不可能を可能にする男   作:展開郎

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第二弾:己

柿の木だ…やっぱり、あった。

確か母さん、いやちょっと恥ずかしいな。雪花が言っていた柿の木がやはりある。なんというか不思議な気分だ。

文字で知り得ていた世界を、こうやって現実のものとして知覚すると、こう不覚にも感動を覚えるというか何というか。入試から帰って早々確認するのが柿の木だなんて、変なところでオタクだなぁ。

あと、よく見たらヒビ割れてる地蔵まである。あー、きっとこれが遠山家の技たちが書かれていた巻物を入れていた地蔵なんだなぁ。確か猾経(カッコウ)の巻物だったけか?

 

「ただいま〜っと」

 

玄関の扉をガラガラっと開いて、家に帰ってきたが、誰からの返事も無い。日曜日だから、爺ちゃんは競馬しに行ってるんだらうな。そういや、東京新聞杯がうんたらかんたら言っていたような。

そして、まぁ婆ちゃんは夜ご飯を買いに行く近所のスーパーにでも行ってるんだろうな。

玄関に靴を置いといて、全ての部屋を開けていく。

どこもかも和室だ。二階建てではなく、一階建ての平屋だ。驚くべきことに、普通…そうとしか言いようがない。

とりあえず縁側に座って落ち着こう。

 

「あぁ、そうか柿の実はまだ実ってないんだったな…というかこの柿の木って渋柿なのか、甘柿なのか?」

 

(って、そうじゃないだろ!!俺が考えるべきなのは!!)

 

どーして、俺は気が付いたら遠山キンジになっているんだ?

遠山キンジ、緋弾のアリアというライトノベル作品の主人公。数あるラノベ主人公の中でも化け物スペック、主人公派生マシマシ二郎系、無限ハーレムメーカー…などなど、属性はた〜っぷりだ。

いや…うん。本当になんで俺は遠山キンジになっているんだ?

遠山キンジという記憶は連続的に生まれた瞬間から、今の今までずっと繋がっている。それどころか、急に前世の記憶が現れたみたいな感じだ。

だが、そもそも前世の記憶とやらも何もない。あるのは緋弾のアリアを読んでいた時の記憶だけが明確に残っている。

自分がどんな人間、性格、容姿、名前をしていたか。家族構成や友人、出身校に勤務先…何もかもそこの所だけ記憶がない。

欠落している、自分が自分であるための要素それが無い。無いんだ。

だというのに泣けない。まるで他人事のように心はあっさりとした反応しか示さない。

 

どれだけ考えても、何も解決はしない。悪魔の証明なんかより末恐ろしい問題に出くわした。そもそも、問題なんか無いのかもしれない。

そもそも前世でも恐らく自分は転生してきたと誰かが言っていても、宗教にのめり込んでいない限りそれは紛れもなくあり得ない事と片付けるだろう。

きっとこれは解いても意味がない、いやそれどころか解くだけ無駄な捨て問なのかもしれない…入試にちなんで。

 

「はぁ、あぁ!!もうどうしようもない、とりあえずもう一度家を探検すっか。」

 

居間に入ると、中々レトロな写真が飾ってある。あの軍服を着ているちょっと俺に似てはいるが陽気そうなのが紛れもなく爺ちゃんだろう。

そしてその横が、きっと爺ちゃんの姉ちゃん雪花だろう。他にも写真があるが、あれはひい爺ちゃんの…名前は…えっと、うーん、なんだっけか?流石にそこまで詳しいことは覚えきれてないや。

他には、おぉ、これは凄そうな立派な掛け軸がある。美術的センスがないから分からないがきっとそれなりに価値のあるものだろう。

そしてその隣には仏壇がある。そこには、口を一文字に引き締めつつも、表情が穏やかそうな写真がある。肩の上側ぐらいまでしか見えないが確かにボディビルダーとプロレスラー、力士を全部足して割らない体つきをしている。そう、これが、俺のお父さん…遠山金叉か。これが義の為に、最後まで戦った男。

 

「父さん、俺頑張って受けてきたよ。父さんみたいに武装検事にはなれないさもだけど武偵にはなるよ。」

 

ふと気づくといつの間にか座り込みながら、そんなことをすらすらと言っていた。あぁ、紛れもなくこの人は自分の父親なんだな。

前の俺が持っていなくても、今の俺が持っている縁がここにはある。何故だか、この時だけ涙が出てしまった。

安心感…なんだろうか。とりあえず涙がポツポツと滴り落ちる。

 

 

 

 

「おーい、キンジィ。じいちゃんが帰ってきたぞぉ。」

 

玄関の扉がガラガラと開いたから婆ちゃんかと思ったら、こりゃ意外爺ちゃんだった。

爺ちゃんは日曜は基本夜遅くまで帰らないのに一体どうしたっていうんだ?

 

「どうしたんだよ、爺ちゃん。こんなに早めに帰ってきて。」

 

「なーに、東京新聞杯バチコリ的中じゃわい!!」

 

何、馬券的中だって!?百発一中のギャンブラーと名高い爺ちゃんが当たるだなんてどんな奇跡の1日だ。

いや待て、こういう時は当てたけど合計したらマイナスとかいうパターンに違いない。そうに違いない。爺ちゃんが馬券的中してる日なんて槍どころかミサイルが落ちてくる天気になる。

 

「で、どんだけ勝ったんだよ。どうせガミったってオチだろ?」

 

「ガミッとったらこんなに意気揚々と帰ってくるもんか。単勝ローゼルガレロ一点一万円で払い戻しは十万と二百円じゃ。」

 

(な、なん…だと…!?そんな高配当の単勝を買っただなんて…とてもじゃないが信じられん)

 

明日はいよいよ、地球滅亡の日かもしれない。どこか宇宙は俺を飛ばしてくれるロケットはないだろうか。

今からでも用意しなきゃ、流石に不可能を可能にする予定の俺でも死んじまう。

 

「まぁ、競馬の話はええわ。キンジや試験はどうじゃった?」

 

「…まぁ、まぁまぁだよ。」

 

「まぁまぁとは何じゃ、まぁまぁとは!!遠山家の男たるものビシッとそれぐらい答えるんじゃ。」

 

いや、うん…言えるわけないよなぁ。受験生全員倒したとか、到底言えるわけがない。

確かにあの時はヒステリアモードだから、最初の一石以外は全員アッサリと倒せたが…ヒステリアモードになったとか到底言えるわけがない。

ん?一石マサト…?どっかで聞いたことあるような。まぁ気のせいだろ、今度こそは。緋弾のアリアの記憶は殆ど覚えているし。

忘れていることは…ない、筈。

俺、緋弾のアリア系列はAAとアリスベルは読んだことがないからもしそこのキャラなら分からないんだよなぁ。

 

「それはいいとして、婆ちゃん、いつ戻ってくるんだ?俺お腹が空いて、ペコペコだ。」

 

成る程、これが話題逸らし(スラッシュⅢ)…いや別に感じるまでの技じゃねーよ。

とりあえずヒステリアモードのせいか、凄く腹が減る気がする。何故お腹が空くかは明確には言えないが、恐らくは単純に慣れの問題と、持続時間、初っ端から銃弾円弧(スラッシュ・アーク)を多用したせいだろう。

だからこそ試験が終わってから巣鴨駅に着くまでの間、殆ど意識を知覚しえなかったのもそれらによる副作用だ。

 

「さぁ、知らんわい。とりあえず金一に電話ぐらいしたらどうじゃ。あやつも弟の入学試験は気になってしょうがないじゃろ。」

 

半纏を脱ぎながら、奥の部屋へ向かっていった。

まぁ確かに、兄さんに電話するべきだなと思う。一応…今は家にいないけれど、家族なんだし。

とりあえず携帯から、遠山金一と思しき電話番号を調べる。なんか、スマホじゃないガラケーを使うのって少し抵抗感があるな。

調べついた果てにきちんと、遠山金一とわざわざ名前を設定している電話番号が一つある。

決定ボタンを押して、相手が電話に出るまで待つことにした。

 

ブーブーブー———

 

ブーブーブー———

 

『おかけになった電話は電源が入っていないか、 電波の届かない場所にあるため、かかりません。』

 

電話できないみたいだな。まぁそっちの方が有難い気もする。もしカナの声で話しかけられてた場合、どうなるか分からん。

俺は遠山キンジであって、遠山キンジではない存在なんだから。どうやってHSSが作動するかは分からないが、カナなら声だけでなる可能性は否定しきれん。

とりあえず遠山金一もとい兄さんと喋るのはまた今度かな。

 

「帰って来ましたよぉ。今日はキンジさんの入試もあったし、お鍋ですよ〜」

 

「今日は鍋か、婆さんや!!」

 

「鍋って何鍋だ、婆ちゃん。」

 

「はいはい、そう慌てなさんな。すぐ用意しますから居間でお待ちしてください。」

 

鍋、鍋かぁ…うぅん。

いや、鍋か…うん。鍋つったら、例の闇鍋を連想しそうになる。桃まんから、カロリーフードのチーズ味、それから鷹の爪にそれを打ち消すどころか多分もっと不味くさせるであろう人工甘味料。

まぁ鍋は鍋でも鍋蓋の形がシルクハット型でさえなければモーマンタイだ。

 

「なぁ、爺ちゃん何鍋だと思う?」

 

「今日は羽目を外して、牛かもしれんぞ。モー、モー。」

 

「牛、牛、牛肉モーモー!!」

 

「あ、それっ牛っ、牛っ、牛牛ギュ〜!!」

 

ああ、楽しいな。家族、いや縁というべきか。

そこがここにはしっかりある。爺ちゃんと婆ちゃんとしか会ってないけど、それが痛いほど分かる。

ここが俺のいる場所なんだな。 

 

 

 

 

 

 

「もう、朝かぁ…」

 

午前8時、23分と枕元の携帯の画面を開くとそう表示されている。不思議なもので、俺が遠山キンジになってから二日目だ。

とりあえず喉が乾燥している気もするし、お茶でも飲みに行くか。ついでに携帯でニュースでも確認しながらっと。

 

「んおっ?留守番電話が来てるな。」

 

どれどれ〜、誰からの電話だぁ?

あーっと、金一兄さんからだな。まぁ…うん、後で聞こう。とりあえず頭をしっかり覚醒させてからこの留守番電話は開こう。

じゃないと、朝からHSS発動させるのは恥ずかしいというか…なんというか。まぁ先祖は露出狂だし、兄さんは女装癖だから、今更恥も外聞もないのかもしれない。

だが!!子供心ながらに恥ずかしいっ!!

それとある程度記憶で感じえた心情は薄れてはいるが、中学のことがまだ尾を張っている。

まぁこの時期は入学試験があちこちであるから、合法的に学校をサボれる…サボれるからこそ暇だ。

この遠山キンジ、趣味という趣味があまりない。

この時期のガラケーって確か、iモッドとかで色々ゲームとか入れれる筈なのに一切ない。いや、それどころかこのガラケーには娯楽に関するアプリが一切ない。

昨日鍋を食い終わってから、自分の部屋のあちこちを探してもゲーム機のソフトや攻略本の一冊さえない。

パソコンの中に一本ぐらいソフトがあるかと思ってたのに、それさえもない!!

だから武偵高校から出たら、味気なくなる訳だ。

 

冷蔵からお茶のペットボトルを取り出し、飲みながらに留守番電話の再生ボタンを押す。

やる事はある程度、昨日済ませているし再生する以外やることがない。

 

『キンジ、ごめんね。昨日は仕事が立て込んでて。』

 

カナの声だ。これが兄さんだと知らなければ、今頃声だけで惚れていたかもしれない。

実際あんな兄さんがカナになるとか、未だに信じきれない気持ちがある。文字だけで知ってはいるが、見てみなければ納得できないというか。

パチンコ版はやった覚えがないし、アニメ版では恐らく声もなかったと思うから、カナの声ってこういうのなんだという興奮感がする。

いや決して、欲情したり性的興奮したりしているわけではない、そうあって欲しい…頼む。

 

『とりあえずは入試お疲れ様。』

 

「あ、ありがとう…」

 

『それでね、私今回の事件がどうしても長引いて当分の間は家に帰れないから。』

 

(………いや、まさか、もうそこから?)

 

確かあの海難事故は冬の時だった筈。それとはまた別件の内容に違いない。

イ・ウーの武偵殺しによるシージャック。そこから兄さんがどういう経緯でイ・ウーに属したかまでは分からないが。

 

『それでね、私と約束してくれる?優しいキンジなら私の言うことを聞いてくれるよね?』

 

「ああ、カナ」

 

『キンジ、あなたのHSSはこの遠山家の中で1、2を争うモノよ。私や初代…それにお父さんさえも超えているかもなの。』

 

ヒステリアモード、それが俺にとってのたった1枚のカードにして切り札。

兄さんみたく医療知識に長けているわけでも、父さんみたく体のスペックがそもそも並外れているわけでもない。

 

『その力はあまりにも強大なモノで、使い道を誤ればそれは破滅を呼ぶわ』

 

ガラケーのマイク越しに吐息が艶やかに聞こえる。やばい、これ以上聞くのは本当に精神的に危うい。

兄さんでヒステリアモードにだけは絶対なりたくない。落ち着け、落ち着け、こう言う時は素数だ。東大受験する時もそんなことをしていた筈だ。

1、2、3、5、えっーと11いやその前に9…というか1って素数だっけか?

 

『だからこそ、今一度“義”とは何かを考えておきなさい。いいわね、キンジ?それじゃあ電話切るね』

 

———プーッ、プーッ、プーッ

 

留守番電話が終わった。

“義”…か。正義…いやそれとはまた違う概念。

遠山金一が一時的とはいえ多少の犠牲を看過する義とは違う筈だ。

アリアの戦姉(アミカ)のアンジェリカのいう正義(ジャスティス)とも違う。かといってジュスト2号(ドウエ)のアウグスタが掲げる正義とも違う。

そして日本国の法律を守ることが義というのもなんだか違う。

国語の辞典を開いてみれば、そこには人として行うべき道と書かれている。

朝からやってる正義の特撮ヒーローのような義というのを、そして兄さんのような義を目指していたつもりだ。

義とは、恐らく理想的な全ての人々が幸せになる道のりなんだろう。

遠山キンジがこれから歩む道のり全てで、彼はそのような道を意識せずとも歩んでいた。

まぁ…これはゆっくり考えていこう。兄さんからの春休みの宿題と思って。

そして全てが分かった時には心の中で一件落着と言よう。

 

 

 

 

 

 

 

BBⅠのシナリオ展開アンケート

  • オリキャラたちで回していく展開
  • 原作のストーリーを強化する感じの展開
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