ランス短編・中編集   作:OTZ

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2月14日なので


バレンタイン(戦国Ver)

―茶屋のぶ―

 

「バレンタインですか?」

「そうなんです。この間久々に寺子屋に行ったら、同級生たちがそんなこと話してるのを聞いて」

 

 買い物帰りにシィルは茶屋のぶに立ち寄っていた。

 香は今度信長にチョコレートを渡すということで、それとなしにシィルが尋ねたところ帰ってきたのがこの答えである。

 

「普段お世話になってる人や、感謝してる人に、女性が男性に対して普段の思いを込めて作るんだそうですよ」

「へぇ~。そういう風習があるんですか。心温まる話ですね」

「元々は自由都市の方からはじまった風習で、最近になってJAPANに入ってきたみたいなんです」

 

 香はそう言うと、淹れたお茶を一口飲んだ。

 

「そういえば、ゼスでもここ数年聞くわね」

 

 茶屋に居合わせたマジックが話に入る。

 

「ゼスでもですか?」

「お陰様で、毎年親父宛に大量にチョコレートが来て扱いに困ってるのよ。処分に困るし布告を出しても全然聞きゃしないし」

「あちこちで征伐のミトとしてご活躍でいらっしゃいますから……、布告くらいでは送らない理由にはならないのでしょう」

 

 同じくマジックと共にくつろいでいたウルザが、少しだけ困った顔でそう応じた。

 

「発つ前に千鶴子へ、今度送ってきたら送り主を牢獄に入れておくようにとでも言えばよかったかしら」

「さすがにそれは過激すぎますよ」

 

 そんな話をしているとガサガサと、茂みから音がする。

 

「誰っ」

 

 マジックが茂みに向かって声をかけた。

 

「むっ。見つかってしまったか。ではしょうがない」

 

 と、同時に茂みから主が姿を見せる。

 

「がはははは! 俺様登場! どうだ。参ったか」

「はぁ……」

 

 マジックは呆れ返った顔で、長椅子に座り直した。身構えていたウルザも同様にして、注文していた饅頭を口にしている。

 

「わ。わー。びっくりしましたランス様」

 

 シィルはものすごい棒読みでそうランスに合わせたが、ランスはげんこつを食らわす。

 シィルは「ひんっ」と痛みに声をあげて、頭を擦っている。

 

「やめんか。白々しい」

「ランスさん……。流石に大人気ないです」

 

 見かねた香姫が苦言を呈した。

「これは躾だ。躾。俺様の華麗なるジャブに対して、理想的なリアクションをできるかのテストなのだ」

 

 そういってランスはまた笑った。

 

「シィルさんにそんなの身に付けさせてどうするっていうのよ。漫才でもはじめる気?」

「俺様の奴隷の必須条件だ。どうするという問題ではないのだ」

 

 ランスはさも当然かのように胸を張る。

 

「それよりも聞いたぞ。あの野郎、そんなにチョコを受け取って貰ってやがんのか」

「何盗み聞きしてんのよ……。それがなんだっていうの」

「なぜ俺様には一個もないんだ?」

「は?」

 

 マジックはキョトンと、当惑した表情を見せる。

 

「ランスさん……。もしかして妬いているんですか?」

 

 饅頭を食べ終わったウルザが、ランスに尋ねる。

 

「俺様はこんなに女の子に親切かつ、紳士的に振る舞っているというのに、そんなもの一個ももらったことがない。そんなの不公平ではないか。世界の摂理に反している!」

「呆れた。本当にバカなのね」

 

 通りがかった志津香が蔑んだ声色で毒づく。

 

「む。志津香までそんなことを言うのか。この前あれほど情熱的に」

「何の話よ。香ちゃん、栗ようかんお願いするわ」

「は、はい。ただいま」

 

 香は注文を受けると、すぐに奥へ戻っていく。

 

「よし、俺は決めたぞ」

 

 この場に居た女性全員、どうせろくでもないことを思いついたなと痛感した。

 

「バレンタインまでに、俺様に仕える女武将どもは全員、チョコを作れ!」

「はぁ……」

 

 魔導書を開いた志津香はやっぱりかと言わんばかりにため息をついた。

 

「な、なんでそうなるのよ! 私達これでも、遊びに来てるんじゃないのよ」

 

 マジックが食って掛かった。

 

「ほー。マジックは俺様が、ゼスを救った事感謝してないのか?」

「何言ってるのよ。元はと言えばランスが、マナバッテリー壊したのが原因なんでしょうが! ウルザから聞いてるんだからねっ!」

「ちっ。ウルザちゃんめ、余計なことを……」

 

 ランスはどこ吹く風でお茶を飲んでいるウルザを恨めしげに見る。

 

「事実ですから」

 

 ウルザは笑みを浮かべながら、きっぱりと答えた。

 

「じゃあそれとも何か、自信がないのか?」

「べ、別にそういうわけじゃ」

「ほー、俺様の妻になるとか言っときながら、チョコ一つ作れんのか? 俺の奴隷ですら何品かデザートそこそこ作れるんだぞ」

 

 引き合いに出された、シィルは少しだけ嬉しそうな顔をした。

 

「あんたいつもはシィルちゃんが作ってくれるものに、難癖ばっかりつけてるじゃない」

 

 魔導書を読みながら志津香は鋭い指摘を行った。

 ランスは少しだけしまったと言わんばかりの表情をした後、

 

「うるさい。とにかく俺様の妻になりたいならチョコの一つくらい、作れんでどーするって話をだな」

「ランスさん。冷や汗でてますよ……」

「ちょっと突っ込まれたからってそうやって大声でごまかすの。ほんっとサイテーね」

 

 ウルザや志津香の指摘によりヒートアップしそうになったランスだったが

 

「いいんじゃないですか? ランスさんにチョコレート贈るのも」

 

 と、奥から栗ようかんと煎茶を持ってきた香が間に入る。

 

「香様まで何を」

「そうですね。ランスさんとは色々ありましたけど、感謝してる事もたくさんありますし」

 

 ウルザは満更でもない様子であった。

 

「がはははは、そうだろそうだろ。さすが、物わかりがいい」

 

 ランスは満足げにうんうんとうなずく。

 

「うう……ウルザまでそんなこというの?」

「マジック様も、なんだかんだ言ってもランスさんに感謝の気持ちがないわけではありませんよね?」

「ま、まぁ。それは、そうなんだけど……」

 

 ウルザに諭される形で、マジックもチョコ作りに賛同することになった。

 

「はぁ……。私、帰るわ。ごちそうさま」

「あ、はい。ありがとうございました」

 

 ようかんをいつの間に食べ終わっていた志津香は、代金を置いてその場から立ち去ろうとする。

 

「おい待て志津香」

「ラガールの件だったら、もうお返しは十分したわ」

 

 そう先手を打って、志津香はスタスタと立ち去っていく。

 

「ぐぎぎ……くそお。志津香の奴。今度100発くらいバックで犯してやる」

 

 有無を言わさない志津香の態度に、押し留めるタイミングを失うランスであった。

 

「ランス様……」

「なんだシィル」

「そ、その私はどうなのでしょうか?」

 

 シィルは勇気を出したかのような声色で尋ねる。

 

「あ? うーん。まあお前の菓子は食い慣れてるし別にどっちでもいいぞ」

「あ……。そうでしたか」

 

 シィルは複雑な表情でランスの言葉を受け止めていた。

 

「何よそれ。結局違う女の子の作ったお菓子食べたいだけなんじゃないの?」

「まあ別にそれはそれで、良いのではないですか。色好みのランスさんらしいといえば、らしいです」

 

 というわけでその日のうちに、ランスに仕えている女武将全員に知らせが行き渡り、2月14日に向けてお菓子作りが行われた。

 

―2月14日 ランス屋敷―

 

「で、結局俺様にもってきたのはこれだけか」

 

 ランス屋敷には茶屋で最後まで居た3人に加えて、鈴女とリズナだけがチョコレートを作ってきていた。

 机を囲んでランスとシィルたち7人が座っている。

 

「仕方ありませんよ。ただでさえ突然だったのに加えて、各方面に出陣していて間に合わない人も多かったわけですから」

 

 香がそうフォローする。

 

「そうそう。ランスはいつも突然で困るでござる」

「ちっ……。感謝の念が足りん奴らだ。リズナちゃんや鈴女はこうして作ってきてくれたのに」

「たまたま暇だったから、作っただけでござる。それに……」

 

 鈴女は何か企んでいるのか、ランスに見えないようにくくくと笑った。

 

「私はその……。ランスさんには色々と、お世話になりましたから、こんなちょうどよい慣習があるなら、いい機会と思って」

「あれ? リズナちゃんは知らなかったのか?」

 

 ランスは意外そうに尋ねる。

 

「ええ。私は飛ばされたときにはまだそういうの、なかったと思いますし……」

 

 リズナはいつものとおり、おっとりとした声色で返した。

 

「ふーん。そうか」

「ランス様。お茶も入りましたし、みなさんのチョコレートを召し上がりませんか?」

 

 シィルは人数分の紅茶を淹れ終わった後、そう提案した。

 

「そうだな。うーんどれどれ……」

 

 ランスはまず一番近かったリズナの包みを取り、そのまま開封する。

 

「なんだこれは……、はにわ型のチョコレートか?」

 

 皿にあけるとハニーと思しき色とりどりの形をしたチョコレートがパラパラと出てきた。

 ブラック、ブルー、グリーン、レッド、ゴールデンハニーのチョコレートがそれぞれ5×2組入っている。ご丁寧に武器まできちんと持っている。

 

「はい。型を作るのが結構たいへんでした」

「ふーむ……。きれいに出来てはいるが……ブラックはともかく他はあんまり食欲そそられん色だな。というか、なんで一番チョコに近い普通のハニワはいれてないんだ??」

「……なんででしょう? あ、ハニワさんの着色が結構楽しくてつい……」

 

 リズナは申し訳無さそうに頭を下げた。そんな言い訳を聞きながら、ランスはブラックハニー型チョコをひょいと掴んで口に淹れた。

 

「うん。だが味は悪くないな。うまいうまい」

 

 ランスはポリポリとブラックハニーを噛み砕いていった。

 

「それは、本当に良かったです……。あ、みなさんもよければ」

 

 といって、皿を指して食べるのを勧めた。

 

「本当ですね。おいしいですこれ。硬さもちょうどいいですし」

 

 香はレッドハニー型チョコを食して賞した。

 

「ういうい。迷宮探索でハニーを倒していったのを思い出す、良い味でござるなぁ」

 

 鈴女はブルーハニー型チョコを食べながらそう感想を言った。

 

「よし。じゃあ次はウルザちゃんとマジックのを食ってやるか」

 

 そういって今度は2つ、包みを取った。

 

「やるかって何よ、これでも一生懸命」

「まあまあ」

 

 怒りかけていたマジックを、ウルザがなだめるのを横目に、包を開けた。

 

「おーこれはうまそうなチョコクッキーだ」

 

 2つ目と3つ目の皿にあけると、オーソドックスなチョコチップの入ったクッキーが音を立てて姿を現した。

 

「そ、そうでしょう? 私だって結構うまいんだから」

「ん……? というかこれ……」

 

 ランスは2枚目の皿と3枚目の皿に開けられているクッキーを見比べている。

 

「おいこれ……ほぼ同じものじゃないか。どういうことだマジック」

「な、なんで私に聞くのよ」

「ウルザちゃんはそういうごまかししないからな」

「ぐっ……」

「だから言ったじゃないですか。ランスさん、野獣的な本能でこういうのは聡いんですからね」

 

 ウルザはあっさりと真相を告白した。

 

「うん……そうそう。って、野獣的ってなんだ」

「わ、私はただみんなに負けたくないと思って……」

 

 マジックはギュッとスカートの裾を掴んだ。

 

「まぁ、素人がいきなりチョコレートケーキ作るのは難しいでござるよ」

「えっ、鈴女さん、見てたの!?」

「にょほほ。敵情視察でござる。いくら、間に合わないそうにないからといって、ウルザに泣きついてもダメでござるよ」

 

 鈴女は楽しそうに笑いながら言う。ウルザは苦笑いをし、しばらくマジックは恥に堪えていた。

 

「てことはこのクッキーはウルザちゃんが作ったのか」

「はい。そうです」

「なんというか……意外だ。箱入り娘のイメージ結構あったから」

 

 ランスは予想以上にまともなクッキーを見て、思わずそう漏らした。

 

「フフ。これでもいちご摘みを小さい頃から好きでやってて、お菓子作りもその延長でやってたんです。戦闘に出るまでは、キムチの孤児院で料理の手伝いもよくしてましたし」

「くっ……。ほんと隙がないわね。ウルザ」

「いやいや、そんなウルザちゃんも、俺様とする時は案外とろ」

「ランスさん?」

 

 ウルザはにっこりと笑いながら、力強い拳を作った。

 

「さ、さーて食うか食うか……、うん、見た目通りうまいうまい」

 

 その場しのぎではなく、本音としてウルザのクッキーを美味しくいただいたランスである。

 

――

 

「うむ。香ちゃんのガトーショコラも美味かったぞ」

 

 あれから全員で香のガトーショコラを食べ終わり、最後に鈴女のつくったチョコを食べる段になっていた。

 

「ありがとうございます。10時間かけて作った甲斐がありました」

 

 香は心の底から嬉しそうに微笑んだ。ちなみに信長の分とは別個。

 

「そんなにか……。まああんだけ細工にこってればそんくらいかかるわな。じゃ、最後に鈴女か」

 

 鈴女の包を取り、皿にあけると、コロコロとボール状のチョコレートが7個ほど出てきた。

 

「まんまるだな……。逆にここまで丸くするの結構手間なんじゃないか?」

「忍者は兵糧丸づくりも必須技術の一つなのでござる、だから、丸く作るのもお手の物でござるよ。にんにん」

 

 鈴女はちょっと偉そうに息をついた。

 

「ささ、みんなも手にとって食べるといいでござるよ」

 

 鈴女は食べるのを勧めて、それぞれ次々に手を取り、口に入れた。

 

「ん! なかに何か入ってます……」

 

 香は丁寧に中身の異物を取り出した。

 

「小吉……、ラッキーカラー緑」

「ほほう。香姫様は今年そこそこの運にめぐまれるでござるな」

「緑といえば俺様だな! 香ちゃんは俺様の近くにいれば運気アップってわけだ。がははは」

「そう……。そうですね」

 

 香はランスを見ながら少しだけ微笑んだ。

 他の面々も次々と結果が出て、それぞれの反応を見せていた。

 ランスはそんな様子を見つつ、そろそろ食うかと口に入れた瞬間

 

「!!……、に、、、にっがーーーー!!!」

 

 ランスは下に強烈な苦みを覚え、悶絶する。

 

「あーランスがそれ引いちゃったでござるか」

「ランス様! チョコですチョコ!!」

 

 シィルは大急ぎで残っていた他の面々の菓子を食べさせ、舌を中和させにかかる。

 

「す、鈴女、テメェ、は、はかったな!」

 

 おみくじの中身には大吉、ラッキーカラーピンクと書かれている。

 

「おい! こ、これのどこが、大吉だ!!」

 

 菓子をいくつか食べて、ようやく少し落ち着いたランスが、鈴女に抗議した。

 

「これは甘さに応じて、反比例するように結果がわかれているのでござる。激苦チョコをひいたランスは今苦しんだ分、大吉ということでござるなぁ」

「うるさい、言われんでも俺様は大吉男だ! 後で覚えとけよ……」

「ういうい。ランスの珍しい顔芸が見れたから満足でござるよ」

 

 鈴女は満たされた表情で、ランスの苦しむ様を見ていた。

 

「私達はなんともありません……よね?」

「ええ。ほどほどにほろ苦く甘いおいしいチョコレートでしたよ」

 

 ウルザと香がそう話していると

 

「当然でござる。ランスの食べた一個のボールにしか、にがにがは入れてないでござるよ」

「ああ……本当に運が悪かったんですね。ランスさん、お気の毒に」

 

 リズナがそうランスをいたわっていると、

 

「だから、大吉でござるよ」

 

 鈴女は敢えて念押しした。ランスは中和されきってないのか、未だに悶絶した表情でこらえている。クビを手に掛け、目は泳ぎまくり、足もなにもかもおもしろいポーズをしている。

 

「まあしかし……。このリアクションは確かにある意味大吉かも」

「こらー! マジック! ひ、人ごとみたいに、ニヤニヤしながらいってんじゃねー!」

「まあ。良薬口に苦しといいますし、たまにはいい薬ですね」

 

 ウルザは同情の視線を送りつつも、紅茶を飲みながらそう締くくった。

 

「そ、そんな……ウルザちゃんまで……がくっ」

 

 ランスはこれから1,2分ほど苦みと闘い続け、ようやくおさまった

 

――

 

「ふう……。しかしあれだな。なんというか……」

 

 全て食べ終えたランスは少し考えていた。

 

「これ、俺様に感謝を捧げるっていうか、みんなでチョコの菓子食べるパーティーになってないか?」

「まあそれでも、いいじゃないですか。皆さんのお菓子おいしかったですし」

 

 香含め、満足した様子でこの会はお開きになった。

 

―夕方―

 

 会を終えると、シィルはいつものとおり、夕飯の買い出しにでかけ、材料を揃えた。

 

(結局……、渡せなかったな)

 

 シィルは買い物かごに入ったままの、こっそり織田城の厨房を借りて作った、ランスへのチョコレートを、バツの悪そうに見ている。

 そうしていると、聞き覚えのある声がシィルの耳に響いた。

 

「シィルおねーちゃーん!」

「あ、美樹ちゃん! 健太郎さんも……」

 

 美樹と健太郎に居合わせ、シィルは二人に近づいた。

 

「どうも、もうこんばんわ……ですか?」

「カラスが鳴いてるから夕方だよ。健太郎くん」

「ああ、そうだね。こんばんわ」

 

 二人はいつも通りの様子であった。

 

「お二人は今、帰ってこられたんですか?」

「はい。ちょうどさっきまで大和やMAZOなどで美樹ちゃん連れて大冒険してきました」

 

 健太郎は少し誇らしげである。確かにシィルの記憶の中でも前より少しだけつよくなったような、そんな所感があった。

 

「まあ。それはお疲れ様でした」

「健太郎君もうすっごく強くなったんだよ! ランスおじさんと戦ってもきっと負けないくらい」

「まあ、それはそれは。本当に頼りになるわね」

 

 半分美樹の恋人贔屓であろうことはわかっていても、そればかりでないことはシィルはきちんと理解していた。

 

「あれ。おねーちゃんもしかしてその籠に入ってるの……」

「これ?」

 

 そう言ってシィルは包を取り出した。

 

「もしかして、チョコレート?」

「そう。よくわかった……あ、通達がいってますよね?」

「いやぁ。僕達には何も届いてないですねー。なにせ二人旅で放浪してるようなものですし」

 

 健太郎はそう説明した。どうやら美樹は健太郎とワンセットだから漏れたのだろうとシィルは理解する。

 

「あ、そうなんですか……」

「今日はね。バレンタインデーなんだよ! 私も健太郎くんにあげたかったけど、作る環境がないから……。いいなぁシィルお姉ちゃんは作れて」

「そう……。美樹ちゃんも健太郎くんには色々お世話になってるものね」

「え? 違うよ? 違わなくもないけど、それよりもね……」

 

 美樹はシィルに対して何を言ってるんだろうとでも言いたげな表情を見せる。

 

「え?」

「こっちの世界では違うのかもしれないけど、私達がいた世界では、バレンタインデーは女の子が好きな男の子にチョコをあげる日になってるの! だから……ね?」

「えぇっ!?」

 

 シィルはまさかのことに大いに驚愕した。世界が違うだけでこんなにも意味が違うのかとシィルは大いに痛感する。

 

「だからシィルおねえちゃんは。ランスおじさんにあげるのかなって思ったんだけど……。違うの?」

「えっ。いや……あのその」

 

 シィルは思考を整理するのに時間がかかったが、30秒ほどしてようやくおちついた。

 

「う、ううん。違わないわ。これは、……、ランス様にあげようと思って作ったチョコなの」

 

 意味合いが感謝でも、恋情でも、シィルにとっては大した違いではなかった。

 

「あ、そうなんだ……。それじゃあ、上手く渡せるよう、応援するね!」

 

 美樹の激励を受けた後、1分程で二人と別れた。

 

―夜 ランス屋敷―

 

 夕食が終わり、シィルは繕いものを、ランスはエロ本を読んでいた。

 シィルはチョコレートを渡せずにいる。

 

「ほう。ここでガンガン責めていくか……この作家よく分かっているな」

 

 ランスは週刊連載のエロ漫画を読みながら、ふんふんとうなずいてそう称賛していた。

 シィルは繕いものであるランスの靴下を縫い合わせながら、渡すタイミングをずっと伺っている。

 

「ラ、ランス様。お話が」

「おいシィル、今夜はこの体位でやるぞ。いいな?」

 

 といいながらランスはエロ本のページをシィルに見せつけた。

 

「ひゃあ! こ、こんなの無理ですよぉ。足がもちません」

「うるさい。やるんだ。で、話ってなんだ」

 

 ランスはエロ本を、小脇に抱えて、話を聞く体制になる。

 シィルは案外素直に聞いてくれた事を感謝しながら、買い物かごに入れっぱなしであった包を取り出す。

 

「ん? お前その包み……」

「ラ、ランス様! これ、私の気持ちです。受け取って……ください」

 

 シィルは全身真っ赤になりながら、包を突き出した。

 

「なんだお前、渡したきゃさっきの時に出しゃよかったろ」

 

 ランスは何を今更とでも言いたげな表情で、シィルを見ていた。

 

「その……ちょっと出しそびれてしまって」

「たく……。まあいい、くれるってんなら貰ってやる」

 

 そう言ってランスはシィルの包を受け取った。

 

「だが、あの後、残りも食っちまったし、それでなくとも今日は散々甘いの食っちまったからな……。食うのは後でいいか?」

「は、はい。日持ちするお菓子なので数日くらいなら……」

「そか。それじゃあ」

 

 ランスは包を戸棚の上に置き、シィルの衣に手をかける。

 

「あっ。ランス様」

「がははは。時間を守らない罰だ! お仕置きしてやる」

 

 こうしてシィルは、ランスに今日は7発発散された。

 しかし、シィルにとってはたとえ本意が伝わらなくとも、自分の気持ちを込めて渡したプレゼントをランスに受け取ってもらえたのもあって、いつもより心地よくランスの責めを受けるのであった。

 

―終―

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