2話で合計35000字あるってマ()
カーテンコールは終わらない
ちらちらと、時折り俺に視線を向けながらスラム街を先導する目の前の少女、錠前サオリを横目に与えられた情報を整理する。
学園都市キヴォトス。それがこの世界における地球、の様なものらしい。
国家と呼べる数千もの学園が独自の自治区を持ち、それを統括する形で“連邦生徒会”なる政府機関が管理する。恐ろしい事に、自治を行っているのは各学園の生徒、──つまり子供だ。故に学園都市、か…
恐らくはかつてギリシャに実在していたという村、若しくは旧約聖書に描かれた楽園を指しているのだろうか。…最も、こんなスラム街が存在している時点で楽園には程遠いだろうが。
詳しくは知らないらしいが、少女が言うには“外の世界”も存在すると云う。
続いてキヴォトス人。そして
まさかと思い視線を自らの頭頂部に向ける。──有った。どうやら俺にもそのヘイローとやらがある様だ。
試しに手をヘイローに翳そうとするも、その手はヘイローをすり抜けてしまう。質量を持っている訳では無いと。
人によってヘイローの形は姿を変えるらしい。だとすれば、俺のヘイローは一体どんな姿をしているのだろうか。目視では全貌が掴めない為、近くに散らばっているガラスの破片に視線を寄せる。
先程は気が動転していて気が付かなかったが、よく見れば瞳の色も変わっている。かつての肉体は純粋な黒髪黒眼だった筈だが、今はサイモン・ライリーその頃の濁った青黒い瞳だ。ガキの身体になってしまうんだ。それくらいは誤差の範疇だろう。
気を取り直してガラス越しのヘイローに眼を向ける。
──翼を広げた、剣の形を模した十字架。鍔の部分に重なる様な天秤、…ね
イメージとしてはSASのエンブレムに近いだろう。だが、どうしても気に食わない。
──天秤。本来天秤とは軸となる支点、モノの重さを比べるビーム、そしてビームの先端に取り付けられた天秤皿を基本として構成されている。だが、このヘイローはどうだろうか。天秤皿が吊り下げられているのは十字架の鍔の部分だ。剣の鍔は傾く事など無い。これでは天秤として破綻していると言って良い。
嫌な考察が浮かぶ。
決して傾くことのない天秤。それはまるで真に公平であると指し示している様だ。
…俺は裁定者気取りか。元より人間が公平だった事など一度も無いだろうに。
居た堪れない気分になって舌打ちが漏れる。
「……」
「どうしたんだ」
「…いや、何でも無い。気にするな」
…今はそれより優先すべき事が有る。ブルーアーカイブ。直訳すれば、青い記録と言った所か。言い換えるのなら青き記憶、近い言葉で言えば青春とも取れる。
この世界は、奇妙な点でかつて俺が生きていた世界に繋がりが有る。
代表的な物であれば聖書、キリスト教関連だろう。トリニティしかり、アリウスしかり、キヴォトスしかり。探せば他にも色々出てくる筈だ。
銃に関してもそうだ。この少女が持っている銃。AR15の系譜、ハンドガードが取り替えられているが恐らくはSIG m400辺りだろうか。本来SIG社のエンブレムが刻まれている筈の部分には見た事もない社名が刻まれている。
“外の世界”もしその外の世界とやらが、俺の知っている世界であるのなら。…俺は。
そして、最後。アリウス自治区について。
アリウス自治区。トリニティ総合学園。その昔、ばらばらに散っていた学園の内、最大派閥であった「パテル」「フィリウス」「サンクトゥス」なる学園を中心に統合された巨大な学園群。その統合に最後まで反対の意を見せていた「アリウス」は異端の烙印を押され、弾圧の果てに追放された。逃避行の末に辿り着いた地、それこそがアリウス自治区。
…どこの世界にも、他者を陥れなければ生きられない連中は居るものだな。
話を戻そう。
逃避行の末に辿り着いた地、アリウス自治区。当たり前ではあるが、そこは約束された楽園には程遠かった。
いつしか限られた物資を巡っての諍いが発生し、数年ほど前から覇権を争う内紛が起こるなど最悪の治安となっているらしい。
また、最近では‘大人’が率いる一派が台頭し始めていると云う。
荒廃したスラム街を見渡す。道は整備されず、建物の窓は割れ壁にはヒビ、電気などもってのほかだ。
狭い路地に目を向ければ傷だらけの少女が死んだように眠っている。
驚きは無い。何度もスラム街というものこの目で見てきた。俺自身もスラム街出身というだけあってこういった環境には慣れていると言える。
死が日常の世界。道端を歩けば拷問でも受けたのだろう死体が転がっており、それを誰も気にかける事をせず日々を過ごす。
そんな日常に比べれば此処は楽園と言ってもいいだろう。
ただ、街全体を漂う廃れた雰囲気。充満する絶望は比べ物にもならない。
それもそのはずだ、此処に生きる者たちには親が居なかった。
──親、教導者とでもいうべきだろう。
子は、親から生きる術を学ぶものだ。それが殺しであれ、犯罪であれ、生き様であれ。
それすらを学ぶ事の出来なかった存在がどうなるか、想像に難くない。
奪う事でしか、生きられない。否、奪う事しか知らないのだろう。
そういう存在は何度か見て来た。
もしも俺が、家族も…兄貴すらも居なかったのだとしたらどうなっていたであろうか。
前世を持つとは言え、人間としての生き方を知る事の無かった身だ。
碌な末路を迎えなかったかも知れない。
─いや、その方が幸せだったのかも知れない。感情を持つ事無く、ただの機械として敵を殺すだけの生き様。
家族の愛を受けて、その死に様を眼前にして、中途半端に感情を残してしまうよりかはずっと…楽だった筈だ。
だがこの地に過ごす子供たちは、そう簡単に生きる事は出来ない。
故に、仲間を作らなければならない。同じ地獄を共有する、強い絆で結ばれた家族を。
この状況というのもある意味では不自然だ。
奪う事しか知らない連中が、見た事も無い他人を好意的に受け取るだろうか。
答えは否。理由の一つでも無い限り近寄りもしないだろう。
つまり、この少女は─錠前サオリという子供は…
「ところで、その銃は何処で手に入れたんだ?随分と高価そうだが」
まぁそう云う事だろう。
俺が持っているstaccato Pこそが目的の品だ。
先程からちらちらと此方に視線を向けていたのは銃の値打ちでも考えていた為だろう。
確かにstaccato Pは一般的なハンドガンに比べれば高価だ。何しろ法執行機関や特殊部隊などに向けて開発されたデューティーガンなのだから。それに加えてソープのコレは特注のチタン合金で造られたスライドを採用し、141のエンブレムまでも刻んでいる。見るからに値が貼りそうだ、狙うのも無理は無い。俺は銃や装備に必要なカスタムには金を惜しまないタイプだがソープは消耗品に不必要なまでに金を投じるタイプだった。そのまま銃をロストして泣きを見るのが道理だと思っていた。結果はあの通り、銃よりも先に逝く羽目になっちまったが。
少しカマをかけてみるか。
「この銃か……消えちまった記憶の中でもどうしても忘れられないモノ、その一つがこれだ。こいつは昔友人から受け継いだ大切な物でな。そいつは、もう…居なくなっちまったが」
そう言いながらホルスターに収まるstaccato Pを大切そうに撫でる。無論目線は下げ、出来るだけ寂しさを醸し出しながら。
「わ、悪い。変なことを聞いてしまって」
...こいつ、チョロいな
神妙な表情から一転、地雷を踏み抜いてしまったと言わんばかりに表情を曇らせ、あたふたとする少女につい笑みが漏れてしまう。
毒気が抜かれちまったな、コレは。
「構わんよ。今はそこまで気にしていない」
「そ、そうか。それは良かった」
根は善良。こんな奴が割を食う世界。不条理ではあるが真理でもある。
善良な奴ほど先に死ぬ。ソープがそうであった様に。
はぁ…本当に面倒だ。
「ところで、だ。背後の友人は知り合いか?」
「何の話だ?私の知り合いなんて──」
「そうか」
素で反応が返って来たのを確認し、背後に忍び寄って来ていたガキの銃を奪い取り肘でみぞうちを打ち込む。
「ガァッッ」
言葉にならない嗚咽を洩らしながらガキは後方にある建物の壁に激突し、ピクピクと痙攣を繰り返した末にヘイローが消失する。
以前と似た様な感覚で内臓を揺らす程度の力を込めたつもりだが、力の加減が上手く分からない。威力が高すぎたか?
とにかく、延びているだけで死にはしていない筈だ。ヘイローは気絶すると消失するのか、無力化出来ているか分かり易いな。
「貴様!よくもリーダーを!」
「落ち着け、狙いは錠前サオリだ!」
隠れていた仲間たちが姿を晒し、此方に銃を向けて来る。
数は20程度。多いな。
棒立ちしたままのサオリの首根っこを掴み、近くの遮蔽に飛び込む。
「何だ!一体何が起こっているんだ!」
「どうやらお前は尾けられていたみたいだな。どうだ、ミイラ取りがミイラになった気分は」
「ミイラ取りがミイラに?ッまさかお前─」
「こんなスラム街で見知らぬ他人に気前よく接するバカが何処に居るかよ。お前がやろうとしている事なんざ簡単に理解出来る」
「なら、あの話はウソだったのか!?」
「8割は本当の事だ。それより。随分と恨みを買っているみたいだな」
襲撃者たちはサオリが隠れている遮蔽の方ばかりを攻撃している。
それを見てサオリは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「…少し前に、私たちが物資を奪った連中だ」
「だろうな。見れば分かる。手を貸せ、リンチには遭いたくないだろう」
「…本当に良いのか?」
「これも何かの縁だ。それに、情報を貰った借りがあるんでな」
「それは…いや、助かる」
「確認だが、本当に撃たれても死なないんだな?」
そう聞くとサオリは首肯して応える。
「了解、俺は前線を突っ切る。お前は撃ち漏らしを始末しろ」
信じられないとでも言わんばかりの表情をしているサオリを横目に銃の検品をする。
理由は分からないが、staccato Pを使えば決定的に何か嫌なことが起きてしまう、そんな気をひしひしと感じる。俺の勘はよく当たる、ここはメインアームを優先して使うべきだろう。
AK 47。言わずと知れた名銃。何度か撃った事はあるが、こんな骨董品を使用しているのか。基部の一部は錆びており、状態がいいとは決して言えない。
文句を言っても仕方がない。マガジンを抜き取り残弾数を確認する。
30発、フル装填されている。銃の状態の割には弾の質は悪く無い。これだけ有れば充分だ。
AKを構えながら遮蔽を飛び出し、猛烈な勢いで敵に突っ込む。
速いな。軽く40km程度は速度が出ているのでは無いか。キヴォトス人の身体能力に驚愕しながらも冷静に戦闘を開始する。
真っ先に俺に銃口を向けた者から優先して始末する。ヘッドショットを決めれば変な呻き声をあげて倒れ込む。
遮蔽から飛び出した事で激突する形になってしまった少女と揉み合いになる。
「貴様ッ」
敢えて抱き寄せる態勢を取り、みぞうちに曲げた膝を捻り込む。
「眠ってろ」
「グyッ」
肉壁を盾に攻撃を繰り返し、一人二人と倒していく。遮蔽の裏に隠れた敵には落ちていた瓶を投擲し、放たれた瓶は放物線を描いて綺麗に頭部を直撃する。
「ぐえっ」
「また一人やられた!早くあいつを止めろ、とにかく早く!」
「そんなの分かってる、けど──」
呑気に会話を楽しんでいるヤツの銃口を頭に押し付ける。
「…おい、お喋りをしている暇はあるのか?」
「「ギャーー!!」」
まぁ、その先は言うまでもない。
一つ言える事があるとすれば、それは酷い蹂躙劇だったと言う事だけだ。
夕焼けが朽ちた廃墟群を照らしている。道なき道を行くのは、俺とサオリ。俺たちの間に会話は無い。
余りの静寂に耐えきれ無かったのだろう、サオリが口を開く。
「…結局、私の援護は要らなかったな。サイモン、今日は助かった。改めて感謝を、そして──」
「謝罪は構わん、むしろ感謝してるくらいだ。あそこでお前に出会わなかったら今頃俺は何処かでくたばってたかもしれないしな」
この言葉に嘘偽りは無い。紛れも無い事実だ。真実、この少女に出会わなければ俺は何の情報も得られず、悲痛の果てに死んでいたのかも知れないのだから。
「それに、戦利品はたんまり貰ったんでな」
そう言い、背負っているバッグにたんまりと詰められた
「……そうか。それなら良かった」
そうして二人して再び歩き出す。ふと、疑問になった事を口に出す。
「なあ。お前、これって一体どこに向かってるんだ?」
「家族の所だ。──なあサイモン、私には名前がある。錠前サオリという名前が」
「…ああ、そうだな」
「私はお前に感謝している。だから私はお前のことを信頼してサイモンと呼ぶ。だから、お前も私に感謝しているというのなら…私の事を名前で呼んでくれないか?」
夕日に照らされているせいだろうか。その顔は赤らみを帯びているように見えた。
─敵わないな、これは。
「──サイモン。サイモン・ライリーだ。改めて、宜しく頼む。─サオリ」
「っあぁ!こちらこそ宜しく。サイモン!」
「うわぁん!姉さんが男の子を連れてきました!連れ込みです!」
「うるさいよ、ヒヨリ。で、そいつ誰?サオリ姉さん」
……どうやら俺の行く先は、まだまだ前途多難らしい。
受験会場の休み時間で急いで書いていました()
初めて評価を貰いました。評価は低いけれど、何よりも評価を貰えた事自体が嬉しかったです!
受験も漸く終わり、これからは執筆に重きを置いていけたらなと思います。