ホビアニ転生!! ~世界を救う戦いに巻き込まれてから一五年が経ち平和に過ごしていたらなんか様子がおかしいんですが?~ 作:海星めりい
倉庫での恭也君とのやり取りを終えて『Connecters』店内へと入ると、こちらに店のエプロンを着たミドリさんがこちらにやってくる。
ミドリさんはうちの店員だ。
「店長、大変でしたね。お怪我とかありませんか?」
「ああ、うん。被害はなかったし、私もどこにも問題ないよ。当然、うちの子達もね」
「そうですか……良かったです。あ、店長から言われていた通り、店の前に表示しておきましたよ」
先程、店の前に開店が遅れる表示をお願いしていたが、どうやらキチンとやってくれたらしい。さすがミドリさん。優秀である。
「うん。ありがとうミドリさん。バッチリだよ」
「いえいえ、それで今日は本当に開店するんですか? 休んでもよろしいのでは?」
「店が荒らされたわけじゃないからねえ。ただ、倉庫に在庫を取りに行けないから、店内在庫が尽きちゃったら商品の補充なんかは出来ないのが難点だね」
「じゃあ、そのことをレジ前に掲げておきましょうか。私がやっておきますよ」
「うん。お願い。店内の確認をしてもう十分くらいしたら、開店しようか」
「はーい。わかりました―」
そう言うと、ミドリさんはウィーンとローラー音をさせながら、レジの方へと淀みない動きで向かっていく。
やっぱ買って正解だったなあ……ミドリさん。
ミドリさん――正式名称は『
人目でロボットとわかるような金属感あふれる見た目をしている。
頭部は若干、特撮ヒーロー感もあるかもしれない。印象は柔らかいけどね。
好きな名称をつけていいし、つけないで運用している店も多いけど……私は正式名称からチョコチョコと文字をとって、『ミドリさん』と呼ぶことにした。
何より名称があると愛着が湧くし、一緒にお仕事する同僚って感じがする。
パノプロイドのおかげか前世よりもこういう系統の技術はこの世界の方が発展している。若干の近未来感を手にしたかわりに倫理観を失った感じだろうか。
倫理観の方が大事な気がするけど、気にするな私。意識したら、止まらなくなるぞ。
余計な考えを頭から追い出して、店内を確認していく。
特に問題はないかな。パタッシー団は店内の方は狙わなかったから被害はないし、普通に開店できそう。
ただ、昨日せっかく仕入れた新製品が無くなりそうなのが痛いかなー。
新製品は初動が一番大事だからね。
来てくれたお客様をがっかりさせちゃうかもしれないけどしょうがない。
「じゃあ、ミドリさん開けるよー」
「はーい」
「『Connecters』開店でーす!」
私が声を張り上げると同時にドアのロックとブラインドを解除して、店の前の表示を『CLOSE』から『OPEN』へ変更させる。
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遅れながらも開店した『Connecters』だったが、特に問題は起きていなかった。
そりゃそうだ。今日は特にパノプロイドについての大きな仕入れがあるわけじゃないし、普通の日だからね。
開店を今か今かと待っていたお客さんがなだれ込む――なんてこともなかったし(おまたせしてしまったお客さんはいた)。
ある程度順調ではあるのだけど、今日の本番はこれからだったりする。
「うーん、そろそろいいかな」
時刻は十二時半になろうかというところ。
店内にいるのは買い物をしているお客さんが数人とバトルスペースで待機しているお客さんが七人。
全員、パートナーのパノプロイドと相談していたり、調整していたりとやる気満々だ。
これから行われるのは、ホビーショップではおなじみの大会だ。
ただ、公認じゃなくてうちが勝手に開いているだけだったりする。
前世のTCGなんかでもよくある店舗が独自に開いているやつだね。賞品があったりするところもあるらしいが、うちはない――というか、なかったはずなんだけど、なんか私への挑戦権が優勝賞品になってしまった。
あくまで交流を目的に開いていたんだけど、優勝者の一人が『店長と戦いたい』とか言い出して、うちの子達もあんまりバトルしていなかったせいか、(特にフレイが)乗り気になっちゃってバトルすることに。
普通に勝ったけど、仮にも優勝者相手に終始圧倒していたのが良くなかったよね。
それからは優勝者が望んだら……ではあるもののなんかお決まりのように私が戦う羽目になっている。
他所から無敗の店長の噂を聞きつけてやってくる人もいるけど、大抵はうちの常連に負けて私と戦うことなく敗退していく。
そのため、なんか私が野生のラスボスみたいな扱いになっているんだよね。
うん、まあ、こんなのもホビアニ世界ならではだからいいけどね。
なんで平日のこんな時間に大会開いてるの? と言われると理由は結構単純だ。
公認大会は土日・祝日が基本だから。
そんな感じだから子どもが来やすいのはいいんだけど、大人が必ず来れるわけがない。
なので、普段、大会なんか出られない人にこういう場も必要なんじゃないかと思ったのだ。
流石にこの時間ゆえ二桁の参加人数になることはそうそうないけど、こんな時間に大会を開く物珍しさでいい感じに人が集まってきて、うちの売上にも貢献しているため読みは当たっていた。
今度は初心者用の講座でも開くのも悪くないかもしれない。
常連だけのお店になると、悪い意味でのアットホームな雰囲気になりかねないし。
それに子どもを沼にハマらせるには早いほうがいいもんね。言い方が悪いか?
うちのバトルスペースは個人ショップとしては広めにとっているけど、大会ですべてを使用するわけにもいかないから使えるのは二対戦分のスペースかな。
「じゃあ、締め切って――」
「ちょっとまったー!」
受付を締め切ろうとしたところで、甲高い声がショップ内に響いた。
入口からトタトタと走ってくるのはここ『Connecters』常連の一人である
小金井財閥のお嬢様でサラサラのプラチナブロンドの髪を細くツインテールで結んでいる姿は可愛らしい。
そんじょそこらの子役やジュニアアイドルよりも整った顔立ちと勝ち気な性格なお嬢様だが、意外と聞き分けがいい……というか私に懐いている。
私含め家族がお金持ちで上流階級――なんてことは一ミリもない(悲しいけど)。
うちのショップを視察に来たとき(なんで来たのかは知らない)に勝負を挑まれ、結構強かったので遠慮なく戦いコテンパンにしてしまった。
小学生相手にやりすぎたかと思ったのだが、自分よりも強い大人が自分の護衛やプロ以外にいると思ってなかったそうで、滅茶苦茶懐かれてしまった。
それ以来ずっと交流している。
そんな、紅理ちゃんの姿を見て、待機した数名が顔をしかめていた。
「うげっ……お嬢様まで参加すんのかよ」
「あの子は?」
「お嬢様はなぁ――……」
一部、分かっていない人に分かっている人が紅理ちゃんについて教えていた。
うんうん、同じ趣味同士で交流する。これが、ショップでバトルすることの醍醐味――ではあるけど、話題が紅理ちゃんなのがなんかちょっと違う気がする。
「紅理ちゃん。声はもう少し小さくね」
「あ、楔お姉ちゃん、ごめんなさい……私も大会参加できる!?」
「丁度締め切るところだったからギリギリセーフだけど――というか、紅理ちゃん。学校は?」
思いっきり平日のお昼だ。今日は祝日じゃないし、学校だって普通にあるはず……と思っていたら紅里ちゃんはいい笑顔で答えてくれた。
「休んだわ! 学校の授業なんて退屈だし、楔お姉ちゃんと戦える機会の方が貴重だもの!」
「ええ……」
思わず困惑顔になってしまう。ホビアニ世界のこういう思考だけはなれないんだよなあ?
「ええっと、それでいいんですか?」
紅里ちゃんから視線を外して、その背後にいるグラサン黒服さんへと向ける。
この人がいるってことは、一人で抜け出したというわけではなさそうだ。なら、安全ではあるだろう。
基本無口なこの人は紅里ちゃんの護衛だ。体格のいいお兄さんだが、威圧感はあまり感じられない。
「……本日はお嬢様に負けた以上、文句は言えませんので」
「あ、はい」
紅里ちゃん、強くなって護衛のお兄さんたちより上になってしまったのか……。
「ふっふーん。止められちゃってバトルしていたら、受付ギリギリになっちゃったけど登録できたなら問題なしね」
なんでギリギリにやってきたのかの謎も解けたが、本人たちが納得しているならいいか。私が口を挟むことじゃない。
「じゃあ、始めますよー。いつもの一試合トーナメント方式です。ルーレットでランダムに選出されるので、呼ばれた方はバトルフィールドに行ってください。五番と一番、三番と四番の方から対戦してください」
「おっしゃあ! いくぜぇ!」
「さて、行こうか」
「よ、よろしくお願いします!」
「そんな緊張しなくても……こっちもよろしく」
それぞれが展開されたバトルフィールドの中にパノプロイドを呼び出して、対戦が開始される。
対戦相手もだが、フィールドもランダムに設定しているので両方とも別のフィールドでの対戦だ。
フィールドが決められているのもそれはそれで、面白いのだが対策に準備を掛けた人とそうでない人で差が明確にでるのでこうしている。
まあ、これでも慣れている人のほうが有利ではあるがそれは当然なので、私は気にしないようにしてるかな。
突き詰めていけば最終的に練習時間を含んでの実力勝負になるのは大体の対戦ゲーがそうだからね。
試合に呼ばれなかった紅里ちゃんを始め、参加者は私の近くに来て、対戦を表示している空中のモニターを眺めている。
次に当たるかもしれない相手だから観察するのも当然だろう。ただ、同じ武装でくるとも限らないし少し参考になる程度かな。
お、あの人今の回避は上手かったね。あれで一気に流れを持っていった。そのまま勝利しちゃいそうな感じだ。
「いやー、やっぱお店でのバトルはいいねぇ。迫力が違う」
「個人用の端末よりも広いフィールドにもできますからね。ショップでのバトルはこれが醍醐味ですよ」
「そういえば、最近だとオンラインバトルも開発中なんて聞くねえ? どうなの店長。この店で導入する予定とかある?」
バトルを観戦していたお客さんから急に話を振られてしまったが、内容は聞こえていたので答えられる。
「あー、そんな話もありますねー。検討はしてますけど、どちらかといえばゲームセンター向けのような気もして悩んでいるところです。まだ発売日も決まってないみたいですし」
そう、原作にはなかったオンラインバトルなんてのが開発中だったりする。
原理的にはパノプロイドをオンラインバトル用の機械にリンクさせ、そこにパートナーもリンクさせることでオンラインによるバトルを可能にするということらしい。
リンクしている人間の方には影響が一切ないので、閉じ込められてデスゲーム――みたいなことには一切ならないのである。たぶん、きっと、メイビー。
人が死ぬだの、世界の危機だのはもういいんだから、キチンと製品になって世に出てほしいところだ。
今は大きな機械――筐体がいるみたいだけど、最終的には前世のVRみたく、個人単位でのオンラインバトルができるかもしれない。
「それはうちのシステムのことね!」
私とお客さんの話に割り込んできたのは紅里ちゃんだ。
いきなりの発言にお客さんと一緒に驚いてしまう。
あー、あそこの会社、小金井系列だったか。小金井って文字がなかったから、覚えてなかった。
私達が驚いている間に紅里ちゃんは得意げな顔で話し続けていた。
「パノプロイドバトルに革命を起こすシステムよ。遠方のあの子や、アップロードしてある自分やランカーとのシミュレーションデータとバトルすることも可能になる優れモノなんだから! 確かそろそろ先行テストの予定だったから、楔お姉ちゃんにもぜひ導入して欲しいわね」
「へぇー、単純なオンラインバトル機能だけじゃないんだ……結構いいね」
お客さんの言う通りだ。思っていたよりも機能が多い。
継続的なアップデートも約束してくれるみたいだし、何より小金井財閥が関わっているなら、すぐに開発&サービス終了ということもないだろう。
本格的に導入を検討してみようかな?
経営者の観点から悩んでいると、そんな私の心の内を見透かしたように薄く笑った紅里ちゃんがダメ押しのようにこんなことを言ってくる。
「楔お姉ちゃんになら優先的に回すこともできるし……私が口利きをすれば少々お得に導入することも可能よ?」
「それはありがたいけど……えーっと、大丈夫なんです?」
「……お嬢様が決めたことなら問題ございません」
なんか、裏取引みたいなことを言う紅里ちゃんだが、黒服さんが言うならおそらく問題は無いんだろう。
話を聞いていたお客さんや紅里ちゃんの視線はどこか期待するような眼差しだ。
なんか、半ば買う感じになってない?
紅里ちゃん、この歳にして恐ろしい子だ。
「一応、導入予定で……ただ、先行テストの様子を見てからね」
「はーい。まずは楔お姉ちゃんを先行テストに呼ぶことから始めたほうが良さそうね」
何やら、ダメ押しを企む紅里ちゃんの声を聞きつつ――ふええ、出費が嵩んじゃうよー。
でもまあ、皆嬉しそうだしこれでいいのかも……なんて思う私なのだった。