドリーへ行こうとしていたら、これだ──何だかお互い気まずいし、忙しそうだからと話すのを後回しにしていた筈なのに、向こうは何でもないかのように呼びつけてくる。

 そういう割り切りの良さというか、大人の達観のようなものがマチュは苦手で仕方なかった。

 母、タマキにしてもそうだ──どこか偽物にも思える、退屈で閉塞感のある日常の中でどうして確固とした自分を定め、「大人」として振舞えるのか不思議で仕方ない。

 とてもじゃないけれど、自分があんな存在になれる気がしない。

 だから未だに進路希望は「クラゲ」のままだ。

 

「シュウジが風邪、ねぇ……?」

 

 それでむしゃくしゃしつつもメッセージを見てみれば、シュウジが風邪を引いたから色々買ってこいと来る。

 これがまた、カチンとさせるのだ。

 

(なんで私より先にシュウジのところに行くのさ……)

 

 シュウジのところに行くくらいなら、普通先に自分の方に来るだろう──何と言っても、隣家なんだから。

 それをどうして重いマンホールの蓋を開け、長い鉄梯子を下り、狭くて暗い通路を進んでやっと辿り着けるような隠れ家の方を優先するのか。

 それでもって、シュウジとミカボシがいるなら当然ニャアンもいるだろう。

 何時結んだ縁なのかは知らないが、彼はやたらニャアンを気にかけているようだったから、今回も呼んでいるに決まっている。

 要するに──誰もそんなことは意図していないとは言え、マチュは一人だけ仲間外れにされたのだ。

 

「皆いい気になっちゃってさ……」

 

 こうなると、いよいよ腹の虫の居所が悪くなってくる。

 ただでさえ、この非日常の世界で自分一人だけが置いてきぼりというのはどうにも我慢ならないことだ。

 しかも自分に窓の外は確かにあると教えてくれた青年と、キラキラを共に体感出来る少年が揃って自分を無視するのは、マチュのまだ成熟していない精神を大いに──それはもう大いに刺激した。

 

「風邪引き虫、いるかー」

 

 両手はミカボシに頼まれた荷物で一杯で、重厚な扉を開けることは出来ない。

 そんな訳で、ハッチの前にやって来たマチュは普段より心なしトーンの低い声で中の薄情者たちに呼び掛けた。

 の、だが────

 

「おっ、来たな────」

 

 勢い良く扉を開けたミカボシは、心なしか普段より明るい顔をしていて。

 

 

「次のクラバ、一緒に出るぞ」

「へっ────?」

 

 

 投げ掛けられた言葉は、全く想定外のもので。

 けれど、此処に至るまでの鬱屈とした感情なんて一瞬で吹き飛んでしまうくらい、嬉しかった。

 それなのに────

 

 

 

(……なん、で)

 

 

 

 

 見知らぬ──でも何か見覚えがある男に連れられて入ったロッカーの中。

 軍警から隠れるために潜んだそこで彼から見せられたクラバのライブ映像には、自分以外が乗るジークアクスの姿があった。




◯ミカボシ・ツヅラ
勝利者などいない戦いに疲れ果てる系ニュータイプのなりそこない。
シイコさんの戦争にトドメを刺す役割を買って出た…も自分の痛い所を突かれて逆にメンタルダメージを受けた。
なので若い子供の活発なエネルギーを浴びてメンタルケアを図る。

◯アマテ・ユズリハ
何かクラバ後から全然ミカボシと話出来ないし、シュウジはガチで人を殺しに行ってるしでメンタルが滅茶苦茶になっていた…ところを一緒にクラバ出場することになってメンタル復活。
なのだが五話の通りになるので二連続メンタル破壊を食らう。
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