どうするGQuuuuuuX   作:イナバの書き置き

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策謀の宙域/GATHER BEAT

 人生で、これほどまでに生きた心地がしなかったのは初めてだった。

 クランバトルで大破寸前まで追い込まれた時も、海賊狩りで返り討ちに遭いかけた時も、サイコガンダムの前に降り立った時でさえ、こんな気分を味わったことはない。 

 

「ミカボシ……」

「ああ、凄いな……」

 

 背後の補助席から届く、珍しく不安そうな少女の声。

 サンフラワーの外部カメラとリンクする形でギャンのコックピットに映し出された映像には、巨大な……これは、何と言えばいいのだろうか。

 小惑星から巨大な構造物が生えた、兎に角言葉で表現し難い建造物の全景が広がっている。

 これが、イオ・マグヌッソ──寒冷化した地球環境を改善するためにジオンが建造した、太陽光照射装置。

 

 そんな訳があるか。

 

 こんな物体が平和のための施設など、冗談も休み休みにするべきだ。

 このイオ・マグヌッソは、疑う余地なく地球に突き付けられたおぞましい戦略兵器に他ならない。

 ビグ・ザムを四機も牽引した双胴型の輸送艦とグワジン級が竣工式に参加しているのが、その証明。

 例え噂通りギレン・ザビが座乗していたとしても、環境改善装置が完成した祝いに巨大MAなど連れてくる必要はない。

 万が一の場合は破壊、ないし制圧する必要があるからこそ、過剰な戦力をこれ見よがしに引っ張ってきたのだ。

 つまり──イオ・マグヌッソはビグ・ザム四機に匹敵する何らかの戦略兵器であるということ。

 

「何か……濁ってる……?」

「確かに、俺も感じる……言葉にするのは難しいが、何か良くない感じだ。ドゥーは大丈夫か?」

「このくらい、何てこと……」

「そっか、無理はするなよ。辛くなったらすぐ言え」

 

 加えて強化人間であるドゥーのみならず、なりそこないに過ぎない俺ですら感じ取れるほどの思念。

 彼女が「濁っている」と表現するそれは、俺からすると絡まり過ぎて元が何だったのかも分からなくなった毛玉のように思える。

 極めて複雑な因果関係による、何人もの思惑が絡み合った陰謀渦巻く戦略兵器。

 それこそがイオ・マグヌッソを言葉で表せないシルエットとして形作ったのだろう……というのが、俺とドゥーの一致した見解だった。

 それに、もう一つ。

 

(何だ……?)

 

 何か、猛烈に悪い予感がする。

 イオ・マグヌッソの存在感に匹敵する、猛烈な違和感が何処かから生じている。

 だが、巨大建造物に気を取られているドゥーの様子を見る限り彼女はこれを感じ取れていないようだ。

 とすると、これは俺個人に向けられた怨念か、或いは「オタクとして」何か重要なものを見落としているか──恐らくは後者だろう。

 海賊狩りで恨みなど十分買っているが、少なくともこの竣工式には関係がない。

 つまり、このもどかしい感覚はニュータイプ的な直感ではなく、前世の知識に基づく部分で自分が何かを見落としていることへの警告に違いなかった。

 そんな訳で、先ほどからカメラをひっきりなしに動かしているのだが────

 

『ま、落ち着けよ。こうなったらなるようにしかならん』

「……まあ、そうですね」

『そうそう、こういう時はどっしり構えるのが男ってモンだ』

 

 親父さんの、言う通りだ。

 シートに背中を預けながら、俺は深い溜め息を吐く。

 こうなった──つまり俺たちの乗るサンフラワーが、キシリア・ザビの座乗するチベ級パープルウィドウに接舷している時点で、最早事態は個人でどうこう出来るレベルを超えていた。

 先のテロでの活躍に感謝を直接述べたい、などというキシリアらしからぬ要請をされた時点で、既に俺たちはヤツの術中にあるのだ。

 チベの主砲一発で確実に沈められる上、もし距離を置けたとしても足の遅いサンフラワーで現役の戦艦から逃げ切るのは到底不可能。

 陸戦隊を送り込んで制圧するのも容易だし、もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ、と言ったところか。

 

 ──だが、ドゥーを逃す手立てだけはある

 

「?どうかした?」

「いや、何でも」

 

 不思議そうな様子で身を乗り出す彼女の頭を撫でてシートに戻しながら、此処に至るまでの「策」を思い返す。

 そもそも、ドゥーを竣工式に参加させるつもりはなかった。

 何かされると分かっている死地に、折角自分の人生を掴み掛けている彼女を連れて行く理由など一つもない。

 だが、案の定と言うべきか──ドゥーはあらゆる手段を使ってサンフラワーに乗り込もうとしてきた。

 日程を教えてもいないのに誰かから聞き出し、普通に頼むのでは動かないと悟ると泣き落としに走り、果ては密航。

 何度摘み出しても戻ってくるものだから、結局乗せざるを得ず──ならば、と乗組員一同で逃す準備を整えたという訳だ。

 

(メカニックには大分無理をさせたな……)

 

 それこそが、このギャン。

 正確にはそのバックパックがコア・ファイター的な簡易脱出装置として機能するように、突貫で改造してもらったのだ。

 工期が短過ぎるあまり、イオ・マグヌッソに到着する前から整備士たちは既に疲労困憊だったが──そのお陰で、俺がボタンを押すだけでドゥーは補助席ごと脱出可能となった。

 これでもしサンフラワーが沈み、ギャンが撃墜されたとしても彼女だけはこの宙域から逃すことができるだろう。

 そうすれば後は付近で待機しているツキモリの小型艇が彼女を回収して、イズマへ連れて帰ってくれる手筈となっている。

 そして俺が死ねば銀行の預金は自動でドゥーのものになるようにしてあるし、何年か……アルバイトが出来るくらいの年齢になるまでは、生きられる筈だ。

 

 それでも、ダメだったら。

 たとえば、キシリアが俺たちのみならずイズマに残っている社員たちも全員消そうとするなら。

 その時も、最終手段ではあるがシイコさんに預けることになっている。

 漸く戦争を終えて平和な生活に戻った彼女を頼るのは本当に心苦しかった──快く引き受けてくれたシイコさんの懐の広さには感謝しなければならない。

 

『それで、今度こそキミの戦争は終わるのかしら』

『……』

『答えられないのね……キミがいなければ、そのドゥーちゃんも悲しむと思うわ』

『かも、しれません。でも……』

『……そう。分かったわ。頼みは引き受けるけど……でも、ミカボシくんももう少し自分のことを考えてみて』

 

 まあ、その時に色々と諭されてしまったが。

 キシリアの出方次第とは言え、これでドゥーを生かして帰すという大人の責任は何があっても全う出来る筈だ。

 それでもって、後は出たとこ勝負。

 親父さんの言う通り、最後はなるようになるだろう──その過程でほぼ確実にサンフラワーが沈む、という事実にさえ目を瞑れば。

 

 良い人たちなのだ、本当に。

 

 親父さんは強面だが人情派だし、乗組員も皆気前が良い。

 整備士の人たちは何時も俺の我儘に付き合ってくれるし、今回だってギリギリ過ぎるスケジュールの中でドゥーのために脱出装置を拵えてくれた。

 ジオンから放逐されて五年、こちらの世界での大半を占めているこの艦隊は……もう、俺の家と言っても差し支えはない。

 それが消えてなくなるかもしれない、というのは──その可能性を考えるだけで、寂寞とした気分になってしまう。

 せめてソドンと連携が取れれば、とは思うもののそれだって難しい。

 シャリア・ブルはどうだか知らないが、クルーの大半がキシリア派であろうあの艦に離脱の協力を要請したとて、応えてくれないのは明白だった。

 それに、この宙域の何処に配置されているかも知らないのに、連携もへったくれもある訳がなかった。

 

 ──それにしても

 

「遅いな……」

『ああ、一体何時まで待たせるつもりなんだ』

 

 向こうから呼びつけた癖に、肝心のパープルウィドウへの乗船許可が中々下りない。

 親父さんも何度か問い合わせているようだが、向こうの士官は「今暫くお待ち下さい」と気のない返事をするばかりで一向に話が進む気配はなかった。

 

 これは、どういうことなのか。

 

 簡単に制圧出来る状況でこうも沈黙しているということは、実は俺たちを殺すつもりではないのか?

 もしそうだとしたら何のために。

 何が目的で、俺たちを此処へ呼び出した。

 陰謀渦巻くこの地に高々輸送船一隻とモビルスーツ一機を呼んで、何をしたい────

 

「ミカボシ」

 

 と、ドゥーが俺の背中をつつく気配があった。

 

「何だ?」

「これ、なに?モニターに何か映ってる」

「どれ、ちょっと見せてみろ────」

 

 どっこいしょ、と身を乗り出してドゥーが眺めていたパネルを覗き込む。

 何か、妙なものでも捉えたのかと軽い気持ちで。

 だが──次の瞬間、俺の表情は凍り付いた。

 

「突撃機動軍の暗号通信……!?」

 

 間違いない。

 曲がりなりにも所属していた身だから覚えがある。

 モニターに流れる、一見意味不明な文字列──これはキシリア派の内部で用いられる暗号通信だ。

 当然、平時に使うようなものではない。

 やはり、あの紫女は何かを隠しているのだ。

 ならば、と先ほどまでの感傷を放り出して俺はモニターに齧り付く。

 

「親父さん、接舷解除の準備を」

『お、おう……』

 

 覚束無い記憶の底から暗号の復元表を引っ張り出して、文字列を翻訳していく。

 そう、宇宙世紀はかつての西暦と比べて技術の進歩著しいが、一方で進み過ぎたが故に却って原始的になってしまった部分もある。

 暗号通信もその一つ──ミノフスキー粒子によって安全な通信が確保出来なくなったから、軍の指令も昔のように暗号を用いるようになったのだ。

 仕方なく覚えたそれが、よもやこんなところで役に立つとは思いもしなかったが。

 

「ぎ・れ・ん・そ・う・す・い……ギレン総帥の──」

 

 だが、しかし。

 これは────

 

 

「ギレン総帥の排除に成功せり」

 

「これよりグワラン麾下の部隊の排除に移る……?」

 

 

 あまりの内容に、誰もが唖然としていた。

 ここまで散々やりたい放題してきたドゥーすら、これには眉をしかめて沈黙せざるを得なかった。

 やがて──恐る恐ると言った調子で、親父さんが口を開く。

 

『……間違いない、ないんだな?』

「間違いない、です」

 

 そう、か。

 そう来るのか。

 ならば、俺たちを呼んだのも納得だ。

 キシリアはツキモリを始末しようとしているのではなく、寧ろその逆──どさくさに紛れて手駒にしてしまおうと画策していたのだ。

 ギレン暗殺を確実なものとするためには、キマイラ隊や突撃機動軍を動かすことは出来ない──本当に最低限の戦力だけを手元に置いておかなければ、謀略に長けた彼は間違いなく影武者を寄こすだろうから。

 さりとてパープルウィドウとソドン、それに殆ど役に立たないサイド6の艦船だけでビグ・ザム四機に挑むのは心許なかったのだろう。

 だから、呼び寄せたのだ。

 迂闊にも彼女の目の前でサイコガンダムと互角の戦いを繰り広げてしまい、その上ツィマッド経由で圧力をかければ簡単に従属させられる俺たちを。

 

 そしてその目的は、既に達成された。

 

 そう、留め置いておくだけで良かった。

 キシリア自ら説得を試みる必要もない。

 ただパープルウィドウの隣にサンフラワーを隣接させておけば、後はギレン派が勝手にキシリアの手先だと勘違いしてくれる。

 いきなり頭を潰され混乱に陥った彼らからすれば、事実を把握している余裕はないだろう──そうして、俺たちは身を守るため否応なしにキシリアへ下ることになるのだ。

 

(……やられた)

 

 あまりの手際に、もう天を見上げるしかない。

 元々陰謀だとかそう言った方面にはあまり頭が回らないのもあるが、やはり宇宙世紀は俺の想像を軽々しく超えてくる。

 ザビ家の政争を利用として俺たちを自陣に引き込もうとするだなんて、思い付きもしなかった。

 だが──タダで靡くつもりはない。

 

『接舷解除、機関始動!ギャンを出したら本艦は最大船速で離脱する……後は分かってるな、ミカボシ!ドゥー!』

「勿論です!何時も通り大漁を期待してて下さいよ!」

「僕も行けるよ……ミカボシのことは任せて」

『おう、ミカボシは頼んだぞ嬢ちゃん!』

 

 元々、キシリア派を蹴散らして離脱するつもりで誘いに乗ったのだ。

 その対象が変わっただけで、俺たちのやる方は変わらない──K/NT-Xの性能に、ドゥーのニュータイプ能力と俺の操縦技能があればビグ・ザム四機くらい十分退けられる範疇だろう。

 故に、たとえジオンの正規軍が相手でも臆したりはしない──ゆっくりと開くハッチの向こう側を見詰める俺とドゥーの闘志はいつになく高まっていた。

 

 

「ミカボシ・ツヅラ」

「ドゥー・ムラサメ」

 

 

 前方の電光板が「LAUNCH」の文字を示すと同時、スロットルを全開に。

 魔改造によって更に圧倒的な推力を得たスラスターにごぅ、と火が灯る振動を背中で感じて────

 

 

「ギャンK/NT-X、発進する!」

 

 

 急加速に身体全体がシートへ押し付けられる感覚。

 そろそろ親しみすら感じつつあるそれを味わいながら、俺たちは混迷の戦場へと打ち出された。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「えぇっ……!?」

 

 久方振りに、大きな声が口から飛び出た。

 キシリアの下でGFreDのパイロットとして訓練を続けたこの数週間、一度足りとも出ることはなかった素っ頓狂な声だ。

 けれども、その驚きにどこか懐かしさすら感じていることを、ニャアンは自覚していた。

 何せ、自身を見出したキシリアの前なら兎も角──もし何の躊躇いもなく「素」の己を曝け出せるとしたら、かつてガンダムの周囲に集った友人たちの前だけだろう。

 それだけ、グラナダでのニャアンは自分自身を抑え付けていたのだ。

 

「ミ、ミカボシ……!?」

 

 だが、ニャアンがパープルウィドウから発進すると同時、隣の輸送船から飛び出したモビルスーツが見覚えのあるものだったせいで、被っていた猫は一瞬の内に引っ剥がされてしまった。

 尤も、見覚えがあると述べたそのシルエットはギャンKのそれから似ても似つかないほどに変貌を遂げていたのだが。

 全身の至る所に武装を取り付け、元の姿から更に一回り近く大きくなったように見えるそれは、騎士と言うよりも最早重装兵と呼ぶ方が正しいだろう。

 ギャンKが素体になっていると気付けたのも、胴体と頭部に辛うじてその名残があったからに過ぎない。

 

「えっと、ミカボシ……だよね?」

『その声……ニャアンか!?』

「やっぱり……!」

 

 近寄って通信を繋いでみれば、案の定届いた声とモニターに映る不健康そうな顔はあの青年のものだった。

 彼の顔を見たのがマチュと仲直りした時以来だったので、彼が無事だったことにニャアンは僅かに安堵して──同時に、疑問が浮かんでくる。

 

「何でミカボシが此処に……!?」

『色々あったんだ、色々……そっちこそ、ニャアンが何でこんな所にいる』

「わ、私だって……色々あったから……」

 

 本当に、色々あったのだ。

 キシリアの手料理を食べることになったり、今も困惑した様子で自分たちを見ているエグザベ少尉の友人に毒殺されそうになったり、ジフレドのパイロットに選ばれたり──とても一口では語り尽くせない。

 そして、それはミカボシも同じらしい。

 まあ、別物レベルでギャンが改造されていたり、自分が乗った時とは違ってコックピットに補助席が備わっていたり、その補助席に見知らぬ少女が座っていたり──向こうは向こうで、様々な出来事があったのだろう。

 

「丁度良かった、アマテも近くに来てる筈だ」

『マチュも……!?』

「どこにいるかは分からんがな……」

 

 だが、とても良いことを彼は教えてくれた。

 どうやら、マチュもこのイオ・マグヌッソの近くに来ているらしい。

 ジークアクスがソドンに捕獲されたという情報は耳にしていたので、一応無事なのは確信していたが、そのままこの宙域を訪れているというのは初耳だった。

 しかし、これでニャアン、マチュ、ミカボシと三人は揃ったことになる。

 

 なら、後はシュウジだけだ。

 

 彼さえ呼び戻すことができれば、「いつもの四人」が帰ってくる。

 クランバトルを勝ち進み、地球に行くことを夢見ていたあの大切な時間がまた戻ってくるのだ──そのためだったら、ゼクノヴァだってもう一度引き起こしてみせよう。

 戦う決意も力も伴っていなかったあの時と違って、今の自分にはジフレドがあるのだから。

 掴めなかったシュウジの手を、今度こそ掴んでみせる──そう、ニャアンは意気込んで。

 

『──ニャアン!』

 

 ミカボシの叫びが耳朶を打つと同時。

 鋭い敵意を察知したニャアンは、咄嗟にスラスターを噴かしてその場から飛び退っていた。

 

「……っ」

 

 ギャンとジフレドの間にビームの束が割って入り、飛散した粒子が盾を叩く。

 大口径の艦砲に匹敵するメガ粒子砲の一閃──視線を下ろせば、四機のビク・ザムがグワランを庇うようにしてゆっくりと前進を始めたところだった。

 

「ミカボシ……話は後」

『ああ……』

 

 どうやら、折角の再会に水を差すつもりらしい。

 だが、全く恐怖は感じなかった。

 寧ろニャアンを満たすのは、ミカボシと共に戦えることに対する安心感。

 一度クランバトルでMAVを組んだニャアンは、彼の粘り強さを最も近い場所で体感した一人なのだ。

 故に──ニャアンは彼の背後ではなく、隣に立つ。

 

 

 

『MAV戦術、やれるか?』

「うん……!」

 

 

 

 もう誰にも、遅れを取るつもりはない。

 そんな強い決意を込めて、ニャアンはジフレドの操縦桿を握り締めた。

 

 

 

▲▼▲▼▲

 

 

 

「凄いな……あれが本物っていうやつか」

 

 どう、と開いた爆発の華を横目にエグザベ・オリベはそう感嘆した。

 だが、当然の話だ。

 四機で以て自分たちキシリア派を排除しようとしたビグ・ザムの内一体が、接敵から数分と経たずに爆発四散したのだ。

 どうしてこれを驚かずにいられようか。

 自分と率いるニュータイプ部隊が一機を相手に互角の戦いを演じているからこそ、その驚愕は深まるばかりだった。

 

 しかも、その手際の鮮やかさと言ったら。

 

 計四機のビットで相手の注意を逸らした隙に菫色のギャンが突っ込んで両脚とスラスターを破壊し、ビームを放つだけの木偶の坊になったところをジフレドが刈り取る……そう言うと簡単に聞こえるが、事はそう単純ではない。

 先ず、並大抵のMSでは接近すら困難なのだ。

 ビームライフルを弾くIフィールドと全周囲を焼き尽くすメガ粒子砲、そして生半可な実弾兵器では太刀打ち出来ない装甲を兼ね備えたビク・ザムは、一機でも艦隊に匹敵する戦力を持っている。

 そのビームの雨を掻い潜り、的確に装甲の継ぎ目を狙ってサーベルやライフルを捩じ込む手腕は、優れたパイロットであるエグザベをしても素直に称賛するしかなかった。

 

(しかし、あれは……)

 

 中でもエグザベの目を引いたのは、あの菫色のギャンだった。

 自身が乗るギャンと酷似したシルエットをしながら、間違いなく別物と分かる「それ」は、イズマコロニーでのテロの際自分たちに先んじてサイコガンダムと交戦していたモビルスーツに他ならない。

 色々と不審な挙動があったが、こうしてこの戦場にも現れている以上、やはり自分が知らなかっただけでキシリアの配下なのだろう。

 しかし、だ。

 

「まさか、二人乗っているのか……?」

 

 縦横無尽に飛び回る二基のビットとギャン本体の動きは乖離しているように思える。

 ギャンの操縦者が操っているのではなく、まるで別人が動かしているような──ジフレドとMAV戦を行いながら、ビットともMAV戦を並行して行う異質さ。

 複座式だとすれば一応説明はつくが、それにしても異常が過ぎる。

 イオ・マグヌッソという巨大建造物、ジフレドという最新鋭MS、そしてキシリア派とギレン派の内戦という混乱の最中にあって、そのモビルスーツは異端を極めていた。

 そして、異常と言えばもう一つ。

 

「あの輸送艦……何であんな場所にいるんだ……」

 

 ビグ・ザムを牽引してきた、双胴型の輸送艦。

 全く見覚えのない、恐らく新たに開発されたMA専用の輸送艦なのだろうが──その角張った棒を二つ並べたような艦体は未だグワランと並走する形で存在しており、戦場から去っていなかった。

 本来であれば、菫色のギャンを運んできた輸送船がそうしたように速やかに退避するか、戦艦に追従して砲火を避けるのがセオリーだろう。

 しかしムサイほどの全長の「それ」は、まるで自らが戦艦であると言いたげに堂々と前進してくる。

 不気味なことこの上無い。

 

「何だ……?」

 

 そうしてビグ・ザムの攻撃を捌きつつ、双胴艦の挙動を注視していると──突如、その外装が剥がれ出す。

 被弾した訳ではない。

 自壊した訳でもない。

 まるで蝶が蛹から脱皮するように、双胴艦はジオンらしくない角ばった外板を自ら脱ぎ捨てているのだ。

 そして、その下から姿を見せたのは──銀と緑の装甲を纏った不可解な「何か」。

 エグザベの理解では説明不可能な、常軌を逸した巨体がゆっくりと全容を曝け出そうとしていた。

 然れど、「それ」が何であるかを示す名なら装甲に刻まれている。

 

 

グロムリン(MAN-05-2)……?」

 

 

 全く、聞いたことのない名前。

 ビグ・ザムの量産体制を敷こうとしていた筈の国家親衛隊にあるまじき、異形の兵器。

 だが、それが輸送艦などではなくモビルアーマーであることを、エグザベは辛うじて理解した。

 そして、その中央。

 今まで双胴を繋ぐ艦橋だと思っていた部分に、ぼうっと妖しい光が宿り。

 

 

「──ッ!全機散開っ!離脱しろ!」

 

 

 本能的に身体(ギャン)がその場からの遁走を図ろうとした、次の瞬間。

 

 

 

『謾サ謦?幕蟋』

 

 

 

 とても人の声とは思えない、耳障りな不協和音。

 それがエグザベの思惟を貫くと同時、大口径メガ粒子砲の奔流がビク・ザム諸共ニュータイプ部隊を消し飛ばした。




◯ミカボシ・ツヅラ
ビク・ザム解体職人その一。
ドゥーと行動を共にすることでニュータイプ的な何かが多少磨かれ、五年間で積んだ経験値と合わせてまあまあパイロットとしての才覚が開花しつつある。
なのでニャアンとMAV戦しながらドゥーともMAV戦するイかれた技能を見せるが、問題はこの後その程度では通用しなさそうなヤツばっかり出てくること。
グロムリンの存在には気付きかけていたが、キシリア対策の方に意識を回し過ぎて察知することは出来なかった。

分かりきっている話だが、キシリアが嫌い。

◯ニャアン
ビク・ザム解体職人その二。
ミカボシが脚を削ぎ、ニャアンがトドメを刺す殺意高めMAVを組む。
でもどちらかと言えばミカボシがニャアンのやり方に合わせてるので最高の相性と言う訳ではない。

マチュと仲直りしているので、本編より大分覚悟がカッチリしている。
友達が大好きだし、友達を呼び戻すためなら何でもする、覚悟ガン決まり少女の爆誕。

◯ドゥー・ムラサメ
愛され気質な人の造ったニュータイプ。
ミカボシはツキモリの面々は戦いから遠ざけようとしたが、当人の強い要望により今回は飛び入り参加となった。
ミカボシたちは自分が死んでもこの子だけはどうにか逃そうと躍起になっていた…が、事態が斜め上の方向にすっ飛んでいったのでそのままK/NT-Xで出撃することに。

◯エグザベ・オリベ
光属性の男。
最初からビグ・ザムが全機起動済みの状態から交戦することになったのでやや苦戦していたが、それ以上にトンでもない化け物と遭遇してしまう。


双胴艦/グロムリンⅡ
本編で登場時間数分、こちらではナレ死の男の置き土産。
純宇宙世紀製なので流石に縮退炉とか月光蝶とかは装備していないが、それでもビグ・ザム18~22号機までの予算を浪費して作ったので、それに相応しい決戦兵器となっている。
また、本作独自の設定として稼働時に不協和音のような思念を飛ばしてニュータイプを妨害する機能がある。


作者事情としては当初はノイエ・ジール辺りにしようかなと考えていたが、些か絶望感が足りないと考えこちらを採用した。
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