どうするGQuuuuuuX   作:イナバの書き置き

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無重力戦線/些細な葛藤

 120ミリ口径の嵐が吹き荒れる。

 人間であれば形すら残さず、生半可なMSであれば数発の被弾で爆発へ至らしめるザク・マシンガンの暴威は、大半の出場者が民間に払い下げられたザクで臨む以上クランバトルで最もメジャーかつ有効な武装だ。

 バズーカや対艦ライフルほどの火力は過剰だが、適度にばら撒いてダメージを与えられる遠距離武器が欲しいというクラバ特有の事情とマッチしているのだろう。

 これまでの試合を全て振り返ったとしても、寧ろ持っていない方が珍しい。

 だが、GQuuuuuuXは──否、鋼鉄の躯体そのものと化したアマテ・ユズリハは、追い縋る火線の隙間を悠々と泳いでいた。

 

『敵は二機いるんだ!MAV戦だぞ!?』

 

 通信の向こうでは、とことんまでクランバトルのセオリーを無視するマチュに見ていられないと言った調子でジェジーががなり立てている。

 実際、マチュのやり方はクラバの常識から考えると最悪レベルの悪手に近い。

 慎重に索敵するべき場面で無用に動き回って相手に先手を許し、MAVであるガンダムからどんどん離れていく形で二機の射線に追い立てられる。

 一切反撃せず、ひたすら回避に集中するしかないその様は、一見すると初めてのクラバに混乱して逃げ惑っているようにしか見えないだろう。

 だが、実際は違う。

 

「やっぱり、ミカボシの言った通りだ……!」

 

 交戦開始から二分と少々、その間ずっと二機がかりで追われているGQuuuuuXの装甲には未だ傷一つ付いてない。

 スラスターを縦横無尽に吹かせて機動を読ませず、不規則な動きで火線を躱し続ける姿は──「実戦」を経験した者の目線には、逆に身一つでザクを翻弄しているように見て取れるだろう。

 間合いを直感的に理解しているマチュは、ぶっつけ本番で直撃スレスレの回避を幾度も成功させていた。

 そして、それこそが彼女の狙いでもある。

 

『まあ、ジェジー辺りには色々言われるだろうが……セオリーは全部無視していけ』

『いいの?そんなことして』

『情報を流してもらったんだが、今回の相手は元ジオン兵らしい』

 

 至近弾の炸裂に揺さぶられながらも、思い返す。

 MAV戦を熟知した相手に素人が普通のMAV戦を挑んでも、勝ち目はない──ミカボシの言葉通りだ。

 現に追い縋ってくるマシンガンの火線は正確で、常に挟み込むような位置取りから狙ってくる。

 見事なまでのクロスファイアを一発の被弾も許さず躱し続けられているのは、GQuuuuuuXの極めて高い機動性と直感的な操作に反応してくれるオメガサイコミュがあればこそ──マチュのセンスは高いが、こうも相手が手練れでは性能ありきの戦いと言わざるを得ないだろう。

 もしガンダムと足並みを合わせて待ちの姿勢でぶつかっていたら、持ち前の機動性を活かせずあっという間に絡め取られていたであろうことは、マチュのような戦術に疎い少女の目からしても明らかだった。

 

『手持ちがヒート・ホーク一本なのも心許ないな』

『それは……仕方ないんじゃない?この会社、あんまり裕福そうじゃないし……シュウジに期待するしかないでしょ』

『いや、それも無理だろうな。何を持ち出してくるのかは知らんが……ビットは昨日の戦闘で壊されただろう。バルカンじゃザクは倒せない』

 

 これも、ミカボシの予想通りだった。

 マチュとFOUR SNAKE EYESのザクを追いかけるガンダムがその手に保持しているのは、ハイパー・バズーカでもビームライフルでもなく──まさかの、ハイパー・ハンマー。

 所謂鎖付き鉄球と呼ばれるもので、それ自体が推進器を内蔵していることから中距離では有効とされる武装だが、流石にこれで射撃戦をするには無理がある。

 その結果、遠距離武器を持つ相手に中・近距離戦を挑まねばならないという相当に不利な戦いを強いられることになり────

 

『最初は時間稼ぎに徹するべきだ、と俺は思う。相手も金目当てだ、避け続ければ次第に焦りが出てきて距離を詰めようとしてくる────』

「────でしょ!」

 

 それを理解しているマチュは大袈裟に、恐れているようにわざとらしく機体を振り回す。

 強烈なGが身体を圧迫し、呼吸も浅くなるが──今はそんなことはどうでもいいと後回しに出来るほど、少女の精神は極限の集中状態にあった。

 

(相手は食い付いてる!このまま引っ張って──)

 

 ノーマルスーツを以てしても軽減しきれない圧力に肉体が苛まれているのに、全く疲労しない。

 寧ろ、その逆──GQuuuuuuXを動かせば動かすほどマチュの精神は機体と一体化し、紙一重の回避機動に磨きがかかっていく。

 最初はシールドで防いでいたような弾幕も容易くすり抜け、研ぎ澄まされた神経が文字通り手足のように機械の巨人を操って────

 

「あ……」

 

 ふと気付けば、マチュは光の奔流の中にいた。

 

(キラキラだ……)

 

 手足は特殊な形状の操縦桿を掴み、炸裂する至近弾に身体は絶えず揺さぶられている。

 一緒に乗り込んできたハロが、足元で右に左に跳ね飛ばされている。

 なのに、心だけが説明のつかない何処かにある。

 そこは眩しくて、自由で、楽しくて──初めてGQuuuuuuXに乗った時と同じ、理屈とはかけ離れた感覚の満ちる場所。

 赤、緑、青──思いつく限りあらゆる色の光が流れる河の中を、マチュは泳いでいた。

 

 これだ。

 

 身バレを盾に脅された、というのと、スマホの修理代目当てではある。

 けれど、本音ではまたこれが味わいたくてマチュはMSに乗ったのだ。

 そして、マチュが此処に居るということは──これも前回同様、自分を導いてくれた「彼」も同じ場所に居るということ。

 

「シュウジ……」

「近くにいるよ」

 

 呼び掛ければ、すぐに返事が返ってきた。

 鋼鉄と宇宙空間の隔たりは距離にして数百メートルにもなる筈だが、そんなものは関係無い。

 この目まぐるしい奔流の中では、通常の物理法則は全く通用せず──例え距離があってもまるで直接顔を見ているように相手の存在を感じ、こうして会話することも出来る。

 理屈を超えた空間によって、マチュとシュウジは繋がっているのだ。

 

 否、本当は会話すら必要ない。

 

 分かる。

 シュウジの思考が。

 彼が今何を考えていて、次に何をしようとしていのか、言葉よりも遥かに明白なビジョンとなってマチュの思椎に伝わってくる。

 そして、それはシュウジも同じこと。

 

「やろう、一緒に」

「うん」

 

 呼び掛け、頷く。

 ただそれだけで、二人の間に作戦は共有され──肉体に精神が回帰するのを感じ取ったマチュは、次の瞬間オメガサイコミュにありったけの意思を飛ばしていた。

 

「ぅ、ぐぐ……っ!」

 

 全速力からの、急制動。

 慣性をも無理矢理殺すスラスター噴射に内臓が強烈な圧迫を受け、脳に血液が行き渡らなくなって視界が一気に暗くなる。

 初めての宇宙に高い適性を示したマチュですら、これには堪らず苦悶の呻きを漏らしてしまう。

 だが熟練のパイロットですら意識を喪失しかねない危険な動きに、ザクの火線は対応しきれず──つんのめるようにして急停止したGQuuuuuuXが、ゆっくりと振り返る。

 その右手には、大きく振りかぶったヒートホーク。

 

「当た、れぇっ!」

 

 気迫の叫びと共に、投擲された手斧が橙の軌跡を残して宙を飛ぶ。

 そう、これこそが現在のGQuuuuuuXが持つ唯一の遠距離攻撃──ジオン最新鋭技術が用いられたアクチュエータから繰り出される投擲物のスピードは、最早単なる「投げ」を逸脱した威力を発揮していた。

 だが、その軌道はあまりにも直線的で。

 

『ああっ!自分から武器を捨てるなんて!』

 

 紙一重の所で投擲を躱し、同時にザクマシンガンを放り捨てたザクが勢いのままがっしりとGQuuuuuuXに組み付く。

 機体が激震に襲われ、マチュの思考も掻き乱される。

 

「うぁっ……!?」

 

 スラスターを遮二無二噴かしても、肩部を押さえられては振り解けない。

 GQuuuuuuXの機体出力そのものはガンダムを上回るレベルだが、一年戦争を生き残った熟練の元ジオン兵は何処を掴めば相手の動きを封じられるか的確に理解していた。

 そうして、GQuuuuuuXのモニター一杯に広がったモノアイがグポン、と威圧的に輝き。

 高く掲げられた右腕が、鈍く発熱する手斧がマチュ目掛けて振り下ろされる、その瞬間。

 背後から飛んできた()()()()()()が、ザクの右肩に深々と突き刺さった。

 

「シュウジ!」

 

 そう、これこそがマチュとシュウジの作戦。

 GQuuuuuuXが手斧を投げた先はザクの頭部ではなく、その向こう──相手の背後に回り込んでいたガンダムを狙って投擲していたのだ。

 そしてそれをキャッチしたシュウジが、武器を失ったマチュに向かって突っ込むザクの背中に再度ヒートホークを投げ付けた、と言う訳だ。

 こうやって言葉にすると簡潔だが、いざ実行するとなるとあまりにも博打が多すぎる。

 マチュが一人でザク二機を引き付けて格闘戦を誘い続け、シュウジは突然自分目掛けて飛んでくる手斧を上手く掴んで的確に投げ返さなければならない。

 GQuuuuuuXとガンダムの性能もさることながら、二人の意思が完璧に通じ合っていなければ到底不可能な戦術と言えよう。

 

 だが、その甲斐あって手斧を叩き付けようとしていたザクは体勢を大きく崩していた。

 緩んだ拘束を空かさず振りほどいたマチュは、肩に突き刺さるヒートホークを引き抜き────

 

「ヤバっ……!?抜けない……!?」

 

 余程当たり所が悪かったのか、それともガンダムのパワーが強すぎたのか。

 肩部装甲の深くまで食い込んだ斧の刃は、マチュが掴んで引っ張った程度では抜けなくなってしまっていた。

 そして当然、その隙を狙われない筈がない。

 

『もう一機来るぞ、逃げろ!』

 

 通信越しの警告に顔を上げれば、二機目のザクがマシンガンを構えながら接近していた。

 どうやら痺れを切らして格闘戦を仕掛けた一機目とは異なり、誤射しない距離まで近付いたら後は射撃で片付けるつもりらしい。

 だが、今のマチュに対処する術はない。

 武器は肩に刺さったまま引き抜けず、下手に離れようものなら却って的になってしまう。

 此処に来て一気に破綻した作戦に、ここまでかとマチュは歯を食い縛り──その隣を、鮮烈な赤が駆け抜ける。

 

「ここは任せて」

 

 ガンダム。

 異形の六眼が強い光を放ち、GQuuuuuuXを庇うように前に出る。

 ただでやられようと言う訳ではない。

 ルナ・チタニウム合金で構成されたガンダムの装甲はマシンガン程度容易く弾き返せるし、軍警を幾度も退けてきたシュウジが一方的に守勢に回る筈がなかった。

 それを証明するように──鎖で繋がれた鉄塊が動き出す。

 

「行けっ……!」

 

 決着は一瞬だった。

 ガンダムの出力と、それそのものに備わったブースターの噴射を一手に引き受けたハンマーが圧倒的な加速で宙を駆け、ザクの頭部を粉々に打ち砕く。

 断末魔代わりの発砲も乱れた銃口では何も捉えられず、ハンマーの質量に引き摺られるようにして相方から遠ざかっていってしまう。

 誤射を避けるため接近していたのが──自ら相手の間合いに踏み込んでしまったのが、彼にとって完全に仇になってしまったのだ。

 

「やっと、抜けたぁっ!」

 

 同時に、ザクの肩からヒートホークが引き抜かれる。

 GQuuuuuuXも、ガンダムも健在。

 相方は既に頭部を破壊されて脱落し、自機は投擲で肩を破壊されて腕部が思うように稼働しない。

 取り残されたザク一機で、勝ち目などある筈がなかった。

 

 

 

▼▲▼▲▼

 

 

 

「勝った、か……」

 

 WINNER POMERANIANSの文字が画面の中央で踊るのをカネバン有限公司の屋上で見届けた俺は、深い溜め息を吐きながら端末の画面を落とす──連中には「一緒に見ないか?」と誘われたが、あまり絡むつもりはなかった。

 結果的とは言え、裏社会に入りたてのマチュを保護者として見守るカタチになっているのだから、勿論彼女の凱旋はちゃんと出迎えるつもりだ。

 ただ、確信があったにせよマチュをクランバトルに引き込んだアンキー社長に対する印象は正直悪い。

 それに、「流れ」を気にして最後まで止めなかった自分も同じ穴の狢でしかないので、一緒にいると自分自身に嫌気が差してしまう。

 勿論自分から雰囲気を悪くしていく趣味なんてないので、こうして屋上の隅で一人寂しく端末の画面と向き合っていた訳だが。

 そんな状態で試合観戦なんてしていたら、まあ。

 

 ──何もしていないのに、疲れた。

 

 軍警ザクが四機に増えていたように──ニャアンがシュウジへの配達の前に俺と遭遇したように、全体の「流れ」を知っているからと言って、介入した結果なんて予想出来る筈がない。

 それはクランバトルでも当然の話で──自分が口を出した結果何が起こるか、それについて考えるのは正直に言うとかなりの重圧だった。

 そんな緊張に苛まれるあまり、ほんの五分で一航海分の疲れが一気に押し寄せたみたいに体が鈍くなってしまったのだ。

 

(──でも、勝った)

 

 予想以上に危なげなく、「流れ」から逸脱する形で──それは俺の余計な入れ知恵が、余計でなかったことの証明だろう。

 何の事前情報もなかった映画と違って、今回は俺が事前に敵のやってきそうなことを教えておいたから、マチュの心に余裕が生まれたのだ。

 焦りがなければさしたる苦戦もなく普通に勝てるだろう、と言う希望的な見込みは思った以上に大正解だったらしい。

 

 ──尤も、それが正しいかは知らないが

 

 映画では、ザクに追い詰められ命の危険が迫ったことでキラキラと二度目の邂逅を果たしていた。

 その流れに介入し、妨げてしまった影響がどんな形で表れるのか今の俺に知る余地はない。

 所詮、俺はニュータイプの「なり損ない」でしかないのだ─形式何せ前回と違い、今回は二人の戦闘を見ていたにも拘わらずやはりキラキラを感じることはなかったのだから。

 そうとも、今この瞬間をどうにかするのに精一杯なただの人間に、先のことなど分かるものか。

 ただ、その上で流れに手を出したのは────

 

 マチュには怖い思いをして欲しくなかった。

 

 本当に、それだけだ。

 五年も面倒を見てきた姪みたいな奴が、映画のように命の危険に曝される姿を見たくなかった。

 それだけのために、何をせずとも勝つと決まっていた「流れ」に横槍を入れてしまったのだ。

 感情的過ぎる、とは自分でも思う。

 それに、迂闊なことをした結果本来進む筈だった道より多くの被害が、犠牲が出ることになったとしたら……俺は一体、どうするのだろうか。

 何か出来るのだろうか。

 

 ──分からない、何も

 

 映画で見たのは此処まで──もう介入する言い訳にもしない言い訳にも、「流れ」を使うことは出来ない。

 此処から先はもう本当に、足下すら見えない暗闇の中──どう足掻いても地獄の宇宙世紀を、自分の責任と意思に基づいてやり抜くしかない。

 例えその果てに何も報われなかったとしても、何もしなければ良かったと思うような目に遭っても、マチュを生かしたいなら俺の命尽き果てる最期の瞬間まで走り続けるしかないのだ。

 後悔は、死んでからすれば良い。

 だが、取り敢えず、今考えるべきは。

 

「やっぱり、寿司でも取るか……?」

 

 祝勝会の二択。

 軍警を倒したマチュ、闇バイトに従事する難民少女、それにガンダムのパイロットというトリプル犯罪者を連れてファミレスに行くか。

 それとも、未成年の子供三人を家に連れ込む犯罪者の謗りを受けるか。

 ある意味で究極の選択肢に頭を悩ませる贅沢な時間が、着実に迫る様々な問題から目を背けさせてくれる────

 

 

 

 

 ──そこで終われば、良かったのだが

 

 

 

 

「あれもあんたの入れ知恵かい、『クラバ荒らし』?」

「……そうだと言ったら、どうするんです?」

 

 

 戦い終えたマチュたちを出迎えようと振り向いた瞬間声をかけてきたアンキー社長の鋭い視線に、心の中で舌打ちが漏れるのを止められなかった。




◯アマテ・ユズリハ
事前に諸々の不安が取り除かれたので戦術が置きヒートホークからヒートホークキャッチボールになった。
どっちみち大変テクニカルなことをしているが当人にその自覚はない。

◯ミカボシ・ツヅラ
知っている「流れ」が此処までなので後は出たとこ勝負をするしかないニュータイプのなり損ない。
マチュ、シュウジ、ニャアンの三人をトリプル犯罪者と称しているが自分も軍警に楯突いた犯罪者なので実は犯罪者カルテットなことには気付いていない。
クラバに出るように仕向けたのは自分なので他人に物を言える立場ではないが、それはそれとしてマチュを引き込んだアンキー社長には複雑な思い。

・クラバ荒らし
ミカボシ(と言うかギャン)のことを指す。
ツィマッドによる運用試験の一環としてクラバに参加しているが、自社でチームを組むのではなく金払いが良く機密を守る企業であれば誰とでもMAVを組む節操の無さによって賭け事を台無しにしていく様からこの渾名が付けられた。
まあ普通に考えて珍妙なMS持ち出すわ、コロコロ組む相手変えるわ、試験武装を持ち出すから必ず勝つ訳でもないヤツがいたら賭博的に嫌だよね、という話。
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