The ghost mask   作:らっど

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処女です(迫真

あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
俺は5000文字程度のプロローグを書いているつもりがいつの間にか30000字近くなっていた…
何を言っているか(ry


一部ミリタリー描写がありますが作者は特に銃に詳しいわけではないので雰囲気でお楽しみ頂けたら幸いです。


プロローグ
死が最後にやってくる


転生した。

 

なんてことはない。

ただ難病に生まれて、人生のほぼ一生を病院で過ごして、16歳という若さで死んだだけだ。

 

暗さと流れるような光に満ちた空間で

こう一言だけ言われた。

 

”汝、ブルーアーカイブの世界に転生させたるから好きな特典選べ”

 

実にご都合主義的な文言だったが、僕は迷わずこう願った。

「Call Of Duty MWのゴーストになりたい」と。

 

 

Call Of Duty シリーズ  通称CODは世界で大人気の対戦型fpsゲームだ。

そのシリーズでも、特に高い人気を誇るCall Of Duty Modern warfareシリーズ。

現代を舞台に、特殊部隊の一員として世界を守る為に激戦を繰り広げるというストーリー。

 

僕は、美麗なグラフィック、広大なフィールドを、銃を担いで駆ける兵士。

なによりゴーストというキャラのビジュアル、クールさ、バリスティックマスクを被った悪魔のような姿。

どんな危険な状況をも卒なくこなし、勝利をもたらすその強さに憧れた。そうなりたいと思ったんだ。

 

両親は僕を病弱な体に生んでしまったことに罪悪感でも持っていたのだろう。欲しいものはなんでも与えてくれた。

何の娯楽も無い病院で遊びに付き合ってくれたのは、若くして海外で飛び級して医師免許を取得したという研修医でオタクの先生くらいなものだったので、僕がゲームにハマるのは当然のことだった。

 

沼に浸かるかのようにゲームをプレイし続けランク戦に置いてもチーター共と戦いながらTOP250までにも上り詰めた。

いつしか時が経ち、最新作であるMW3が販売され、キャンペーンモードを終えた僕は眠るように、ただ眠りにつくように、生涯を終えた。

最後に思ったことは、”僕なら死んでいった仲間を、相棒を、救えたのに”だった。

 

 

そうして僕は転生することになった。

憧れだったゴーストとして、来世は幸せになるぞと心に決めて。

 

 

そういえば、ブルーアーカイブ?はて、そういえばそんな小説だかゲームだかあったかな。先生からも聞いたことがないし、一体────

そんな呑気なことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──だというのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───冗談だろ......ソープ?...ジョニー!」

 

僕の、俺の眼の前に血まみれで横たわる仲間の姿、相棒は、もうとうに瞳から光を失っていた──

 

結局俺は、何も救うことなんか出来なかった。どれだけ努力して、己を鍛えて続けて、憧れだった男に近づこうが、

その本質はかつての寝たきりガキのまま、変わっちゃいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──これは、亡霊(ゴースト)と為ってしまった彼の、いつか夢見た、青き春(ブルーアーカイブ)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1993年6月29日。僕は生まれた。転生先はイングランド西部マンチェスターのスラム街だった。ブルーアーカイブ?の世界に転生したものだと思ったが、

あの空間で聞いたうろ覚えの”キヴォトス“だか”先生”というのも聞かないし、ラジオから流れてくる音声の内容はイギリスや世界情勢について語るものばかりだった。ただ、そんな些細なことはどうでも良かった。

サイモン・ライリーという僕に与えられた第二の人生の名前にして憧れのゴーストの本名。なにより、

 

「お兄ちゃん!早く遊びに行こうよ!」

「今準備するから待っててな、サイモン」

「はーい!」

 

体が自分の思い通りに、自由に動く。前世では出来なかったかけっこに、友達と一緒にサッカーボールで遊ぶ。

日焼けで肌が痛くなるほど遊び尽くして、小さな寝床で泥のように眠る。

病室から覗く外の景色と、ゲームの中のグラフィックでしか見てこれなかった色彩に満ちた光景を、己の目で、体で感じ取ること。それに僕は魅せられたんだ。

 

スラム街だし、決して治安は良いとは言えないけれど、僕は毎日が幸せだった。

家計はいつも火の車だったが、それでも家族の仲は良好だった。

 

器量良くは無いが物腰柔らかい母親に、頑固だが家族思いの父親、僕といつも一緒に遊んでくれる優しい兄。

 

─幸せの日々だったのだ、そう、あの日までは。

 

 

 

 

 

あれは、そう。12歳の夏、なんてことはない何時もの日常だった。

ボロ家の、小さな小部屋で大学受験のため必死に勉強をしている兄とそろそろ家に帰ってくる父のために母と一緒に夜ご飯の準備をしていた時。

 

 

「おい、金を出せ!でないとガキを殺すぞ!」

 

その言葉とともに、僕は床に叩きつけられた。突然ことで頭の理解が追いつかなかったが、強盗に入られたのだと気付いた。 頭頂部にひんやりとしたナニカが突きつけられている。それが銃であることは想像に難くなかった。

 

「やめて、サイモンちゃんを放して!」

母を僕を助けまいとし、包丁を手に強盗に果敢に立ち向かったが、その問答は、たった一つのけたたましい音で終わりを迎えた。

 

 

一瞬の出来事だった──

 

母は、崩れ落ちるように倒れた。

奇しくも、僕の眼の前に倒れ込むようにして。

 

「ヒッ!?」

 

 

即死だった。母のどろりと濁った目と重なり全身を恐怖で震わせる。一体どうしてこんな事になってしまったのだろう。無意識に僕は這うように、母の、母だったモノに身を寄せた。

 

「お母さん?冗談だよね...ねぇ返事してってば」

 

分かっていたのだ、母が死んでいることなど。ゲームのように起き上がったりすることなどないのだと。

ただ、受け入れられなかっただけ。

 

「お母さん!起きてよ、起きて!目を覚まして…」

「うるせぇ餓鬼だな。テメェも死ねや」

 

再び銃を向けられ、突きつけられた銃口から嫌なほどの熱さと殺意を感じた。これが現実、手のひらほどの大きさでしかないモノから、圧倒的な死がやってくる。そうやって母は死んだのだ。

恐怖で体が硬直し、生存本能で加速した思考の中でも、僕はただ死にたくないという思いが渦巻いていた。

 

そうして、死の瞬間が訪れるのを待ち続けるだった僕に、ふと、不愉快な音が耳に入った。

 

それはまるで肉を抉るような、そう、豚肉を刻むような音だった。

 

熱い何かが頬を伝わり、ドサリと僕を押さえつけていた強盗が倒れ込む。

 

「ぐぁっぁ!?」

「─────ッ」

 

薄く夜空が窓から光を照らす中、ギラリと鈍く反射する刃物と人影が目に入った。

下手人は杭を打つが如く、倒れ込む強盗に何度も、何度も、何度もその刃物を突き立てる。その殺意を、憎しみを一心に込めるように。

刃物は母の持っていた包丁だった。恐らく銃に撃たれた母が落としたそれを拾ったのだろう。

 

やがて強盗がピクリとも動かなくなったのを確認すると、その人影はようやくこちらへ首を擡げ、こう声かけた。

 

「大丈夫か、サイモン!」

「お兄ちゃん──?」

 

僕はその人を兄だと理解できなかった。いや、認識はしていた。ただその瞳が、あまりに濁って見えたから。

ひだまりの中で、優しそうに微笑んで僕を褒めてくれるあの瞳と、あまりに違って見えたから。

だから僕は、それを兄だと認めることが出来なかった。

 

「もう大丈夫だ、お兄ちゃんが...お兄ちゃんがお前を守るから」

 

そうやって僕を強く抱きしめ、歯を食いしばりながらも涙を流す兄を、僕は抱きしめ返す事ができなかった。

僕にはそんな資格がなかったから。兄は優しいままの兄だった。そんな兄をこんな残酷な目に合わせてしまったのは僕だ。母の命を奪い、その上前世ほどの年齢しか生きていない兄に人を殺めさせるなど。

 

遠くからサイレン音が響き渡る。

 

僕はこの無力感と罪悪感に苛まされるように嗚咽を漏らし、ただ時が過ぎるのを待つばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2年の時が過ぎた。

 

警察はあの事件を世間に公表することはなかった。その見返りとして、兄の行動は正当な防衛行為として処分された。

 

これほどの時間を経てもあの事件の残滓は強く残った。

父親は狂ったように酒に溺れ、僕たちに暴力をふるようになり、次第に体が弱っていき、最後には僕たちへの懺悔を漏らしながら自殺した。母のあとを追う様に、首を吊って。

 

僕は変われなかった。ずっとあの日に取り残されたまま。自らを偽り死の恐怖に怯える心を覆い隠していた。

とりとめのない日常を過ごして、機械のように生き続ける日々。ただそれだけだった。

時折り、悪夢を見る。死んだ母と目を濁らした兄が、僕をずっと見つめている。そんな夢を。

 

兄は、誰よりも変わってしまった。あの事件を経て心を病んでしまい、必死に勉学に取り組んだが、受験に落ちてしまった。

心折れてしまったのだろう。毎日のように泣き散らし、怠惰になっていき、次第にクスリに手を出すようになってしまった。

まるで、あの日から、今の己から目を逸らすかの様に。

 

クスリを飲んでいる時の兄は、いつか見た様な優しい姿で、僕には、それを止める事は出来なかった。

無意識のうちに、僕もそんな優しい兄を望んで居たから。

 

やがて、借金をしてまでクスリに傾倒してしまった兄はいつしか借金取りに追われ、強く死を望むようになった。

 

 

 

 

「なぁ、サイモン。俺を、殺してくれないか」

「──は?」

 

ある日、唐突に兄はそう言った。

 

そうして僕は、兄を殺した。兄が隠し持っていたと言う、かつて強盗が母親を殺したm1911a1で、心臓を貫いて。

それが兄の望みだったから、その方が兄にとって幸せだと思ったから。

 

 

──いや、違う。僕はもう何も考えたく無かった。だから兄の望みのままに動いた。僕自身が僕を守る為の、身勝手な自己弁護に過ぎなかった。

 

銃は、子供の手が扱うにはとても重く、そして軽く感じた。ラピートテープが貼られたグリップに、少し焼けた銃身。45ACP弾を採用した弾倉。

 

これが、銃。かつての僕が憧れ、今の僕が畏れるモノ。母の命を奪い、今まさに兄の命を奪う事になったモノ。

己の手で、己こそが兄を撃ったというのに、涙が溢れ出てくる。

 

血に塗れた兄の姿は、あの日の母を想起させた。そして兄は、振り絞る様にこう言った。

 

「……なあ、サイモン。自分でどう思ってるかは知らねえが、お前は強くて、優しいやつだ。だから、救ってやれ。お前自身を。俺はもう十分に救われた。だから、その優しさを、他ならぬお前のために使ってやれ。約束だぞ?」

 

血が絶えず流れて行く。もう長くはない。そう思わせるには十分過ぎた。ぐずる子供をあやす様に、涙を流す僕の目元を血と油で塗れた両手で拭いながら、それでも兄は言葉を紡ぎ続けていく。

もうやめてくれ。僕は貴方が思うほど強くも優しくもないんだ。ぜんぶ、僕が悪いんだ。ぼくがお母さんを、皆をスクエナカッたから。だから。

 

「ありがとう。生まれてきてくれて。ありがとう。俺を愛してくれて」

  

やめろ。やめろ。やめてくれ。僕は──

 

 

 

 

 

「愛してる。サイモン...」

 

 

 

 

 

涙を拭っていた筈の手が肌を触れながら離れていく。

 

静寂だけが世界を包む。僕は縋るように兄の冷たくなった体を抱き寄せ、

 

「───お兄ちゃん。おにい、ちゃん。う、うああああああああぁぁぁぁァァ!」

 

ただ、号哭した。

 

 

 

 

 

もう限界だった。何故世界は僕から大切な人たちを、家族を奪っていくのか。なぜ僕は、こうやってのうのうと家族の命を奪って生きているのか。

 

──もう、死のう。

 

兄の最後の願いも、僕の絶望を曲げることは出来なかった。弱い僕には、僕を救うことなど出来やしないのだから。

そうして僕は、銃口を自らの脳天に添えてその引き金を引こうとした。

 

その時ふと、涙でボヤける視界の隅に何かが写った。僕はなぜだかそのナニカに無性に惹かれ、或いは死から逃れる方便のためか、導かれるようにそれを手に取った。

 

──それは、仮面だった。血に塗れ、汚れを纏ったパーティー用の、スカルフェイスのマスク。顎のラインが割れ、ボロボロの姿は不格好で恐ろしく、そして酷く既視感に魘まれるものだった。

 

 

──それはまさに、ゴーストのマスクそのものだったのだから。

 

(幻聴)が聞こえる。福音のように。運命を祝うように。悪魔の囁きが。救いを求める人々(家族)の声が脳を侵すように駆け巡る。嫌なほどに理解させられる。これは、これは──

 

「あぁ、そうか。世界は僕に(ゴースト)であること望んでいるのか」

 

そうだ。僕じゃない。(ゴースト)という存在を世界は望んでいるのだ。彼という無名の英雄の存在を。だから、世界は彼を作り出すために僕に地獄を突きつけた。物語の道筋から外れたモノを戻さんとして。

 

僕が僕であろうとする限り、世界はまた繰り返すのだろう。ならば、答えなど一つしか無かった。そうして、僕は。

 

「お兄ちゃん。守るよ、約束。僕は、僕自身のために貴方達(人々)を救う。僕が救われる(贖罪する)には、もうそれしか無いからさ。例えそれが地獄へ続く道でしか無かったとしても、僕は歩むよ。だから、僕が奪ってしまった分だけ、天国でみんなと幸せに過ごしてね」

 

僕が消えることでこの悲劇の連鎖が止められるというのなら、喜んで消えよう。

これは、訣別だ。弱い自分との訣別。そして、家族との訣別。

 

「産んでくれてありがとう。愛してくれてありがとう。──僕も…愛していました」

 

目を閉じ、震える手でマスクを顔に押し当てる。これで、すべてが変わる。その確信が心に刻まれた。それでも、もう引き返すことは出来ない。

 

決意を込めてストリングを絞め固定する。──これで全てが終わった。

 

 

 

 

 

どれほどの時間がたっただろうか。

 

再び瞳を開いたその時、ナニカが失われていく感覚が襲った。思考が、感情が、急激に冷えていく。嫌な感覚だが、どこか懐かしくも思った。これは...…まるで───いや、今考えるべきことでは無いだろう。そう考えて、地面に散らばるガラス越しに己の顔を覗いた。

 

そこには、マスク越しに蒼黒い瞳を暗く淀らせ、血涙を流す様にただこちらをじっと見つめる男の姿があった。

 

「───あぁ」

 

世界は望み、そして彼は正しく英雄となった。遂に賽は投げられた。モダン・ウォーフェア(物語)が、始まろうとしている。

 

それでも───

 

「抗ってやるさ。このクソみたいな運命にも、この世界にも」

 

そうして男は悠然と立ち上がり、

 

「だって()は、サイモン・”ゴースト”・ライリーだからな」

 

そう吐き捨てるように謳った。もう迷いはしない。彼は英雄なのだから。振り返ることなど出来はしない。許されない。兄の亡骸に背を向け、ただ一言を残す。

 

「約束は果たすさ、兄さん。だから......行ってくる」

 

───さようなら

 

もう帰ることはない。かすかに残った感情が、そう確かに遺志を残した。

 

強い足取りで、家族が眠る家を後にする。夜はまだ明けない。闇だけがこの街を支配している。彼もまた一人、その中へ溶け込んでいく。その姿を、誰も居なくなった家だけが哀しげに見送るのだった。

 

 

 

────涙はもう、流れなかった。

 

 

 

 

 

あの家を離れてから、数々のことを経験した。

 

初めて、自らの意思で人を殺めた。兄にクスリを売りつけていたバイヤーだ。罪悪感などは感じなかった。あるのは、ただ虚しさだけ。

その日から俺はスラム街に掬う害虫共を殺す事だけを命題に、ゲリラ戦に邁進した。

何をするにも手探りで、何度も失敗を繰り返した。俺と同じ様に家族を失い生きるため、復讐をするために集まった子どもたちを死地に送り、命を落とす瞬間を何度も見てきた。そして一人生き残り続けた。

それでも、ただひたすらに戦いに明け暮れた。

 

皮肉なことに、ゴーストの身体は驚くほどに戦いというものに順応していった。

戦いの度に傷だらけになっていたはずの身体は、時の流れと共に大きく強健になり、どれだけ効率良く敵を始末出来るか、そればかりが頭に浮かぶようになった。

 

そうやって、殺して、殺して、失って、また機械の様な日々を過ごし続けるのだろうと思った。

 

 

 

「SASに来い。お前に相応しい場所を与えてやる。ゴースト、いや、サイモン」

 

そんな言葉を投げかけて来たのは、プーニーハットを被り髭を生やした男。

モダンウォーフェアー(この世界)の主人公である、ジョン・“プライス”その人だった。

 

 

 

それからの日々は、本当に流れるように過ぎていった。

 

16歳の誕生日に軍へ入隊し、2年後には非公表とはなったがSASの入隊試験を最年少の若さでパスした。

 

「ようこそ、イギリスが誇る最強の部隊、SASへ。歓迎しよう。ゴースト」

 

「まぁ、理解はしているつもりだったがあんたが上官とはな、プライス」

 

「不満か?」

 

「いや、運命とやらを呪っているだけだ」

 

 

 

──地獄を見た。

 

 

 

SASとしての作戦の中で俺は特殊な経歴を保有していることからゲリラ戦や破壊工作、諜報、暗殺、そして最も高い適性を持っていた狙撃など、極めて危険度が高い任務へと駆り出された。

 

「”戦場の死神”、”闇夜に現れ闇夜に消える亡霊”…か。異名にしては随分と恐れられているみたいだな。…それに最近は根を詰めすぎなんじゃないか?少しは休息を取ったらどうだ」

 

「心配には及ばない。あんたこそそろそろ退役したらどうだ?上官殿」

 

「余計なお世話だ」

 

 

 

──地獄を見た。

 

 

 

 

そして、運命と出会い。

 

「俺は”ソープ”・マクタヴィッシュだ、マークスマン(選抜射手)を務める。宜しくな、ゴースト!」

 

「──”ゴースト”、サイモン・”ゴースト”・ライリーだ。せいぜい足を引っ張るなよ?石鹸野郎」

 

「おま、俺が気にしてることを!」

 

 

 

──血と硝煙に満ちた地獄を。

 

 

 

 

長きに及ぶ因縁、超国家主義者のウラジミール・マカロフと邂逅し。

 

「マカロフ!お前の脳みそを吹き飛ばしてやるッ、誰がなんと言おうとも!」

 

「フッフッ...、やれよ」

 

「ソープ抑えろ!そいつは既に拘束されて逃げられない!ここでそいつを殺せば国際法に違反する事になる!」

 

 

 

──爛れた死体を見た。嬲られた死体を見た。

 

 

 

 

 

「141へようこそ。選りすぐりの兵士による地球上で最強の部隊だ」

 

「国家や人種を超えた多国籍部隊か。人員はどうなってるんだ?プライス」

 

「指揮権は米陸軍のシェパード中将が。CIAから作戦協力としてケイト・ラズウェル。俺達SASからは主に俺、ゴースト、ソープ、ロンドン市警に出向していたカイル・”ギャズ”・ギャリックが動員される。どうだ、嬉しいだろ?」

 

「いいや全く」

 

 

 

──バディを組んだ仲間が死に、ただ偶々、迫撃砲に晒されて死んで行く仲間を見た。

 

 

 

 

 

ロシアと武器供与の取引を行うイラン高官をPMCのシャドウカンパニーと共に排除し。

 

「コーブラニ将軍を発見した」

 

『了解。全部隊へ。目標を確認。これよりシャドウは攻撃に移る。ゴースト、そこは目標にかなり近い。ミサイルの威力を考えると─」

 

「了解。問題ない。撃て」

 

『全部隊へ、シャドウ−1だ。ミサイルはいつでも撃てるぞ。総員、衝撃に備えろ!』

 

 

 

──多くを殺した。

 

 

 

 

コーブラニ将軍の復讐に燃える男、クドス小隊のハッサン少佐を追い。

 

『ブラボー。アルファは行動不能、負傷者多数!クソッ、攻撃を受けている!』

 

「こちらは家屋1へ移動する。耐えてくれ」

 

「ゴースト!今すぐアルファの支援に向かうべきだ」

 

「まずハッサンを片付ければ、アルファへの攻撃も手薄になる。良いな?」

 

 

 

 

──敵で有るのなら誰でも殺した。

 

 

 

 

新たなる戦争の火種を見つけ。

 

「ラズウェル、凄いものを見つけたぞ」

 

『ハッサンなんでしょうね…』

 

「ゴースト、これを見ろ…」

 

『ゴースト、ハッサンは見つけたの?』

 

「いいや、だが兵器を見つけたぞ。ハッサンはミサイルを持ってる。…アメリカ製のな」

 

 

 

──例えそれが昔の写し鏡のような少年兵だったとしても。

 

 

 

 

ハッサンの逃亡先である、メキシコの大地を特殊部隊ロス・バケロスと共に闊歩し。

 

「俺はアレハンドロ・ヴァルカスだ。魂の街へようこそ。こいつは副司令官のロドルフォだ」

 

「幽霊は苦手なんだ」

 

「…………」

 

「スペイン語は?」

 

「全く」

 

「すぐ慣れるさ…」

 

 

 

──罪を重ね続けた。

 

 

 

 

メキシコのカルテルから聞き出した情報を頼りに、イランに渡ったミサイルを追い。

 

「ゴールドイーグル指揮官、こちらシャドウ-1。ミサイルとリグを破壊した」

 

『良くやった』

 

「なんて威力だ…こんな兵器が──」

 

 

 

──キリがなかった。

 

 

 

 

ミサイルの本来の持ち主にして戦争犯罪の隠滅を目論むシェパード将軍とそのPMCの裏切り、狂気に満ちた街を抜け出し。

 

『ッ駄目だ、ドアが開かない。鍵が掛かってる』

 

「落ち着け。辺りを探せ、それで道具を作るんだ」

 

『随分と手慣れてるみたいだな、ゴースト?』

 

「無論だ。───ゲリラ戦へようこそ、ニュービー──」

 

 

 

──心なぞとうに擦り切れていた。

 

 

 

 

メキシコに巣食う悪意、裏切り者を仲間とともに追い出した。

 

「これは身内との戦いだ。もう141やロス・バケロスじゃない。俺達は、ゴーストチームだ──」

 

 

 

──それでも戦い続けた。

 

 

 

 

そして、イランに渡った最後のミサイルと、ハッサンの排除。

 

『中尉、助かったぜ』

 

「狙撃には自信があるんでな。──軍曹、お前のおかげだ」

 

『総員に告ぐ。ハッサンを倒した、敵はKIAだ』

 

 

 

 ──なにせ俺は、ゴーストだから。

 

 

 

 

 

 

 

激動の日々(mw2)を超え、ある日の事。

 

私的に楽しむ趣向品をソープと共に買いに行ったその帰り。

 

「なぁゴースト。その、本当の姿を見せてくれないか?」

 

唐突な質問だった。俺はソープの発言の意図が理解できず、こう返した。

 

「本当の姿?素顔なら一度見せてやっただろう」

 

「そう云うことじゃない。その…なんだ、お前、無茶してるんじゃないかと思ってな」

 

「無茶?」

 

無茶だと?そんな筈は無い。俺はゴーストとして、多くを救うと誓った。誓ったんだ。あの日、あの場所で。誰かの救いのために誰かを犠牲にして生きて来た。その度にその思いを、命を背負ってきた。これが無茶だと、そんな事言える筈が──

 

「俺も何度も見たことがあるわけじゃないけどな。ゴースト、お前の目は、自殺志願者の目をしてる」

 

「……」

 

「いつもクール振ってる様に見えて、仲間の死にお前は誰よりも動揺してる」

 

反論はできなかった。一言でも言葉を返せば更に自らの奥を掘り起こされてしまうのでは無いかと思ったから。”ゴースト”の内に眠る弱さが、再び目を覚ましてしまうのでは無いかと思ったから。

 

「軍に入るヤツの中には、特殊な経歴を持ってるヤツも居る。詳しいことは聞かないし、聞こうとも思わない。けどな、一つだけ言いたいことがある」

 

「…それは?」

 

意趣返しのつもりで気丈につぶやいた言葉は、予想していたよりも小さく、弱々しいモノだった。

断頭台に立つような心構えでソープの言葉を待つ。そして…

 

「俺が思うに、最強の武器ってのは俺達の結束なんだと思うんだ。だから、その…つまり、お前が一人で何から何まで気負う必要はないってことだ」

 

「────」

 

時が止まったような感覚だった。そうだ、俺達は仲間だった。たとえ俺がどんな存在であったとしても、どんな道をたどったとしても。141は、きっと──

少しだけ口角が緩む。

 

「……何だよ、なんか言えよ」

 

「───フッ、大言を言うならもう少し昇進してからにするんだな、軍曹」

 

「なッ!せっかく良い事言ってやろうと思ったのに!お前の階級なんざすぐに追い越してるやるから覚悟しとけよ!」

 

「ああ、その日を楽しみにしてるさ」

 

そうして俺とソープは歩みだす。不確かな未来に、少しの希望を望みながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその半年後、2023年11月23日、ソープは戦死した。

 

かつて俺達に捕らえられ、刑務所から脱獄し未だテロリズムを繰り返す、141最大の敵にして新たなる火種(mw3)。ウラジミール・マカロフの手によって。

 

 

 

スコットランド北部、ソープの故郷から少し離れた崖に俺とプライス、ギャズは来ていた。

目的は、そう。ソープの遺灰の散骨。

 

「──最高の男だった」

 

「─タフでした」

 

プライス、ギャズの順にソープの勇姿を称える。たとえその言葉がどれだけ短かったとしても、それは最高の賛辞にほかならない。…次は、俺だ。

 

「例え丸腰でも戦い抜いた…」

 

瞳を閉じればいくつもの情景が蘇る。ソープと出会ってからの約7年の月日。最初は面倒なやつだと思った。

熱血漢で暑苦しく、弱い存在。それでもアイツは必死にしがみついて来た。誰が生きて帰れるかも分からない地獄を必死に生き抜いた。いつしか俺にとって無くてはならない相棒になって行った。─そう云う男だったな、お前は。

 

持ってきたバッグの中からソープの遺灰が入った瓶を取り出す。

そして俺達は瓶の上に手を合わせ─

 

「──”敢えて挑むものが勝つ”……ゆっくり休めよ」

 

「─あの世で待っててくれ。意志は受け継ぐ…」

 

別れを告げるのは、また失うのはもう嫌だ。それでも──

 

「────安らかにな、ジョニー」

 

仇は、必ず取る。俺が、俺達141が、だから─

 

瓶の蓋を外し、ゆっくりと傾ける。

ソープの遺灰が風に流されるように、宙に散っていく。

 

胸元に視線を下ろす。光に照らされ輝く3枚()のドッグタグと

取り付けられたcqcホルスターに収められたソープの愛銃、staccato Pに手を添える。

日光のせいだろう。それは仄かに温かみを帯びていた。幻想に縋るように、震える手で強く握りしめる。

 

──お前は俺にとって最高の英雄()だった。安心してくれ。マカロフは、必ずこの手で殺す。

 

 

 

 

俺もいつか、そっちに行く。

 

 

 

 

 

それからも俺達の戦いは続いた。

 

マカロフが率いるコンニグループとの戦いで多くの隊員が殉死した。

 

──ギャズでさえも。

 

「ゴーストッ!今すぐギャズに輸血を!このままだと失血死する!」

 

「……無理だ。今から輸血を始めた所でもう手遅れだ。それに、血圧が下がりきった状態で輸血をすればギャズを無意味に苦しめるだけになる」

 

「クソッッ!」

 

「…大尉、ゴー、スト、後を…頼みます」

 

「ギャズッ!目を閉じるな!起きろギャズ!」

 

「……ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2026年11月19日

 

 

141基地内が慌ただしい足音に包まれている。

その元凶は、プライスがコンニグループがVIPとして匿っていた捕虜から掴んだある情報にあった。

隊員たちがCIC室に集う中、叩きつけるようにしてプライスは一枚の航空写真を机に置いた。

 

「遂にマカロフの尻尾を掴んだぞ。ヤツは今、ロシア最北東のチュクチ自治管区から少し離れた要塞化された小島にいる」

 

「奴の目的は?」

 

「──核だ、あそこには冷戦時に建てられた核兵器のバンカーが残されている。近頃近代化改修がされていることも確認された」

 

「何故奴が核なんてものを…」

 

「マカロフはロシア政府の支援(パトロン)を受けている。核の配備も最終段階まで進んでいるらしい。ロシア政府からすればテロリストによる無差別攻撃だとして責任を逃れられる上に、西側の力を削ぐことができるとでも考えいるんだろう」

 

「核の目標地点は?」

 

「──アメリカ、ワシントンDC」

 

考えうる可能性の中で最悪の結果を引いた。

 

「政府が絡んでいるとなれば軍は動かせない。一体どうするつもりだ」

 

西側と東側、かつての時代の悔恨は未だに燻っている。一度火を付けてしまえばすぐに爆発してしまうモノだ。

故に西側は東側に直接手を出せず、それは東側も同位だった。世界はそうして均衡を保って来た。

 

 

 

「──俺達141が居る。指揮権を握っていたシェパード(裏切り者)は既に排除した。名目上俺達はどの国にも、どの軍にも属していない幽霊部隊という扱いになる」

 

 

「…つまり代理戦争を仕掛けるということか。警戒網はどう切り抜ける、奴らがそう簡単に道を譲ってくれるとは思わないが」

 

「高度40000フィートからHalo降下を行う。これでほぼ全ての警戒網を切り抜けられる」

 

「だが、それでは──」

 

「ああ、帰って来ることは出来ないだろうな」

 

「…」

 

どよめきが広がる。無理もない話だ。自ら死ねと言っている様なものなのだから。

 

「はっきり言って、この作戦は博打だ。俺達の生存確率はゼロに等しい。航空支援も望めない…だがやならければならない、この世界に生きる無辜の人々を守るために、他ならぬ俺達が」

 

「命が惜しいのなら降りて構わない。それもまた正しい選択だ。だが俺達の行いが3億人もの命運を背負っている。そこにはお前たちの友や、愛する者たちも居るだろう。故に──覚悟ある者のみ銃をとれ。選び取る覚悟を、命を捨てる覚悟を持つ者のみが」

 

 

───────

 

 

 

2026/11/21/am03/????・Operation Broken Halo

 

 

 

 

 

 

エンジンの轟音が鳴り響く鋼鉄の棺桶、その中に俺達141は居た。

ここはロシア領内上空。降下地点から約15kmほど離れた場所。

 

「作戦の最終確認だ。俺達はa地点に降下の後、二手に別れバンカー内へ侵入する。俺達は西側から、南側はゴーストが先導する。合流した後にコントロールセンターを目指し、核の制御端末を探す。目標はマカロフの排除、および核兵器の停止または破壊だ。コンニの連中は手練れだ。元スペツナズや特殊部隊上がりが多数いる上、地の利は奴らに有る、油断はするなよ。忘れるな、最優先事項は核兵器だ」

 

プライスの言葉に隊員たちが一様に頷く。そうしてプライスは隊員たちを見渡し、再び口を開いた。

 

「…今作戦に、誰一人降りること無く臨んでくれたこと、感謝している」

 

その言葉に

 

「あんなに言われちまえばなぁ」

「俺達は一つで141、そうだろ隊長」

 

口々に隊員たちは言葉を投げかける。プライスは少しだけ涙ぐみ。

 

「…ありがとう。──さぁ、時間だ。装備を着けろ、世界を救いに行こう」

 

 

ハッチランプが点滅し、緑へと切り替わる。大気を切り分けるようにして鋼鉄の扉が開かれていく。

機内からも伝わる風圧に目を細める。隊員たちが降下用の装備を着用し、装備類の確認を始める。

首にかけた3つのドッグタグをジャケットの内側に入れ、俺も同様に装備の確認をする。

 

 

メインアーム FN SCAR-l

使用弾薬は5.56×45強化(EP)弾。イラクやアフガン、どの様な環境であっても稼働し続ける安定性を求めた果てに行き着いた銃。ストックはACRのものに換装。アッパーレシーバーやチャージングハンドルはパーツ交換を行い操作性の向上や反動の低下、M-lokに対応、scarの特徴的なタンカラーはブラックとのツートンカラーFDE仕様に。近接戦闘に対応する為のcqcバレルを採用。 マガジンチェック、確認。チャンバーチェック、確認。マグプルグリップの固定を確認。光学サイト、ブースター共に良好。レーザー、フラッシュライトの照射を確認。サプレッサー、スレッド部の緩みなし。

 

サイドアーム FN 545 tactical

使用弾薬は45acp徹甲(AP)弾。サプレッサーとの相性が良い事や高いストッピングパワーを持ち、アーマーを装備した目標に対しても十分な効果を与えられるacp弾を15発放つ事が出来る最新鋭の銃。P220 eliteやP226などを使用していた事もあったが手に馴染まなかった(・・・・・・・・・)事や品質の悪化、何より装弾数の少なさが決定打となり不採用。スライドはDLCコーティングを施し、連射力を高める為にトリガープルを軽く調整したフラットフェイストリガーを採用。カラーはマッドブラックで統一し光学サイトは激しい戦闘や衝撃、cqcには向かない為載せずリアサイトのマウントプレートガードも取り外し。マガジンチェック、確認。チャンバーチェック、確認。プレスチェック、異常なし。フラッシュライト、サプレッサー共に異常無し。

 

そして、

staccato P

使用弾薬は9×19パラベラム弾。プレートキャリア胸部分のモールプラットフォームに取り付けられたcqcホルスターからその銃身を取り出す。

──ガバメント、m1911に始まったその名称。かつて家族の命を奪ったその銃の名は時代を越え、この銃にも受け継がれている。これも因果というものなのだろうか。そう考えながら、ソープ(相棒)が遺した銃の状態を丁寧に確認する。タスクフォース141のエンブレムが刻まれ、チタン合金で造られたスライドにはガスの排出を促す通気ポートが施され微かにシルバーの銃身が姿を見せている。受け継いだその日から手入れを欠かしたことのないスチールグレーの身は新品同様の艷やかさを帯びている。

 

つい、哀愁に浸りそうになる。隣に居たはずの男の姿を幻想してしまう。

そんな思いを胸に秘めるように、ホルスターへと収める。

 

「ゴースト、お前からも何か言ってやれ」

 

ふと、ナイーブになっている俺は唐突にそう言われた。表情を固くしていた俺へのプライスなりの配慮なのだろう。少しだけ逡巡し、口を開く。

 

「この戦いが終わったら、俺の行きつけのバーで好きなだけ酒を奢ってやる。──忘れるな。最強の武器は、この結束だ」

 

こんな言葉は子供騙しにすぎない。誰もがそう理解している。これから俺達は、死にに行くのだから。誰もが死を恐れ、それでも前へ進んでいく。だというのならこれは──餞別だ。死へと旅立つ俺達への。

 

 

「”アレ“を持っていくのを忘れるなよ」

 

「分かってる」

 

 

「総員、準備は整ったな。行くぞ!パラシュートの展開は900フィートだ、ミスって死ぬなよ」

 

プライスが先陣を切って大空へと身を投げる。

 

竦む足を引きずるように進む。怖い、怖い、怖い。また、失っていくのが。

そんな俺に、声が聞こえた気がした。

──”行こうぜ、ゴースト”

 

 

 

あぁ、

 

これは、幻聴に過ぎない。俺の、都合の良い幻聴に。だとしても、そうだ。

 

──お前が、居てくれるなら。

 

強く、フロアを踏みつける。

 

そうして、俺もまた空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブラボー全隊へ、ダイナ1は墜落する!─グッドラック』

 

「俺はもう助からない、早く進め!」

 

「ブラボー3-1がやられた!マンダウン!」

 

 

 

命が消えていくのはいつだって一瞬だ。昨日まで一緒に歩いていたはずの仲間たちが、その灯火を散らして行く。

 

たった一発の弾丸で、全てが。

 

 

 

「よく来たなぁ、141。歓迎しよう、盛大にな…」

 

プライスと合流し、残存部隊とともにコントロールセンターを目指し薄暗いフロアを突き進む俺達を出迎えたのはマカロフが率いるコンニの連中の銃弾の嵐だった。俺達は応戦し敵を撃ち続けるが、あまりの敵の多さに一人、また一人と倒れていく。敵が構えたグレネードを撃ち抜き、爆発が防衛網を崩している間に前進を続ける。

 

「クソッ、敵の数が多すぎる!このままでは全滅する!」

 

「落ち着け!3-7。俺が迎撃する。グレネードを投げる!他は顔を出すな」

 

バッグの側部に取り付けられたカラビナから燃焼グレネードを引き出し、遮蔽から投擲する。

爆破。2000℃以上の熱に晒された幾人かが悶えて居るところを撃ち抜き、遮蔽から出てこちらを攻撃しようとしているヤツらを並外れた反射神経で流れるように3人仕留める。それでも俺たち全員が付け入る程の防衛網を崩せない。

 

クソッタレ、層が厚すぎる。

一瞬で持ち直したコンニから掃射を浴び掛けながら再び遮蔽へ入り、マガジンの残弾数を確認する。──残り14発。マグポーチには30マグが2つ。

…弾持ちがいいSCAR lでこれ程の消費。このままだとジリ貧になる。そう判断し、サイホルスターからFN 545を引き抜く。

 

「プライス、フラッシュを投げろ。俺はそのタイミングに合わせて前線を強引に押し上げる。お前達はカバーをしながら隙を見て前進しろ」

 

「了解した!死ぬなよ、ゴースト」

 

「無論だ」

 

「…フラッシュを投げる!ファイアインザホール!」

 

 

放物線を描くように投げられたフラッシュバンは景気の良い音を鳴らし、その直後閃光が響き渡る。

 

掃射の勢いが収まった所を狙い、カバーから飛び出し敵に接近する。

 

フラッシュバンは目標の視力を一時的に奪う事が出来る。ただ所詮は光。慣れている者相手では0.1秒の隙しか作り出せない。

 

──それがどうした。俺にはその数瞬で事足りる。

 

まず一人二人と、無防備になった敵の眉間を瞬時に撃ち抜いていく。いくら徹甲弾(AP)を採用していると言えど、高品質のアーマーを身に付けている兵士相手には決定打とはなり難い為、重装兵にはゼロ距離から流れる様な所作で首元にナイフを差し込む。

 

伏せていたことでフラッシュの直撃を免れたのだろう。死角からナイフによるcqcを仕掛けんとする敵の腕を左腕で受け止め、そのまま捻り上げ密着した状態から腹部に二発、顎下から一発。

視界を取り戻しかけ、銃を構えんとする敵に急接近し左手でナイフを引く抜き回転させながらバックハンドへ持ち替え無防備な首に突き刺す。そのまま絶命した敵を盾代わりにする事で降り注ぐ銃弾を防ぎ、フレンドリーファイアをしてしまった事に動揺している敵に向かって首から引き抜いたナイフを投擲する。クリーンヒット。

 

盾代わりにしている時に確認していた敵のマガジンポーチからSCAR lのマガジンと互換性を持つM4マガジンを抜き取り、自らのマガジンポーチに収納しながら再び銃を構え前進を続ける。

味方以外からの補給は本来推奨されることではないが、この戦局では補給などまともに受けられない以上やむを得まい。

 

 

 

 

コンニの連中で満ちた廊下を駆けて行く。後始末はプライスたちに任せ、俺一人が前進するのに障害となる兵士だけを即座に判別し仕留めながら前進を続けていると、少し開けたホールへとたどり着いた。

 

かつては備蓄品を貯めていた保管庫だったのだろう。大型のスチールラックが多数置かれているが物資はあまり無い。─厄介だ、ここには遮蔽が少ない。

物陰から見渡す限りでは身を潜められるほどの障害物はコンニの兵士が占拠して居る。

 

 

互いに睨み合いの状況。フラッシュバンは一つ有るが開けた場所、かつ兵士が分散している状況では効果が薄い。ここでの戦闘はあちらが圧倒的に有利。──そう奴らも判断しているだろう。

──なら、それを逆手に取る。

 

マガジンポーチから替えのマガジンを取り出し、マガジンリリースを押す。落下したマガジンをキャッチしリロードを行い、勢い良く物陰から飛び出す。チャンバー内を含めて装弾数は16発。左手は添える形では無く銃身がブレることの無い様に強く抑え付け、右手はトリガーの引きだけ(・・)に意識を向け構える。

 

 

いきなりの奇行に動揺しながらも銃口をこちらへと向けるコンニの眉間を撃ち抜く。

だが、それでは物の足しにもなり得ない。敵は大勢、周囲に遮蔽となるものは存在しない。”詰み”その状態だけが戦況に現れる。遮蔽から顔を出した複数の兵士が俺に照準を定め、今まさにその殺意を解き放たんとし、そして──

 

 

 

突然では有るが、人間には反応速度の限界というモノが存在する。

脳が危険を察知し信号を送り、筋肉が動作するまでのの最速時間は0.1秒だとされている。

ゴーストとて人間である。人間ではその限界を超えることは出来ない。

 

──だが、何事にもイレギュラーは存在する。心的外傷後ストレス障害、通称PTSD。軍に入隊した頃には既に俺は重度の病を患っていたらしい。主に挙げられた症状は過去の記憶のフラッシュバック、自己否定や感情の鈍化、過剰集中というモノ。特に過剰集中に関しては酷いものだった。常に極度の緊張状態となるため神経が覚醒状態となり、脳からはアドレナリンが放出され続けるという。ソレをゴーストという強靭な精神力で無理に覆っている、そんな体たらくだった。無論軍医からは除隊を勧められた。

 

──残念ですが、貴方の体はそう長くは持たない。どうあがいても貴方は早死することになる。軍役などもってのほかです。少しでも長生き出来る道を選ばれた方が良い。

 

 

だが、俺はそれを是とした。

もとよりゴーストという英雄は長生きなど出来やしないという確信があった。

それに、PTSDが俺を蝕む病だというのなら、その病すらも利用してれば良い。

 

 

 

──俺は使えるものなら何だって使う、ソレが己を蝕む病でろうと。

 

 

前述の通り、俺はPTSDの症状によって常に極度の緊張状態になってしまうことで無意味に寿命を消費してしまう形になっている。

だが、それはデメリットだけを示すものではない。

常に極度の緊張状態によって神経が覚醒状態となりアドレナリンが放出されるということは、常に危険を察知するために過覚醒状態となることであり、無意識下であったとしても意識が戦闘状態を維持でき、他者が知覚するよりも速く察知し、他者が行動するよりも迅速に動けるということ。

 

 

 

つまりだ。人間の反応速度の限界が0.1秒だというのなら、その限界に限りなく近しいゴースト(英雄)の身体なら、代償の対価に限界を越える事が出来るのなら、

 

──俺は常に他者より一歩先を往ける。

 

 

 

 

FN 545から瞬時に放たれた7発の弾丸が正確に、無慈悲に敵の眉間を貫いていく。

 

残った兵士たちが続け様に銃をこちらに向けようとするも、それすらも俺には遅すぎる。

再び放たれた死が襲い掛かり、戦場には不釣り合いな一時的な静寂が訪れる。

 

 

 

簡単な話だ。

 

死者は引き金を引けない。

 

銃を使用した戦闘とは、一部の特殊な状況を除いて必ず身を乗り出しての戦闘になる。

それは必然的に、どちらも自らの弱点を晒す行為になる。

 

であるのなら、対面での戦闘において必ず先手を取れる俺は──ただ敵に銃口を向けるだけでいい。

そうである限り、俺が死ぬことはない。殺した敵が引き金を引くことなぞ無いのだから。

 

 

 

コンニの死体がのさばる遮蔽の裏で、少しだけ身動ぎをする音がする。

 

ッチ、撃ち漏らしたか?

 

聴こえる音はその一つだけであると即座に判断し、その遮蔽へと飛び込む。そこには

 

「匕ッ!ち、近寄るな…化け物!」

腰でも抜けたのだろう。震える手でハンドガンを持ち、意味もない威嚇をしながら失禁(・・)している兵士がへたり込んで居た。

 

 

戦意は感じられない。見逃した所で戦局には何の影響もないだろう。それでも銃を降ろすことはない。

 

何度も見たことがある。この最低な面構えを。迫りくる死への恐怖、圧倒的な実力差を前に身を震わせる最低な面構えを。

いつ見ても嫌になる。殺されるだけの理由を抱きながら無様に取り乱す様を見ているのは。

 

「……不良品め」

 

緩慢な動きで照準を合わせ一発。沈黙。

これでいい。これでコイツも無様な体たらくを晒すことは無くなった。

 

残弾数は2発。14人。それだけの人数を数秒の間に処分した。

 

 

 

先を急がなければ。

だが、意思に反する様に体はうまく動かない。

 

 

視界が狭まって行く。手の震えが収まらず、急激に吐き気が遅い来る。

 

やはり来たか。

 

いくら俺が人間の限界を常に越える事が出来るのだとしても、意識してこれを引き出すのはなかなかに堪える。

そも、この能力は死を避けようとする防衛反応の一種だ。敢えて死へと直面する様な行動を取るのは本末転倒だ。

 

その代償は決して軽く無い。

 

脳がかき乱される様な感覚に襲われる。思い出したくもない記憶が俺を攻める様にフラッシュバックし、マスクの内側に隠していたはずの感情がこぼれ出る。怒りや憎しみ、何より己への殺意。生まれるべきではなかった、生きているべきでは無かった少年()への殺意が。

 

 

「……ハハッ」

 

これは罰と云うべきものだ。英雄。それに足るほどの力を持たないというのに不相応な願いを抱いた哀れな男への罰。

 

「……ッ不良品め」

 

症状が少しずつ収まっていく。点滅を繰り返していた視界が回復していく。

兵士としてのゴーストが再び織りなされていく。

依然として震えは止まらない。

それでも、やるべきことが有る。

そう体に言い聞かせ、重たい足を引きずるように歩を進める。

 

先は長くない。そう考えれば、足の重みは少しだけ軽くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵をなぎ倒しながらコントロールセンターへ歩を進める。進めば進むほど敵の層は厚くなっていく、より上等の装備を纏い優秀な兵士ばかりが闊歩する。だが敵は俺の位置を正確に理解出来ていない。いつ来るか分からない敵を警戒しなければならない。そうである限り俺の敵ではない。

 

もう少しだ。これだけの兵士をかき集めていると云う事は目標が近いと云うことに他ならない。

そうして一歩足を踏み出そうとして──突如として身が凍えるの様な悪寒を感知し、近くの障害物へダイブする。その直後、けたたましい銃声が響き渡りる。先程まで俺が居た地点を確認すると、たった一瞬の掃射で地面ごと抉り取られていた。

 

間違いない。この銃声。破壊力。発射レート、何よりの威圧感。これは、軽機関砲(ミニガン)ッ!

そしてソレを操る者は──

SCARに持ち替え遮蔽の影から少しだけを瞳を覗かせる。そこには、

耐爆スーツを纏い、その上に重装甲を纏う異形の兵士、ジャガーノート(超重装甲兵)がミニガンを抱えこちらに銃口を向けていた。

 

「チィッ!」

 

遮蔽に再び身を潜めると同時にミニガンの掃射が始まる。

 

携帯出来るようダウングレードはしているだろうが毎分3000発を軽く超える銃弾の嵐が襲い掛かり、その影響で遮蔽が崩れ始める。

不味い。このまま掃射を続けられれば完全に遮蔽が破壊される。そうなれば俺も蜂の巣じゃ済まない。

どうにかして隙を作り出し、他の遮蔽へ移動しなければッ。

 

だがどうする。5.56ミリ弾ではヤツの外装を貫通できない。フラッシュバンは一つ。真正面の相手に投げても意味がない。ミニガンの破損を狙う?一瞬だけなら顔を出せる。精密射撃をするには充分な猶予だ。だが恐らくは銃身に弾丸を当てた程度では壊れない。バレル内部に銃弾を当て暴発を狙うか?いや、可能では有るが回転式バレルの都合上射撃は続行できてしまうだろう。 

 

なら、危険度は高いが給弾ベルトを狙うしか無い…!

 

そう判断し、遮蔽に沿うような体制から射撃体勢へと移行し、

 

 

 

『伏せろゴースト!』

 

─やっと来たか。

 

投げ込まれたグレネードが爆発する。その隙に別の遮蔽に駆け込み、少し離れた遮蔽に隠れた向かって通信を飛ばす。

 

「遅いぞプライス、俺一人でも充分だったが助かった。他の人員は?」

 

『置いてきた。ブラボー2-1から4-5は防衛網を築いて俺達の方へ敵が周るのを防いでいる。生き残りは約半数にも満たないだろう』

 

「消耗が早い…早くケリを付ける必要がある、だが最優先は…」

 

『あのデカブツだな、グレネードの直撃を受けて立っていられるとは』

 

 

爆煙の中からジャガーノートが姿を現す。所々装甲は剥げているが未だ健在と云って良いだろう。

プライスが身を潜める遮蔽に掃射を始める。幅広で射線を多く維持できるとはいえ、やはりその遮蔽も長くは持たなそうだ。

 

「ウォッカ狂いにしてはタフだな。プライス、注意を引け。俺はヤツの背後に回る」

 

『了解した。だがどうやってヤツを仕留める』

 

「銃弾が効かないのなら近づくまでだ。装甲とて無敵では無い、直接杭をを打ち込んでやればいい」

 

そう言って俺は遮蔽の隙間をぬってジャガーノートの背後へと回っていく。

ヤツは俺を見失っている。簡単に背後を取ることが出来た。だが問題は─

 

 

想像していたよりも遮蔽からジャガーノートまで距離がある。ヤツめ、俺を警戒して敢えて開けた場所に出たな。

 

恐らく20m程は有るだろう。その距離を無防備になった状態で近寄らなければならない。気づかれれば即お陀仏だ。

いや、こんな所で悩んでいる暇は無い。

 

「プライス、フラッシュを投げる。とにかく音を出してヤツに気づかせるな!」

 

『了解した。流れ弾に注意しろ』

 

プライスが遮蔽の角から射撃を始めると同時にフラッシュバンを投げ込みナイフを引き抜きながら遮蔽から飛び出す。起爆までの時間は約2秒、怯んだその瞬間を狙う。

背後からの音に気づいたのだろう。ジャガーノートはこちらに振り返ろうとし、

 

 

──閃光。

 

漸く隙を見せたな。

 

アルティンヘルメットを左腕で抱える形で重点とし、首元の装甲、その上部からナイフを突き刺す。たとえ重装甲で身を覆った所で関節部、つまり可動点までを完全に守る事は出来ない。急所への攻撃を受けた事で力の抜けた足元に足払いを仕掛け転倒させ、無防備な首元にscarの弾を2発撃ち込む。

 

 

沈黙。ジャガーノートが再び動き出す様な様子は見えない。

それも当然か、首元に直接銃弾をぶち込んでやって生きている様なら其れこそバケモンだ。

 

首元に突き刺さったままのナイフを引き抜き背中へ収納する。

 

 

 

一悶着が解決した。そう思うのも束の間、全身に悪寒が走るのを感じる。

 

思考が一瞬の内に加速する。よく考えろ、今俺が置かれている状況は何だ。──ジャガーノートを倒す為に遮蔽の存在しない場所で身をさらしている。

 

何故ジャガーノートを倒すまでに一度も他の兵士と接敵しなかったのか?

何故大量の兵士が存在する筈の環境でジャガーノートが一人という有り得ない状態になったのか?

 

これはまるで──

 

ホルスターからfn 545を引き抜き、悪寒の走る方向へ直感的に銃口を向ける。

 

そして、俺の視界には、近代化されたAKS74Uの照準を俺へと向けているマカロフ、そして俺の下へと飛び込んでくるプライスだけが写った。

 

「ゴースト!」

 

 

 

銃声が響き渡る。

一瞬であるはずだというのに、その音はやけにゆっくりと聴こえる気がした。

 

 

「ガァッ!」

 

俺を庇い銃弾を受けたプライスが倒れ込む。

プライスは血を流している。プレートキャリアに覆われたはずの、バイタル。心臓部から。

 

容体を確認している暇は無い。マカロフの号令とともにぞろぞろと兵士が現れる。

 

 

「──ッ」

 

仰向けになって倒れたプライスの背中を掴み、後方へと引きずりながらこちらへと銃口を向ける兵士に片手で牽制射撃を続ける。

だが、プライスを引きずったままの状態では敵の処理が間に合わない、そうなればプライスも俺も諸共死ぬ事になる。とにかくこの均衡を崩さなければッ。

 

マガジンリリースを押しfn 545から勢い良くマガジンを振り落とすと同時にプライスの背中から手を離し、マガジンポーチからマガジンを引き出し薬室にまだ弾丸が残っている状態でリロードを終える。

 

両手で銃を握り直し、射撃。

放たれた弾丸は正確に、無慈悲なまでに敵の頭を貫いていく。

16発を撃ちきり、直ぐ様scarへと持ち替えながらも射撃を続ける。

とにかく速く、敵に撃たれるその先に。

 

 

 

SCARのマガジンが空になった頃には、生きている敵はもう居なかった。マカロフは引いたのだろう、死体は見当たらない。

急いでプライスを遮蔽の裏へと運び容態を見るためプレートキャリアの裏側へと手を潜ませる。ヌメり気、そして貫通した弾痕…やはりだ、プライスは心臓部を貫かれている。

 

どうしようもない絶望感が身を包む。

 

「…bloody, fucking hell」

 

息は微かにしている、呼気からも意識は失っていない。だがそれも長くは持たないだろう。

 

「ズィッ…ゴー、スト。無事…か?」

 

「…当然だ。何故、何故俺を庇ったッ!あの程度の状況は俺なら問題無く乗り越えられるとお前は知っているだろう!何よりお前は141のリーダーだ、例え仲間が危機的な状態で合ったとしてもお前だけは死ぬことは許されない!」

 

「あぁ、悪かった…ゴースト。だがな、俺は…守りたいと─思ったんだ。たった一人の息子(義子)を」

 

「──」

 

「なぁ、サイモン。俺達が初めて…出会った日を、覚えてるか?」

 

「─ああ」

 

「ガキの癖して─一丁前に目を濁らせて、この世の全てを…呪うかの様な風貌。俺は─何度も、見てきた。だから、せめてもの人情だった。お前を救ったのは、お前に…他人の姿を、重ねていたからに過ぎない。──だけどな」

 

 

血がとめどなく溢れいていく。声も、微かに掠れていく。

死が、迫りくる。

それでもプライスは振り絞るように言葉を紡ぐ。

 

「─19年だ。それだけの月日を…重ねれば、お前に、情が移るのは─当然だった」

 

「……ッ」

 

「酷い、話だろ。笑えない」

 

「──ああ、そうだな。勝手に父親面して、勝手に死んでいくのは…到底笑えない」

 

「悪かった、な」

 

瞼が少しずつ、少しずつ閉じられていく。

 

そうやって、お前までもが俺を置いて行くのか。

死期を悟ったのだろう。プライスは最後の力を振り絞り、俺の腕を掴み、

 

「──ゴースト、最後の、命令だ。──141を、頼む。俺達の、戦いを──終わらせてくれ」

 

 

 

「───任せろ。必ず、この戦いを終わらせる。お前たちの仇は必ず討つ。だから、眠れ。──義父(親父)、アンタの最後をこの目で見届けられることを誇りに思う」

 

瞼が閉じられる。

力が抜けたかのように俺の腕を掴んでいた手が落ち、自重に負け首が擡がる。その死に様は戦場には似合わず、まるで静かに、微笑むかのようだった。

 

 

 

 

 

 

亡骸となったプライスからギャズの分も合わせてドッグタグを回収し、膝に力を込め立ち上がる。

 

ああ、そうだ。俺たちの戦いを終わらせに行こう。ゴーストという男の旅の最期を、物語の終局を見届けに。

 

マカロフが去った道へと歩みながら装弾数を撃ち切り弾切れとなった銃へとリロードを行う。

 

──SCAR

マガジンリリースを押すと同時に自重で空のマガジンが落ちていく。渇いた落下音が響き渡る。

マガジンウェルへと新しいマガジンを差し込み、後退したチャーチングハンドルを引きば弾薬がチャンバーに送り込まれ、鈍い音が正常にリロードを終えたことを伝える。

 

──FN 545

こちらも同様にマガジンを捨てマガジンウェルへと新しいマガジンを差し込む。正常にマガジンが挿入されたことを確認し、ホールドオープンしたスライドを完全に引切り、手を放せばスライドが静かな駆動音を鳴らしながら前進しチャンバーへと弾薬が送られる。

 

 

 

覚悟が出来ていなかったわけでは無い。いつしか人は死ぬ。避けられない未来。目を逸らし続けていた現実。

 

 

──この戦いで、俺は死ぬ

それがゴーストという男の最後なのだろう。

 

俺は、多くを殺した。

国の為、世界の秩序の為だと曰いながら。

 

 

だが俺は殺しすぎた。例えそれが、許されたことであったとしても。

 

 

───報いは誰であろうと訪れる。剣を持つ者は、剣によって滅びる。

 

 

 

 

きっと、ここで逃げ出せば俺は生きて帰れる。それでも、足はマカロフの下へと向かっていく。

赦されないのだ。これは俺自身の報いであり、俺が背負ったもの、散っていった者たちへの報い。

 

逃げ出すことは、釈されない。

 

 

 

それに──

 

 

 

──誓ったのだ、仇を取ると。──後を託されたのだ。──終わらせると、約束したのだ。

 

 

足を踏み締め、力強い足取りで前へと進む。

 

 

──行くぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

1人1人、着実に始末しながらマカロフの元へと向かう。そして辿り着いた終着点。

恐らくは3階程の高さを持つ広大に開けた場所。視界を遮る様に敷き詰められた情報の処理に使われるだろうコンピュータのサーバー。間違いない、ここがコントロールセンターだろう。この先に核の発射台と制御室がある筈だ。

 

 

『漸くの到着か?ゴースト。プライスはどうした』

 

忌々しい声がスピーカー越しに響き渡る。

…本当に、ヤツは俺の神経を逆撫でるのが得意らしい。

 

「プライスは死んだ、そして次はお前の番だ」

 

『それがお前に出来るとでも?』

 

サーバーの隙間をこちらに背を向けながら走り抜ける人影が映る。

──マカロフ

 

ヤツの姿を認識したと同時に俺はサーバーの元へと走り寄り、その角から遮蔽間の距離、全体の内容を覗き込む。

小銃を扱うのには充分な間隔がある。だがサーバーとサーバーの隙間を縫っての戦闘になる、視界には期待出来ない。ブービートラップや近接格闘にも留意が必要。

 

 

誘い込み、か。自らが有利な場所への誘導。まず間違いなく俺は不利な状況に立たされる。

 

──だがらどうした、この程度の状況は何度もくぐり抜けてきた。

 

 

サーバーの隙間へと身を落とし込み、側面から足元に掛けられているワイヤートラップへと銃弾を撃ち込む。

ピンの抜けたグレネードが爆発し、その音を響き渡らせる。

 

開戦の合図だ。駆け足気味に移動を開始する。ヤツらはトラップの位置を把握しているはずだ。狭い空間に留まり続ければ袋小路になる。とにかく一箇所に留まることは避けるべきだ。

 

 

SCARを構えながらクリアリングを行う。閉所では先に敵を視界に入れた方が勝利すると言っても良い。神経を研ぎ澄ませ、ヘッドセット越しの音を探る。

 

遠方に敵影、射撃。サプレッサー越しに銃声が響き、目標が倒れる。

音に反応したのだろう。走り寄る音がいくつも聴こえる。音の方向を頼りに銃を向ける。

 

まず一人は照準を向けようとする所を射撃。続いて出会い頭に銃を叩きつけ、怯んだ首元に熱されたサプレッサーを押し付け射撃。そして左からナイフを振りかざさんとする敵にタックルをかまし、はたき落としたナイフで処分。最後に後方から迫る敵にそのナイフを投げつける。普段から使っているスローイングナイフとは勝手が違うため脳天を狙ったナイフは軌道を外し目へ突き刺さったものの、再度scarを構え処理。

 

倒せば倒すほど敵が多くなっている、停滞は死を意味する。

 

『お前の居場所は全て筒抜けだ。さぁどうするサイモン・ライリー』

加虐的な声色が響く。

 

遠目にこちら見て嗤っているマカロフが映る。早くヤツを追いたい所だが迫り来るコンニどもが道を阻む。

 

正面に現れた敵に足払いを仕掛け転んだ所にscarでトドメを刺そうとするも、背後に迫る敵を感知し、視線を向ける事無くサイホルスターからfn 545を引抜き左手でSCARを抱えながら迎撃する。

背後の敵が倒れ込む音を聴くと同時に態勢を戻し掛けていた正面の敵に鉛玉をぶち込む。

 

 

全方向から迫り来る敵、其れを余す事無く処理していく。

SCARで、FN 545で、ナイフで、時には敵の武器で。

 

トラップを破壊しながらの超至近距離での戦闘。周りは敵しか居ない、一瞬の油断が死を運び来る。

だが、戦場には一つの銃声ばかりが響く。

 

コレは、一方的な虐殺だ。

 

 

 

殺せば殺す程、敵の気配が減って行く。

サーバー機材に敵の頭を叩きつけ照準を眉間へと合わせ、トリガーを引く。コレで終いだ。

 

 

足音が聴こえなくなった。どうやらおおかた敵は殲滅した様だ。

だがマカロフの姿は見えない。何処かに隠れているか、制御室まで退いたかのどちらかだろう。

 

こうなった以上前進するしか無い。そうして俺は核の制御室へと移動を始めようとし──

 

『残念だがゴースト、お前の負けだよ』

忌々しい声が響いた。

 

「…負け惜しみか?これから死ぬお前への」

 

『いいや違う。お前は負けたんだよ、この俺に』

 

「世迷いごとを…」

 

『元よりお前との純粋な撃ち合いで勝てるとはなどとは想定していない。単純な罠では仕留められない。ならどう勝つか、答えは簡単だ…』

 

ありえない。トラップの類は索敵をしながら確認していた。サーバーなどの機材の中には爆弾は仕掛けられていない。設置されていたトラップも簡易な物。強襲を仕掛けた以上地中などに爆弾を仕掛けている暇は無い筈だ。無論天井などもだ。なら何処に?一体何を見落としている?

 

『その環境には特に罠を仕掛けられていないと認識させて仕舞えば良い』

 

 

──まさか、

付近に転がって兵士が着ているアーマー、その裏を覗き込む。

 

──C4

自爆ベストかっ!

 

すぐさま姿勢を反転し制御室へ走り出す。

自爆ベストの爆発範囲は決して高いとは言えない。だがもし、もしも俺が殺した兵士全員が自爆ベストを着けているとしたら、その効果はバカにならない。

 

だが──

 

 

『終わりだ』

 

爆音と共に衝撃波が襲いかかり、体が大きく弾き飛ばされる。衝撃で左耳の鼓膜が破裂し、飛来した破片がプレートキャリアーを貫通し内臓を抉っていく。

クソ、このままでは──

 

視界が揺さぶられるているのを感じる。どうやらヘルメット越しに頭に一層大きい破片が当たったらしい。

 

ダメだ、これでは…

そうして俺は抵抗する事もできず意識を深海へと沈めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音が聴こえる、まるで俺を誘う様な福音(呪い)が。音が聴こえる、起きて戦えと訴えかける呪い(福音)

 

 

全身に掛かる痛みによって意識が取り戻される。少しずつ重い瞼が開かれていく。

 

─どうやら世界はまだ俺を死なしてはくれないらしい。

 

状況はどうなっている。確認をしようとしても身体が言う事を聞かず、周囲を見渡す事しか出来ない。

脳震盪を起こしている所為だろう。正常な思考が出来ない。ただ俺は爆心地の中央で仰向けに倒れている事だけは理解できた。

 

生き残ったのはほとほと奇跡と言っても良いだろう。いや、これも運命なのか。

死に体だが身体はまだ動く筈だ。

 

早く、マカロフの元へ──

 

「やはり生きていたか、ゴースト」

 

─マカロフ

 

「だが神に愛されているのは俺の方らしい」

そう言って俺の方へと近づいて来る。

動け、早く。銃は何処に…

 

「敵を生きたまま埋めてはならない…」

マカロフが取り出したグロックの銃口を俺の眉間へと向ける。

 

ダメだ、間に合わない。

爆発に巻き込まれた際に銃をロストしてしまったらしい。手元にあるのは、胸元のstaccato P(ソープの愛銃)だけ。

だが、身体は動いてはくれない。動くのは、頭だけ

 

トリガーに指を掛けた。

 

せめて、少しだけでも即死する可能性を減らさなければッ。眉間に、脳を貫通すれば即死は免れない。

 

「じゃあなゴースト」

 

 

銃撃。

 

「ッガァッ!?」

 

すんでの所で頭を少しだけ逸らし、スカルマスクを砕きながら銃弾が貫ぬくのは左眼。眼球が潰れていく感覚が直に伝わる。痛い。痛い。痛みで意識が飛びそうになる。

だが、それに呼応する様に、噴出したアドレナリンを受けて脳が一気にクリアになる。脳震盪が治まる。

 

くれてやる。眼の一つくらい。それでお前を殺せるのならッ!

 

俺を殺しきれなかった事に驚き、止めを刺さんとマカロフがグロックを構え直すよりも速くホルスターからstaccato Pを引き抜く、胸元で構える。

 

 

──これで、対等だ。

 

 

3発の銃声が響く。

 

 

戦いは終局を迎え、沈黙だけが戦場を支配する。

 

斃れたのは、マカロフだった。

 

「…純粋な撃ち合いでは勝てないと言ったな。そうだ、──お前は俺を殺しきれなかった時点で敗北していた」

 

壊れかけの身体に力を込め、体を起こす。動かせば動かす程に、全身の至る所から血が溢れ出す。どうやら痛みを感じる感覚も逝ってしまったらしい。

眼球を失った時の痛みすら消えてしまっている。トレードマークのスカルマスクも半壊し、血塗れのバラクラバが露出している。

 

自分のことながらコレで良く生きていられるものだ。

 

「…もう遅い、核は…既に、発射シークエンスを…完了、している。解除は、出来…無い。俺の…勝ちだッ」

 

倒れ伏すマカロフが、そう言葉を溢す。

 

マカロフは殺さなかった。正確には、殺せなかった。核兵器の情報を少しでも引き出す為に。

3発の弾丸。胴体に2発、眼に1発。眼を狙ったのは意趣返しの様なものだ。

 

だが、コレでもう用済みだ。

 

「その言葉が聴ければ充分だ」

 

流れ動作の様にstaccato Pの銃口を脳天へ向け、トリガーを引く。通気ポートから溢れ出すマズルフラッシュが、まるで十字を描く様に見えた。

 

そうしてマカロフは脳天から血を噴き出しながら死んだ。そう、死んだんだ。141、俺たちの因縁の戦いが、終わった。

 

 

 

首に掛けられた5つのドッグタグをジャケットの外側から握り締める。

 

 

 

───仇は、取ったぞ

 

 

 

 

 

身体が大きくふらつく。あぁクソッ、どうやら俺も近いらしい。圧迫止血はしたがやはり血を流し過ぎた。

 

 

行かなければ…最後の役割を果たす為に。

 

脚を引き摺りながら制御室へと向かう。

核の制御装置はそこに鎮座していた。だが、やはりだ。核の制御はもうこの装置から離れている。制御装置自体は冷戦時そのままの仕様だろう。だからこそデジタルの今では厄介なアナログ装置になっている。ハッキングなども通用しないと言ってもいい。示される発射までのタイムリミットは、後2分。本当に、死に際まで面倒な男だ。

 

通信用のラジオのボタンを押し、指令部へと通信を送る。

 

「ブラボー0-7よりHQへ、聴こえるか」

 

『こちらHQ、状況は?』

 

「ウラジミール・マカロフの排除に成功した。ブラボー0-6がKIA、俺が指揮を引き継いだ」

息を飲む声が聴こえる。ラズウェルはプライスと旧知の仲だと聞く、そうなってしまうのも無理は無い。だが、腐ってもCIA。すぐ気丈さを取り戻す。

 

『ジョンが…そう。それで核兵器は』

 

「最悪だ。既に発射シークエンスを完了している。発射までのタイムリミットは2分程度しか無い。解除の手段は見当たらない」

 

『手詰まり…ね。なら破壊するしか無い。ゴースト、アレ(・・)は?』

 

「無論持っている。起爆装置が壊れているが、簡素な仕組みだ。弾丸を当てれば起爆出来るだろう」

 

アレ(・・)。もしも不測の事態が発生し、核兵器の停止が間に合わない状況、その時を想定して作られた試作超高圧貫通爆弾。

使いたくは無かったがやはりこうなるか。

 

『…ゴースト、ごめんなさい。貴方に命令するわ。試作爆弾を使って──』

 

「その先は言う必要は無い。元よりこうなる事は想定していた、アンタが無意味に命を背負う必要はない。─汚れ仕事は、死にゆく者に任せてしまえば良い」

 

『それは…』

 

「質問だ。此処で核を破壊した場合どれだけ周辺に被害が出る?」

 

『…爆縮が始まっていれば、臨界を引き起こす可能性がある。核爆発は起こらないとしても…最低でも、数万人に放射能汚染被害が及ぶ。だから─』

 

「だからせめて、命令に従っただけとして罪の意識だけでも減らしてやるつもりか?」

 

「……」

 

コレは、俺の意地でもある。命を奪う立場でありながら、その重みを、想いを、背負う事から逃れるなど到底許されないからだ。

 

「ラズウェル、俺は兵士だ。俺は兵士として、141を託された者として与えられた義務(call of duty)を果たす」

 

義務。果たすべき義務。誰かがやらなければならない汚れ仕事を、必要な犠牲を受け入れる事。より多くを救うために、より少ない犠牲を受け入れる。それが兵士という存在だ。

 

「数万人の犠牲で、数億人の人々が救えるんだ。…選ぶまでも無い、そうだろう」

 

『─分かったわ。…CIAより、国家を代表して感謝を』

 

「称賛は141だけにしておけ…俺は、きっと…最悪の殺人鬼になるんだからな」

 

通信にも乗らない程の小さな声で愚痴を溢す。

 

最悪なトロッコ問題だ。数万人の命と、数億人の未来。どちらを選び取るべきかなど、分かりきっている。

誰も死なない道を選べたのならどれだけ良かっただろうか。だが現実は、第3の選択肢を探るにはあまりにも残酷だ。

 

一人の人間が背負うには、あまりにも重い選択。

 

 

 

──だからこそ、誰かがやらねばならない。そしてソレは、きっと俺だ。

 

 

 

 

「これより、核兵器の破壊に移る。──後は、頼んだ」

 

そう残して、通信を切る。

 

 

制御室から発射台へと続く道を進み、ミサイルの下へと歩む。

 

爆弾の設置は、直ぐに終わった。後は起爆装置に銃弾を撃ち込むだけ。

発射台から見えるタイムリミットは一分を切った頃。

 

 

生存している隊員が居ないか念の為、部隊への通信を繋ぐ。

 

「こちらはブラボー0-7から全隊へ。141、生存者は」

 

返信は一つもない。虚しくノイズが響いている。

 

「141、聴こえるか。発声が出来ないのであればモールス信号でも構わん。生存者は?」

 

 

──やはり、か

 

もとより望みは薄かったとはいえ部隊は壊滅、俺が最後の141、か。

 

…141。ヴォルフ・ザカエフやウラジミール・マカロフを始めとしたロシアの超国家主義者に対抗する為に結成されたタスクフォース。マカロフによってVIPとして保護されていたザカエフは既に死に、遂にマカロフは仕留めるに至った。その意味では、141はタスクフォースとしての役割を果たしたと言っても良い。

 

 

せめて、この死地に散っていった者を弔ってやるべきだろう。

 

再びラジオのボタンを押す。決して届くことの無い通信を送る。

 

「141。お前たちは成し遂げた。この作戦は、お前たちの命を賭した奮闘によって成功を収めた。だから、誇ってくれ。──お前たちは、英雄だ。英雄として、胸を張って、あの世へと飛び立て。お前たちにはその権利がある」

 

 

発射まで、あと30秒。

 

「そして──この作戦の完遂を持って、141は解散とする。141は、その務めを果たした。─これまで、よく頑張った」

 

多くの隊員が道半ばで息絶え、それでも支え合いながら前へ進み続けた。

 

俺もまた、その一人だった。

 

「ありがとう、141」

 

──俺を、救ってくれて

 

悪いな、あの世で酒を奢ってやる事は出来ない。きっと俺は、地獄へ落ちる。

お前たちの元へは、逝けない。それでも、構わない。

Staccato Pを構える。決して外すことのない様に。

 

 

発射まで、10秒。

 

 

トリガーは鉛のごとく重い。それだけの重圧が差し掛かる。

 

 

発射まで、5秒。

 

 

──じゃあな、141

 

 

 

 

 

 

 

体が、熱い、熱い。痛みなどもう感じないはずだと云うのに、まるで全身を刃物で、溶岩で、銃で、ありとあらゆる呪で突き刺されたみたいな痛みに襲われる。これが、報いなのか。多くを殺してきた俺への。これから、多くを殺すことになる俺への。

 

せめて、最後まで抗ってやろう。そうやって、まだ生きている目を開き続ける。

爆炎と漏れ出した放射能、外部から高い圧力を受けて今にも臨界点を迎えようとする核兵器の残骸。

 

ダメだ…意識が、消えていく。まるで、世界へと溶け出す様に。

 

 

最後に映った景色は、青白い光。

 

 

 

─あぁ、綺麗だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ニュースをお伝えいたします。

 

11月23日午前4時チュクチ自治区近隣諸島で発生した放射能発生事故について、ロシア当局が正式に発表を致しました。

ロシア当局によると、この事故は国際指名手配されているテロリストである、ウラジミール・マカロフが冷戦時の核バンカー内に残されていた核兵器を誤爆させたものとしており、事故発生の少し前に報告されていた軍事輸送機については、ロシア軍の偵察機がマカロフについての匿名の通報を受けて周辺を捜索していたものと発表しております。

 

尚、漏れ出した放射能の影響を受けて、近隣住民3867人が病院へ搬送されており、公開されている情報の限りではその内618名の死亡が確認されて居ます。専門家による考えでは、10万人規模の被爆が想定されており、さらなる被害が想定されます。病院の逼迫が───

 

 

 

 

──速報です。

 

ロシア当局は、今回の事故を受けてアメリカとの間に被爆者救済の相互扶助を推進するアラスカ条約を締結することを正式に決定し、これを受けて───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眩い光が見える。

 

2つの足で、立つ感覚を覚える。

 

「おい、聞いているのか?」

 

おかしい。

何故、俺は思考する事が出来る?

 

 

 

──これはまるで

 

「お前に言っているんだ!お前に!」

 

 

 

何故、俺は──生きている?

 

 

「おい、お前!」

 

肩を掴まれ、姿勢を強引に変えられる。

 

眼の前に写るのは、二重の十字架の形をした天使の輪の様なモノを浮かべ、ボロボロの服を着た紫色の長髪の少女。齢は10にも満たないだろう華奢な体だが、背中にはARを背負っている。それにここは、スラム街…だろうか

 

「ガキの…天使?」

 

「お前は一体何を言ってるんだ。それに、お前だってガキだろう!」

 

その言葉に眉を顰める。そんな訳は無い、俺は立派な成人だ。だが、俺は覗いてしまった。こちらに眼を向ける少女の紫色の瞳に映る、見るのも忌々しい、捨てた筈の面を(初めての人生の顔を)

 

一縷の希望をとして、自らの体へ目を向ける。だが、何度も見返しても、目の前の少女と同じ様なボロボロの服を着た子供の姿が視界に入るだけ。

 

「──冗談だろ」

 

やっと終わりを迎えたと思えば今度はガキの姿に逆戻りか?──本当に笑えない。

 

あまりの情報量の多さに気が動転する。呼吸が荒れ、視界が点滅を始める。

きっとあの後、俺の行いによって多くが死んだのだろう。何の罪も無い無辜の人々が。

 

だというのに、俺はのうのうと生きている。分かっている、俺は為すべきを為したに過ぎない。─それでも、恐ろしいのだ。

 

 

自然と、ベルトに吊り下げられた粗末なサイホルスターと胸元へ手が伸びる。触れたのは肌ではなく、冷たい金属の感触。ハンドガン、そしてネックレスの類であろう。

 

─この感触を、俺はよく知っている。

 

死ぬときまで、ずっと肌見離すことの無かったstaccato P(ソープの愛銃)。そして5つのドッグタグ。

 

 

──こんなところまで、着いてきてくれるとはな。

 

動転していた意識が漸く冷静さを取り戻す。観察するに、少女は少年兵の類であろうか。警戒しているが敵意は感じられない。

 

「質問だ。ここは、何処だ?」

 

その質問に少女は胡散臭いものを見るような目をしながらこう答える

 

「トリニティ…アリウス自治区だ。お前、頭でも打ったのか」

 

トリニティ、三位一体、ね。おそらくは地名か。それにアリウス自治区、協会から異端として追放を受けたというアリウス派のことは知っているがアリウス自治区というのは聞いたことがない。

 

キリスト教に関連しているのは分かるがそれ以外は全くだな。

恐らくここがブルーアーカイブとやらの世界なんだろう。だが、俺は既に─まあいい。今考えるべき事ではない

取り敢えずここは話に乗るべきだろう。

 

「どうやらそのようでな、全くと言っていいほど記憶と呼べるものが存在しない」

 

 

「…まあいい、私はサオリ。錠前サオリだ。お前は?名前くらいは覚えているだろう」

 

名前を聞かれ、返答に詰まる。

 

 

どう答えるべきだろうか。

 

この体の名を、忘れたことなど無い。繋がりが深かったとは言えないが、肉親から貰い受けた名前だ。何より、愚かにも不相応な夢を願った憐れな子供の名前。忘れる筈が無いだろう。

 

屍鬼秤 遼

 

いつ見ても、珍しい名前だ。先生にも、大切にする様にと言われた。

 

だが、今となっては忌々しい名前に他ならない。

 

なら偽名に…いや、わざわざ偽名を使う意味もないか。

この体は、かつての姿そのままと言っていい。そうであるのなら…最も使い慣れた名前すらも偽名の様なものだろう。だとすれば──

 

 

 

 

「サイモン。サイモン・ライリー──それが俺の名だ」

 

 

 

 

 

まだ死ねない理由があるらしい。どうして俺がここにいるのか、それは分かりはしない。それでも。

──生きてやるさ、お前たちがそう望むのであれば

 

 

 

the ghost mask Prologue fin

 




ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
実の所この物語は去年の6月頃には構想を練っていたのですが、作者の受験や怠慢(8割方怠慢)によってここまで遅れることとなってしまいました。

その代わりと言っては何ですが30000字近くの文量にはなったのでご容赦を()
これからは5000文字を目処に書いて行くつもりです。

最後になりますが、このような駄作を読んでいただき本当にありがとうございました!

よければ感想、評価の程宜しくお願い致します。
感想一つでも作者が泣いて喜びます!!!



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