「はっ」
翌朝、かなみは氷砂糖で飛び起きた。彼女にとってメナドにあってからマリスと別れ、寝るまでの数時間はまるで胡蝶の夢のようにこれまでの地獄に似た日々への救いのようで、地に足のつかぬようなものであった。
「夢……じゃなかった……。のよね」
そう言ってかなみは備え付けのテーブルの上にある、カエル柄の小物入れが昨夜の出来事が現実であることを確かに実感させた。それと共に彼女の中にはふつふつと勇気がわいてきた。
「おはようございます。かなみさん。ご朝食をお持ちしました」
「はーい! どうぞー」
奈美の声にかなみは即座に反応し、奈美を部屋に通した。
ふすまをあけて、かなみの顔を見た奈美は少し驚いたような顔をした。
「あら……。今日は随分と、スッキリと元気なお顔をされていますね」
「へへへ……そうですか?」
目の隈はなくなり、死霊にも似たマイナスのオーラもなく、かわって確固たる輝かしい何かが、今のかなみを覆っていた。
「なにか、良いことでもありましたか?」
奈美はお盆から朝食を配りながら尋ねる。
「ええ。まあ」
「それはそれは。元気になられたようで、私も嬉しいです」
奈美は心からの言葉をかなみにかけ、お茶を淹れ始めた。
今日からかなみにとって新しい一日がはじまる。
――
この日以来のかなみは完全に人が変わったかのように、確固たる軸を持つ、耐える人に変貌していた。教師は相変わらず理不尽な振る舞いをかなみにしていたが、以前のように過剰に心を乱されたかのような反応はしなくなった。
「おやぁ。かなみ、この程度の漢字、スラッとかけないのかぁ?」
国語の授業中、教師はまたもかなみを指名し、一年生からは少しステップアップした漢字を書かせようとしていた。
「いえ……。同音異義語がないか。今一度頭の中で整理していました。そもそも、文脈がないし、これでは問題として不適切だと思います」
かなみは教師の目をしっかりと見据えて、的確に反論してみせた。
「なっ……!!」
教師はそれから逆上してあらん限りの陰湿な言葉を浴びせたが、かなみはびくともしなかった。
明らかに、かなみは変化した。穴が塞がるときまで、絶対に、栓が抜けてはいけないと心に固く誓ったのだから。
―リーザス城 女王執務室―
それから約一ヶ月、蒸し暑い日が増え、夏を迎えようとしていた頃。
「マリス、本当なんでしょうね」
「はい。間違いありません。先ごろ発生した我が国の、オークス応用学校における連続失踪事件につき、ランス殿が解決されたとの知らせが、教育筋より入ってまいりました」
マリスはまるで自分のことのように喜んで、報告したが、リアの浮かれっぷりはそれ以上であった。
「きゃー! さっすがダーリンね! 教育大臣のジジイがあれだけ困った顔してた事件を、ダーリンがあっさり解決するなんて! ほんと惚れ惚れしちゃう」
リアは恍惚のあまりよだれを垂らしてしまっていた。それほど、ランスの生存報告は欣喜雀躍するにふさわしい吉報であった。
「リア様、よだれが……」
マリスは即座にウェットティッシュをもち、さっとリアの口元を拭った。
「おっと……。ありがと。でも、なんでここまで報告が遅れたのかしら? あの事件はたしか冬から起きてたはずよね?」
「聞いた話ですが、ランス殿は主犯であるカニバートを倒す際、潜入捜査として身分を偽り、教育者として接していたようで。それで身元の確認が遅れてしまったとのことです」
その言葉を聞いてリアはまたも喜色満面となった。
「うーんクレバーだわぁ。やっぱりダーリンは世界一ね!」
傍から見ているだけでハートマークが自動的に出てきそうな、ベタもベタな惚れ込みぶりをひとしきりさせた後、マリスが本題とばかりに切り出す。
「それでですが……。かなみの件についてはいかがいたしますか」
「かなみ? あぁ、あの娘ね……、しばらく見てないから存在忘れかけてたわ」
リアも5月頃までは上がってくる学校からの報告書を見ては鬱憤をはらしていたが、飽きてしまったのかここ一月はかなみの名前すら口にだしていなかった。
「彼女も私の見る限り、十分反省しましたが、いかがでしょう、そろそろ初級学校から戻してやっては」
「うーん……そうねえ」
リアは頬杖をつきながらしばらく考えている。
「初級学校なら、授業参観もあるわよね。リアもそのころパパとママにきてもらってたわ」
リアは思いつたかのように尋ねる。
「ええ。あの時分は父君がリア様溺愛のあまり、親衛隊を駆り出して一騒動あったと聞きますが……。行かれるのですか?」
「もっちろん。あの子への懲らしめもあったけど、教育のためにも放り込んだんだもの。成果は見なくちゃね。全てはそこから判断よ」
リアは薄っすらと笑みを浮かべて応える。
「分かりました。では、親衛隊にそのように指示を……」
「ああ。あんまり
マリスは頭を下げ、執務室を一旦後にした。
―教室―
夏休みに入ろうかというころ、リーザス第1初級学校では授業参観が行われていた。
子どもの授業風景を一目見ようと、父兄や母親たちが続々とあつまり、教室後方で暖かく見守っていた。
中には一人だけ明らかに背が高いのがいると、かなみを奇異に思う母親もいたが、すぐにおさまった。かなみもさすがに耐えることを覚えたとはいえ、全く見ず知らずの父兄に見られるのはやや恥ずかしいものがあった。
昼も近くなり、4時間目の授業は生活で、わたしたちのまちの身近な仕事を調べようという主題で授業が進められていた。最初の数分ほどは平穏に授業が進められていたが、突如として廊下が騒がしくなる。
なんだなんだと子どもたちが後ろのドアに注目すると、静かに、しかし気品を感じさせる所作で一人の金の鎧を着た女性が入ってきた。
「あ! しんえーたいだ! この前けんこくさいでみた! かっこよかった!!」
一人の子どもがそう囃しはじめると、一気に盛り上がり始める。続いて入ってきたのは、リーザス城下ならその顔を知らぬものはいない。国王リア・パラパラ・リーザスである。
「女王陛下!!」
「わーじょおーさまだー!!」
子どもどころか父兄たちも突然のこの国の最高権力者の来訪に浮足立っていた。すると、最後に入った筆頭侍女のマリスがよく通る声で制止を求めた。
「お静かに! 本日女王陛下は、民情視察の為、抜き打ちでこの授業参観に参られました。どうか皆様、普段通りに」
マリスの言葉には神通力でもあるのか、その言葉で子どもたちや父兄たちは静まり返り、高揚感は持ちつつも、席から立ち上がるなどの行動は見られなく成った。
かなみだけは突如のリアの来訪に心が落ち着かなかったが、なんとか悟られまいと必死の精神力で授業に取り組んだ。
「へぇー……。見てマリス。身近な仕事調べですって」
「私も遠い昔ではありますが、似たようなことをしました。懐かしいですね」
小さい声でリアとマリスが会話する。
教師の方はいつもより半オクターブほど高い落ち着かない声で、授業を進行し。グループ別に仕事を調べて、いよいよ班別発表の段になった。
「2はんはんちょうの、ロベルト・ヒューズです。きょう、ぼくたちがしらべたのは、へいたいさんたちのことです。リーザスおうこくでは、じょおーさまをまもるきんのぐんをはじめとして、くろのぐんや、あおのぐん、あかのぐん、しろのぐん、むらさきのぐんといったいろでわけられた」
そんな発表を聞きながら、リアがまた小さな声で発言する。
「へー。あの子金の軍最初に持ってくるだなんて、なかなか気遣いのできる子じゃない」
「この歳にしてそういう配慮ができるのはなかなか見どころがあるかもしれませんね」
そんな女王と侍女の会話を聞いてる横で、いまいち落ち着かない様子の親衛隊員がいた。
「なーに、レイラ。もしかして照れてるの?」
リアはニヤついた顔でレイラに尋ねる。大事にしたくないということで、今回連れてきた親衛隊員は隊長のレイラ含めて2,3人の選りすぐりのみだった。
「純真な子どもにあんなキラキラした目で、自分の仕事を紹介されるのって……。なかなかこそばゆいものです」
レイラは率直な感想を口にした。
「とかいいながら、嬉しいんでしょう?」
「…………、まあ。多少は」
レイラはそう控えめな返答をして、視線を戻した。兜をかぶっているため表情は詳しくは分からないが、赤面しているであろうことはうかがいしれた。
発表が進み、遂にかなみの班の番になった。
「5班班長、見当かなみです。私達の班が調べたのは、JAPANで主に諜報活動を生業としている、忍者、または忍び、スッパやラッパとよばれる職業です。一見忍者は我々大陸に住む人々にとっては縁遠いものに思われがちですが、その活動は大陸における諜報機関や諜報員と重なる点が多く、第一に……」
かなみの発表は初級学校からはかけはなれたレベルのものであったが、その調べた成果は自習による成果がふんだんに盛り込まれており、成長を実感させるものであった。ちなみにかなみの班員については忍者の技術や、手法を内緒で教えることでカバーした……というより、そもそもかなみは忍者について調べる気などなかったのだが、別の班員が言い出して流れでそうなったというのが実情であある。
発表が終わると、言われた内容がやや高度だったからか若干引いたような反応が多勢を占めていた。しかし、手袋の合わさった乾いた音が鳴り響いた。
「よく調べ上げたわね……。
リアは穏やかに笑いながら、ゆっくり拍手し、それに続くかのように父兄たちも一斉に拍手した。教師の方は苦虫を噛み潰したかのような表情で、下唇を噛んでいた。
「あ、ありがとうございます。リ……、女王陛下!」
この場では一市民であるかなみがリアの名前を直接呼ぶのは不敬にあたるため、かなみはあわてて言い直して、深々と頭を下げた。
この拍手こそが、かなみが許された何よりの証であり、かなみの心中は達成感に満ちていた。
その後、授業参観は無事に終わり、かなみにとって一つの区切りがついた。
――
翌日、かなみは約四ヶ月ぶりに王宮に召し出された。どんな顔をしてあえばいいか、かなみはわからなかったが、ともかく、かなみは執務室の扉を叩いた。
「し、失礼します。リア様」
「あら、かなみ、そんなところで何してるの?」
マリスを従えたリアはいつもどおりな声色で、久々の主従としての第一声を放った。
「えっ……?」
「あなたの仕事場はそこじゃないでしょう」
そう言いながら、リアは自分の頭上を指し示した。そこは天井裏であり、普段かなみがリアを護衛しているポイントであった。
「リア……様」
かなみは感極まって涙を目にいっぱい溜め、一筋だけ頬を伝っていた。本当に許されたのだと、彼女は心の底から確信したのである。
「リア様」
マリスは戯れはそれくらいにと。言わんばかりの視線をリアに送る。
「そうね。で、かなみ、あなたはこれからどうしたいの?」
「え? どうしたい……とは?」
かなみは問われている意味がよくわからなかった。リアが下問をするときに自分が選択権があることなどまずないからである。
「端的にいうと、あなたはもう初級学校に無理していくことはないのよ。しかし、一方で卒業まで続けるという手もあるの。最低履修年数は一年で、あと8ヶ月の時間が残ってるのが今の状況」
マリスが淡々とした調子で説明する。
本来、初級学校は5~6年かけて初等教育を修了するものであったが、かなみのような特殊な事情を抱えていたり、他国から移住した際の単位認定制度を活用して最速で一年で卒業扱いにできるフレキシブルなカリキュラムとなっている。
「ま、早い話が、あと8ヶ月あなたは自由に使えるのよってことね。今までがんばったご褒美よ。取り立てて今かなみにしてほしい仕事があるわけでもないし、8ヶ月休暇とるでもいいし、8ヶ月また学校に通うのでも良い。かなみの好きに選んでいいのよ。どちらにしてもその間はリーザスの諜報員としての給料はちゃんと払うから、生活の心配はしなくていいわ」
あのリアが言ってるとは思えないほど太っ腹な話であった。
「本当に……宜しいのですか」
「そのかわり。今、この部屋にいる間に決めてね。後でやっぱり、なんて言ってもリア、しらないから」
やはり気まぐれでそうしているだけだったかと、かなみは合点がいった。
「わ、分かりました。少し考えさせていただけませんか」
「リア様はあと15分でLP3年度の建国祭にむけての会議があるので、そのあいだに決めなさい」
マリスは淡々とした口調で言う。
「え、えぇーーー!? わ、わかりました。今しっかり考えますから」
そういってかなみはメモ帳を取り出し、頭をフル回転させて考えこんだ。
「どうするんでしょうね、かなみは」
「遊び半分で投げてみたけど……、まさかあんなに真剣になるなんてね。やっぱり飽きないわね、かなみは」
リアはくすくすとかなみの様子をみて笑っていた。
ほとんど時間いっぱいを使って、かなみは結論を出した。メモ帳には行きたい旅行先や、所要日数、JAPAN一周の工程表などの計算、初級学校のカリキュラムと必要時間など様々な情報が書き殴られており、ギリギリまで悩んでいたことが伺い知れる。
「決まった?」
紅茶を飲みながら、リアは尋ねる。
「はい……私は―――勉強。したいです」
「ふーん?」
リアは少しだけ体を前に乗り出す。
「せっかく時間を削って一応応用学校の知識まで付け焼き刃ながら、一応形になりましたし……、やっぱり中途半端はイヤです。きちんと卒業……、させてください」
かなみはリアに頭を下げた。
リアはもう一口紅茶をつける。
「そ。分かったわ。今のままのクラスじゃ、色々と辛いだろうから、第1学校に一番近くて、氷砂糖からも近いえーっと……」
「第7学校です」
「そうそう、その第7学校への転校手続きをとっておくわね。安心なさい、今度はちゃんと試験の上で適正なクラスに振り分けてあげるから。9月からの二学期からは第7学校に通ってね」
つくづくリアの言葉に感謝しっぱなしのかなみであった。
「ありがとうございます。リア様」
「そーのーかーわーり。勉強終わったらビシバシ働いてもらうわよ。来年度は寝る暇もないってくらい覚悟を決めて、今のうちに休めるだけやすんでおくことね」
リアは不敵にフフフと笑って見せる。間違いなくその目は本気だった。
「ハハッ」
そう言ってかなみはリアにひざまずいた。
「さ、じゃあ今日はもう帰っていいわ。あと第1学校はもういかなくていいから、一足早い夏休み、満喫しておきなさいね」
リアはひらひらと手を振る。
「あの、一つだけ聞いても宜しいですか」
「何? もう行かなきゃだからほんとに一個だけよ」
マリスがソワソワしてるのを見て、リアがそう限定する。
「どうして、私を学校に入れようと思われたのですか。あの時、正直折檻や、処断されることも覚悟していたのですが……」
「やーね。なんでダーリンが抱きたがってる子にそんなことするのよ。嫌われちゃうじゃない」
「……へ?」
折檻や処断を選ばなかったのは体が傷ついたり、死亡することでランスの機嫌を損ねないために過ぎなかった。
「まああとそうね……。地図も読めないっていうのは忍者として致命的だし、ちゃんと教育の機会与えてあげようと思ったのも本当よ。忍びなんていつまでもやれる稼業じゃないんだから、勉強はするにこしたことないし……でも何よりの理由は」
「理由は?」
かなみが食い入るように尋ねる。
「マリスが言ってたっていう”栓”よ。ダーリンが居ない鬱憤を、かなみで少しでも紛らわそうと思ったの。そこそこ、楽しめたわ。そこはお礼を言っとくわね。ありがとう、かなみ」
そういってリアは今度こそマリスを連れて執務室から出ていった。
やはり、いつものリア様だったかと、かなみは複雑な感情になったが、すぐに思い直して、切り替えた。
「……。夏休み、メナドでも誘って川中島にでも遊びに行こうかな」
そんなことを呟きながら、かなみも執務室を後にした。
――
8ヶ月が経過した。
かなみは1学期における自習のアドバンテージを活かして、貪欲なまでに単位を取り続け、見事に一年で初級学校のカリキュラムを終え、卒業を果たした。ほとんど認定ギリギリで、担当教員に行脚してなんとか単位をもぎとるかなみの姿が2学期末と卒業直前にみられたが、とにかく卒業は果たしたのである。
―リーザス城 執務室―
「卒業おめでとう、かなみ。ほんとうによく頑張ったわね」
リアは卒業式当日の夜、かなみを王宮に呼び出し、マリスと共に卒業を祝った。
「ありがとうございます。リア様のおかげです」
かなみは卒業証書を持ちながら、リアに晴れ晴れとした様子で報告した。
「おめでとうかなみ。期末試験の度に私に死にそうな顔しながら助けを求めてたけど……、まあ、終わりよければすべてよし。心から祝福するわね」
マリスも珍しく社交辞令でなく、心の底から嬉しそうな笑みを浮かべて卒業を寿いだ。
「ありがとうございます」
「で。そんなムードのうちに言うのもアレなんだけど……覚えてるわよね。八ヶ月前の約束」
早速リアは祝福モードから切り替えてかなみに問う。
「は、はい。来年度は遊んでいる暇ないって……」
「甘いわよ。今日から、不眠不休で働いてもらうから」
リアはにっこりとそう断言した。
「えーっ……で、でもまだ来年度には何日か。それに卒業旅行の約束とかが」
「夏休み、早めにあげたでしょ?」
リアの言葉にああ、そういうことだったかとかなみは観念した。
「卒業旅行だなんて、リア様専属忍者にあるまじき甘えは許しませんからね。八ヶ月で随分と学生気分が板についてしまったみたいけど、それも全て洗い流してもらうわ」
マリスは冷たい視線で言う。
「う……うう」
かなみはがっくりとうなだれた。この時をもって、かなみの学生生活は完全に終わりを迎えた。
「任務はゼス王国への潜入。去年は12月革命、今年は魔人カミーラの侵攻未遂といろいろとゴタついているのに加え、2級市民と1級市民の対立がもはや修復不可能な分断を生んでいる……まあ、初級学校出てるならそれくらいはわかるわよね」
「は、はい」
マリスの説明に、かなみは短く応える。学習の成果のおかげでなんとかついていけていた。
「ゼスは魔人の侵攻でも、革命でも、クーデターでも早晩、国として立ち行かなくなるわ。その際、リーザスとしていつでもしかるべく動けるよう、かなみには下調べをやってもらいたいの。侵攻に向けた詳細な地図もほしいし、初級学校と自習で身につけた地図作成術や、地理学を存分に発揮してちょうだい」
「はっ!」
思考を切り替えたかなみはリアの言葉に明瞭に返答した。身につけた知識が、いよいよ役に立つ。そうかなみは確信して疑わなかった。
―アダムの砦―
ゼスに潜入してから数ヶ月、かなみは経験を活かして地図を作成したり、強敵を打ち負かすなどそれなりの成果をあげていた。
しかし、リアやマリスからは発破がかけられており、かなみは遂にゼス炎軍の拠点でもあるリーザス国境に所在する、重要軍事基地・アダムの砦に潜入しようとしていた。ここに潜入して、現在の炎軍の規模や即時動員可能数、魔法兵と奴隷肉壁兵の構成比率などを探り当てるのが目的である。
作戦のはじめは成功をおさめ、かなみは指揮所に忍び込んで、炎軍のある程度の部隊規模の把握には成功していた。
『でも……。これじゃあ、たりない。サイアスって将軍の詳細情報と、直属兵を調べないと……』
炎の将軍、サイアス・クラウン。高級官僚の家にうまれながらわざわざ用意されたポストを蹴って軍人に成ったという変わり種の経歴を持つ。人当たりのよい好漢で、相当なイケメンであるという情報までかなみは得ていた。
かなみはサイアスの寝所にまで潜入が成功し、ここから飛び降りれば、重要な情報が得られると、確信を持っていた。
しかし、その刹那、かなみの背後に敵影が迫った。
『―――仕留め損なった!』
敵影には反応でき、忍者刀で反撃しようとしたものの、ギリギリの所で刀は風を切ってしまった。
敵は二度三度、かなみに迫り、これはなんとか回避したが、直感で相手のほうが技量が上と判断した。かなみは撤退を決断し、煙玉を用意する。
そしてそれを炸裂させようとしたとき、その隙をつかれてもう一人の敵に背後を取られてしまった。こうなってはもはや抵抗はできず、そのままかなみは手刀で気を失わされた。
『――リア……様……』
薄れゆく意識の中で浮かんだのは、自らの主君の期待にみちた表情であった。
―アダムの砦 尋問室―
「どこの回し者だ。いわんか!」
尋問官はかなみに対し、執拗な取り調べを続けていた。
かなみは黙秘を貫き、水をかけられようと、怒鳴られようと全く動じなかった。
―部屋の外―
「将軍。どうしましょうか……この女」
「何も被害はなかったんだろ?」
標的の炎将、サイアスはそう尋問官に言う。
「いや、書類は全て奪いましたし、確かにそうではありますが……」
「3日間も黙ってんじゃ、これ以上ウチで聞いたって意味はないよ。無駄に痛めつけないで、あとは二次的なお役所に投げておけ。拷問やら、過度な尋問は、ウチの領分じゃ、ないよ」
サイアスはそう言って、上着を肩にかけながら、悠々と別所に去っていった。
この判断により、かなみは女の子刑務所へ送られた。
ーナガールモール近郊 女の子刑務所ー
ゼス軍によって捕らえられたかなみは、女の子刑務所に放り込まれた。
女の子刑務所の尋問官は流石にプロで、かなみも相当にまいった。
そして、尋問官の表情から、明日はよりひどい仕打ちを受けるであろうことはかなみも感じ取っていた。
「これも……運命……なのかな」
捕らえられた以上、自分には悲惨な結末しか待っていない。迫りくる末期をひしひしと感じながら今日も房舎で過ごしていると、聞き覚えのある声がかなみの耳に入った。
かなみは思わず鉄格子の外を見た、そとには後頭部に大きなリボンをつけた、和服を着た綺麗な大和撫子を体現したような女性や、背の低い斧を持ち、卑屈なまでに追従している男、紺の髪をした眠たげな女の子。
そして、わたあめのようなピンクのもこもことした髪を持つ少女の隣に、かなみにとって最も会いたくない男であり、また深い因縁を持つ男が中心にいた。
男は、かなみの記憶と寸分たがわずに相変わらず粗暴で、粗野な態度で房舎を次々と見分していた。
自分のところへ回る時間が近づくにつれ、彼女の緊張が高まり、自身の心音が確かに高まるのを感じていた。
ー終ー
書いてたら思いの外ながくなってしまいました。
かなみちゃんでここまでかいたらウルザもやらなきゃ……