どうするGQuuuuuuX   作:イナバの書き置き

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GQuuuuuuXの日(中)/大地に立つ

 ガンダムがイズマコロニーの周辺で目撃された、ということはペガサス級強襲揚陸艦ソドンが派遣されるのと同義であり──つまり、緑のおじさんことシャリア・ブルが来るということだ。

 ぶっちゃけエグザベ少尉はどうでもいいが、シャリア・ブルは拙い。

 非常に拙い。

 何故拙いのかと言えば、俺と彼は面識があるからだ。

 と言っても、「俺」がこの身体に憑依する前──ミカボシ少年がまだその自我を保っていた頃、それもフラナガン機関の通路で一度すれ違っただけの関係だが、ほぼ間違いなく向こうは俺を覚えているだろう。

 しかも、下手に顔を会わせようものなら優れたニュータイプである彼に「僕」が「俺」になっていることを見抜かれる可能性がある。

 中身が変わっていることに気付かれたら何なのか、と思うかもしれないが──もし憂いている「今後」にまで踏み込まれたらどうなるか。

 グリプス戦役のMSとか、ガンダムを連邦から奪取出来なかった本来の宇宙世紀とか、俺の頭の中には知られたらいけない知識が山ほど詰まっている。

 ニュータイプは単なる読心能力者じゃない、と分かっていても、自身と宇宙世紀のため彼を避けておくに越したことはないのだ。

 尤も、そんな此方の考えすら先回りしかねない異常な勘の良さがニュータイプたる所以なのかもしれないが。

 

 それに、マチュ。

 

 マチュが気がかりだ。

 ハッキリ言って、映画でのマチュの行動は狂犬とか猪突猛進呼ばわりも仕方ないと思えるほどの綱渡り具合だった。

 違法インストーラーが鞄に紛れたことに始まり、取り返しに来たニャアンを罠に掛け、そのまま一緒にインストーラーの届け先に赴き、貧民街を荒らす軍警に憤ってポメラニアンズのザクを動かし──トドメに、生身でGQuuuuuuXに飛び移ってオメガサイコミュの起動まで。

 どれか一つでも失敗しようものなら命に関わるレベルの大博打を、スマホを弁償して欲しいからなんて単純な動機を発端にして打ちまくっている。

 主人公だから成功するものとは知っていても、映画館ではその常軌を逸した行動力にハラハラさせられたものだ。

 

 だから、そのマチュが現実の存在となって。

 早ければ数時間後には命懸けの綱渡りをすると知っていて──果たして止まるべきか、手助けするべきか。

 それとも何もせず傍観者に徹するべきか。

 白状すると、どうすればいいか分からない。

 流れを知っている身からすれば何をせずとも良いのだが、あの溌剌として外の世界に興味深々なマチュと三年間交流してきた自分は、危険な場所に飛び込んで欲しくないとも思っている。

 命を賭け金にした賭博なんて、やらないに越したことはないのだから。

 それは物語に致命的な破綻をきたし、マチュ自身も望んでいない選択かもしれないが──あの改札でニャアンとぶつからない方が穏やかな一生を過ごせるのではないか、とどうしても考えずにはいられない。

 俺はマチュと話す内にすっかり絆され、いつの間にか彼女を本当の姪のように思うようになってしまっていたのだ。

 

(……くそったれ)

 

 脳内で「感情を処理できん人類はゴミと教えたはずだがな」と嘯く貴族主義者を無理矢理片隅へ押しやりながら、心の中で一人ぼやく。

 大体、上手く処理出来たら最初からこんな苦労はしていないだろうに。

 もっと上手い方法でジオンから逃れただろうし、イズマコロニーのジャンク屋にも就職しないし、調子に乗ってうっかりユズリハ家の隣に越したりなんてする訳がない──何より、MSで海賊を殺して何も思わなくなりつつある自分に落胆したりする筈がない。

 その上、然して鋭敏でもない鈍らを振り回しているから尚のこと始末に終えない。

 結局、どうしようもないほど生の感情で動く人間というヤツなのだ、俺は。

 そして、だからこそ──今もギャンのコクピットで、コンソールを弄り続けている。

 

「にしても、まだ参加申請もしてないのにこっちに移すなんて……今日はえらい張り切ってますね」

「最近は清く正しく働いてて、クランバトルなんてめっきり出てなかっただろ。コロニー付近で戦うのも久し振りなんだから、整備はちゃんとしておくに越したことはないよ」

「ハハ、違いないっすわ」

 

 度重なる改造と武装の変更で、ギャンのバランスは原型から大きく変わっている。

 そのせいで、エーオースのベイオネットを装備した時などAMBACすらマトモに出来なかった。

 だから補給用の丸太みたいなケーブルを抱えて汗を流すメカニックと軽口を叩きながらも、自己診断プログラムを走らせるコンソールからは目を離さない。

 向こうもそれを理解しているプロフェッショナルだから、腹を立てることもない。

 乾いているが、比較的良好な関係だ──それが違法行為に参加する準備でなければ、もっと健全だったろうが。

 

(それにしても、狭いな)

 

 此処は、サンフラワーの格納庫ではない。

 難民たちが集まった結果無秩序に広がる貧民街の一角──クランバトルに参加するためツキモリが借り上げた、MSの整備工場だ。

 と言っても元はただの金属加工に使われていた場所らしいから、ギャン一機横たえるだけでスペースの大半が埋まってしまう。

 休憩中の社員たちは隅の方に追いやられ、機体の上に立って点検をしているメカニックも天井に頭をぶつけないよう背中を丸めなければいけない。

 偽装に本気を出し過ぎた結果、寂しい懐事情でクランバトルに挑む者たちの真似も本気でする羽目になるのが、この工場の欠点だった。

 だが、何の意味もなくこんな狭苦しい場所に閉じこもっている訳ではない。

 

「武装のチェックも念入りに頼む」

「ミカボシさん、ちょっと気合い入り過ぎっすよ。もっと肩の力を抜いて、ゆっくりやりましょうや」

「分かってる。コロニー内で武装しているのがバレたら、流石の軍警も見逃してくれないからな」

 

 一見すると気が逸っているようにしか見えない俺をメカニックが心配してくれるが、残念ながら地下通路に繋がる穴ではなく態々工場内に出してまで整備を行っているのは、その軍警と事を構えるためだ。

 無論、事が本当に始まって映画通りに進むなら横槍を入れるつもりはない──ザクが荒らし回る貧民街でぼーっと突っ立ってるくらいなら、いっそ思い切ってGQuuuuuuXに乗ってくれた方が安全だろう。

 余計な事をしなければ、マチュが死ぬことはない……筈だ。

 

 だが、もしそうならなかったら。

 

 何らかの理由でマチュがGQuuuuuuXに乗らず、貧民街から逃げ出すことも出来なかったら。

 コロニーの住民を守る筈の軍警によって、生身の彼女が脅かされることがあるのなら。

 その時は俺がザクを倒す、しかない。

 ツィマッドの思惑は知らないが、少なくともその時のために俺は五年間かけて準備してきた。

 見た目がクリーガーになるほどギャンを改造し、海賊狩りで操縦技能を鍛え、不運を利用してマチュの周囲に警戒網を張り巡らせた。

 どう転んでも会社やオヤジさんには大迷惑をかけるだろうが、絶対に失敗は許されないのだ。

 

 ──どうなる、GQuuuuuuX

 

 ギャンのコクピット。

 孤独な宇宙でたった一つの、俺の城とも呼べる場所で思考を巡らせ続ける。

 考えられるパターンは全て想定した。

 欲を出してユズリハ家のお隣さんに、なんてヘマはもうしない。

 何より、傲慢かもしれないが今の俺には力がある。

 物語をあるべき方向に戻すか、或いは逸脱させるか選択するだけの力が。

 ゼクノヴァを見上げて逃げ出すことしか考えられなかったあの時とは違う。

 何者でない俺にだって、きっとやり遂げられる筈だ。

 

「……!」

 

 と、ポケットに入れていたスマホが通知音を鳴らす。

 取り出して、メッセージを確認して──溜息が漏れた。

 

「ちょっと、出てくる」

「彼女サンすか?ミカボシさんも隅に置けないっすねぇ」

「バカ言え、隣家の子だよ。よく鍵忘れるから頼られてんの」

「ロリコン……?」

「阿呆、人聞きの悪いこと言うな」

 

 揶揄ってくるメカニックに言葉の礫を投げつけながら、工場を出る。

 見上げるコロニーの空は、そろそろ夕暮れ時へと移りつつあった。

 管理された空。

 人工的な、作り物の空。

 ガンダムシリーズでは地上と全然違うとかアレコレ言われていたが、俺にはぱっと見何が違うのか分からない──スペースノイドの身体に、精神が引っ張られているのだろうか。

 そもそも、この世界は分からないことだらけだ。

 五年かけてもシャロンの薔薇が何なのか全く探れなかったし、こうしてシュウジがコロニーの外壁に落書きを始めるまで先んじてガンダムを見つけることも出来なかった。

 けれど、そんな俺でも一つだけハッキリ分かったことがある。

 

 

 

 ──ミカボシ、もう帰って来てる?

 

 ──暇ならちょっと手伝って欲しいんだけど

 

 

 

 いよいよ、()()()がやって来たらしい。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 今日は厄日だ、とニャアンは思った。

 ニャアンは特にこれと言って信心深い訳ではない。

 そもそも人の革新がどうのなんて知りもしない。

 だが、ただ物を届けるだけのアルバイトの筈が、朝一番から軍警に追い掛けられ、何処かのお嬢様っぽい子供にぶつかり、その子供に依頼の物を持って行かれ──一つでも面倒な出来事が、次から次へと連鎖して襲いかかってくる。

 そして、極め付けはこれだ。

 

「欲しいのって、これでしょ」

「悪いようにはしないから、大人しく観念して欲しいな」

 

 位置情報を頼りに取り返したと思った依頼の品──違法インストーラーはすり替えられ、朝ぶつかった子供とその仲間らしい男に追い詰められる事態こそ、臆病な少女にとって地獄そのものだった。

 赤毛の少女の方はその行動力としつこさに驚かされるばかりだが、男の方が更に良くない。

 細身にロングコートと言う「如何にも」な出で立ちの時点でニャアンはもう逃げ出したかったが──その襟元に縫い付けられた、小さな紋章。

 見間違える筈がない、公国軍のものだ。

 しかもミリタリーショップで売っているような偽物ではなく、突撃機動軍固有の……本物の公国軍人が、少女のバックに付いている。

 軍警なんかより遥かに性質の悪い、絶対に出会いたくない相手と対面する羽目になったニャアンの表情は一気に青褪めた。

 尤も、少し考えれば中立コロニーであるサイド6でジオン軍人が大手を振って取り締まりを行うなんて有り得ない──況して子供と一緒になって追いかけてくるなどおかしいと分かる話なのだが、精神的に追い詰められた彼女にそれを考える余裕はなかった。

 

「名前は?」

「……ニャアン」

「……俺はミカボシ。事が済んだらちゃんと解放するから、もうちょっとこの子の我儘に付き合ってあげて」

「そう、ですか」

「ほら行くよミカボシー!」

 

 しかも、スマホの修理代が払えないと言ったら届け先にまで一緒に付いてくると言う。

 そう宣言された時の悲壮感と言ったら、逆に公国軍人──ミカボシが自ら被った「怖いジオン軍人」の皮を脱いで気を遣うほど。

 

 そして、今。

 

 ニャアンは、違法インストーラーの届け先であるカネバン有限公司の屋上から──()()のザクによって荒らされる貧民街を呆然と眺めていた。

 

「なんで、こうなるんだ……」

 

 ミカボシも、どこか落胆したような……沈んだ声を漏らしながら、ニャアンの隣に立っている。

 赤毛の子供は──アマテとかいうのは「やっつけてやる」と言って飛び出したっきり戻ってこない。

 

(……無理。やっつけられる訳がない)

 

 恐らく、違法インストーラーの使用先──クランバトルに出場するためのザクで立ち向かうつもりなのだろう。

 だが、一対四の多勢に無勢で素人が軍警に敵う筈がない。

 そして、死ぬ……或いは捕まって、虐げられる。

 プチモビで故郷から逃げ出してイズマコロニーに流れ着いて以来幾度となく繰り返された、弾圧の道理にアマテも呑まれる。

 バイトを妨害し、罠に掛けた相手が悲惨な目に遭うのだから喜んでもいい筈なのに、ニャアンの心は沈んだ場所から1ミリも動かなかった。

 

「……」

 

 と、隣のミカボシが踵を返す。

 ひどくぎこちなく……自分が望んでするのではなく、何かに背中を押されて無理矢理身体を動かすかのように。

 その、昏く怯えた瞳がニャアンを一瞥して────

 

「待って」

 

 訳もなく、カッと胸の奥底で煮えた羞恥心のままに、ニャアンはコートの裾を掴んでいた。

 

「何をするつもり、なんですか」

「説明してる暇がない」

 

 返ってくる言葉はにべもなく、背筋を震え上がらせるほどに硬質だ。

 如何なる理由か、男がニャアンを拒絶しているのは明白だった。

 けれども──ニャアンも、退かない。

 否、退けない。

 

「危ない、ですよ」

「知ってる」

「だったら────」

 

 原動力は、己への羞恥心だった。

 ミカボシが何か後ろ暗いものを抱え、全てに疲弊しているのはザクを眺める彼の視線を見れば分かった。

 それは、自分と同じだ。

 程度は違えど、闇バイトでその日を食い繋ぎ、そこから抜け出す術を探ることすら出来ないほど疲れきっているのはニャアンも同じだ。

 なのに男は諦めていなかった。

 恐らくニャアン以上にどうしようもない自分自身に絶望していながら、それでも絶対的な弾圧の象徴である軍警に、何かしらの手段で立ち向かおうとしているのだ。

 すると、途端に停滞している自分が恥ずかしくなってくる。

 別に見て見ぬ振りをしてもいい筈なのに、その方が間違いなく安全だと分かっているのに、恥ずかしくて仕方がなくなって──口が、勝手に動き出す。

 

 

「……だったら、私も行く」

 

 

 やはり、今日は厄日だ。

 自分一人が動いたところで、どうせ何も変わらない。

 それでも、ほんの気紛れでニャアンは振り絞ったのだ。

 自分すら残っていると思っていなかった、勇気というものを。

 そして、宣言に打たれた男の昏い瞳が揺らぐのを彼女は見逃さなかった。

 

 

 

▲▼▲▼▲

 

 

 

 どうやら、整備を終えたメカニックや社員は既に帰宅しているようだった。

 そのせいで、ザクが建物を片っ端からひっぺがしていてもギャンは工場に横たわったままだったが──それが逆に、都合が良い。

 

「大目玉で済んだらいいな……」

 

 ジェネレーターに火が点る。

 肩の排気口から、幾度となく熱気が噴き出す。

 広げられていた機械の指が握り拳を作り、パルスモーターにエネルギーが行き渡る。

 そして、何より──ニャアンがいる。

 

「悪いけど、予備席とかないから。背凭れに掴まってて」

「う、うん……」

 

 操縦の妨げにならないよう指示しながら「一体俺は何をやってるんだ」と思わずにはいられなかった。

 それに何でニャアンが付いてくるのか、とも。

 もう何もかも滅茶苦茶だ。

 身構えている時に死神は来ない、どころか身構えていても全く予想外の方向から鎌が振り下ろされる現実に、悪態を吐きたい気分だった。

 それでも、やるしかない。

 ここで彼女を死なせる訳にはいかない。

 どんな状況であれ、事情があれ──考えることと動くことを止めてはならない。

 この世界は「機動戦士ガンダム」の世界なのだから、MSも頭も動かし続けてなんぼなのだ。

 

「行くぞ……!」

 

 ニャアンに、ではなく自分に向けて叱咤しながら、操縦桿を思い切り前に倒す。

 ゆらりと持ち上がった鉄騎の腕がバリバリと工場の屋根を引き裂き、ついで背中のバーニアを蒸かしながら上体が持ち上がり──架空の夜空が、目の前に広がる。

 GQuuuuuuXとガンダムを追ったのか、レーダーに映る軍警のザクは二機にまで減っていた。

 

 

「ギャン、発進する!」

 

 

 勝負を仕掛けるなら、今。

 コロニーの大地に、ギャンが立つ。




◯ミカボシ・ツヅラ
本当に何もかも思った通りにいかないニュータイプのなり損ない。
ストーリーの流れに介入すべきか悩むほどマチュに入れ込んでしまっており、ニャアンに看破されてしまうほど精神状態が悪化している。
軍警と事を構えるまでは想定したけどまさかニャアンが付いてくるなんて想像もしていなかった。

さりげなくマチュがニャアンの名前を訊ねるシーンを潰してしまってもいる。

◯ニャアン
自分でも何故ミカボシに同道を申し出たのか分からない。
映画における彼女の気質を考えれば普通に有り得ないことなのだが、既にミカボシ当人の認知しないところで流れに影響を及ぼしてしまっていた。

◯アマテ・ユズリハ(マチュ)
ニャアンを罠にかける時逃げ出されたら厄介なのでミカボシを呼び出した以外は概ね映画通り。

◯軍警ザク
二機から四機に増えてる。
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