不可能を可能にする男   作:展開郎

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おっ久しぶりでーす!!
前話を投稿したのが丁度1ヶ月前だという事に恐怖を感じています。
え、何をしてたかって?
原作までの間のストーリーを色々クネクネ練っていたりとか、サガフロ2をしたりとか、錬金術をしたりとか…まぁ色々してました()
長い話は興味もないと思うし、本文どぞ。


第七弾:β-endorphin(死ぬまで走れ、敵は目前に)

うっ

あっ、

痛い…身体中が痛い…

 

痛みだけが全身を支配する。まるで痛覚だけがこの世界を構成するものとさえ思える。

それ以外は何も見えないし、感じとれない。痛覚以外には虚無しかない。いや、心臓の高鳴る鼓動が少しずつ微かに感じ取れる。

どうなってるんだ。こんな状況になっているだなんて。

あれ、俺って何をしようと…というか、ここは何処なんだ?

 

 

つつっっ

 

痛みのせいでまともに思考さえ出来ない。アナログテレビの砂嵐みたいな幻聴が頭中に響き渡る。

こんな痛みを喰らうだなんて、何かがあった筈だなんだ。

何かがあったに違いない。一体どうしたんだ、俺。

さっきまでは微かだった心臓の音が徐々に高鳴っていっている。

まるで、そう…音楽でいうクライマックスに近づいているみたいな、ホラー映画で言う…怪異が出てくるそんなシーンに掛かるような。

 

 

 

うがががっ

 

何が起きたというのに、そのことを忘れてしまっている。こんなにも心臓が高鳴るからには原因があるというのに何故なんだ。

落ち着いて考えよう、落ち着けば、少しずつ痛みもそうだが、頭も心臓もスッキリしていくような気がする。

落ち着こうと思えば思うほど、体から何かが溢れ出すような感覚がする。

どこか…つい最近も似てるようで、似てないような時にこんなことがあったような。

 

———キーーーーッ

 

聴覚がないというのに、先ほどの砂嵐みたいな音とはまた違う変な音を感じ取れる。

落ち着いてゆっくり思い出そう。

そうだ、確か俺は扉を開けようと…いや俺たちは…扉を開けよう…と。

俺たち…俺たち!!そうだ、俺は二人で此処まで来たんだ。

 

「(もう一人は、もう一人は…し、不知火…)」

 

俺と一緒に行動をしていたのは不知火…不知火はどうなった。

潜入経路の最後の扉から、今何処にいるんだ?

というか俺が意識を失ってから何分が経ったんだ。

この真っ暗な世界では何も分からない。ただ時が止まっているようなモノロクな世界観の中の穏やかな水の上で浮かんでいるような、そんな心地だ。

その反面、俺は今焦りを感じている。冷や汗なんて流れないほどの焦り、それが俺の肩にのしかかっている。

 

———にがあった、遠山っ!!応答しろ、遠山っ!!』

 

聴覚が元に戻ってきていく。今までの幻聴とは比べ物にはならないほど、クリアにそして暖かみがある

インカムから八木山先生の声が大きく響き渡る。周りの環境音も徐々に聞こえる。

だが応答しようと思っているのに、口が動かない。瞼を開こうにも開けれない。

それどころか、まともに今は体全体を動かせない。動かすにはあともう少し、時間がいる。

 

「あひゅあ」

 

変な言葉が口から漏れる。

呼吸をするということさえも少し、しづらい。

肋骨全体に、後頭部に痛みが稲妻の如く走り出す。

まだ目を開けられない。

後頭部の痛みに引っ張られるように瞼は閉じたままだ。

来る…来る…今、来ている。俺の体に…いや来ない。

 

「(まだだ、まだたくさん分泌されていない…β()()()()()()()()が)」

 

βエンドルフィン———それ即ち、俺たち遠山家の強さの源流であるHSS発生のトリガー。

βエンドルフィンという物質そのものは脳内麻薬———仮説段階ではあるがマラソンランナーのランナーズハイの発生要因とも言われる———その中でも、一番遠山家に関するエンドルフィンである。

痛覚…スリル…性的興奮…空腹(?)…など多種多様な事柄に関係している。

しかしながらアゴニザンテは、どうやらこんな危機的状況になっても発動してくれないようだ。βエンドルフィンの分泌量の規定値に達していないからなのか?

性的興奮による分泌量と生命の危機に瀕している際の分泌量には相当差があるみたいだな。

…にしても原作でこれを多発させてたっていう事実にドン引きしそうである。アゴニサンデの初登場は心停止した時だから、あながち発動条件は正しいだろう。

とりあえず立ちあがろうと、平衡感覚を取り戻そうと体を動かしてみるがダメだ。

まだまだ関節の節々に力が入り切らない。脳にはβエンドルフィンが駆け巡ってきていても、体全体にはまだ流れてこない。

 

『遠山、不知火、応答しろ!!何があった!?』

 

何があった…か。

そうだ、俺がこうなっているのには訳がある。

俺が覚えている最後の、大きな破裂音。あれは間違いなく爆発音。

恐らく、プラスチック爆弾やその類のものが仕掛けられていた。爆発の威力が凄まじいせいで具体的にどの場所に爆弾が仕掛けられたかは不明だが、犯行グループがここ3階の資料室を爆破させる意味は一つを除いてない。

そしてその一つは、この部屋に潜入経路の扉があるということだ。最初から、奴らは俺たち武偵がどう出るかを把握していたんだ。

何故奴らは分かったんだ?いや、それを考える暇はない。

もう一度立ち上がってみよう。

 

「うっ、あっ、うぅ」

 

立ちあがろうと膝を地面に付くと同時に瞼を開こうとするが眼球全体に痛みが迸る。

爆発と同時に喰らった閃光(フラッシュ)が今となって眼球にダメージを痛感させる。

今の俺にとっては少し暗めと思われる資料室の光でさえ痛い。

瞬きを高速でしながら、自分の体で出来る影の輪郭が少しずつではあるが見えてくる。

モノクロ調な視界が、カラフルな…ただどちらかと言えばブラウン管テレビみたいな色味とチラつきを感じる。

そんな視界のせいか、酔いそうになってくる。

いや違う…立体感がないのっぺりとした視界が原因なのだろう。

人間の視界は両目で見ることによって立体感が生じる。

正確には6〜7センチ程離れた違う角度の世界を重ね合わせ、位置関係や大きさを元に脳は立体感を作り出す。

恐らくは目と脳の両方にダメージがあるせいだろう。

 

「(そんな被害状況の確認は後でもいい、急いで立ち上がらないと)」

 

敵が俺たちの行動を把握している現状、奴らは俺たちが今ここで突っ伏していることを知って、向かいに行っているはず。

もう敵は目前まで迫ってきているかもしれない。

だからこそ、急いで…立ち上がるんだ…俺っ!!

五感はある程度戻ってきている。このまま、少しずつ…少しずつでいいから、立ち上がるんだ。

 

「はぁっ…はぁっ…はぁ…」

 

立ち上がるために力を振り絞っているせいか、自然と舌が回り始める。自由に言葉を喋れる。

掠れた呼吸をしながらでも、腹から声を出されるようになっている。…だけれども、体だけは自由に動いてくれない。

立ち上がるのも優先だが、まずは今の状況を…連絡を取らないと。

 

「こっ、こちら…遠っ、山。爆発が…というか、通信が…途絶してから…ハァ…時間はどれくらいですか?」

 

『遠山無事だったか!!……あぁ、大体3分と言ったところだ。不知火の方は大丈夫か?』

 

「し、不知火…ですよね?」

 

微かに開ける瞼を更に開いて、不知火を探す。

右を見て、真ん中を見て、左を見る。だが不知火の姿はどこにも見当たらない。ただ、目の前には持ち主だけがいないSOCOMピストルが捨てられていた。

なんとか力を振り絞って立ち上がり、再度この部屋中を見渡す。だが好青年風なイケメンの姿は何処にもない。

 

「(確か、アイツの…拳銃は…SOCOM…いや、そんな…まさかな)」

 

心の中で何故か、その考えだけを無限に反芻させる。

だがそれと同じく、急に吐き気を催し、冷や汗が背中から鈍いはずである五感のうちの一つである触覚が出てきているのを感じとる。

 

「わ、分かりません」

 

いや違う…分かっているんだ、俺は。

郵便局の資料室にSOCOMなんていう物騒な武器はない。それはもう紛れもなく…紛れもなく、不知火のブツだ。

俺は…何に対して焦っているんだ?いや違う…逃げたいんだ、俺。

焦りは、俺が逃げないことに対して焦っているんだ。

まだまだ痛い首を振り回しながら、辺りをもう一度見渡しても最初っから不知火はいなかったかのように姿はどこにもない。

 

———いや違う。

逃げるな、俺。俺の右にある大きな瓦礫の山はなんなんだ?

あのぐらいの大きな瓦礫だったら、だったら…そう…人一人入れるぐらいの大きさの瓦礫の山の下には何があるんだ?

そんなことを考えた瞬間に俺はあれほど上手く動かせなかった体で、駆け出した。

今はヒステリアモードなんかでもないのに、理路整然と俺の嫌な考えが正解だと脳が俺に対して思い込ませてくる。

瓦礫の山を急いで俺は、必死に手で払いのけていく。

 

「はぁ…はぁ…はぁ!!」

 

爪の中に瓦礫——鉄筋コンクリートの欠片——がどれだけめり込もうがお構いなしに瓦礫をどけていく。

まるで悪い事をしているかのような、そんな嫌な感覚を抱きながら、瓦礫の山を崩していく。

崩していけば行くほどに、爪は痛み、手は痛み、腕は痛み、腰は痛む。

全てが痛む…いや心までもが痛む。

払いのけるごとに、俺の心の痛みは増していく。

 

「はぁ…っ、うっ、はぁ…ッ!?」

 

瓦礫の山の半分程度を取り除くと、そこから茶髪が見えた。

茶髪…茶髪…茶髪…

先ほどから感じていた虫の知らせは合っていた…こんな髪色をしているやつで、此処にいる奴なんて世界にただの一人しかいない。

正真正銘、紛れもなく、それは…不知火…不知火亮だ。

まだ話し始めて、仲良くなって、1時間とちょっと前まではラーメンの話もしていたのに。

なんで…なんで…だ。

こんな塩ラーメンが好きでイケメンな面している奴が、今は瓦礫の中…

その面には、爆発の破片が掠ったからなのかは分からないが、側頭部から血が出ている。

とりあえず首の頸動脈を触り、不知火の脈が正常かを確認する。

 

———ドクッッ…ドクッッ…ドクッ…

 

とりあえず脈は問題ないし、呼吸も息の音がしているから問題はない。

とりあえず、腰のベルトにつけているバンドを不知火の側頭部の出血箇所に括り付けて、圧迫止血を行う。

まずはバンドを不知火の頭にぐるぐると巻いていき、そして出血しているポイントを指で押し付けながら、バンドを締めていく。

バンドは不知火の血をどんどんと吸っていき、黒から鈍い赤色に変わっていく。

だが、その赤みによる侵攻は徐々に落ち着いていく。

 

正面突(フロントアタ)っ、…破部隊(ク・フォース)は継戦能力、わずかです…不知火は負傷により意識はなし、又右側頭部に出血箇所あり」

 

流石にこんな状況となっては正面突破部隊は壊滅である。

俺は動けるが、不知火は戦えるどころか動けもしない。こうなった場合、撤退か俺だけ残ってでも抗戦するか、どっちかである。

とりあえず、不知火の胸ポケットからSOCOM用の.45ACP弾のマガジンを数本拝借する。

その時に確認のために拍動も確認したが、ちゃんと心臓は動いている。

 

『遠山、不知火の負傷の度合いは?』

 

「出血はそれなりにしています…ただ、今は完全に…止血しているのでまだある程度の時間は保てます。ただ意識は未だないので、潜入経路から直ぐに救護部隊を此方に寄越してください。無理なら回収でも良いのでお願いします。」

 

『………分かった、こちらも出来る手は打つつもりだ。ところで遠山お前の負傷は大丈夫か?』

 

「こっちはまぁ…なんとかいけます。敵には俺たちの場所は十中八九バレてると思います。不知火を搬送するまでの間の時間稼ぎはせめてしたいと思います」

 

インカムから聞こえる八木山先生の心配の言葉に返事をしながらも、不知火のSOCOMを手に取りチェックをする。

スライドを動かしたり、銃身を注意深く確認してみるが、故障はしていなさそうだ。不知火には勝手で済まないが、今の間だけ使わさせてもらう。

SOCOMは強襲科(アサルト)の授業で数回使ったことしかないが、まぁ何とかなるだろう。

さてと、これから俺はベレッタとSOCOMの二刀流でやって来る敵を叩きのめしていく。流石にアサルトライフルを持っている敵に一人で拳銃とナイフだけで戦うのは心許ないしな。

流石にヒステリアモードじゃない状態ではないし、油断だけはしないでおこう。

 

「あ、あと先輩たちのチームはどうですか?」

 

『未だ、状況不明だ…分かり次第、連絡をそっちに寄越す』

 

俺らの方がこんな状況だったら、あっちもそういう状況になるよなぁ。

どっちにしても、今回の作戦…かなりヤバいな。Sランク1名、Aランク4名による強襲作戦が失敗になるのか…

ランク査定とかに響きそうだな、こりゃ。

まぁどっちみち来年にはEにまで落ちるけれど。

 

『此方側も救援をすぐにでも送れるよう努力する。だから、無理だけはするな、ダメなら直ぐに戻れ。いいな?』

 

「先生、一応こう見えても俺Sランクですよ。任してください」

 

『そう…か…健闘を祈る』

 

その言葉を最後にインカムからは何の音も聞こえなくなった。ただただ、静寂だけがこの場を治めている。

というか、爆発する前までは聞こえていた電子音は何だったんだ?てっきりインカムのノイズか何かかと思っていたんだが…もしや爆弾の電子音だったりするのだろうか?

これまた、今は考えても仕方がないことだ。とりあえず、戦闘用意をしよう。

右手にはベレッタ、左手にSOCOM、そして腰にはいつでも直ぐ出せるようにバタフライナイフを携帯しておく。

ベレッタ、SOCOM共に付けていたサプレッサーを取り外し、静かに床に置く。潜入作戦だったからこそ必要だったが、バレてしまっている今となっては無用の長物かつ、銃弾の威力を落とす装置でしかなくなっている。

しかし…ようやく、視界が正常になったのか酔いがマシだ。首をブンブン振ってみるが、ちゃんと首を振る実際の加速度が脳が感じる加速度と同じだ。

少しずつではあるが、βエンドルフィンが脳に効いてきたんだろう。出来ることならヒステリアモードにさせて欲しいものだ。

とりあえず、正常になった視界を使って、辺りを見回す。

つい数分前までは錠が掛かっていたドアが綺麗さっぱり、ぶち壊そうとしていた蝶番ごと消えてしまっている。錠が掛かっていたのも、犯行グループが潜入経路を把握していたからなのだろう。

近くには粉々になったドアの破片と思しきものが散乱している。

こんなのをまともに正面から受けたから、気絶したり負傷したりするもんだ。

 

「(にしても…3分間、俺は意識を失っていたのか)

 

3分…秒数に置き換え場180秒。

戦場ではコンマ1秒でも大切だというのに、180秒もの時間を失った。

俺たちが無駄に180秒を捨てている間、奴らはその180秒を活用している。

まずは動こう、それが大事だ。動かなくては何も始まらない。

 

潜入経路から、資料室のエリアに入るが、特に爆弾らしきものは見受けられない。

他にもトラップらしきものがあるかも注意深く確認したが、その類は一切なさそうだ。

資料室内の床に落ちてある段ボール箱の中も開けてみたりするが、入っているのは資料の束やインクカートリッジぐらいである。

中には空の段ボールだってある。

ちょっと拍子抜けしたというか…まぁ、そっちの方が有難いと言えば有難いのだが…

 

「何もないな…」

 

つい言葉として出てしまうぐらい、何もない。何もないというのが、俺を油断させるためのトラップのようにも思えて来る。

逆にこれこそ、トラップじゃないのか?そう思った方が、精神的には健康である。

備える時は悲観論だしな…まぁ、それを言ったら行動する時は楽観的なのだがな。

資料室を後にして、廊下に出てみるが、さっきと同じように何の仕掛けもない。天井の四隅にある監視カメラはテープか何かが付けられている。

ハッキング対策用にテープで見えないようにしたのだろう…何というか。

いや…まぁ今は考えないでおこう。

廊下をゆっくりと、タイル一つに数秒をかけながら歩く。

静寂な空間に、ただ俺の心臓の音だけが感じ取れる。廊下の突き当たりまで向かいつつ、各部屋の中身をチラチラっと確認してみるが、何も怪しいものはない。

どこかで隠れてたりしているものだろうと思ったのだが、そういうのもない。左に階段へ繋がる通路があるが、一旦資料室まで戻る。

 

「風が強いな…」

 

資料室の開いている窓から顔を出す。

警察車両が1台たりとも見えない。その代わりと言ってか、遠くから俺たち武偵による、今回の作戦本部テントが見える。

空からは報道のヘリコプターのローター音が——バタバタバタっ——聞こえる。遠くからは爆発のせいで、向かっている消防車のサイレン音も聞こえる。

サイレンの色もコチラから見えるが、見るのはやめてこう。不知火の出血を思い出しそうになる。

それと同時に複数の足音も聞こえる。

 

「(ん、足音だと?)」

 

どこからともなく、足音と喋り声が聞こえて来る。

足音からして恐らく3人。動きは、遅いように聞こえる。

とりあえず、ここの資料室は戦うには不向きすぎる。隠れる場所もないし、射線も狭すぎる。

ここは廊下に出て、やって来る3人と戦うしかないな。

この部屋はL字状の三階通路の一番奥の角部屋…だからこそ、奴らが来る経路は自ずと一つしかない。さぁて、どうするか。

曲がり角…そこに陣取るか。最悪、近くの部屋に隠れて超接近戦を仕掛けるしかない。

平賀さん…頼むから今すぐに改造ベレッタを持ってきてくれないかなぁ。アサルトライフルに立ち向かおうとしたら、今のベレッタじゃ…うん。

 

「(人生初のヒステリアモードなしの強襲作戦か…)

 

こんな心持ちをしているSランク武偵がこの世にいるものだろうか…恐らくは自分くらいなんだろうな。

βエンドルフィンはあれから、分泌量は増加しない。体の痛みを感じなくさせる程度の量しか分泌されない。アゴニザンテはやっぱし無理そうだな。

流石に自傷行為を今ここでする訳にはいかないしな。まぁ…今の状態ならアゴニザンテになる暇もなくあのよ行きする可能性だってある。

息を吸いながら、覚悟を決める。

 

スタッ、スタッ———

 

「(…ふざけているのか?)」

 

先ほどから響く足音に耳を傾けているが、どう考えても三人達は普通のスニーカーで来てやがる。

あんな爆弾まで使っておいて、そんな装備とは…舐められたもんだ。

そっちがそんな風に来てあろうと、手は抜かないぞ。

不知火…今から敵取ってやるからな。

 

勢いよく資料室を飛び出し、廊下の曲がり角へ向かう。

速く、駆ける。

奴らが談笑しているのが、聞こえて来る。

装備どころか、何もかもがダメ。よくあんな態度で立て籠り事件をしたな。

そのままの勢いで、曲がり角から飛び出る。

 

三人はどうやら横並びに話し合っていたみたいだ。そっちの方がこっちも制圧するのに助かる。

素人感丸出しみたくアサルトライフルをだらっと持っている。トリガーも引っかけず、俺の顔を見た瞬間、三人の顔は驚いた顔をした。

だがこっちも爆弾で驚かされた分、こっちも仕返しをさせてもらわないと釣り合わない。

まず右手のベレッタで一番左のアサルトライフルに向かって発砲、続いてSOCOMで真ん中の奴も同じように発砲。

非殺傷弾はアサルトライフルに当たると、その威力でアサルトライフルを天井にまで押し上げ、そして二人のアサルトライフルは地面に呆気なく落ちた。

アサルトライフルを拾われないように、足元にも発砲する。

 

「て、てんめぇぇぇぇ———このくそガキャ、ンギャアアアアア!!」

 

煩く叫び散らかす右のやつには、二丁共に手の甲に弾丸をぶち込む。

射線が丸わかりだと言うのに、一切の回避行動をせずに銃弾を二つとも受け止め、そして悲痛な叫びを上げ始めた。

いいなぁ…お前らは…意識があって、出血も…いや内出血はあるか。

俺たちは警察のSITやSATではないから、殺人は9条で縛られている。まぁ全治数ヶ月の骨折で許してやるよ。

 

「今すぐ降参しろ、今のうちなら———

 

「誰が降参しやがる!!」

 

真ん中のやつが急いで落ちたアサルトライフルを拾って、俺の心臓のあたりを狙う。

狙いは良し…だが、決断力が無さすぎる!!

お前がこっちを狙った時には既に俺はお前に銃弾を打っている!!

野太い悲鳴を聞きつつ、左のやつに近づき柔道の出足払いみたく重心を崩し、視界外からSOCOMのグリップで顎にクリーンヒット。

ちっとは意識を無くしてもらう。

その間に真ん中のやつも、この勢いで右手のエルボーを顎に入れて、地面とキスさせてやる。

 

「くっ、くそっ、クソッタレ!!」

 

三人目のやつはいつの間にか、後ろに距離を取ってこっちに腰を下ろしながら照準を向けてきている。

ちっ、ここで伸びてる二人を一斉に捕縛しようとしていたのに、面倒な奴だ。

にしても中々の根性だな、あの非殺傷弾はTNKワイヤーを入れているおかげで頑丈な防弾制服でも死ぬほど痛いっていうのに。

まぁ、こんな事件を起こすぐらいだ。それぐらい根性はあるわな。

どうする…俺。

俺とあいつの距離は目測、14m強。相当後ろに逃げやがって。

奴の武器はアサルトライフル、俺の武器はベレッタとSOCOM…まずこの時点で発射速度及び威力という面では負ける。

だが正確性…まぁ武器に対する熟練度という点においては、今までの戦いからしてコチラの方が上に思える。

 

「(進むか、退くか)」

 

ベレッタとSOCOM共に弾数にはかなり余裕がある。装填時間などは考慮する必要もなく、決着はつく。

廊下の広さは…可もなく不可もなくってところだな。

銃弾撃ち(ビリヤード)でも出来たらいいんだが、あいにくまだ使えない。

接近戦か、遠隔戦か。

あるいは接近戦か、広域戦か。

こんな風に悩んでる間にも時間は進む。ほんの少し考えるだけでも、悠長に奴は奴で行動を始める。

決断しなければ、次の…一手を。

 

「セーフティが掛かりっぱなしじゃないか!!素人でもそんなことはしねーよっ!!」

 

そう言い捨てて、俺は前へ足を踏み出す。

ここは一気に接近戦で畳み掛ける!!交戦速度を緩めず、さらに加速させ、鎮圧する!!

こんな戦い、入学試験の一石との戦いに比べたら、どうってことはない!!

例え、今俺がヒステリアモードじゃなくてあろうとだ。

それに、ここで退いて敵の増援なんかを呼ばれる前にその目を潰す。

奴は今、俺の言葉を鵜呑みにして視線を下げた。やはり素人、こんなブラフに引っ掛かるとは思わなかったぞ。

引っ掛からなくても煽りとして奴を逆上させてやろうと思ったが、予想の斜め上の展開になっちまった。

 

バババババッ———

 

全弾全て、奴の体に的中。

回避行動も一切なく、後ろに吹っ飛んでいった。

余りにも吹っ飛びすぎるものだから、急いで奴の元に向かったが、失神程度で済んでいるようだ。

まぁあんなに痛い非殺傷弾、二丁合わせて合計六発も受けたら、並の人間は一瞬でダウンだ。

とりあえず、コイツの腕に特殊合金の手錠をかける。

次いで、後ろのふたりにも同じように手錠をかけ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

なんとも…呆気なく終わってしまった。

三人は資料室の横の部屋に一人ずつ隔離、三丁のアサルトライフルはマガジンなどの各パーツを全てバラバラにして組み立てられないように見つけにくい場所にすべて保管。

こう…本当に終わってしまえば、呆気ない。

 

「…俺って強いのか」

 

簡単に倒してしまった。

俺が予想していたより大分ハードルが低すぎる。ハードルがそもそもあったのかというレベルだ。

まるでレベル50程度で序盤の村のスライムを倒すような…そんな感覚に陥る。

最初の爆発による奇襲で警戒度をほぼMAXにまで引き上げていたというのに、これでは用心した分の気力が無駄になったというものだ。

 

「(にしてもまだ不知火の救助部隊は来ないな)」

 

———というよりは俺が敵を速く倒しすぎたんだろうな。

不知火は未だに目を覚さない。だが容態面は先ほどから変化はなく、安定してはいる。

 

…う〜ん。何かがおかしいような気がする。さっきからこの胸に燻る感情。…これは一体何なんだ?

虚無感…何故そんな心境に陥っているんだ、俺。

自分はそうだし、この体の本来の持ち主である遠山キンジは戦闘狂ではない。そもそも虚無感なんて発生しうる筈がない。

どうして、そんな事を感じるんだ。

微かなβエンドルフィンが駆け巡る脳を使って考えてみる。

 

———虚無感の発生原因は何か?

 

それは…何だろうな。やはり簡単に敵が倒せたという事なのだろうか?

そう考えるていると、今度は不信感がする。

 

———じゃあ、不信感の原因は何だ?

 

自分を信じれないのか?いや、違う。最初から俺は信じるか信じないかではなく、やるしかないの精神で動いてた筈だ。

…分からない。俺は一体、何を信じれないんだ?

違う…そうじゃない…もっと、こう…言い表せない。

………そう、違和感だ。違和感が不信感を生み出してるんだ。

 

———違和感、それは何か?

 

違和感という言葉が浮かぶ事柄に俺は出会ったんだ。

AだったものがBだったようで実はAだった…そんな様な事が起きている。

考えろ、深く考えろ。

虚無感の発生原因…それは“敵が簡単に倒せた”、これに尽きる。

逆転の発想だ、何故俺は敵が簡単に倒せないと思った?

それは——『敵が潜入経路に爆弾を設置していた』という事実があったから。

敵が潜入経路に爆弾を設置する、この事象の起因はたった一つしかない。

 

———内部構造を何かしらの情報から知り得ていたから

 

天文学的確率で爆弾をあの場所に設置した、などという起因は考えない。

仮にその起因だったならば、筋は通るように見えて通らない。

何故なら、俺がついさっき戦った三人組…あいつらは()()()()()()

わざわざあんな場所に置いて爆発させて、その確認か何かの為にここまで来る間に談笑をする…どう考えても論理的にはめちゃくちゃだ。

だからこそ、アイツらは確実に内部構造を知っていたんだ。

 

じゃあ、どうやって知っていた?

人質に取っている郵便局局員から聞いたのか?いや、それはない。アレは郵便局本社の人間しか知り得ない、どれだけ尋問しようが出てくる情報ではない。

まさか…俺たちの中に()()()()がいるのか?

そうでもない限り、説明がつかない。いや()()()()ではない可能性だってある。

俺たちの中の誰かが、相手から情報が筒抜けていた可能性だってないことはない。

そう考えると、今俺が戦ってる連中は末恐ろしい奴らになる。

戦闘能力はからっきしでも、妙に戦略という部分においては俺たちを出し抜く。

もしや、俺はまだ奴らの掌の上で踊っているだけなのか?

ロダンの考える像みたく、手に顎を乗せながら考えはみるが、これ以上は考えても致し方あるまい。

とりあえず、インカムで本部の方に連絡でも取ろう。

 

「こちら遠山、犯行グループのうち三人を完全捕縛。銃火器などは全て分解して組み立ては出来ないようにしてます。…それで応援はいつ来ますか?」

 

『——————』

 

なんの物音一つ聞こえない。

まずいな、何の返事も返ってこない。

もう一度連絡を取ってみよう。

 

「こちら遠山、応答してください」

 

『——————』

 

さっきと同じく、何も向こう側から音が発生していない。

本部に繋がらないので、致し方なく可能性に賭けて先輩たちのチームの方にも連絡を取ってみるが繋がらない。

何故、通信が繋がらない…先輩たちのチームだけならまだしも、本部とも繋がらない。もしかして電波妨害(ジャミング)でもされたのか?

携帯を開いてみると、右上には『圏外』と書かれている。試しにブラウザを開いてみようとするが、勿論開かない。

 

「(マズいなぁ…)」

 

やはり戦略面では奴らは、俺たちを上回る点が幾らかあるようだ。

何の連絡も出来ない状況で勝手に動いていいものなのか…指示待ち人間もそれはそれでダメではあるが。

ただ状況が把握できない…それが不安なだけだ。いや、あとはやっぱ体が痛くなり出したのも不安の一つだ。

現状、俺の体内で分泌されていたβエンドルフィンはその数を徐々に減少していっている。そのせいか、ついさっきまでは消えていた痛覚が元に戻りつつある。

100%、さっきまでの動きが出来るかと自分で問うてみるが、答えはNoだ。

ここで救援が来るまで待機するか、あるいはこのまま下へ降りて引き続き強襲をするか…

 

「………いや、行こう。」

 

俺たちの作戦の目的を忘れちゃいけない。人質救出…それが最優先目標だ。

覚悟を決めて、L字状の廊下の先にある階段を降りるか。

βエンドルフィンよ、頼むからもっと出てくれ…本当に…切実にそう思う。

 

今回の章のヒロインはダーレだ!!

  • 神崎Hアリア
  • 星伽白雪
  • 峰理子
  • レキ
  • ジャンヌ
  • 平賀文
  • 中空知美咲
  • 鏡高菊代
  • 望月萌
  • リサ
  • ネモ
  • 蘭豹
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