どうするGQuuuuuuX   作:イナバの書き置き

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地球の重さ/戦場は電話

 燃えている。

 大気圏を突破したはいいが、そのまま落着してしまった自分を救ってくれた人たちが住まう場所が。

 彼女たちにとっては、己を閉じ込める檻でしかない形だけ豪奢な娼館が。

 

「はっ……はぁっ……」

 

 館が焼けているせいもあるのだろう──地球の夜は、コロニーのそれに比べて重く苦しい。

 その上凹凸だらけで足を取られやすい上に、小石や木の根などがそこら中に横たわっていて、満足に走るのも難しい。

 それでも、見上げる空だけはコロニーよりもずっと広く──アマテが夢見ていた地球は、アマテが思っているよりも遥かにずっと広大で未知に溢れているのだと思い知らされる。

 そして、未知であるのは彼女も同じだ。

 

「大丈夫?後もう少しだから……!」

 

 アマテの手を引く、黒い服の彼女。

 娼館の少女たちから「お姉様」と慕われる彼女──ララァ・スンもまたアマテにとって未知の一つであった。

 知らないようで知っている、キラキラの中で見た「誰か」によく似ている彼女の手は──温かく、深みのある優しさに満ちている。

 

(……誰だろう?)

 

 誰かに、似ているような気がするのだ。

 久しく忘れていた感覚──シュウジではない、ニャアンでもない、この深みを自分は確かに知っている。

 その温かさが肌を通して伝わってくるせいで、危機が差し迫っていると言うのにアマテは寧ろ安堵すら覚えそうになっていた。

 だが──そんな乱れる呼吸と安堵の狭間で揺れたのも束の間、二人は擱座したコア・ファイターの下へと辿り着いていた。

 

「すぐに追っ手が来るわ。早く行って」

 

 そして、パッと手が離れる。

 それは、当然の話だ。

 ララァの目的はあくでもアマテを娼館から逃がし、シャロンの薔薇の下へと送り出すことであって、そこに自分は含まれていない。

 だから、一人引き返そうとするのは当たり前だった──彼女にとっては。

 だが、今度はアマテがララァの手を引く番だった。

 

「貴女も一緒に来るんです!」

「え……?」

「これ、ただの飛行機じゃなくてモビルスーツの一部なんです!詰めれば二人乗れるし!」

 

 何せ、娼館の少女たちから頼まれたのだ──お姉様を逃がして欲しい、彼女にはもっといるべき場所がある、と。

 それに、こんな山奥のギトついた欲望に塗れた空間で人を待ち続けることは、あまりにも酷なことであるように思えるのだ。

 まだ出逢ってからほんの僅かな時間しか経っていないが、ただ夢に出てくるジオンの将校を待つよりは、もっと選択肢があっていいと思う──そうして戸惑うララァを引っ張りながら、アマテはコア・ファイターに組み付く。

 

「あなたには……っ、もっと、相応しい場所があるんです!」

 

 それは、嘘偽らざるアマテの本音だ。

 たとえ一瞬の触れ合いでも、時に人は理屈を超えた好意を抱くことはある──アマテにとっては、シュウジとララァがそうだった。

 お互いを偽ることが不可能なキラキラで繋がる間柄だからこそ、アマテはその静かで深い人間性に純粋な親愛を感じたのだ。

 それ故に、此処で終わってはならないと少女は思った。

 こんな、ただ欲望を消費するだけで人を商品としか見ていない檻の中で想い人を待ち続けていたら──彼女の方が先に壊れてしまう。

 頼まれたから、という以上に、ララァを逃すことは純粋で義憤に駆られやすいアマテにとって重大な使命だった。

 

「……っ」

 

 しかし、アマテは同時に知っている。

 ララァ・スンという少女は、時に誰よりも──想い人すら押し退けてしまうほど、強固な意志と覚悟を宿していることを。

 咄嗟に振り払われた手が、それを何より証明していた。

 

「……私は、行かない」

「なんで!?」

「私は、彼を待たなくちゃいけないから」

 

 それは夢の話でしょ、と叫ぼうとして──違うのだ、と即座に思い至る。

 ララァにとって、想い人を待つことは何人足りとも冒せない絶対的な決意なのだ。

 かつてのアマテにとって、「皆で地球に行く」ということが崩せない夢であったように。

 故に、どのような言葉であっても暴力であっても彼女の決意は揺らがないと即座に気付く。

 たとえ無理矢理乗せようとしても、彼女は全力で抗うだろう。

 

(……だったら)

 

 だったらどうする、とアマテは逡巡する。

 誰かから貰ってばかりの自分に、少しでも返せることはあるのか、と思考を巡らせ──ふと、思い至る。

 

「……ちょっと待って!」

「……?」

 

 コア・ファイターの操縦席に飛び込み、収納スペースを漁っていく。

 恐らくは、残されている筈だ。

 ジークアクスの修理は行われていたが、サイコミュの特殊性からコックピット周りには殆ど触られていなかったし、奥の方に捩じ込んだから見逃されている可能性は高い。

 そうして、収納スペースに半身を突っ込むほど潜り込んで──「それ」を引っ張り出す。

 

「はい、これ!」

「これは……?」

「お金!サイド6の通貨だから、どっかで両替しないとダメだと思うけど……!」

 

 唖然とした様子のララァに、札束の入った紙袋を押し付ける。

 

「私は……ララァにはもっといるべき場所があると思う」

「……」

「でも、ララァの選択も大切だと思い、ます。だから……!」

「そう……ありがとう……」

 

 そう、大事なのはその人の選択だ。

 アマテの選択をミカボシが尊重してくれたように、誰かの決意を受け入れることこそ、他者に施せる最も単純で重要な好意の形だ。

 それと同時に、選択肢が残っていることも大切なのだと少女は思う。

 だから、もしララァがその決意を翻したくなった時──想い人に逢いたくなった時、逢いに行けるような手段を残しておくことこそ、アマテが彼女にしてやれる唯一の恩返しなのではないだろうか。

 

(ごめん、ニャアン……シュウジ……)

 

 だが、元はと言えば二人が地球に逃れた時のための資金──いくら計画が破綻したとは言え、間違いなく自分は彼らに不義理を働いている。

 それでも、とアマテは思う。

 とても図々しく、身勝手な話だが──人助けのために使った、と正直に話せば、二人は許してくれると思うのだ。

 シュウジは「それでいい、とガンダムが言っている」とか何時ものように言いながら。

 ニャアンは「ほ、ホントにあげちゃったの……?」とか少し名残惜しそうにしながら。

 それに、きっとミカボシだって────

 

「ねぇ」

「はい!?」

 

 そうして、操縦席に乗り込んだアマテを紙袋を抱えたララァが呼び止める。

 何事か、とシステムの起動を進める手を止めると──彼女は、くすりと笑った。

 

「連絡を、取ってみてもいいのではなくて?」

「へ……?」

「意外と元気だったりするかもしれないわ」

 

 誰に──?と言うより、ビジョンが過る。

 炎に呑まれるイズマの市街。

 軍警のザクに追われ、ボロボロの機体を引き摺るようにしてひたすら逃げ続ける痛ましい姿。

 プロペラントタンクに被弾し、爆発に押し出されるようにしてハッチの中に落ちていく末路。

 

 だが、自分は本当に彼の最期を見たのか?

 

 そう、ミカボシがあんな簡単に死ぬのかと他ならぬアマテ自身も思っていたではないか。

 たとえ武装を全て失っていたとしても、遡れるだけで三年間どんな戦いからでも必ず生きて帰ってきた彼が、()()()()()で死んでしまうのか。

 否、そんな訳がない。

 上手く撃墜されたと偽装して、生き延びているに違いない──それこそ、アマテも騙されてしまうほどに。

 もし、そうだとするなら────

 

「ありがとう、ララァさん!」

「こちらこそ……ありがとう」

 

 ごう、とスラスターを噴かしたコア・ファイターが浮き上がっていく。

 何故かオートパイロットで起動したシステムは、次の行き先を大洋の真ん中に定めていて──もう二度とララァと会うことはないだろう、と確信する。

 それでも、これは悲しい決別ではない。

 ただお互いが自分の途を行くと決め、少しアドバイスをしただけで、進み続けるのは変わらない。

 故にこそ、別れの際は敢えてこの言葉を残すのだ。

 

 

 

「また、何処かで!」

「ええ……また!」

 

 

 飛翔するコア・ファイターの中から見えるララァの顔は見る間に小さく、遠ざかっていく。

 それでも──焼け落ちる娼館の煙が見えなくなるまで、アマテは操縦席から手を振り続けた。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 これは悪癖だという自覚があるのだが、俺は電話がかかってきた時に相手を確認せずに出ることが多い。

 最後に追加した連絡先が、シイコさんとドゥーと言えば交友関係の狭さが分かるだろうか──終戦以来友人なんて作って来なかったし、仕事以外に連絡を取る相手と言えばアマテたちくらいだ。

 そんなだから俺に電話をしてくるのなんて専ら決まった相手だし、セールスなら適当にあしらえばいいかな、という考えが端末の画面を確認する一手間を面倒にさせているのだ。

 実際、これまでそれで困ったことはない。

 しかし──今回ばかりは、その悪癖が裏目に出た。

 

「──ねぇ!生きてたら何でメッセージの一つも送ってこなかったの!?」

「うわ」

「うわって言った!?」

 

 飛び出してくる特大の怒声に、思わず耳から端末を遠ざけてしまう。

 溌剌とした、しかしここ最近耳にしていなかったその声は──間違いなく、アマテ・ユズリハのもの。

 恐らく今もソドンに囚われている彼女が、俺に直接電話をかけてきたのだ。

 まあ生きていると確信していたが、いい加減に行方を確認したかったところなので、それ自体は非常に喜ばしい──立場としてはジークアクスの窃盗者となる彼女が特段酷い扱いを受けている訳でも無さそうなのも、心の底からホッとした。

 

 しかし、これは大変好ましくない事態でもある。

 何せアマテがこうして堂々と俺に連絡をしてきている以上、その向こうにはソドンのクルーが──恐らくシャリア・ブルにコモリ少尉、後はエグザベ少尉辺りが控えているのだから。

 当然この通話も録音されているか、或いは今もリアルタイムで聞かれているだろう。

 これは非常によろしくない。

 エグザベ少尉なら上手く誤魔化せると思うが、優れたニュータイプであるシャリア・ブルを相手に俺とアマテの繋がりを悟らせないのはほぼ不可能だ。

 と言うより、ほぼ確信しているからこうして連絡させたに違いない。

 だとすると、こちらの素性や行いは殆ど露見していると考えるのが自然だろう。

 

「ちょっと!話聞いてる!?」

 

 こうして何の前触れもなく訪れた最大級の危機に、たちまち冷や汗が噴き出し──それに気付いていないアマテは、益々その真っ直ぐな怒りを溢れさせた。

 

「いや、ああ……勿論聞いてる。それに関しては、悪かったと思ってるよ」

「ホントに?」

「本当に。ジオンに俺との繋がりがバレたら、マチュの立場が悪くなると思ったんだ」

「それは、そうかもしれないけどさあ……」

 

 アマテは不満気な様子だが、これは本当に嘘ではない──交流があることを知られたら、間違いなく彼女の立ち位置は悪化していた筈だ。

 何せ、俺は相当に微妙な立場にある。

 フラナガン機関の出身で、ジオンの新型モビルスーツ開発に関与し、その上先のテロに際して今は軍属でもないのにジオンの識別信号を出して戦った危険人物。

 そんな輩と付き合いがあるMS強奪犯と聞いて先ず思い浮かぶのは、連邦のスパイだろう。

 見た目こそ年頃の少女で、身辺にも問題は見られないが、それ故に何か妙な思想を連邦から吹き込まれたに違いない、と。

 そう考えるのではないだろうか。

 

 況して、俺はテロの主犯であるドゥーを匿っている身。

 流石のシャリア・ブルとて彼女の生死までは正確に知らないだろうが、彼の目の前でサイコガンダムの頭部を斬り飛ばして持ち去った以上、ドゥーが生きている可能性だって十分考えている筈だ。

 だとすると、彼は一体何を考えているのか。

 一体どんな思惑があって、アマテに連絡を取らせたのか。

 分からない──シャリア・ブルの策謀が全く読めない。

 だが、()()()()()に思考を割いている暇はなかった。

 

「……でも、やっぱり連絡くらいして欲しかった」

「……」

「私、ずっとミカボシが死んだって思ってて……頭が真っ白になっちゃって……」

「……ごめん」

 

 端末から届くアマテの声は、今にも泣き出しそうなほど震えていて──改めて、自分が彼女にとてつもなく不安な思いをさせてしまったんだな、と実感する。

 これでは、大人失格だ。

 アマテのような子供が健やかに生きられるよう努めるのが俺たち大人の責務であって、彼女より先に墜ちて死んだと誤解させた挙句、理由があるからと言ってそれを解こうとしなかった俺の責任はとても大きい。

 たとえ「卑怯な大人」として修正されても、文句など到底言えないだろう。

 それだけの不義理を俺は彼女に働いたのだ。

 さりとて、今は謝る以外に出来ることなど一つもなく──自分の卑劣さを噛み締めていた俺を、アマテは制止した。

 

「いいよ、謝らなくて……生きててくれただけで、十分だから……」

「アマテ……」

 

 いよいよ、俺は頭を抱えそうになった。

 ニャアンもシュウジも行方が分からなくなって、辛いのはアマテの方だろうに──逆に彼女に気を遣わせるなんて、大人云々以前に人としてどうかしている。

 一体どれだけクズなのだ、俺は。

 確かに以前から人として褒められたものでないことは自覚していたが、よもやここまでとは思いもしなかった。

 だが、そんな俺の自責すら読み切っていたかのように、アマテは言葉を続ける。

 

「私、またミカボシと話したい……色々あったんだ、ホントに」

「まぁ、こっちも色々あったよ……ホントに」

「何時、会えるかな……」

「ソドンはキシリアの配下だから、イオ・マグヌッソとか言うのの竣工式に行くと思う……俺も、そっちに行くことになったからさ。その時に話す時間くらい作れるんじゃないかな、多分」

「そっか……」

 

 ソドンがイオ・マグヌッソの竣工式に参加する、というのは殆ど当てずっぽうだが、最早沿っているのかすら判別出来ない「流れ」を考慮するなら恐らくそうなるのではないかと思う。

 その時に、少し会話をする時間くらいは捻出出来る筈だ──直接顔を合わせるか、MS越しになるかは分からないが。

 でも、可能ならアマテの顔をまた見たいと思う。

 謝罪にしろ、お互いの経緯を話すにしろ、また彼女の元気な表情を直接見るまで俺は絶対に死ねない。

 もしもう一度アマテという太陽が曇ることがあれば、きっと俺は悔やんでも悔やみきれないだろうから。

 

 だが、まあ。

 自分の責任を棚上げにするなら、本当にアマテで無事で良かった。

 再会した時に、何発か殴られるくらいは覚悟しておかなければならないだろうが────

 

「……ミカボシ?」

 

 と、不意に脇からか細い声が飛び込んでくる。

 見れば、額に冷却ジェルシートを貼り付けたドゥーが怪訝そうな表情でこちらを見上げていた。

 

「悪い、起こしちゃったか」

「ううん、お茶を飲もうと思ってたところだから……それより、誰?」

 

 先日の試験稼働で張り切り過ぎたのか、彼女はイズマに戻ってくるなりまた体調を崩してしまっていた。

 ドゥー本人は「ムラサメ研に居た頃に比べれば、別に」となんでもない様子だったが即座にベッドへ叩き込み、何かあってはいけないと俺も貯まっていた有給を消化し、彼女の看病をしていたのだ。

 だからこそ、日中からアマテの電話にも間髪入れずに出られたのだが──しかし、ムラサメ研の連中はとんでもない藪医者に見える。

 心と身体の関係は思う以上に密接だ。

 毎日が楽しければ風邪を引いても早く治したいと思うだろうし、反対に苦痛であれば自然と脆くなる──人間とは、そういうものだろう。

 それを無視し、単なる生理的な反応と断じた連中は、自分が言うのもおかしな話だが人として三流以下に違いない。

 そんな訳で、「ただの友人」と返事をしながらそれとなくドゥーをベッドに戻るように勧め────

 

「……何か女の子の声が聞こえたんだけど。ニャアンじゃないよね、今指名手配されてるし。もしかして、近くに誰かいる?」

 

 何やら、話が妙な方向に進み始める。

 

「え、いや……確かに、いるが。色々あって、預かることになったんだ」

「ふーん……」

 

 いや、これはおかしい。

 先程まで、俺の責任は重いが感動の再会へ……という方向性で話は纏まろうとしていたではないか。

 それが、どうしてこんな──まるで二股かけたクズ野郎を問い詰めるような形になろうとしているのか。

 確かに人としてよろしくない自覚はあるが、それはこういう意味ではなかった筈だ。

 しかし、現実としてドゥーもアマテも怪訝な様子を隠そうともせず、俺はそこはかとない居心地の悪さを味わっている。

 これはどうしたことか、と首を捻っていると──ひょい、とドゥーが俺の手から端末を掠め取った。

 

「あっ、おい────」

「もしもし?」

『……どちら様、ですか』

「ミカボシと同棲してるドゥー・ツヅラ、だよ。語呂が悪いけど覚えてね」

『は!?』

「ドゥー!?」

 

 いや、確かに……確かに、偽造した戸籍ではそういうことになっているが。

 流石に「ムラサメ」性を名乗らせたままだと軍警に捕まるから、親族扱いになっているが。

 何故いきなりアマテを煽る。

 何で途方もなく得意気な顔をしている。

 それで以って、何でアマテも真に受けるのか──ちょっと考えれば何かおかしいって分かるだろうに。

 

『ちょっ、ちょ、ちょっとミカボシ!どうなってんの!?同棲って何!?』

「いや、これには深い訳があって────」

「えっと、確かアマテさんだよね。話は聞いてるよ。ミカボシが何時もお世話になってます」

『はぁ────!?』

「誤解を招くようなことを言うのは止めろ頼むから!」

 

 もうダメだ。

 全く話が纏まらない。

 と言うか、ドゥーに纏める気がない。

 先程までの体調不良が何だったのかと思うくらいイキイキとしているし、ニヤニヤと優越感の滲む笑みを浮かべながらこれでもかとアマテを煽り散らかしている。

 釣られてアマテもヒートアップしているし、もうしっちゃかめっちゃかだ。

 

『だっ、大体ミカボシの何なのさ!』

「一言では表せない、『深くて』複雑な関係かな」

『深っ……深くて複雑な関係!?何それ!?』

「ふふ……何だと思う?」

 

 そうだけども。

 確かにそうなんだけども。

 どうしてドゥーは「深くて」をそんなに強調するのか。

 最早しんみりした空気は何処へやら、たちまち姦しくなった通話に、俺は置いてきぼりにされ──現れた時と同様突然「後はよろしく」と俺に丸投げし、彼女はキッチンへと消えていった。

 

「……あの」

『私がジオンに捕まってる間、ミカボシは女の子自宅に連れ込んでイチャイチャしてたんだ……』

「……いや、これは違うんだよ」

 

 当然、この流れで聞く耳など持って貰える訳もなく。

 端末から聞こえる声音には、明らかに軽蔑の色が含まれていて。

 

 

『……さいってー』

 

 

 シンプルだが心に突き刺さる罵声と共に、通話はプツッと断ち切られた。

 そうして暫く放心していると、両手にお茶の入ったコップを持ったドゥーがとたとたと戻ってきて──また、例の得意気な顔をするのだ。

 

 

「お疲れ様。ミカボシも、飲む?」

「誰のせいで疲れたと……いや、飲むけども。ありがとうな」

 

 

 つくづく、人生とは儘ならないものだ。

 よもやそれをこんな形(ロリコン疑惑)で味わうことになろうとは、予想もしていなかったが。




◯ミカボシ・ツヅラ
ここ数話いい思いをしてきたが遂に年貢の納め時がやってきたニュータイプのなりそこない。
アマテが急に電話掛けてきたのはまあまあ真面目に考えていたが、ドゥーの介入によってあっという間にボロが出て「さいってー」呼ばわりされることになった。
でもマチュの「さいってー」は一部の人にはご褒美かもしれない。

◯アマテ・ユズリハ
奮起して電話掛けてみたらニュータイプのなりそこないが精神幼女と同棲してたのでブチギレた主人公。
持ってたお金はララァにあげた。
次回から最終話まで多分終始シリアス展開なので最後にコメディチックな話を挟んでおくなどする。

◯ドゥー・ムラサメ
多分この作品で一番自由な人の造ったニュータイプ。
思い返してみれば本編ではマチュと一切会話…と言うか面識すらないが、この作品では生き生きとした顔で煽りまくっている。
ムラサメ研の管理から外れたことで体調が著しく不安定となっているが、逆に言えばその程度でブーステッドマンみたいに薬物がないと無理、ということはない。
でも体調が悪かったら素直に辛いって言えるようになれるといいよね、とミカボシは思っている。

◯ララァ・スン(GQ)
投稿までたっぷり一週間使った主な理由。
この人の扱いやマチュとの会話をどうするか悩み過ぎて全然書けなかったが、結果として「選択は尊重するけど翻したくなったら心置きなく翻せるようにしたいよね」という結末をマチュは選んだ。

◯シャリア・ブル
一切登場してないけど当然通話は聞いてる緑のおじさん。
実はジークアクスのコックピットにお金を置きっぱなしにしていたのはこの人の判断だったりする。
痴話喧嘩には「これからの時代のニュータイプが健やかで良いですよね…人の造ったニュータイプも生き延びたようで良かった…」とかしみじみ思っているが、終始真顔なので誰も気付いていない。
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