ランスが大陸に戻って数ヶ月経ったころ。
香姫は寺子屋からの卒業の日を迎えようとしていた。
ー織田城 奥書院ー
「この学び舎で学んだことを、忘れずに……んー」
香姫は長い時間紙と格闘していた。総代として答辞を読むことを任せられ、その内容をずっと考えている。
文机の上や、屑籠には何枚もの書き損じの紙が捨てられており、墨の匂いをかすかに漂わせながら、香は強く筆を握り、力強く書き進めていた。
「姫様、そこまで悩まれずとも、そのようなことなど、祐筆に任せればよい事ですぞ」
「左様左様。寺子屋など通過点に過ぎませぬ」
家老の3Gはそう進言したが、香は首を横に振る。
「ううん。自分で考えたいの。あまり登校はできなかったけど、それでも思い出はいっぱいあるから」
寺子屋で過ごした時間は短かったものの、それでもその思い出が彼女の中では珠玉のように連なっており、あふれる思いが頭の中を占め、文章をまとまらせなかった。
「しかし……」
「まあまあ真ん中の。姫様とて、忙しい合間を縫って行事などには積極的に参加しておったからの」
左の3Gが、真ん中のをそう言って宥める。
「学友と過ごした日々は少なくとも、だからこそ印象に残ることもあろうて」
今度は右の3Gが香に賛同する。
「そう。だから自分の言葉で、形にしていきたいの」
香は硯で墨を磨きながら言う。それには寺子屋で過ごした六年間の思いが籠もっていた。
「しかしこうも連日、政務の終わった夜半に費やしていては、お体に障りますぞ」
「だって中々これといったものが出来ないから」
それが香の難題であった。時間の制約内で如何に自分の言いたいことを凝縮させるかで四苦八苦している。それだけ彼女にとっての6年、とりわけランスがやってきてからの最後の1年は濃度のあるものであった。
「でしたら、他の方々にも内容を相談してみるというのはいかがですかな?」
「3G以外にもってこと?」
「左様。儂以外の者たちからみた香様というのもあるでしょうからな」
「それはなかなか良い案ね……。そうしてみようかしら」
香は頬を緩ませてそれを受け入れ、満足気に更に筆を進める。
「姫様? お休みになられるのでは」
「皆さんに見せる前に、まずは自分の案をまとめないと……」
3Gは一斉にため息をつく。結局香はいつも通り、丑の刻まで書き続けていた。
――
翌日、香は手の空いた時間を使ってとりあえず考えた草案を読ませてみることにした。
「おおおお! これが香様の書かれた答辞! なんと、なんと神々しいことか……!」
柴田勝家は深く感動しながら読み進めていった。目を潤ませ、食い入るように読み進めるその姿はまるで国宝でも愛でるかのようである。
「おい、感動してばかりじゃ姫様も困るだろう。他に言うことはないのか」
共に居た乱丸がべた褒めする勝家に冷静に突っ込む。彼女は腕を組み、半ばあきれたような視線を勝家に送るが、その口元はわずかに緩んでいた。
乱丸にとっても主君の思いと成長が克明に刻まれた答辞を、良いものだと確かに感じ取っているようだ。
「なにを言うか乱丸。姫様の書かれた言葉に一点の文句もつけようがなかろう」
勝家は一点の曇りもない眼でそう言い切る。
「それでは批評にならないだろう……」
「ははは……。あの、勝家さん、それほど褒めてくれるのは嬉しいのですが、特にどういった点が良かったのでしょうか?」
褒め殺しでもなにか汲み取れることはあるだろうとばかりに、香は勝家に尋ねる。
「そうですな。行事や、日々の級友たちとの交流をきちんと触れているのが感じ入りましたぞ。香様は寺子屋に行ける日数が少なかった分、胸を打たれ申した」
勝家なりにしっかりと読み込んでいたようである。
「そうですよね。やっぱりその点は大事だと思いますから、汲み取ってくれて嬉しいです」
「ううう……。姫様のお言葉で拙者も幸甚の至りですぞ」
勝家は嬉し泣きをしている。
「乱丸さんは、その、どうでしょうか」
「うむ。そうだな……」
乱丸は涙にくれる勝家から文書を受け取り、今一度目を通した。
「答辞は何分ほどの予定なのですか?」
「だいたい長くて20分程度です」
「だったら……、正直これは長すぎると思います。削れるところは削るべきではないかと」
乱丸は端的にそう評した。
「こら! 乱丸、何を言い出すのだ」
「いいんですよ勝家さん。それは私も気になってたところですし……。やはりこれでは20分じゃおさまりきりませんよね」
香はうんうんと頷きながらそれに同調する。
「では削るとするなら、どの箇所を?」
香は乱丸に視線を注ぐ。「そうですね……」と言いながら乱丸は文章を再検討する。
「ここの……、あの異人に関する記述などはもっと削ってもいいのではないですか?」
「あ……それは」
香もあまり意図していない事ではあったが、自然と文量がそこに割かれてしまっていた。
「乱丸よ、香様にとってランス殿はかけがえのない御仁だぞ。何故そのようなことを」
「あくまでこれは寺子屋のものだろう。直接関わりのないものにあまり割いては答辞としてどうなのだろうと思ってな」
「それは確かに、一理あると思いますが……」
乱丸に理があることは理解してはいるものの、香はどこか納得のいっていない表情である。
「まあしかし、これはあくまで私個人の所感に過ぎません。他の方にも尋ねてみては」
その表情を察してか、乱丸は文書を返しながら言う。
「そうですね……。分かりました。お二人共本当にありがとうございます」
そう言って香はいそいそと別の場所に向かっていった。
――
「――……」
五十六は城内の的場で矢を弓に番え、的を狙って引き絞っていた。
研ぎ澄まされた集中力と、長い経験に裏打ちされた正確な技術で、本日五度目になる矢で、またも見事に正鵠を撃ち抜く。
「ふう……」
射ち終えた五十六は息をつき、弓を下ろした。まだ乱義を産んで間もなく、しばらく休んでいた身にとってはそれなりに気力を消費するものであった。
そうしていると、香姫がお茶と菓子を持って縁側に来た。
「さすが、お見事ですね」
香の声を聞き、五十六が振り返った。
「これは香姫様! どうも、お恥ずかしいところを」
五十六は香姫を前に、片膝の姿勢で控える。
「まあ、そこまでかしこまらず、楽にしていてください。お茶でもどうですか?」
香姫は柔らかな声色で、五十六にすすめた。彼女は最初は遠慮していたが、香の言葉に従い、弓の稽古を中断して、外縁に腰を掛ける。
「お気遣い痛み入ります。それでは、いただきます」
五十六は盆の上にある茶を静かに飲み、一息ついた。香も相対するように座り、しばらくのどかな時間が流れていく。まだ肌寒いが、少しずつ春の足音が大きくなっていく弥生の時節らしい風景が広がっている。
「まだ乱義さんを産んで間もないというのに、少しもそんな風を感じさせませんね」
「そう思っていただけるのはありがたいですが、やはり将来の国母としてはまだまだ足りません。もっと精進しなければ」
五十六は言葉の端々に強い責任感を滲ませながら言う。
「まだまだ時間はありますし、あまり根を詰めないでくださいね。……。と、五十六さんに用があるんでした」
「何でしょうか? 私にできることならば、お手伝い致しますが」
お茶をもう一口飲んだ五十六は茶飲みを置いて尋ねる。
「今度、私が通っている寺子屋で卒業式を迎えるのですが、実は総代を任されまして」
「まあ。そうなのですか。おめでたいことですね」
五十六はにこやかな顔を浮かべて、香を祝した。
「ありがとうございます。それで、答辞を読み上げるんですけど、どうもその文案がまとまらなくて……、五十六さんに助言をお願いしたいんです」
香は懐から文書を取り出す。
「卒業式の答辞……ですか。生憎私はそういった大役を担ったことはないので、どこまでお役に立てるか」
「いえ。五十六さんにも考えて頂きたいんです。ランス兄様とも親交がありましたし」
香は真摯な態度で五十六に相対した。
そこまでいうならとばかりに五十六は香より文書を受け取り、目を通した。
「ど、どうでしょうか」
「このままでも十分良いとは思いますが……。強いて言えば、やや取り散らかってる印象があるので、もう少しまとめて書くのが良いと存じます」
「具体的にはどこの部分がそのように感じられますか?」
香は視線をじっと据え、ずいっと前のめりになって尋ねる。
「ええ、そうですね……。例えばですが、ここの運動会や学芸会、遠足などの行事について触れられている箇所ですけど、個々のエピソードは大変良くまとめられているのですが、全体の流れとしてはリズムを損ない、聞いている側は少々退屈に感じられるやもしれません。もう少し焦点を絞って深く話すのが良いと思います」
「そうですか……。学校行事は私にとっては数少ない思い出の一つなので、どうしても力が」
自覚があるのか香はばつの悪そうな様子でそう返した。
「それはお察しします、なかなか通える機がありませんでしたからね」
「でも、分かりました。そういうことならば、どう調整すれば良いでしょうか?」
香は気持ちを切り替えて尋ねる。
「それは……。すみません。そこは私も分かりかねてるところでして」
五十六は困ったような表情を浮かべて、香へ謝した。
「そうですか。うーん……」
そう二人が文書を挟んで向かい合っていると、朝倉義景が外縁にゆっくり歩きながら現れる。
二人を見つけると、義景が話しかけた。
「おや、ここで何の話し合いですかな?」
「これは、朝倉殿。おひさしぶりです」
五十六は義景に向かって小さく頭を下げる。
「朝倉さん。これはどうも……。あ、ポルトガルとの交渉の件ですか?」
現在JAPANでは自由都市地帯との親善を深めるべく、使節などを送っておりその取りまとめを義景が行っていた。そのため、時折織田城にも訪れている。
「そうですな。関税の件で少々行き違いがありましたが、なんとか上手く宥められました。香様の案に寄った方向で妥結されそうですぞ」
「そうですか……。それは何よりです」
香はほっと胸を撫で下ろした。
「いえいえ。香姫様のご人徳があってこそ。私はただ口先を滑らせたにすぎませぬ」
義景は少し笑みを作りながら言う。
「あ、それでなんですけど……、ちょっと朝倉さんにも見てもらいたいことがありまして」
「ほう、なんでしょうな」
香は、義景にこれまでの経緯を簡単に話す。
「という訳で、朝倉さんにも是非お知恵をと思いまして」
「良いですよ。とりあえず、読ませていただけますかな」
義景は香より文書を受け取り、時折相槌を打ちながら読み進めていった。
香はそれを少し緊張した面持ちで見守る。やがて、終端まで読んだところで義景は口を開く。
「なるほど。良い文案には思えますが、確かにこれはいささか長過ぎるように思いますな。答辞はそこまで時間が割かれるわけではないのでしょう?」
「そうですね……。これまでの人にもそれは指摘されて、どうまとめたものかと考えているところなんです」
香はお茶を飲みながら答えた。
「ふむ……。では、こうしてみてはいかがでしょうな? エピソードは特に香姫様の印象に残った行事に絞り、その他は簡潔にし、それらの出来事から汲み取ったことを一つにまとめてみるなど」
義景は文書を床に置き、エピソード部分を指で示しながらジェスチャーで意図を伝えた。
「特に印象に……ですか。しかし私にとっては甲乙つけ難くて」
「見る限りでは、特に林間学校の部分に割かれてるように見えるので、そこに絞るというのは?」
義景は穏やかな顔ながらも、諭すような口調で香に提言した。
「なるほど……。確かにそれは良い落とし所ですね。印象に残るということは、それだけ書けることがあるということですからね」
五十六は義景の意見に感心するように同意する。
「確かに言われてみればそうかもしれません。では林間学校の話を取り上げて、あとの行事は一言二言程度ということで」
「それが良いでしょう」
義景は大きく頬を緩ませ、頷きながらそれに同意した。
「あと、気になる点はランス殿との話ですな……。香姫様も関わり合いが深いので、気持ちは重々わかるのですが、それにしても少々割かれ過ぎで、あくまで寺子屋の卒業式というのを合わせ考えると、あまり適当ではないように思いますな」
「うぅ……。やはりそうでしょうか」
香は下を向いて落ち込んでしまった。それを見て、五十六が背中を撫でて、慰めている。
「ランス殿の活躍と、JAPANの統一から考えると決して寺子屋の衆にも無関係ではありませぬ。それ故、触れるなとは申しませぬが、ここは大きく調整すべきところかと」
「分かりました。ではどういう風に書けば良いでしょうか?」
「そうですな……」
義景は空を見上げながら暫し考え込む。数十秒経過して、ゆっくりと案を話し始める。
「ランス殿と香様との、個人的な話は脇に置き、あくまで異人との関わり合いと、その延長線上で話を組み立てるのです。『ランス殿という異人との出会いにより、私含め、ここにいる皆さんを取り巻く状況は、大きく変化しました。そしてそれは、私にとってはもちろん、一人ひとりにとっても大きな成長の一歩にもつながることです』……と、こういう筋ですすめるのはいかがか?」
「それは良い案ですね! 私にも、寺子屋の同級生たちにも伝わりそうです」
香は明るい表情で義景の提案を快く受け入れる。
その後、30分ほどかけて三人は草案を詰め、香は何をすべきか、どう書くべきかをかなりの程度にまでまとめあげる。
「お二人共本当にありがとうございました。これで大分、良いものが書けそうです」
香は二人に深々と頭を下げて礼を言った。
「香姫様ならばきっと、より良いものが仕上がりますぞ。生憎、これより国に戻るので仕上がったのが聞けぬのが残念だが……。それでも、総代として、国主として恥じぬ良きものになると期待しておりますぞ」
義景はニコニコと笑みを作って香に激励を送った。打てば響くかのように自分の指導を受け入れ、その意を得た答えが返ってくるので、義景は確信を深めたようである。
「私は香様の答辞、是非とも拝聴させて頂きたいですね。卒業式の日が楽しみです」
五十六も同じく笑みをうかべ、香に期待をかけた。
「ちょっとプレッシャーですけど……。応えられるよう、できる限り頑張ります! ありがとうございました」
香は意気揚々と、すっかりなくなったお茶と菓子を片付け、いそいそと台所へ向かう。
こうして、あれから数日をかけて答辞を完成させ、何度か練習しているうちに卒業式の日を迎える。
――
―卒業式当日 寺子屋前―
香は立派に総代としての務めを果たし、仕上げられた答辞は万雷の拍手を持って讃えられた。代行とはいえ、JAPAN国主の新たなる門出として、堂々たる態度で答辞を読み上げた香の姿は少なからず人々の印象に強く残った。
卒業証書を受け取り、級友たちとの別れを惜しんで敷地外にでると、まず3Gが駆け寄ってきた。
「姫様……! ご立派でございましたぞ」
3Gは3つの顔からいっぺんに涙を流して言う、
「ありがとう。3G。いつも見守ってくれたおかげよ」
「私も感動しました。よくあそこまで練り上げましたね」
五十六も同じく香姫を讚えた。
「ありがとうございます。練習にまで付き合っていただいた甲斐がありました」
香姫はにこやかに笑って答える。
「されど姫様、これからですぞ。まだ、国主として学ばねばならぬことは山程あります。国務の傍ら、しかと精進せねば」
「もちろん、その点も含めて今後も……」
そう言いかけたところで、香姫の視界に見覚えのある人影が写った。
「よう。香ちゃん、久しぶりだな」
その人物は、いつものように朗らかに笑い、プレートアーマーを基調とする大陸の鎧をつけて、香ににこやかに手のひらを見せていた。
「ラ……、ランス兄様!?」
「げぇ。こんな日になぜこの男が……」
香の驚きつつも、嬉しそうな顔と、3Gの嫌そうな顔がランスの眼に映った。
「何を言うか。たまたまJAPANに来たら今日は香ちゃんの卒業式って言うじゃないか。どれだけ育ったものか、見に来たが……」
ランスはじろじろと香の体を上から下まで眺める。
「うーん……。最後に見たときよりは育ってはいるが、まだ俺様のハイパー兵器にはまだちょいと足らんな」
「当たり前じゃわい! 香様はまだ赤飯すら……」
「もう、3Gは余計なこと言わないで」
香は慌てて初潮のことを口にしようとした3Gを止めようとした。
「ランスさん~~。置いてかないでくださいよぉ」
後ろから大きな盾を持った少女がとてとてとついてきていた。
「フン。俺様についてこれないのが悪い」
「だってだって、荷物全部私に押し付けてるじゃないですかあ。無理ですよぉ」
少女はランスの横にくるとふうと息をついて、膝に手をつく。
「あの……、ランス兄様? この方は」
「あ、どうもこんにちわ。私、サチコ・センターズって言います。ランスさんのその……」
「肉盾だ。あとついでに身の回りの世話をさせてる」
ランスはサチコの肩を抱きながら、胸を張って言う。サチコは肩を縮めて頷く。
「可愛らしいお嬢さんなのに……、どうしてそんなことに」
3Gは不憫な目をサチコに向けた。
「わっ……お顔が3つある」
サチコはあまりの異形に気を失いそうになる。
「わー! サチコさん。気を失わないでください。3Gはそういう妖怪なんです!」
「よ……妖怪。そうなんですね、わかりました。すみません3Gさん」
香の言葉で、どうにかサチコは気を取り持ち、3Gにぺこりと頭を下げた。
「いや。大陸から来た方ならばやむを得ますまい。気にせんでくだされ」
「全く、どんなに連れ回してもちょっとのことでこれだ、役に立たん」
ランスは呆れ気味の視線をサチコに向ける。
「見た所、ただの学生さん……ですよね?」
香はサチコの制服を見ながら言った。
「は、はい。イケラ第2応用学校の生徒です」
サチコは胸ポケットから生徒手帳を出し、身分証明のページを見せながら言う。
「わ……。これが生徒手帳ですか。なるほど」
香はまじまじと手帳を眺めている。
「もしよければ、手にとって見てみますか?」
「え。宜しいのですか?」
香は興味津々な顔を浮かべて言う。
「寺子屋って見た所、大陸で言う基礎学校みたいなところですよね……? じゃあこれからもらうことになるでしょうし、その予行っていうことで」
「あ、ありがとうございます。少しだけ、お借りしますね」
香は生徒手帳を受け取り、まるで大事なおもちゃを扱うように丁重に鑑賞しはじめた。
「すみませんなサチコさん。しかしまあどうして、このようなことに……」
3Gは改めて尋ねた。
「まあその……、色々ありまして」
サチコは力なく笑いながら、3Gに応じた。
「俺様がモンスターに襲われているところを助けてやり、処女をもらう約束と、それまで何でもするということで置いてやってるのだ。がははは」
「あー! もう! ランスさんってば、人がせっかく濁したところを、全部言わないでくださいー!!」
サチコはポカポカとランスを叩いた。
「ああ。またこの男の被害者が、増えてしもうたのか」
3Gは憐れみきった表情を浮かべながら、ため息をつく。
「ははは……。そうだ、せっかく皆さん集まったのですし、記念写真でもどうでしょうか? ちょうどカメラを、もって来ていますので」
そう言いながら、五十六は手提げ袋からポラロイド式のカメラを出す。
「おう、いいぞ、俺様が真ん中な」
「姫様の卒業記念の写真で、何故お主が真ん中なのじゃ!!」
そういうわけで、香姫たちは寺子屋の校舎をバックに一枚の写真を撮ることになった。
場所や立ち位置で色々すったもんだがあり、本当に中央に陣取ろうとしたランスを3Gや五十六がたしなめるなどの一幕を挟みながら、ようやく撮る準備が整う。
「ランス兄様」
「ん? なんだ香ちゃん」
中央に居る香姫を下に見ながら、ランスが答える。
香は何かを言おうとしたが、ランスの顔を改めて見ると、あまりにも多くの言葉が脳を支配し、暫し考えた後
「いいえ。なんでもありません」
と、満ち足りた笑顔になって、カメラの方向に向いた。
「ん……。そうか」
「それじゃあ撮りますよー! はい、ポーズ!」
サチコはポラロイドカメラを構えながら、シャッターに指をかける。
香は、この穏やかな時間が、いつまでも続きますようにと、静かに祈った。
―終―
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