どうするGQuuuuuuX   作:イナバの書き置き

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アマテ・ユズリハのリベリオン/コロニー・アタック

 バン、と音が鳴るほど勢い良く扉を引けば、年配の教師に向いていた視線がこちらに傾く。

 思ったより熱く、それでいて冷えた瞳──だが、そんなのはどうでもいい。

 

「アマテ!一体どういうことなの!?」

「お母さん……待ってたよ」

「待ってたって……」

 

 怒声と共に飛び込んだ教室で待ち受ける娘は、予想外に落ち着いた様子だった。

 何も知らなかった訳でも、自棄になって開き直っている訳でもない──状況を素直に受け入れ、その上で自分と対峙しようとしている。

 その真っ直ぐな瞳に、タマキ・ユズリハは一瞬で気勢を削がれかけていた。

 だが、ここで引き下がる訳にはいかない──何せアマテは、もういい加減に進路を決めなければいけないこの時期に、殆ど塾へ行っていなかったのだから。

 

「ここ最近全然塾に行ってないじゃない!こんな有り様で、お父さんに何て言えばいいの……!?」

 

 そう、何と言って夫に詫びれば良いのか。

 会計局に勤める自分よりも更に数段忙しく、外交官として文字通り身を粉にするような勢いで働く彼に、娘の非行をどう説明すれば良いのかタマキには分からなかった。

 監督不行き届き?自主性に任せた結果?──どちらにせよ、親としてのタマキが娘に全く響いていない事実は変わらない。

 それで自分が恥をかくだけならまだいい。

 けれど、もしこのままアマテの進学すら儘ならなかったとしたら彼にどう詫びればいいのか、タマキには見当すら付かなかった。

 

「お母さん、聞いて」

 

 だが、アマテの声色が変わることはなかった。

 怯えることも、反発することもない。

 ただ静かに──思いの丈を打ち明ける。

 

「お母さん……確かに私、お母さんに言ったらきっと凄く怒られるようなこと、してるよ」

「アマテ……!」

「でも、自分に恥ずかしいことは絶対にしてない。これは言い切れる」

 

 そう強く断言するアマテに、思わず瞠目して。

 次の瞬間、タマキの目の前には頭を下げる娘の姿があった──思春期真っ只中で、親への反発心も多分に燻らせていたアマテが、自分に向かって頭を下げていた。

 

「お願い、お母さん……終わったら全部説明するし、塾の遅れも取り戻す。まだ思い付かないけど、進路だってちゃんと考える。だから────」

 

「──だから、あと一日だけ私に時間を下さい。お願い、します」

 

 それはタマキが十七年間見守ってきた中で初めて目撃する、アマテが懇願する姿だった。

 生きるには何一つとして不自由なく、これまで目立った不満も口にすることがなかった娘が──慣れない敬語を使ってまで、親に向かって「時間を下さい」と頼み込んでいた。

 それほど真剣に──この時期の学業より優先するほど、アマテは必死に何かに取り組もうとしているのだ。

 

「……」

 

 そうだとして、親がすべきはなにか。

 タマキは暫し悩んだ。

 下げられたままの赤い後頭部と、欠席の印が沢山付けられた出席票を見比べ、どちらが正しいのか頭を巡らせた。

 その、果てに────

 

「先生、面談の日程をずらして頂くことは可能ですか?」

「えぇ?まあ……はい。数日くらいなら、問題ないかと」

「そうですか、ありがとうございます……アマテ」

 

 少し困惑した様子の老教師に礼を言いつつ、頭を下げたままの娘へと向き直る。

 そうして、彼女の肩を両手で掴み──囁く。

 

「絶対に、怪我はしないこと。いいわね」

「うん……うん!ありがとう、お母さん!」

 

 勢い良く跳ね上がったアマテは、満面の笑みでタマキに抱き付く。

 相変わらず小柄な、子供そのものな肉体──けれど、そこに秘められたエネルギーは、タマキが知っている娘の何倍にも思えて。

 その爆発的なバイタリティに呆気に取られている内にアマテは体を離し、椅子に掛けていたリュックをひっ掴んで走り出していた。

 

 

「──行ってきます!」

 

 

 今しがた自分が入ってきた扉から脇目も振らず飛び出していく娘の姿は、まるで嵐のよう。

 そうして取り残されたタマキと老教師は、暫し顔を見合せ──やがて、お互いに苦笑した。

 

「まったく……最近の若者は凄いですね」

「ええ、本当に……御迷惑をおかけしてしまって、申し訳ありません」

「いぃえ。私にだって、ヤンチャな時期がありましたから。ああいうのが、若者の特権というものなのでしょう」

 

 違いない、本当に。

 久方振りに見た娘の満面の笑みに、タマキは溜め息を吐きつつも何か温かいものが胸を満たすのを感じていた。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「アンキーが、シュウジの居場所を軍警に売ろうとしてる……私が尾けられたんだ」

「だろうな」

「……そろそろかなって、私も思ってた」

 

 呼び出された神社の中、対面するなりアマテから飛び出した発言に、しかし俺は驚かなかった。

 隣に立つニャアンもだ。

 何せ赤いガンダムの行動は目立ち過ぎる。

 幾度も軍警を退けたあのモビルスーツは、今や彼らから目の敵にされており──呼び出せる伝手を持ったヤツがいるなら、当然尾行するだろう。

 仮にも元兵士だった俺や闇バイトをやっていたニャアンなら兎も角、人生で一度も尾行されたことのないアマテに警戒しろと言うのは無理な話だ。

 と、すれば彼女は俺たちにシュウジを逃がす手伝いをさせたいのだろう──と考えていると、そんな予想を裏切ってアマテはその場で頭を下げた。

 

「ごめん、ニャアン……この前は酷いこと沢山言って」

「え……」

 

 これは、驚いた。

 アマテという跳ねっ返り娘は、青春真っ只中だからか、生来の気質なのか──兎に角ずけずけと物を言うし、あまり謝ることが得意ではない。

 決して謝る気がないのではなく、タイミングを窺っている内に機会を逃したり、言葉を選ぼうとして逆に上手くいかない──そういうタイプなのだ。

 

「正直、嫉妬してた。ジークアクスは私より上手く動かせるし、私より先にミカボシとMAV組むし」

「……」

「でも……私の代わりに戦ってくれてたのは事実だから。だから……ごめんなさい」

 

 そのアマテが、自ら頭を下げて謝っている。

 ニャアンとの間に何があったのか俺は知らないが、それでも己の非を認め──真摯に謝罪しようとしているのだ。

 それを成長と、進歩と言わずして何と言うのだろうか──たとえニャアンが彼女を許さなかったとしても、俺はその歩みを認めてやりたかった。

 そのニャアンは、暫し口をまごつかせ──やがて覚悟を決めたように、アマテと目線を合わせた。

 

「マチュは……シュウジが、好き?」

「好きだよ……ニャアンもでしょ」

「……うん。じゃあ、いい。許す」

 

 それだけだった。

 その短く、要領を得ないやり取りで二人の冷戦状態はあっという間に終わりを告げたようだった。

 つくづく、若い女の子の領域というのは不可思議なものである──このやり取りにどんな意味があったのか、さっぱり分からない。

 自分とてまだ二十歳なのだから若者に分類されている筈だが、前世と言うべき「俺」の積み重ねがあるからなのかその辺りには疎くて仕方がないのだ。

 だが、何はどうあれ蟠りが解けたのならそれ以上に喜ばしいことはないだろう。

 で、あれば次の問題だ。

 

「それで──三人で地球に行くのか?」

 

 あくまで自分は除外しつつ、二人に問う。

 今思い付く現実的な解決策と言えば、やはりこれしかないだろう。

 幸いなことにアマテが丁度良いグライダーを既に見繕っているらしいし、居場所をリークされると言うならその前に逃げ出してしまえば良いのだ。

 そうすればシュウジは地球でガンダムを探せるし、ニャアンも一先ず逮捕されることもなく、アマテだって夢だった地球の海を見に行ける。

 まさに一石三鳥という訳だ──だが、もしこの方針を取るなら俺は反対に回らざるを得ない。

 

(これ、以上は……)

 

 これまで、アマテを危険から遠ざけるチャンスは何度もあった。

 何が隠されているか分かったものではないジークアクスから降ろし、退屈だが平和な日常に戻す機会は沢山あった。

 だが、「流れ」を気にして中途半端な態度に徹し続けたのが俺の間違いだ。

 結局「物語通りに進めば危険はない」なんて甘ったれたことを考えていたから、こんな事態になってしまった。

 止めるなら、恐らくここが最後のチャンスだろう─────

 

 

「──私は、行かない」

「……は」

 

 

 思考が、止まった。

 

「私にはまだこのコロニーでやるべきことがある。だから、ニャアンはシュウジと先に行ってて」

「……いいの?」

「いいよ、後で絶対追い付くから。ニャアンこそ、ちゃんとシュウジの手綱握っててよ?あいつほっとくとすぐどっか行っちゃいそうだから」

 

 無理をしている様子もない。

 軽口を叩きつつも、心の底から「それでいい」と断言しきったアマテの表情は、俺が知るものよりずっと大人びていて────

 

 ──そうか、そうだったか

 

 男子三日会わざれば刮目して見よ、とはよく言うが女子だって勿論例外ではない。

 日常に鬱憤を募らせ、暴走しがちだったアマテはもうおらず──此処にいるのは、一存在としてコロニーの大地に強く立つアマテ・ユズリハなのだ。

 どうやら、俺が知らない間に彼女はすっかり成長を遂げていたらしい。

 で、あるならば。

 仮にも三年間見守ってきた身として、最後にしてやれることは────

 

「……よし、足りない分の金は任せろ」

「え、いいの?」

「何ハイトになるか知らんが、これでも貯蓄だけはそれなりにあるんだ。箪笥の肥やしにしとくくらいなら、未来ある若者に投資するね」

「ありがとう、ミカボシ……!何年かかっても必ず返す!」

 

 パッと花開いた笑顔は、相変わらず太陽のような明るさで──こういう朗らかさに救われてきたのだ、と改めて実感する。

 そう、アマテは太陽だ。

 たとえ何があっても輝き続け、生半可な悪意では穢せない強く逞しい魂の煌めきが彼女には宿っている。

 だからこそ、最後の最後で彼女の決意を阻もうとするものを俺は許さない。

 

「それで、アマテはこの後カネバンに行くんだろ?」

「うん、アンキーたちが逃げ出す前に預けてた分のお金を取りに行こうと思って」

「そっか……ならこれ、持ってけ」

 

 言って、俺はコートの内ポケットから「それ」──ジオンの制式採用拳銃ヴァルタP08を取り出し、彼女に差し出す。

 

「拳銃?」

「一応、な。事が済んだら返してくれ」

 

 意図して軽く言いながら、俺はおっかなびっくりと言った調子のアマテの手にそれを押し付けた。

 そう、こんなもの使わないに越したことはない。

 だが、カネバン有限公司にはアンキーがいる。

 他の連中は存外常識的というか、裏社会でやっていくには素直過ぎる性格をしているが──アイツだけはよく分からない。

 他が反対する中、アマテをクラバに引き込もうとしたのもあの女だ──何を知っているのか、何をしてくるのか把握出来ない以上、自衛の術を持たせておくに越した事はないだろう。

 ただ、やはりこれを持たせるなら言っておかなければならないことがある。

 

「賢く使え、とは言わない。俺も出来なかったから」

「うん」

「でも……使うなら、よく考えて使ってくれ」

「……分かった」

 

 拳銃を握る彼女の手に、自分のそれを重ねる。

 

 宇宙世紀は、地獄だ。

 

 どんなに清廉であろうとしても、気高くあろうとしても、世界の構造そのものが人の意志をへし折ろうとしてくる──だから、そんな理不尽に迫られた時に銃を撃ってしまうこと、それ自体を責める資格は俺にはない。

 だが、アマテの手が直接血に染まるようなことはできればあって欲しくない。

 武器を手渡しておきながら何を勝手な、と自分でも思うが、やはりそう願わずにはいられないのだ。

 

「無茶はするなよ、アマテ」

「ミカボシこそ……無理はしないでね」

 

 お互いに敢えて長くは語らない。

 ニュータイプだからではなく、単純にそれ以上は必要ないから。

 昔から、ずっと──無理に言葉を尽くさずとも最低限のやり取りで互いの想いが理解出来るから、俺とアマテが会話する時口数はそう多くなかった。

 そしてお互い、無茶を通さねばならないことも。

 

「マチュ、行こう……」

「うん、急がないと。もう時間がない」

 

 通じ合ったのも、一瞬。

 ニャアンの声に我に返ったアマテはパッと手を離し、銃を鞄に突っ込んで彼女と共に走り出す。

 そう、若者が往くのだ。

 先の見えない宇宙世紀で「それでも」と高らかに叫ぶ二人の少女が、新しい時代を切り開こうとしている。

 

 

「アマテ、ニャアン────()()()!」

 

 

 目一杯声を張り上げて別れを告げれば、二人の若者は手を振りながら階段の下へと消えていった。

 あの優れたバイタリティがあれば、安全とは行かずともアマテとニャアンはきっと上手くやり遂げるだろう。

 と、すれば問題は俺の方にある。

 目的は不明だが、ほぼ間違いなく来るであろう連邦のテロにどう対処するか────

 

 

 

「──上手く動いてくれよ、切り札なんだから」

 

 

 

 

 ポケットの中のインストーラー。

 その硬い感触に、俺は自分の未来を占った。

 

 

 

▲▼▲▼▲

 

 

 

 ──つまらない

 

 紅蓮に灼け、煙を立ち上らせるビル群。

 その狭間を悠々と飛行するサイコ・ガンダムのコックピットでドゥー・ムラサメは呟いた。

 

 そう、全く以て面白くない。

 

 最初に出てきた変なモビルスーツ──多分普通にクランバトルをしていたら対戦相手になっていただろうトリコロールのヤツは、面白そうだった。

 パイロットは恐らくニュータイプだろう。

 本格的に対峙すれば、きっとその人物固有のキラキラが見れたに違いない。

 それに、ガンダム──チラリとしか映らなかったが、アレはきっと凄く面白かっただろう。

 だが、隣を飛行するハンブラビ──ゲーツ・キャパの命を受けてメガ粒子砲を一撃加えたら、すぐ何処かに飛んで行ってしまった。

 これでは、折角のやる気も削がれるというものだ。

 

 更に面白くないのは、軍警だ。

 トリコロールのモビルスーツと入れ替わるようにして飛んできた彼らは、何一つとして面白くない。

 大した性能もないのに数だけは多く、蝿や蚊のようにサイコガンダム(ドゥー)の周囲を飛び回っている。

 無論、キラキラなんて感じる筈もなく──自分の世界を邪魔する羽虫どもに、強化人間の少女の苛立ちは限界を迎えようとしていた。

 

「……撃っちゃおうかな」

 

 あくまでも、目的は行政府で会談をしているキシリアの暗殺だ。

 優先すべきはそちらであって、サイコガンダムの装甲に大した傷も付けられないザクなんて放っておいても大きな障害にはならないだろう。

 だが、万が一という言葉がある。

 堅牢なサイコガンダムはまだしも、ゲーツが乗るハンブラビはただの可変モビルスーツ──マシンガンで撃ち落とされる可能性もゼロではない。

 

(……うん、撃とう)

 

 天秤にかける、なんて面倒なことはしない。

 相方の安全を確保するためなんだから、仕方ない──そんな衝動的な理由を盾に、ほんの数秒にも満たない逡巡でドゥーは軍警への攻撃を決定した。

 

「ドゥー?お前、何を……」

『お、おい……コロニー内だぞ!?』

 

 ゲーツも含めた周囲の誰もが意図に着いていけず困惑する中、腹部のメガ拡散ビーム砲口にぼうっと光が宿る。

 それは無邪気で無慈悲な、虐殺の予告だ。

 一度放たれれば一年戦争時の性能しか持たないザクで回避することは叶わず、壁面にも損傷を与えるであろう破滅的なメガ粒子のシャワーを、ドゥーはコロニー内に降らせるつもりなのだ。

 

『正気か!?止めろ!』

 

 事此処に至って漸くドゥーが何をするつもりなのか理解したザクたちはマシンガンの雨霰を浴びせるが、紫の巨人に身動ぎ一つさせることすら叶わない。

 血気盛んで横暴な軍警の気質は自らの危機を目前としても遺憾無く発揮されたが、それにしても相手が悪過ぎる──数匹の蟻が噛み付いたところで、痛みを覚える象が一体この世界のどこにいるだろうか。

 それほどまでに、サイコガンダムとザクの性能には隔絶した差があり。

 

「消えちゃえ────」

 

 砲口に収束したメガ粒子の塊が、死の雨となってぶちまけられる。

 

 その、直前。

 

 鈍い振動が、ドゥーの背中をがくんと揺らした。

 

「……っ」

 

 振り向くまでもない。

 ザクマシンガンのような口径の小さい火器ではなく、バズーカのような大型弾頭──それが連続してサイコガンダムの背部を直撃したのだ。

 無論、それでもサイコガンダムの装甲を穿つには物足りない。

 ガンダリウム合金の強固な外殻を破るならば、もっと直接的で高火力な──ビームでの攻撃が必要だろう。

 尤も、生半可なビームもIフィールドが弾いてしまうから有効打足り得ないのだが。

 けれども、そんなことはもうどうでも良かった。

 

 

「来た……キラキラ……!」

 

 

 灰と菫──あの時貨物船の窓から見たモビルスーツが、全弾撃ち尽くしたバズーカを放り捨てながらあの時と同じようにドゥーの頭上を飛んでいく。

 そうしてサイコガンダムの直上を通り過ぎた灰の騎士は、撃ち落とそうと放たれたハンブラビのビームも悠々と躱し、コロニーの回転軸付近で背中に背負っていた円筒形のポッドを切り離す。

 爆発物か、プロペラントタンクか──いや、そんな詰まらないものをギャンが持ち込む筈がないとドゥーは本能的に知っていた。

 

「……ビーム撹乱幕か!?」

 

 驚きを隠せない、と言った様子のゲーツにドゥーはふん、と軽く鼻を鳴らす。

 バカン、と開放されたポッドから放出されたのは、霧状に広がる白いカーテン──ビームを乱反射させ、威力を大幅に削ぐビーム撹乱幕。

 これを回転軸付近で散布することで、高分子ガスは気流に乗ってコロニー全体に拡散し、居住地への被害が抑えられるという訳だ。

 そして、これでキシリアがいるであろうコロニー行政府に接近して直接ビームを撃ち込まねば、確実な暗殺は果たせなくなった。

 その、まるで襲撃を予期していたかのような用意の周到さに、ゲーツは何か悪寒に近いものが背筋を過るのを感じ取り──ドゥーはその儚げな顔に、花が咲くような笑みを浮かべる。

 

「ふふ、そうこなくっちゃ」

 

 少女の攻撃的な思惟を受け、サイコガンダムの装甲がばらばらと剥がれ落ちる。

 だが、それは軽量化して格闘戦に備えようという訳ではない。

 たとえ装甲をパージしたとて全高50メートルに及ぶサイコガンダムの機動は鈍重で、Iフィールドによる防御は変わらず堅牢だ。

 その真価は、剥がれた装甲一つ一つが敵モビルスーツにぶつけられる質量兵器であると同時に、本体から放たれたビームを反射してオールレンジ攻撃を可能とする点にある。

 つまり、今やサイコガンダムは攻防一体の機動要塞と化したのだ。

 並大抵のモビルスーツでは、これを突破するのは不可能と言っても差支えはなく──少なくとも、軍警がこの要塞を相手取ろうとしたら、どれだけ良くてもコロニーを巻き込んだ壊滅は避けられなかっただろう。

 

『────』

 

 だが、ギャンがこの威圧感に満ちた要塞に怯むことはない。

 寧ろ行政府との間に割り込むように着地し、紫の巨人を睥睨する姿はその風貌もあってか主君を守る騎士のような──或いは、無謀にも風車に挑むドン・キホーテのようであった。

 そして、ドゥーにはハッキリと見えた。

 ギャンではなくその中心、コックピットの位置から溢れ出す白と黒の二色の奔流が。

 彼自身は認知出来ていないらしい、キラキラの輝きが。

 

 ──来ると、思っていた

 

 少々遅刻気味ではあるが、ドゥーが感じた通り彼は自分を止めに来た。

 未知のキラキラを振り撒きながら、強い意志を宿して対峙しに来たのだ。

 ドゥーには、それが嬉しくて嬉しくて──歓喜の感情が止まらない。

 

 

 

「遊ぼうよ、ミカボシ────」

『────』

 

 

 

 心の中は騒がしいが、表面上寡黙な彼は今回も語らない。

 だが、ギャンのモノアイが突然光を失い──入れ替わるようにその周囲に配置された四眼が妖しい光を放ち始める様に、ドゥーの口角は勝手に吊り上がり始めていた。

 

 

 

 

 

「うっ……!?」

 

 シュウジと共に執拗な軍警の追手を躱し続けていたニャアンは、突如として頭の中を貫いた強烈な不快感に思わず呻きを漏らした。

 

(何、これ……頭が痛い……)

 

 これまで感じてきたどんなプレッシャーとも、キラキラとも違う──どろりと滴るような、何とも不快で形容し難い何かがニャアンを睥睨している。

 その、まるで品定めされているかのような視線に少女は反発心を覚え──睨み付けると、これもまた不快な感覚を残しながら波のように引き下がっていくのだ。

 嘲笑われている、と直感したニャアンは隣を飛ぶガンダムと回線を繋げるもそちらの様子もあまり芳しくなく、苦悶の声がモニターから伝わってくる。

 

「シュウちゃん、これ……」

「何か、良くない……」

 

 そう、何かが良くない。

 よりによって最後のクラバのスタート地点がコロニー内に変更されたことや、対戦相手と思わしき巨大モビルスーツが人の巻き添えも気にせず攻撃してきたこと、そして軍警の追撃が何時にも増して激しいこと──全てが良くない方向に流れ、計画も破綻しようとしている。

 このままでは、恐らくマチュとの合流を果たすのも難しいだろう。

 だが、それ以上に「良くない」のはこの不快感がサイコガンダムが進んでいた方向から発振されていることだ。

 何か──何か、嫌な予感がするのだ。

 言葉で説明出来ない不吉な予感に、ニャアンはマシンガンの炸裂に追われながらひたすら苛まれていた。

 

「──!?」

 

 と、何の前触れもなく通信ウィンドウが開く。

 交信相手は、ギャン──ミカボシ・ツヅラ。

 

「ミカボシ?どうしたの……」

『────』

 

 何故今、一体何の用で。

 不安に駆られ呼びかけるも、返答はない。

 それどころかウィンドウに映っている筈のギャンのコクピットは黒一色で塗り潰され、ミカボシの表情はおろか輪郭すら見て取れない。

 だが、異常はそれだけではなかった。

 

『何だ……どこからの通信だ!?』

『こんな時に……早く発信元を割り出せ!』

 

 どうやら、追手も含めたこの辺り一帯の全てのモビルスーツに彼は通信を繋いでいるらしく、先ほどまで猛然と自分たちを追い立てていた軍警にも混乱が広がっていく。

 これが、目的だったのか?

 ミノフスキー粒子散布の影響で不安定になった通信を逆手に取り、無言電話めいた通信を送り付けることで敵味方問わず全体に混乱を誘うつもりなのか──いや、違う。

 そうではない。

 

『EXAM-SYSTEM STAND BY』

 

 耳障りな合成音声がモニターから発せられ、同時にじわりと黒一色の中に赤が滲む。

 毒々しい、血のような赤色の染み。

 最初は意味を持たなかったそれらが広がり、繋がり──やがて、文字を描き出す。

 

 

 

 

 

E X A M - I M I T A T E

HYPER ASSAULT-MANEUVER SUPPORTED OPERATION-SYSTEM

 

─WARNING─

EXAM SYSTEM PROGRAM START!!

LAST LIMIT 300 SECONDS

 

 

 

 

 

「エグザム……システム?」

 

 それが何なのか、知る術はない。

 しかし不気味に明滅する文字の列に、ニャアンは戦慄を隠せなかった。




○アマテ・ユズリハ
超メンタル強者と化したお陰で本編のダメそうな分岐点をサクサク突破していく主人公。
現状地球に行くつもりはない。
尚、出来事の順番が「アンキ―とナブの会話盗み聞き→面談→ニャアンに相談」に変わっているので、タイムスケジュールが物凄いカツカツとなっている。
また、カネバンに行く動機が「アンキ―たちがズラかる前に、管理してもらっていた自分の金を取りに行く」となっている。
ミカボシから銃を託された。

○ミカボシ・ツヅラ
サイコガンダム襲撃に備えシュウジたちを地球に逃す作戦には参加しない系ニュータイプのなりそこない。
やっぱりアマテが心配で仕方なく、自衛のために銃を渡した。
その後サイコガンダムと軍警の戦いに介入し、偽EXAMシステムを起動する。
一見寡黙だけど内心がうるさい。

○ドゥー・ムラサメ
超絶強化された人の造ったニュータイプ。
ミカボシが現れたり、ゼクノヴァが発生する前に装甲を展開したのもあって、常に超一撃状態を維持している。
ただし撹乱幕を散布されたことで本編より周囲への被害は抑えられることになる。

○ゲーツ・キャパ
本編よりは戦ってるけどドゥーのメンタルが安定&超やる気なので出番はそんなにない。

・ EXAMシステム・イミテイト/「あれ」
EXAMシステムのなりそこない。
ミカボシがフラナガン機関在籍中に違法コピーしたイフリート改の運用データを基に構築した半自律OSであり、蓄積された戦闘データから適切な行動パターンを強制的にパイロットにフィードバックさせる。
ただし研究者でもないミカボシが作ったシステムなので完成度は劣悪であり、「なりそこない」呼ばわりが適切なほどにプログラムそのものはお粗末。
その癖パイロットにかかる負担は据え置きな上、暴走の可能性もあるのでミカボシはこれまで頑なに使用を躊躇っていた。

平たく言うと、成立経緯がブルーディスティニー・Ωの「NEO EXAMシステム」
システム内容がペイルライダー系列の「HADESシステム」
なEXAM関連の寄せ集めみたいなもの。
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