どうするGQuuuuuuX   作:イナバの書き置き

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ちょっと短いです。


イオ・マグヌッソの少女たち/映画館にて

「ぅああぁぁあッ!!」

 

 サーベルの刀身を形成するミノフスキー粒子。

 その反発によって生み出された火花に目を焼かれながら、マチュ──アマテ・ユズリハは絶叫した。

 叫ばずには、いられなかった。

 本来彼女が自ら破壊する筈だったオメガ・サイコミュの制御デバイスは、既に沈黙して久しい。

 無理矢理引き抜かれた訳でも、銃で撃ち抜かれた訳でもないのに、いつの間にかその中身は初期化されて空っぽの箱になってしまっている。

 誰がそんなことをしたのか。

 

(決まってる……ミカボシがやったんだ)

 

 イオ・マグヌッソに突入する過程で、付近にいるであろう彼を直接目撃した訳ではない。

 しかし、おぞましい極彩色が宇宙を染めた直後、よく見知った誰かがジークアクスから何かを持ち去るのをアマテは直感的に認識した。

 突撃機動軍のコートを羽織ったあの後ろ姿、呆れたようにぎこちなく笑うあの気配を、少女が見間違える筈がない。

 そして、「頑張れよ、アマテ」と刻の狭間で言い残してどこか遠くへ行ってしまった彼の最期を、少女の脳は明確に刻み込んでいた。

 

 故に、ジークアクスを阻むものは無い。

 

 リミッターを初期化されたことで漸く本来の能力を解放した機体の各所には光輪が浮かび、尋常ならざるプレッシャーを放っていた。

 後は、これを──アルファ殺しとしての力を、シャロンの薔薇に行使するだけ。

 それがマチュの目的であり、この土壇場でシャリア・ブルと打ち合わせた作戦だった。

 だが、今この瞬間ばかりはアマテの意識はチューリップのような形状のMAから逸れていた。

 

「お前、お前が……!」

 

 ジークアクスに似て非なる、紫色のMS(ジフレド)

 シャロンの薔薇から生えた奇妙な機械と、行く手を阻もうとサーベルを振りかざすその姿勢。

 そして何より、サイコミュを通じて伝わる困惑と恐怖の感情が、ゼクノヴァの下手人が誰であるかを雄弁に物語っている。

 こいつが、やった──シャロンの薔薇の中で眠るララァを利用して極彩色の嵐を引き起こし、ミカボシを殺したのだ。

 

「なんでミカボシを殺ったんだ!答えてよ!」

 

 何故、とアマテは叫ぶ。

 確かに宇宙海賊を何人も殺したのかもしれないし、そもそも戦いの場にいるというだけで殺される理由としては十分過ぎるかもしれない。

 だが、それが()()()殺される動機となるならばあまりにも惨すぎる。

 どういう意図があったにせよ、少なくともミカボシはイオ・マグヌッソを守るためにあの巨大なMAと戦っていたのだ。

 そんな彼を、()()()()()()()()()()青年をジフレドは裏切り、MAごと無慈悲に殺した──事もあろうに、ララァを苦しめてまで。

 許しておける筈がない。

 一体どんな大義があればミカボシが死なねばならなかったのか、と理由を問わずにはいられない。

 だが、返ってきたのは全く予想だにしない答えだった。

 

「……分からない、よ……」

「──ニャアン!?」

 

 それは間違いなくニャアンの声だった。

 ミカボシを殺したモビルスーツから、イズマの動乱の中で行方を眩ませた友人の声がする。

 なんで、どうして。

 分からないって、なに。

 一気に混乱の極致へ落とされたアマテは、思わず攻めの手を緩めてしまい──たたらを踏んだジークアクスに、ジフレドのサーベルが叩き込まれる。

 

「分かんないよ!ゼクノヴァを起こせば、シュウちゃんが戻ってくるって思ったのに……また四人で地球を目指せるって思ったのに!」

「……!」

「キシリア様は、キシリア様は先に警告するって言ったのに!」

 

 声が震えている。

 握りしめた拳でガン、ガン、とコンソールを何度も叩いている。

 過剰な負担をかけられたニャアンの精神が、末期の叫びを上げようとしている。

 

「どうしてこうなっちゃったの……!?どこで私は間違っちゃったの!?教えてよ、マチュ……!」

 

 滅茶苦茶な剣筋で打ち込まれるサーベル。

 そこから感じ取れる思惟は、戦いのそれと言うよりも癇癪を起こした子供のそれによく似ていた。

 実際、途方に暮れているのだろう。

 ゼクノヴァを起こせばシュウジが帰ってくる、なんて確証はないものの、ニャアンはニャアンなりによく考え、ミカボシを助けようと思ってイオ・マグヌッソの起動に及んだのだから。

 その結果何も起きないばかりか、大切な人の命を奪うことになるなんて誰が想像できるだろうか。

 アマテだって、ニャアンの立場になればきっと同じように錯乱していた筈だ。

 

(──責められないよ、そんなの)

 

 断片的ながら事情が分かってきた以上、もうニャアン──ジフレドへの怒りは収まっていた。

 代わりに「ニャアンがミカボシを殺した」というショックが遅れて直撃したが、ここ数ヶ月の経験を経てこれもまだ受け流すことが出来た。

 たとえどれだけ衝撃的な出来事に直面しても、決して足を止めてはならない──ミカボシとクランバトルで対戦した時に学んだ教訓だ。

 しかし、何より耐えられないことがある。

 

「ニャアン!武器を手放して!荒んだ心に武器は危険なんだ!」

 

 鍔競り合いとなったサーベルを押し返しながら、アマテは必死に叫ぶ。

 ニャアンと殺し合っているまさにこの瞬間こそ、少女にとって最も耐え難い状況だった。

 それに、今のニャアンは危険だ──ミカボシを殺したショックが、ジフレドのサイコミュを通して何倍にも増幅されてしまっている。

 半ば暴走していると言い換えても良いが、このまま無意味に感情を爆発させるだけの戦いを続ければ、自分か彼女かのどちらかが死ぬ未来は避けられないだろう。

 シュウジもミカボシもいなくなった上にニャアンを手にかけるなんて、そんなのは御免だった。

 

「────っ」

 

 だとしたら、どうする。

 この状況を打開するには、どうすれば。

 ジフレドの剣戟を受け止めながら、アマテは視線を彷徨わせ──不意にそれが視界を横切った。

 

(ゼクノヴァを起こす装置……?)

 

 シャロンの薔薇に取り付けられた奇妙な形状の機械。

 それは先にも述べた通り、イオ・マグヌッソの制御装置であり──戦い始めてからずっとニャアンはこれを背にして戦っていた。

 そこには是が非でも守り抜こうとするような、頑なな意図が見て取れる。

 

(──そうか!あれが悪さをしてるんだ!)

 

 ゼクノヴァだ。

 一見自暴自棄になったように見えて──いや、実際錯乱しているのだが、ニャアンはそれでもまだイオ・マグヌッソを使ってシュウジを取り戻す手段を諦めていない。

 寧ろ、ミカボシを自らの手で殺したせいでより後戻り出来なくなってしまったのだろう。

 ここでシュウジと再会出来なければ、一体彼は何のために死んだのだろう、と──そういう絶望に絡め取られた結果、ニャアンの精神は限界を迎えつつある。

 このままではそう遠くない内に致命的なラインを越えるであろうことは最早明白だった。

 それでも縋るのを止められないのは、あの装置があるから。

 人の手に剰る力と破壊を齎す寄生虫に、ニャアンは取り憑かれてしまっている。

 

(だったら──まずはあれを壊す!)

 

 方針を固めたアマテ──ジークアクスが、グワっとスラスターを噴かして突撃する。

 

「っ!?」

 

 これに驚いたのがニャアンだ。

 今の今まで──言い方が悪いが、善かれと思って取った行動が最悪の結末へ至った彼女の絶望を受け止める……謂わば「殴られ役」に徹していたジークアクスが、突然飛び出してきたのだ。

 この行動は、今一番辛い筈のマチュに当たってしまったことで僅かに落ち着きを取り戻し始めた心に強い動揺をもたらしていた。

 

「待って、マチュ、ごめ────」

 

 それでも、錯乱するニャアンが正気を取り戻すにはまだ一歩及ばなかった。

 思わず謝ろうとする口とは裏腹にジフレドの右腕は横薙ぎの一撃を繰り出していて、ジークアクスはそれを左腕の盾で機体を隠すように受け止める。

 拮抗は一瞬。

 機体全体を鞭のようにしならせて振った刃は、シールドごと相手を弾き飛ばして──()()()

 思わず唖然として動きを止めると同時、背後から襲ってきた衝撃にニャアンはコックピット内を跳ね回った。

 

「ぅあっ……!?」

「ごめん、でも……ニャアンとは戦わない。私が戦うべきだと思う相手はニャアンじゃない!そうでしょ!?」

 

 盾で視界を塞ぎ、その一瞬で背後に回る。

 ニュータイプ的直感を持つニャアンですら見抜けない、卓越した機体捌き。

 シャリア・ブルとの訓練が功を奏したのか、マチュの技量はクラバをやっていた頃と比較して驚くほど高く仕上がっていた──それこそ、本気なら今のニャアンなど一蹴出来てしまうほどに。

 そうして蹴り飛ばされたジフレドが壁に激突するまでの一瞬で、アマテは王手をかけていた。

 

「こんなものが、あるから……っ!」

「マチュ……マチュ!?お願い止めて!」

「止めない!」

 

 必死に懇願するニャアンの声を背中で受け止めながら、アマテは──ジークアクスはシャロンの薔薇に手を伸ばす。

 その瞬間、手のひらに感じる強い抵抗。

 

「……っ」

 

 海中から引き揚げた時点でMAの表面を覆うだけに留まっていた時間障壁は、今や周囲の空間にまで及んでいた。

 ゼクノヴァの起点にされたパイロット(ララァ)が、無意識の内に自己防衛を試みているのだ──これのせいで、制御装置まで後一歩という所で手が届かない。

 分厚い不可視の壁に阻まれ、押し返されてしまう。

 しかし、ジークアクスは端から()()()()()のために造られたモビルスーツ──リミッターを外し、アルファ殺しとしての能力を発揮する今なら、届かない道理はなかった。

 

「おおぉおおおおッ!!」

 

 コォ、と全身の光輪が眩い輝きを放ち、不可視の障壁に罅が入る。

 それは凍った水面に石を投げ込んだ時のようなスピードで急速に広がり、固定化された空間をビシビシと引き裂いていく。

 そう、ジークアクスとは歴史の流れに投じられた大きな一石。

 ニュータイプを兵器として扱うか、人の革新と見るか──アマテ自身は全く自覚していないが、重大な分岐点に彼女は立っている。

 そして、彼女の語る論理は単純で感情的だ。

 

「──シュウジにはまた逢える!」

「!」

「こんなものに頼らなくたって、ララァを苦しめなくたって、絶対逢える!私は何も諦めない!」

 

 シャリア・ブルが語るところによれば、この宇宙のどこかで過去に何度か小規模なゼクノヴァが発生したことがあるらしい。

 ゼクノヴァの発生はどうやらサイコミュの共振が原因であるらしい、とも。

 そして、此処にはジークアクスとジフレドがある。

 だったら、態々イオ・マグヌッソなんかに頼らなくてもゼクノヴァは引き起こせる筈──そんな、極めて簡単な理屈だ。

 根拠に乏しく、楽観的。

 普通に考えれば信ずるに値しない。

 

「マチュ……」

 

 けれど、ニャアンとアマテの付き合いは……ここ数ヶ月のものだが、とても深い。

 友好関係を超えた、単純に時を重ねるより遥かに強い絆で結ばれている。

 だから、嘘を言っていないことくらい分かる。

 本気でマチュはやり遂げるつもりなのだ。

 誰も殺さず、苦しめず、自分たちの力だけでシュウジを取り戻す──そんな綺麗事を。

 これまで何の苦労もなくサイド6で生きてきた少女が、そのために全てを懸けようとしている。

 

(……だから勝てなかったんだ)

 

 あまりに場違いだが、ニャアンは悟った。

 シュウジに対する恋心で負けたつもりはない。

 ニャアンはそのために全てを捨てるつもりだった。

 しかし、それではダメだ。

 きっと必要なのは全てを諦めない覚悟だった。

 何も捨てず、抱えられる限りの全てを持って走り続ける──そういう、ある種の我が儘とも言える気質だからこそ、シュウジに好かれたのだろう。

 彼もまた、あれで中々意固地だから。

 

 そりゃあ、勝ち目なんて無いに決まってる。

 

(そっか……そうだよね)

 

 それに気付くと、全身を這い回る鬱憤と絶望がストンと抜け落ちて──ニャアンは、操縦桿から手を離していた。

 そして、彼女の視線の先。

 障壁を引き裂いたジークアクスが、イオ・マグヌッソの制御装置を根元から引き千切り──鞭のようにしなったビームサーベルが、機械の寄生虫を真横に一刀両断する。

 まるで猪突猛進なマチュ自身を体現するかのような、迷いの無い一閃だった。

 

「マチュ」

「はぁっ……はぁっ……な、何?」

「ごめん。私、本当に取り返しのつかない事をしちゃった」

「いいよ……いや、全然良くはないんだけど。悪いのはあの機械だし、ミカボシだってきっとニャアンを責めたりしないと思う」

 

 全ての柵が崩れた以上、戦う意味などない。

 先程までの死闘が嘘のように穏やかな会話を広げながら、ジークアクスとジフレドは手を繋ぐ。

 単に接触回線を開くための行為だが──仲直りの際は握手をするものだと、古来からずっと決まっていた。

 そうして暫し互いの体温を感じていたアマテとニャアンは、やがてどちらからともなく顔を上げた。

 

「ニャアン」

「分かってる。此処は任せて」

「ん、ありがと」

 

 何となく。

 朧気ながら、共通する予感があった。

 まだ何も終わっていない。

 ニャアンにミカボシを討たせたキシリア・ザビなのか、別の誰かなのかは分からないが──イオ・マグヌッソには何者かの思惑が残っている。

 アマテはそれを確かめる必要があり、ニャアンにはまだもう少し心の整理をする時間が必要だ。

 だから片方が魔窟の奥へ挑み、もう片方が残ってシャロンの薔薇を守る。

 目線のやり取りすらせずとも、偶然から始まったベストコンビは互いの使命をよく理解していた。

 

 

「また後で」

「うん……また、後で」

 

 

 ミカボシとは果たせなかった約束。

 今度こそ違えない、と心の内で決意しながらジークアクスは──アマテ・ユズリハは飛び立った。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 コックピットのシートとは違う、柔らかく沈み込む感覚。

 仄かに香る、ポップコーンのチープな匂い。

 

 ──何処だろうか、此処は

 

 重たい瞼を開けて先ず感じたのは、薄暗さ。

 そして眼前に連なる座席の列。

 あまり行かなかった場所だな、となんとなく思う。

 この五年間娯楽の類とはあまり縁が無かったし、()()()ではポップコーンを買っても食べきれないことが殆どだった。

 そう考えて、気付く。

 

 ──そうか、映画館か

 

 成る程、そう考えればこの薄暗さにも納得がいく。

 上映中のシアターで光源らしい光源と言えば、非常口か映写機から投影される光くらいのものだろう。

 この自分自身が溶け込んでしまうような暗さはギャンのコックピットとよく似ていて、正直嫌いではなかった。

 

 しかし、何故。

 俺はどうして映画館にいるのか。

 最後の記憶はゼクノヴァの光に呑まれるところまでだった筈だ。

 それとも、これまでの戦いは全て自分の妄想か何かで──本当は、ずっと映画館で眠りこけていたのか。

 

 ──そうではない

 

 そうではない、筈だ。

 或いは、信じたいだけかもしれないが。

 ギャンに乗って戦ったこの五年の記憶は今も頭に焼き付いている。

 だから、こうしてただぼんやりとしている場合ではない。

 此処がどこであれ、生きているなら何かすべきことがある。

 そう、座席から腰を浮かせて────

 

「待ちなよ」

 

 声がする。

 よく、知っている声だ。

 この五年毎日聞いた声だ、間違える筈がない。

 そして、聞こえる筈がない。

 有り得ないことだ、と愕然としながら俺は隣の席に視線を見やる。

 

 

「もう少し見てからでも、遅くないと思うけど」

 

 

 俺──ではない。

 ミカボシ・ツヅラが昏い笑みを浮かべながら、一粒のポップコーンを俺に差し出した。




◯アマテ・ユズリハ
若者の青さと理不尽に屈しない人間の強さを併せ持つニュータイプ。
数多の脳破壊と苦難を乗り越えた結果鋼のメンタルと化した(ミカボシが死んだことに悲しみや怒りを覚えていない訳ではない)。
多分シュウジと同じくらい頑固。
ちなみにヒゲマンから「もうどうなってもいい」の件は聞いているが、ミカボシから預かったヴァルタP08があるので銃は受け取っていない。

◯ニャアン
ミカボシを殺したショックで錯乱していたが、マチュの説得…と言うか私を信じろ理論で鎮静化した。
アニメより大分落ち着いているが、シャロンの薔薇を守る(のと考える時間が欲しい)ためその場に残る。

◯ミカボシ・ツヅラ?/「俺」
映画館にて目覚める。

◯ミカボシ・ツヅラ?/「僕」
映画館で「俺」を待っていた。
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