ホビアニ転生!! ~世界を救う戦いに巻き込まれてから一五年が経ち平和に過ごしていたらなんか様子がおかしいんですが?~ 作:海星めりい
「じゃあ、今日はパノプロイドバトルについて学んでいきましょう!」
本日も営業中の『Connecters』にて、私はテレビでやっているどこぞのお姉さんのような言葉を張り上げていた。
眼前には年齢はバラバラだが一〇人ほどの小学生達。
まんま引率の先生みたいなもんだから、さっきの例えもそんな間違いじゃないかな。
私が今何をやっているかと言うとショップ独自の大会と同じく我が『Connecters』で勝手に開催した初心者講座だ。
うん。結局、やることにしたんだよね。
常連さんを含む店のお客さんに聞いてみたら、案外需要がありそうなのと、『店長がやるなら参加させたいなー』というお言葉を多数いただいたからだ。
いやー、信頼されて嬉しいのなんの。
謎の裏ボス扱いも無駄ではないということだろう。
初心者の少年少女をバトルの面白さにはめて、はめて、はめまくればうちの売上にも繋がって、評判も上がり一石二鳥だ。
定期的に開催したいところだけど――さすがに、初心者はそんなに多くないから、半年に一回やるかやらないかくらいだと思うけどね。こっちの世界でも少子化はあるってことだよ。
それにわざわざ他人から教わらずとも兄弟や親から教わる人も多いしね。
まあ、うちの場合広いフィールドで子どもたち全員を見ながら、交流させられるのがメリットかな。
「「「「「「「はーい!!」」」」」」」
元気のいい子どもたちの声に耳がキーンとなるが、我慢できないほどでは無い。
子どもたちをフィールドへと連れて行き、まずはリンクしてもらうところか始めてもらう。
バトルにはリンクが必須項目だからね。
ここで注意しなきゃいけないのが、自前のパノプロイドを持っていない子だ。ここを見落とすと間違いなく評判が下がるので注意しないと。
今回持っていない子は一人だけだが、その子にはこのレンタルくんを渡してリンクの練習をしてもらう。
レンタルくんはどこのショップにもあるお試しのパノプロイドだね。
レンタルくんの顔はバイザーで覆われていていかにも機械然とした姿のパノプロイドだ。その見た目に違わず、感情プログラムが搭載されていない。
パタッシー団の使う『ディアノイド』なんかは、意図的に感情プログラムを抑え込んで、その分を他の制御に回しているという違法改造だけど、このレンタルくんは最初から搭載していないちょっと特殊なパノプロイドになる。当然合法だけどね。
その分性能は低くなってしまうが、普通のパノプロイドを普及させるための機体――練習機なのでさもありなんといった感じだ。
なんでこんなレンタル君のようなパノプロイドが生まれたのかというと、パートナーとのリンクがもたついてうまくバトル出来なくて喧嘩する子が結構いたからということらしい。
それを聞いたときはなるほど、と思ったよね。
情緒の育つ前の子供にやらせたら、そうなる可能性は十分にある。
原作(アニメ)やゲームみたく誰もがいきなりバトルできるようなものではないってことだね。
さて、みんなリンク出来ているかなー?
子どもたちの様子を伺ってみるが、全員無事リンク出来ているようだ。
フリー探索モードに設定した草原フィールドでいろんなパノプロイド達が飛んだり跳ねたりと楽しそうに動き回っている。
慣れていないのかもたついている子こそいるものの、全然動けていない子はいなさそうだね。
ダメそうならコツを教えていかなきゃ駄目かな? って思ったけど、この分だと注意しつつ、慣らしたほうが上達しそう。
「皆、たのしそうだねー」
「はい、マスター」
今回の講座ではティアについてきてもらったのだが、心なしかティアも懐かしんでいる気がする。
私と最初にリンクしたときのことを思い出しているのかな。
だとしたら、嬉しいけどこんなほのぼのとした記憶じゃないのが微妙な気持ちにさせてくれる。滅茶苦茶特訓した記憶しかないからね。
一〇分ほど楽しんでもらったところで、フィールドを一時的に解除して、本格的なバトルの練習をしていく。
といっても、最初は装甲を装備しての鬼ごっこだ。
スペック差が露骨に出ないように全員同じ装甲を装備してもらう。
これもうちからのレンタル品だ。倉庫に眠っていた品だからこういうときに役立てないとね。
スラスターの吹かし方や空中機動などの動きを一通り見せて、真似てもらう。
これまた、最初は苦戦していたものの皆結構早くになれてしまっていた。
「おっ、皆うまいねー」
「そうですね。この分だと予定を早めても大丈夫そうです」
「だねー」
ティアとも話し合って、さっさとバトルへと話を進めることにした。
「じゃあ、皆そろそろお待ちかねのバトルに行きたいと思いまーす」
「「「「「「「はーい!!」」」」」」」
うん、元気な返事で大変よろしい。ささっと、武装を全員に配っていく。
当然、装甲と同様に武装も共通だ。今回は使いやすさを重視してビームガンとビームソード、それにシールドが一つだけ。
肩やバックパック、腰や足に取り付けられる武装は存在しない至ってシンプルな構成だ。
最初の頃は、操作だけでいっぱいいっぱいになることも大いにあるからね。射撃武装ひとつ、近接武装一つ、防御武装一つの構成は基礎を覚えるのにはうってつけだ。
全員が装着したところで、一斉にバトルを行う。
「最初はうまくいかなくてもいいから、とりあえず使うことを意識していってねー。何かアドバイスが聞きたかったら、終わってからだよー」
声を掛けながら、全員の様子を伺っていく。
流石に、バトルとなるとセンスの差が多少は出てくるかな。
でも、バトルにならないほどじゃない。これなら問題はないかな。
なんて、思ったのがフラグだったのだろうか。
「うん、いい感じ……じゃないね」
「はい、マスター。あそこだけ……」
一体だけやけにアクロバティックな機動をしているパノプロイドが目に留まる。武装の使い方は初心者だと思うけど、それでも上手だし、確実に機動は動き慣れているように見える。
滅茶苦茶、楽しそうにバトルしているのはいいんだけど……うん、相手の子が全然相手になっていない。ちょっと涙目になってるね。
同い年ぐらいの子で組むようにしたんだけど、これはちょっと予想外かな。
おまけに、この上手い子、使っているのがレンタル君なんだよね。
ということは、相当な腕前ってことになる。本当に初心者なんだろうか。
どちらにせよ、このまま組ませてたら相手の子が練習にならないどころかトラウマになりかねない。
最初のバトルが終わったところで、組み合わせを変えつつレンタルくんを使っている子をちょいちょいと手招きしてみる。
「えっと? 何かよう……ですか?」
やってきたのは、短い銀髪の男の子。参加者名簿にかいてあった名前は確か……
こうしてみると普通の子なんだけどなあ。ちょっとだけ警戒しているような感じもする。
まあ、大人に呼ばれればさもありなんってとこかな。
「いや、レンタルくんですごく上手に動かすから……君、経験者だよね?」
「……初心者です」
「喋りにくかったら、別に敬語じゃなくてもいいよ? でもねえ、見る人が見ると分かっちゃうんだよねえ。お姉ちゃんも分かっちゃった。ここは初心者講座だから、経験者の子がいるとね他の子が――」
「バトルは初めてだったんだ!」
ゆっくりと説明したところで、白斗君が小さく叫んだ。絞り出すような声だった。
「はい?」
「俺、自分のパノプロイド持ってなくて、でも皆が羨ましくて!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてもらえる!?」
なんとか、なだめすかして、話を聞いてみると状況が理解できた。
最初にパノプロイドを持っていなくて、と聞いたときは家が厳しいタイプなのかと思ったがそうじゃなかった。
あんまりいないとはいえ、パノプロイドを持たせない親は普通にいるからね。前世のスマホ問題だと思えばいい。
持たせたほうが間違いなくいいが、持たせたら持たせたで変なトラブルに巻き込まれたり、いらん知識を持ったり、とろくな事にならないやつって感じだろうか。
まあ、パノプロイドの場合はスマホほど危ないことにはならないが、TCGアニメのアンティルールでやろうぜ! 的な不良はたまにいるし危険っちゃ危険かもしれん。
ただ、白斗君の場合。お父さんがパノプロイドの研究員で、『白斗にはカッコいいパノプロイドを作ってやるからな』と言っていたらしい。
しかし、とある研究所に出向してから帰ってこず。おまけに作ってやるからな発言から約一年が過ぎようとしているらしい。
それを聞いて納得した。この子の親はそういうタイプかと。
うちの両親みたいに子どもにオリジナルパノプロイドを送りたいってタイプだ、これ。
技術者系の親を持つとそういうことって稀によくある。
まあ、一年以上贈らないのは聞いたことがない。
そこまで時間がかかるなら、市販のでもいいと思うけど……。
親としては『パパカッコいいー』とか言われてみたいもんなんだろうたぶん。そんだけ遅れていると逆に嫌われてそうだけど。
というか、その研究所の名前に聞いた記憶がありすぎる。アイツがいるところじゃん……。
研究所ってなんだよ? とか思うかもしれないけどホビアニ世界では結構当たり前に存在してるし、この世界にもあるけど――今は研究所の話はいいだろう。
で、白斗君はいろんなところで初心者講習とか体験会とかにいって、パノプロイドを楽しんでいたということらしい。
だから、あんなに動かし慣れていたのか。
ゲームを買ってもらえないから、体験版だけDLして遊んでいる感じだろうか。昔は店頭で体験版が遊べたりしたから、そっちの方が近いのかな。
どちらにしても悲しい楽しみ方すぎる。
そして、その発案者が、
「シロちゃんに何してるんですか!」
ただいまやってきた女の子――
もっとも、今はその可愛らしい顔がこわばっており、その目は私を敵と認識しているようだけど。
白斗君が店長である私と一緒にいたことからバレたとすぐに理解したらしい。
ペコっと頭を下げ小さな声で『ごめんなさい』と謝った碧衣ちゃんは白斗君の手を取って逃げようとするが、私はそれを止めた。
「ああ、まってまって。怒ろうなんて思ってないよ。ただ、完全な初心者じゃないのに、初心者講座に参加しているのは良くないね」
「…………」
「はい」
碧衣ちゃんは無言だが、白斗君は深く頷いた。後ろめたさはあったらしい。
これなら、聞いてくれそうかな?
「君は他の場所で練習していたみたいだし、それに上手いから。他の子が楽しめなくなっちゃう」
「それじゃ、シロちゃんは――……」
「だから、私とやろう」
「「え?」」
碧衣ちゃんがなにか言おうとしていたみたいだが私はそれを遮って、ティアを見せながら、にっこりと笑う。
「そのレンタル君の武装に合わせて戦うから、他の子と似た感じにはなるでしょ?」
「いいの!?」
「いいよー。だって、白斗君にも楽しんでもらいたいからね」
うちの店に来る人は皆に楽しい思いのまま帰ってほしい。
この『Connecters』を作ったときから、その心持は変わらない。バトルで負けて悔しがるのはいいけどね。
白斗君の楽しみたい気持ちは本物だろう。そして、碧衣ちゃんが必死に考えた作戦も。
ただ、自分たちの視点しか持っていなかったのは良くない。小学生だからしょうがないといえばしょうがないけど……。
まあ、子どものわがままを受け止めるのも大人の仕事だろう。
他の子のバトル体験が終わったところで、もう一バトルやることを告げて、フィールドに私と白斗君が歩いていく。
「さぁ、やるよティア」
「はい、マスターがおっしゃるならやるだけです」
制限バトルなんて久々だからちょっと楽しみかも。
前世のゲーム時代は、スコアアタックのときなんかにあえて弱い武装で行くことでスコアの倍率を高めたりしていたけど、こっちじゃよほどのハンデ戦以外全武装を自由に使うからなあ。
お相手はレンタル君の半初心者の小学生となれば、本気でいくわけにもいくまい。
「かなーり、手加減していくよ、ティア」
「当然です。でも、負けることはしないのですよね?」
「それはもちろん。こんな動きも出来るんだよ? という、高い壁になるのも先達の努めなのだー」
「マスターが負けず嫌いなだけですよね?」
「それもある!」
「「さぁ、バトル開始(だ)! 戦闘領域《バトルフィールド》展開!!」」
というわけで、初心者講座の最後は私VS白斗君での同一武装バトルと相成ったのだった。
初めての初心者講座だったわけだけどもイレギュラーこそあれど、まあまあうまくいったんではなかろうか。
ただ、実は問題が一つ――
「店長―!! 今日はバトルできる!?」
「私は日頃、バトルしてないんだって! あとレンタル君は今、使用出来ないよ。メンテナンス中だからね」
「ええー!? じゃあ、フィールドでバトル見せてもらってもいい!?」
「ああ、うん。いいよー。ただ、バトルしてるお客さんが嫌がったら、やめてね」
「わかったー!」
そのままフィールドへと駆け出していく白斗君。あの初心者講習以来、すっかりうちの店の常連になってしまった。
そして、おまけと言わんばかりに――
「いたー! もう、シロちゃん。このお店は駄目って言ったでしょ」
「えー、店長さんいい人だよ。あんなことしたのに出禁にならなかったし、それにバトル滅茶苦茶強かった!」
「ぐぬっ……。武装も貸してくれる店だって言うから、シロちゃんとバトルできると思って誘ったのにまさかこんなことになるとは……」
「見学も許可してくれるし、優しくて、カッコいいよな!!」
噛み合っているようで噛み合ってない会話をする小学生二人組。
「駄目だよ、シロちゃん! あの女はそうやって優しくして、誰もいないバックヤードに誘導する気なんだよ!!」
「? バックヤードじゃバトルが見れないだろ? なに言ってんだ、碧衣?」
「そうじゃなくてー」
「あのね、碧衣。私もそういうの良くないと思うよ?」
「ううー!?」
勝手にショタコンにしないで欲しいなー。
というか、想像が生々しいよ。小学生ぐらいだと女子の方が精神年齢は高いなんて聞くけど、ちょっと方向性が違くない?
自分のパノプロイドにまで止められるって、相当な気がする。
あれも微笑ましいといえる……うん、言えると思う。
一応、微笑ましく見ていたのだが、ミドリさんがこちらにやってきて、
「店長、あの子まだ一度も買い物してくれません。あれでいいんですか?」
「そうなんだよなぁ……でも、まあいいかなって」
「よくありません! 店長がそんな態度で………………」
ミドリさんをなだめつつ――なるべく早くパノプロイドを手に入れてうちの店にお金をおとしていってくれよ、白斗君。
なんてことを思う私なのだった。