―リーザス城 城下町―
「な、何!? でたらめだというのか?」
「たりめーだろ。お前がリーザスを守った英雄だと? んなこと誰が信じっかよ」
ランスはある日、キースギルドでの依頼を解決したついでに、リーザス城下まで足を伸ばしていた。
酒場で些細なことから口論となり、ランスが自身の功績を持ち出してひれ伏させようとしたところこのような反応が帰ってきたため驚愕していた。
「俺も。なんでもトーマを倒したとんでもねえバケモンが居たとは聞いたことがあっけど、もっと長身で色白だったって話だぞ。お前じゃねえよ」
別の冒険者も男に同調する、
「だからそれが俺様だっつってんだろうが! あのデカブツ倒したのは俺様なの!」
ランスは親指を自らに向けて功績を誇示した。
「わしは昔、ヘルマンと戦ったことがあるが、トーマは怪物じゃったぞ。お前さんには無理じゃわい」
白ひげをたくわえた年配の男が酒をあおりながら言う。
「ジジイの昔話なんぞしるか!! 頭に来た、たたっきってやらぁ」
「ランス様! やめましょうよ、他の方達にご迷惑ですぅ……」
ランスはロングソードの柄に手をかけたが、シィルが腕を掴んで止める。
「ほう。やるか? これでも先の解放戦争では豪剣のメンデスと」
「知らんわ」
ランスは問答無用で刃を右腕に走らせ、腕を切り落とした。
「ぎゃああああ!!」
「フン。その程度で異名がつくのか。俺様がいなきゃやっぱ今頃はヘルマン領だったろうな」
そう吐き捨てて、ランスはメンデスを蹴り飛ばした。
「この野郎! やりやがったな、畳んじまえ!」
「雑魚が何人こようが一緒だ。俺様がまとめてぶっ殺してやる」
メンデスの仲間と思しき男たちが一斉にランスにかかり、乱闘に発展した。
―路地―
ランスは難なく彼らをのし、酒場から出た。
「全く、弱いくせに歯向かう身の程知らずがたえんな」
「しかし不思議ですね……。あれだけ派手に活躍されたのにどうして」
シィルもやはり納得が行って無いようで、首をかしげている。
「むむむ。納得がいかんぞ。こうなったら片っ端から行く人来る人に聞いて回ってやる。シィル、お前もやれ」
「ええ……。そんな、無茶ですよぉ。それに、リア様に聞いたほうが早いのでは」
「あいつに会うとまたベタベタしてくるからなぁ。悪くはないが今はその気分ではないのだ」
ランスはあくまで草の根で調べなければ気がすまなそうである。
―リーザス城 執務室―
「ぶすーーーっ」
リアは不機嫌であった。顎を机に乗せ、ふくれっ面をして足をバタつかせている。
「リア様。そのようなお姿、はしたないですよ」
侍していたマリスがリアを注意した。
「だって、ダーリン全然来ないんだもん。いつもならとっくに来てくれてるのに」
ランスはこれまでに何度かクエストの帰りや気まぐれでリーザス城下へ遊びに来ており、その日の宿には必ずここを選んでいた。リーザスに入国したという知らせが来た時点で、料理や部屋、レクリエーション含め準備を整えている。
「かなみ、ダーリンは確かに城下に来ているのよね?」
「は、はい。ノースの街付近で依頼を終えて、その道すがら、今朝には城下に入りました」
ランスが入国した時点から、かなみは付かず離れずの距離でランスを偵察している。
「むー! 何してるのよもう。いっそ、たまにはリアから迎えに」
「なりませんよリア様。まだ今日は謁見の予定や、決裁していただかなければならない書類があるのですから」
リアの言葉に対し、マリスがすかさず横槍を入れ、決裁予定の書類をどっさりと机に乗せた。
「えー。それは明日にできないかしら?」
「明日の予定は全部ランス殿との為に、先程キャンセルされたから今日しわ寄せが来ているのですが」
「そうだったわね……。はぁ」
リアは深くため息をつく。
「もしかすると今日は、別のところに泊まる予定なのかもしれません。城下には定宿があるようですし」
かなみはこの前の戦争でリーザス城からリアたちを救出した際に避難した、氷砂糖という名前の旅館を思い出しながら言う。
「あの女のところに泊まるっていうの……? リアを差し置いて?」
リアは氷砂糖の堀川奈美という、和装を着た女将を思い出していた。
「詳しいところはわかりませんが」
「もっと調べてきて。ダーリンがどういうつもりなのか、もっとつかんでおかなきゃ」
「は、はい……」
リアの言葉を聞くと、渋々かなみは城下へと消えていく。リアはそれからも公務をこなしていたが、ランスのことが頭からは離れなかった。
―中央広場―
そろそろ日も暮れようとしていたころ、ランスは中央広場において片っ端から聞き込みを行っていた。
「俺様はリーザスを救ったランス様だ! トーマを倒したのは俺様で、ジルという魔王を倒したのも俺様なんだぞ!!」
ランスは剣を抜き、ポーズを決めながら多くの人にそう誇示し続けている。
「知らんわ」
「つくにしても、もっとマシな嘘を考えるわよね……」
「ママー、あのお兄ちゃんなにやってるの?」
「しっ。見てはいけません」
しかし、注がれるのは冷たい視線ばかりでろくに相手もされなかった。
「あ、あのう、これあそこにいらっしゃるランス様の事について私が書いたチラシです。どうか一枚、受け取っていただけませんか?」
シィルも無理矢理駆り出されて、同じように聞いて回っていた。広く伝える為だとしてランス検閲の下、チラシを書かされ、配り続けていた。
「ねーちゃん、1枚くれや」
「は、はい! ありがとうございます!」
シィルはようやく一枚さばけたと、満面の笑みを浮かべて男にチラシを渡した。
「サンキュ……チーン!」
しかし男は受け取ると、すかさずそのチラシを鼻を噛むのに使われ、シィル渾身の一枚は鼻水だらけになってしまった。
「あー。すっきりした。あんがとねー」
「うう……」
男は紙を丸めてその場に捨てると、スタスタと立ち去っていく。
すると、シィルの頭にげんこつが一発降り注いだ。
「ひぃん!」
「この馬鹿者! 俺様の大活躍を書いた紙を、何まんまと鼻噛み紙に使われているんだ!」
「す、すみませんランス様」
シィルはペコペコとランスに頭を下げる。
「あ、俺にも一枚」
するとまた一人の男がチラシを受け取りにきた。
「おい、貴様もまさか鼻をかむのに使うつもりじゃないだろうな」
ランスは剣の切っ先を男に向けながら言う。
「いっ。いえ。まさか、とんでもない」
男は図星とばかりにドキッと眼を泳がせながらそう口にした。
「まあいい。俺様はランス様だ。この名前に聞き覚えはあるか?」
ランスは剣を鞘におさめ、偉そうな口調で尋ねる。
「い、いえ。初めて聞きました」
「なんだと!? 貴様もこのリーザスを救った英雄のランス様をしらんというのか!」
ランスは怒りをたたえて男に詰め寄る。
「い、いえ。そういえばどこかで聞いたことあるような」
「白々しいリアクションをするなーっ!」
ランスは剣を抜き、男を斬ろうとしたが、その瞬間鎧の金属音を立てた集団が近づいてきた。
「やめなさい! その剣を収めないと、牢につれていくぞ!」
都市守備隊の兵が数人ほど槍を構えて、ランスの前に立ちはだかる。男は隙をついて退散していく。
「ほう。この英雄のランス様を牢にぶちこむっていうのか。やれるもんならやってみやがれ!」
「待って! 待ってください。ランス様。都市守備隊の人たちならもしかしたら知っているかもしれません……、リーザス城にランス様はむかわれていたのですし」
シィルは間に入ってランスを止めた。
「そうか。それも一理あるな」
と、ランスは剣を下げて、どうなんだとばかりに守備隊の兵に視線を向ける。
「ああ。リーザス解放戦の時にその顔をみた覚えはあるぞ」
と、兵の一人が答えた。
「そうだろう!? だったら、俺様が英雄ってことも」
「知らんな。魔人を斬る剣を持った男が救ったのまでは聞いたが、その特徴はお前と似ても似つかないぞ。そうだろ?」
兵は、同僚に声をかける。
「ええ。ランスさんが解放戦争に加わってそれなりに活躍したのは聞いてますが……。解放の英雄というのはさすがに盛りすぎではないかと」
「何だと貴様! 剣の錆にしてやろうか!」
ランスは男に切っ先を向けた。
「わ、私もあなたとはニンジャマスターとして、いつぞやのコロシアムで戦いましたから、強さはよく知っています。で、でも、さすがにそこまでとは」
「は? 誰だお前。お前の事なんぞ知らんぞ」
「そ……そんなぁ」
兵はがっくりと肩を落とす。
「すみません。ランス様は男の方の名前はまず覚えないので」
「ん……まてよ? ニンジャマスターだと……?」
ランスは記憶の奥底にしまっていたその名前を掘り起こしはじめた。
「え、ええ。そうですけ」
「ああー! 思い出した! 貴様、俺様をかなみと勘違いさせた野郎だな。ムカムカしてきた、ぶっ殺してやる!」
ランスは今度こそ斬らんと、ニンジャマスターに剣をふりかざした、
「ひ、ひぃぃ! やめてくださいよぉ」
ニンジャマスターは2,3歩後ずさって、それを回避する。
「こいつ……!! もう勘弁ならん! 囲んで逮捕しろ!」
守備隊長と思われる男が指示し、ランスとシィルのまわりを取り囲もうとする。
「けっ。話のわからんやつらだ。まとめて片付けて……」
「やめぬか!!」
緊迫した状況の中で、年老いた声が場を制した。
「こ、これはバレス総大将!」
その姿を見ると、兵たちは一斉にひれふす。
「全く、騒ぎがあると思ってきてみたら……。おお、これはランス殿。お久しゅうございますな」
バレスはランスを見ると、軽く頭を下げた。
「ちっ……なんだジジイか」
ランスはがっかりした顔でバレスを見ている。
「ア、ランスチャンとシィルダ……。久シブリ」
パレスの義娘であるスーも隣におり、ぺこりと一度頭をさげる。
「バレス様。お久しぶりです。ス―ちゃんもね。お二人は今日は……」
シィルも二人に頭を下げてあいさつをした後、バレスに尋ねた。
「うむ。久々に休みが取れましての。スーと共に城下を散歩してたんですわい」
バレスはアウトジャケットに、黒のジャージを履いており、如何にもな私服を身につけていた。スーもミドルスカートにバレスと色違いだが、同じ仕様のジャケットを着ている。
「釣リ、楽シカッタ! 大漁、大漁」
スーはサカナが大量に入ったかごを二人に見せつけた。
「ホッホッホッ。中央公園に釣り堀がありましてな。そこでスーがこんなに獲ってくれたのじゃ」
「ジジイが孫ほど歳の離れた女の子とイチャついてるのか。もう犯罪だろそれ」
ランスはバレスに因縁をつけた。
「イチャつくというより、休日を楽しんだだけだと思うんですけど……ひぃん!」
「フン。まあいい、お前からも説明してやれ。俺様が世界を救った英雄でありウルトラ最強天才戦士であることをバカにもわかるようにな」
ランスはシィルにげんこつを食らわせ、バレスに説明を求めた。
「ランス様ぁ……。さっきよりスケールが大きくなってます」
「ムムっ……。そ、そうですな」
バレスはランスの言葉を聞くと、考え込んでしまった。
「どうした? お前、俺様が魔人と戦ってた時、後ろで偉そうに指示してただろ?」
「そ、そうですなぁ」
バレスは冷や汗を流しながら、ヒゲを撫でている。
「し、しかしバレス将軍、リーザス解放戦記では、魔人を倒した英雄は長身で、金髪の、心優しくも強い心を持った戦士ということになってるではないですか」
守備隊長が懐より手帳のページをバレスに見せながら言う。
「な、なんだとどれ見せてみろ」
ランスは横から手帳をひったくってその文章を読む。手帳にはリーザス解放戦記の抜粋が載っており、その概要が著されていた。
「な、なんじゃこりゃ。俺様の経験したことや姿と全然違うことが書いてあるじゃないか!!」
中身を読んでランスは憤慨し、バレスに迫った。
「そ、それはあくまで、民が創作で書いたものに過ぎませぬ。先の解放戦争の詳細は、安全と秩序から考えてリーザスとしては必要以上のことは公開せぬことに」
「ふざけるな! だからこんなニセモノの妄想がはびこるんだろうが。すぐにリアに言って出版禁止にして、書いたやつを火あぶりにしろ!」
「弱りましたなぁ……」
バレスは頭を抱えている。相当に痛いところをつかれたようだ。
「あいまいなこと言ってないで、しっかり答えんかコラ!」
「あいたたたた。ひ、ヒゲは勘弁してくだされ……」
ランスはバレスの偉そうな口ひげを思い切り引っ張っている。
「ジジイ。スー、お腹ペコペコ。早ク、オサカナ、タベタイ」
そこで、まるで助け舟を出すかのように、スーがバレスの袖を引っ張る。
「おい、スーてめー! 森から出してやった恩を忘れたか!」
「おお。そうじゃったな、早いところ調理せねば腐ってしまうわい。それでは、ランス殿、またいつか。あと、お前たちはすぐにランス殿から手を引け、良いな!」
そう言ってバレスはスーを連れてさっさと走り去ってしまう。
「あ! ジジイてめぇ逃げる気か!!」
ランスはバレスの去った方向に叫んだが、もはや人混みに隠れてしまい、追うことはかなわなかった。「バレス様の命じゃな……」と。守備隊たちも渋々引き下がっていく。
「くそっ。歳の割には逃げ足が早いな……」
「ランス様ぁ。もう遅いですし、そろそろ今日は引き上げませんか?」
シィルが残りのチラシを持ちながら、ランスに提案する。
「いーやーだ! 何が何でもリーザスの連中に俺様の素晴らしさをわからせるまで、俺は動かんぞ!」
「全く強情なんだから……」
頑として動こうとしないランスに、呆れた声で近づく女がいた。
「お! かなみじゃないか! 丁度いい、お前もリーザスの連中に俺様の偉大さをわからせるのに協力しろ」
「はぁ? 何よそれ」
シィルはおずおずと、かなみにチラシを渡す。礼を言ってかなみはざっと眼を通した後、ため息をつく。
「呆れた……。こんな事の為に今までここで時間過ごしてたの?」
「こんなこととはなんだ! デマが広まっているのだから、俺は真実をだな」
「デマ?」
「その……、ランス様のされたことが、全く別物のおはなしとして広まってしまっているということです」
シィルは申し訳無さそうな声色でかなみに説明した。
「あぁ……」
かなみは思い当たったのか、腑に落ちた表情をする。
「お前、何か知ってそうだな」
「そ、そんなことないわよ! それより、ランス! 今日はリーザス城来ないの? リア様が不機嫌で大変なんだから」
かなみは慌てて話題を切り替えて、ランスに本題を切り出す。
「むー。しかし今回はそういう気分ではないのだ。リーザス城でのもてなしはいいんだが、たまには昔にかえって質素で、素朴な旅をしたいのでな」
「そ、そんな。リア様はランスが来るってことで明日の公務全部無理矢理休みにしてるのに」
「知ったことか。会いたきゃリアから来い」
そう言ってランスはかなみから別れようとする。
「ま、待って! じゃあせめて泊まる宿の名前を」
「いちいちそんなん教えるか。勝手に調べて来い」
「そんな。リア様に伝えないといけないのに……」
かなみは泣きそうな顔になっているので、シィルが優しい声色で、
「氷砂糖ですよ。ランス様、あそこにはタダで泊まれますから」
と、かなみに教えた。
「こらっ、余計なこというな!」
「ありがとうシィルちゃん! それじゃ」
かなみはそう言って、風のように去っていった。
「この野郎、なんでバラすんだ。俺様の計画がパーじゃないか」
「ひんひん。で、ですけど、かなみさんがかわいそうで」
「ちっ……。場所を変えて続けるぞ。リーザスの奴らにわからせるまで俺様は諦めん!」
ランスは憤然として、広場を闊歩していく。シィルはまた泣きながら、ランスの跡をついていった。
―氷砂糖付近―
ランスはあれから夜が更けて人通りがなくなるまで宣伝活動を続けたが、成果は相変わらずの為、一旦宿へ向かうことにした。
氷砂糖以外の宿屋にしようかとは思ったが、結局宿代を惜しんでそこに向かったのである。
「ったく、物わかりの悪い連中だ。俺様がこんなに心を砕いて説明してやっても、一向に耳を貸そうともしない」
「ただ怒鳴り散らしているだけだったような……」
「うるさい。説明に熱が入っただけだ」
そう言って、氷砂糖の玄関前にたどり着くと、聞き慣れた声がした。
「ダーリン!!」
と、リアが出会い頭で抱きついてきた。後ろにはかなみがおり、周囲にはリーザス親衛隊がリアに気づかれないように固めていた。
「ちっ……。やっぱり来ちまったか」
「ふふーん。だって会いたくて会いたくて仕方なかったんだもーん」
リアはギューっと力強くランスを抱きしめる。
「おいリア、かなみから聞いてないのか。俺様は今回は」
「質素な旅なんでしょ? ふふふ、リアだってやろうと思えば出来るんだから!」
そう言って、リアはランスから離れて、自身の服装を見せた。
頭の飾りを外しており、パッと全体を見た限りだと、確かに普段のリアに比べればかなり素朴な装いで、ドレスではなく純白のワンピースを着ている。
しかし、両袖に金糸のリーザス国章をあしらった刺繍が入っていたり、そもそも素材が絹で出来ていたりと女王然とした気位が抜けきっていなかった。
「全く……。質素って言ったのにこれなんだから」
かなみは小さい声で呟く。
「ああ……うん、まあ」
しかしあまりにも自信満々なリアを前にして、それを口にするのもどうかと思い、ランスは言葉を飲み込んだ。
「わ、わぁ。確かにリア様とはわからない程度には、質素ですね」
「奴隷の意見は聞いてないんだけど?」
シィルの苦笑交じりの言葉に、リアは冷たい言葉で応じた。シィルは押し黙ってしまう。
「ねえ。これだったら、ダーリンの言う質素にピッタリでしょ? 一緒に泊まっていいわよね?」
「まあ……。これはこれで悪くはない、か。がははは。よし、今夜は久々にぶっ通しで抱きまくるぞ!」
「きゃーん! ダーリン素敵ー! リアもがんばっちゃうから!」
そういうわけで、ランスは一晩氷砂糖に泊まり、リアとシィル、奈美の4Pをしっぽりずっぽり楽しんだ。
―次の日の夜 リーザス城 執務室―
次の日は1日中、ランスとシィルは、リアの少しズレた質素さに振り回されながら旅を楽しみ、ランスは当初の目的をすっかり忘れて上機嫌でアイスの街へ帰っていった。
「あー楽しかった! やっぱりダーリンは最高よ」
リアはすっかりつやつやの肌になって執務室に戻ってきていた。昨夜からこのときまでにリアは18回ランスに抱かれ、執務による鬱憤をスッキリ解消した。
「お楽しみのようで、何よりでしたリア様」
マリスは少しだけ疲れたかのような顔をして、リアに紅茶を差し出した。
「ん、ありがとマリス……。あれ、ちょっとやつれてる?」
「い、いえ。少々寝ていないだけです」
マリスはリアが急遽放棄した公務の埋め合わせのため、都合36時間睡眠をとっておらず、限界にさしかかっている。
「そう……。ごめんね。急に全部押し付けちゃって」
「とんでもありません。リア様のためなら、眠気も精力に変換されるだけですから」
マリスは全くの揺るぎもなくそう答えた。忠誠心は絶対である。
「それで、かなみからの報告にあった、ランス殿の情報統制の件はどうなったのでしょう?」
ランスのリーザス解放戦での活躍は、リアがランスを巡っての、恋敵を増やすことを嫌って、秘匿事項扱いとなっており、直接見た、関わったリーザス軍の人間には箝口令がしかれている。
「ふふん。リアに夢中にさせたから、すっかりどうでもよくなったみたい」
リアは自信に満ちた表情でそうマリスに語った。実際にリアと会ってからアイスに帰るまでランスは一切口に出さなかった。
「それはようございました」
「しかし……、思った以上にカモフラージュ目的でマリスに作らせた英雄譚、国民には浸透してるみたいね」
「そのようですね。あれから私も気にかかって調査してみましたが、上手く煙幕になってるようです」
秘匿事項になっている事を、”市民に書かせた”体でテンプレの英雄譚になぞらえ、スアマ・リリスマリ名義で出した小説は人口に
「私も改めてちらっと読んだけど、金髪で長身で、心優しくも、強い心を持った戦士……ねぇ。もしかしてマリスのタイプだったりするのこれ?」
リアは冗談まじりにマリスに尋ねる。
「いえ。作家のドエススキー氏を
「ああ。そうなの……。にしても、うまくいったものね。引退したら作家になってみるのもいいんじゃないかしら?」
「フフ……。それも悪くはありませんが、私は終生、リア様にお仕えすると決めていますから」
そう言ってマリスは小脇に挟んでいた報告書を手に取り、リアを恋い焦がれる少女から、大国を統治する女傑へと戻していく。
―終―
この度評価が赤くなりました。感無量です。本当にありがとうございます。
以後もよければ評価や感想を書いていただけると大変うれしいです