ホビアニ転生!! ~世界を救う戦いに巻き込まれてから一五年が経ち平和に過ごしていたらなんか様子がおかしいんですが?~   作:海星めりい

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八 四聖獣はみんな大好き

 

「うーん、そろそろなんか新しいイベント開いた方がいいかなー。シノはどう思う?」

 

 本日も開店中の『Connecters』にて、レジで待機していた私はパートナーの一人であるシノーヴィー――シノに話しかけていた。

 考えは人に話すといいって聞くからね。パノプロイド相手に話しかけても似たようなもんでしょ。

 

「考えるのは悪くないでござるが……それよりも、ご主人。呼ばれているのではなかったでござるか?」

 

「あー、そういえば。でも、いつまでに来いとか言われなかったし、こっちもお店があるからねー。次の定休日でいいかなって」

 

「ご主人は結構いい加減でござるからなぁ……。ご主人がいいならいいでござるが」

 

「シノが真面目すぎるだけだってー」

 

 私とシノが話しているのはこの間の初心者講座のときに会って、そのままうちの店に来るようになった白斗君……のお父さんのことだ。厳密にはそのお父さんが勤めている研究所についてだね。

 その研究所の所長と私は知り合いだったりするわけだ。

 なので、あのときの白斗君の話が気になった私は通話アプリで連絡してみたのだが、電話とかメールじゃ知らせられない……とのことで、直接会ってほしいと言われてしまった。

 ぶっちゃけ、そこまで詳しく聞きたかったわけじゃなかったのだが、何やら他にも相談事があるらしく結局会うことになってしまった。

 

 少し面倒だけど、しょうがないか。

 なーんて、考えていると店のドアが開いた。

 考えを一時中断して、接客へ意識を割り振る。

 普段通り、入ってきたお客さんの方を向くと、入ってきたのは大柄な男性だ。

 ゆったりとした黒のTシャツにオリーブグリーンのカーゴパンツ、シンプルな白のスニーカーを履いている。

 肩のあたりに男性とよく似たパノプロイドも存在していた。

 そいつは、私の姿を見つけるとニッと笑いかけてきた。

 

「よう! ちょっと遊びに来たぜ?」

 

「……はーい、いらっしゃーい」

 

「なんだよ、適当な返事だな……せっかく来たってのにやる気のねえ返事だな。おい?」

 

「最近、知り合いの来店が多くて、来てくれた嬉しさよりも新鮮味がないほうが勝るというか……」

 

「おいおい、襲撃があったって聞いて、これでも心配して来たんだぞ?」

 

「それはありがたいけど。別に被害もなかったからね。あんまり大事にしたくないし……パタッシー団くらい何回も倒してたでしょ?」

 

 後半の襲撃者がパタッシー団だったっていうのは一応ニュースにもなっておらずまだ伏せられている情報なので、小声にしておく。

 

「そりゃそうだが、それにしてもあいつらもしぶといもんだ。いったいどこから出てくるんだか……」

 

「さぁ? 昔もどこからともなく現れてたからね」

 

 ゲームでもアニメでも夜の灯りに群がる虫みたくワラワラと沸いてくるのがパタッシー団だった。そう考えれば、まだまだ残党が活動していても不思議じゃない。

 流石に、勘弁してほしいってのが本音だけども。

 ここまでの会話で分かる通り、私の眼の前の大柄な男は主人公《絆君》や私と一緒に戦っていた一人――ガキ大将君だ。

 

 名前を土浦(つちうら)耀司(ようじ)といい、私や主人公(絆君)、恭也君ともまた違う道を歩んだ一人だったりする。

 その職業とは、パノプロイドバトルのプロプレイヤーだ。

 ランクはBだったかな。

 この間はタイトル戦への参戦まであと一歩だったらしく、トッププロの一人と言っても過言では無いだろう。

 

 だって、Bクラスといえば上のクラスが一つしかないからね。その上にはAクラスしか存在しない。

 タイトル保持者をSクラスなんて呼ぶこともあるけど、あくまで通称だ。

 そう考えると、耀司君がプロプレイヤーとしていかにすごいのか分かるというもの。

 

「それで、なんで耀司君がわざわざやって来たの? 私の様子を見に来たってのも本当だろうけど、それだけで来ないでしょ?」

 

 タイトル保持者に比べれば暇かもしれないが、耀司君だってプロプレイヤーなわけで、そんな暇な時間が多いワケがない。

 

「うちの若いもんがアイドルに負けたって聞いてな。見てみたら、相手が相手だっただけにちょっとお前のところに来てみたってわけよ」

 

「ああ、あのプロの名前どっかで聞いたと思ったら耀司君のところの人だったのか」

 

「神楽がDランクプロとはいえ、そこまで覚えられていないとは……」

 

「うーん、プロプレイヤー全員覚えているわけじゃないからねー。それに、結がボッコボコにしちゃうレベルだと覚えろって言われても……」

 

「あれでも、若手イケメンプロって呼ばれて女性人気は高かったんだけどな……。あと、あんまし大声で言わないでやってくれないか? 本人もかなり気にしていてな。今、調子を落としているんだ。このままだと、次のリーグ戦はダメかもな」

 

「いや、それなら結と戦うのは止めなきゃダメだったじゃん。結の実力なんて耀司君だって分かっていたでしょうに……」

 

 耀司くんも私つながりで当然、結と戦ったとは何回もある。

 今の実力はわからないけど最後に戦っていた頃は、ほぼ互角で若干耀司君が勝ち越しているくらいだったはず。

 いくら、視聴率の高いネット番組ではないとはいえ、それなりの人数が見る番組でアーカイブも残るんだから、注意していれば防げたはずだ。

 そう思ったのだけれど――

 

「俺の方には対戦相手の詳細まで回ってこなかったんだよ。若手が受ける仕事を一つ一つ先輩が管理しているわけ無いだろ?」

 

「そりゃそうか」

 

「だいたい、『玄武会』だって、個人にきたオファーをそうペラペラ話すわけないしな」

 

 『玄武会』っていうのは、耀司君が所属しているプロプレイヤーたちの会派の一つだね。

 少数のプロプレイヤー同士で組む勉強会みたいなグループもあるみたいだけど、大きな会派は『玄武会』を含めて四つある。

 大きく四つで一つが玄武とくれば残りはもう一瞬で分かってしまう。

 そう、『青竜会』、『朱雀会』、『白虎会』の三つだ。

 ホビアニ世界っていうのはやっぱり、こう中二心に触れるものがあるというかなんというか……うん、四聖獣ってカッコいいよね(思考放棄)。

 そんな『玄武会』なわけだが、

 

「所属プロがアイドルに負けたのって大丈夫なの?」

 

 ふと、気になったことを耀司君に尋ねてみた。結に頼まれて協力したことを後悔はしてないが、耀司君たちプロプレイヤーの評判を落として、皆様に迷惑をかけているならちょぴっとだけ申し訳なくは思う。

 まあ、負けるのが悪いんだけど。なんか、私も十分ホビアニ世界に毒されている気がする。

 と、そんなことを考えつつ問いかけたわけだが、以外にも耀司君の返答はあっけからんとしたものだった。

 

「別に? うちにだってタイトルホルダーはいるし、俺も次期タイトル保持者の一人に数えられてるし問題はねえよ。むしろDランクとはいえプロに勝ったアイドルの方が何者だ!? って感じだな」

 

「ふーん。結の狙い通りってわけか」

 

「……計算づくってわけかよ。相変わらずゆるい雰囲気なのにクレバーな妹さんだな。って、そんなことはいいんだよ。聞きたいのは別のことだ」

 

「んー? なに?」

 

「神楽が負けた試合とその前にいろんな芸能人と戦っている結ちゃんのバトルを見たんだよ」

 

「お、おう?」

 

 どうやら、わざわざ加入して結の視聴回数に貢献してくれたらしい。結もきっと喜んでいることだろう。

 だが、でかい図体で寄ってくるんじゃない。暑苦しいって。

 

「あきらかにバトルでの動きが良くなっていた。てっきり、手を抜くのを止めたのかと思っていたが対策もしているみたいだったし、何よりキレが違った。」

 

「お前のところに来てサビ落としでもしたんじゃないかと思ったんだが、その反応だと合っているみたいだな」

 

「まあ、その通りだけど」

 

 えー、こわ。なんでわかんだよ。とは思いつつも実際正解なので素直に頷いておく。

 

「リーグ戦も残りあんまりないんだし、バトルしないで休憩しておけば?」

 

「お前とやれるチャンスなんてそうそうないんだ。別に下のリーグ落ちるような成績じゃないからな。……昇格はちょっと厳しそうだけど」

 

 なんで、どいつもこいつも私とバトルしたがるのか。こちとら今はただのホビーショップの店長やぞ。

 私が微妙そうな顔をしている間にも耀司君は相方パノプロイドの準備を整えていた。

 

「行くぜ! ディッツ!」

 

「勝負でガンス!!」

 

 耀司君の相棒は大男型パノプロイド〝クレイバンディッツ〟。重量級パノプロイドの中でも本体が少々大きく体格が良いのが特徴だ。体躯を活かした戦法はパワーに偏っているもののゲームでも最初の頃は苦しめられた。シンプルな故に強いってやつだね。

 でも、私は手を横に振って断る。

 

「……しないって。最近、何でか私とバトルしたい人が多くて、私店長。バトルだけしてればいいってわけじゃないの」

 

 まあ、ちょこちょこ暇な時間も多いんだけど。今日は本当にやる気がない。

 

「そうでござるなー。拙者は、戦ったのは最近だと一回だけでござるが……ご主人が乗り気でないならやる気もおきんでござる」

 

 シノはそういうとこ優等生だよね。これがフレイなら絶対バトルしたがるし、ティアも普段感情的にならないくせに、明確な理由もなく逃げるのは嫌いだからなあ。

 シノには今度、なにかご褒美でも考えておこう。

 

「おいおいおい!? そんなこというなよ!? せっかく、来たんだぞ!? なんだ、サインか? サインなら何枚でも書いてやるぞ」

 

「あのねえ、いくらプロでもサインを安売りしちゃだめでしょ」

 

 なんてあしらいつつ、改めて〝クレイバンディッツ〟――ディッツに気になるところがあるのだ。

 『戦おうぜー!?』と主従ともに訴えかける耀司君たちを横目に、一つ試してみることにした。

 

「シノー」

 

「ハイでござる」

 

「ぐわっ!? なにするでガンス!?」

 

「おいおい!? いきなり何やってんだ!?」

 

 シノに合図を出して、ディッツに急接近してもらい足払いをしてもらった。

 案の定、大した抵抗もなくズッコケたディッツは起き上がるとすぐさま、私とシノに怒りを募らせているし、耀司君は驚いていた。

 うん、当然だよね。

 でも、これでハッキリしたことがある。

 

「耀司くんさー、ディッツのメンテしてる?」

 

「ん? ああ、普段通りのやつならしてるが?」

 

「ふーん、ディッツは自分の不調とか感じる?」

 

「は? い、いや特に不調を感じることはないでガンスが……」

 

 どっちも気付いていないパターンか。ちょっと、面倒かも。

 

「楔がわざわざ言うってことは、ディッツのどこか悪いのか?」

 

「不意打ちっていってもバトルじゃなくて、通常状態のシノにあっさり転ばせられた時点で不調だと思うよ」

 

 ディッツにスキャニングを掛けつつ答える。

 

「ここ何戦かの戦績も悪くなってたりしない?」

 

「うぐっ!? 」

 

 やっぱり、ちょっとパーツが摩耗してバランスが悪くなってるね。明確に歪んでいるわけじゃないから気づきにくいのもしょうがないけど……調整に少し時間がかかるかな。

 パノプロイド用の工具と機材を持って修理とチューニングを開始する。

 ふっふっふ、ホビーショップを開くなら当然の技能だね。

 いや、マジでこの技能必須なんだよ。大体、軽いメンテナンスなら子どもがスキルを身に着けている時点で、これくらいできないとショップなんてやれなかったりする。

 ディッツ本体のパーツを外したり、調整したりしているわけだが――

 

「あ、そこはダメでガンス……」

 

「ただの修理に変な声出すな!? まったく、もうしばらくかかるから、耀司君は大人しくしててね」

 

「お、おう」

 

 対戦しようとしたら出鼻をくじかれ、まさかの修理兼チューニングとなったことに若干戸惑っているようだが、私が変なことするとも思っていないだろう。

 さて、サクッと終わらしたいところだけど……。

 

「すっげー!? 土浦プロだ!? 」

 

「おっ! なんだ坊主。俺のファンか?」

 

「――はい! 四番目くらいに好きなプロです!」

 

「……正直な坊主だな。全プロプレイヤーの中で四番目だから微妙に喜んでいいのか、悲しんでいいのかわからねえぜ……」

 

 耀司君を放っておいて黙々とディッツの修理とチューニングに勤しんでいたのだが、なにやら、いつの間にか『Connecters』に遊びに来ていた白斗君と知り合いになっていた。

 というか、プロ相手でもグイグイいくな白斗君。怖いものなしか?

 でも、四番目に好きなプロとか言われたわりに白斗君を含め、店にいた人に次々サインをあげているあたり耀司君の昔からのガキ大将気質というか――人を惹きつける魅力みたいなのは変わっていないみたいだ。

 さぁて、これでどうだろうか。

 

「ほら、起きてディッツ。どう?」

 

「なんか身体が軽い気がするでガンス」

 

「なら、大丈夫かな」

 

 おーい、と耀司君を呼ぶ。

 

「楔、終わったのか?」

 

「うん、それでハイこれ」

 

「?」

 

 耀司君の前にモニターを表示させて提示する。

 そこに書かれているのは当然今、修理とチューニングをしたディッツの料金だ。

 

「う、高ぇ……」

 

「Bクラスのプロならかなり稼いでいるんだから文句は言わない。大体、普段から気をつけていれば特急料金なんていらないんだからね」

 

「……気をつけます」

 

 私の説明に大人しく料金を支払った耀司君はそのまま『Connecters』を後にする。

 ディッツのチューニングでかなりの時間が経ってしまったし、私との対戦よりも今の自分達の確認がしたいそうだ。

 プロプレイヤーの自分が店のバトルフィールドで調整するのも悪いと思ったらしい。

 まったく妙なところ律儀なんだよね。その律義さを自分のパノプロイドに少しでも活かせばいいのに……。

 なんてことを思っていると、私の心を読んだかのように一連の行動を見ていたシノがポツリとこぼす。

 

「ご主人は拙者らのことを大切にしてくださっているでござるからな……」

 

「……シノ、うるさい」

 

「これは失礼したでござる」

 

 ケラケラと笑いながら黙ったシノを小突く私なのだった。

 その後、耀司くんは残ったBリーグの試合を全勝という結果を叩き出し、来季のAリーグ入りを決めたらしい。

 

 

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