6Tなにも戦果を稼げず放置状態で、ランス城浮遊もしないまま迎えた想定です。
クリアC 人類滅亡(上)
―ランス城 参謀本部―
「報告、報告っ!!」
司令部に一人の伝令が入る。もう何度聞いたか知れない、敗報のしらせであろうと参謀の三人は覚悟した。
「リーザス城が魔軍の攻撃により陥落しました……!! リア女王は捕らえられ、侍女や従者たち含め数多くの人間が虜囚ないし、死亡しました」
リーザス青の軍の甲冑を着ている兵士は、沈痛な面持ちでそう報告した。
「もう……どうしようもないのね……」
リーザス城に置かれていた赤い兵棋が取り払われ、魔軍の色を示す黒い兵棋が置かれる。クリームはその顔を絶望に染めていた。
「まだ報告は終わっていません。それで、軍はどれほど残っているのですか」
ウルザはあくまで希望を持ちつつ、兵に軍の報告を求める。
「既にバレス総大将は討ち死にされ、リック将軍も、リーザス城に攻めかからんとする魔軍に奇襲を試みて……殺害されました。親衛隊も同じく戦闘の後捕らえられました。唯一白の軍だけはエクス将軍は存命で、遊撃として各地で転戦していますが……」
伝令の表情からして、その先は聞かなくとも明白であった。青の軍のコルドバは侵攻初期に砦を死守しながら討ち死にしている。
「そんな……バレス将軍が……」
自分の才能を認めてくれ、黒の軍の幹部にまで押し上げてくれたアールコートにとっては大きな恩人である。そんな人の訃報を知らされ、アールコートは立ち尽くすほか無かった。
「リーザス城内の黒軍本営まで敵が攻め寄せ、老体でありながら、最期まで敵を斬り伏せ、勇敢に散っていかれました」
「そうですか……。伝えてくれて、ありがとう……ございます」
アールコートはなんとか気を強く持ち、兵に礼を言う。
「それでは、もはや兵は全く残っていないのですか?」
ウルザはあくまで冷静に、続けて尋ねる。
「エクス将軍やキンケード将軍を筆頭に、スー殿やハウレーン殿、メナド副将などを幹部としてサウスを拠点に混成部隊を作る動きがあり、現在はそれらが抵抗の主軸となっています」
「それではまだ、残存の兵はいるということですね」
「全6軍全てからかき集めた、8000名ほどの寄せ集めですが……」
兵は首を縦に振った。
「ではそこに、ここより援軍を……」
ウルザはなんとか望みをつなげようと、援軍の話を持ち出すも
「待ってくださいウルザさん。聞いた限りですと、その混成部隊というのはもう魔軍に対して、主体的に攻勢をかけれるものではないと……、存じます」
「し、しかし。もはや世界全土にまともな軍はこの城に駐屯する部隊と、その部隊しかありません。せめてそれだけでも」
「ウルザさん……。気持ちは分かります。しかし、こうなった以上、今、私達に出来ることはCITYに兵を集中させて、一日でも長く魔軍に抵抗する体制をつくることだと思います」
クリームは言うのも辛そうな表情で、そう繋げた。
「私も、クリームさんに同じ……です。今は、おじさまと、同じく魔人を倒せる力を持つ、健太郎さんを守ることに全力を尽くすのが、良いと……思います」
「っ……。わかり……ました」
ウルザは2人の参謀の説得を受け、混成部隊を見捨てる決断を下した。
報告の礼を言い、三人はCITY死守計画の立案にかかる。
「今、CITYで防衛についているのはおよそ10万人。世界から選りすぐった精鋭ばかりとは言え、魔軍に対処するには数が不足しています。ですから防衛線を築き、できるだけ少ない損害で多くの敵を倒すことを念頭におくべきです」
アールコートがまず発言した。
「一応、あくまで草案ですが、配置図と要塞化計画の図式は昨日考えてみました」
クリームは机上に3枚の紙を置いた。手書きの走り書きでありいかにも草案であったが、CITYの要所要所を的確に把握し、人員や守将まで書き込まれた緻密な計画であった。
「よくできていると思います……。しかし、やはり、人員が足りませんね」
ウルザは数字を何度も修正している箇所を見て、そう痛感した。
「ええ。それが悩みの種で……。合流予定だったヘルマンとゼスの混合軍が到着前に壊滅させられたのが痛いですね」
ヘルマンおよびゼスは滅亡後、残存兵力をCITYに移動する手筈になっており、合流までは果たしたものの、CITYへ向かう道中で襲撃に遭遇し、大半が戦死した。
「今回のリーザス陥落を受け、尚更兵も動揺するでしょう。脱走も危惧しなければなりませんね」
それから2時間程、指揮官級も交えて議論が続けられ、CITY防衛計画案が完成した。これを総統に説明し、承認をもらうことで作戦が始動する。
「ふう……。さて、総統に報告せねばなりませんね」
普段からランスへの報告はウルザが行っていたが、今回ほど辛い思いをしてやらねばならないことはなかった。見るからに気疲れしており、立っているのがやっとなほどである。
「だ、大丈夫ですか? 私が代わりに報告に……」
クリームが気遣って交代を申し出るが、ウルザは首を横に振り
「お気遣いありがとうございます。しかし……、ここは一番付き合いの長い私が適任でしょうから」
そう言ってウルザはランスのいる所へ向かった。
―ランス城 廊下―
この時点までに死傷者は大いに嵩み、CITYにある教会や治療所だけでは足りず、ランス城内にもランスをどうにか説得して1階に野戦病院を作った影響で、城内にも軍務の他に傷痍軍人が多く行き来することになった。
―もう。だめだろうこれは……―
―俺達は一体、何のために戦ってるんだ……―
―限界だわ。もうなんでもいいから早くおわって―
「……」
ウルザがランスのところにたどり着くまでにもそんな、悲観的な声がいやでも耳に入った。当初は逐次見つけては激励を送っていたが、もはやこの頃にはそんな余裕も彼女にはなくなっている。
―6階 ランスの部屋―
「ランス……総統」
「おお。ウルザちゃんか。ここ最近司令部に詰めっぱなしだったが」
玉座に座るランスは、そんな戦況など知らぬような、いつもの陽気な顔を見せていたが、ウルザは強張った表情のまま、言葉を繋げる。
「リーザス城が陥落したという知らせが入りました。バレス将軍、リック将軍が戦死したのに加え。リア女王は……、捕らえられました」
その言葉にランスの顔が一気に笑みを失った。
「な、なんだ、と……。前にウルザちゃんやアールコートちゃんが言ってた話だと、まだもう少し持つだろうって」
「魔軍の攻勢が……、予想を上回る規模で激しく、想定よりも早期にこの結果に至りました」
「ぐむ……そうか。それで、今リーザスはどうなっているんだ」
ランスは重い口調で尋ねる。
「まだ魔軍の支配下に入っていない南部の街でエクス将軍を筆頭に、抵抗を試みていますが最早、時間稼ぎになるかどうかも怪しい情勢です」
「分かった。それで、他にはなんだ? 戦況報告の為だけにここまで来たわけじゃないんだろう?」
ウルザがここに来る時はなんらかの作戦の承認や他のことの提案なり、別の要件を持ってのことである。さすがのランスもここでセックスは持ち出さなかった。
「率直に申し上げます。総統……、限界です。リーザス、ヘルマン、ゼス、自由都市、JAPAN……。全ての国が陥落し、人類の魔軍に対する広域・組織的な抵抗力はほぼ喪失されました。私達の保持する補給路や兵站の計画も含め、要所や各戦線の維持が不可能になりました」
ウルザは時々顔を伏せながら、余りにも悲惨な現実をランスに告げた。
「だ、だが待て。俺様が今から一発逆転のハイパーな大作戦をだな」
「それを実行するだけの力が……、もはや人類には……」
「………!!」
ランスは今までにないほど顔を強張らせ、瞳孔を大きく収縮させた。
30秒ほどランスは思考し、
「だ、だが俺様は諦めんぞ。この城を、俺の女を魔軍どもにくれてなるものか」
ランスはあくまでも抵抗の意思を見せる。
「そう仰せになると思い、既に作戦は準備しました。説明しますので、よくお聞きください」
ウルザは先程まで参謀本部でなんとか立案した計画を、ランスに説明する。
作戦の内容だけは立派なもので、その通り実行されれば一定程度魔軍を押し留めることは可能そうなものであった。
「話は分かった。だが、準備する時間はあるのか?」
「元首が捕らえられ、首都も占拠されたとはいえ、各地では抵抗が続いております。その鎮圧や、そもそもの……その、魔軍の統治政策に人員が割かれているのもあり、CITYへ本格的に攻勢へかかるのは今しばらくの猶予は得られると思います」
ウルザの言うことは事実で、人類軍本部の支援は得られずとも未だ各国では死に物狂いの抵抗運動が継続しており、その掃討に今の魔軍は比重がかけられていた。
「そうか……。だが、もう勝つため、克服するための戦いではないのだな」
「……」
ウルザはランスの問いに黙して頷く他なかった。もはやこれは迫りくる破滅を1分1秒でも先延ばしにするための作戦でしか無い。
「それと、リーザス城陥落とそれに付随する攻勢で最早追加の物資や補給は外部からは望めません……。作戦実行のためにはこれからは総統ご自身にも、倹約をしていただくことになると思います」
「うっ……。もうそれほど厳しいのか」
「元々一週間ほど前に、自由都市地帯がほぼ制圧された時点で厳しかったのですが……、いよいよそれが危機的な状況になったというのが正直なところです」
ただでさえ兵士に加えて非戦闘員の市民や、後方要員、傷病人の為に毎日莫大な量の食糧や生活必需品、医療物資などが消費されている。最初にゼスが陥落した時点でこうなることも見越して、従前よりCITYへ軍需物資などを集中させていたが、数十万人規模の人間がこれから何日も補給無しで暮らすとなれば倹約は必然である。
CITY内部でも既に農業の試みはされていたが、人数に対しては焼け石に水で、戦況の悪化で治安も悪化し、収穫物が盗まれる有り様であった。
「わかった。だったら全員を戦わせろ」
「はい?」
「かわいい子は別として、タダ飯ぐらいはCITYから追い出す! この街にいる全員を戦わせ、相応のギムというものを果たさせるのだ」
ランスの言うことは的を射たものであったが、当然そのことはウルザも考えていた。
「他の街はいざしらず、今この街にいるのは、世界でも選りすぐりの優秀な兵たちばかりです。民間人を戦闘に参加させると、かえって混乱のもとになるかと思います」
「えーいうるさい。タダ飯ぐらいの為になんで俺様まで我慢せにゃならんのだ。総統命令だ。市内にいるジジイババア、ガキ、役立たずの兵どもはとっとと荷物をまとめて出て行かせろ!」
ランスは気色ばんだ顔で、ウルザにそう命じる。こうなると逆らったところで聞く男でないことは分かっているので
「……。了解しました」
と返す他なかった。こうして作戦は承認され、この日からCITYは最終戦に向けて動き出すこととなる。
―廊下―
ランスから承認を貰ったウルザは作戦書を抱えて、参謀本部に戻ろうとしていた。
すると、階下から聞き覚えのある声がする。
「おい! 何をやっているんだ」
「ちっ……」
ランス城騎士団長のサーナキアが、食料庫から糧秣をくすねている兵を見咎めている。
ウルザはとりあえず物陰から、様子を見守ることにした。
「君は食糧担当の人間ではないだろう。なぜこんなところをうろついている」
兵士はヘルマンの装甲兵の装具を身に着けている。腹部を怪我していたようで、包帯が巻かれていた。食糧を担当する炊事の人間はそもそも武装などしないので、サーナキアでも容易に見分けられた。
「ちょ。ちょっとトイレ行ったついでに」
「そもそも男の傷病兵は1階以外の出入りは禁じているはずだ。その背中の背嚢を見るに、貴様、食糧を盗んでいたな」
「う。うるせー! 見られちまったからには生かしておけん!」
兵士はヤケクソになってサーナキアに襲いかかる。得物の槍を持ち、サーナキアに思い切りつきかかった。
「ほう。この騎士団長の僕に喧嘩を得るというのか。面白い。やってやろうじゃないか」
すんでのところで避けたサーナキアも剣を抜き、兵と対峙する。
「うおおおおっ!」
サーナキアは勢い良く突進し、兵に斬り掛かったが、あっさりと避けられてしまう。
「何が騎士団長だ。背中ががら空きだ」
と、槍を改めてサーナキアの背に突き刺そうとする。サーナキアは避けようと試みるも、間に合いそうになかった。
「しっ……!」
流石にみかねたウルザは、ショートソードを抜き、一気に詰め寄って小柄で思い切り兵の横腹を叩く。
兵は堪らず横転し、その勢いのまま壁に打ち付けた。
「ウ……、ウルザ。なんでここに」
「たまたまです」
ウルザは短くそう答えると、兵に切っ先を差し向ける。
「失せなさい」
ウルザは冷たく、怒りをたたえた声で兵にそう言った。敵わないと見た兵は背嚢を捨てて、そのままトボトボと城の1階へ消えていく。
「うっ……」
ウルザの挙動に恐怖心でも持ったのか、サーナキアはたじろいだ。兵が消えるのを確認すると、一息ついて剣を鞘におさめた。
「久々に接近戦をすると、やはり疲れますね」
ウルザは軽く微笑みながら、サーナキアにそう言った。
「ど、どうもありがとう。助かった。でも、あの程度僕にだって……!」
「万が一でもサーナキアさんになにかあったら、総統に怒られてしまいますから」
「そんな! ランスの事なんか別に」
「まあまあ」
と、ウルザは様子を窺っていた場所に作戦書を置きっぱなしなのを思い出し、取りに戻った。
「ウルザ、それって」
「ただの作戦書ですよ。気にしないでください」
しかし、ウルザの表情は明らかに取り繕ったものであり、ただの作戦書であるようには見えなかった。
「やはり戦況は……」
城内とその周囲でしか活動しないサーナキアでも、日々増える死傷者や漏れ聞こえる声より、人類軍の敗勢は嫌でも自覚していた。
「覚悟はしておいてください。少なくとも、そのままの技量では足らないですよ」
ごまかしても仕方がないと思ったのか、ウルザは冷静に現実を伝えた。
「分かった……。騎士の誇りにかけて、来たるべき魔軍に備える。あいつには一応騎士団長にしてもらった借りもあるしな」
そういうとサーナキアは姿勢を正し、きりりと口を真一文字に結んだ。
「団長~。トイレ長いすよ。このままだとウチらがぜーんぶ、超巨大へんでろぱ食っちまいますよ」
長い中座に業を煮やしたのか、副団長のクルーチェがだるそうな口調でサーナキアに呼びかけた。
「ああ。今行く」
サーナキアはウルザに軽く頭を下げた後、クルーチェの所へ向かった。
「そうね……。後ろ向きにばかり考えても、仕方ないわ」
ウルザは誰も居ない廊下で一人呟き、参謀本部へ歩みを進める。
―つづく―