青春戦線 ―bule archive battlefront―   作:エントゥーム

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ハローミシェーラ、元気ですか?兄ちゃんは元気です。
早速だけど、誘惑に負けた兄ちゃんをどうか許してほしい。



第一章 対策委員会編
「対策委員会へようこそ!」chapter 1


「う……うん……ぶぁッ!?」

 

 いつの間にかソファで横になっていた美甘ネルは、意識を取り戻し飛び起きる。

 慌てて周囲を見回すと、シャーレの部室の隅、観葉植物に水をあげていたクラウスが、こちらに視線を向けた。

 

「おはよう、ネル君」

「旦那ッ……! ちぇっ、今回もダメだったか……」

 

 ネルは「あーあ」と呟き頭をくしゃくしゃと掻くと、ソファに胡坐をかいて座りなおした。

 彼女がシャーレの構成員……もとい、部員になって数日、クラウスへの襲撃に今回も失敗した彼女は、こうして一撃で叩きのめされ、意識を飛ばしていたのであった。

 

「よしっ、んじゃ今日も活動開始とすっか!」

 

 反省はここまで、と、気持ちを切り替えたのか、ネルはぱしんと拳を手のひらで叩く。

 

「んで? 今日はなにすんだ? あたしとしちゃこの間みたく派手に暴れられるやつがいいんだけどな」

「メールを確認したが、今日はまだ来ていない。……掛けていたまえ、紅茶でも淹れよう」

「なんだよ、紅茶ならあたしが淹れてやるって――あっ」

 

 ケトルに水を入れ、火をかけようとしていたクラウスに、ネルが替わろうと立ち上がった時だった。

 ふと何かを思い出したのか、スカジャンのポケットに手を入れた。

 

「そういえば、あたしが来たときに、丁度郵便が来てたんだった」

 

 ネルはそう言うと、ポケットから一枚の封筒を取り出し、ひらひらと振った。

 

「依頼かね?」

「多分な、今時手紙とは古風だが、まあ確実に目に入るって点では、いい判断だな」

 

 ネルは封筒を開封しながらニヤリと笑う。

それから差出人を見て、少々意外そうな顔をした。

 

「差出人はアビドス高校か……あそこまだ残ってたんだな……」

「アビドス……資料では以前は大きな自治区だったらしいが……知っていることは?」

「ああ、昔はウチやトリニティ、ゲヘナなんかとは比べ物にならないくらいデカイ学校だったんだけど、急激な気候変動で街が砂漠に吞まれちまったらしくてな、んで過疎化が進んだりなんだりで今じゃ風前の灯らしい、あたしもそのへんの詳しい事情は知らないけどな」

「ふむ……、内容は?」

「読むぜ、えーっと……」

 

 ネルは中に入っていた便箋を取り出し、中身を読み上げ始めた。

 

『連邦捜査部の先生へ

こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。

今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、こうしてお手紙を書きました。

単刀直入に言いますと、今、私たちの学校は追い詰められています。

それも地域の暴力組織によってです』

 

 読み上げていくネルの声がどんどん上擦っていく、どうやら暴力組織という単語に反応したらしい。

 

「旦那!」

「うむ、続けたまえ」

 

 目をキラキラと輝かせ、期待の眼差しでクラウスを見つめるネルに、続きを読むように促す。

 

『こうなってしまった事情は、かなり複雑ですが……。

どうやら、私たちの学校の校舎が狙われているようです。

今はどうにか食い止めていますが、そろそろ弾薬などの補給が底を突いてしまいます……。

このままでは、暴力組織に学校を占領されてしまいそうな状況です。

それで、今回先生にお願いできればと思いました。

先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?』

 

 手紙を読み終えたネルが爛々と目を輝かせて顔を上げた。

 

「旦那! 決まりだ! これ行こうぜ!」

 

 ネルが嬉々としてクラウスを見やる、クラウスもケトルにかけていた火を止め、シッテムの箱を手にした。

 

「無論だ、文面からして、ただ事ではないことが起きているのは確かなようだ。

すぐに向かう、ネル君、準備を」

 

 いつの間に手にしていたのか、ネルは愛銃のサブマシンガンを構えて、凶悪な(満面の)笑みを浮かべた。

 

「おうよ! そう来なくっちゃな!」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「だあ~~~~あっぢぃ~~~~」

 

 一台の小型トラックが、ほぼほぼ砂に飲み込まれ、廃墟群と化したアビドス自治区を走っていく。

 その助手席でダッシュボードに足をかけ、メイド服の胸元をパタパタと仰ぎはだけさせながら、ネルはうんざりとした表情で呟く。

 

「どこまで行っても砂漠に廃墟……いい加減飽きてきたな、本当にこの先にアビドス高校があるのか?」

「もう少しのはずだ、砂漠化するほどの気候変動とは言え、地形が替わる程とは考えにくい」

 

 運転席でハンドルを握っていたクラウスは、同じくダッシュボードに置かれたアビドスガイドブックと書かれた本に視線を移す。

 ネルはそれを手に取ると、適当なページをペラペラと捲り、呆れたように肩をすくめた。

 

「何読んでんのかと思ってたら、こんな古臭い地図帳読み込んでたのかよ? ほとんど砂に埋まっちまってるのに意味あんのか?」

「役に立たないことはない、例えば先ほど通り過ぎたオベリスクの先端、あれは区立図書館の尖塔だ、この先を進めば旧アビドス街道に出られる」

「へっ、よく覚えてんな、ノアみたいだ」

「ノア?」

 

 呆れたように呟くネルに、クラウスが首をかしげる。

 

「生塩ノア、ユウカと同じセミナーの一人だよ、記憶力がとんでもなくいいんだ、一度見たものどころか、どんな些細なことでも忘れないってヤツさ」

「ふむ、機会があれば彼女のことも紹介してくれたまえ」

「……そのうちな」

 

 ネルはそっけなく呟くと、足元の袋から水の入ったボトルを取り出し、蓋を開けてクラウスに手渡した。

 

「ありがとう」とボトルを受け取り、喉を潤す。

出発前に結構買い込んだはずだが……、もう車の燃料とともに残りが心もとなくなってきた。

 補給しようにもこの廃墟がメインの大通りである、どうしたものかと考えていると……。

 

「うん? おい旦那」

「ああ、誰かいるようだ」

 

 何かに気が付いたのか、ネルが肘でクラウスをつつく。

前方にロードバイクに跨った人影が見える、クラウスはネルに頷くと、その人物に車を近づけ、短くクラクションを鳴らした。

 

「そこの君!」

 

 声をかけられたロードバイクの少女は、こちらについと振り向く。

クラウスは窓から顔を出し、少女に尋ねる。

 

「引き留めてすまない、我々はアビドス高校に向かっていてね、君はもしや、アビドス高校の生徒かね?」

「ん」

 

 灰色の髪の少女は肯定するように頷いた。

アビドスの関係者に遭遇でき、クラウスとネルは顔を見合わせ小さく頷く。

 

「ちょうどよかった、申し訳ないが、そこまで案内を頼みたいのだが」

「何の用?」

「申し遅れた、我々は連邦捜査部シャーレの者だ、奥空アヤネ君を知っているかね?」

「ん」

「彼女から救援要請の手紙が来てね、それで向かっていたのだ」

 

 こちらを訝しむ少女に、クラウスは持っていたアヤネからの手紙を彼女に差し出す。

 少女はそれを広げると、ややあって納得したように頷いた。

 

「ん、アヤネの字……そっか、久しぶりのお客様だ」

 

 少女は手紙をたたんで返すと、クラウス達についてこいと指でジェスチャーをした。

 

「わかった、ついてきて」

「よければ乗るかね? まだ席に余裕はあるが」

「大丈夫」

 

 そう言うや、少女はロードバイクを漕ぎ出し、道を先行していく。

その背を見ながら、ネルはくつくつと笑いながら手を組んで頭の後ろに回した。

 

「あいつ、すっげえあたしたちを警戒してたな。車ん中にグレネード放り込まれても不思議じゃなかったぜ」

「無理もない、彼女から見れば、我々はよそ者だ、敵対勢力と疑われても仕方がないだろう」

「まっ、これで市街地のド真ん中で遭難、なんてオチは回避できたな」

 

 ネルはあくびを一つすると、持っていたガイドブックで顔を覆った。

 

「んじゃ、ついたら起こしてくれ、旦那」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ――アビドス高校 対策委員会・教室

 

「ただいま」

「おかえり、シロコ先ぱ……い? うわっ!? その人誰!?」

「失礼する」

「よう、邪魔するぜ」

 

 ガラっと音を立てながら、教室の引き戸を開け、シロコと呼ばれた灰髪の少女の後に、クラウスとネルは中に入る。

 突然現れた赤髪の大男と、その連れのスカジャンを羽織ったメイド少女に驚いたのか、中にいた三人の少女たちは驚いたように立ち上がる。

 

「お客さん、うちの学校に用があるんだって」

 

 シロコが後ろにいるクラウスに視線を送る。

クラウスは一歩前に出て一礼し、隣にいるネルと共に簡単に自己紹介する。

 

「私はシャーレのクラウス・V・ラインヘルツ、こちらは部員の美甘ネル君だ、……この中に奥空アヤネくんはいるかね?」

「あっ、はい、私です。ということは……シャーレの先生ですか!」

「君が、奥空アヤネ君かね? 手紙の件で馳せ参じた次第だ、我々が力になれるようなことがあれば、遠慮なく言ってほしい」

 

 クラウスの言葉に、赤縁の眼鏡をかけた黒髪の少女が、驚いたような声を上げた。

 

「連邦捜査部『シャーレ』の先生!?」

「わあ☆支援要請が受理されたのですね! 良かったですね、アヤネちゃん!」

「はい! これで……弾薬や補給品の援助が受けられます!」

 

 少女たちは花のような笑顔を浮かべ、互いに手を取り合い喜び合う。

 

「取り急ぎ必要と思われる分は我々が乗ってきたトラックに積んである、あとで確認してくれたまえ」

「はい! ありがとうございます! 早くホシノ先輩にも知らせてあげないと……あれ? ホシノ先輩は?」

「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる」

「ごめんねセリカちゃん、お願いできますか?」

 

 セリカと呼ばれた少女が、隣の教室にいるというホシノを呼びに行くため、廊下に続く引き戸に手をかけた、その時だった。

 不意に、後者の外から乾いた発砲音が鳴り響く。

 

「じゅ、銃声!?」

 

 金髪の少女が驚いたように叫ぶのと同時に、シロコとネルが窓際へと滑り込み、銃の安全装置(セーフティ)を外しながら外の様子を覗き見る。

 

「ひゃーっははははは!」

「攻撃、攻撃だ!! 奴らはすでに弾薬の補給を絶たれている! 襲撃せよ!! 学校を占領するのだ!」

 

  すると外には、空に向かって銃を無秩序に乱射するヘルメットを被った集団が見える。監視用ドローンで外の映像を確認したアヤネが、悲鳴交じりの声を上げた。

 

「わわっ!? 武装集団が学校に接近しています! カタカタヘルメット団のようです!」

「あいつら……! 性懲りもなく!」

 

 悔しそうに歯噛みするシロコに、同じく外を覗き込んでいたネルが尋ねる。

 

「おい、あいつらか? お前らにタカってるっていう暴力集団ってのは」

「ん、あいつらがそう。でも……この数はいつもより多いかも」

 

 シロコは小さく肯定すると、苦い表情で再び窓の外を覗き込む。どうやら今回の襲撃の規模は、以前に比べ大きなもののようだ。

 同じように窓から外を覗き込んでいたネルがガシャリと愛銃を構え、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「はっ! お前ら運がいいな!」

「どういう意味?」

「あたしがここにいるのがツイてるって意味だよ! 旦那ァ!」

 

 怪訝な表情で見つめるシロコに、ネルはクラウスに視線を送る。

 

「そいつら頼んだぜ! ちょっと行ってくらぁ!」

「無理はするな、ネル君」

「へっ、誰に言ってんだ!」

「えっ? ちょ、ちょっと! 一人で行く気!? っていうかここ三階……!」

 

 言うやいなや、ネルはガラッと窓を開け放つと、弾かれたように外へと飛び出していく。

 その様子を見ていたセリカが慌てて窓際に駆け寄るも、すでにネルは三点着地で地面に降り立ち、弾丸のようにヘルメット団に突っ込んでいくところだった。

 

「わぁ! あのメイドさん、とっても元気なんですね☆」

「関心してる場合!? 早く追わないと!」

「ノノミ先輩、セリカ、そこ危ないから早く屈んで」

 

 シロコが、ノノミと呼ばれた少女と、セリカの袖口をひっぱり、姿勢を低くさせる。

 クラウスは、耳元に小型のインコムをつけ、そんな彼女たちに視線を向けた。

 

「ここはネル君に任せよう、君たちは補給を済ませたまえ。セリカ君と言ったね、君はホシノ君を連れて合流したまえ、完了次第我々も打って――」

 

 クラウスはそこで言葉を切ると、改めて外の様子を伺う。

見ると、ヘルメット団が陣取る道路のあちこちで爆発が起き、わずかにだが、ここまでヘルメット団の悲鳴が聞こえてきた。

 

「その必要はなさそうだ、一度ネル君を連れ戻そう」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ひゃーはっはっはっは!」

「今日こそ奴らも終わりだ! これだけの数がいれば――うん?」

 

 銃を空に向かって景気よく乱射していたヘルメット団達の前に、砂塵に紛れてよく見えないが、一つの小さな影が現れる。

 目を凝らしてよく見ると、その小さな影は、着崩したメイド服に、スカジャンを羽織った、ちんちくりんな少女だった。

 歩きながらこちらを指さし、ひい、ふう、みい、と人数を数えているのだろうか、メイド少女は「20……ね、まあこんなもんか」と一つため息をつく、それから多数のヘルメット団を前にしてもまるで物怖じしていない様子で、親し気に話しかけてきた。

 

「よう! 楽しそうだな。ちょっとあたしも混ぜてくれよ」

「あぁ? なんだこいつ」

「変な格好だな、お前、アビドスの奴か?」

 

 ヘルメット団の一人が前に出て、銃を構え誰何する。

アビドス高校の方角からやってきたネルは、彼女たちからしてみれば、アビドス側の人間に見えたのだろう。

 

「おう! お前らを潰しに来たっつったらどうする?」

 

 銃を突きつけられているのに、ネルはいつもと変わらない明るい調子で答える。

すると、ヘルメット団はお互いに顔を見合わせると、笑い声をあげ始めた。

 

「ひゃっはっはっは! たった一人で乗り込んできて何言ってんだ?」

「少しは周り見てものを言えよ! 頭おかしいんじゃないのかこのチビ!」

「あ”ぁ”!? 今なんつったコラ?」

 

 ――ビキッ! とネルの額に青筋が浮かぶ。先ほどまでの朗らかな表情が一変し、ずんずんと前に進み、銃を向けていたヘルメット団の鼻先にまでずいっと顔を近づけると、鬼神のような表情を浮かべ、ネルは凄んだ。

 だが、ヘルメット団員も負けていない、ヘルメットをこつんとネルの額にぶつけると、そのままぐりぐりと押しつける。

 

「何度でも言ってやるよ、頭おかしいのかって言ったんだ、チビ!」

「てめぇら……ぶっ殺されてえみてえだな……」

 

 ふるふると怒りに肩を震えながら、ネルが小さく呟く。

その様子が面白かったのか、ヘルメット団から、大きな笑いが巻き起こった。

 

「ひぇーーー! こえー! ぶっ殺すだってよ!」

「ヒャーハハハハ! やってみなよ、お・チ・ビ・ちゃ~ん!」

 

 ネルと額を突き合わせていたヘルメット団員が、小馬鹿にした様子で、怒りで震えるネルの頭をぽんぽんと叩いた。――次の瞬間。

 

「おうよ」という短い声の後に、ネルの姿が文字通り消え、「ぐぎぇっ」というカエルが潰れたような声を漏らしながら、ヘルメット団員が地面に叩きつけられ、それとほぼ同時に、――ドゴッッ! という音と衝撃と共に、叩きつけられた箇所を起点として、地面が大きく陥没した。

 

「あっ……がっ……!?」

 

 突如地面に叩きつけられたヘルメット団員は、何が起こったのかすらもわからず、目を白黒させながら苦悶の声を漏らす。

そんな彼女の頭をがしりと踏みつけながら、ネルは静かに顔を上げ、凶悪な笑みを浮かべた。

 

「さぁて、覚悟はいいかゴミ共、掃除の時間だ!」

「あっ……うっ、撃て! 敵だ! 撃ぐえっ!?」

 

 ようやく事態を飲み込めたヘルメット団の一人が、悲鳴交じりに叫ぶのと同時に、いつの前にか懐にもぐりこんだネルの強烈極まりないハイキックが顔面に突き刺さり、勢いよく後方へ吹き飛んでいく。

 

「う、うわぁぁぁ!?」

「な、なんだこいつ! 撃て! 撃て!」

 

 慌てて銃を構え、応戦しようとするも、ネルの動きを捉えられる者は誰もいない。

 マズルの火炎が何もないところで突如閃き、気が付いた時には、仲間が一人、また一人と薙ぎ倒されてゆく。

 

「おらおらおらおらァ!」

 

 怒涛の勢いで繰り出される二丁のサブマシンガンの掃射が、半ば喪失しつつあるヘルメット団の戦意を、彼女たちが身を隠す遮蔽物ごと粉砕してゆく。

 ネルが戦闘を開始してから、経過していた時間は2~3分足らずである。

だがすでに、そこに立っているのは、ネルの姿しかない。

アビドスの校舎を占拠すべく、大挙して押し寄せてきていたヘルメット団の姿は、最早見当たらなかった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「く、くそっ、お、覚えていろよー!」

「なんだ、もう終わりかよ」

 

 まるで三下のような捨て台詞を残し、ほうぼうの体で逃げ出すヘルメット団の背中を眺めながら、ネルは呆れたように呟く。

 追撃して撃滅するかとも考えたが、こちらに向かってくるクラウスの姿を見て、ネルは軽く手を振った。

 

「おう旦那! 終わったぜ!」

「ネル君! 無事かね?」

「ったく、誰に言ってんだよ旦那。あんな連中あたしにしてみりゃ雑魚だっての」

 

 ネルはニカっと笑みを浮かべると、クラウスの肩をバシッと叩いた。

 

「まっ、こんだけ痛めつけりゃ当分は来ねえだろ。んで? あいつらは?」

「ああ、今来るところだ」

 

 クラウスが振り向くと、補給を終え、こちらに走って向かってくるアビドスの生徒たちに視線を向けた。

 

「カタカタヘルメット団残党、郊外エリアに撤退中です!」

「すごい……本当に一人でヘルメット団を追い払うなんて……」

「わあ☆メイドさんってとっても強いんですね!」

 

 ドローンで周囲を偵察していたアヤネが報告すると、シロコが驚いたように呟く、まさかたった一人でヘルメット団を相手取り、あまつさえ壊走にまで追い込むとは思わなかったのだろう。

「別に大したことじゃねえよ」と、ネルはぞんざいにひらひらと手を振る。

それからネルは、先ほどの部屋の中にいなかった桃色の髪をした小柄な少女がいることに気が付いた。なにやら眠そうな気の抜けた表情で、セリカの肩に体を預けている。

 

「旦那、そいつは?」

「ああ、彼女は小鳥遊ホシノ君だ、対策委員会の代表らしい」

「ホシノ……? あいつが?」

 

 クラウスに名前を尋ねたネルだったが、返ってきた答えに、聞き覚えがあるのか少々驚いたように目を見開いた。

 そんな彼女をよそに、なおも舟をこぐホシノに、肩を貸していたセリカが、がくがくと彼女の体を揺らした。

 

「ああもう、ホシノ先輩! 寝ぼけてないで起きて! シャーレの人がヘルメット団追い払ってくれたわよ!」

「おぉ~それはすごいね~これでおじさんも安心して眠れるよ……むにゃ」

「おじさん……?」

 

 とぼけた口調で自らをおじさんと呼ぶホシノに、ネルが首を傾げたその時、

「ん……?」とホシノが目をわずかに開け、ネルを見つめた。

 

「あれー? なーんでミレニアムの子がここにいるのさ」

「ああ? なんだお前? やんのか? お?」

「うへ~、これじゃどっちがチンピラなのかわからないよ~」

 

 ネルが凄みながら詰め寄るも、なおもとぼけた態度でホシノが茶化す。

それからネルは、わずかに目を細めると、「こいつが?」と、小さくつぶやき、ホシノの顔をじっと覗き込んだ。

 

「な、なにさ、急に人の顔をじっと見つめて……おじさん照れちゃうな~」

「お前、小鳥遊ホシノ……だよな?」

「そうだよ~、あれ? もしかしておじさん有名人?」

「う~ん……? なんか噂と違うような……あ、いや、悪い、あたしの勘違いみたいだ」

 

 ネルはぽりぽりと頭を掻きながら、ホシノから離れる。

「知り合いかね?」とクラウスが小声で尋ねると、ネルは違和感が拭えないといった様子で、小さく首を振った。

 

「名前だけはな、あたしと同学年ってのもあるが――」

「えぇっ? 三年生なの!?」

「あぁ!? どういう意味だコラァ!」

 

 同学年、という言葉に反応したのか、横で聞いていたセリカが驚きの声を上げる。当然その言葉をネルが聞き逃すはずもなく、即座に突っかかる。

「ネル君」とクラウスにたしなめられ、ふてくされたようにポケットに手を突っ込んだ。

 

「まあ、小鳥遊ホシノっていや、それなりに聞く名前だったんだ。なんでも暁の――」

「うへ~、陰口かな~? おじさん傷ついちゃうよ~」

 

 ネルの言葉を遮るように、いつの間に近くにいたのだろうか、ホシノが「よよよ……」とわざとらしい泣きまねをする。

 

「チッ、なんだこいつ……調子狂うぜ……」

「すまない、そのつもりはなかった」

 

 ネルはバツが悪そうに頭を掻くと、呆れたように肩をすくめる。

それからクラウスに向き直り、顎でヘルメット団が逃げ去った道の先を指した。

 

「まぁいいや、で、どうする? あいつら追って潰すか?」

「うむ、アヤネ君、今のヘルメット団の撤退先を追跡できるかね?」

「はい! やってみます!」

 

 クラウスはドローンを操作するアヤネに指示を出すと、アビドスの生徒たちに視線を向けた。

 

「お互いに紹介もまだだ、一度学校に帰投し状況を整理、方針を話し合おう」

 





しばらくはネルのターンが続きます

なんでネルなの?ってのは
この話を妄想するにあたり、クラウスがあまりに強すぎて動かしにくいのと、クラウスの自己縛りプレイ発動で生徒には攻撃できない(泣き落としたネル以外)があるので、自由に動ける生徒が必要だった、という事情があります。
選考理由もちゃんとあって、ライブラに生徒がいたら誰だったら違和感がないかで妄想したら、最もライブラに馴染めそうなのがネルだったからです、というかネルしかいない。
ザップと一緒にクラウスに挑みそうだし、ザップとケンカしそうだし、レオ、ザップ、ツェッドのトリオに加わって行動してそうだし、KKやチェインとも仲良くやれそうだしで、唯一馴染んでいました。
あと性格上、とても話を動かしやすい、キヴォトスでは最強クラスの戦闘能力持ちで、面倒見がよく、組織人として報連相も欠かさないという、クズ度0のとてもいい子という点を除けばほぼザップです(唐突なヘイトスピーチ)
内藤先生やノベライズの秋田先生がザップを主軸に話を動かす理由がわかった気がします。
クラウスの事を旦那と呼んでいますが、クラウスを先生と呼ぶ絵面が思い浮かばなく、旦那と呼ばせてみたら脳内でスルっと再生できたのがあります。

あとがき(言い訳)長くなったのでモンハンやってきます。
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