最早全てが自分の手から零れ落ちようとしている、とマチュは思った。
自分に、シュウジのように躊躇いなく人を殺す覚悟はない。
ニャアンはオメガサイコミュを機動させ、彼の隣に立った。
そしてミカボシは──自分を歯牙にもかけていなかった。
──特別、どころの話ではない。
あの三人が当たり前のように備えているものを、自分だけが持ち合わせていなかった。
特別でもなければ、普通でもない──それ以下の何かであることを、マチュはあのロッカーの中で嫌というほど思い知らされた。
所詮は、一時の非日常に浮かれていた自分の思い上がりでしかなかったのだ。
そんなだから、数日経った今もロッカーを飛び出した後のことを悪い白昼夢のようにしか感じられずにいる──コックピットから出てきたニャアンのどこかサッパリしたような雰囲気も、そんな彼女に心無い言葉をぶつけてしまった自分自身も、何もかも。
(……謝らなきゃ)
ニャアンが悪くないことくらい、マチュだって分かっている。
寧ろ大量の違約金でこれまで稼いできた分が帳消しになってしまうのを防ぐため、決死の覚悟で自分の代わりにジークアクスに乗り込んだのだろう。
途中まで形状が変わらなかったのを見る限り、操縦するのにも相当苦労した筈だ。
その戦いを労いこそすれ、「ミカボシの隣で戦う機会を奪われたから」なんて理由で責めるなんて、控えめに言ってどうかしている。
──そう、どうかしていたのだ
衝撃的な出来事の連続で、気が動転していた。
ジークアクスを自分以外の誰かが乗っていた状況に、動揺していた。
ミカボシが見せる想像以上に苛烈な戦い方に、驚愕を隠せなかった────
──本当に?
本当に、それだけと言えるのか。
狭く暗いロッカーの中で渦巻いていたものは、本当にただの動揺だと言い切れるのか。
本当は、羨んでいたのではないのか。
ミカボシの隣に立ち、オメガサイコミュを起動し──黒い三連星なるエースすら倒したニャアンを。
ただ「ジークアクスに乗れる」点だけが自分の特色だったのに、それすら奪っていったニャアンを。
やがてはシュウジの隣にも立つであろうニャアンを、心の底から強く妬んでいた──そうではないのか。
(……分かんないよ、そんなの)
いくら考えたところで、答えは出なかった。
寧ろ思い返せば思い返すだけ醜い部分が露呈するようで──様々な感情が自分の中で混ざり合って重くのしかかり、得体の知れない気怠さとなってマチュの全身を苛む。
マチュの多感な心には、この問題はあまりにも重く、刺激が強過ぎる。
本来はもっと時間をかけて噛み砕くべき衝撃を一度にぶつけられた彼女の精神は、極めて危うい状態に追い込まれてしまっていたのだ。
けれど、動かなければ。
会って話をしなければ、何も変わらない。
謝ることも、抱えたどろどろとした感情をどうにかすることも出来やしないのだ。
そんな風に普通は尻込みしてしまうところを即決するその行動力は、やはり彼女の美徳であり。
何時ものように長い鉄梯子を降りてシュウジの隠れ家を訪れたマチュは、重い鉄扉に手をかけ──中から聞こえてきた話し声に、思わずピタリと硬直した。
「しかし、よくあんな戦えたなぁ。黒い三連星に勝つなんて大金星だぞ」
「そ、そんな……こう、カッとなるとわけわかになっちゃうだけで……ミカボシ、さんも呼び捨てにしちゃったし……」
「別にいいって呼び捨てで。俺、『さん』付けされるほど出来た人間でもないし……それに、ああ言うのもありなんじゃないか?シュウジもそう思うだろ?」
「ありのままでいい、とガンダムが言っている」
「だろ〜」
ミカボシとニャアン──それに、シュウジ。
いつもの、と呼べる面子が、当然ながらいつものように集まっている。
普段なら、そこにマチュも入って行くのだ──「元気か腹減り虫ー?」なんておどけた調子で、両手に食べ物が沢山入った袋を携えて。
だが、何故か今日に限ってそれが出来ない。
扉のレバーに手をかけたまま、不思議そうに目を点滅させるハロに見上げられたまま、まるで金縛りにでもあったように身体が動かない。
先のクランバトルを経て更に距離が縮まった三人に強い疎外感を覚えたのか、それとも────
「これで、二人にマチュを任せられる」
──やっぱり、そうだ
最初から何かおかしいと思っていた。
最近は薄れつつあるイメージかもしれないが、ミカボシは基本的に寡黙で口下手だ。
会話を繋げるのが下手くそというか、話している内に気付くと一問一答形式になってしまうというか──当人の気質もあって、兎に角喋るのがそんなに上手くない。
それでも彼なりに話そうとしてくれるのが隠れた魅力だとマチュは思っているが。
だが、そんなミカボシがやたらと饒舌だったり、軽口を叩いたりするのは、深刻な話題や悩みを抱えているサインと決まっている。
そして、それは今回も例外ではなく──マチュは強い憤りに自身の腸が煮えるのを感じ取った。
(なんで、そんなことを言うのさ……!)
ギリギリ、とレバーを掴む手に力が籠る。
本当なら、今すぐ飛び込んで行って何故そんなことを言うのか問い質してやりたかった。
けれど、そうしたら彼はきっとマトモに答えてはくれないだろう。
何せミカボシは、秘密主義者──自分に対して嘘は吐かないが、ジオンの兵士だったことを黙っていたり、クランバトルに参加していたことを隠したりする筋金入りの曲者だ。
マチュが問い詰めたところで、適当にはぐらかすのは目に見えている。
「えっ……?どうして急に、そんなことを……」
幸いにもニャアンもマチュと同じ疑問を抱いたようで、マチュが心の中で呟いたことをそのまま口に出してくれる。
そうして理由を問われたミカボシは、暫くの間沈黙し──やがて、諦めたように口を開いた。
「……グライダー買って、地球に行くんだろ?」
「──悪いけど、俺は反対だからさ」
それは、あまりにも強い衝撃だった。
まるで金槌で後頭部をぶん殴られたかのような、鈍く重い衝撃がマチュの全身を突き抜けた。
(……なんで)
ここ最近何度も繰り返された問いが、またしてもマチュを襲う。
当たり前のように、賛成してくれるものだと思っていた。
これまでそうだったように四人で地球に降りて、四人で薔薇とやらを探して──海を見に行くのだと、信じていた。
それなのに、何故。
「どうして?」
「まあ、シュウジは行けばいいと思う。シャロンの薔薇……だっけ?そのためなら全てを擲つ覚悟が、お前にはある」
「ニャアンも、選択次第だ。正直闇バイトもそろそろ限界だろうし、摘発される前に地球に逃れるのも一つの選択肢としてはありだろう……まあ、あんまりオススメしないけど」
「でも、アイツにはそれがない。二人には悪いけど、マチュは何も命を賭けなくたって生きていける……恵まれてるんだ」
言われて、気付く。
ミカボシの言う通り、シュウジにはシャロンの薔薇を探すという明確な目的がある。
ニャアンも、軍警に捕らえられない内に新しい生活の場を探す明確な必要がある。
だが、それに対して、自分はどうだろうか。
地球に行くだけの強固な理由も必要もない。
ただスペースコロニーの閉塞感から逃れたくて、地球の海を泳ぎたくて──それだけでしかない。
反論を思い浮かべようとしても、言葉一つ出てこなかった。
「……でも、俺はそれでいいと思う」
「それでいい……?」
「特別じゃなくても、平凡でも、それでいい。その方がいい」
なのに、そんな自分をミカボシは肯定する。
未だ何者でもなく、何者にもなれない自分を、ただそれでいいのだと彼は言う。
そこには、軽率に「違う」とは言えない実感が込められていて──余計それが、マチュを反発させる。
「……そんな訳ない」
未熟で、直情的なマチュには平凡を許容出来る理由が分からない。
何故なら、平凡を愛すべきだと語るミカボシこそマチュから──アマテ・ユズリハからすると最も平凡からかけ離れた存在だからだ。
だって、アマテに宇宙の広さを教えてくれたのは彼なのだ。
少なくともシュウジが現れるまでミカボシこそが日常と非日常を繋ぐ窓であり、彼の言葉によってのみ特別な世界を知ることが出来た。
なのに、それを他ならぬミカボシ自身が否定するなら──一体、彼が生きる世界とは何なのか。
「俺はキラキラを見たことがない。けど、キラキラが『何』なのか多少は知ってる」
「何故?」
「なんでって、シュウジ。そりゃあ、俺は
「なり、そこない?」
「そう、ジオンに居た頃にね。雀の涙ほどの能力を引き出すために……あ、これマチュに言わないでくれよ。余計な心配をかけたくない」
息を呑む、気配があった。
いつも鷹揚としてマイペースなシュウジすら、この時ばかりは思わず口を噤んだ様子だった。
そして、それはアマテも同じだった。
(何それ……何なの、それ?)
聞いてない。
そんなの、聞いていない。
けれど、隠すには十分値する話で──何故彼がアマテより幼い頃からジオン軍に居たのかという理由になる。
そう、ミカボシはジオンで何かしらの実験体として扱われ、戦争が済んだからと無責任にも放り出されたのだ。
そしてもし、これが事実だとするならば。
今までアマテに話してくれていた宇宙の自由さ、非日常の世界は──彼にとって、汚泥の中から宝石の欠片を探し当てるようなものではないのか。
彼にそれをさせたのは、他ならぬ自分ではないのか。
「嘘、だよ……」
『マチュ、ダイジョウブカ?ダイジョウブカ?』
あまりの衝撃に──アマテは、ずるずるとその場に崩れ落ちた。
鉄扉に体を預け、レバーを両手で掴んでいなければ己の体重を支えることさえ難しく感じられ、身を案じるハロの声さえどこか遠くのものに感じられた。
けれど、そんな彼女を置いて話は進み続ける。
「だから、マチュにはあんまりそういう世界に来て欲しくないって言うか……もしそっちの方が本当は良いことだったとしても、止めたくなると思う」
「だったら……それをちゃんと言ってあげた方が、いいんじゃ……」
「いや、うん……本当にニャアンの言う通りなんだけど、どうにもな……」
それは、そうだ。
地獄のような世界を生きる彼なら、そうするに決まっている。
──でも
ふと、アマテは思った。
なんでそこまで、してくれるのだろう。
彼と自分の付き合いは長いが、関係性は最大限好意的に見積もっても仲の良い隣人止まりだろう。
なのに、どうしてそこまで必死になって──それこそクランバトルで敵に回ったり、そうならなかったとは言え一緒に戦おうとまでしてくれるのだろうか。
そんな思考が頭を過ったアマテに、シュウジの声が飛び込んでくる。
「何だか、親みたいだ」
「え゛っ……!?」
「シュウちゃん……?」
──そう、なんだ
今思い付いたと、言わんばかりの声音はミカボシとニャアンを驚かせ──しかし、アマテの腹にはすとんと落ちるものがあった。
どうやら、自分は思ってる以上に他者から強く想われているらしい、と知ったのだ。
そしてそれはシュウジが言う通り、親──つまりタマキもきっとそうであるに違いない。
だから、あんなに小うるさいのだ。
心配で心配で仕方ないから、理屈以上に想うから、衝突するのだと。
それならば──尚更今は、此処にいるべきではない。
「……っ、しょっと」
レバーから手を放し、自分の力でアマテはゆっくりと立ち上がる。
『イカナイノカ?』
「うん……今は、行かない」
ハロの問い掛けにに、アマテは声を張ってしっかりと答える。
確かにニャアンに謝るべきで、ミカボシと話すべきだ──それでも、より優先すべき事柄が今のアマテにはあった。
「……先ずは、お母さんと話さないと」
幸いにも、明日は進路相談の日だ。
最初に向き合うべき相手は、そこにいる。
全てが人と機械によって管理されるコロニー内に於いて、天候とは予定に従って操作される「もの」でしかない。
それは、「俺」とてよく承知している。
存在した地球とは異なる常識に戸惑いはしたが、五年も宇宙暮らしを続ければ誰だって慣れるだろう。
だが──この暑さは、何なのか。
仮にも四季という概念を設定しておきながら、10月も後半に三十度を超えるとは──しかも湿度まで結構ある。
この無茶苦茶振りから考えるに、どうやらコロニーの気候管理者は季節というものにまるで頓着がないらしい。
そんな訳で、外縁部に比較的近く、打ちっぱなしなのもあってひんやりとしたシュウジの隠れ家を出た俺は、たちまちうだるような熱気にやられてしまっていた。
されど、今日は折角の休日で。
リフレッシュも兼ねて少し散歩でもしてから帰るか、と近場の公園に足を伸ばしてみたのだが──これが、非常に良くなかった。
「ほら、買ってきたぞ。溶ける前にさっさと食べよう」
「うん、ありがとう……つめた」
コンビニで買ってきたアイスクリームのカップを差し出せば、伸びてきたのは触れれば折れてしまいそうなほど細い手で──受け取った彼女は包装を手早く破ると、その小さな口にスプーンを運び始める。
見れば見るほど不健康そうな、痩せっぽちで小柄な少女──だが、俺は彼女に見覚えがある。
「こないだの子供だろ。どうやって此処まで来た」
「適当に歩いてれば、キミに会えるかなって」
「そっかー……」
そう、先のクランバトルの撤収時、理屈を超えて目が合ってしまったあの少女だ。
どういう訳か知らないが、その彼女が俺の前に姿を表し──この熱気にやられたのか、ふらふらと足元が覚束無いまま歩いていたのである。
流石に、ここまでされて分からない俺ではない。
──この少女は「流れ」に関わる人物だ
それも多分、マチュとかとニュータイプ周りで深く関わるタイプの。
尤も、現状敵か味方かは知らないが──でなければ、素質としては搾りカスレベルの俺と感応したりする訳がない。
それでもって、呼吸器らしきものを外して苦しそうにしているなら流石に助けに入らざるを得なかった、というのがここまでの流れだ。
──まあ、いい
何かが起こる前に「流れ」に関する人物と接触出来たのは不幸中の幸いだ。
完全にノーマークだったシイコさんと違って、こちらにも多少心の備えがある。
何なら、早くも溶け始めたアイスクリームを食べるような余裕だって。
因みに、味はビターチョコ──普段はオーソドックスなバニラ味ばかり食べているから、たまには味変してみようと思ったのだが、これが中々当たりだった。
「で、名前は?」
そうして、お互い黙々とスプーンを口に運び続けること数分、カップの底が見え始めた俺は──訊くべきことを訊いてみることにした。
「ドゥー。ドゥー・ムラサメ」
──マジか
そう来たか。
というかこの世界にもあるのか、ムラサメ研。
それで、そのムラサメ研の名前を冠した少女が此処にいる、ということは──つまり、そういうこと。
このドゥーという子供は強化人間で、中立コロニーであるイズマで何かろくでもないことをしでかそうとしているのだ。
候補として真っ先に思い付くのはG3ガスか、モビルスーツを直接投入しての虐殺だが──そうだとして、何故俺に会いに来たのか。
そう問えば、彼女は不思議そうに首を傾げてから宣った。
「ミカボシは、僕と同じだと思ったから」
「同じ……?強化人間なのが、か?」
確かに、程度こそ違えど人体実験の被験者として体を弄られたというのであれば「同じ」かもしれなかった。
だが、ドゥーが言いたいのはそうではないらしい。
ふるふると首を横に振って、俺の胸に人差し指をトンと置く。
「此処にある体はただの心臓で、本当のカラダはモビルスーツ……違う?」
「それは……」
「モビルスーツに乗ってる時の方が、キラキラしているんじゃない?」
即座に否定は出来なかった。
確かに、俺たちは自分の分身と言っていいほどのチューンをギャンに施している。
マトモに見向きもされないまま放り捨てられた境遇にシンパシーを感じ、「こいつでジークアクスはやっていこう」と決めるくらい深くギャンに入れ込んでいる。
そういう視点からすれば、ドゥーの言うように俺ははギャンを構成する最も重要なパーツ──心臓、なのかもしれない。
「……いや、違うな」
「?どうして?」
だが、違う。
確かに最早ギャンと俺は不可分の存在なのかもしれないが、あのモビルスーツは俺の本当のカラダではない。
極めて簡単な話として、俺はそれを否定することが出来る。
「もし俺が本当にモビルスーツの心臓でこの体がただの容れ物なら、こんな所でドゥーとアイスを食べることもなかっただろ」
「……」
「お互いこうして話をすることもなかったし、会うなら戦場だったんじゃないか」
そう、ただ機械のパーツであるならばこんな場所でのんびりとアイスを食べている訳がない。
それにアマテの一挙手一投足に気を揉んだり、ああでもないこうでもないと右往左往したりする必要もない。
そういう楽しさや艱難辛苦があるからこそ「俺」という存在は生きているのであって──彼女の言葉を借りるなら「どっちも本当のカラダ」なのだと俺は考えている。
等とそれらしいことを思っていると……不意にドゥーが「あ」と残念そうな声を上げた。
「どうした?」
「アイス、食べきっちゃった……」
余程暑さが堪えていたのだろう──見れば、ドゥーがその小さな手で持つカップの中身は既に空っぽになってしまっていた。
だが、まだ食べ足りないのか何とも言えない表情で視線を彷徨わせている。
対して、俺のカップにはまだ少しだけれど中身が残っていて──取り敢えずスプーンで一掬いして、差し出してみた。
「ほら」
「ん……うわ、にが……」
「だろうな。それが良いんだ」
「何それ……もう一口。うわ、やっぱり苦い」
苦い、苦いと言いつつもドゥーは食べ続ける。
何だか餌付けをしているような気分になってきた俺もアイスを掬う手を止められず──ふと、コートの内の冷たい感触を思い出す。
けれど、思い出しただけでそれに触る気にはなれなかった。
(──やっぱり、撃てないか)
マチュの事然り、どちらが正しいかなんて一目瞭然なのに──とことん甘い人間だ、俺は。
それでも、今この一瞬は。
久方ぶりにクランバトルも何も忘れ、無垢な少女と過ごすひと時は……言葉にし難い安心感に満たされていた。
呼吸器を装着し、夕方の冷え始めた空気に身を曝す。
(……やっぱり、息苦しい)
口にはまだアイスの苦味が少し残っていて、痩せぎすと言ってもいいほど華奢な身体には寒暖差がよく染みる。
ミカボシは肉体の不便さを楽しんでいるようであったが、やはりドゥーにとって身体とは己を不自由に縛り付ける肉袋でしかなかった。
(……でも)
だが、それ故に出逢ったのだと彼は言う。
モビルスーツの心臓ではなく、ひとりの人間として行動したから共にアイスを食べ、会話をしたのだと。
それは強化人間として造られ、サイコガンダムを動かすことが存在意義であるとされるドゥーとは、真っ向から反する考えだ。
そしてムラサメ研によって自身こそが進化した人類の優良種──ニュータイプだと刷り込まれたドゥー自身も、本能的に拒絶してしまう思想だった。
ただ、人生で初めて食べたアイスクリームは信じられないほどまろやかな口当たりで。
次に食べたビターチョコのアイスは、驚くほど苦くて──彼からそれを教えられるためにふらふらと外を出歩いていたとするならば、不思議と悪くないことのように思えた。
それに、だ。
ミカボシは全く気付いていないようだったが──ドゥーは無意識に彼の心に感応していた。
(……あんなキラキラ、あるんだ)
黒と白だけで構成された、まるで西暦時代の古いテレビのような二色の奔流。
どこまでも冷たくて、無機質で、擦りきれていて──でも、その最奥に温かい何かがある。
自分のそれとも、他の「ムラサメ」とも異なる、全く未知のキラキラ。
もしそれが自分のキラキラと交ざり合ったら──一体、どうなってしまうのだろう。
兎に角、彼に対する興味が尽きない。
「……明日が楽しみだなぁ」
明日は、五年振りにグラナダを離れたキシリアの暗殺を決行する日。
で、あれば来るだろう──ミカボシ・ツヅラはあの灰と菫のモビルスーツを駆って、必ず自分の前に現れる。
強化人間としての直感が、そう告げている。
「…ふふ」
ドゥー・ムラサメはその瞬間が楽しみで仕方なかった。
○アマテ・ユズリハ
キラキラに夢中で直情的な「クランバトルのマチュ」から、優れた決断力と理不尽に反発する「アマテ・ユズリハ」へと回帰した。
平たく言うと数々のメンタルダメージと脳破壊から立ち直ったことで固く粘り強い信念を得たので、本編より自分を振り返る機会が多くより他者を慮るようになった。
最早余程のことがなければメンタルダメージは受けない超イズマ人の誕生である。
良くも悪くもミカボシという存在が三人組と一緒にいるので本編ほど恋愛色は強くない(シュウジへの好意自体は据え置き)。
○ミカボシ・ツヅラ
弱音を子供に漏らすクッソ情けないニュータイプのなりそこない。
ドゥーが何かしでかすんだろうな、と思いつつもモビルスーツに乗ってなければ銃も抜けないし、やっぱりアマテには安全な所にいて欲しい甘ちゃん。
「本当はモビルスーツに自分自身を置いてるんじゃないの?」という指摘には多少共感するが、それだとアマテと話すこともなかったのでその主張には否定的。
○ドゥー・ムラサメ
このキラキラおもしれ~!
同類っぽいと思ってた人は違うらしいけどそれはそれとしてこいつのキラキラおもしれ~!