どうするGQuuuuuuX   作:イナバの書き置き

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こんにちはお急ぎですか

 手当ては、ニャアンによって恙無く行われた。

 と言うか、映画での不器用振りに反してかなり手際が良い──多分、難民としてその日暮らしを続けていくためには怪我の面倒も自分で見なければならなかったから、自然と身に付いたのだろう。

 ただでさえ世知辛い雰囲気を漂わせているのに、更に彼女の辛い一面を知って俺は何とも言えない気分になった。

 とは言え、そのお陰で自分だったらああでもないこうでもないと三十分近くかけそうな手当てが、五分と少しで終わった訳で──仮にも元軍人なら手当のやり方くらい知っているだろう、と指摘されそうだが、残念なことにフラナガン機関はそんなこと欠片も教えてくれなかった。

 ツキモリで安全講習は受けたが、精々その程度。

 なので彼女に対して抱くべきは憐れみではなく、感謝の気持ちに違いない。

 

「ここに来れたってことは大丈夫だったんだろうけど、無事に逃げ切れた?」

「うん……軍警にも見付からずに、何とか」

「そうか……なら良かったんだ。MSを隠す途中で放り出すような真似をしたから、心配だった」

 

 そして今──俺と自転車を引くニャアンは、ぽつぽつと昨日の出来事について話しながら川沿いの遊歩道を歩いていた。

 別に、どちらから誘った訳でもなかった。

 ただ、昨日は成り行きからとは言え一蓮托生の身だった訳で──それについてちゃんと整理しないとお互いモヤモヤしたものが残りそうで、何となく嫌だったのだ。

 そして話を聞く限りでは、ニャアンの方は何事もなく済んだようだ。

 ギャンに乗せたままツキモリまで一緒に行く訳にもいかず、隠し通路に入る前に彼女を降ろしたのだが、MSによる格闘戦で滅茶苦茶になった市街に身一つで放り出されても持ち前の身のこなしで上手いこと逃げおおせたらしい。

 特にザクを回収しに来た軍警の封鎖は大がかりかつ厳重だったと思うが、それをすり抜けるとは驚きだ。

 映画ではポンコツな面ばかり目立っていたが、その日暮らしの難民で五年も生きてきただけはある、ということか。

 だが、向こうが顛末を話したということは、此方も話さなければならない、ということで。

 

「えっと……ミカボシさん、は」

「ミカボシでいい……まあ、見ての通りだ。会社のMS持ち出して軍警とドンパチやったんだから、この程度で済んだと言った方がいいかもしれないけどな」

「やっぱり……」

 

 そういう顔をさせたかった訳ではないが、素直に答えれば案の定サングラスの下でニャアンの表情が曇る。

 チリチリとギアがチェーンを送り出す音も遅くなり、ペースが一歩遅れ出す。

 俺が自分の身勝手でMSを動かして、彼女はその現場に居合わせただけだ。

 別にニャアンが責任を感じる必要はない。

 そもそも、こうやって話に付き合う必要すらない。

 なのにそれが出来ない不器用さと律儀さが、ニャアンがニャアンたる所以であり──こうして二度も俺と彼女を結び付けた理由なのだろう。

 

 それにしても、だ。

 

 映画のキャラクターに極力関わらず、裏から支援するという当初の計画はもう完全に破綻してしまっていた。

 いや、そもそもはジオンやサイド6にすら寄り付かないのが目標だったのだから、妥協したラインすら守れなかったと言う方が正しいか。

 結局、たまには贅沢をしたいと欲を張り、ツキモリと公社の仲を利用して無理矢理引っ越した部屋の隣がユズリハ家だった時点で俺の運は尽きていた。

 マチュ、ニャアン、カネバン有限公司──今後のストーリーの軸になるであろう人物たち殆ど全員と面識があるようでは、とても裏方とは言えまい。

 所謂「機動戦士Gundam」の表舞台に、もう望む望まないに係わらず上がるしかないのだ。

 尤も、今の俺には何の力も無いが──と、一人諦念を噛み締めていると、また袖を引っ張られる感触があった。

 

「あの」

「なに?」

「その……なんで、あんなことを?」

 

 あんなこと。

 つまり、ギャンで軍警をぶちのめしたこと。

 確かに、俺はそれについて語らないままMSを動かしていた──ニャアンからすると、ただ自分の身を危険に曝すだけの不可解な行為と映ったに違いない。

 だが、それについては俺自身も上手く説明出来る自信がなかった。

 何せ勢いと言うか、怒りと言うか、得体の知れない感情が頭の中で爆発して、気付けば走り出していたのだ。

 一時の感情です、なんて言われて彼女も納得は出来ないだろう。

 だから、強いて言語化するなら────

 

「人の死に方じゃない、と思った」

「人の……」

「最初はアマテ……あの跳ねっ返り娘を助けようと思ってたんだけどな。朝のニュースで、死傷者多数だってさ」

「……」

「難民だって、普通に生きてるんだ。明日の予定も、明後日の予定だってある。それが、ザクが剥がした屋根とかに潰されて……そんなの、人の死に方じゃない」

 

 そう、難民たちは被害者だ。

 公国の独立だのと理念だけは高尚な戦争に巻き込まれて、一方的に故郷を喪った人たちの集まり。

 人類の半数が死ぬほどの戦争から何とか生き延びた彼らの末路が瓦礫の下なんて、いくら何でもあまりにも惨すぎる。

 ザクの暴虐を見ている内に、そういう憤りが映画の流れを守ろうとする思惑を押し退けんばかりに溢れてきてしまった。

 ただマチュを助けるだけのつもりだったのに、結局それに付随する様々な物事に見て見ぬ振りをすることが出来なかった。

 それだけの、何とも理性的ではない話なのだ。

 

 ……まあ、人の死に方と言っても俺は例外だが

 

 元がフラナガン機関の被験者で、籍だけとは言え元突撃機動軍のジオン兵。

 海賊狩りで、既に両手の指に収まらない人数を既に殺してきた。

 そんな奴の末路が、穏やかなものである筈がない──人殺しにもう心が動かずとも、その結論だけは五年前からずっと変わらなかった。

 

 ──だからマチュには乗らないで欲しかったのに

 

 映画の時点では、まだ誰も殺していなかった。

 でもこの世界は「ガンダム」だ──息をするように戦争、紛争が繰り返される地獄の宇宙世紀だ。

 そこで戦う力を手にしたマチュが、誰も殺さずに物語の最後まで辿り着けるか?

 そんな訳はない。

 どれだけ身構えていても、遠ざけようと、必ず「その時」はやってくる──あの天真爛漫で、人を心の底から温かくしてくれる少女が、何処かの誰かを殺すのだ。

 俺は、その瞬間をどうしても見たくなかった。

 そしてそんな男のみっともない感傷を、その日を生きるので精一杯な少女に打ち明けるつもりも。

 

「バイト、まだ届ける所あるんだろ?」

「えっ……うん」

「手当てしてくれた御礼だ、手伝うよ」

「ジオンの軍人が、そんなことして……」

「元だよ、元。大体ジオン軍がサイド6で難民の取り締まりなんてしてたら、政治問題だろ」

「じゃ、じゃあ、昨日のは……」

「ハッタリ。君のコスプレ制服と同じでね」

 

 意図して話題を変え、呆けた表情をしているニャアンの隙を漬いて荷台からひょいと荷物を奪い取る。

 中身は、沢山のスプレー缶に、インストーラーの硬い感触──とすると、行き先はシュウジか。

 ならいっそ、行ってしまおう。

 自宅待機は言い渡されているが、これは帰る途中に寄り道をしているだけであって、命令に背いている訳ではない。

 そんな言い訳を自分にしつつ、もうここまで関わってしまった以上、遠慮をするつもりはなかった。

 やれるだけやって、出来るだけ良い結末を掴むしか、俺には残されていないのだ。

 だが、そのためには────

 

 

 

「──ソドン、か」

 

 

 

 俺たちの遥か頭上に重々しく佇む、昨日突入してきたジオンの艦。

 協力するにせよ敵対するにせよ、あれをどうにかしなければ話が進まないのは確かだった。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

 マチュ──アマテ・ユズリハは不機嫌だった。

 それこそコロニーの外壁を突き抜け、宇宙空間にまで何か影響を及ぼしそうな程全身に不機嫌のオーラを纏っていた。

 だが、ほんの少し前までは寧ろ彼女至上稀に見るほど上機嫌だったのだ。

 言葉に出来ない「何か」を感じて学校を飛び出して、辿り着いた先に描かれたグラフィティ……昨日体験した「キラキラ」を表現したそれとの巡り合い。

 そしてそれを描いた不思議な雰囲気のイケメンことシュウジとの邂逅は、詰まらない日常に誘引されつつあったマチュの心を一気にまたあの冒険と自由の時間に立ち戻らせた。

 そこにニャアンがやって来たのも、運命の巡り合わせと言うか──西暦時代の神様とやらの実在を信じたくなる程度に、全ての縁がマチュの周囲に集っていた。

 だが────

 

「コンニチハ」

「お急ぎですか」

 

「別に急いでいませんよ……」

 

 何でミカボシが、ニャアンと一緒に現れるのか。

 それも、ご丁寧に闇バイトの符丁を分割したりして──何だかお互い知った風な顔をして。

 

 これには、カチンときた。

 

 マチュは、本当に心配したのだ。

 軍警をやっつけてやると勇んでザクに乗り込み、その後GQuuuuuuXに乗り換えてガンダムと共にザクを倒したはいいものの、戻ってみればあの細身にロングコート姿が何処にもない。

 しかもカネバン有限公司の面々に訊いてみれば途中で飛び出していったと言うし、帰ってからテレビを点けて見ればニュースキャスターはガンダムとはまた別のMSが暴れていたと言う。

 結局その日はどれだけ耳を澄ませても隣家の鍵が開く音は聞こえなかったし、何度メッセージを飛ばしても既読すら付かず。

 流石に日付が変われば帰ってきているだろう、と思って翌日の登校時にチャイムを鳴らしてみてもまだ何の反応もない。

 もしや戦闘に巻き込まれてしまったのではないかと授業中も気もそぞろで、ひたすら彼の無事を祈っていたのだ。

 

「へー、良いご身分ですねぇ」

「……え?何が?」

「べっつにー?自分で考えたら?」

 

 それが、自分のスマホを壊した闇バイトと一緒に顔を見せるとは。

 しかも何やら距離が縮まっていると言うか、まあ見るからに仲を深めていると来れば、無事を祈った時間を少しは返して欲しいとマチュが憤るのも仕方ない話だった。

 ただ、何があったのかは知らないがイケメンとは言わないまでもまあ「それなり」だった顔面が絆創膏やガーゼだらけだったので、マチュの溜飲もそれなりに下がった。

 と言うかまるで集団リンチにでも遭ったかの様相に、軍警の横暴に憤りを覚えるほど根が「いい子」なマチュは早々に怒る気も失せていた。

 ツンケンしているのも、フリだけだ。

 が、しかし────

 

「……煤けた匂いがする。もっと心を開いた方がいい」

「……だろうね、俺もそう思ってる」

「……そっか」

 

 ちょっと目を離した隙に、今度はシュウジと二人で何か分かったような雰囲気を醸し出している。

 これには流石のマチュも「ちょっと待って」と口を挟まざるを得なかった。

 

「いや、それは違うでしょ」

「……何が?シュウジは分かる?」

「さあ……」

 

 別に出会って数分の男の子に独占欲があるとか、そんな訳ではない。

 しかしシュウジと出逢ったのはマチュが先で、「キラキラ」を共有しているのもマチュとシュウジだけだ。

 軍警を二人で倒した、なんて経験も自分たちだけのもの。

 何と言うか、マチュのボキャブラリーでは表現し難いが──二人だけの、特別な繋がりがあるのだ。

 にも拘らず、ミカボシは彼と何か訳知り顔で話し出したのである。

 ニャアンとも、シュウジとも何かある。

 それなのに、自分には何もない──疎外感のようなものを感じて、消えかけていた怒りの火が一気に再燃した。

 

 極めつけは、これだ。

 

「……あぁ、ガンダム」

「……え?何で名前知ってるの?」

「いや、何でも何も俺元ジオン軍人だし……突撃機動軍だよ?シャア大佐が乗ってたMSを知らない訳ないだろう。まあ、此処にあるのには驚いたけど」

「それ初めて知ったんだけど……何で隠してたの」

「特に隠してないが……コートとか、昨日も着てただろ。もうとっくに気付いてるものだと……」

 

 シュウジの隠れ家にあるMSがガンダムだと教えても全然驚かないし、逆にジオン軍人だったことを今になって知らされてマチュの方がひっくり返りそうになった。

 いや、確かに──彼の殺風景な部屋に何時も掛けられていたコートの襟元にはどこかで見たような黄色い紋章があったし、彼の話は戦争が終わった後から始まるものばかりだった。

 ちょっと調べればすぐジオン軍人だと分かるほど要素は散りばめられていたし、自分から過去に触れようとしなかっただけで特段隠している訳でもなかった。

 だが、知らないものは知らないのだ。

 そうして、懐いていたミカボシのことを全然知らなかったことに、今更のように気付かされたマチュは──拗ねた。

 

「なあ、機嫌直せって……クランバトル出るんだろ?」

「うるしゃい……言われなくても出る……」

 

 困りきった様子で声をかけるミカボシを、マチュはシュウジの寝床にあった毛布を頭から被って膝を抱えながら拒絶する。

 もう恥ずかしいやら恨めしいやら、自分自身の感情が良く分からなくて──兎に角周囲と一度隔絶されて落ち着かないと、色んな意味で顔から火が出そうで仕方がない。

 と、隣に腰を下ろす気配がある。

 

「まあ、いいや。落ち着くまで待つよ……」

「……」

 

 どうやら、ミカボシはマチュの籠城に付き合うつもりらしい。

 それがまた何と言うか……腹が立つ。

 

 ──大人って、みんなこうなの?

 

 ミカボシは心の余裕とか、諦めとか、そう言う自分には分からないものを彼は持っている。

 母──タマキだってそうだ。

 管理局の人間として忙殺されている筈なのに、自分の前では疲れを全く感じさせない「いいお母さん」で──やっぱり、どうしてそんなものを持てるのかマチュには理解出来なかった。

 

「……」

「マチュ?」

 

 もそもそと毛布をかき集め、改めて声以外の全てを外界と絶つ。

 そうして、深く息を吸って、吐いて。

 自分の中で煮えるものを、彼らの見よう見真似で鎮めてみて──口を開く。

 

「ねぇ、ミカボシってジオンの軍人だったんでしょ。モビルスーツで戦う時のアドバイスとか、何かない?」

「アドバイス?」

「クラバ、勝たなきゃいけないから」

「そっか、なら……」

 

 暫し、ミカボシは沈黙した。

 マチュも、口を結んで何も言わなかった。

 きっと、それは彼にとって必要な時間だったから。

 でも、そのまま彼がずっと黙っているとは思わなかった。

 何故なら、ミカボシは────

 

 

「──MAVを、シュウジを見失うな」

 

 

 窓の少年は、今でもマチュに広い宇宙を見せ続けているのだから。

 




○ミカボシ・ツヅラ
顔面凸凹系ニュータイプのなり損ない。
「マチュはGQuuuuuuXに乗るべきだし乗った方がいいけど乗らないで欲しかった」などと支離滅裂な思考・発言をしており、多少マシになったとは言えメンタルのやられ具合は相変わらずで、大分映画の流れに食い込んでしまっているから割ともうどうにでもな~れ☆な精神で動いている節がある。
ただしマチュの前では参ってる自分は一切見せないなど、隣家のお兄さんムーヴは筋金入り。

○ニャアン
同じMSに乗って軍警を倒しちゃった身なのでミカボシとは一蓮托生状態。
ミカボシに対する好感度はそれなり。

○シュウジ・イトウ
うわっ、このニュータイプっぽい人めっちゃ煤けて濁った臭いする…とガンダムが言っている。

○アマテ・ユズリハ(マチュ)
巻き込んだと思った隣家のお兄さんは
何かニャアンと仲が良くて
何かシュウジと謎に通じ合ってて
元ジオン突撃機動軍でした…
でもMAV戦のアドバイスくれたからヨシ!

なお、ミカボシがギャンのパイロットであることは未だに知らない。
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